説明

コリン含有医薬組成物

本発明は、コリン又はその薬理上許容可能な塩又はその類似物質を含有する、特に静脈内投与のための医薬組成物に関する。
さらに本発明はコリン又はその薬理上許容可能な塩又はその類似物質を含有し、単独又はビタミンC及び/又はLアルギニン及び/又はビタミンD3(コレカルシフェロール)と組み合わせて、血液又は骨髄におけるCTC、DTC又は機能不全白血球先駆物質との戦いに使用される医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の循環腫瘍細胞(CTC)や骨髄中の播種性腫瘍細胞(DTC)、又は血液及び骨髄に生じる形態学的に未分化な機能不全の白血球先駆物質との戦いに用いられるコリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を含有する医薬組成物に関する。
【0002】
本発明は、とりわけ、明白な原発腫瘍はないが、CTC、DTC又は形態学的に未分化な機能不全の白血球先駆物質が血液及び骨髄に存在する患者における腫瘍性疾患の早期治療に用いられるコリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を含有する、静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0003】
さらに本発明は、転移リスクの軽減及び/又は転移(遠隔転移)の予防や早期治療、その他には白血病の治療にも用いられるコリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を含有する、特に静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0004】
また本発明は、手術療法、放射線療法又は化学療法を行った後、血液又は骨髄にはCTC又はDTCが見られるものの、画像診断では完全寛解している(腫瘍及び転移が検出されない)場合における腫瘍治療や、共通基準(common criteria)によると奏功しなかったと判断された治療後の最後手段の治療(Ultima Ratio Therapy)としてがん患者に対して用いられる、特に静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0005】
さらに本発明は、コリン又は、ビタミンC及び/又はLアルギニン及び/又はビタミンD3(コレカルシフェロール)と組み合わされたその薬理上許容可能な塩又は、その薬理上許容可能な塩を含有する、特に静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0006】
本文脈において、本発明における腫瘍性疾患とは上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、白血病やリンパ腫などの造血器腫瘍や、例えば固形腫瘍や造血系の腫瘍を含む個体発生腫瘍のことを示す。
【背景技術】
【0007】
コリンはしばしばビタミンB4と称され、さらに過去の文献ではビタミンJとも称されていたが、実際には必須栄養素ではない。ホスファチジルコリンの成分であるコリンは細胞膜に存在するため、単胃の哺乳類はコリンを食物と一緒に摂取している。
【0008】
十分なアミノ酸の供給があれば、通常食物と一緒に摂取されたコリンは、体内で生理学的に十分な量が生成される。レシチン5gにはホスファチジルコリンが1g含まれており、これは仮定される一日の最低必要量に相当する。しかし、人体におけるコリンの吸収率は砂糖、アルコールやお茶などの特定の物質の摂取による影響を受け、葉酸、インシトール及びビタミンB12複合剤の摂取によってコリンの吸収率は上がる。また、ストレスは消費を増加させ、コリン欠乏症に繋がる。このように、間違った食生活、疾患及びストレスによってコリン欠乏症が生じるが、本発明による医薬組成物の投与によって補うことができる。
【0009】
ホスファチジルコリン(レシチン)の成分であるコリンは細胞膜に遍在しており、人体の全ての細胞に存在する。
【0010】
先行技術では、記憶力と集中力に関するコリンの効果が記載されている。
【0011】
コリンは基礎代謝や、トリグリセリドやその他の脂肪の輸送に働きかけるとも言われている。このような働きがあるため、コリンは脂肪利用率において肝臓及び胆嚢の機能を介助することや、コレステロール値を低下させることを目的に経口療法で用いられている。上記のような性質を有するため、コリンは200gを最大量としたカプセルの形態で経口投与される栄養補給剤としても利用される。
【0012】
核磁気スペクトロスコピーを用いた検査から、前立腺がん細胞におけるコリン濃度は通常の細胞と比べて非常に高いことが知られている。このため、コリンは前立腺がんのイメージング診断では静脈内投与されるC−11コリンの形態で用いられる。
【0013】
Giambarresi et al. (Br. J. Cancer (1982) 46, 825-829)において、マウスモデルではコリンを含有しない食事によって肝臓がんの発生が進行することが述べられている。
【0014】
Becker J., Zeitschrift fur Krebsforschung, 1948, Vol. 56, p. 171-175では、顕性な悪性腫瘍に対する化学療法剤としてのコリンの使用が説明されている。WO94/06413では、がん予防としてトリメチルアミンオキシド群の化合物の使用が開示されている。
Xu et al. (The FASEB Journal, 2009年7月27日にオンライン上で公開、人口に基づく研究ではコリン及びベタインの大量摂取によって乳がんの死亡率が低下する)では、乳がんの発生とコリン及びベタインを経口的に食事摂取することの関係を分析した研究が開示されている。この記事では、食物と一緒にコリンとベタインを経口的に大量摂取することが予防効果を奏すると仮定されている。この研究では、女性患者における食事から摂取されるコリンの総量は<196,5mg/日から>455,8mg/日の間になるように計算されている。
さらにXu et al., FASEB Journal 2008; 22:2045-2052における研究では、乳がんのリスクは食物と一緒に摂取したコリンの量と反比例することが記載されている。
【0015】
血液中の循環腫瘍細胞は、臨床的に明白な腫瘍性疾患の場合のみならず、腫瘍がイメージング法によって検出される以前のさらに初期の段階で、すでに検出可能であることが知られている。
血液には動的過程が反映されるため、血液中の循環腫瘍細胞(CTC)の検出は腫瘍性疾患においては特に重要である。血液中におけるCTCの24時間という生存期間は比較的短い(Patel et al. 2002, Ann. Surg. 235(2): 226-31を参照)。腫瘍細胞が新たに流入し続けない限り、これら細胞が偶然検出される可能性は低い。この理由から、腫瘍細胞の検出は進行する腫瘍の発生に伴うことが多く、予後の状態を診ることの他に治療が成功したかどうかの評価も可能となる。
【0016】
このような関係性は複数の臨床研究で開示されており、中でも特にStathopoulou A. et al. (2002), 「手術可能な乳がん患者の末梢血におけるサイトケラチン19陽性細胞の分子検出:患者の予後的意義の評価」J. Clin. Oncol. 20(16): 3404-12において開示されている。
Xenidis et al. (2003), 「手術可能な乳がん患者のアジュバント化学療法完了後の末梢血中サイトケラチン19mRNA陽性細胞」Ann. Oncol. 14(6)≡: 849-55、Giatromanolaki et al. (2004),「乳がん患者の末梢血疾患における極めて高い血行性及び播種性の評価は、アジュバント化学療法に対する耐性と早期再発のための予測となる」Int. J. Cancer 108(4)≡: 620-7及びJotsuka T. et al. (2004),「CEAmRNAのためのRT−PCR法を用いて循環腫瘍細胞が検出されると早期再発が予測されることの根強い証拠:リンパ節転移のない乳がんにおける前向き研究」Surgery 135(4)≡: 419-26。
【0017】
このように、例えば乳がんなどのいくつかの形態の固形腫瘍では、骨髄(DTC)や血液(CTC)における播種性腫瘍細胞はこれらの腫瘍を患う人にとって初期腫瘍発生の早期マーカーとなり、転移の可能性と生命予後の不良を示唆する。
【0018】
CTC及びDTCの測定のための複数の様々な方法が知られている(例:Riethdorf et al., International Journal of Cancer, Vol. 123, 9th Edition, p.1991-2006 (2008年11月))。
【0019】
上記したように、CTCやDTCは臨床証拠のある顕性な腫瘍においてのみ発現するものではない。例えば、検出不能な腫瘍性疾患を患う患者という特殊な症例においてもCTCは検出されたことがある。このような場合、CTCは微小又は進行性の腫瘍性疾患の存在を示す代理マーカーであると考えられている(Hirsch-Ginsberg (1998) Ann. Rev. Med. 49. 111-122)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
腫瘍の大きさが血液中のCTCの数と正の相関をなすことは先行技術から周知であるが、腫瘍診断のためのイメージング法(例えばCT/NMR/PET/ソノグラフィ)は最高でも5mmの分解能(検出限界)しか持たない。しかしながら、この段階では50万個以上の腫瘍細胞がその場(on site)に存在する。従って、より小さな腫瘍細胞はイメージング法では検出できない。
【0021】
しかし、例えば腫瘍がイメージング法(CT/NMR/PETソノグラフィなど)によって臨床的に検出できない早期の腫瘍病期における5mm以下の最小の腫瘍であっても、血液中のCTCはすでに検出することができる。
【0022】
この理由から、CTC診断は、例えばがんの遺伝的素因がある場合のがん予防において、イメージング法ではまだ検出できない腫瘍性疾患の早期診断に用いられる(“健康な”人における早期がんの検出。The Kuhn Lab・10550 North Torrey Pines Road・GAC-1200・La Jolla・CA・92037;Zeidmann I:循環腫瘍細胞の運命。I.毛細血管中の細胞の経路。Re21 (1961) 38-39;及びHirsch-Ginsberg C. Annu Rev Med. 1998; 49: 111-22. 微小残存疾患の検出:ヒト悪性腫瘍の診断及び治療への関連性)。
【0023】
結果的に、CTCは“seeding”と呼ばれる腫瘍のCTC播種に関する情報をも提供し、このようにがん患者のリンパ節の状態(腫瘍に侵されているか否か)に関してもイメージング法に比べてより有用な情報源となる。
【0024】
CTC診断はより分化された診断が可能なため、従来の腫瘍診断法に比べて多くの利点を有する。
【0025】
昔は治療中及び治療後に即座に治療成功の判断をすることは、CEA、PSA、CA15−3、CA125、CA19−9、NSE、TPA及びCYFRA21−1などの腫瘍マーカーによってのみ可能であった。
治療中又は治療後に腫瘍マーカーが低下すると治療が成功した結果と考えられる。しかし、一般的に治療が成功しても失敗しても腫瘍マーカーは上昇することがあるため、治療中又は治療後に腫瘍マーカーが上昇した場合は治療が成功したか失敗(腫瘍性疾患が進行)したかを識別することができない。CTC検出が導入されたことによって、やっと識別可能な診断が可能となった。
‐腫瘍マーカーとCTC数値が同時に上昇した場合、治療が失敗(腫瘍性疾患が進行)したことを示す。
‐腫瘍マーカーが上昇し、それと同時にCTC数値が低下した場合、治療の成功を示す:この場合、腫瘍マーカーの上昇は治療によって死滅した腫瘍細胞から放出されたタンパク質の増加に関連するもので、従って検出されるCTCは減少する。
‐このように、双方の検出法の組み合わせのみで、根本的過程に関する正確な情報を得ることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
これとは対照的に、本発明は顕性な原発腫瘍、とりわけ固形腫瘍(遠隔転移)の場合に転移を防ぐために、血液及び骨髄中の播種性腫瘍細胞を治療標的として直接狙い打つ医薬組成物を提供する。血液中の腫瘍が従来の検出法により検出されるよりも前に、CTCはすでに検出可能であるため、顕性な原発腫瘍は未検出であるがCTCは検出された患者において早期治療の提供が可能となる。
【0027】
さらに本発明は、手術による腫瘍の切除後又は放射線あるいは化学治療後に、血液中にCTCはまだ存在するがイメージング法では完全寛解が診断された(すなわち腫瘍又は転移が検出されなかった)場合における早期再発の早期治療又は遅延治療に用いられる医薬組成物を提供する。本発明のさらなる対象としては、例えば成功を奏する治療がないまま従来の治療可能性のレパートリーが尽きてしまった患者(すなわち、以後の治療可能性が残されていない患者)の最終手段の治療(Ultima Ratio Therapy)のための腫瘍性疾患末期における治療を包含する。
【0028】
本発明は、コリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質は血液及び骨髄におけるCTC、DTC及び病理学的に変性した白血球やそれらの機能不全先駆物質に直接的な影響を及ぼすという驚くべき発見に基づいている。
【0029】
CTC及びDTCは転移が発生するよりも前に検出可能であり、小腫瘍に至っては原発腫瘍が発生するよりも前に検出可能なため、それら自体ががん物質であるか、もしくは原発腫瘍又は転移に必ずしも直接的関係のないがん特性を少なくとも有すると考えられる。CTCが腫瘍疾患の初期段階ですでに検出可能ならば、初期においては原発腫瘍に依存しないため、より高い治療的成功が期待されるより早い段階での治療が可能となる。
【0030】
このように、本発明による医薬組成物によると、がん疾患が臨床的にまだ顕性ではなくCT、NMR、PET又はソノグラフィなどのイメージング法ではまだ検出不可能な段階である初期でのがん疾患の治療が可能となる。
【0031】
古典的医学における現在の知識によると、これも早期治療の一つと考えられる。
【0032】
上記のように、驚くべきことにコリン又はその薬理上許容可能な塩又は類似物質は、顕性な原発腫瘍はないがCTC、DTC又は機能不全白血球先駆物質が血液又は骨髄中に見られる患者の腫瘍疾患の早期治療に使用される医薬組成物に使用可能であることが判明した。
【0033】
CTC及びDTCは腫瘍の完全寛解の後でさえもまだ存在することが多いため、本発明の医薬組成物は再発の早期治療又は遅延治療においても用いることができる。
【0034】
さらに、コリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質は、転移リスクの低減や転移の早期治療のための腫瘍治療にはもちろん、白血病の治療に使用される医薬組成物にも用いることができる。
本発明における腫瘍性疾患とは、とりわけ乳がん、前立腺がん、膵臓がん、胃がん、悪性黒色腫などの皮膚がん、組織球腫などの肉腫及び様々なタイプの白血病を指す。
【0035】
一般的な臨床基準によると、CTC及びDTCは成功しなかった治療後の最終段階の腫瘍患者においても増加し、病理的及び予後的な関連性を有するため、本発明の医薬組成物はこれらの患者の治療(最終手段の治療)に用いることもできる。
【0036】
第一の具体例において、本発明はコリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を含有する、特に静脈内投与のための新規の医薬組成品に関する。
【0037】
さらに本発明は、上記化合物にビタミンC及び/又はLアルギニン及び/又はビタミンD3(コレカルシフェロール)又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を選択的に組み合わせた、特に静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0038】
本発明の文脈において、“薬理上許容可能な塩”とは具体的には、例えば酒石酸、酸性酸、乳酸、コハク酸、アミグダリン酸、リンゴ酸又はクエン酸などの有機塩;あるいは塩酸、臭化水素酸、硫酸又は硝酸などの無機塩から形成されるコリンの塩を意味する。
【0039】
本発明の文脈において、“類似物質”とはスフィンゴミエリン、グリセロリン酸コリン、ホスファチジルコリン、レシチン及びホスホコリンや、特にC1からC6のモノカルボン酸及びジカルボン酸を含有するコリンのエステルを意味する。
【0040】
本発明の文脈においては静脈内投与のための医薬組成物が好ましく、コリンの塩は特に酒石酸水素コリン及び塩化コリンから選択され、Lアルギニンに含有される塩はLアルギニンHClとして存在することが好ましい。さらに、本発明の医薬組成物はLリジン、Lシステイン及びタウリンやビタミンD3(コレカルシフェロール)などのアミノ酸から構成されることも可能である。
【0041】
さらに本発明は、この分野で一般的に用いられる一つ又は複数の薬理上許容可能な賦形剤、補助剤及び添加剤と選択的に組み合わせた上記化合物からなる、静脈内投与のための医薬組成物に関する。
【0042】
本発明で用いられる賦形剤及び補助剤は、蒸留水、乳酸化リンゲル液、高張生理食塩水、電解質、中鎖トリグリセリド及びオメガ3脂肪溶液(omega-3 fat solutions)からなる脂肪溶液(fat solution)の中から選択される一つ又は複数から構成される。
【0043】
より好適な実施形態において、中性脂肪やオメガ3脂肪溶液などの脂肪酸は本発明の医薬組成物の投与と並行且つ同時に注入される。
【0044】
本発明で用いられる添加剤は、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸及び、具体的にはLリジン、Lシステイン、タウリンなどのその他のアミノ酸、そしてマグネシウム、カルシウム、マンガン及びモリブデンなどの電解質の中から選択される一つ又は複数から構成される。
【0045】
本発明のさらに好適な具体例では、上記で説明された医薬組成物は転移リスク低減と転移予防のための腫瘍治療に用いられる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、好適には救急治療又は維持療法が適用される可能性のある乳がん、胃がん、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫などの皮膚がん、組織球腫などの肉腫及び様々なタイプの白血病の腫瘍治療において用いられる。
【0047】
通常、体重80kgの患者に静脈内投与されるコリンの一日用量は、酒石酸水素コリン0.5g〜100gに相当する範囲、又は酒石酸水素コリン6mg/kg〜1.4mg/kg(体重)に相当する範囲、好ましくは酒石酸水素コリン30mg/kg〜1.25g/kgに相当する範囲とされる。
【0048】
維持療法の場合、体重80kgの患者へのコリンの一日用量は、酒石酸水素コリン0.5g〜10gに相当する範囲、又は体重1kgあたり酒石酸水素コリン6mg〜125mgに相当する範囲であることが好ましい。救急治療の場合、体重80kgの患者へのコリンの一日用量は、好ましくは酒石酸水素コリン2g〜30gに相当する範囲、又は体重1kgあたり酒石酸水素コリン0.03g〜1.25g、より好ましくは体重1kgあたり酒石酸水素コリン0.6g〜1.25gに相当する範囲とされる。
【0049】
それ以降は、コリンの初期投与量は治療結果に応じて段階的に最大用量まで増量することも可能である。
【0050】
本発明に応じて医薬組成物を用いた場合、ビタミンC又はLアルギニンのそれぞれの一日用量は1g〜100gの範囲、好ましくは4.21g〜22.5gの範囲、より好ましくは7.5g〜22.5gの範囲とされる。ビタミンD(コレカルシフェロール)の一日用量は、100,000IU〜1,000,000IUの範囲、好ましくは200,000IU〜500,000IUの範囲とされる。
【0051】
本発明の医薬組成物は、具体的には従来の抗がん剤などのその他の薬物と組み合わせて投与されることも可能である。これは同時に行われても連続的に行われてもよい。本発明では、この結果として相乗的、少なくとも相加的又は増強的な効果が認められた。これら成分の細胞感受性(cytosensitivity)は同程度であるにもかかわらず、作用の発症機序には大きな相違がみられた。このような事実から、従来の腫瘍治療において多くの場合深刻であった副作用を大幅に低減することが可能となり、これにより既存の治療形態に対する受け入れを劇的に向上することも可能となる。
例えば、パクリタキセル又はドセタキセルなどのタキサン;ベバシズマブ又はトラスツズマブなどのヒト化単クローン抗体;アントラサイクリン又はカぺシタビン又はこれらを組み合わせた化学療法剤と組み合わせて適用されることが特に好ましい。
【0052】
医薬組成物をすでに存在する腫瘍治療と組み合わせて本発明に応じた使用をする場合、既存の腫瘍治療における投与量はこれら治療において推奨される標準投与量に対応する。
【0053】
本発明の文脈において、特に乳がん、前立腺がん、胃がんや膵臓がんなどの腫瘍性疾患の場合に、本発明の医薬組成物を用いて患者の血液中に存在する腫瘍細胞のインビトロ処理を行うと、現在臨床的に用いられている抗がん剤の効果に相当する程度の抗ガン作用(細胞感受性(cytosensitivity))を発揮することが判った(図1a及び1b参照)。これは、特に人間医学において適用される。また、これは本発明の医薬組成物がCTCに直接的効果を有することを意味し、すなわち腫瘍が検出されていない場合の早期治療において、完全寛解後にCTCが検出された場合の再発の早期治療又は遅延治療において、治療が失敗した後に最終段階の腫瘍患者に行われる最終手段の治療(Ultima Ratio Therapy)において、また再発リスクの低減や臨床的に顕性な原発腫瘍が見られる再発の早期治療において適用することができる。
【0054】
本発明の医薬組成物は、例えば「レミントンの薬学」,第15版,マック パブリッシング Co.,ニュージャージー州(1991)などにおいて説明される当業者には周知である従来の方法及び技術によって形成/製造が可能である。
【0055】
好適とされる静脈内への剤形の他に、経口、非経口(例えば、s.c.、i.p.、i.c.、髄膜内など)及び局所(例えば、直腸、経膣、口腔、眼球への塗布又は吸入など)による剤形もまた選択的に可能である。
【0056】
このように、本発明の医薬組成物はi.v.投与に加えて、錠剤(腸溶性錠剤や有効成分が放出調整された錠剤)、カプセル(硬又は軟ゼラチンカプセル)、ピル、顆粒、坐薬、膣坐薬、軟膏、クリーム、ゲル、パッチ、TTSあるいは乳剤、懸濁剤、液剤又は還元粉末(reconstitutable powder)などの(非経口的な適用も可能な)剤形をとることもまた可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1a】現在の腫瘍治療で使用されている治療効果のある様々な材料の細胞感受性(cytosensitivity)を示す。
【図1b】13人の患者における腫瘍細胞のコリン感受性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下の実施例によって、本発明の医薬組成品の効果を証明する。
【実施例1】
【0059】
インビトロ結果‐血液中の播種性腫瘍細胞(CTC)への効果
腫瘍疾患(乳がん、結腸がん、前立腺がん、膵臓がん)が検出された患者13人において、患者の血液中の腫瘍細胞に対するコリンの直接的効果(細胞感受性(cytosensitivity))がMAINTRAC(登録商標)法を用いて検証された。この方法によると、血液及びその他の体液における微量の腫瘍細胞でも検出することができる(Pachmann K., Clement J.H., Schneider C.-P., Willen B., Camara O., Pachmann U., Hoeffken K., 「肺がん及び乳がんの循環末梢腫瘍細胞の標準定量化」Clin. Chem. Lab-Med., 2005, 43; 617-627)。この結果、コリンに対して細胞感受性(cytosensitivity)を示すこれらの腫瘍細胞に最高で95%(図1b参照)の直接的抗ガン作用を発揮し、コリンは従来の有効成分に相当する効果を持つことが判った(図1aを参照)。このように、初めてインビトロで血液中の循環腫瘍細胞(CTC)に対するコリンの直接的効果を検出することに成功した。
【実施例2】
【0060】
インビボ結果
異なる腫瘍性疾患(乳がん、前立腺がん、膵臓がん、胃がん、皮膚がん、非上皮性悪性腫瘍や白血病など)の患者9人において、本発明による医薬組成物の形態でコリンを注入し、その前後の数値を比較することで、臨床血液パラメータ(CTC、白血球、機能不全白血球先駆物質)に対する直接的インビボ効果が調査された。注入治療の前後に患者の血液が採取され、同様に治療前、治療中、治療後の15分毎に患者のバイタルパラメータ(RR、脈、SO2、ECG、体温)が測定された。注入治療は、用量に応じて3〜5時間に及んだ。通常、注入治療は非常に耐性が高く、治療中及び治療後にバイタルパラメータに関連性のある変化がみられた患者はいなかった。場合によっては、吐き気や体温上昇などの副作用が翌日に、用量によって通常数時間の間だけ表れることもある。
【0061】
しかし、コリン治療を受けている患者は、ほんの数回の静脈内投与でその健康状態と身体的回復に著しい改善がみられたことが報告されている。
【0062】
得られた数値は以下の表1及び2に示される。
【0063】
【表1】

3〜5時間のコリン静脈内治療の、患者の血液における循環腫瘍細胞(CTC)に対するインビボ効果(MainTrac法)
【0064】
以上に示されるように、3〜5時間のコリン静脈内投与を一度行っただけで、乳がん、膵臓がん、胃がん、前立腺がん、悪性黒色腫(皮膚がん)及び組織球腫を患う患者の血液中の循環腫瘍細胞(CTC)は、治療前は平均して4675万個であったのに対し治療後は975万個となり3700万個の減少がみられ、治療前の最初の数値から比べると54.6%減であった。技術文献によると、これら患者の血液から検出された循環腫瘍細胞の減少は、これら疾患の良好な予後と転移発生のリスク減少と相関する。
【0065】
【表2】

白血病患者の血液に存在する白血球と特にその機能不全先駆物質に対するコリン静脈内治療のインビボ効果(ドイツ医師会による医学検査の品質保証ガイドラインに基づく検査診断)
【0066】
周知であるように、白血病は白血球と特にその機能不全先駆物質が非常に増加することに特徴付けられている。これら白血病細胞は骨髄に広がると通常の造血を阻害し、一般的に末梢血における発生が非常に増加する。これら白血球の機能不全先駆物質は、腫瘍性疾患におけるCTCと同様に、コリン注入治療によって取り除くことが可能となる。
【0067】
本発明に応じて医薬組成物を使用すると、がん患者の血液から検出された循環腫瘍細胞及び、白血病患者の血液から検出された増加した白血球と特にその機能不全先駆物質は、表1及び2で示されるように静脈内治療の直前と直後を比較すると急激に減少した。
【0068】
表1及び2で示されるように、数週間経った後も、患者の血液パラメータにおけるいくつかの著しい変化はかなりの程度でまだ検出された。白血病と乳がんの場合は、本発明によるコリン注入治療を最大投与量で行った結果、4週間に渡ってこれらパラメータに好ましい効果が持続した。
【0069】
【表3】

治療における数値の変化−治療前、治療後及びその4週間後
(白血病患者の血液に存在する増加した白血球と特にその機能不全先駆物質(ドイツ医師会による医学検査の品質保証ガイドラインに基づく検査診断)及び乳がんを患う患者の血液中の循環腫瘍細胞(CTC)(MainTrac法)への効果)
【0070】
上記表3に示されるように、3〜5時間のコリン静脈内治療を1回行っただけで、白血病患者の血液で測定された白血球の数は治療の前後では13%の減少がみられ、その4週間後も最初の数値に比べて有意である8%の減少がみられた。乳がんを患う患者においては、MainTrac法によって治療の前後に検出された患者の血液中の循環腫瘍細胞(CTC)は、治療前は1875万個であったのに対し治療後は1000万個となり、最初の数値から46%の減少がみられた。その後、治療を受けずに4週間を経ても、腫瘍細胞の数値はさらに525万個にまで減少し、すなわち治療前の最初の数値と比べて72%の減少がみられた。
技術文献によると、この患者の血液中の循環腫瘍細胞及び白血球の機能不全先駆物質の減少は、この疾患の良好な予後及び転移発生のリスク低減と相関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液及び骨髄におけるCTC、DTC又は機能不全白血球先駆物質の除去又は低減のために使用されるコリン又はその薬理上許容可能な塩及び類似物質を含有する医薬組成物。
【請求項2】
転移リスクの低減及び臨床的に顕性な原発腫瘍のある転移(遠隔転移)の予防のための腫瘍治療に使用される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
臨床的に顕性な原発腫瘍が発生する前の早期治療に使用される請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
完全寛解後の遅延療法に使用される請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
共通基準(common criteria)によると成功しなかった治療の後に行われる最終手段の治療として、最終段階の腫瘍患者に対して使用される、請求項1に記載の使用のための医薬組成品。
【請求項6】
白血病の治療に使用される請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
ビタミンC及び/又はビタミンD3(コレカルシフェロール)をさらに含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
Lアルギニン又はその薬理上許容可能な塩をさらに含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
上記コリンの薬理上許容可能な塩は、酒石酸水素コリン及び塩化コリンから選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
上記Lアルギニンの薬理上許容可能な塩とはLアルギニンHClであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
上記腫瘍性疾患は、乳がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、膵臓がん、皮膚がん、非上皮性悪性腫瘍及び白血病から選択されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
1日のコリン投与量は0.5〜100gの酒石酸水素コリンに相当する範囲、又は6mg/kg〜1.4g/kgの酒石酸水素コリンに相当する範囲、より好ましくは30mg/kg〜1.25g/kgの酒石酸水素コリンに相当する範囲であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
上記腫瘍治療は維持治療と救急治療とから選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
上記維持治療において、1日のコリン投与量は0.5g〜10gの酒石酸水素コリンに相当する範囲又は6mg/kg〜125mg/kgの酒石酸水素コリンに相当する範囲であることを特徴とする請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
上記救急治療において、1日のコリン投与量は2g〜30gの酒石酸水素コリンに相当する範囲又は0.03g/kg〜1.25g/kgの酒石酸水素コリンに相当する範囲、より好ましくは0.6g/kg〜1.25g/kgの酒石酸水素コリンに相当する範囲であることを特徴とする請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
上記ビタミンCの1日の投与量と上記Lアルギニンの1日の投与量は、それぞれ1g〜100gの範囲、好ましくは4.21g〜22.5gの範囲、より好ましくは7.5g〜22.5gの範囲であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
上記ビタミンD3の1日の投与量は100,000IU〜1,000,000IU、好ましくは200,000IU〜500,000IUの範囲内であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
静脈内投与のための請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
1つ又はそれ以上の抗がん剤と組み合わせて用いるための請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
同時投与又は順次投与のための請求項19に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
上記抗がん剤は、例えばパクリタキセル又はドセタキセルなどのタキサン;ベバシズマブ又はトラスツズマブなどのヒト化単クローン抗体;アントラサイクリン又はカぺシタビン又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項19又は20に記載の使用のための医薬組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2013−510126(P2013−510126A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537390(P2012−537390)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066747
【国際公開番号】WO2011/054875
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512117029)
【Fターム(参考)】