コロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、及びそれを用いて得られるコロイド結晶顔料
【課題】スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程とを含むことを特徴とするコロイド結晶膜の製造方法。
【解決手段】モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程とを含むことを特徴とするコロイド結晶膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを用いて得られるコロイド結晶顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド粒子が規則的に配列しているコロイド結晶膜は、Bragg回折により、その格子定数に対応した波長の光を反射することが知られている。例えば、サブミクロンオーダーのコロイド粒子を規則的に配列させたコロイド結晶膜の場合、紫外光、可視光から赤外光の範囲の波長の光を反射する。また、このようなコロイド結晶膜により可視光を反射させる場合には、イリデセンス(虹彩色)等のいわゆる構造色を発色させることが可能であることも知られている。そして、このようなコロイド結晶膜は、コロイド結晶の特徴を利用して、構造色を発色させる色材、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶、光スイッチ、光センサー等へ応用することが期待されており、種々のコロイド結晶膜の製造方法が研究されてきた。
【0003】
例えば、特表2007−510183号公報(特許文献1)においては、光重合性材料中にコロイド球体を分散させ、分散体を基体上に分配し、1つ以上の六角配列された層に前記球体を位置合わせするように基体の表面上に前記分散体をスピンコートし、スピンコートされた分散体を放射線への露光により光重合させて、前記1つ以上の層が複数存在する場合、その複数の層が相互に位置合わせされている、ポリマーとコロイド球体のマトリクスを製造し、前記スピンコートされた分散体の非重合部分を除去して、自己集合したコロイド結晶を調製する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1においては、コロイド粒子を規則配列させるためにスピンコート工程を経る必要があると考えられており、他の塗布法によりコロイド粒子を規則配列されたコロイド膜を得ることについては何ら記載されていない。また、特開2008−303261号公報(特許文献2)においては、1種以上のモノマーを含むモノマー含有液中に平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ単分散度が20%以下となるコロイド粒子を含有させ、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態となるように前記コロイド粒子を分散させて、前記3次元規則配列状態のコロイド結晶が形成されたモノマー分散液を得る工程と、前記モノマー分散液中の前記モノマーを重合させて、ポリマーで固定化されたコロイド結晶を得る工程とを含むコロイド結晶の製造方法が開示されている。しかしながら、上記特許文献2においては、その[0036]欄において、分散液中のコロイド結晶状態を維持したまま、各種基板等に塗布、注入等することが可能であることは記載されているものの、塗装時に衝撃によりコロイド結晶の規則配列が破壊されてしまうようなスプレー塗装により前記コロイド分散液を塗布することについては直接記載されていない。更に、上記特許文献1〜2に記載のような分散液を単にスプレー塗装したとしても、必ずしも反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−510183号公報
【特許文献2】特開2008−303261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ後述の式(1)で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を用い、かかるコロイド分散液を重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装して前記基材上に塗膜を形成した後に、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめて、前記基材上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を製造することにより、スプレー塗装を採用して十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することが可能となり、しかも基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することも可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド結晶膜が反射スペクトルにおいて反射率が30%を超え且つ半値幅が50nm以下である反射ピークを有することが好ましい。
【0009】
また、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記分散媒成分が、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の親水性モノマーからなることが好ましい。
【0010】
さらに、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド粒子が、シリカ、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる粒子であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明のコロイド結晶顔料は、上記本発明のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明のコロイド結晶膜の製造方法によって、スプレー塗装を採用し、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することも可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、溶媒を乾燥させることにより人工オパールなどとも呼ばれるコロイド結晶膜を製造する従来のコロイド結晶の製造方法においては、得られるコロイド結晶の結晶構造は、多くの場合、面心立方格子(FCC)構造となっていた。そして、かかるコロイド結晶膜を基材上に成膜した場合、かかるFCC構造の(111)面が基材に対して平行に配向することが多い。しかしながら、このような従来のコロイド結晶の製造方法は、ミリメートルからセンチメートルサイズのコロイド結晶を研究室レベルで製造する場合には適しているが、より大きなサイズで工業規模の大量生産に適用することは不可能であると推察される。また、上記特許文献1に記載のような従来のコロイド結晶膜の製造方法は、スピンコート法を必須の工程とする方法である。このような方法により得られるコロイド結晶の結晶構造もFCC構造の(111)面が基材に平行に配向した構造となる傾向にある。これは、スピンコート法で成膜しているため、基材上に塗着した後にも膜の材料にせん断力がかかり、かかるせん断力により面心立方格子(FCC)構造が形成されるとともに、かかるFCC構造の(111)面が基材に平行に配向されるためである。このように、特許文献1に記載のような従来のコロイド結晶膜の製造方法は、基材上に膜の材料が塗着した後にも、かかる材料に対してせん断力をかけて膜を製造する。そのため、特許文献1において成膜に用いている材料は、せん断のかからない、あるいは、せん断の小さい方法で成膜した場合に上述のような配向が生じるか否かは定かではない。実際に、特許文献1に記載のようなコロイド結晶膜を製造するために用いる材料を用いて、単にスプレー塗装を施したとしても、塗着後には大きなせん断が生じないため、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶を必ずしも製造することができなかった。更に、特許文献2に記載のような従来のアクリルポリマーで固定化したコロイド結晶膜の製造方法においては、塗装方法は特に限定されていない。しかしながら、特許文献2に記載のようなモノマー分散液を用い、これを単にスプレー塗装したとしても、必ずしも反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができなかった。
【0014】
そこで、本発明においては、前記特定の分散媒成分及び前記特定のコロイド粒子を含有し且つ25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を用い、これを基材上にスプレー塗装している。このようなコロイド分散液は瓶に入った状態で静置しておいても、粒子間に働く静電的な反発力と前記分散媒成分中での粒子の熱運動とによって粒子が効率よく規則配列し、いわゆるコロイド結晶が形成される。ここで、このようなコロイド分散液をエアスプレーガンにて基材上にスプレー塗装すると、塗着時の衝撃によって粒子の規則配列は壊れてしまう。しかしながら、本発明にかかるコロイド分散液においては、基材上に塗着した後においても塗膜中で粒子間の静電的な反発と粒子の熱運動とが効率よく引き起こり、塗膜内にて対流が効率よく発生するため、基材上において粒子が再度規則配列し、コロイド結晶を効率よく形成させることが可能となる。一方、コロイド分散液をスプレー塗装した際には、基材界面近傍では、基材と液との相互作用のためコロイド粒子が動き難い状況が生じ、粒子の規則配列が形成され難いということを見出した。そして、このような知見に基づいて更に検討を重ねたところ、上述のようなコロイド分散液は、これを単にスプレー塗装したとしても、その膜厚によっては反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができないということを見出した。なお、上記特許文献1〜2に記載のようなポリマーで固定化したコロイド結晶の製造方法は、(111)面が基板に平行に配向したコロイド結晶を得る上で膜厚制御が重要であるとの認識はない。そこで、本発明においては、重合後の平均厚みが25〜45μmの範囲となるようにしてコロイド分散液をスプレー塗装する。ここで、このような膜厚が前記下限未満では、十分な発色を示すような、反射スペクトルにおいて十分に反射率が高いコロイド結晶膜を形成させることができず、他方、前記膜厚が前記上限を超えると、基材からの影響が小さくなり、(111)面が基材に平行でない結晶の成長も顕著になって、均一な発色を有するコロイド結晶膜を形成することができない。すなわち、スプレー塗装時に前述のような膜厚とすることにより、FCC構造の(111)面が基板に平行な結晶が十分に形成できるとともに、(111)面が基板に平行でない結晶粒の成長は十分に抑制される。そのため、本発明においては、スプレー塗装の際に膜厚を上述のように調整しているため、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜が製造されるものと本発明者らは推察する。
【0015】
このように、本発明においては、前記特定のコロイド分散液を用い、これを特定の膜厚でスプレー塗装することにより、塗着後に大きなせん断が生じないスプレー塗装法を採用しながら、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率を有し、十分に均一な発色を示すコロイド結晶膜を効率よく製造することが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明においては、コロイド分散液の塗装方法としてスプレー塗装を採用しているため、大面積、曲面に対してコロイド結晶膜を成膜することも可能である。このように、本発明においては、大量生産に適したスプレー塗装法にてコロイド結晶膜を製造できるため、これを粉砕して顔料を製造する場合には、安価且つ大量にコロイド結晶顔料を製造することも可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図2】比較例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図3】比較例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図4】実施例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図5】実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面近傍(上部)の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面と基材プライマー層の界面との間の中間部近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】実施例2で得られたコロイド結晶膜のプライマー層との界面近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】比較例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図10】比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図11】図10に示す破断面中の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】図10に示す破断面中の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図13】比較例4で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図14】比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図15】図14に示す破断面中の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図16】図14に示す破断面中の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図17】実施例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図18】実施例3で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図19】実施例4で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図20】比較例5で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図21】比較例6で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図22】比較例7で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明のコロイド結晶膜の製造方法について説明する。すなわち、本発明のコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程(A)と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程(B)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、このようなコロイド結晶膜の製造方法について、工程(A)と工程(B)とに分けて説明する。
【0020】
先ず、工程(A)について説明する。工程(A)は、前記分散媒成分と前記コロイド粒子とを含有する上記特定のコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程である。
【0021】
前記分散媒成分は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有するものである。このような分散媒成分としては、より効率よくコロイド結晶膜を形成するという観点から、1種以上のモノマーからなるものを用いることが好ましい。また、このようなモノマーとしては、コロイド粒子を前記3次元規則配列状態に分散させることが可能なものであればよく、特に制限されないが、アクリルモノマーが好ましい。
【0022】
また、このようなモノマーとしては、親水性のモノマーが好ましく、酸や塩基などのイオン性官能基以外の非イオン性の親水性基を含む親水性モノマーがより好ましい。このような非イオン性の親水性基としては、例えば、水酸基やエチレングリコール基等が挙げられる。なお、酸や塩基などのイオン性官能基を含むモノマーの場合、コロイド結晶を形成させる際にモノマーがコロイド粒子間の相互作用に影響を及ぼし、3次元配列構造を形成させることが困難となる傾向にある。また、水に溶解しない疎水性のモノマーを用いる場合には、コロイド粒子の表面が親水性であるため、コロイド粒子が凝集して均一に分散させることが困難であり、分散媒成分中においてコロイド結晶を形成し難くなる傾向にある。
【0023】
このような親水性モノマーとしては特に制限されず、公知の親水性モノマーを適宜利用することができ、例えば、エチレングリコール鎖長が異なるポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、あるいは、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0024】
また、このような親水性モノマーの中でも、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。このようなポリエチレングリコールアクリレート類又はポリプロピレングリコールアクリレート類は、エチレン又はプロピレングリコール鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができ、鎖長によって親水性を制御でき、これを用いることでコロイド粒子の配列状態をより効率よく制御できる傾向にある。また、前記分散媒成分が前記親水性モノマーからなるものである場合には、前記親水性モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
さらに、前記分散媒成分が親水性モノマーを含有する場合には、前記親水性モノマーの含有比率が、前記モノマー及びポリマーの総量に対して85質量%以上(より好ましくは90質量%〜100質量%)であることが好ましい。前記親水性モノマーの含有比率が前記下限未満では、コロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0026】
また、前記モノマーとしては、複数のエチレン性二重結合を有する多官能モノマーと、エチレン性二重結合を1つ有する単官能モノマーとを含有することが好ましい。このような多官能モノマーと単官能モノマーとを組み合わせて用いることにより、ポリマーで固定化した際に、十分な機械的強度と基材等に対する十分な付着性が得られる傾向にある。
【0027】
このような多官能モノマーとしては、エチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種と複数の(メタ)アクリル基とを有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましい。このようなエチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーを多官能モノマーとして用いることにより、多官能モノマーが十分に親水性を有するものとなり、より効率よくコロイド結晶膜を形成させることが可能となる傾向にある。また、前記多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル基を2つ又は3つ有するものがより好ましい。また、このような多官能モノマーとして用いられるエチレングリコール鎖及び/又はプロピレングリコール鎖を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、エチレングリコール鎖又はプロピレングリコール鎖の鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができる。
【0028】
また、このような多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、入手の容易さと、3次元規則配列構造の形成の容易さの観点から、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。このような多官能モノマーとしては1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0029】
前記単官能モノマーは、エチレン性二重結合を1つ有するモノマーである。このような単官能モノマーとしては特に制限されず、公知の単官能モノマーを適宜用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、スチレンモノマー、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0030】
このような単官能モノマーとしては、入手の容易さの観点から、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が特に好ましい。なお、このような単官能モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0031】
また、前記多官能モノマー及び単官能モノマーを組み合わせて用いる場合には、前記多官能モノマーの含有比率は、前記多官能モノマーと単官能モノマーとの総量に対して1〜95質量%(より好ましくは3〜90質量%)であることが好ましい。このような含有比率が前記下限未満では重合後に得られるポリマーの硬度が低くなって膜としての強度が十分に保てなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると重合後に得られるポリマーの硬度が高くなり、得られるポリマーで固定化されたコロイド結晶が脆くなる傾向にある。
【0032】
また、前記ポリマーとしては特に限定されず、一般的に塗料に用いられるアクリルポリマーやウレタンポリマー等を適宜用いることができる。また、このようなポリマーとしては、前述のモノマーを重合して形成されるポリマー(より好ましくはアクリルポリマー)を好適に用いることができる。
【0033】
また、前記分散媒成分は、前記モノマー及び前記ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであればよく、特に制限されず、前記モノマー及び/又はポリマーのみを含有するものであってもよく、あるいは、前記モノマー及び/又はポリマーとともに溶媒を含有するものであってもよい。なお、このような溶媒は分散液の粘度を調整する際にも有効に利用することが可能である。また、このような溶媒としては、特に制限されないが、アルコール等の親水性溶媒を適宜用いることができる。また、前記コロイド分散液に溶媒を含有させる場合には固定化の際に溶媒が蒸発することに伴って、コロイド結晶が壊れたり、歪んだりして結晶構造が変化することを防止するという観点から、溶媒の含有量を30質量%以下(より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)とすることが好ましい。
【0034】
前記コロイド粒子は、平均粒径が0.01〜10μm(より好ましくは0.05〜1.0μm)の範囲にある粒子である。このような粒子の平均粒径が前記下限未満では、粒子表面間の凝集力が強くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子が沈降し易くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にある。
【0035】
また、前記コロイド粒子は、下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下の粒子である。すなわち、前記粒子は、このような単分散度を有する粒径が極めて均一な粒子である。本発明においては、コロイド粒子にこのような均一性が極めて高い粒子を用いているため、前記分散媒成分中に分散させた際に、粒子間の相互作用により容易に3次元規則配列構造を形成させることが可能となる。また、このような粒子としては、単分散度がより小さな値となるほど、より高い特性が得られる傾向にあることから、前記単分散度は10%(更に好ましくは5%)以下であることがより好ましい。
【0036】
また、このようなコロイド粒子の材料としては特に制限されず、得られるコロイド結晶膜を応用する分野に合わせて、公知の有機材料、無機材料、有機−無機複合材料及び無機−無機複合材料の中から適宜選択して用いることができる。このような有機材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体、アクリル樹脂等の有機高分子材料等が挙げられ、前記無機材料としては、例えば、シリカ(二酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、酸化亜鉛等が挙げられる。また、前記有機−無機複合材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体又はアクリル樹脂等からなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の有機−無機複合粒子等が挙げられる。また、前記無機−無機複合材料としては、例えば、シリカからなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム又は酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の無機−無機複合粒子等が挙げられる。更に、このようなコロイド粒子の材料としては、容易に単分散粒子を合成することができるという観点から、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルが特に好ましい。なお、このような粒子の材料は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、このようなコロイド粒子としては、例えば、エマルション重合により合成されたポリスチレン粒子又はポリメタクリル酸メチル粒子(ダウケミカル社製、ポリサイエンス社製、日本合成ゴム社製、積水化学社製等)や、ストーバー法により合成されたシリカ粒子(日本触媒製や触媒化成製等)を適宜用いることができる。また、Layer−By−Layer法で単分散な粒子(テンプレート粒子)に層状化合物をコートすることによって二層構造粒子や中空粒子を形成させて、本発明のコロイド粒子として利用してもよい。
【0037】
このようなコロイド粒子の含有量としては、前記コロイド分散液中、5〜50体積%であることが好ましく、10〜40体積%であることがより好ましい。このようなコロイド粒子の含有量が前記下限未満では、分散媒成分中に分散させた際にコロイド粒子を3次元規則配列状態とすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子の濃度が高くなりすぎて、コロイド粒子の配列構造を制御することが困難となる傾向にある。
【0038】
また、本発明にかかるコロイド分散液においては、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されている。ここで、本発明にいう「反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態」とは、反射スペクトルを測定し、Bragg回折による反射ピークの存在が確認される状態をいい、「反射ピーク」とは、無反射の状態に対して反射光強度が波長の変化に伴って増加、減少する際の変曲点をいい、いわゆる反射光強度が上下するノイズとは異なる。また、このような反射スペクトルの測定方法としては、通常の分光光度計を用いることができるが、本発明においては、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて測定する方法を採用する。なお、このような3次元規則配列構造としては、例えば面心立方構造や体心立方構造等が挙げられる。また、前記ピークは、波長350〜1600nmの間の波長(波長350〜1050nmには「Fastvert S−2650」、波長900nm〜1600nmには「Fastvert S−2710」)におけるピークであることが好ましい。
【0039】
また、このような3次元規則配列状態におけるコロイド粒子の最近接粒子間の距離の平均としては、特に制限されないが、コロイド粒子の平均粒径の0.01〜10倍の範囲にあることが好ましく、0.05〜2倍の範囲にあることがより好ましい。前記最近接粒子間の距離の平均が前記下限未満では、ポリマーマトリックスの体積が少なくなるため強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子を3次元規則配列させることが困難になる傾向にある。
【0040】
また、このように分散媒成分中に、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態でコロイド粒子を分散させる方法(以下、単に「分散方法」という。)としては、コロイド粒子を分散させて前記3次元規則配列状態とすることが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、超音波を長時間印加する方法、長時間撹拌する方法、加熱する方法、アルコール等の溶媒を加えて分散させる方法等を適宜採用することができる。なお、このような分散方法においては、コロイド粒子を3次元規則配列状態とするために、例えば、所定時間ごとに反射スペクトルを測定して反射ピークが現れるまで分散工程を繰り返す方法を採用してもよい。
【0041】
さらに、このような分散方法として超音波を印加する方法を採用する場合においては、用いるモノマーの種類、コロイド分散液の粘度及びコロイド粒子の濃度等によって異なるものではあるが、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、超音波を0.5〜24時間(より好ましくは1〜10時間)印加することが好ましい。超音波の印加時間が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、それ以降の操作が無駄となり、作業効率が低下する傾向にある。
【0042】
また、このような超音波の周波数は特に制限されず、16kHz以上であればよく、20〜200kHzとすることが好ましい。前記周波数が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子が凝集し易くなり、やはり3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にある。
【0043】
また、このような超音波を印加する際の温度条件としては特に制限されないが、0〜80℃(より好ましくは10〜60℃)であることが好ましい。このような温度条件が前記下限未満では、コロイド粒子の分散効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、モノマーの重合反応が進行したり、分散媒成分が変性したり、あるいは、成分組成が変化するなどしてコロイド結晶の形成が困難となる傾向にある。
【0044】
さらに、前記分散方法としてアルコール等の溶媒を加える方法を採用する場合においては、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、前記溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることが好ましい。また、このような溶媒の含有量としては、親水性モノマーにコロイド粒子を含有させた混合物100質量部に対して30質量部以下とすることが好ましい。このような溶媒の含有量が前記上限を超えると、モノマーを重合させてポリマーとした場合に溶媒を含んだゲルとなる傾向にある。
【0045】
また、本発明にかかるコロイド分散液は、粘度が10〜100mPa・sである。ここで、「粘度」としては、回転型粘度計としてレオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」を用い、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを利用して、温度:25℃±0.1℃、せん断速度:1000S−1の条件で測定される粘度の値を採用する。このような粘度が前記下限未満では液ダレが顕著になり、形状物への均一な塗布が困難になるばかりか、本発明において要求される最低膜厚を確保することが困難となり、他方、前記上限を超えると、十分に平滑で且つ良好な発色を示すコロイド結晶膜が得られず、更には、得られるコロイド結晶膜の反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークが得られなくなる。また、このようなコロイド分散液の粘度としては、同様の観点で、より平滑で且つより十分に発色のよいコロイド結晶膜を効率よく得ることが可能となることから、20〜60mPa・sであることがより好ましい。
【0046】
なお、このようなコロイド分散液の粘度を前述のような範囲に調整する方法としては、前記分散媒成分中のモノマーの種類を適宜選択することで粘度を前述のような範囲に調整する方法、2種以上のモノマーを用いる場合に粘度の低いモノマーを少なくとも1種含有させてコロイド分散液全体の粘度を前述のような範囲に調整する方法、溶媒を混合することによってコロイド分散液の粘度を低くする方法、塗料に一般的に用いられる粘度調整剤を用いる方法等が挙げられる。このような粘度の低いモノマーとしては特に制限されず、前述のモノマーの中から適宜選択して利用することができる。
【0047】
また、本発明にかかるコロイド分散液においては、光重合開始剤を含有させてもよい。このようにコロイド分散液に光重合開始剤を含有させることにより、前記モノマーを重合させる際に、紫外光等を照射することにより効率よく重合させることが可能となる。このような光重合開始剤としては特に制限されず、公知の光重合開始剤を適宜用いることができ、例えば、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサン、ケタール、アセトフェノン等のカルボニル化合物や、ジスルフィド、ジチオカーバメート等のイオウ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾ化合物、遷移金属錯体、ポリシラン化合物、色素増感剤等が挙げられる。
【0048】
また、このような光重合開始剤の添加量としては特に制限されないが、用いたモノマーの種類等に応じて適宜変更できるが、前記コロイド分散液に対して0.1〜5質量%(より好ましくは0.5〜3質量%)とすることが好ましい。このような光重合開始剤の添加量が前記下限未満では紫外光等の光を照射してモノマーを重合させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散液状態でコロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0049】
さらに、本発明にかかるコロイド分散液には、本発明の効果を損なわない範囲において、顔料やUV吸収剤等の一般的に塗料に添加することが可能な各種添加剤を適宜含有させていてもよい。
【0050】
また、本発明にかかる基材は特に制限されず、その基材上にポリマーの膜を形成することが可能なものであればよく、ガラス、金属、各種プラスチック等からなる基材を用いることができる。また、このような基材の形状は特に制限されず、板状、円形状、球状等の各種形状としてもよい。また、本発明においては、前記コロイド分散液を用いるとともにその塗装法としてスプレー塗装を採用しているため、前記コロイド分散液を塗装する基材の面が曲面であってもコロイド結晶膜を成膜することが可能である。さらに、このような基材は、成膜性や密着性の観点から、必要に応じてプライマーを塗装して用いることもできる。また、本発明においては、前記基材上に前記コロイド分散液を効率よく塗装するために、前記コロイド分散液をスプレー塗装する前に、前記基材の表面を予めクリーニングすることが好ましい。このような基材表面のクリーニング法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、UVオゾンクリーニングを施す方法等を採用してもよい。
【0051】
また、本発明において採用するスプレー塗装の方法としては特に制限されず、エアースプレーガンによるスプレー塗装であってもよく、あるいは、エアレスガンによるスプレー塗装であってもよい。また、このようなスプレー塗装の際の雰囲気や温度等の各種条件は特に制限されず、公知のスプレー塗装の条件を適宜採用することができ、用いるコロイド分散液中のモノマーの種類等に応じて適宜調整すればよい。
【0052】
また、本発明においては、前記コロイド分散液を重合させた後の平均厚み(ポリマーで固定化した後の膜の平均厚み)が25〜45μmとなるように、前記基材上にスプレー塗装する。このような平均厚みが前記下限未満では、粒子の規則配列構造(コロイド結晶)が十分に形成されず、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜を製造することができなくなる。また、前記平均厚みが前記上限を超えた場合においては、面心立方格子(FCC)構造の(111)面が基板に平行でない結晶粒も多く形成されてしまい、その結果として、反射ピーク強度が弱く、鮮やかな発色のコロイド結晶膜を製造することができなくなる。このように、本発明においては、塗膜中においてコロイド粒子を自己組織的に再度規則配列させて、再度コロイド結晶化させるという観点から、コロイド結晶膜の厚みを規定しており、一般的な塗料においてなされる膜厚制御とはその必要性が全く異なる。なお、このような平均厚みを達成する方法は、用いるコロイド分散液の種類(例えばモノマーの種類やコロイド粒子の含有量等)によっても異なるものであり、一概に言えるものではなく、コロイド分散液の種類等に応じて重合前の塗膜の厚みを適宜調整すればよい。
【0053】
なお、本発明においては、重合後の膜(コロイド結晶膜)の平均厚みは、以下に記載のような方法で求める。すなわち、先ず、形成されたコロイド結晶膜にカッターナイフを斜めに当てて、コロイド結晶膜及び基材表面(基材表面にプライマー層がある場合にはその層)を一部削り取る。次に、その削り痕に光学顕微鏡(例えばキーエンス社製の商品名「VF−7500型」)を用いて、コロイド結晶膜と基材表面の界面を観察し、コロイド結晶膜の表面にピントを合わせたときのステージ位置と基材表面にピントを合わせたときのステージ位置とを、それぞれ用いた光学顕微鏡の目盛りから読み取る。なお、このようなステージ位置の読み取りは1μm単位で読み取る。次に、このようにして測定された各ステージ位置の差を求めることにより、その測定箇所におけるコロイド結晶膜の膜厚を測定する。そして、本発明においては、このような測定方法で任意の5点以上の測定箇所においてコロイド結晶膜の厚みを測定し、これらの平均値を計算することによりコロイド結晶膜の平均厚みを求める。
【0054】
このようにして前記コロイド分散液をスプレー塗装することにより、基材上に塗膜を形成することができる。また、このような塗膜においては、スプレー塗装直後は塗着時の衝撃によってコロイド粒子の規則配列が壊れるものと考えられることから、スプレー塗装後に、塗膜中においてコロイド結晶が再度規則配列されるのを待って工程(B)を施すことが好ましい。このような観点から、例えば、温度条件が0〜40℃(より好ましくは室温程度)の場合には、スプレー塗装後、塗膜を5〜120分間(より好ましくは10〜90分間)静置した後に、工程(B)を施すことが好ましい。このような塗膜を静置する時間が前記下限未満では塗膜中において、コロイド粒子を十分に高度な水準で規則配列させることが困難であり、反射スペクトルにおいて反射ピークの反射率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると作業性が低下したり、基材の種類によっては塗膜中のモノマーが基材へ著しく浸透し、結果としてコロイド結晶の粒子配列が乱れてしまう傾向にある。なお、このようなコロイド結晶が再度規則配列させるために塗膜を静置する時間は、作業性の観点から、より短くすることが好ましいため、スプレー塗装後においては、基材を加熱したり、あるいは、基材を高温雰囲気下(例えば30〜60℃程度)で静置して、再結晶化を促進させてもよい。
【0055】
次に、工程(B)について説明する。工程(B)は、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程である。
【0056】
工程(B)において、前記コロイド分散液の塗膜中の前記分散媒成分を重合させる方法としては特に制限されず、前記塗膜中に形成された結晶構造を消失させることなく、前記分散媒成分を重合させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、光重合による重合方法、加熱による重合方法等が挙げられる。なお、加熱により重合させる場合には、加熱により結晶構造が消失してしまうことを防止するという観点から、80℃程度以下の温度条件で重合させることが好ましい。
【0057】
また、このような分散媒成分の重合方法の中でも、加熱を伴うことなく、塗膜中に形成されたコロイド粒子の規則配列構造を十分に維持しながら、より効率よく分散媒成分を重合できるという観点から、電磁波(紫外光や電子線等)を照射することにより重合する方法を採用することが好ましい。また、前記コロイド分散液に光重合性のモノマー等を含有させた場合には、光を照射することで分散媒成分を重合させる光重合による方法を採用することが好ましい。また、このような分散媒成分の重合方法として、光重合による方法を採用する場合には、より効率よく重合反応させるという観点から、前記コロイド分散液としては光重合開始剤を含有するものを用いることが好ましい。
【0058】
このような光重合においては、コロイド結晶中のコロイド粒子の3次元規則配列構造をより十分に維持しながら重合させるという観点から、0〜40℃程度の温度条件下で重合させることが好ましい。更に、このような光重合においては、モノマーのラジカル重合反応の酸素による阻害を抑制するという観点から、不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)下において、前記塗膜に光を照射することが好ましい。また、このような光重合の際に照射する光としては特に制限されず、モノマーや光重合開始剤の種類等に応じて適宜好適な波長の光を採用すればよく、例えば、紫外光を採用してもよい。
【0059】
このようにして、前記塗膜中の分散媒成分を重合させることにより、平均厚み25〜45μmのポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得ることができる。このような本発明により得られるコロイド結晶膜は、十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜となる。また、本発明によれば、反射スペクトルにおいて反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下である反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができる。このような反射率が前記下限未満では、十分な発色を有する意匠性の高いコロイド結晶膜とならない傾向にある。また、前記半値幅が前記上限を超えると、コロイド結晶の構造色の特長の一つである彩度の高さが損なわれる傾向にある。なお、ここにいうコロイド結晶膜の反射スペクトルの測定方法としては、マルチチャンネル式分光器(相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert S−2650」)を用い、同軸光ファイバにて基板面に対して垂直な方向における反射スペクトルを測定する方法を採用する。なお、本発明においては、基材に蒸着したアルミニウム蒸着膜の反射スペクトルを参照スペクトルとして利用して、測定されたコロイド結晶膜の反射スペクトルを前記参照スペクトルで割り算することにより、反射スペクトルの縦軸の反射率を求め、これをプロットすることで反射スペクトルのグラフを求める。
【0060】
次に、本発明のコロイド結晶膜について説明する。本発明のコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【0061】
このようなコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法を採用して得られるものであるため、十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜となる。また、このようなコロイド結晶膜としては、反射スペクトルにおいて反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下である反射ピークを有するコロイド結晶膜が好ましい。なお、このようなコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法を採用することで製造することができる。更に、このようなコロイド結晶膜は、様々な用途に応用することが可能である。例えば、イリデセンス(虹彩色)等のいわゆる構造色を発色する構造色色材に好適に使用できる。また、赤外反射膜又は紫外反射膜用の塗装やフィルムとしても好適に使用できる。更に、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶と呼ばれる光機能材料、光スイッチ、あるいは光センサー等としても好適に用いることができる。また、後述する本発明のコロイド結晶顔料を製造するための材料としても好適に利用できる。なお、本発明のコロイド結晶膜は、溶媒乾燥によって作製される従来のコロイド結晶膜に比べて機械的に安定なものであるため、粉砕してもコロイド結晶の構造を十分に保持することができるものである。そのため、これを粉砕することで、コロイド結晶の構造色を損なうことなく効率よく顔料を製造することが可能である。
【0062】
以上、本発明のコロイド結晶膜について説明したが、以下、本発明のコロイド結晶顔料について説明する。本発明のコロイド結晶顔料は、上記本発明のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするものである。
【0063】
このようなコロイド結晶膜の粉砕方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、コロイド結晶膜を前記基材から剥離した後、乳鉢を用いて粉砕する方法等を採用してもよい。また、このようにコロイド結晶膜を粉砕するために用いる装置も特に制限されず、公知の装置を適宜用いることができる。
【0064】
また、このようにして粉砕して得られるコロイド結晶顔料の粉末の大きさとしては、用途によっても異なるものであり、特に制限されないが、平均厚みが25〜45μmであり且つ平均半径が0.01mm〜2mm(より好ましくは0.01mm〜1mm)であることが好ましい。このような平均半径が前記下限未満では、これを分散させた塗料を塗装した際、この顔料粉末の塗膜中での配向が不十分になり、コロイド結晶の構造色が十分に観察されなくなり、発色効果が得られ難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、これを分散させた塗料を均一な塗装膜として塗布することが困難となる傾向にある。なお、このようなコロイド結晶顔料は、塗料中に分散させて用いることで、コロイド結晶の構造色を呈する塗料を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
先ず、ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー(中村化学社製の商品名「NKエステルA−200」)と、ポリエチレングリコールモノアクリレートモノマー(新中村化学社製の商品名「NKエステルAM−30G」)とを重量比で9:1に混合し、モノマーからなる分散媒を準備した。次に、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるようにして添加し、室温(25℃)条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散したコロイド分散液を得た。
【0067】
なお、このようなコロイド分散液においては虹彩色が観察された。また、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。また、このようにして得られたコロイド分散液の粘度を、レオメトリックス・サイエンティフィック製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、測定温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、かかるコロイド分散液の粘度は35mPa・sであった。
【0068】
次に、このようにして得られたコロイド分散液に対して光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次いで、縦70、横150、厚み0.5mmの大きさの黒色塗装を施した鉄鋼板基板(以下、黒塗装基板)を準備し、かかる黒塗装基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置「PL16−110」を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。その後、UVオゾンクリーニング後の黒塗装基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるように、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、黒塗装基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された黒塗装基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、黒塗装基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0069】
[実施例1で得られたコロイド結晶膜の特性の評価]
〈目視による観察〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜を目視にて観測したところ、真上方向から見たときには基板面のエッジ周辺を除くほぼ全面に赤色が観察され、斜めからみた場合に緑色が観察された。このような結果から、実施例1で得られたコロイド結晶膜においては、エッジ周辺を除く全面にコロイド結晶が形成されていることが分かった。また、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0070】
〈反射スペクトルの測定〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜に対して、マルチチャンネル式分光器(相馬光学製 S−2650)を用い、同軸光ファイバにて基板面に対して垂直方向での反射スペクトルを測定した。なお、アルミニウム蒸着膜の反射スペクトルを参照スペクトルとして、測定された反射スペクトルをこの参照スペクトルにて割り算することにより、反射スペクトルの縦軸を反射率で表した。得られた反射スペクトルを図1に示す。
【0071】
図1に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られたコロイド結晶膜は、反射スペクトルにおいて、反射ピーク波長:596nm、反射率:47%、半値幅:25nmの反射ピークが確認された。このように、本発明のコロイド結晶膜の製造方法を利用した実施例1においては、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。
【0072】
〈コロイド結晶膜の膜厚の測定〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜の膜厚を、以下の方法を利用して測定した。すなわち、先ず、カッターナイフを斜めに当てて、コロイド結晶膜および黒塗装膜を一部削り取った。次に、その削り痕を、光学顕微鏡(キーエンス製VF−7500型)を用いて測定し、コロイド結晶膜と黒塗装膜との界面(すなわち、黒塗装表面)を観察した。そして、コロイド結晶膜の表面にピントを合わせたときのステージ位置と黒塗装膜表面にピントを合わせたときのステージ位置をそれぞれ光学顕微鏡の目盛りから読み取った(なお、読み取りは1μm単位で読み取る。)。次に、光学顕微鏡の目盛りから読み取られたそれぞれのステージ位置の値の差を求めて、コロイド結晶膜の膜厚を求めた。なお、このようなコロイド結晶膜の膜厚の測定は、任意の5点以上の箇所において行った。このようなコロイド結晶膜の膜厚の測定の結果、実施例1で得られたコロイド結晶膜は、膜厚が34±2μm(平均膜厚:34μm)であることが確認された。
【0073】
(比較例1)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして、黒塗装基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0074】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例1で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例1で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜はわずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0075】
また、比較例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図2に示す。図2に示す結果からも明らかなように、比較例1で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:11%、半値幅:26nmとなっており、反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例1で得られたコロイド結晶膜の膜厚は22±2μm(平均膜厚:22μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしても、形成させるコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0076】
(比較例2)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして、黒塗装基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0077】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例2で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例2で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例1で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例2で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0078】
また、比較例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図3に示す。図3に示す結果からも明らかなように、比較例2で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:18%、半値幅:33nmとなっており、反射率の大きさが十分なものとはならないことが確認された。また、比較例2で得られたコロイド結晶膜の膜厚は50±3μm(平均膜厚:50μm)であった。このような結果から、コロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってはコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0079】
(実施例2)
ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー(中村化学製の商品名「NKエステルA−200」)を分散媒として用いて、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるように添加した後、室温条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散したモノマー分散液を得た。
【0080】
なお、このようなコロイド分散液は虹彩色が観察された。また、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。また、このようにして得られたコロイド分散液の粘度を、レオメトリックス・サイエンティフィック製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、測定温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、かかるコロイド分散液の粘度は42mPa・sであった。
【0081】
次に、このようにして得られたコロイド分散液に対して光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次いで、縦70、横150、厚み2mmの黒色のABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)樹脂基板を用い、かかるABS樹脂基板の表面にプライマーとして関西ペイント社製の「レタンPG60(2液溶剤型、黒色)」を硬化後の膜厚が25μmとなるようにしてスプレー塗装し、80℃の温度条件で30分の焼き付けを行い、プライマー塗装の形成された基板を得た。その後、前記プライマー塗装の形成された基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置PL16−110を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。次いで、UVオゾンクリーニング後の基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるようにして、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0082】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、実施例2で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。実施例2で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、かかるコロイド結晶膜においては、真上方向から見たときに基板面のエッジ周辺を除くほぼ全面で赤色が観測され、斜めからみた場合に緑色が観察された。このような結果から、実施例2で得られたコロイド結晶膜においては、エッジ周辺を除く全面にコロイド結晶が形成されていることが分かった。また、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0083】
また、実施例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図4に示す。図4に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られたコロイド結晶膜は、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:47%、半値幅:20nmとなっており、反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークを有するものであることが確認された。また、実施例2で得られたコロイド結晶膜の膜厚は35±3μm(平均膜厚:35μm)であった。
【0084】
さらに、実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5〜8に示す。なお、図5は実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図6は実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の表面近傍(上部)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図7は実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面と基材プライマー層との界面の中間部近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、実施例2で得られたコロイド結晶膜のプライマー層との界面近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0085】
図5〜8に示す顕微鏡写真からも明らかなように、実施例2で得られたコロイド結晶膜においては、プライマー層との界面から約17μmの部位よりも上部の位置において、十分にコロイド粒子が規則配列した層が形成されていることが観察された。
【0086】
(比較例3)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例2と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0087】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例3で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例3で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜はわずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0088】
また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図9に示す。図9に示す結果からも明らかなように、比較例3で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:4%となっており、反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の膜厚は22±2μm(平均膜厚:22μm)であった。
【0089】
また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図10〜12に示す。なお、図10は比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図11は、図10中の破断面の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図12は、図10中の破断面の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図10〜12に示す顕微鏡写真からも明らかなように、比較例3で得られたコロイド結晶膜においては、コロイド粒子が規則配列した層がほとんど観測されなかった。
【0090】
(比較例4)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるように、スプレー塗装した以外は、実施例2と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0091】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例4で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例4で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例2で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例4で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0092】
また、比較例4で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図13に示す。図13に示す結果からも明らかなように、比較例4で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:13%となっており、反射スペクトルにおける反射ピークの反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例4で得られたコロイド結晶膜の膜厚は48±3μm(平均膜厚:48μm)であった。
【0093】
さらに、比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図14〜16に示す。なお、図14は比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図15は、図14中の破断面の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図16は、図14中の破断面の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図14〜16に示す顕微鏡写真からも明らかなように、比較例4で得られたコロイド結晶膜においては、配向の乱れた層の上に配向の異なる結晶粒が形成されていることが確認され、配列方向の揃ったコロイド結晶が形成されていないことが確認された。
【0094】
このような実施例2及び比較例3〜4の結果から、同じコロイド分散液を用いたとしても、コロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0095】
(製造例1)
トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート(東亞合成製 アロニックスM−350)を分散媒として用いて、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるように添加した後、室温(25℃)条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散した分散液を得た。なお、このようにして得られた分散液の粘度は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、200mPa・sであった。
【0096】
(実施例3)
製造例1で得られた分散液に、分散液量に対して10質量%のエタノールを添加して、コロイド分散液を調製した。なお、かかるコロイド分散液の粘度は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、39mPa・sであった。なお、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。
【0097】
次いで、前記コロイド分散液に光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次に、縦70、横150、厚み0.5mmの大きさの黒色塗装を施した鉄鋼板基板(以下、場合により「黒塗装基板」という。)を準備し、かかる黒塗装基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置「PL16−110」を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。その後、UVオゾンクリーニング後の黒塗装基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるように、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、黒塗装基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された黒塗装基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、黒塗装基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0098】
実施例3で得られたコロイド結晶膜に対して、実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして反射スペクトルを測定した。実施例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図17に示す。図17に示す結果からも明らかなように、実施例3で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:35%、半値幅:22nmとなっており、反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークを有するコロイド結晶が形成されていることが確認された。このような結果から、実施例3で得られたコロイド結晶膜においては、コロイド結晶の配向方向が十分に揃っていることが確認された。また、実施例3で得られたコロイド結晶膜の膜厚は36±2μm(平均膜厚:36μm)であった。
【0099】
更に、実施例3で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図18に示す。図18に示す結果からも明らかなように、実施例3で得られたコロイド結晶膜は、十分に平滑なものとなっていることが確認されるとともに、発色も十分に鮮やかなものとなっていることが確認された。
【0100】
(実施例4)
製造例1で得られた分散液に添加するエタノールの量を10wt%から5wt%に変更してコロイド分散液を調製した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。なお、実施例4で用いたコロイド分散液は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用いて測定される温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件での粘度が80mPa・sであった。
【0101】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、実施例4で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。実施例4で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルの反射ピークにおいて反射率が30%を超えていることが確認された。このような結果から、実施例4においては、コロイド結晶の配向方向が十分に揃っているコロイド結晶膜が形成されていることが確認された。また、実施例4で得られたコロイド結晶膜の膜厚は38±2μm(平均膜厚:38μm)であった。
【0102】
更に、実施例4で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図19に示す。図19に示す結果からも明らかなように、実施例4で得られたコロイド結晶膜は、十分に平滑なものとなっていることが確認されるとともに、発色も十分に鮮やかなものとなっていることが確認された。なお、実施例3で得られたコロイド結晶膜と比較すると、実施例3で得られたコロイド結晶膜の方が、実施例4で得られたコロイド結晶膜よりも、より高度な平滑性を有していることが分かる。
【0103】
(比較例5)
コロイド分散液の代わりに、製造例1で得られた分散液(粘度:200mPa・s)を用いた以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0104】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例5で得られたコロイド結晶膜の特性を評価したところ、比較例5で得られたコロイド結晶膜の膜厚は40±5μm(平均膜厚:40μm)であった。更に、比較例5で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図20に示す。図20に示す結果からも明らかなように、比較例5で得られたコロイド結晶膜は、平滑性の観点で十分なものではなかった。さらに、比較例5で得られたコロイド結晶膜は発色の点でも十分なものではなかった。
【0105】
(比較例6)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0106】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例6で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例6で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜は、わずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。また、比較例6で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図21に示す。図21に示す結果からも明らかなように、比較例6で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:4%となっており、反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例6で得られたコロイド結晶膜の膜厚は20±2μm(平均膜厚:20μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしてもコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0107】
(比較例7)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0108】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例7で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例7で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例3で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図22に示す。図22に示す結果からも明らかなように、比較例7で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークにおける反射率:26%となっており、反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜の膜厚は49±3μm(平均膜厚:49μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしてもコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0109】
(実施例5)
先ず、ABS樹脂基板の変わりに100mm角のガラス基板を用いた以外は、実施例2と同様にして、平均膜厚35μmのコロイド結晶膜を得た。なお、このようなコロイド結晶膜は十分に平滑なものであり、また反射スペクトルにおいて反射率が30%を超えており、十分に高度な反射率の反射ピークを有することが確認された。
【0110】
次に、前記コロイド結晶の形成された基板を水につけ、これに超音波を印加して、ガラス基板からコロイド結晶膜を剥離した。次いで、剥離したコロイド結晶膜を、乳鉢を用いて、目開き0.065μmの篩を通るまで細かく粉砕して、コロイド結晶顔料を得た。
【0111】
このようにして得られたコロイド結晶顔料をクリア塗料(関西ペイント社製の商品名「マジクロン1000 クリア」、熱硬化型アクリル樹脂塗料)に5質量%加えた後に、希釈のためにシンナーを30質量%加えて撹拌し、コロイド結晶顔料の分散したクリア塗料を得た。次いで、かかる塗料を50μmの設定膜厚にてエアスプレーガンにより黒塗装鋼板に塗布し、塗料の膜を形成した。次いで、前記塗料の膜を160℃で20分間焼成し、クリア塗料の塗装膜を形成した。このような塗装膜は、見る角度によりきらきらと赤色や緑色を呈するものとなり、優れた意匠性を有することが確認された。
【0112】
(実施例6)
先ず、ABS樹脂基板の変わりに、実施例1で用いた黒塗装基板を用いた以外は、実施例2と同様にして、平均膜厚35μmのコロイド結晶膜を得た。なお、このようなコロイド結晶膜は十分に平滑なものであり、また、反射スペクトルにおいて反射率が30%を超えており、十分に高度な反射率の反射ピークを有することが確認された。
【0113】
次に、前記コロイド結晶の形成された基板をスクレーパーを用いて基板から削り落した。このようにして削り落されたコロイド結晶膜を、乳鉢を用いて、目開き0.065μmの篩を通るまでさらに細かく粉砕することで、コロイド結晶顔料を得た。
【0114】
このようにして得られたコロイド結晶顔料をクリア塗料(関西ペイント社製の商品名「マジクロン1000 クリア」、熱硬化型アクリル樹脂塗料)に5質量%加えた後に、希釈のためにシンナーを30質量%加えて撹拌し、コロイド結晶顔料の分散したクリア塗料を得た。次いで、かかる塗料を50μmの設定膜厚にてエアスプレーガンにより黒塗装鋼板に塗布し、塗料の膜を形成した。次いで、前記塗料の膜を160℃で20分間焼成し、クリア塗料の塗装膜を形成した。このような塗装膜は、見る角度によりきらきらと赤色や緑色を呈するものとなり、優れた意匠性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上説明したように、本発明によれば、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することが可能となる。このような本発明のポリマーで固定化されたコロイド結晶の製造方法は、特に意匠性に優れたコロイド結晶膜を提供することが可能であるため、構造色色材を製造するための方法等として特に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを用いて得られるコロイド結晶顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド粒子が規則的に配列しているコロイド結晶膜は、Bragg回折により、その格子定数に対応した波長の光を反射することが知られている。例えば、サブミクロンオーダーのコロイド粒子を規則的に配列させたコロイド結晶膜の場合、紫外光、可視光から赤外光の範囲の波長の光を反射する。また、このようなコロイド結晶膜により可視光を反射させる場合には、イリデセンス(虹彩色)等のいわゆる構造色を発色させることが可能であることも知られている。そして、このようなコロイド結晶膜は、コロイド結晶の特徴を利用して、構造色を発色させる色材、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶、光スイッチ、光センサー等へ応用することが期待されており、種々のコロイド結晶膜の製造方法が研究されてきた。
【0003】
例えば、特表2007−510183号公報(特許文献1)においては、光重合性材料中にコロイド球体を分散させ、分散体を基体上に分配し、1つ以上の六角配列された層に前記球体を位置合わせするように基体の表面上に前記分散体をスピンコートし、スピンコートされた分散体を放射線への露光により光重合させて、前記1つ以上の層が複数存在する場合、その複数の層が相互に位置合わせされている、ポリマーとコロイド球体のマトリクスを製造し、前記スピンコートされた分散体の非重合部分を除去して、自己集合したコロイド結晶を調製する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1においては、コロイド粒子を規則配列させるためにスピンコート工程を経る必要があると考えられており、他の塗布法によりコロイド粒子を規則配列されたコロイド膜を得ることについては何ら記載されていない。また、特開2008−303261号公報(特許文献2)においては、1種以上のモノマーを含むモノマー含有液中に平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ単分散度が20%以下となるコロイド粒子を含有させ、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態となるように前記コロイド粒子を分散させて、前記3次元規則配列状態のコロイド結晶が形成されたモノマー分散液を得る工程と、前記モノマー分散液中の前記モノマーを重合させて、ポリマーで固定化されたコロイド結晶を得る工程とを含むコロイド結晶の製造方法が開示されている。しかしながら、上記特許文献2においては、その[0036]欄において、分散液中のコロイド結晶状態を維持したまま、各種基板等に塗布、注入等することが可能であることは記載されているものの、塗装時に衝撃によりコロイド結晶の規則配列が破壊されてしまうようなスプレー塗装により前記コロイド分散液を塗布することについては直接記載されていない。更に、上記特許文献1〜2に記載のような分散液を単にスプレー塗装したとしても、必ずしも反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−510183号公報
【特許文献2】特開2008−303261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ後述の式(1)で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を用い、かかるコロイド分散液を重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装して前記基材上に塗膜を形成した後に、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめて、前記基材上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を製造することにより、スプレー塗装を採用して十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することが可能となり、しかも基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することも可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド結晶膜が反射スペクトルにおいて反射率が30%を超え且つ半値幅が50nm以下である反射ピークを有することが好ましい。
【0009】
また、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記分散媒成分が、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の親水性モノマーからなることが好ましい。
【0010】
さらに、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド粒子が、シリカ、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる粒子であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明のコロイド結晶顔料は、上記本発明のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明のコロイド結晶膜の製造方法によって、スプレー塗装を採用し、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することも可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、溶媒を乾燥させることにより人工オパールなどとも呼ばれるコロイド結晶膜を製造する従来のコロイド結晶の製造方法においては、得られるコロイド結晶の結晶構造は、多くの場合、面心立方格子(FCC)構造となっていた。そして、かかるコロイド結晶膜を基材上に成膜した場合、かかるFCC構造の(111)面が基材に対して平行に配向することが多い。しかしながら、このような従来のコロイド結晶の製造方法は、ミリメートルからセンチメートルサイズのコロイド結晶を研究室レベルで製造する場合には適しているが、より大きなサイズで工業規模の大量生産に適用することは不可能であると推察される。また、上記特許文献1に記載のような従来のコロイド結晶膜の製造方法は、スピンコート法を必須の工程とする方法である。このような方法により得られるコロイド結晶の結晶構造もFCC構造の(111)面が基材に平行に配向した構造となる傾向にある。これは、スピンコート法で成膜しているため、基材上に塗着した後にも膜の材料にせん断力がかかり、かかるせん断力により面心立方格子(FCC)構造が形成されるとともに、かかるFCC構造の(111)面が基材に平行に配向されるためである。このように、特許文献1に記載のような従来のコロイド結晶膜の製造方法は、基材上に膜の材料が塗着した後にも、かかる材料に対してせん断力をかけて膜を製造する。そのため、特許文献1において成膜に用いている材料は、せん断のかからない、あるいは、せん断の小さい方法で成膜した場合に上述のような配向が生じるか否かは定かではない。実際に、特許文献1に記載のようなコロイド結晶膜を製造するために用いる材料を用いて、単にスプレー塗装を施したとしても、塗着後には大きなせん断が生じないため、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶を必ずしも製造することができなかった。更に、特許文献2に記載のような従来のアクリルポリマーで固定化したコロイド結晶膜の製造方法においては、塗装方法は特に限定されていない。しかしながら、特許文献2に記載のようなモノマー分散液を用い、これを単にスプレー塗装したとしても、必ずしも反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができなかった。
【0014】
そこで、本発明においては、前記特定の分散媒成分及び前記特定のコロイド粒子を含有し且つ25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を用い、これを基材上にスプレー塗装している。このようなコロイド分散液は瓶に入った状態で静置しておいても、粒子間に働く静電的な反発力と前記分散媒成分中での粒子の熱運動とによって粒子が効率よく規則配列し、いわゆるコロイド結晶が形成される。ここで、このようなコロイド分散液をエアスプレーガンにて基材上にスプレー塗装すると、塗着時の衝撃によって粒子の規則配列は壊れてしまう。しかしながら、本発明にかかるコロイド分散液においては、基材上に塗着した後においても塗膜中で粒子間の静電的な反発と粒子の熱運動とが効率よく引き起こり、塗膜内にて対流が効率よく発生するため、基材上において粒子が再度規則配列し、コロイド結晶を効率よく形成させることが可能となる。一方、コロイド分散液をスプレー塗装した際には、基材界面近傍では、基材と液との相互作用のためコロイド粒子が動き難い状況が生じ、粒子の規則配列が形成され難いということを見出した。そして、このような知見に基づいて更に検討を重ねたところ、上述のようなコロイド分散液は、これを単にスプレー塗装したとしても、その膜厚によっては反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができないということを見出した。なお、上記特許文献1〜2に記載のようなポリマーで固定化したコロイド結晶の製造方法は、(111)面が基板に平行に配向したコロイド結晶を得る上で膜厚制御が重要であるとの認識はない。そこで、本発明においては、重合後の平均厚みが25〜45μmの範囲となるようにしてコロイド分散液をスプレー塗装する。ここで、このような膜厚が前記下限未満では、十分な発色を示すような、反射スペクトルにおいて十分に反射率が高いコロイド結晶膜を形成させることができず、他方、前記膜厚が前記上限を超えると、基材からの影響が小さくなり、(111)面が基材に平行でない結晶の成長も顕著になって、均一な発色を有するコロイド結晶膜を形成することができない。すなわち、スプレー塗装時に前述のような膜厚とすることにより、FCC構造の(111)面が基板に平行な結晶が十分に形成できるとともに、(111)面が基板に平行でない結晶粒の成長は十分に抑制される。そのため、本発明においては、スプレー塗装の際に膜厚を上述のように調整しているため、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜が製造されるものと本発明者らは推察する。
【0015】
このように、本発明においては、前記特定のコロイド分散液を用い、これを特定の膜厚でスプレー塗装することにより、塗着後に大きなせん断が生じないスプレー塗装法を採用しながら、反射スペクトルにおいて十分に高い反射率を有し、十分に均一な発色を示すコロイド結晶膜を効率よく製造することが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明においては、コロイド分散液の塗装方法としてスプレー塗装を採用しているため、大面積、曲面に対してコロイド結晶膜を成膜することも可能である。このように、本発明においては、大量生産に適したスプレー塗装法にてコロイド結晶膜を製造できるため、これを粉砕して顔料を製造する場合には、安価且つ大量にコロイド結晶顔料を製造することも可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図2】比較例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図3】比較例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図4】実施例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図5】実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面近傍(上部)の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面と基材プライマー層の界面との間の中間部近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】実施例2で得られたコロイド結晶膜のプライマー層との界面近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】比較例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図10】比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図11】図10に示す破断面中の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】図10に示す破断面中の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図13】比較例4で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図14】比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真である。
【図15】図14に示す破断面中の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図16】図14に示す破断面中の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図17】実施例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図18】実施例3で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図19】実施例4で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図20】比較例5で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図21】比較例6で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【図22】比較例7で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明のコロイド結晶膜の製造方法について説明する。すなわち、本発明のコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程(A)と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程(B)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、このようなコロイド結晶膜の製造方法について、工程(A)と工程(B)とに分けて説明する。
【0020】
先ず、工程(A)について説明する。工程(A)は、前記分散媒成分と前記コロイド粒子とを含有する上記特定のコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程である。
【0021】
前記分散媒成分は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有するものである。このような分散媒成分としては、より効率よくコロイド結晶膜を形成するという観点から、1種以上のモノマーからなるものを用いることが好ましい。また、このようなモノマーとしては、コロイド粒子を前記3次元規則配列状態に分散させることが可能なものであればよく、特に制限されないが、アクリルモノマーが好ましい。
【0022】
また、このようなモノマーとしては、親水性のモノマーが好ましく、酸や塩基などのイオン性官能基以外の非イオン性の親水性基を含む親水性モノマーがより好ましい。このような非イオン性の親水性基としては、例えば、水酸基やエチレングリコール基等が挙げられる。なお、酸や塩基などのイオン性官能基を含むモノマーの場合、コロイド結晶を形成させる際にモノマーがコロイド粒子間の相互作用に影響を及ぼし、3次元配列構造を形成させることが困難となる傾向にある。また、水に溶解しない疎水性のモノマーを用いる場合には、コロイド粒子の表面が親水性であるため、コロイド粒子が凝集して均一に分散させることが困難であり、分散媒成分中においてコロイド結晶を形成し難くなる傾向にある。
【0023】
このような親水性モノマーとしては特に制限されず、公知の親水性モノマーを適宜利用することができ、例えば、エチレングリコール鎖長が異なるポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、あるいは、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0024】
また、このような親水性モノマーの中でも、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。このようなポリエチレングリコールアクリレート類又はポリプロピレングリコールアクリレート類は、エチレン又はプロピレングリコール鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができ、鎖長によって親水性を制御でき、これを用いることでコロイド粒子の配列状態をより効率よく制御できる傾向にある。また、前記分散媒成分が前記親水性モノマーからなるものである場合には、前記親水性モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
さらに、前記分散媒成分が親水性モノマーを含有する場合には、前記親水性モノマーの含有比率が、前記モノマー及びポリマーの総量に対して85質量%以上(より好ましくは90質量%〜100質量%)であることが好ましい。前記親水性モノマーの含有比率が前記下限未満では、コロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0026】
また、前記モノマーとしては、複数のエチレン性二重結合を有する多官能モノマーと、エチレン性二重結合を1つ有する単官能モノマーとを含有することが好ましい。このような多官能モノマーと単官能モノマーとを組み合わせて用いることにより、ポリマーで固定化した際に、十分な機械的強度と基材等に対する十分な付着性が得られる傾向にある。
【0027】
このような多官能モノマーとしては、エチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種と複数の(メタ)アクリル基とを有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましい。このようなエチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーを多官能モノマーとして用いることにより、多官能モノマーが十分に親水性を有するものとなり、より効率よくコロイド結晶膜を形成させることが可能となる傾向にある。また、前記多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル基を2つ又は3つ有するものがより好ましい。また、このような多官能モノマーとして用いられるエチレングリコール鎖及び/又はプロピレングリコール鎖を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、エチレングリコール鎖又はプロピレングリコール鎖の鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができる。
【0028】
また、このような多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、入手の容易さと、3次元規則配列構造の形成の容易さの観点から、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。このような多官能モノマーとしては1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0029】
前記単官能モノマーは、エチレン性二重結合を1つ有するモノマーである。このような単官能モノマーとしては特に制限されず、公知の単官能モノマーを適宜用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、スチレンモノマー、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0030】
このような単官能モノマーとしては、入手の容易さの観点から、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が特に好ましい。なお、このような単官能モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0031】
また、前記多官能モノマー及び単官能モノマーを組み合わせて用いる場合には、前記多官能モノマーの含有比率は、前記多官能モノマーと単官能モノマーとの総量に対して1〜95質量%(より好ましくは3〜90質量%)であることが好ましい。このような含有比率が前記下限未満では重合後に得られるポリマーの硬度が低くなって膜としての強度が十分に保てなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると重合後に得られるポリマーの硬度が高くなり、得られるポリマーで固定化されたコロイド結晶が脆くなる傾向にある。
【0032】
また、前記ポリマーとしては特に限定されず、一般的に塗料に用いられるアクリルポリマーやウレタンポリマー等を適宜用いることができる。また、このようなポリマーとしては、前述のモノマーを重合して形成されるポリマー(より好ましくはアクリルポリマー)を好適に用いることができる。
【0033】
また、前記分散媒成分は、前記モノマー及び前記ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであればよく、特に制限されず、前記モノマー及び/又はポリマーのみを含有するものであってもよく、あるいは、前記モノマー及び/又はポリマーとともに溶媒を含有するものであってもよい。なお、このような溶媒は分散液の粘度を調整する際にも有効に利用することが可能である。また、このような溶媒としては、特に制限されないが、アルコール等の親水性溶媒を適宜用いることができる。また、前記コロイド分散液に溶媒を含有させる場合には固定化の際に溶媒が蒸発することに伴って、コロイド結晶が壊れたり、歪んだりして結晶構造が変化することを防止するという観点から、溶媒の含有量を30質量%以下(より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)とすることが好ましい。
【0034】
前記コロイド粒子は、平均粒径が0.01〜10μm(より好ましくは0.05〜1.0μm)の範囲にある粒子である。このような粒子の平均粒径が前記下限未満では、粒子表面間の凝集力が強くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子が沈降し易くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にある。
【0035】
また、前記コロイド粒子は、下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下の粒子である。すなわち、前記粒子は、このような単分散度を有する粒径が極めて均一な粒子である。本発明においては、コロイド粒子にこのような均一性が極めて高い粒子を用いているため、前記分散媒成分中に分散させた際に、粒子間の相互作用により容易に3次元規則配列構造を形成させることが可能となる。また、このような粒子としては、単分散度がより小さな値となるほど、より高い特性が得られる傾向にあることから、前記単分散度は10%(更に好ましくは5%)以下であることがより好ましい。
【0036】
また、このようなコロイド粒子の材料としては特に制限されず、得られるコロイド結晶膜を応用する分野に合わせて、公知の有機材料、無機材料、有機−無機複合材料及び無機−無機複合材料の中から適宜選択して用いることができる。このような有機材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体、アクリル樹脂等の有機高分子材料等が挙げられ、前記無機材料としては、例えば、シリカ(二酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、酸化亜鉛等が挙げられる。また、前記有機−無機複合材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体又はアクリル樹脂等からなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の有機−無機複合粒子等が挙げられる。また、前記無機−無機複合材料としては、例えば、シリカからなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム又は酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の無機−無機複合粒子等が挙げられる。更に、このようなコロイド粒子の材料としては、容易に単分散粒子を合成することができるという観点から、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルが特に好ましい。なお、このような粒子の材料は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、このようなコロイド粒子としては、例えば、エマルション重合により合成されたポリスチレン粒子又はポリメタクリル酸メチル粒子(ダウケミカル社製、ポリサイエンス社製、日本合成ゴム社製、積水化学社製等)や、ストーバー法により合成されたシリカ粒子(日本触媒製や触媒化成製等)を適宜用いることができる。また、Layer−By−Layer法で単分散な粒子(テンプレート粒子)に層状化合物をコートすることによって二層構造粒子や中空粒子を形成させて、本発明のコロイド粒子として利用してもよい。
【0037】
このようなコロイド粒子の含有量としては、前記コロイド分散液中、5〜50体積%であることが好ましく、10〜40体積%であることがより好ましい。このようなコロイド粒子の含有量が前記下限未満では、分散媒成分中に分散させた際にコロイド粒子を3次元規則配列状態とすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子の濃度が高くなりすぎて、コロイド粒子の配列構造を制御することが困難となる傾向にある。
【0038】
また、本発明にかかるコロイド分散液においては、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されている。ここで、本発明にいう「反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態」とは、反射スペクトルを測定し、Bragg回折による反射ピークの存在が確認される状態をいい、「反射ピーク」とは、無反射の状態に対して反射光強度が波長の変化に伴って増加、減少する際の変曲点をいい、いわゆる反射光強度が上下するノイズとは異なる。また、このような反射スペクトルの測定方法としては、通常の分光光度計を用いることができるが、本発明においては、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて測定する方法を採用する。なお、このような3次元規則配列構造としては、例えば面心立方構造や体心立方構造等が挙げられる。また、前記ピークは、波長350〜1600nmの間の波長(波長350〜1050nmには「Fastvert S−2650」、波長900nm〜1600nmには「Fastvert S−2710」)におけるピークであることが好ましい。
【0039】
また、このような3次元規則配列状態におけるコロイド粒子の最近接粒子間の距離の平均としては、特に制限されないが、コロイド粒子の平均粒径の0.01〜10倍の範囲にあることが好ましく、0.05〜2倍の範囲にあることがより好ましい。前記最近接粒子間の距離の平均が前記下限未満では、ポリマーマトリックスの体積が少なくなるため強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子を3次元規則配列させることが困難になる傾向にある。
【0040】
また、このように分散媒成分中に、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態でコロイド粒子を分散させる方法(以下、単に「分散方法」という。)としては、コロイド粒子を分散させて前記3次元規則配列状態とすることが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、超音波を長時間印加する方法、長時間撹拌する方法、加熱する方法、アルコール等の溶媒を加えて分散させる方法等を適宜採用することができる。なお、このような分散方法においては、コロイド粒子を3次元規則配列状態とするために、例えば、所定時間ごとに反射スペクトルを測定して反射ピークが現れるまで分散工程を繰り返す方法を採用してもよい。
【0041】
さらに、このような分散方法として超音波を印加する方法を採用する場合においては、用いるモノマーの種類、コロイド分散液の粘度及びコロイド粒子の濃度等によって異なるものではあるが、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、超音波を0.5〜24時間(より好ましくは1〜10時間)印加することが好ましい。超音波の印加時間が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、それ以降の操作が無駄となり、作業効率が低下する傾向にある。
【0042】
また、このような超音波の周波数は特に制限されず、16kHz以上であればよく、20〜200kHzとすることが好ましい。前記周波数が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子が凝集し易くなり、やはり3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にある。
【0043】
また、このような超音波を印加する際の温度条件としては特に制限されないが、0〜80℃(より好ましくは10〜60℃)であることが好ましい。このような温度条件が前記下限未満では、コロイド粒子の分散効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、モノマーの重合反応が進行したり、分散媒成分が変性したり、あるいは、成分組成が変化するなどしてコロイド結晶の形成が困難となる傾向にある。
【0044】
さらに、前記分散方法としてアルコール等の溶媒を加える方法を採用する場合においては、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、前記溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることが好ましい。また、このような溶媒の含有量としては、親水性モノマーにコロイド粒子を含有させた混合物100質量部に対して30質量部以下とすることが好ましい。このような溶媒の含有量が前記上限を超えると、モノマーを重合させてポリマーとした場合に溶媒を含んだゲルとなる傾向にある。
【0045】
また、本発明にかかるコロイド分散液は、粘度が10〜100mPa・sである。ここで、「粘度」としては、回転型粘度計としてレオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」を用い、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを利用して、温度:25℃±0.1℃、せん断速度:1000S−1の条件で測定される粘度の値を採用する。このような粘度が前記下限未満では液ダレが顕著になり、形状物への均一な塗布が困難になるばかりか、本発明において要求される最低膜厚を確保することが困難となり、他方、前記上限を超えると、十分に平滑で且つ良好な発色を示すコロイド結晶膜が得られず、更には、得られるコロイド結晶膜の反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークが得られなくなる。また、このようなコロイド分散液の粘度としては、同様の観点で、より平滑で且つより十分に発色のよいコロイド結晶膜を効率よく得ることが可能となることから、20〜60mPa・sであることがより好ましい。
【0046】
なお、このようなコロイド分散液の粘度を前述のような範囲に調整する方法としては、前記分散媒成分中のモノマーの種類を適宜選択することで粘度を前述のような範囲に調整する方法、2種以上のモノマーを用いる場合に粘度の低いモノマーを少なくとも1種含有させてコロイド分散液全体の粘度を前述のような範囲に調整する方法、溶媒を混合することによってコロイド分散液の粘度を低くする方法、塗料に一般的に用いられる粘度調整剤を用いる方法等が挙げられる。このような粘度の低いモノマーとしては特に制限されず、前述のモノマーの中から適宜選択して利用することができる。
【0047】
また、本発明にかかるコロイド分散液においては、光重合開始剤を含有させてもよい。このようにコロイド分散液に光重合開始剤を含有させることにより、前記モノマーを重合させる際に、紫外光等を照射することにより効率よく重合させることが可能となる。このような光重合開始剤としては特に制限されず、公知の光重合開始剤を適宜用いることができ、例えば、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサン、ケタール、アセトフェノン等のカルボニル化合物や、ジスルフィド、ジチオカーバメート等のイオウ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾ化合物、遷移金属錯体、ポリシラン化合物、色素増感剤等が挙げられる。
【0048】
また、このような光重合開始剤の添加量としては特に制限されないが、用いたモノマーの種類等に応じて適宜変更できるが、前記コロイド分散液に対して0.1〜5質量%(より好ましくは0.5〜3質量%)とすることが好ましい。このような光重合開始剤の添加量が前記下限未満では紫外光等の光を照射してモノマーを重合させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散液状態でコロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0049】
さらに、本発明にかかるコロイド分散液には、本発明の効果を損なわない範囲において、顔料やUV吸収剤等の一般的に塗料に添加することが可能な各種添加剤を適宜含有させていてもよい。
【0050】
また、本発明にかかる基材は特に制限されず、その基材上にポリマーの膜を形成することが可能なものであればよく、ガラス、金属、各種プラスチック等からなる基材を用いることができる。また、このような基材の形状は特に制限されず、板状、円形状、球状等の各種形状としてもよい。また、本発明においては、前記コロイド分散液を用いるとともにその塗装法としてスプレー塗装を採用しているため、前記コロイド分散液を塗装する基材の面が曲面であってもコロイド結晶膜を成膜することが可能である。さらに、このような基材は、成膜性や密着性の観点から、必要に応じてプライマーを塗装して用いることもできる。また、本発明においては、前記基材上に前記コロイド分散液を効率よく塗装するために、前記コロイド分散液をスプレー塗装する前に、前記基材の表面を予めクリーニングすることが好ましい。このような基材表面のクリーニング法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、UVオゾンクリーニングを施す方法等を採用してもよい。
【0051】
また、本発明において採用するスプレー塗装の方法としては特に制限されず、エアースプレーガンによるスプレー塗装であってもよく、あるいは、エアレスガンによるスプレー塗装であってもよい。また、このようなスプレー塗装の際の雰囲気や温度等の各種条件は特に制限されず、公知のスプレー塗装の条件を適宜採用することができ、用いるコロイド分散液中のモノマーの種類等に応じて適宜調整すればよい。
【0052】
また、本発明においては、前記コロイド分散液を重合させた後の平均厚み(ポリマーで固定化した後の膜の平均厚み)が25〜45μmとなるように、前記基材上にスプレー塗装する。このような平均厚みが前記下限未満では、粒子の規則配列構造(コロイド結晶)が十分に形成されず、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜を製造することができなくなる。また、前記平均厚みが前記上限を超えた場合においては、面心立方格子(FCC)構造の(111)面が基板に平行でない結晶粒も多く形成されてしまい、その結果として、反射ピーク強度が弱く、鮮やかな発色のコロイド結晶膜を製造することができなくなる。このように、本発明においては、塗膜中においてコロイド粒子を自己組織的に再度規則配列させて、再度コロイド結晶化させるという観点から、コロイド結晶膜の厚みを規定しており、一般的な塗料においてなされる膜厚制御とはその必要性が全く異なる。なお、このような平均厚みを達成する方法は、用いるコロイド分散液の種類(例えばモノマーの種類やコロイド粒子の含有量等)によっても異なるものであり、一概に言えるものではなく、コロイド分散液の種類等に応じて重合前の塗膜の厚みを適宜調整すればよい。
【0053】
なお、本発明においては、重合後の膜(コロイド結晶膜)の平均厚みは、以下に記載のような方法で求める。すなわち、先ず、形成されたコロイド結晶膜にカッターナイフを斜めに当てて、コロイド結晶膜及び基材表面(基材表面にプライマー層がある場合にはその層)を一部削り取る。次に、その削り痕に光学顕微鏡(例えばキーエンス社製の商品名「VF−7500型」)を用いて、コロイド結晶膜と基材表面の界面を観察し、コロイド結晶膜の表面にピントを合わせたときのステージ位置と基材表面にピントを合わせたときのステージ位置とを、それぞれ用いた光学顕微鏡の目盛りから読み取る。なお、このようなステージ位置の読み取りは1μm単位で読み取る。次に、このようにして測定された各ステージ位置の差を求めることにより、その測定箇所におけるコロイド結晶膜の膜厚を測定する。そして、本発明においては、このような測定方法で任意の5点以上の測定箇所においてコロイド結晶膜の厚みを測定し、これらの平均値を計算することによりコロイド結晶膜の平均厚みを求める。
【0054】
このようにして前記コロイド分散液をスプレー塗装することにより、基材上に塗膜を形成することができる。また、このような塗膜においては、スプレー塗装直後は塗着時の衝撃によってコロイド粒子の規則配列が壊れるものと考えられることから、スプレー塗装後に、塗膜中においてコロイド結晶が再度規則配列されるのを待って工程(B)を施すことが好ましい。このような観点から、例えば、温度条件が0〜40℃(より好ましくは室温程度)の場合には、スプレー塗装後、塗膜を5〜120分間(より好ましくは10〜90分間)静置した後に、工程(B)を施すことが好ましい。このような塗膜を静置する時間が前記下限未満では塗膜中において、コロイド粒子を十分に高度な水準で規則配列させることが困難であり、反射スペクトルにおいて反射ピークの反射率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると作業性が低下したり、基材の種類によっては塗膜中のモノマーが基材へ著しく浸透し、結果としてコロイド結晶の粒子配列が乱れてしまう傾向にある。なお、このようなコロイド結晶が再度規則配列させるために塗膜を静置する時間は、作業性の観点から、より短くすることが好ましいため、スプレー塗装後においては、基材を加熱したり、あるいは、基材を高温雰囲気下(例えば30〜60℃程度)で静置して、再結晶化を促進させてもよい。
【0055】
次に、工程(B)について説明する。工程(B)は、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程である。
【0056】
工程(B)において、前記コロイド分散液の塗膜中の前記分散媒成分を重合させる方法としては特に制限されず、前記塗膜中に形成された結晶構造を消失させることなく、前記分散媒成分を重合させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、光重合による重合方法、加熱による重合方法等が挙げられる。なお、加熱により重合させる場合には、加熱により結晶構造が消失してしまうことを防止するという観点から、80℃程度以下の温度条件で重合させることが好ましい。
【0057】
また、このような分散媒成分の重合方法の中でも、加熱を伴うことなく、塗膜中に形成されたコロイド粒子の規則配列構造を十分に維持しながら、より効率よく分散媒成分を重合できるという観点から、電磁波(紫外光や電子線等)を照射することにより重合する方法を採用することが好ましい。また、前記コロイド分散液に光重合性のモノマー等を含有させた場合には、光を照射することで分散媒成分を重合させる光重合による方法を採用することが好ましい。また、このような分散媒成分の重合方法として、光重合による方法を採用する場合には、より効率よく重合反応させるという観点から、前記コロイド分散液としては光重合開始剤を含有するものを用いることが好ましい。
【0058】
このような光重合においては、コロイド結晶中のコロイド粒子の3次元規則配列構造をより十分に維持しながら重合させるという観点から、0〜40℃程度の温度条件下で重合させることが好ましい。更に、このような光重合においては、モノマーのラジカル重合反応の酸素による阻害を抑制するという観点から、不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)下において、前記塗膜に光を照射することが好ましい。また、このような光重合の際に照射する光としては特に制限されず、モノマーや光重合開始剤の種類等に応じて適宜好適な波長の光を採用すればよく、例えば、紫外光を採用してもよい。
【0059】
このようにして、前記塗膜中の分散媒成分を重合させることにより、平均厚み25〜45μmのポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得ることができる。このような本発明により得られるコロイド結晶膜は、十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜となる。また、本発明によれば、反射スペクトルにおいて反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下である反射ピークを有するコロイド結晶膜を得ることができる。このような反射率が前記下限未満では、十分な発色を有する意匠性の高いコロイド結晶膜とならない傾向にある。また、前記半値幅が前記上限を超えると、コロイド結晶の構造色の特長の一つである彩度の高さが損なわれる傾向にある。なお、ここにいうコロイド結晶膜の反射スペクトルの測定方法としては、マルチチャンネル式分光器(相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert S−2650」)を用い、同軸光ファイバにて基板面に対して垂直な方向における反射スペクトルを測定する方法を採用する。なお、本発明においては、基材に蒸着したアルミニウム蒸着膜の反射スペクトルを参照スペクトルとして利用して、測定されたコロイド結晶膜の反射スペクトルを前記参照スペクトルで割り算することにより、反射スペクトルの縦軸の反射率を求め、これをプロットすることで反射スペクトルのグラフを求める。
【0060】
次に、本発明のコロイド結晶膜について説明する。本発明のコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【0061】
このようなコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法を採用して得られるものであるため、十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜となる。また、このようなコロイド結晶膜としては、反射スペクトルにおいて反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下である反射ピークを有するコロイド結晶膜が好ましい。なお、このようなコロイド結晶膜は、上記本発明のコロイド結晶膜の製造方法を採用することで製造することができる。更に、このようなコロイド結晶膜は、様々な用途に応用することが可能である。例えば、イリデセンス(虹彩色)等のいわゆる構造色を発色する構造色色材に好適に使用できる。また、赤外反射膜又は紫外反射膜用の塗装やフィルムとしても好適に使用できる。更に、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶と呼ばれる光機能材料、光スイッチ、あるいは光センサー等としても好適に用いることができる。また、後述する本発明のコロイド結晶顔料を製造するための材料としても好適に利用できる。なお、本発明のコロイド結晶膜は、溶媒乾燥によって作製される従来のコロイド結晶膜に比べて機械的に安定なものであるため、粉砕してもコロイド結晶の構造を十分に保持することができるものである。そのため、これを粉砕することで、コロイド結晶の構造色を損なうことなく効率よく顔料を製造することが可能である。
【0062】
以上、本発明のコロイド結晶膜について説明したが、以下、本発明のコロイド結晶顔料について説明する。本発明のコロイド結晶顔料は、上記本発明のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするものである。
【0063】
このようなコロイド結晶膜の粉砕方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、コロイド結晶膜を前記基材から剥離した後、乳鉢を用いて粉砕する方法等を採用してもよい。また、このようにコロイド結晶膜を粉砕するために用いる装置も特に制限されず、公知の装置を適宜用いることができる。
【0064】
また、このようにして粉砕して得られるコロイド結晶顔料の粉末の大きさとしては、用途によっても異なるものであり、特に制限されないが、平均厚みが25〜45μmであり且つ平均半径が0.01mm〜2mm(より好ましくは0.01mm〜1mm)であることが好ましい。このような平均半径が前記下限未満では、これを分散させた塗料を塗装した際、この顔料粉末の塗膜中での配向が不十分になり、コロイド結晶の構造色が十分に観察されなくなり、発色効果が得られ難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、これを分散させた塗料を均一な塗装膜として塗布することが困難となる傾向にある。なお、このようなコロイド結晶顔料は、塗料中に分散させて用いることで、コロイド結晶の構造色を呈する塗料を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
先ず、ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー(中村化学社製の商品名「NKエステルA−200」)と、ポリエチレングリコールモノアクリレートモノマー(新中村化学社製の商品名「NKエステルAM−30G」)とを重量比で9:1に混合し、モノマーからなる分散媒を準備した。次に、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるようにして添加し、室温(25℃)条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散したコロイド分散液を得た。
【0067】
なお、このようなコロイド分散液においては虹彩色が観察された。また、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。また、このようにして得られたコロイド分散液の粘度を、レオメトリックス・サイエンティフィック製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、測定温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、かかるコロイド分散液の粘度は35mPa・sであった。
【0068】
次に、このようにして得られたコロイド分散液に対して光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次いで、縦70、横150、厚み0.5mmの大きさの黒色塗装を施した鉄鋼板基板(以下、黒塗装基板)を準備し、かかる黒塗装基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置「PL16−110」を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。その後、UVオゾンクリーニング後の黒塗装基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるように、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、黒塗装基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された黒塗装基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、黒塗装基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0069】
[実施例1で得られたコロイド結晶膜の特性の評価]
〈目視による観察〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜を目視にて観測したところ、真上方向から見たときには基板面のエッジ周辺を除くほぼ全面に赤色が観察され、斜めからみた場合に緑色が観察された。このような結果から、実施例1で得られたコロイド結晶膜においては、エッジ周辺を除く全面にコロイド結晶が形成されていることが分かった。また、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0070】
〈反射スペクトルの測定〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜に対して、マルチチャンネル式分光器(相馬光学製 S−2650)を用い、同軸光ファイバにて基板面に対して垂直方向での反射スペクトルを測定した。なお、アルミニウム蒸着膜の反射スペクトルを参照スペクトルとして、測定された反射スペクトルをこの参照スペクトルにて割り算することにより、反射スペクトルの縦軸を反射率で表した。得られた反射スペクトルを図1に示す。
【0071】
図1に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られたコロイド結晶膜は、反射スペクトルにおいて、反射ピーク波長:596nm、反射率:47%、半値幅:25nmの反射ピークが確認された。このように、本発明のコロイド結晶膜の製造方法を利用した実施例1においては、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。
【0072】
〈コロイド結晶膜の膜厚の測定〉
実施例1で得られたコロイド結晶膜の膜厚を、以下の方法を利用して測定した。すなわち、先ず、カッターナイフを斜めに当てて、コロイド結晶膜および黒塗装膜を一部削り取った。次に、その削り痕を、光学顕微鏡(キーエンス製VF−7500型)を用いて測定し、コロイド結晶膜と黒塗装膜との界面(すなわち、黒塗装表面)を観察した。そして、コロイド結晶膜の表面にピントを合わせたときのステージ位置と黒塗装膜表面にピントを合わせたときのステージ位置をそれぞれ光学顕微鏡の目盛りから読み取った(なお、読み取りは1μm単位で読み取る。)。次に、光学顕微鏡の目盛りから読み取られたそれぞれのステージ位置の値の差を求めて、コロイド結晶膜の膜厚を求めた。なお、このようなコロイド結晶膜の膜厚の測定は、任意の5点以上の箇所において行った。このようなコロイド結晶膜の膜厚の測定の結果、実施例1で得られたコロイド結晶膜は、膜厚が34±2μm(平均膜厚:34μm)であることが確認された。
【0073】
(比較例1)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして、黒塗装基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0074】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例1で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例1で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜はわずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0075】
また、比較例1で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図2に示す。図2に示す結果からも明らかなように、比較例1で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:11%、半値幅:26nmとなっており、反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例1で得られたコロイド結晶膜の膜厚は22±2μm(平均膜厚:22μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしても、形成させるコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0076】
(比較例2)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして、黒塗装基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0077】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例2で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例2で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例1で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例2で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0078】
また、比較例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図3に示す。図3に示す結果からも明らかなように、比較例2で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:18%、半値幅:33nmとなっており、反射率の大きさが十分なものとはならないことが確認された。また、比較例2で得られたコロイド結晶膜の膜厚は50±3μm(平均膜厚:50μm)であった。このような結果から、コロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってはコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0079】
(実施例2)
ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー(中村化学製の商品名「NKエステルA−200」)を分散媒として用いて、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるように添加した後、室温条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散したモノマー分散液を得た。
【0080】
なお、このようなコロイド分散液は虹彩色が観察された。また、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。また、このようにして得られたコロイド分散液の粘度を、レオメトリックス・サイエンティフィック製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、測定温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、かかるコロイド分散液の粘度は42mPa・sであった。
【0081】
次に、このようにして得られたコロイド分散液に対して光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次いで、縦70、横150、厚み2mmの黒色のABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)樹脂基板を用い、かかるABS樹脂基板の表面にプライマーとして関西ペイント社製の「レタンPG60(2液溶剤型、黒色)」を硬化後の膜厚が25μmとなるようにしてスプレー塗装し、80℃の温度条件で30分の焼き付けを行い、プライマー塗装の形成された基板を得た。その後、前記プライマー塗装の形成された基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置PL16−110を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。次いで、UVオゾンクリーニング後の基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるようにして、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0082】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、実施例2で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。実施例2で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、かかるコロイド結晶膜においては、真上方向から見たときに基板面のエッジ周辺を除くほぼ全面で赤色が観測され、斜めからみた場合に緑色が観察された。このような結果から、実施例2で得られたコロイド結晶膜においては、エッジ周辺を除く全面にコロイド結晶が形成されていることが分かった。また、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0083】
また、実施例2で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図4に示す。図4に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られたコロイド結晶膜は、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:47%、半値幅:20nmとなっており、反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークを有するものであることが確認された。また、実施例2で得られたコロイド結晶膜の膜厚は35±3μm(平均膜厚:35μm)であった。
【0084】
さらに、実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5〜8に示す。なお、図5は実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図6は実施例2で得られたコロイド結晶膜の破断面の表面近傍(上部)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図7は実施例2で得られたコロイド結晶膜の表面と基材プライマー層との界面の中間部近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、実施例2で得られたコロイド結晶膜のプライマー層との界面近傍の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0085】
図5〜8に示す顕微鏡写真からも明らかなように、実施例2で得られたコロイド結晶膜においては、プライマー層との界面から約17μmの部位よりも上部の位置において、十分にコロイド粒子が規則配列した層が形成されていることが観察された。
【0086】
(比較例3)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例2と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0087】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例3で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例3で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜はわずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0088】
また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図9に示す。図9に示す結果からも明らかなように、比較例3で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:4%となっており、反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の膜厚は22±2μm(平均膜厚:22μm)であった。
【0089】
また、比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図10〜12に示す。なお、図10は比較例3で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図11は、図10中の破断面の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図12は、図10中の破断面の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図10〜12に示す顕微鏡写真からも明らかなように、比較例3で得られたコロイド結晶膜においては、コロイド粒子が規則配列した層がほとんど観測されなかった。
【0090】
(比較例4)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるように、スプレー塗装した以外は、実施例2と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0091】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例4で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例4で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例2で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例4で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。なお、このようにして得られたコロイド結晶膜は、表面が十分に平滑なものとなっていることが確認された。
【0092】
また、比較例4で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図13に示す。図13に示す結果からも明らかなように、比較例4で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:13%となっており、反射スペクトルにおける反射ピークの反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例4で得られたコロイド結晶膜の膜厚は48±3μm(平均膜厚:48μm)であった。
【0093】
さらに、比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察した。比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図14〜16に示す。なお、図14は比較例4で得られたコロイド結晶膜の破断面の全体の光学顕微鏡写真であり、図15は、図14中の破断面の枠Aに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図16は、図14中の破断面の枠Bに囲まれた範囲の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図14〜16に示す顕微鏡写真からも明らかなように、比較例4で得られたコロイド結晶膜においては、配向の乱れた層の上に配向の異なる結晶粒が形成されていることが確認され、配列方向の揃ったコロイド結晶が形成されていないことが確認された。
【0094】
このような実施例2及び比較例3〜4の結果から、同じコロイド分散液を用いたとしても、コロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0095】
(製造例1)
トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート(東亞合成製 アロニックスM−350)を分散媒として用いて、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるように添加した後、室温(25℃)条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散した分散液を得た。なお、このようにして得られた分散液の粘度は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、200mPa・sであった。
【0096】
(実施例3)
製造例1で得られた分散液に、分散液量に対して10質量%のエタノールを添加して、コロイド分散液を調製した。なお、かかるコロイド分散液の粘度は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用い、温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、39mPa・sであった。なお、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。
【0097】
次いで、前記コロイド分散液に光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。次に、縦70、横150、厚み0.5mmの大きさの黒色塗装を施した鉄鋼板基板(以下、場合により「黒塗装基板」という。)を準備し、かかる黒塗装基板の表面に対して、セン特殊光源製の光表面処理装置「PL16−110」を用いてUVオゾンクリーニングを10分間施した。その後、UVオゾンクリーニング後の黒塗装基板を速やかにほぼ垂直に立てて、その状態でエアースプレーガンを用いて、コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が35μmとなるように、前記コロイド分散液をスプレー塗装し、黒塗装基板の表面上に塗膜を形成させた。次いで、室温(25℃)条件下において、前記塗膜が形成された黒塗装基板を水平に置き、約30分間静置した。その後、窒素雰囲気のグローブボックス内に前記塗膜が形成された黒塗装基板を搬送し、グローブボックス内にて紫外光を1分間照射して、塗膜中の前記モノマーを重合させて、黒塗装基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。
【0098】
実施例3で得られたコロイド結晶膜に対して、実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして反射スペクトルを測定した。実施例3で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図17に示す。図17に示す結果からも明らかなように、実施例3で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:35%、半値幅:22nmとなっており、反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピークを有するコロイド結晶が形成されていることが確認された。このような結果から、実施例3で得られたコロイド結晶膜においては、コロイド結晶の配向方向が十分に揃っていることが確認された。また、実施例3で得られたコロイド結晶膜の膜厚は36±2μm(平均膜厚:36μm)であった。
【0099】
更に、実施例3で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図18に示す。図18に示す結果からも明らかなように、実施例3で得られたコロイド結晶膜は、十分に平滑なものとなっていることが確認されるとともに、発色も十分に鮮やかなものとなっていることが確認された。
【0100】
(実施例4)
製造例1で得られた分散液に添加するエタノールの量を10wt%から5wt%に変更してコロイド分散液を調製した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を得た。なお、実施例4で用いたコロイド分散液は、レオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1°のコーンプレートを用いて測定される温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件での粘度が80mPa・sであった。
【0101】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、実施例4で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。実施例4で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルの反射ピークにおいて反射率が30%を超えていることが確認された。このような結果から、実施例4においては、コロイド結晶の配向方向が十分に揃っているコロイド結晶膜が形成されていることが確認された。また、実施例4で得られたコロイド結晶膜の膜厚は38±2μm(平均膜厚:38μm)であった。
【0102】
更に、実施例4で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図19に示す。図19に示す結果からも明らかなように、実施例4で得られたコロイド結晶膜は、十分に平滑なものとなっていることが確認されるとともに、発色も十分に鮮やかなものとなっていることが確認された。なお、実施例3で得られたコロイド結晶膜と比較すると、実施例3で得られたコロイド結晶膜の方が、実施例4で得られたコロイド結晶膜よりも、より高度な平滑性を有していることが分かる。
【0103】
(比較例5)
コロイド分散液の代わりに、製造例1で得られた分散液(粘度:200mPa・s)を用いた以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0104】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例5で得られたコロイド結晶膜の特性を評価したところ、比較例5で得られたコロイド結晶膜の膜厚は40±5μm(平均膜厚:40μm)であった。更に、比較例5で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の表面の写真を図20に示す。図20に示す結果からも明らかなように、比較例5で得られたコロイド結晶膜は、平滑性の観点で十分なものではなかった。さらに、比較例5で得られたコロイド結晶膜は発色の点でも十分なものではなかった。
【0105】
(比較例6)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が20μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0106】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例6で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例6で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、コロイド結晶膜は、わずかに赤みを帯びた黒っぽい膜であることが確認された。また、比較例6で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図21に示す。図21に示す結果からも明らかなように、比較例6で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークが反射率:4%となっており、反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例6で得られたコロイド結晶膜の膜厚は20±2μm(平均膜厚:20μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしてもコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0107】
(比較例7)
コロイド分散液中の前記モノマーを重合した後の平均膜厚が50μmとなるようにしてスプレー塗装した以外は、実施例3と同様にして、基板上にポリマーで固定化された比較のためのコロイド結晶膜を得た。
【0108】
実施例1で得られたコロイド結晶膜と同様にして、比較例7で得られたコロイド結晶膜の特性を評価した。比較例7で得られたコロイド結晶膜の目視観察の結果、実施例3で観察されたような高彩度な発色は観察されなかった。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜は橙色を呈しているものの曇ったような彩度にかける発色が観察された。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜の反射スペクトルを図22に示す。図22に示す結果からも明らかなように、比較例7で得られたコロイド結晶膜においては、反射スペクトルにおける反射ピークにおける反射率:26%となっており、反射率が十分なものとはならないことが確認された。また、比較例7で得られたコロイド結晶膜の膜厚は49±3μm(平均膜厚:49μm)であった。このような結果から、同じコロイド分散液を用いたとしてもコロイド結晶膜の膜厚によっては、反射スペクトルの反射ピークにおける反射率が十分なものとはならないことが確認され、膜厚によってコロイド結晶が十分に形成されないことが分かった。
【0109】
(実施例5)
先ず、ABS樹脂基板の変わりに100mm角のガラス基板を用いた以外は、実施例2と同様にして、平均膜厚35μmのコロイド結晶膜を得た。なお、このようなコロイド結晶膜は十分に平滑なものであり、また反射スペクトルにおいて反射率が30%を超えており、十分に高度な反射率の反射ピークを有することが確認された。
【0110】
次に、前記コロイド結晶の形成された基板を水につけ、これに超音波を印加して、ガラス基板からコロイド結晶膜を剥離した。次いで、剥離したコロイド結晶膜を、乳鉢を用いて、目開き0.065μmの篩を通るまで細かく粉砕して、コロイド結晶顔料を得た。
【0111】
このようにして得られたコロイド結晶顔料をクリア塗料(関西ペイント社製の商品名「マジクロン1000 クリア」、熱硬化型アクリル樹脂塗料)に5質量%加えた後に、希釈のためにシンナーを30質量%加えて撹拌し、コロイド結晶顔料の分散したクリア塗料を得た。次いで、かかる塗料を50μmの設定膜厚にてエアスプレーガンにより黒塗装鋼板に塗布し、塗料の膜を形成した。次いで、前記塗料の膜を160℃で20分間焼成し、クリア塗料の塗装膜を形成した。このような塗装膜は、見る角度によりきらきらと赤色や緑色を呈するものとなり、優れた意匠性を有することが確認された。
【0112】
(実施例6)
先ず、ABS樹脂基板の変わりに、実施例1で用いた黒塗装基板を用いた以外は、実施例2と同様にして、平均膜厚35μmのコロイド結晶膜を得た。なお、このようなコロイド結晶膜は十分に平滑なものであり、また、反射スペクトルにおいて反射率が30%を超えており、十分に高度な反射率の反射ピークを有することが確認された。
【0113】
次に、前記コロイド結晶の形成された基板をスクレーパーを用いて基板から削り落した。このようにして削り落されたコロイド結晶膜を、乳鉢を用いて、目開き0.065μmの篩を通るまでさらに細かく粉砕することで、コロイド結晶顔料を得た。
【0114】
このようにして得られたコロイド結晶顔料をクリア塗料(関西ペイント社製の商品名「マジクロン1000 クリア」、熱硬化型アクリル樹脂塗料)に5質量%加えた後に、希釈のためにシンナーを30質量%加えて撹拌し、コロイド結晶顔料の分散したクリア塗料を得た。次いで、かかる塗料を50μmの設定膜厚にてエアスプレーガンにより黒塗装鋼板に塗布し、塗料の膜を形成した。次いで、前記塗料の膜を160℃で20分間焼成し、クリア塗料の塗装膜を形成した。このような塗装膜は、見る角度によりきらきらと赤色や緑色を呈するものとなり、優れた意匠性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上説明したように、本発明によれば、スプレー塗装を採用し、十分に平滑で且つ反射スペクトルにおいて十分に高い反射率の反射ピークを有するコロイド結晶膜を効率よく製造することができ、基材の形状に拘わらず、大面積に成膜することが可能なコロイド結晶膜の製造方法、その方法により得られるコロイド結晶膜、並びにそれを粉砕して得られるコロイド結晶顔料を提供することが可能となる。このような本発明のポリマーで固定化されたコロイド結晶の製造方法は、特に意匠性に優れたコロイド結晶膜を提供することが可能であるため、構造色色材を製造するための方法等として特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程と、
を含むことを特徴とするコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記コロイド結晶膜が、反射スペクトルにおいて反射率が30%を超え且つ半値幅が50nm以下である反射ピークを有することを特徴とする請求項1に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記分散媒成分が、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の親水性モノマーからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド粒子が、シリカ、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる粒子であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするコロイド結晶膜。
【請求項6】
請求項5に記載のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするコロイド結晶顔料。
【請求項1】
モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されており、且つ、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定される粘度が10〜100mPa・sであるコロイド分散液を、重合後の平均厚みが25〜45μmとなるように基材上にスプレー塗装し、前記基材上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめ、前記基材上にポリマーで固定化された平均厚み25〜45μmのコロイド結晶膜を製造する工程と、
を含むことを特徴とするコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記コロイド結晶膜が、反射スペクトルにおいて反射率が30%を超え且つ半値幅が50nm以下である反射ピークを有することを特徴とする請求項1に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記分散媒成分が、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の親水性モノマーからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド粒子が、シリカ、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる粒子であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のコロイド結晶膜の製造方法により得られることを特徴とするコロイド結晶膜。
【請求項6】
請求項5に記載のコロイド結晶膜を粉砕して得られることを特徴とするコロイド結晶顔料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図13】
【図17】
【図21】
【図22】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図13】
【図17】
【図21】
【図22】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−84689(P2011−84689A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240373(P2009−240373)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【上記1名の代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【上記1名の代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
【Fターム(参考)】
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