コロイド結晶構造体およびそれを製造する方法
【課題】 コロイド結晶ゲルに代替する変形しない材料およびそれを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶構造体は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、粒子間に液体媒質が存在しない状態で重合体により埋められていることを特徴とする。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶構造体は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、粒子間に液体媒質が存在しない状態で重合体により埋められていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されたコロイド結晶構造体およびそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子体積分率が所定の値を上回ると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子とも呼ぶ)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。コロイド結晶は、電磁波に対するBragg反射能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、光群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待されている。
【0003】
上述のコロイド結晶を、重合性モノマーと架橋剤と重合開始剤とからなるゲル化剤で固定することによって、振動および温度変化等の環境からの外乱による粒子配列の乱れを抑制したゲル化コロイド結晶(またはコロイド結晶ゲルとも呼ぶ)が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
コロイド結晶ゲルは、外乱による粒子配列の乱れは抑制されるものの、上記重合性モノマーの重合体が液体媒質を含有し膨潤しているため、コロイド結晶ゲル全体として軟体であり容易に変形する。このためコロイド結晶ゲルの用途が制限される場合がある。したがって、コロイド結晶ゲルに代替する変形しない材料が得られれば、取扱が簡便となり、色材、ノッチフィルタ、分光素子、レーザ等の光学素子などさらなる用途の拡大が期待され望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、コロイド結晶ゲルに代替する変形しない材料およびそれを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1のコロイド結晶構造体は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、前記粒子間に液体媒質が存在しない状態で前記重合体により埋められていることを特徴とする。
発明2は、発明1のコロイド結晶構造体において、前記粒子は、ストップバンドを透過スペクトルに有する周期配列であることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2のコロイド結晶構造体であって、液体媒質が含有されたコロイド結晶ゲル中より、それに含まれる液体媒質が排除されたものであることを特徴とする。
発明4は、発明1から3のいずれかのコロイド結晶構造体の製造方法において、液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、前記重合体を漸次的に収縮させ、かつ、前記液体媒質に対して親和性を有する溶液に接触して、前記ゲル中より液体媒質を除去する除去工程を包含することを特徴とする。
発明5は、発明4の方法において、前記重合体を収縮させる収縮剤とその溶媒とからなり、前記除去工程中に前記収縮剤の濃度を増濃させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるコロイド結晶構造体は、液体媒質を含んで膨潤している状態とは異なり、柔軟性を持たない。よって、粒子配列構造に変形が生じにくく、また、環境からの外乱による乱れも生じることはない。これにより、本発明のコロイド結晶構造体は、変形しないので取扱が簡便であるとともに、コロイド結晶固有の光学特性を安定して発現できるので、実用化に有利である。
【0008】
本発明による製造方法によれば、コロイド結晶ゲルの表面と内部との状態を一定に保ちつつ、収縮溶液とコロイド結晶ゲル中の液体媒質との置換と、コロイド結晶ゲルの収縮過程とが同時に進行する。この結果、粒子の周期配列の乱れが抑制され、かつ、モノマーの重合体が均質に収縮する。このようにして、粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。また、本発明の方法を採用すれば、歩留まり良くコロイド結晶構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるコロイド結晶構造体を模式的に示す図
【図2】本発明によるコロイド結晶構造体の例示的な特性を示す模式図
【図3】本発明のコロイド結晶構造体の製造工程を示すフローチャート
【図4】図3に対応するコロイド結晶構造体を製造する各工程の様子を模式的に示す図
【図5】コロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示すグラフ
【図6】実施例1によるコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図7】比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図8】比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図9】実施例2のコロイド結晶構造体の外観を示すデジタル画像の写真
【図10】実施例2のコロイド結晶構造体の光学顕微鏡による像を示す写真
【図11】実施例2のコロイド結晶構造体の走査型電子顕微鏡による像を示す写真
【図12】実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、同様の構成要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明によるコロイド結晶構造体を模式的に示す図である。
【0012】
本発明によるコロイド結晶構造体100は、モノマーの重合体110と、前記モノマーの重合体110中に自己組織的に周期配列した多数の粒子120とからなる。また、粒子120間は、前記モノマーの重合体110によって液体媒質が存在しない状態で埋められている。なお、本明細書では、用語「モノマー」は「マクロマー」も含むことを意図する。また、本明細書におけるモノマーは、それ自身単体で液体のモノマーを意図しておらず、特定の溶媒に溶解し、液体となるものに限る。
【0013】
モノマーの重合体110は、高分子が架橋した三次元的ネットワーク構造を有する。モノマーの重合体110は、粒子120の位置を固定し、維持するように機能する。このようなモノマーは、例えば、アクリルアミド、または、各種アクリルアミド誘導体(N−メチロールメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクリロイソアミノエトキシエタノール、N−アクリロイソアミノプロパノール、N−イソプロピルアクリルアミドなど)の水溶性モノマーが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明によるコロイド結晶構造体100では、モノマーの重合体110は柔軟性を持たず、変形することがないので、粒子配列を外力によっても変化させない剛性を達成し、用途の拡大を可能にする。
【0015】
粒子120は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。
【0016】
図2は、本発明によるコロイド結晶構造体の例示的な特性を示す模式図である。
【0017】
粒子120は、結晶格子状に三次元に周期配列しており、Braggの条件にしたがって光を反射する。コロイド結晶構造体100は、粒子の周期配列構造を含むので、図2に示されるようなストップバンドを透過スペクトルに有し得る。ただし、粒子120の材質と粒子120間の部分との屈折率が等しいときにはストップバンドは形成されない。ストップバンドの中心波長は、モノマーの重合体110および粒子120の体積分率や材質の選択等によって適宜変更できる。
【0018】
このように、コロイド結晶構造体100は、既存のコロイド結晶ゲルと同様に、振動、温度変化等の外部刺激に代表される外乱によっても粒子120の周期配列が乱れることなく、かつ、Bragg反射能に起因する特異な特性を発現し得る。
【0019】
本発明のコロイド結晶構造体100は、コロイド結晶ゲルと同様に、色材、ノッチフィルタ、分光素子、および、レーザ等の光学素子に適用されるが、コロイド結晶ゲルとは異なり、変形の心配がないため、特性の安定性が要求される用途に好適である。
【0020】
次に、図1に示す本発明のコロイド結晶構造体100を製造する方法を説明する。本発明者は、コロイド結晶構造体100を既存のコロイド結晶ゲルから得ることができることを見出した。さらに、本発明者は、コロイド結晶ゲルを上記液体媒質とは異なる液体媒質中で漸次的に収縮させることが、コロイド結晶構造体の製造時に生じる粒子の周期配列の乱れの抑制に効果的であることを見出した。
【0021】
膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質を除去するために、これを空気中で乾燥させると、粒子配列の乱れや材料全体の反りなどが発生しやすい。これは、液体媒質の蒸発がコロイド結晶ゲルの表面で局所的に起こるため、コロイド結晶ゲルの表面と内部との条件が違いすぎ、液体媒質が減少することにより同時に進行するゲルの収縮が均等に進まないことが原因であると推量される。本発明者は、膨潤したコロイド結晶ゲルを液体媒質中で漸次的に収縮させることによって、コロイド結晶ゲル中の液体媒質の除去と、コロイド結晶ゲルの収縮との過程を同時に均一に進行させることができ、これにより粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られることを見出した。
【0022】
図3は、本発明のコロイド結晶構造体の製造工程を示すフローチャートである。
図4は、図3に対応するコロイド結晶構造体を製造する各工程の様子を模式的に示す図である。
図3および図4を参照し、各工程を詳述する。
【0023】
工程S310:前記液体媒質は、モノマーの溶媒であり、粒子を分散し、かつ、モノマーを液状化するよう機能する。モノマーが重合したモノマーの重合体もまた液体媒質を含有し、モノマーの重合体を膨潤させる。液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、重合体を漸次的に収縮させ、かつ、液体媒質に対して親和性を有する溶液(収縮溶液)に接触して、コロイド結晶ゲルから液体媒質を除去する。
【0024】
これにより、コロイド結晶ゲルの表面と内部との条件を均一に保ちつつ、収縮溶液が、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質と置換するとともに、膨潤したコロイド結晶ゲルが収縮する。本明細書では、コロイド結晶ゲルが収縮する/収縮したコロイド結晶ゲルとは、コロイド結晶ゲル中の水溶性モノマーの重合体が収縮する/それによって得られるコロイド結晶ゲルを指す。この置換と収縮との過程の同時進行により、粒子の周期配列の乱れが抑制された、完全に収縮し、溶媒が完全に除去されたコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が、モノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。本発明の方法は、単に、液体媒質により膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させるだけでよいので、簡便であり、かつ、歩留まりに優れる。
【0025】
工程S310は、好ましくは、段階的に増加する増濃工程を用いて、収縮溶液中の収縮剤の濃度を100体積%(すなわち、収縮剤単体)まで漸次的に増大させる。収縮溶液中の収縮剤の濃度を漸次的に増大させるので、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質の置換と、膨潤したコロイド結晶ゲルの収縮との過程が同時により均一に進行する。また、最終的に、収縮溶液中の収縮剤の濃度が100体積%の収縮溶液を用いるので、モノマーの重合体中に溶媒が残留することはない。このようにして、粒子の周期配列が良好に維持され、その粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。
【0026】
図4を参照し、工程S310をさらに詳述する。
【0027】
工程S310は、図4の状態Aから開始する。ここで、図4の状態Aは、膨潤したコロイド結晶ゲルを示す。膨潤したコロイド結晶ゲルは、液体媒質410を含有したモノマーの重合体110からなる高分子ゲル中に粒子120が周期配列したコロイド結晶ゲルである。なお、以降では、液体媒質を含有したモノマーの重合体110を単に「高分子ゲル」と称する。
【0028】
液体媒質410は、モノマーの重合体110に含有されて、膨潤させる任意の溶媒であり、例えば、モノマーが水溶性である場合は、水、あるいは、水を主成分とする溶媒である。液体媒質410は、好ましくは、水である。これは、水溶性モノマーの重合体110を形成するための溶媒として最も単純であるためである。本明細書において、水を主成分とするとは、水を少なくとも50体積%含有することを意図する。水を少なくとも50体積%含有していれば、後述する収縮溶液の影響を受けることなく、自己組織的に周期配列した粒子120の周期配列に表面および内部にわたって乱れのない、膨潤したコロイド結晶ゲルとなる。なお、図4では、液体媒質410が水であるとして説明する。
【0029】
水溶性モノマーの重合体110および粒子120は、それぞれ、図1を参照して説明した水溶性モノマーの重合体および粒子と同様であるため説明を省略する。
【0030】
また、図4に示される状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルにおいて、粒子120は、結晶格子状に三次元に周期配列しており、Braggの条件にしたがって光を反射する。
【0031】
再度、図3を参照する。図4の状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルに工程S310を行う。工程S310は、複数の段階的な状態から構成されており、ここでは、収縮溶液の収縮剤の濃度を段階的に増加する増濃工程として、簡便のため、状態B1、状態B2、状態Bm、状態Bnおよび状態B100のみを抽出し詳述する。
【0032】
図4の状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度x1体積%(ただし、0<x1<100を満たす。例えば、x1=60)の収縮剤を含有する収縮溶液420を用いることにより、図4の状態Aは状態B1になる。状態B1では、液体媒質410が収縮溶液420と置換し、同時に、状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルが収縮し、その格子定数はd1となる。状態Aの格子定数d0と状態B1の格子定数d1との関係は、d1<d0を満たす。溶媒置換とともに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部が除去されたことになる。
【0033】
なお、収縮溶液420、および、以降で用いる収縮溶液430、440、450および460は、いずれも、液体媒質410と混和し、高分子ゲル(より詳細には、水溶性モノマーの重合体110)を収縮させる収縮剤を含有する任意の溶媒である。収縮剤が液体媒質と混和するか否かは、収縮剤と液体媒質とを混合し一様になるか否かを目視確認することによって判定できる。高分子ゲルを収縮させるか否かは、収縮溶液中の状態Aのコロイド結晶ゲルを目視確認することにより判定できるが、収縮溶液中の収縮剤の高分子ゲルに対する親和性の程度に基づいて判定することもできる。液体媒質の水溶性モノマーの重合体110に対する親和性よりも低い親和性を有する収縮剤を含有する溶媒を収縮溶液420として選択することができる。収縮溶液に含有される収縮剤は、好ましくは、エタノールまたはメタノールである。これらであれば、工業的に生産されており、安価に入手できるとともに取扱が簡便であるため有利である。したがって、収縮溶液は、種々の体積濃度のエタノールまたはメタノールを含有する。
【0034】
なお、工程S310における、「コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させる」とは、具体的には、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に浸漬させる、コロイド結晶ゲルに収縮溶液を滴下する等によって達成される状態である。以降における工程S310も同様の手順で行われる。
【0035】
ついで、状態B1の収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度x2体積%(ただし、関係x1<x2<100を満たす。例えば、x2=70)の収縮剤を含有する収縮溶液430を用いることにより、図4の状態B1は状態B2になる。状態B2では、収縮溶液420が収縮溶液430と置換し、同時に、状態B1の収縮したコロイド結晶ゲルはさらに収縮し、その格子定数はd2となる。状態B1の格子定数d1と状態B2の格子定数d2との関係は、d2<d1を満たす。溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0036】
状態B2の収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度xm体積%(ただし、関係x2<xm<100を満たす。例えば、xm=98)の収縮剤を含有する収縮溶液440を用いることにより、図4の状態B2は状態Bmになる。状態Bmでは、収縮溶液430が収縮溶液440と置換し、同時に、状態B2の収縮したコロイド結晶ゲルよりさらに収縮し、その格子定数はdmとなる。状態B2の格子定数d2と状態Bmの格子定数dmとの関係は、dm<d2を満たす。溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0037】
さらに、状態Bmの収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度xn体積%(ただし、関係xm<xn<100を満たす。例えば、xn=99)の収縮剤を含有する収縮溶液450を用いることにより、図4の状態Bmは状態Bnになる。状態Bnでは、収縮溶液440が収縮溶液450と置換し、同時に、状態Bmの収縮したコロイド結晶ゲルよりもさらに収縮し、その格子定数はdnとなる。状態Bmの格子定数dmと状態Bnの格子定数dnとの関係は、dn<dmを満たす。同様に、溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0038】
最後に、状態Bnの収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度100体積%の収縮剤を含有する収縮溶液460(すなわち、収縮溶液460は、収縮剤そのものである)を用いることにより、図4の状態Bnは状態B100になる。状態B100では、収縮溶液460により状態Bnの収縮したコロイド結晶ゲルが完全に収縮するので、状態Bnのコロイド結晶ゲルから収縮溶液450が除去されることになる。この収縮したコロイド結晶ゲルは、状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルが完全に収縮したコロイド結晶ゲルであり、その格子定数はdminである。状態B100の格子定数dnと状態Bnの格子定数dminとの関係は、dmin<dnを満たす。ここで、粒子120間は、水溶性モノマーの重合体110によって埋められている。
【0039】
状態B100では、濃度100体積%の収縮剤を含有する収縮溶液460中で収縮させているので、完全に収縮したコロイド結晶ゲルの水溶性モノマーの重合体110は、実質的に液体媒質を含有しない。
【0040】
以上、詳細に説明してきたように、工程S310において、液体媒質により膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させる、好ましくは、収縮溶液中の収縮剤の濃度を段階的に増加する増濃工程を用いて、100体積%まで漸次的に増大させながら、膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させる。これにより、膨潤したコロイド結晶ゲルの急激な収縮が抑制され、均一に、かつ、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が水溶性モノマーの重合体によって埋められており、溶媒を含有しないコロイド結晶構造体を得ることができる。このようにして得られたコロイド結晶構造体は、全体にわたって、良好な粒子の周期配列を維持しており、歩留まり、光学特性に優れ、さらにはクラックや反り等を有さない。また、本発明の製造方法は、サイズに制限がないので、光学用途に適用可能な高品質なコロイド結晶構造体の大面積化を可能にする。
【0041】
図4では、前記増濃工程として状態B1、B2、Bm、BnおよびB100までの5段階のみを例示的に示したが、これに限定されない。例えば、状態B1と状態B2との間に、さらに濃度勾配を有する収縮溶液を用いて、コロイド結晶ゲル中の溶媒の除去と収縮とを行ってもよい。これにより、除去と収縮とがより細かに行われるので、粒子の周期配列の乱れが確実に抑制される。
【0042】
より好ましくは、工程S310において、収縮溶液中の収縮剤の濃度を低濃度(例えば、0体積%)から100体積%濃度まで細かい濃度勾配(例えば、1〜2体積%ずつ増分)を設けて行うことにより、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質の除去と収縮とを精度よく制御できるので、最終的に得られる完全に収縮したコロイド結晶ゲルの粒子120の周期配列は、全体にわたって極めて良好となるので好ましい。
【0043】
しかしながら、作業の労力を鑑みれば、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%未満までは比較的大きな濃度勾配(例えば、5〜20体積%ずつ増分)を設けて行い、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%以上から100体積%までは、1〜2体積%ずつ増分させて行うのが好ましい。これは、置換および収縮に伴う粒子の周期配列の乱れが、高濃度の収縮溶液中のコロイド結晶ゲルに生じやすいためである。また、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%未満であれば、除去および収縮に伴う粒子の周期配列の乱れは、適用される光学素子の性能に影響しない。
【0044】
図3および図4では、工程S310において、液体媒質および収縮溶液が異なる材料からなり、液体媒質として水により完全に膨潤したコロイド結晶ゲルが状態Aから始まるとして説明してきたがこれに限らない。工程S310において、液体媒質および収縮溶液は、例えば、含有される収縮剤の濃度が異なっていればよい。例示的には、液体媒質として、水を主成分とし、収縮剤としてエタノールを含有する溶媒を用い、収縮溶液として、液体媒質中のエタノールの濃度よりも高濃度のエタノールを含有する溶媒を用いた場合も本願の製造方法に含まれる。このような意図から、液体媒質と収縮溶液とは異なるものとして扱うことに留意されたい。
【0045】
なお、工程S310において、収縮溶液から取り出した本発明のコロイド結晶構造体は、その表面が収縮溶液によって濡れている場合がある。このような濡れは、表面のみであるため、コロイド結晶構造体の表面をふき取る、あるいは、乾燥させてもよい。乾燥は、任意の手段が採用されるが、具体的には、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0046】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0047】
既存のコロイド結晶ゲルから本発明のコロイド結晶構造体を製造し、その特性を評価した。コロイド結晶構造体の製造に先立って、特開2007−296491に記載の保型容器(0.4mm厚、9mm幅、50mm長)を用いて、既存のコロイド結晶ゲルを生成した。
【0048】
ここで、粒子として粒径約240nmのポリスチレン粒子(Duke Scientific Corp., Palo Alto, CA, #5024)を、モノマーとしてN−メチロールアクリルアミドを、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを、溶媒として水を用いた。これらと、光重合開始剤としてアゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]とを含む水溶液を調製した。この粒子体積分率濃度は約9%であった。この水溶液にアルゴンバブリングを行い、酸素および二酸化炭素除去処理を施し、コロイド溶液とした。
【0049】
得られたコロイド溶液を保型容器内にせん断流動が生じるように注入した。紫外線LED(ピーク発光波長:約360nm)を用いて、保型溶液に注入されたコロイド溶液に光照射した。これにより、光重合開始剤により前記モノマーは架橋剤を介して重合し、前記モノマーの重合体となり、前記モノマーの重合体が液体媒質として水を含有した高分子ゲル中に粒子が周期配列した、膨潤したコロイド結晶ゲル(以降では単にコロイド結晶ゲルと呼ぶ)を得た。
【0050】
このコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定には、可視・近赤外分光光度計を用いた。測定物のない状態を参照状態とし、保型容器の表面に垂直に光を入射させ、その透過率を測定した。結果を図5に示す。
【0051】
図5は、コロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示すグラフである。
【0052】
図5から、コロイド結晶ゲルは、最長のBragg波長として1075nmを中心としたストップバンドを有することを確認した。
【0053】
その後、保型容器からコロイド結晶ゲルを取り出した。コロイド結晶ゲルの厚さは、0.4mmであった。このようなシート状のコロイド結晶ゲルを直径8mm円形に切り出し、実験に用いた。
【0054】
次に、コロイド結晶ゲルから図3に示す方法を用いて、実施例1のコロイド結晶構造体を製造した。収縮溶液の収縮剤としてエタノールを用いて、段階的に収縮剤を増加する増濃工程にしたがって、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させ、漸次的に収縮させた(図3の工程S310)。エタノールは、水と混和するとともに、前記モノマーであるN−メチロールアクリルアミドの重合体を収縮させることが分かっている。
【0055】
前記増濃工程は、0体積%のエタノール、次いで、80体積%のエタノールから100体積%まで1体積%ずつ濃度を増分させる22段階の工程でおこなった。各濃度のエタノールにコロイド結晶ゲルを順次浸漬させた。各浸漬時間は、実質的に透過スペクトルの変化が一定に落ち着くまでの時間であった。
【0056】
100体積%のエタノールに浸漬させ、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、実施例1のコロイド結晶構造体を得た。なお、100体積%のエタノールから取り出した際に表面に付着したエタノールを確実に除去するため、コロイド結晶構造体を自然乾燥した。このようにして得られた実施例1のコロイド結晶構造体は、クラック、反りおよび白濁がなく、透明であることを確認した。さらに、実施例1のコロイド結晶構造体が変形しないことを確認した。
【0057】
次に、イメージング分光器(ImSpector, JFE Techno−Research Corp., Chiba, Japan)を用いて、実施例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図6に示す。
【0058】
図6は、実施例1によるコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0059】
図6によれば、実施例1のコロイド結晶構造体は、Bragg波長として約600nm付近にストップバンドを有することを確認した。さらに、実施例1のコロイド結晶構造体は、約600nm付近のストップバンド以外の波長においては良好な透過特性を有していた。
【0060】
目視観察および図6の透過スペクトルより、本発明の製造方法によれば、粒子の周期配列が乱れることなく良質な、かつ、変形しないコロイド結晶構造体を得ることができることが確認された。
【比較例1】
【0061】
実施例1で用いたコロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させることなく(すなわち、漸次的に収縮させることなく)、直接乾燥させることによって、比較例1のコロイド結晶構造体を得た。乾燥は自然乾燥であった。比較例1のコロイド結晶構造体は、白濁しており、不透明であった。実施例1と同様に、イメージング分光器を用い、比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図7に示す。
【0062】
図7は、比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0063】
図7より、比較例1のコロイド結晶構造体は、透過率をほとんど有さなかった。また、図示しないが、場所によって透過スペクトルが異なっており、比較例1のコロイド結晶構造体は、全体にわたって不均一であることが分かった。
【0064】
目視観察による白濁および不透明、ならびに、図7の透過スペクトルに示される低い透過率から、比較例1のコロイド結晶構造体において、粒子の周期配列が乱れていることを確認した。
【0065】
実施例1および比較例1より、コロイド結晶ゲルから、粒子の周期配列が良好に維持され、かつ、ストップバンドを有するコロイド結晶構造体を得るためには、コロイド結晶ゲルを液体媒質中で収縮させることが有効であることが示された。
【比較例2】
【0066】
実施例1で用いたコロイド結晶ゲルを漸次的に収縮させることなく、1回で完全に収縮させることによって、比較例2のコロイド結晶構造体を得た。詳細には、コロイド結晶ゲルを実質的に100体積%のエタノール(和光純薬、エタノール、試薬特級、99.5体積%)に浸漬させ、完全に収縮させた。その後、表面に残ったエタノールを自然乾燥によって除去した。このようにして得られた比較例2のコロイド結晶構造体は、白濁しており、不透明であった。実施例1と同様に、イメージング分光器を用い、比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図8に示す。
【0067】
図8は、比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0068】
図8の透過スペクトルは、図7のそれと同様であり、比較例1と同様に、比較例2のコロイド結晶構造体は、透過率をほとんど有さなかった。目視観察の白濁および不透明、ならびに、図8の透過スペクトルに示される低い透過率から、比較例2のコロイド結晶構造体において、粒子の周期配列が乱れていることを確認した。
【0069】
実施例1および比較例1〜2より、コロイド結晶ゲルから、粒子の周期配列が良好に維持され、かつ、ストップバンドを有するコロイド結晶構造体を得るためには、収縮溶媒を用いて、コロイド結晶ゲルを一回で完全に収縮させるのではなく、漸次的に完全に収縮させることが有効であることが示された。
【実施例2】
【0070】
既存のコロイド結晶ゲルから本発明の別のコロイド結晶構造体を製造し、その特性を評価した。特開2007−296491に記載の保型容器(0.1mm厚、9mm幅、50mm長)を用いて、既存のコロイド結晶ゲルを生成した。
【0071】
ここで、粒子として粒径198nmのポリスチレン粒子(Duke Scientific Corp., Palo Alto, CA, 粒径の標準偏差3%)を、水溶性モノマーとしてN−メチロールアクリルアミドを、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを、溶媒として水を用いた。これらと、光重合開始剤(カンファーキノン、濃度0.4mM/L)とを含む水溶液を調製した。なお、ポリスチレン粒子は、混床イオン交換樹脂(AG501−X8, Bio−Rad, Hercules, CA)を用いて脱イオン化されている。この粒子体積分率濃度は10%であった。
【0072】
以降の手順は、高輝度青色LEDアレイ(Moritex Corp., Tokyo, Japan、ピーク発光波長:470nm)を用いて、光照射した以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。実施例1と同様に、厚さ0.1mmのシート状のコロイド結晶ゲルを直径7mm円形に切り出し、実験に用いた。
【0073】
次に、コロイド結晶ゲルから図3に示す方法を用いて、実施例2のコロイド結晶構造体を製造した。収縮溶液の収縮剤としてエタノールを用いて、前記増濃工程にしたがって、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させ、漸次的に収縮させた(図3の工程S310)。
【0074】
前記増濃工程は、0体積%のエタノールから100体積%まで1〜2体積%ずつ濃度を増分させる手順であった。各濃度のエタノールにコロイド結晶ゲルを順次浸漬させた。各浸漬時間は、実質的に透過スペクトルの変化が一定に落ち着くまでの時間であった。
【0075】
100体積%のエタノールに浸漬させ完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、実施例2のコロイド結晶構造体を得た。なお、100体積%のエタノールから取り出した際に表面に付着したエタノールを確実に除去するため、コロイド結晶構造体を自然乾燥した。このようにして得られた実施例2のコロイド結晶構造体は、クラック、反りおよび白濁がなく、試料全体にわたって透明であること、および、変形しないことを確認した。また、工程S310直前のコロイド結晶ゲルと、工程S310直後の実施例2のコロイド結晶構造体との大きさを比較したところ、実施例2のコロイド結晶構造体の大きさは、コロイド結晶ゲルのそれの52%まで収縮していた。これは、実施例2のコロイド結晶構造体の粒子体積分率濃度が約73%に匹敵し、粒子間が、水溶性モノマーの重合体によって埋められていることを確認した。
【0076】
実施例2のコロイド結晶構造体の外観を撮影した。デジタル画像の写真を図9に示す。また、実施例2のコロイド結晶構造体を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡により観察した。観察結果を図10および図11にそれぞれ示す。
【0077】
図9は、実施例2のコロイド結晶構造体の外観を示すデジタル画像の写真である。
【0078】
図9においてコントラストの明るく示される領域がコロイド結晶構造体であり、試料全体にわたって均一な緑色の回折色を示した。このように顕著な回折色を示すことから、実施例2のコロイド結晶構造体全体にわたって、粒子の周期配列が良好に維持されていることが示唆される。
【0079】
図10は、実施例2のコロイド結晶構造体の光学顕微鏡による像を示す写真である。
【0080】
図10には種々の倍率で撮影した像を示す。図10より、コロイド結晶構造体全体にわたって均質であることが分かる。
【0081】
図11は、実施例2のコロイド結晶構造体の走査型電子顕微鏡による像を示す写真である。
【0082】
図11には種々の倍率で撮影した像を示す。図11から、実施例2のコロイド結晶構造体において、粒子は極めて規則的に周期配列していることが分かった。
【0083】
実施例2のコロイド結晶構造体について、実施例1と同様に透過スペクトルを測定した。測定結果を図12に示す。
【0084】
図12は、実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0085】
図12の透過スペクトル(A)は、エタノールに浸漬する(工程S310)直前のコロイド結晶ゲルの透過スペクトルであり、透過スペクトル(B)は、100体積%濃度のエタノールに浸漬させた(工程S310)直後の実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルであり、透過スペクトル(C)は、100体積%濃度のエタノールに浸漬させた(工程S310)後、かつ、表面のエタノールを自然乾燥により除去した後の実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルである。なお、透過スペクトル(A)、透過スペクトル(B)および(C)は、イメージング分光器により、それぞれ測定された結果である。
【0086】
透過スペクトル(B)および(C)に示されるストップバンドは、透過スペクトル(A)のそれから、大きく低波長側にシフトした。低波長側へのシフトは、コロイド結晶ゲルにおける粒子間隔が短くなり、屈折率が変化したことを示す。このような透過スペクトルにおけるストップバンドの低波長側へのシフトから、図3および図4を参照して説明した工程S310により、コロイド結晶ゲルが収縮したことが確認された。
【0087】
また、透過スペクトル(B)および(C)のストップバンドは、ほぼ一致した。このことは、工程S310により、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が、水溶性モノマーの重合体によって埋められ、液体媒質を含有しないコロイド結晶構造体が得られたことを示す。また、乾燥は必須でないことを示す。
【0088】
さらに、透過スペクトル(B)および(C)も、透過スペクトル(A)と同様にシャープなディップ形状のストップバンドを有し、その周辺波長では、高い透過率を有した。このことは、本発明の製造方法を用いれば、エタノールに浸漬する直前のコロイド結晶ゲルの結晶性は、工程S310による収縮によっても、コロイド結晶構造体の表面だけでなく、それらの厚さ方向にも良好に維持されることを示唆する。
【0089】
なお、透過スペクトル(A)〜(C)において、ディップ幅およびディップ深さが一致しないのは、粒子とバックグラウンドとの間の屈折率のコントラストの変化によって生じるためであり、粒子配列の良否によるものではないことに留意されたい。
【0090】
実施例1の図5および図6を参照すれば、実施例2のように、工程S310において、細かい濃度勾配(0体積%から100体積%まで1〜2体積%ずつの増分)で構成された前記増濃工程を採用することによって、光学特性に優れた良質なコロイド結晶構造体が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によるコロイド結晶構造体は、モノマーの重合体が液体媒質等を含有しないので、液体媒質等に起因する変形は生じない。また、粒子間がモノマーの重合体によって埋められているように周期配列した粒子は、モノマーの重合体で固定化され、安定化されているので、環境からの外乱による周期配列の乱れが生じることはない。本発明のコロイド結晶構造体は、変形しないので取扱が簡便であるとともに、コロイド結晶固有の光学特性を安定して発現できるので、色材、ノッチフィルタ、分光素子、および、レーザ等の光学素子の実用化に有利である。
【符号の説明】
【0092】
100 コロイド結晶構造体
110 モノマーの重合体
120 粒子
410 液体媒質
420、430、440、450、460 収縮溶液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特許第3533442号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されたコロイド結晶構造体およびそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子体積分率が所定の値を上回ると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子とも呼ぶ)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。コロイド結晶は、電磁波に対するBragg反射能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、光群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待されている。
【0003】
上述のコロイド結晶を、重合性モノマーと架橋剤と重合開始剤とからなるゲル化剤で固定することによって、振動および温度変化等の環境からの外乱による粒子配列の乱れを抑制したゲル化コロイド結晶(またはコロイド結晶ゲルとも呼ぶ)が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
コロイド結晶ゲルは、外乱による粒子配列の乱れは抑制されるものの、上記重合性モノマーの重合体が液体媒質を含有し膨潤しているため、コロイド結晶ゲル全体として軟体であり容易に変形する。このためコロイド結晶ゲルの用途が制限される場合がある。したがって、コロイド結晶ゲルに代替する変形しない材料が得られれば、取扱が簡便となり、色材、ノッチフィルタ、分光素子、レーザ等の光学素子などさらなる用途の拡大が期待され望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、コロイド結晶ゲルに代替する変形しない材料およびそれを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1のコロイド結晶構造体は、自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、前記粒子間に液体媒質が存在しない状態で前記重合体により埋められていることを特徴とする。
発明2は、発明1のコロイド結晶構造体において、前記粒子は、ストップバンドを透過スペクトルに有する周期配列であることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2のコロイド結晶構造体であって、液体媒質が含有されたコロイド結晶ゲル中より、それに含まれる液体媒質が排除されたものであることを特徴とする。
発明4は、発明1から3のいずれかのコロイド結晶構造体の製造方法において、液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、前記重合体を漸次的に収縮させ、かつ、前記液体媒質に対して親和性を有する溶液に接触して、前記ゲル中より液体媒質を除去する除去工程を包含することを特徴とする。
発明5は、発明4の方法において、前記重合体を収縮させる収縮剤とその溶媒とからなり、前記除去工程中に前記収縮剤の濃度を増濃させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるコロイド結晶構造体は、液体媒質を含んで膨潤している状態とは異なり、柔軟性を持たない。よって、粒子配列構造に変形が生じにくく、また、環境からの外乱による乱れも生じることはない。これにより、本発明のコロイド結晶構造体は、変形しないので取扱が簡便であるとともに、コロイド結晶固有の光学特性を安定して発現できるので、実用化に有利である。
【0008】
本発明による製造方法によれば、コロイド結晶ゲルの表面と内部との状態を一定に保ちつつ、収縮溶液とコロイド結晶ゲル中の液体媒質との置換と、コロイド結晶ゲルの収縮過程とが同時に進行する。この結果、粒子の周期配列の乱れが抑制され、かつ、モノマーの重合体が均質に収縮する。このようにして、粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。また、本発明の方法を採用すれば、歩留まり良くコロイド結晶構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるコロイド結晶構造体を模式的に示す図
【図2】本発明によるコロイド結晶構造体の例示的な特性を示す模式図
【図3】本発明のコロイド結晶構造体の製造工程を示すフローチャート
【図4】図3に対応するコロイド結晶構造体を製造する各工程の様子を模式的に示す図
【図5】コロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示すグラフ
【図6】実施例1によるコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図7】比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図8】比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【図9】実施例2のコロイド結晶構造体の外観を示すデジタル画像の写真
【図10】実施例2のコロイド結晶構造体の光学顕微鏡による像を示す写真
【図11】実施例2のコロイド結晶構造体の走査型電子顕微鏡による像を示す写真
【図12】実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、同様の構成要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明によるコロイド結晶構造体を模式的に示す図である。
【0012】
本発明によるコロイド結晶構造体100は、モノマーの重合体110と、前記モノマーの重合体110中に自己組織的に周期配列した多数の粒子120とからなる。また、粒子120間は、前記モノマーの重合体110によって液体媒質が存在しない状態で埋められている。なお、本明細書では、用語「モノマー」は「マクロマー」も含むことを意図する。また、本明細書におけるモノマーは、それ自身単体で液体のモノマーを意図しておらず、特定の溶媒に溶解し、液体となるものに限る。
【0013】
モノマーの重合体110は、高分子が架橋した三次元的ネットワーク構造を有する。モノマーの重合体110は、粒子120の位置を固定し、維持するように機能する。このようなモノマーは、例えば、アクリルアミド、または、各種アクリルアミド誘導体(N−メチロールメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクリロイソアミノエトキシエタノール、N−アクリロイソアミノプロパノール、N−イソプロピルアクリルアミドなど)の水溶性モノマーが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明によるコロイド結晶構造体100では、モノマーの重合体110は柔軟性を持たず、変形することがないので、粒子配列を外力によっても変化させない剛性を達成し、用途の拡大を可能にする。
【0015】
粒子120は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。
【0016】
図2は、本発明によるコロイド結晶構造体の例示的な特性を示す模式図である。
【0017】
粒子120は、結晶格子状に三次元に周期配列しており、Braggの条件にしたがって光を反射する。コロイド結晶構造体100は、粒子の周期配列構造を含むので、図2に示されるようなストップバンドを透過スペクトルに有し得る。ただし、粒子120の材質と粒子120間の部分との屈折率が等しいときにはストップバンドは形成されない。ストップバンドの中心波長は、モノマーの重合体110および粒子120の体積分率や材質の選択等によって適宜変更できる。
【0018】
このように、コロイド結晶構造体100は、既存のコロイド結晶ゲルと同様に、振動、温度変化等の外部刺激に代表される外乱によっても粒子120の周期配列が乱れることなく、かつ、Bragg反射能に起因する特異な特性を発現し得る。
【0019】
本発明のコロイド結晶構造体100は、コロイド結晶ゲルと同様に、色材、ノッチフィルタ、分光素子、および、レーザ等の光学素子に適用されるが、コロイド結晶ゲルとは異なり、変形の心配がないため、特性の安定性が要求される用途に好適である。
【0020】
次に、図1に示す本発明のコロイド結晶構造体100を製造する方法を説明する。本発明者は、コロイド結晶構造体100を既存のコロイド結晶ゲルから得ることができることを見出した。さらに、本発明者は、コロイド結晶ゲルを上記液体媒質とは異なる液体媒質中で漸次的に収縮させることが、コロイド結晶構造体の製造時に生じる粒子の周期配列の乱れの抑制に効果的であることを見出した。
【0021】
膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質を除去するために、これを空気中で乾燥させると、粒子配列の乱れや材料全体の反りなどが発生しやすい。これは、液体媒質の蒸発がコロイド結晶ゲルの表面で局所的に起こるため、コロイド結晶ゲルの表面と内部との条件が違いすぎ、液体媒質が減少することにより同時に進行するゲルの収縮が均等に進まないことが原因であると推量される。本発明者は、膨潤したコロイド結晶ゲルを液体媒質中で漸次的に収縮させることによって、コロイド結晶ゲル中の液体媒質の除去と、コロイド結晶ゲルの収縮との過程を同時に均一に進行させることができ、これにより粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られることを見出した。
【0022】
図3は、本発明のコロイド結晶構造体の製造工程を示すフローチャートである。
図4は、図3に対応するコロイド結晶構造体を製造する各工程の様子を模式的に示す図である。
図3および図4を参照し、各工程を詳述する。
【0023】
工程S310:前記液体媒質は、モノマーの溶媒であり、粒子を分散し、かつ、モノマーを液状化するよう機能する。モノマーが重合したモノマーの重合体もまた液体媒質を含有し、モノマーの重合体を膨潤させる。液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、重合体を漸次的に収縮させ、かつ、液体媒質に対して親和性を有する溶液(収縮溶液)に接触して、コロイド結晶ゲルから液体媒質を除去する。
【0024】
これにより、コロイド結晶ゲルの表面と内部との条件を均一に保ちつつ、収縮溶液が、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質と置換するとともに、膨潤したコロイド結晶ゲルが収縮する。本明細書では、コロイド結晶ゲルが収縮する/収縮したコロイド結晶ゲルとは、コロイド結晶ゲル中の水溶性モノマーの重合体が収縮する/それによって得られるコロイド結晶ゲルを指す。この置換と収縮との過程の同時進行により、粒子の周期配列の乱れが抑制された、完全に収縮し、溶媒が完全に除去されたコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が、モノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。本発明の方法は、単に、液体媒質により膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させるだけでよいので、簡便であり、かつ、歩留まりに優れる。
【0025】
工程S310は、好ましくは、段階的に増加する増濃工程を用いて、収縮溶液中の収縮剤の濃度を100体積%(すなわち、収縮剤単体)まで漸次的に増大させる。収縮溶液中の収縮剤の濃度を漸次的に増大させるので、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質の置換と、膨潤したコロイド結晶ゲルの収縮との過程が同時により均一に進行する。また、最終的に、収縮溶液中の収縮剤の濃度が100体積%の収縮溶液を用いるので、モノマーの重合体中に溶媒が残留することはない。このようにして、粒子の周期配列が良好に維持され、その粒子間がモノマーの重合体によって埋められたコロイド結晶構造体が得られる。
【0026】
図4を参照し、工程S310をさらに詳述する。
【0027】
工程S310は、図4の状態Aから開始する。ここで、図4の状態Aは、膨潤したコロイド結晶ゲルを示す。膨潤したコロイド結晶ゲルは、液体媒質410を含有したモノマーの重合体110からなる高分子ゲル中に粒子120が周期配列したコロイド結晶ゲルである。なお、以降では、液体媒質を含有したモノマーの重合体110を単に「高分子ゲル」と称する。
【0028】
液体媒質410は、モノマーの重合体110に含有されて、膨潤させる任意の溶媒であり、例えば、モノマーが水溶性である場合は、水、あるいは、水を主成分とする溶媒である。液体媒質410は、好ましくは、水である。これは、水溶性モノマーの重合体110を形成するための溶媒として最も単純であるためである。本明細書において、水を主成分とするとは、水を少なくとも50体積%含有することを意図する。水を少なくとも50体積%含有していれば、後述する収縮溶液の影響を受けることなく、自己組織的に周期配列した粒子120の周期配列に表面および内部にわたって乱れのない、膨潤したコロイド結晶ゲルとなる。なお、図4では、液体媒質410が水であるとして説明する。
【0029】
水溶性モノマーの重合体110および粒子120は、それぞれ、図1を参照して説明した水溶性モノマーの重合体および粒子と同様であるため説明を省略する。
【0030】
また、図4に示される状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルにおいて、粒子120は、結晶格子状に三次元に周期配列しており、Braggの条件にしたがって光を反射する。
【0031】
再度、図3を参照する。図4の状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルに工程S310を行う。工程S310は、複数の段階的な状態から構成されており、ここでは、収縮溶液の収縮剤の濃度を段階的に増加する増濃工程として、簡便のため、状態B1、状態B2、状態Bm、状態Bnおよび状態B100のみを抽出し詳述する。
【0032】
図4の状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度x1体積%(ただし、0<x1<100を満たす。例えば、x1=60)の収縮剤を含有する収縮溶液420を用いることにより、図4の状態Aは状態B1になる。状態B1では、液体媒質410が収縮溶液420と置換し、同時に、状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルが収縮し、その格子定数はd1となる。状態Aの格子定数d0と状態B1の格子定数d1との関係は、d1<d0を満たす。溶媒置換とともに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部が除去されたことになる。
【0033】
なお、収縮溶液420、および、以降で用いる収縮溶液430、440、450および460は、いずれも、液体媒質410と混和し、高分子ゲル(より詳細には、水溶性モノマーの重合体110)を収縮させる収縮剤を含有する任意の溶媒である。収縮剤が液体媒質と混和するか否かは、収縮剤と液体媒質とを混合し一様になるか否かを目視確認することによって判定できる。高分子ゲルを収縮させるか否かは、収縮溶液中の状態Aのコロイド結晶ゲルを目視確認することにより判定できるが、収縮溶液中の収縮剤の高分子ゲルに対する親和性の程度に基づいて判定することもできる。液体媒質の水溶性モノマーの重合体110に対する親和性よりも低い親和性を有する収縮剤を含有する溶媒を収縮溶液420として選択することができる。収縮溶液に含有される収縮剤は、好ましくは、エタノールまたはメタノールである。これらであれば、工業的に生産されており、安価に入手できるとともに取扱が簡便であるため有利である。したがって、収縮溶液は、種々の体積濃度のエタノールまたはメタノールを含有する。
【0034】
なお、工程S310における、「コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させる」とは、具体的には、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に浸漬させる、コロイド結晶ゲルに収縮溶液を滴下する等によって達成される状態である。以降における工程S310も同様の手順で行われる。
【0035】
ついで、状態B1の収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度x2体積%(ただし、関係x1<x2<100を満たす。例えば、x2=70)の収縮剤を含有する収縮溶液430を用いることにより、図4の状態B1は状態B2になる。状態B2では、収縮溶液420が収縮溶液430と置換し、同時に、状態B1の収縮したコロイド結晶ゲルはさらに収縮し、その格子定数はd2となる。状態B1の格子定数d1と状態B2の格子定数d2との関係は、d2<d1を満たす。溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0036】
状態B2の収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度xm体積%(ただし、関係x2<xm<100を満たす。例えば、xm=98)の収縮剤を含有する収縮溶液440を用いることにより、図4の状態B2は状態Bmになる。状態Bmでは、収縮溶液430が収縮溶液440と置換し、同時に、状態B2の収縮したコロイド結晶ゲルよりさらに収縮し、その格子定数はdmとなる。状態B2の格子定数d2と状態Bmの格子定数dmとの関係は、dm<d2を満たす。溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0037】
さらに、状態Bmの収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度xn体積%(ただし、関係xm<xn<100を満たす。例えば、xn=99)の収縮剤を含有する収縮溶液450を用いることにより、図4の状態Bmは状態Bnになる。状態Bnでは、収縮溶液440が収縮溶液450と置換し、同時に、状態Bmの収縮したコロイド結晶ゲルよりもさらに収縮し、その格子定数はdnとなる。状態Bmの格子定数dmと状態Bnの格子定数dnとの関係は、dn<dmを満たす。同様に、溶媒置換とともにさらに収縮が生じるので、高分子ゲルに含有される液体媒質の一部がさらに除去されたことになる。
【0038】
最後に、状態Bnの収縮したコロイド結晶ゲルに、工程S310において収縮溶液として濃度100体積%の収縮剤を含有する収縮溶液460(すなわち、収縮溶液460は、収縮剤そのものである)を用いることにより、図4の状態Bnは状態B100になる。状態B100では、収縮溶液460により状態Bnの収縮したコロイド結晶ゲルが完全に収縮するので、状態Bnのコロイド結晶ゲルから収縮溶液450が除去されることになる。この収縮したコロイド結晶ゲルは、状態Aの膨潤したコロイド結晶ゲルが完全に収縮したコロイド結晶ゲルであり、その格子定数はdminである。状態B100の格子定数dnと状態Bnの格子定数dminとの関係は、dmin<dnを満たす。ここで、粒子120間は、水溶性モノマーの重合体110によって埋められている。
【0039】
状態B100では、濃度100体積%の収縮剤を含有する収縮溶液460中で収縮させているので、完全に収縮したコロイド結晶ゲルの水溶性モノマーの重合体110は、実質的に液体媒質を含有しない。
【0040】
以上、詳細に説明してきたように、工程S310において、液体媒質により膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させる、好ましくは、収縮溶液中の収縮剤の濃度を段階的に増加する増濃工程を用いて、100体積%まで漸次的に増大させながら、膨潤したコロイド結晶ゲルを収縮溶液中で漸次的に収縮させる。これにより、膨潤したコロイド結晶ゲルの急激な収縮が抑制され、均一に、かつ、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が水溶性モノマーの重合体によって埋められており、溶媒を含有しないコロイド結晶構造体を得ることができる。このようにして得られたコロイド結晶構造体は、全体にわたって、良好な粒子の周期配列を維持しており、歩留まり、光学特性に優れ、さらにはクラックや反り等を有さない。また、本発明の製造方法は、サイズに制限がないので、光学用途に適用可能な高品質なコロイド結晶構造体の大面積化を可能にする。
【0041】
図4では、前記増濃工程として状態B1、B2、Bm、BnおよびB100までの5段階のみを例示的に示したが、これに限定されない。例えば、状態B1と状態B2との間に、さらに濃度勾配を有する収縮溶液を用いて、コロイド結晶ゲル中の溶媒の除去と収縮とを行ってもよい。これにより、除去と収縮とがより細かに行われるので、粒子の周期配列の乱れが確実に抑制される。
【0042】
より好ましくは、工程S310において、収縮溶液中の収縮剤の濃度を低濃度(例えば、0体積%)から100体積%濃度まで細かい濃度勾配(例えば、1〜2体積%ずつ増分)を設けて行うことにより、膨潤したコロイド結晶ゲル中の液体媒質の除去と収縮とを精度よく制御できるので、最終的に得られる完全に収縮したコロイド結晶ゲルの粒子120の周期配列は、全体にわたって極めて良好となるので好ましい。
【0043】
しかしながら、作業の労力を鑑みれば、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%未満までは比較的大きな濃度勾配(例えば、5〜20体積%ずつ増分)を設けて行い、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%以上から100体積%までは、1〜2体積%ずつ増分させて行うのが好ましい。これは、置換および収縮に伴う粒子の周期配列の乱れが、高濃度の収縮溶液中のコロイド結晶ゲルに生じやすいためである。また、収縮溶液中の収縮剤の濃度が80体積%未満であれば、除去および収縮に伴う粒子の周期配列の乱れは、適用される光学素子の性能に影響しない。
【0044】
図3および図4では、工程S310において、液体媒質および収縮溶液が異なる材料からなり、液体媒質として水により完全に膨潤したコロイド結晶ゲルが状態Aから始まるとして説明してきたがこれに限らない。工程S310において、液体媒質および収縮溶液は、例えば、含有される収縮剤の濃度が異なっていればよい。例示的には、液体媒質として、水を主成分とし、収縮剤としてエタノールを含有する溶媒を用い、収縮溶液として、液体媒質中のエタノールの濃度よりも高濃度のエタノールを含有する溶媒を用いた場合も本願の製造方法に含まれる。このような意図から、液体媒質と収縮溶液とは異なるものとして扱うことに留意されたい。
【0045】
なお、工程S310において、収縮溶液から取り出した本発明のコロイド結晶構造体は、その表面が収縮溶液によって濡れている場合がある。このような濡れは、表面のみであるため、コロイド結晶構造体の表面をふき取る、あるいは、乾燥させてもよい。乾燥は、任意の手段が採用されるが、具体的には、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0046】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0047】
既存のコロイド結晶ゲルから本発明のコロイド結晶構造体を製造し、その特性を評価した。コロイド結晶構造体の製造に先立って、特開2007−296491に記載の保型容器(0.4mm厚、9mm幅、50mm長)を用いて、既存のコロイド結晶ゲルを生成した。
【0048】
ここで、粒子として粒径約240nmのポリスチレン粒子(Duke Scientific Corp., Palo Alto, CA, #5024)を、モノマーとしてN−メチロールアクリルアミドを、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを、溶媒として水を用いた。これらと、光重合開始剤としてアゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]とを含む水溶液を調製した。この粒子体積分率濃度は約9%であった。この水溶液にアルゴンバブリングを行い、酸素および二酸化炭素除去処理を施し、コロイド溶液とした。
【0049】
得られたコロイド溶液を保型容器内にせん断流動が生じるように注入した。紫外線LED(ピーク発光波長:約360nm)を用いて、保型溶液に注入されたコロイド溶液に光照射した。これにより、光重合開始剤により前記モノマーは架橋剤を介して重合し、前記モノマーの重合体となり、前記モノマーの重合体が液体媒質として水を含有した高分子ゲル中に粒子が周期配列した、膨潤したコロイド結晶ゲル(以降では単にコロイド結晶ゲルと呼ぶ)を得た。
【0050】
このコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定には、可視・近赤外分光光度計を用いた。測定物のない状態を参照状態とし、保型容器の表面に垂直に光を入射させ、その透過率を測定した。結果を図5に示す。
【0051】
図5は、コロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示すグラフである。
【0052】
図5から、コロイド結晶ゲルは、最長のBragg波長として1075nmを中心としたストップバンドを有することを確認した。
【0053】
その後、保型容器からコロイド結晶ゲルを取り出した。コロイド結晶ゲルの厚さは、0.4mmであった。このようなシート状のコロイド結晶ゲルを直径8mm円形に切り出し、実験に用いた。
【0054】
次に、コロイド結晶ゲルから図3に示す方法を用いて、実施例1のコロイド結晶構造体を製造した。収縮溶液の収縮剤としてエタノールを用いて、段階的に収縮剤を増加する増濃工程にしたがって、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させ、漸次的に収縮させた(図3の工程S310)。エタノールは、水と混和するとともに、前記モノマーであるN−メチロールアクリルアミドの重合体を収縮させることが分かっている。
【0055】
前記増濃工程は、0体積%のエタノール、次いで、80体積%のエタノールから100体積%まで1体積%ずつ濃度を増分させる22段階の工程でおこなった。各濃度のエタノールにコロイド結晶ゲルを順次浸漬させた。各浸漬時間は、実質的に透過スペクトルの変化が一定に落ち着くまでの時間であった。
【0056】
100体積%のエタノールに浸漬させ、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、実施例1のコロイド結晶構造体を得た。なお、100体積%のエタノールから取り出した際に表面に付着したエタノールを確実に除去するため、コロイド結晶構造体を自然乾燥した。このようにして得られた実施例1のコロイド結晶構造体は、クラック、反りおよび白濁がなく、透明であることを確認した。さらに、実施例1のコロイド結晶構造体が変形しないことを確認した。
【0057】
次に、イメージング分光器(ImSpector, JFE Techno−Research Corp., Chiba, Japan)を用いて、実施例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図6に示す。
【0058】
図6は、実施例1によるコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0059】
図6によれば、実施例1のコロイド結晶構造体は、Bragg波長として約600nm付近にストップバンドを有することを確認した。さらに、実施例1のコロイド結晶構造体は、約600nm付近のストップバンド以外の波長においては良好な透過特性を有していた。
【0060】
目視観察および図6の透過スペクトルより、本発明の製造方法によれば、粒子の周期配列が乱れることなく良質な、かつ、変形しないコロイド結晶構造体を得ることができることが確認された。
【比較例1】
【0061】
実施例1で用いたコロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させることなく(すなわち、漸次的に収縮させることなく)、直接乾燥させることによって、比較例1のコロイド結晶構造体を得た。乾燥は自然乾燥であった。比較例1のコロイド結晶構造体は、白濁しており、不透明であった。実施例1と同様に、イメージング分光器を用い、比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図7に示す。
【0062】
図7は、比較例1のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0063】
図7より、比較例1のコロイド結晶構造体は、透過率をほとんど有さなかった。また、図示しないが、場所によって透過スペクトルが異なっており、比較例1のコロイド結晶構造体は、全体にわたって不均一であることが分かった。
【0064】
目視観察による白濁および不透明、ならびに、図7の透過スペクトルに示される低い透過率から、比較例1のコロイド結晶構造体において、粒子の周期配列が乱れていることを確認した。
【0065】
実施例1および比較例1より、コロイド結晶ゲルから、粒子の周期配列が良好に維持され、かつ、ストップバンドを有するコロイド結晶構造体を得るためには、コロイド結晶ゲルを液体媒質中で収縮させることが有効であることが示された。
【比較例2】
【0066】
実施例1で用いたコロイド結晶ゲルを漸次的に収縮させることなく、1回で完全に収縮させることによって、比較例2のコロイド結晶構造体を得た。詳細には、コロイド結晶ゲルを実質的に100体積%のエタノール(和光純薬、エタノール、試薬特級、99.5体積%)に浸漬させ、完全に収縮させた。その後、表面に残ったエタノールを自然乾燥によって除去した。このようにして得られた比較例2のコロイド結晶構造体は、白濁しており、不透明であった。実施例1と同様に、イメージング分光器を用い、比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを測定した。測定結果を図8に示す。
【0067】
図8は、比較例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0068】
図8の透過スペクトルは、図7のそれと同様であり、比較例1と同様に、比較例2のコロイド結晶構造体は、透過率をほとんど有さなかった。目視観察の白濁および不透明、ならびに、図8の透過スペクトルに示される低い透過率から、比較例2のコロイド結晶構造体において、粒子の周期配列が乱れていることを確認した。
【0069】
実施例1および比較例1〜2より、コロイド結晶ゲルから、粒子の周期配列が良好に維持され、かつ、ストップバンドを有するコロイド結晶構造体を得るためには、収縮溶媒を用いて、コロイド結晶ゲルを一回で完全に収縮させるのではなく、漸次的に完全に収縮させることが有効であることが示された。
【実施例2】
【0070】
既存のコロイド結晶ゲルから本発明の別のコロイド結晶構造体を製造し、その特性を評価した。特開2007−296491に記載の保型容器(0.1mm厚、9mm幅、50mm長)を用いて、既存のコロイド結晶ゲルを生成した。
【0071】
ここで、粒子として粒径198nmのポリスチレン粒子(Duke Scientific Corp., Palo Alto, CA, 粒径の標準偏差3%)を、水溶性モノマーとしてN−メチロールアクリルアミドを、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを、溶媒として水を用いた。これらと、光重合開始剤(カンファーキノン、濃度0.4mM/L)とを含む水溶液を調製した。なお、ポリスチレン粒子は、混床イオン交換樹脂(AG501−X8, Bio−Rad, Hercules, CA)を用いて脱イオン化されている。この粒子体積分率濃度は10%であった。
【0072】
以降の手順は、高輝度青色LEDアレイ(Moritex Corp., Tokyo, Japan、ピーク発光波長:470nm)を用いて、光照射した以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。実施例1と同様に、厚さ0.1mmのシート状のコロイド結晶ゲルを直径7mm円形に切り出し、実験に用いた。
【0073】
次に、コロイド結晶ゲルから図3に示す方法を用いて、実施例2のコロイド結晶構造体を製造した。収縮溶液の収縮剤としてエタノールを用いて、前記増濃工程にしたがって、コロイド結晶ゲルを収縮溶液に接触させ、漸次的に収縮させた(図3の工程S310)。
【0074】
前記増濃工程は、0体積%のエタノールから100体積%まで1〜2体積%ずつ濃度を増分させる手順であった。各濃度のエタノールにコロイド結晶ゲルを順次浸漬させた。各浸漬時間は、実質的に透過スペクトルの変化が一定に落ち着くまでの時間であった。
【0075】
100体積%のエタノールに浸漬させ完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、実施例2のコロイド結晶構造体を得た。なお、100体積%のエタノールから取り出した際に表面に付着したエタノールを確実に除去するため、コロイド結晶構造体を自然乾燥した。このようにして得られた実施例2のコロイド結晶構造体は、クラック、反りおよび白濁がなく、試料全体にわたって透明であること、および、変形しないことを確認した。また、工程S310直前のコロイド結晶ゲルと、工程S310直後の実施例2のコロイド結晶構造体との大きさを比較したところ、実施例2のコロイド結晶構造体の大きさは、コロイド結晶ゲルのそれの52%まで収縮していた。これは、実施例2のコロイド結晶構造体の粒子体積分率濃度が約73%に匹敵し、粒子間が、水溶性モノマーの重合体によって埋められていることを確認した。
【0076】
実施例2のコロイド結晶構造体の外観を撮影した。デジタル画像の写真を図9に示す。また、実施例2のコロイド結晶構造体を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡により観察した。観察結果を図10および図11にそれぞれ示す。
【0077】
図9は、実施例2のコロイド結晶構造体の外観を示すデジタル画像の写真である。
【0078】
図9においてコントラストの明るく示される領域がコロイド結晶構造体であり、試料全体にわたって均一な緑色の回折色を示した。このように顕著な回折色を示すことから、実施例2のコロイド結晶構造体全体にわたって、粒子の周期配列が良好に維持されていることが示唆される。
【0079】
図10は、実施例2のコロイド結晶構造体の光学顕微鏡による像を示す写真である。
【0080】
図10には種々の倍率で撮影した像を示す。図10より、コロイド結晶構造体全体にわたって均質であることが分かる。
【0081】
図11は、実施例2のコロイド結晶構造体の走査型電子顕微鏡による像を示す写真である。
【0082】
図11には種々の倍率で撮影した像を示す。図11から、実施例2のコロイド結晶構造体において、粒子は極めて規則的に周期配列していることが分かった。
【0083】
実施例2のコロイド結晶構造体について、実施例1と同様に透過スペクトルを測定した。測定結果を図12に示す。
【0084】
図12は、実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルを示すグラフである。
【0085】
図12の透過スペクトル(A)は、エタノールに浸漬する(工程S310)直前のコロイド結晶ゲルの透過スペクトルであり、透過スペクトル(B)は、100体積%濃度のエタノールに浸漬させた(工程S310)直後の実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルであり、透過スペクトル(C)は、100体積%濃度のエタノールに浸漬させた(工程S310)後、かつ、表面のエタノールを自然乾燥により除去した後の実施例2のコロイド結晶構造体の透過スペクトルである。なお、透過スペクトル(A)、透過スペクトル(B)および(C)は、イメージング分光器により、それぞれ測定された結果である。
【0086】
透過スペクトル(B)および(C)に示されるストップバンドは、透過スペクトル(A)のそれから、大きく低波長側にシフトした。低波長側へのシフトは、コロイド結晶ゲルにおける粒子間隔が短くなり、屈折率が変化したことを示す。このような透過スペクトルにおけるストップバンドの低波長側へのシフトから、図3および図4を参照して説明した工程S310により、コロイド結晶ゲルが収縮したことが確認された。
【0087】
また、透過スペクトル(B)および(C)のストップバンドは、ほぼ一致した。このことは、工程S310により、完全に収縮したコロイド結晶ゲル、すなわち、粒子間が、水溶性モノマーの重合体によって埋められ、液体媒質を含有しないコロイド結晶構造体が得られたことを示す。また、乾燥は必須でないことを示す。
【0088】
さらに、透過スペクトル(B)および(C)も、透過スペクトル(A)と同様にシャープなディップ形状のストップバンドを有し、その周辺波長では、高い透過率を有した。このことは、本発明の製造方法を用いれば、エタノールに浸漬する直前のコロイド結晶ゲルの結晶性は、工程S310による収縮によっても、コロイド結晶構造体の表面だけでなく、それらの厚さ方向にも良好に維持されることを示唆する。
【0089】
なお、透過スペクトル(A)〜(C)において、ディップ幅およびディップ深さが一致しないのは、粒子とバックグラウンドとの間の屈折率のコントラストの変化によって生じるためであり、粒子配列の良否によるものではないことに留意されたい。
【0090】
実施例1の図5および図6を参照すれば、実施例2のように、工程S310において、細かい濃度勾配(0体積%から100体積%まで1〜2体積%ずつの増分)で構成された前記増濃工程を採用することによって、光学特性に優れた良質なコロイド結晶構造体が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によるコロイド結晶構造体は、モノマーの重合体が液体媒質等を含有しないので、液体媒質等に起因する変形は生じない。また、粒子間がモノマーの重合体によって埋められているように周期配列した粒子は、モノマーの重合体で固定化され、安定化されているので、環境からの外乱による周期配列の乱れが生じることはない。本発明のコロイド結晶構造体は、変形しないので取扱が簡便であるとともに、コロイド結晶固有の光学特性を安定して発現できるので、色材、ノッチフィルタ、分光素子、および、レーザ等の光学素子の実用化に有利である。
【符号の説明】
【0092】
100 コロイド結晶構造体
110 モノマーの重合体
120 粒子
410 液体媒質
420、430、440、450、460 収縮溶液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特許第3533442号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、前記粒子間に液体媒質が存在しない状態で前記重合体により埋められていることを特徴とする、コロイド結晶構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のコロイド結晶構造体において、前記粒子はストップバンドを透過スペクトルに有する周期配列であることを特徴とする、コロイド結晶構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコロイド結晶構造体であって、液体媒質が含有されたコロイド結晶ゲル中より、それに含まれる前記液体媒質が排除されたものであることを特徴とするコロイド結晶構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のコロイド結晶構造体の製造方法において、
液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、前記重合体を漸次的に収縮させ、かつ、前記液体媒質に対して親和性を有する溶液(収縮溶液)に接触して、前記ゲル中より液体媒質を除去する除去工程を包含することを特徴とする、コロイド結晶構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記収縮溶液は、前記重合体を収縮させる収縮剤とその溶媒とからなり、前記除去工程中に前記収縮剤の濃度を増濃させることを特徴とする、コロイド結晶構造体の製造方法。
【請求項1】
自己組織的に周期配列した多数の粒子からなるコロイド結晶がモノマーの重合体によって固定されてなるコロイド結晶構造体であって、前記粒子間に液体媒質が存在しない状態で前記重合体により埋められていることを特徴とする、コロイド結晶構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のコロイド結晶構造体において、前記粒子はストップバンドを透過スペクトルに有する周期配列であることを特徴とする、コロイド結晶構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコロイド結晶構造体であって、液体媒質が含有されたコロイド結晶ゲル中より、それに含まれる前記液体媒質が排除されたものであることを特徴とするコロイド結晶構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のコロイド結晶構造体の製造方法において、
液体媒質を含有する状態で架橋されたモノマーの重合体によりコロイド結晶が保持されたコロイド結晶ゲルを、前記重合体を漸次的に収縮させ、かつ、前記液体媒質に対して親和性を有する溶液(収縮溶液)に接触して、前記ゲル中より液体媒質を除去する除去工程を包含することを特徴とする、コロイド結晶構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記収縮溶液は、前記重合体を収縮させる収縮剤とその溶媒とからなり、前記除去工程中に前記収縮剤の濃度を増濃させることを特徴とする、コロイド結晶構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−271528(P2010−271528A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123073(P2009−123073)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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