説明

コンクリートの検査方法及び検査器具

【課題】有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査を短時間で精度良く行なうこと。
【解決手段】有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートと、前記有機繊維よりも比重が重く、前記フレッシュコンクリートのセメント及び骨材よりも比重が軽い液体と、を容器内に投入する投入工程と、前記容器内において前記液体に前記フレッシュコンクリートを分散する分散工程と、前記フレッシュコンクリートから分離して浮上した前記有機繊維により形成される有機繊維層の厚さにより、前記フレッシュコンクリートの良否を判定する工程と、を備えたことを特徴とするコンクリートの検査方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機繊維が混入された、まだ固まらないコンクリート(フレッシュコンクリート)の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火災時に高強度コンクリートは、爆裂する畏れがあることが知られている。また、普通コンクリートでも急激に温度が上昇しやすい環境、例えばトンネル等使用されると火災時にコンクリートが爆裂する場合がある。このようなコンクリートの爆裂を防止するために、ポリプロピレン等の有機繊維をコンクリートに混入する方策が提案されている(特許文献1)。
【0003】
このようなコンクリートでは有機繊維が適量かつ均一に混入されているか否かを検査することで安全性を確保することが必要となる。従来の検査方法では、JIS A 1103 骨材微粒分量試験方法の試験方法を応用し、まず、フレッシュコンクリートから採取された定量の試料を水に分散させて複数種類の篩にかけ、試料から骨材、セメントペーストを段階的に排除して有機繊維を取り出す。そして、この取り出した有機繊維を乾燥させた後、重量を測定し、重量の測定結果に基づき良否判断を行なっている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−189080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の検査方法では、篩作業に数時間を要するだけでなく、取り出したした有機繊維の乾燥にも時間を要するため、全体的に検査時間が長時間になるという問題がある。また、篩作業の過程で有機繊維の一部が流されてしまい、検査精度が必ずしも高くないという問題もある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査を短時間で精度良く行なうことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートと、前記有機繊維よりも比重が重く、前記フレッシュコンクリートのセメント及び骨材よりも比重が軽い液体と、を容器内に投入する投入工程と、前記容器内において前記液体に前記フレッシュコンクリートを分散する分散工程と、前記フレッシュコンクリートから分離して浮上した前記有機繊維により形成される有機繊維層の厚さにより、前記フレッシュコンクリートの良否を判定する工程と、を備えたことを特徴とするコンクリートの検査方法が提供される。
【0008】
この検査方法では、前記セメント及び前記骨材の沈殿と、前記有機繊維の浮上とを利用してこれらを分離する。分離に要する時間は篩を用いる場合に比べて大幅に短縮できる。そして、前記有機繊維層の厚さは前記フレッシュコンクリート内の前記有機繊維の混入量に比例することから、当該厚さから前記有機繊維の混入量が適正であるかを判断できる。前記有機繊維は前記容器に収容されていることから篩を用いる場合のように前記有機繊維が流されてしまうことがなく、検査精度を向上することができる。また、前記有機繊維の乾燥も必要ないことから検査時間の短縮化が図れる。こうして本発明の検査方法によれば、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査を短時間で精度良く行なうことができる。
【0009】
本発明においては、前記容器が、相対的に断面積の大きい第1部分と、前記第1部分より上部の相対的に断面積が小さい第2部分と、を有し、前記液体は前記有機繊維層が前記第2部分において形成される量だけ前記容器内に投入される構成を採用することができる。この構成によれば、前記第1部分は前記フレッシュコンクリート及び前記液体の収容空間としてより大きな空間を確保することに寄与し、前記第2部分は前記有機繊維層の厚さとして、検査が行い易い厚さを確保することに寄与する。
【0010】
また、本発明においては、前記容器が前記第1部分と前記第2部分とを分離可能である構成を採用することができる。この構成によれば、前記第1部分への前記フレッシュコンクリート及び前記液体の投入を容易にする。
【0011】
また、本発明においては、前記容器が、複数の穴が形成され、浮上した前記有機繊維の上昇を規制する規制部材を備えた構成を採用することができる。この構成によれば、前記有機繊維層の上限は前記規制部材となり、前記液体の投入量が正確でなくてもよく、また、前記有機繊維層の厚さの判断を容易にする。
【0012】
また、本発明においては、前記容器が、前記規制部材の下方に表示され、前記有機繊維層の厚さを判定する指標を有する構成を採用することができる。この構成によれば、前記フレッシュコンクリートの良否判定を目視のみで簡易に行なえる。
【0013】
また、本発明においては、前記分散工程では、前記液体とフレッシュコンクリートを撹拌するか又は前記液体とフレッシュコンクリートを加振する工程の少なくともいずれかである構成を採用することができる。この構成によれば、前記液体への前記フレッシュコンクリートの分散が促進され、検査時間の短縮化を図れる。
【0014】
また、本発明によれば、上記検査方法に適した検査器具として、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査器具であって、前記フレッシュコンクリート及び前記有機繊維よりも比重が重く、前記フレッシュコンクリートのセメント及び骨材よりも比重が軽い液体を収容する容器を備え、前記容器は、相対的に断面積の大きい第1部分と、前記第1部分より上部の相対的に断面積が小さい第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間の第3部分と、を有し、前記第3部分は、前記第2部分と一体に形成され、かつ、その断面積が前記第1部分側から前記第2部分側へ向って徐々に小さくなっており、前記第1部分と、前記第2及び第3部分と、は互いに分離可能であり、少なくとも前記第2部分の一部は透明な材料で構成されていることを特徴とする検査器具が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上述べた通り、本発明によれば、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査を短時間で精度良く行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1及び図2を参照して本発明の第1実施形態に係るコンクリートの検査方法について説明する。まず、図1(a)に示すように、容器10、フレッシュコンクリートの試料20並びに液体30を用意する。容器10は上方が開放した有底筒状体をなしている。容器10は例えば樹脂製であり、外部から内部が透かして見える透明な材料(例えば、無色透明、有色透明の材料)から構成される。容器10は円筒体であっても角筒体であってもよいが、本実施形態では円筒体である。
【0017】
試料20は、検査の対象となる、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートから採取されるものであり、セメントペースト21、骨材22及び有機繊維23が混練されたものである。試料20は現場で作製されたフレッシュコンクリートから予め定めた量だけ採取される。骨材22には砂等の細骨材、小石等の粗骨材が含まれる。有機繊維23は例えばポリプロピレンからなり、コンクリートの爆裂抑止のために混入されたものである。
【0018】
液体30は、有機繊維23よりも比重が重く、セメントペースト21を構成するセメント及び骨材22よりも比重が軽い液体である。一般にセメントの比重は3以上、骨材の比重は2.5以上である。有機繊維23としてポリプロピレンを用いた場合、その比重は約0.9である。従って、液体30としては例えば水を用いることができる。液体30は、有機繊維23との比重差を増大するために、塩等の比重調整剤を溶解し、より大きな比重とすることもできる。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、試料20と液体30とを容器10内に投入する。続いて、容器10内において液体30に試料20を分散させる。試料20の分散を促進するため、図1(c)に示すように、撹拌棒1等による容器10内の液体30及び試料20の撹拌、加振機2等による液体30及び試料20の加振、の少なくともいずれかを行なうことが望ましい。撹拌棒1等に付着した有機繊維23は、少量の液体20で容器10内に洗い落とされる。また、試料20の分散を促進するため、液体30には界面活性剤等の分散促進剤を混入しておくことが望ましい。これは検査時間の短縮化に寄与する。
【0020】
試料20が液体30に分散した後、そのまま放置しておくと、図2(a)に示すように、液体30との比重差により、骨材22及びセメント21’の混合体は、容器10の底部に沈殿する一方、有機繊維23は浮上して液体30の上部に集まり、有機繊維層23’を形成する。なお、有機繊維23が密に集合した有機繊維層23’が形成されるよう、液体30には消泡剤を混入しておくことが望ましい。
【0021】
しかして、図2(b)に示すように有機繊維層23’の厚さ(高さ)dを計測することで、有機繊維23の試料20中の含有量が分かる。有機繊維23の含有量が規定値以上であればフレッシュコンクリートが良品と判定し、規定値未満であれば不良品と判定することができる。つまり、有機繊維層23’の厚さdはフレッシュコンクリート内の有機繊維23の混入量に比例することから、厚さdから有機繊維23の混入量が適正であるかを判断できる。また、フレッシュコンクリートから複数の試料20を採取して上記検査を行なうことで、有機繊維23が均一に混入されているかも判断できる。
【0022】
有機繊維23の含有量は容器10の断面積と厚さdとにより概算値が算出できるが、容器10の断面積及び試料20の量との関係は予め分かっているので、厚さdが予め定めた厚さ以上か否かでフレッシュコンクリートの良否判定を行なうことが簡易である。
【0023】
このように本実施形態の検査方法では、セメント21’及び骨材22の沈殿と、有機繊維23の浮上とを利用してこれらを分離する。分離に要する時間は篩を用いる場合に比べて大幅に短縮できる。そして、有機繊維23は容器10に収容されていることから篩を用いる場合のように有機繊維23が流されてしまうことがなく、検査精度を向上することができる。また、有機繊維23の乾燥も必要ないことから検査時間の短縮化が図れる。こうして本実施形態の検査方法によれば、有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査を短時間で精度良く行なうことができる。
【0024】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では容器10として、その断面積が上下方向で一様なものを用いた。容器10はその断面積が大きければ試料20や液体30の投入作業、分散作業が容易となるが、有機繊維層23’の厚さが均一とならない場合や、厚さが薄くて厚さを計測しずらい場合がある。そこで、本実施形態では断面積が異なる容器を用いる。図3及び図4は本発明の第2実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【0025】
図3(a)は本実施形態で用いる容器110を示す。容器110は本体部111と蓋部112とから構成されており、互いに分離可能となっている。本体部111は上記の容器10と同様の構成であり、上方が開放した有底筒状体をなしている。本体部111は容器110において相対的に断面積が大きい第1部分を構成する。
【0026】
蓋部112は上方及び下方が開放した筒状体をなしている。蓋部112は例えば樹脂製であり、外部から内部が透かして見える透明な材料からなる。蓋部112は容器110において相対的に断面積が小さい第2部分である上端部112aと、上端部112aの下部に一体に形成されたテーパ部112bと、から構成されている。テーパ部112bの内面に有機繊維23が付着しにくいように、当該内面にはユズ肌状の凹凸を設けることが望ましい。
【0027】
上端部112aの外周面には上下に離間した指標線113及び114が施されている。指標線113は液体30の液面位置の指標である。また、指標線114は有機繊維層23’の厚さを判定するための指標である。本実施形態の場合、蓋部112全体が外部から内部が透かして見える透明な材料である場合を想定するが、少なくとも指標線113から指標線114の間の部分が透明な材料であればよい。
【0028】
テーパ部112bはその断面積が第1部分である本体部111側から第2部分である上端部112a側へ向って徐々に小さくなっている。本実施形態の場合、テーパ部112bの断面積はその下部においては本体部111の断面積と略一致し、その上部においては上端部112aの断面積と一致するよう、連続的に変化している。
【0029】
本体部111と蓋部112とは、本実施形態の場合、本体部111の上部に蓋部112の下部が嵌合する構成となっているが、本体部111の上部外周面、蓋部112の下部内周面にネジを刻設した螺合構造としてもよい。
【0030】
次に、本実施形態における検査方法について説明する。まず、本体部111と蓋部112とを分離し、図3(b)に示すように本体部111に試料20と液体30とを投入する。続いて、本体部111内において液体30に試料20を分散させる。試料20の分散を促進するため、上記第1実施形態と同様に、図3(c)に示すように、撹拌棒1等による本体部111内の液体30及び試料20の撹拌、加振機2等による液体30及び試料20の加振、の少なくともいずれかを行なうことが望ましい。また、上記第1実施形態と同様に液体30には界面活性剤等の分散促進剤や消泡剤を混入しておくことが望ましい。
【0031】
試料20が液体30に分散した後、図4(a)に示すように蓋部112を本体部111に装着する。続いて、蓋部112の上端から容器110内に液体30を補充する。図4(b)に示すように、液体30はその液面が指標線113に達するまで補充する。つまり、有機繊維層23’が上端部112a内において形成される量だけ液体30を補充する。
【0032】
液体30の補充後、テーパー部112bを軽く打撃したり、容器10を軽く加振することで、テーパ部112bの内面に付着した有機繊維23も浮上させることにより、図4(c)に示すように、有機繊維23のほぼ全量が浮上して液体30の上部に集まり、有機繊維層23’を形成する。
【0033】
しかして、有機繊維層23’が指標線114の下方にまで形成されていた場合、フレッシュコンクリートが良品と判定し、指標線114に達していない場合は不良品と判定することができる。
【0034】
本実施形態によれば、本体部111によりフレッシュコンクリートの試料20及び液体30の収容空間としてより大きな空間を確保する一方、上端部112aにより有機繊維層23’の厚さとして、検査が行い易い厚さを確保することができる。また、本体部111と蓋部112とを分離可能である構成としたことにより、本体部111へのフレッシュコンクリートの試料20及び液体30の投入作業、分離作業を容易にすることができる。
【0035】
また、指標線114を設けたことにより、フレッシュコンクリートの良否判定を目視のみで簡易に行なえる。更に、テーパ部112bを設けたことにより、浮上する有機繊維23が上端部112a内に集まり易いという効果もある。
【0036】
<第3実施形態>
上記第2実施形態では指標線113に合わせて液体30を補充する必要があり、指標線113と液体30との液面を合わせる作業が必要となる。本実施形態はこのような作業を不要とするものである。図5(a)及び(b)は本発明の第2実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図であり、図5(a)は本実施形態で用いる容器210を示す。容器210は上記第2実施形態の容器110に規制部材220を追加したものである。図5(a)において容器110と同じ構成については同じ符号を付し、説明を割愛する。
【0037】
規制部材220は、容器110における指標線113の位置において上端部112a内に配設されている。規制部材220は、複数の穴221が形成され、上端部112aの内部空間を上下に仕切る仕切り部材である。本実施形態の場合、規制部材220は上端部112aに一体に形成されているが、別部材として上端部112a内に固定する構成としてもよい。
【0038】
容器210を用いた検査方法の手順については上記第2実施形態と同じである。液体30は穴221を通過することにより規制部材220を通過できるが、有機繊維23は穴221を通過できず、従って、規制部材220を通過できない。このため、図5(b)に示すように浮上した有機繊維23の上昇が規制部材220により規制され、有機繊維層23’の上限は規制部材220の下面となる。液体30の補充はその液面が規制部材220を超えるように行なえばよく、その量が正確でなくてもよい。また、規制部材220を目安として有機繊維層23’の厚さを観察できるので、厚さの判断を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)乃至(c)は本発明の第1実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【図2】(a)及び(b)は本発明の第1実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【図3】(a)乃至(c)は本発明の第2実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【図4】(a)乃至(c)は本発明の第2実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【図5】(a)及び(b)は本発明の第3実施形態に係るコンクリートの検査方法の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10、110、120 容器
20 試料
21 セメントペースト
22 骨材
23 有機繊維
30 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートと、前記有機繊維よりも比重が重く、前記フレッシュコンクリートのセメント及び骨材よりも比重が軽い液体と、を容器内に投入する投入工程と、
前記容器内において前記液体に前記フレッシュコンクリートを分散する分散工程と、
前記フレッシュコンクリートから分離して浮上した前記有機繊維により形成される有機繊維層の厚さにより、前記フレッシュコンクリートの良否を判定する工程と、
を備えたことを特徴とするコンクリートの検査方法。
【請求項2】
前記容器が、相対的に断面積の大きい第1部分と、前記第1部分より上部の相対的に断面積が小さい第2部分と、を有し、
前記液体は前記有機繊維層が前記第2部分において形成される量だけ前記容器内に投入されることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの検査方法。
【請求項3】
前記容器が前記第1部分と前記第2部分とを分離可能であることを特徴とする請求項2に記載のコンクリートの検査方法。
【請求項4】
前記容器が、複数の穴が形成され、浮上した前記有機繊維の上昇を規制する規制部材を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンクリートの検査方法。
【請求項5】
有機繊維が混入されたフレッシュコンクリートの検査器具であって、
前記フレッシュコンクリート及び前記有機繊維よりも比重が重く、前記フレッシュコンクリートのセメント及び骨材よりも比重が軽い液体を収容する容器を備え、
前記容器は、
相対的に断面積の大きい第1部分と、前記第1部分より上部の相対的に断面積が小さい第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間の第3部分と、を有し、
前記第3部分は、前記第2部分と一体に形成され、かつ、その断面積が前記第1部分側から前記第2部分側へ向って徐々に小さくなっており、
前記第1部分と、前記第2及び第3部分と、は互いに分離可能であり、
少なくとも前記第2部分の一部は透明な材料で構成されていることを特徴とする検査器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate