説明

コロマンソウを利用した血清脂質低下剤

【課題】コロマンソウ(Asystasia gangetica)の健康や産業に寄与し得る有用性を発見し、具体的利用方法や利用物を提供する。
【解決手段】コロマンソウの葉の水抽出物の抗糖尿病作用、血中コレステロール抑制及び中性脂肪抑制作用、乳酸菌増殖促進作用、食品の風味向上効果の発見にもとずく、抗糖尿剤、血清脂質低下剤、乳酸菌増殖促進剤としての利用、食品、動物のエサへの利用、コロマンソウ葉部の乾燥方法及びその製造方法による乾燥物とその食品への利用、コロマンソウ抽出物を用いる発酵食品の製造への応用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコロマンソウ(Asystasia
gangetica)の利用物および利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロマンソウは亜熱帯や熱帯地域に分布する植物でアフリカの一部では葉を食用にしたり胃痛あるいは喘息の民間薬として利用されている。また、この植物の葉の酢酸エチル、ヘキサン或いはメタノールによる抽出物が、抗喘息効果を有する事が報告されている(民間薬雑誌(Journal
of Ethonopharmacology)89巻 1号 25−36頁、2003年)が、これまで産業上の利用はされてこなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題はコロマンソウのヒトや動物の健康に役立つ有用性をさらに見つけ、それを具体化する事である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はコロマンソウの葉の水抽出成分(以下
本成分とする)が実験的糖尿病動物の血糖を低下させ、かつ乳酸菌の増殖を促進する作用の有る事やコロマンソウの葉により食品の風味を改善したり新たな香味を生じる事を発見した。
1.本成分、2.本成分を含むコロマンソウ葉部乾燥物の製造方法とその方法によって製造される葉部乾燥物、3.本成分あるいはコロマンソウ葉部乾燥物を用いた糖尿病の予防、治療の為の
また腸内の乳酸菌の増殖を促す為の 経口摂取し易い食品、飲料、医薬品、餌、動物用医薬品、4.コロマンソウの葉を加える事により風味を向上させた食品、5.ヨーグルトの製造を容易にする為に、原料に本成分を添加する製造方法や本成分を添加し易い乳酸菌増殖促進剤および本成分を含むスターターが解決する手段となる。
【0005】
具体的には、コロマンソウの葉またはその水抽出成分を有効成分として含む事を特徴とする血清脂質低下剤を提供することにより、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
(1)本成分はこれまで知られていなかった物質であるが以下に述べるように食品、飲料、医薬などに使用し易く抗糖尿病効果と乳酸菌増殖促進効果を有する有用な物質である。
【0007】
本発明に係るコロマンソウの葉の水抽出成分は、次の何れか1以上の態様により得られるものが抗糖尿病効果と乳酸菌増殖促進効果を更に向上できる点で好ましい。
1)コロマンソウの葉に対して3〜5重量倍の水で抽出したもの。
2)コロマンソウの葉を温度50〜140℃の水、とりわけ温度80〜100℃の水で抽出したもの。
3)コロマンソウの葉を上記温度範囲内で1分〜2時間、とりわけ5分〜10分置いて抽出したもの。
【0008】
コロマンソウの葉を胃痛や喘息のための薬として利用する為に葉を切りこれを煎じたものを飲用する事がなされているが、この方法では、渋みと苦味が不快であり、また微小な不溶性のコロマンソウの葉の固形物があって、飲みにくく、腐敗し易く保存不能であるという重大な欠点がある。
また、有機溶媒による抽出物が喘息の効果を調べる為の研究には用いられてはいるが、試験管内の実験であり、こうした抽出物の実際上の有効性やこれら有機溶媒では抽出されない水溶性成分については全く記載がなく不明である。さらに、有機溶媒による抽出物を医薬品や食品に実際に応用するに際しては、次の事に留意しなければならない。即ち、多くの有機溶媒は毒性を有するものであり有機溶媒を使って得た抽出物にはその有機溶媒の残留はまぬがれない事、及び有機溶媒には必ず微量ながらも不純物が含まれこの不純物の多くは毒性を有するという事である。そのため、有機溶媒の使用はできる限り避けるべきであり、やむを得ず使用する場合でも、安全性を確保するために、抽出物中の有効成分はもとより有機溶媒中の不純物も化学的に特定され、これら物質について毒性の知見と定量方法が得られ、有効成分の純度検定方法等が確立していなければならない。
従って、慢性疾患の予防や治療の為に天然物を用いる場合、とりわけ、生活習慣病の予防や治療の為に食品や医薬品として常用するなど長期間にわたり使用される場合、安全な溶媒である水を用いて有効成分を抽出し、それを実際上使用し易い形態にする事が望ましい。
【0009】
以下に、本成分の製造例を述べる。コロマンンウの葉を採取し、水で洗浄し、コロマンソウの葉の約5倍の重量の沸騰水中に入れ、10分間保ち、ろ過し、ろ液を凍結乾燥し、コロマンソウの葉の重量の約3%の本成分(以下、これを本成分1という)を得た。これを粉末にすると淡褐色で水に溶け易く臭いは感じられないか極めて少ない。水に溶かすと黄色、もしくは緑を含んだ淡褐色の溶液となる。食品や飲料への添加は容易でありもとの食品や飲料の風味を損ねることは少なく使い易い。また
牛乳、豆乳、ジュース、食酢など水分が多い液体では水の代わりにこれら食品中にコロマンソウの葉を入れ加熱あるいは長時間浸漬する事により本成分1を食品中に出す事ができ
かつ 豆乳の独特の臭みが減少し甘味が増したり食酢の刺激臭が緩和され好ましい香りを生ずるなど食品の風味の改善などに有用である。
【0010】
以下に本エキスの抗糖尿病効果と乳酸菌増殖促進効果について述べる。
(2)抗糖尿病効果
4週令のBALB/cマウスを1週間予備飼育後、ストレプトゾトシン50mg/kg体重を尾静脈に注射し、72時間後、11mmol/l以上の血糖値のマウスを対照群と投与群とに分けた。1群5匹とし、投与群には本成分1;10mg(1mlの生理食塩水に溶解)、対照群は生理食塩水1mlをゾンデにて毎日胃内強制投与し、14日目、28日目の血糖値を測定した。血糖値測定の時は採血の12時間前より絶食とした。投与群の血糖値は低下し、28日目では対照群に比べt−検定により統計的有意差が認められた(表1)。
【0011】
【表1】

数字は血糖値(mmol/l)で平均値±標準偏差、*;危険率5%未満で対照群に対し有意差有り
【0012】
(3)乳酸菌増殖促進効果
市販の高温殺菌牛乳に本成分1を0、65、130、260mg/lの濃度となるように添加混合し、各々に業務用ヨーグルト製造用スターター(商品名DPLABY−2C、協和ハイフーズ株式会社より入手)を10mg/lの割合で加え摂氏42度で発酵させた。凝固に要するまでの時間は表2の通りである。
【0013】
【表2】

【0014】
発酵乳等の飲料における本成分の濃度は、好ましくは50〜300mg/lであり、さらに好ましくは100〜280mg/lである。本成分の濃度が少ないと効果が発揮されず、多すぎると効果が飽和するため、上記範囲内が好ましい。
本成分1:130mg/l以上で発酵時間を顕著に短縮できた。また
同じスターターを用いその添加量を変えて凝乳するまでの時間を調べると 表3に示す結果となった。
【0015】
【表3】

【0016】
この結果は
牛乳の凝固時間を決めた場合、本成分1の添加により、スターター使用量を10分の1以下にする事が可能である事も示している。以上のように本成分を使用する事によりヨーグルトの製造を容易にし
また 高価なスターターの使用量を減少する事もできる。
また、本成分を添加してできたヨーグルトの風味、食感、色、いずれも無添加のものと差は認められなかった。
また、市販のヨーグルトをスターターとして用いる場合も同様である。アロエヨーグルト(森永乳業株式会社製)0.1ミリリットルを市販の高温殺菌牛乳1リットルに加え摂氏42度に保った。本成分1を1リットルに130、260ミリグラム添加したものと無添加のものの凝固時間を比べると
無添加のもの10時間40分、130ミリグラム添加のもの7時間10分、260ミリグラム添加のもの6時間40分で本成分添加により凝乳までの時間が大幅に短縮した。一般家庭ではしばしば市販のヨーグルトをスターターとして牛乳からヨーグルトを作るが、専門家や技術者が行うわけではなくうまくヨーグルトができないこともある。混入した雑菌が乳酸菌より先に優勢となってしまう事が失敗の主な原因のひとつであり、乳酸菌の活動や増殖が早く、短時間で発酵が終了するほど失敗が少なく安全である。本成分1はこのように家庭でヨーグルトを作る場合にも有用である。
【0017】
本成分の乳酸菌増殖促進効果はヨーグルトの製造の菌ばかりでなく、腸内常在性乳酸菌にも同様に効果を示す。代表的な腸内常在性乳酸菌であり整腸剤にも用いられているエンテロコッカス
フェシウムの増殖を、本成分を含まない培地と含むものとで比較すると 表4のようになり、本成分により、同菌の増殖が著しく促進された。基礎培地を ペプトン 0.5%、リン酸2水素カリウム0.1%、リン酸水素2カリウム0.1%、グルコース0.3%、pH6.8とし、本成分1;
0,0.01,0.02,0.05%を加え、オートクレーブで摂氏121度、15分間殺菌しテスト培地とした。ヒトより分離したエンテロコッカス フェシウム NBRC
100602(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)を、本成分を含まない基礎培地で24時間培養し、その10000分の1を各テスト培地に接種し、37−40度で静置培養し
経時的に分光光度計で660nmにおける吸光度(濁度)を測定した。
【0018】
【表4】

【0019】
本成分を摂取する事により、腸内常在性乳酸菌の増殖を高め、病原性菌他有害細菌の抑制および排除を促し健康の保持につながると期待できる。
【0020】
(4)本成分が水や湯で容易に得られたりあるいは摂食後に消化管中で容易に溶け出るようなコロマンソウの葉の乾燥物も有用である。本発明者は
葉の乾燥物を得る場合葉の乾燥に先立って急速に加熱する事が有効でありこの加熱にはマイクロ波加熱あるいは加熱金属板による加熱が特に有効である事を発見した。水で洗浄したコロマンソウの葉をマイクロ波加熱(葉1グラムに対して500ワットで10秒)または摂氏70〜200℃、好ましくは120〜150℃に加熱した鉄板に2〜60秒、好ましくは5秒間押し付けて加熱し摂氏60〜120℃、好ましくは80℃の熱風を送り、乾燥コロマンソウ葉を作った。乾燥コロマンソウ葉の重量はもとのコロマンソウ葉の重量の約10%である。乾燥コロマンソウ葉1グラムに湯150ミリリットルを注ぎ、茶のようにして飲用する。甘味があり良好な味である。液の色は緑色で美しく見える。また葉もきれいに開き鮮やかな緑色である。乾燥に先立って加熱を行わない場合は湯を注いだ時液の色はうすく渋みを強く感じる。また、葉は縮れたようになりきれいに開かず色調も鮮やかでない。乾燥前の加熱を蒸気をあてたり蒸したりして行った場合は加熱時間の長い程湯を注いだ時の液の色の濃くなるが、乾燥後の葉に湯を注いだ時マイクロ波加熱を行ったものと同程度の色の強さにするには加熱時間5−10分を要する。また
緑より褐色の色合いが強く甘味は少なく葉はきれいに開かず褐色がかり鮮やかではない。
【0021】
本成分は血糖値の低下ばかりでなく、血中コレステロール及び中性脂肪も抑制する。
〔実験〕
ラット(Wistar、雌、体重150−180g)を用いコレステロール1.5%、コール酸ナトリウム0.25%、豚脂10%、ショ糖5%を含む高コレステロール高脂肪食で30日間飼育した後ストレプトゾトシン30mg/kgを腹腔に注射し、生理食塩水1mlに溶かした本成分1;48mg/kg体重、143mg/kg体重、をゾンデにより毎日30日間胃内強制投与した。1群5匹とし、対照群には生理食塩水のみを投与した。30日後に24時間絶食させ、採血した。血糖値、血清コレステロール値(TC)、血清中性脂肪(TG)の有意な低下血清インスリンの上昇が認められた(下表)。
【0022】
【表5】

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態は多くの形態をとり得る。
糖尿病の予防や正常な腸内細菌叢を保持する事を目的とする場合は食品や飲料として日常的に摂取し易いものが望ましく1回に本成分換算で100ミリグラム以上摂取する事が有効と考えられる。糖尿病の治療に用いる場合は1日に本成分換算で1グラム以上服用できるようにカプセルや錠剤の形態が望ましい。
〔実施例〕
【0024】
(1)本成分1の粉末をアルミニウムラミネート袋やガラス瓶に密封する。使用時に小さじで取り味噌汁やシチューに100−200ミリグラムを添加したり、ペット用の餌1回分に10−50ミリグラムを混ぜて用いる。何ら違和感なく良好である。
【0025】
(2)本成分1の粉末をインスタントコーヒー粉末に10%混合してコロマンソウエキス(抽出成分)入りインスタントコーヒーを作る。通常と同様にして用いる。風味良好である。
【0026】
(3)本成分1を殺菌前の牛乳に0.1%添加し、加熱殺菌して、コロマンソウエキス入り牛乳を得る。
【0027】
(4)乾燥コロマンソウ葉をバイショウしたコーヒー豆に混ぜともにコーヒーミルでふんさいし、コロマンソウ入りコーヒー粉を作る。通常のコーヒーと同様にドリップに入れ湯を注ぎ飲用する。良好である。
【0028】
(5)摂氏70〜140℃、好ましくは98〜100℃に加熱した豆乳に水で洗浄後幅2センチメートルに切ったコロマンソウの葉を豆乳重量の2%を加え5秒〜30分間、好ましくは10分間その温度に保持し、直ちに濾してコロマンソウエキス入り豆乳を得る。甘味が増し、豆乳の臭みが減少し良好である。
【0029】
(6)乾燥コロマンソウ葉1グラムをアルミニウムラミネート袋に密封したものを作る。使用時に開封し
コップなどに入れ湯100−200ミリリットルを注ぎ数分後に飲用する。乾燥コロマンソウ葉をブレンダーを用いたり手でもんで0.5−2平方センチメートル程度の大きさに破砕したものは湯を注いだ後
網で濾してから飲用する。破砕しないものは湯を注ぐときれいにもとの形にコップなどの中で開き美しく感ぜられるので網などで濾さずに飲用する。また、コーヒーミルで微粉末としたものは湯を注ぎ混ぜそのまま飲用する。いずれも良好である。
【0030】
(7)乾燥コロマンソウ葉を粉末にし、その100グラムに、乳酸菌末(フェーカリス菌末およびアシドフィルス菌末、いずれもアマノエンザイム株式会社より入手)各10グラム計20グラムおよびビフィズスキ菌末(アマノエンザイム株式会社より入手)10グラムを加え混合する。その250ミリグラムをゼラチンカプセル1個に詰め食後1−2カプセルを飲む。
【0031】
(8)本成分1の粉末500ミリグラムをゼラチンカプセルに詰め1日3回、1回2カプセルを服用する、
【0032】
(9)ホワイトヴィネガー500ミリリットルにコロマンソウ葉部50グラムを入れ密栓し1日以上置く。酢酸の刺激臭が減少し甘酸っぱい良好な香りになる。調味料(酸味料)として用いる事もできるが
このヴィネガー10ミリリットルに蜂蜜15グラム、レモン汁3滴、湯150ミリリットルを混ぜるなどして飲用しても良好である。
【0033】
(10)本成分1の製造過程において乾燥の直前のろ液を摂氏121度15分間のオートクレーブ殺菌を行い以後無菌的に扱い凍結乾燥し粉末化して無菌本成分粉末を得、殺菌した容器にいれ密封する。ヨーグルト製造のための乳酸菌増殖促進剤として原料の牛乳にスターターを添加する時に牛乳の0.03%を添加する。すなわち、牛乳1リットルに0.3グラムである。作業性を良くするために100リットル用、300リットル用、500リットル用各々別に作っておく。また、家庭用のために、0.5リットル、1リットル用も作る。
【0034】
(11)本成分1の粉末を摂氏80−90度に20分間置き殺菌、放冷後、この殺菌本エキス粉末60グラムに粉末スターター(DPLABY−2C)2グラムを混合して200リットル用ヨーグルト製造用スターターをつくり、無菌容器に密封する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロマンソウの葉またはその水抽出成分を有効成分として含む事を特徴とする血清脂質低下剤。

【公開番号】特開2012−162530(P2012−162530A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51534(P2012−51534)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2005−352627(P2005−352627)の分割
【原出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(592073525)
【Fターム(参考)】