説明

コンクリート体の塩分濃度測定システム及びコンクリート体の塩分濃度測定方法

【課題】コンクリート体の塩分濃度を従来よりも容易で、簡易にしかも現地でリアルタイムに測定することができる、塩分濃度測定システム及び塩分濃度測定方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート体の塩分濃度を測定するための塩分濃度測定システム1であって、コンクリート体の特性に関する情報を格納する特性情報DB8aであって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報を格納する特性情報DB8aと、コンクリート体の表面に、相互に間隔を隔てて配置された一対の電極2a,2bと、一対の電極2a,2bの相互間にコンクリート体を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンスを測定するインピーダンスメータ4と、測定されたインピーダンスに基づいて、特性情報DB8aに格納された第1特性情報を参照することにより、コンクリート体の塩分濃度を特定する演算装置5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート体の塩分濃度を測定するための塩分濃度測定システム及び塩分濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な目的で塩分濃度の非破壊測定が行われている。例えば、構造物の壁や床を構成するコンクリート体に関して、その塩分濃度が高い場合には、コンクリート体の内部に配設されている鉄筋等の金属の腐食が促進されて好ましくないため、既設の構造物のコンクリート体を対象として塩分濃度を測定することが行われている。
【0003】
このような塩分濃度測定を行うための一つの原理として、導電方式が知られている。例えば、特許文献1には、コンクリート体の交流インピーダンスの実部と虚部を測定し、これら実部と虚部とに基づいて比誘電率を算定し、この比誘電率と既知の塩分濃度−比誘電率周波数特性とに基づいて塩分濃度を特定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−214941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、交流インピーダンスに基づいて塩分濃度を直接的に特定することができず、比誘電率を介して塩分濃度を特定する必要があり、このように交流インピーダンスから比誘電率を算定するためには複雑な計算を行う必要があるため、測定対象となる建築物に出向いて塩分濃度をリアルタイムで測定することは実際には困難であった。すなわち、実質的には、従来の方法は、実験室レベルでの測定方法であり、測定対象となる建築物に出向いて非侵襲かつ非破壊で簡易に測定できる方法がなかった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、コンクリート体の塩分濃度を、測定対象となる建築物に出向いて簡易かつリアルタイムに測定することができる、コンクリート体の塩分濃度測定システム及びコンクリート体の塩分濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システムは、コンクリート体の塩分濃度を測定するためのシステムであって、前記コンクリート体の特性に関する情報を格納する特性情報格納手段であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報、又は、インピーダンスの位相角がピークになるピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第2特性情報、を格納する特性情報格納手段と、前記コンクリート体の表面に、相互に間隔を隔てて配置された一対の電極と、前記一対の電極の相互間に前記コンクリート体を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定手段と、前記測定手段を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、前記特性情報格納手段に格納された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定手段を用いて測定されたピーク周波数に基づいて、前記特性情報格納手段に格納された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、特定手段を備える。
【0008】
また、請求項2に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システムは、請求項1に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システムにおいて、前記コンクリート体と前記電極との相互間の接触抵抗を均一化すると共に、前記コンクリート体と前記電極との相互間にコンデンサ成分を形成するための軟質絶縁層を、前記コンクリート体に対向する前記電極の側面に配置した。
【0009】
また、請求項3に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、コンクリート体の塩分濃度を測定するための方法であって、前記コンクリート体の特性に関する情報であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報、又は、インピーダンスの位相角がピークになるピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第2特性情報、を準備する準備工程と、前記コンクリート体の表面に相互に間隔を隔てて一対の電極を配置し、当該一対の電極の相互間に前記コンクリート体を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定工程と、前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、特定工程を含む。
【0010】
また、請求項4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、請求項3に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法において、前記測定工程において、前記コンクリート体と前記電極との相互間の接触抵抗を均一化すると共に、前記コンクリート体と前記電極との相互間にコンデンサ成分を形成するための軟質絶縁層を、前記コンクリート体と前記電極との相互間に配置し、当該軟質絶縁層を配置した状態で前記インピーダンス又は前記ピーク周波数を測定する。
【0011】
また、請求項5に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法において、前記測定工程において、前記インピーダンス又は前記ピーク周波数に加えて、前記コンクリート体の含水率を測定し、前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンス及び含水率に基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数及び含水率に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する。
【0012】
また、請求項6に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法において、前記測定工程において、前記インピーダンス又は前記ピーク周波数のみを測定し、前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を特定する。
【0013】
また、請求項7に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法において、前記準備工程において、前記第2特性情報、及び、前記コンクリート体の特性に関する情報であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率とを、相互に対応付けて構成された第3特性情報を、準備し、前記測定工程において、前記インピーダンス及び前記ピーク周波数を測定し、前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第3特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率を特定し、当該特定した含水率と前記測定工程において測定されたピーク周波数とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する。
【0014】
また、請求項8に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法は、請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法において、前記準備工程において、前記第1特性情報として、インピーダンスと周波数とを相互に対応付けて構成された第1特性曲線を含む情報を準備し、又は、前記第2特性情報として、インピーダンスの位相角と周波数とを相互に対応付けて構成された第2特性曲線を含む情報を準備すると共に、コンクリート体の静電容量と周波数とを相互に対応付けて構成された第3特性曲線を準備し、前記測定工程において、複数の周波数における前記インピーダンス、又は、前記ピーク周波数を含む複数の周波数における位相角を測定し、前記特定工程において、前記測定工程において測定された複数の周波数におけるインピーダンスと、前記コンクリート体の電気的特性を示す所定の等価回路であって、コンクリート体の塩化物イオンの抵抗、コンクリート体の水分の抵抗、コンクリート体の塩化物イオンの静電容量、及びコンクリート体の水分の静電容量をパラメータとして含む等価回路とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性曲線に適合するように、前記等価回路の各パラメータを算定し、当該算定した各パラメータに基づいて前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定し、又は、前記測定工程において測定された複数の周波数における位相角と、前記等価回路と、前記第3特性曲線とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性曲線に適合するように、前記等価回路の各パラメータを算定し、当該算定した各パラメータに基づいて前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システム又は請求項3に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、インピーダンス又はピーク周波数を測定することにより、コンクリート体の塩分濃度を直接的に特定することができるので、維持管理が必要な鉄筋コンクリート構造物又は建築物に出向いて簡易かつリアルタイムに非侵襲で塩分濃度を測定することが可能になる。
【0016】
また、請求項2に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システム又は請求項4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、軟質絶縁層を用いることで、コンクリート体と電極との相互間の接触抵抗を均一化することができ、コンクリート体の表面の平滑度が悪いような場合であっても、塩分濃度を正確に測定することが可能になる。また、コンクリート体と電極との相互間にコンデンサ成分を形成することができ、低周波数における位相角を塩分濃度に関わらず常にマイナス90度に補正して揃えることができるので、コンクリート体のインピーダンスの位相角の周波数特性の比較を容易かつ正確に行うことができる。
【0017】
また、請求項5に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、インピーダンス又はピーク周波数と含水率とを測定することにより、コンクリート体の塩分濃度を特定することができるので、インピーダンス又はピーク周波数の周波数特性に対して含水率が支配的に影響を与えるような場合であっても、塩分濃度を正確に特定することができる。
【0018】
また、請求項6に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、インピーダンス又はピーク周波数のみを測定することにより、コンクリート体の含水率と塩分濃度を特定することができるので、含水率の測定作業を省略でき、塩分濃度を一層簡易に特定することができる。特に、含水率の非侵襲での測定が困難なコンクリート体の深部に関しても、塩分濃度を特定することができる。
【0019】
また、請求項7に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、インピーダンス及びピーク周波数を測定し、インピーダンスに基づいて含水率を特定し、この含水率とピーク周波数に基づいて塩分濃度を特定することができるので、含水率と塩分濃度のそれぞれを、これらの各々に対して最も顕著な差異が生じる個別の特性に基づいて特定でき、含水率と塩分濃度を一層正確に特定することができる。
【0020】
また、請求項8に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法によれば、インピーダンス又はピーク周波数のみを測定することにより、等価回路と特性曲線を用いてコンクリート体の含水率と塩分濃度を算定することができるので、含水率の測定作業を省略でき、塩分濃度を一層簡易に特定することができる。特に、含水率の非侵襲での測定が困難なコンクリート体の深部に関しても、塩分濃度を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実験に使用したコンクリート体を、塩分濃度測定システムと共に示す模式図である。
【図2】コンクリート体のインピーダンスの周波数特性の測定結果を示すグラフであり、(a)は含水率=9.5%、(b)は含水率=2.0%、(c)は含水率=0.7%のコンクリート体の測定結果である。
【図3】周波数=10kHzにおけるインピーダンス、含水率、及び塩分濃度の関係を示すグラフである。
【図4】コンクリート体のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【図5】コンクリート体のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、(a)は含水率=0.7%、(b)は含水率=2.0%、(c)は含水率=7%のコンクリート体の測定結果である。
【図6】含水率とピーク周波数の関係を示すグラフである。
【図7】含水率とピーク位相角の関係を示すグラフである。
【図8】コンクリート体のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【図9】コンクリート体の等価回路を示す図である。
【図10】等価回路に基づくインピーダンスの周波数特性の算定結果を示すグラフであり、(a)は含水率が大きい場合の算定結果、(b)は含水率が小さい場合の算定結果である。
【図11】等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。
【図12】等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。
【図13】等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。
【図14】Cconの周波数特性の近似曲線を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態1に係る塩分濃度測定システムのブロック図である。
【図16】変形例に係る一対の電極の斜視図である。
【図17】変形例に係る塩分濃度測定システムを、コンクリート体と共に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明の各実施の形態を詳細に説明する。以下、1)各実施の形態の基礎理論について説明した後、2)各実施の形態の具体的内容について説明し、3)最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
〔基礎理論〕
最初に、各実施の形態の基礎理論について説明する。発明者は、概略的には、コンクリート体の特性の中で、「インピーダンスと、周波数と、含水率と、塩分濃度の相互関係」、又は、「ピーク周波数と、含水率と、塩分濃度の相互関係」に基づき、塩分濃度が測定できる可能性を見出し、この可能性を評価するための実験を行った。以下、この実験の方法及び結果について説明する。なお、「周波数」とは、インピーダンスに対応する周波数であって、具体的には、インピーダンス測定時にコンクリート体に流した交流電流の周波数である。また、「ピーク周波数」とは、インピーダンスの位相角がピークになる周波数である。「含水率」は、コンクリート体の単位体積当たりの水分量であり、「塩分濃度」は、コンクリート体の単位体積当たりの塩化物量である。
【0024】
(コンクリート体)
測定対象物となるコンクリート体の種類や構造は任意であり、後述する一対の電極を介して交流電流が流された際に、インピーダンス又はインピーダンスに対応する周波数に変化を与え得る塩分を含有する全てのコンクリート体を含み、例えば、建築構造物や土木構造物の壁、床、柱、梁、又は天井を構成するコンクリート体を挙げることができる。また、測定対象物が配置される測定領域の具体的内容も任意であり、建築構造物の施工現場や実験室等が該当する。
【0025】
図1は、実験に使用したコンクリート体10を、塩分濃度測定システム1と共に示す模式図である。以下、必要に応じて、図1のX方向を縦方向、Y方向を横方向、Z方向を高さ(深さ、厚さ)方向と称する。コンクリート体10は、縦200mm×横200mm×高さ100mmの直方体であり、以下の2種類として製作されたものである。
【0026】
古コンクリート体:
2008年に、普通ポルトランドセメントを使用して水/セメント比60%で打設することにより、1m当たりの塩化物量=0.0Kg、1.2Kg、2.4Kgの3種類のコンクリート体10を、各2体製作した。通常の環境で乾燥後、2010年11月に、各塩化物量毎に1体ずつ、100度以上の高温で1週間乾燥処理した。式(1)から求めた含水率は、乾燥処理なしのコンクリート体10が約2%、乾燥処理したコンクリート体10が約0.7%となった。
【0027】
新コンクリート体:
2010年11月17日に、普通ポルトランドセメントを使用して水/セメント比60%で打設することにより、1m当たりの塩化物量=0.0Kg、0.3Kg、0.6Kg、1.2Kg、2.4Kgの5種類のコンクリート体10を、各2体製作した。通常の環境で乾燥後、2011年1月に、各塩化物量毎に1体ずつ、100度以上の高温で2週間乾燥処理した。式(1)から求めた含水率は、乾燥処理なしのコンクリート体10が約6.9%、乾燥処理したコンクリート体10が約0.2%となった。
【0028】
【数1】

式(1)において、Wf=乾燥処理前のコンクリート体10の質量、W0=乾燥処理後のコンクリート体10の質量である。
【0029】
(塩分濃度測定システム)
塩分濃度測定システム1を、一対の電極2a,2b、プラスチックフィルム3、インピーダンスメータ4、及び演算装置5を図示のように接続して構成した。
【0030】
一対の電極2a,2bは、コンクリート体10の表面に相互に間隔を隔てて配置される導電体であり、この実験では、真鍮を用いて縦20mm×横50mm×厚さ15mmの板状体として構成し、50mmの間隔を隔てて配置した。
【0031】
プラスチックフィルム3は、コンクリート体10の表面の凹凸によって生じる電極2a,2bとの接触抵抗を均一化するために、コンクリート体10と各電極2a,2bとの相互間に配置される絶縁層である。具体的には、厚さ数十μmのポリエチレンフィルムを使用した。ただし、プラスチックフィルム3の影響を比較するため、プラスチックフィルム3を用いずに、コンクリート体10の表面に直接的に電極2a,2bを設置した場合の測定も行った。
【0032】
インピーダンスメータ4(LCRメータ)は、一対の電極2a,2bの相互間にコンクリート体10を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定手段である。この実験では、日置電機株式会社製3522−50を使用した。なお、実験に際しては、コンクリート体10の重量も測定した。この測定には、新光電子株式会社製ViBRA CGX−12k(分解能1g)を用いた。
【0033】
演算装置5は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段である。この演算装置5としては、例えば、公知のパーソナルコンピュータを使用した。
【0034】
(測定結果)
このように構成した塩分濃度測定システム1を用いた測定結果について説明する。
【0035】
(測定結果−インピーダンスの周波数特性)
最初に、インピーダンスの周波数特性の測定結果について説明する。図2は、コンクリート体10のインピーダンスの周波数特性の測定結果を示すグラフであり、(a)は含水率=9.5%のコンクリート体10(新コンクリート体)の測定結果、(b)は含水率=2.0%のコンクリート体10(古コンクリート体)の測定結果、(c)は含水率=0.7%のコンクリート体10(古コンクリート体)の測定結果である。これら図2(a)〜(c)においては、いずれも、横軸を周波数(kHz)、縦軸をインピーダンス(Mオーム)としており、コンクリート体10の塩分濃度=0.0Kg/m、1.2Kg/m、2.4Kg/mの測定結果をプロットしている。また、図3は、周波数=10kHzにおけるインピーダンス、含水率、及び塩分濃度の関係を示すグラフである。
【0036】
これら図2、3から明らかなように、全体として、インピーダンスと含水率の関係に関しては、含水率が小さくなるに従い、インピーダンスの絶対値が大きくなる傾向が認められる。一方、インピーダンスと塩分濃度の関係に関しては、塩分濃度が小さくなるに従い、インピーダンスの絶対値が大きくなる傾向が認められる。また、古コンクリート体の中でも、乾燥処理後の含水率0.7%の古コンクリート体の方が、乾燥処理なしの含水率2%の古コンクリート体に比べて、塩分濃度の違いによるインピーダンスの差が大きく、特に、図3に示す10kHzに近い低い周波数体で、インピーダンスの差が顕著に認められた。
ただし、含水率が小さい古コンクリート体では、塩分濃度の違いによりインピーダンスに顕著な差が認められるが、含水率が大きい新コンクリート体では、塩分濃度の違いによる差が小さい。この理由は、インピーダンスの周波数特性に関しては含水率が支配的であると考えられ、打設直後の含水率が高いコンクリート体10では、インピーダンス測定には塩分濃度が反映されにくいためであると考えられる。
従って、このような特性をデータベースに蓄積しておくことで、測定したコンクリート体10のインピーダンスの大きさから、含水率や塩分濃度を判定できる可能性があることが明らかになった。
また、以上の結果から、乾燥処理後にも、コンクリート中の空隙水や固体表面の吸着水などの蒸発性水分だけでなく、化学的に結合して存在するセメント水和物中の非蒸発性水分にも、塩化物が存在することが推定された。特に、セメント水和物中の非蒸発性水分に含まれている塩化物量では差が大きかった。
【0037】
(測定結果−インピーダンスの位相角の周波数特性)
次に、インピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果について説明する。図4は、コンクリート体10のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフである。この図4は、いずれも、横軸を周波数(kHz)、縦軸を位相角(deg)としており、コンクリート体10の含水率=1%、2%、7%の測定結果をプロットしている。
この図4から明らかなように、含水率が大きくなる程、ピーク周波数が高周波側に移動し、位相角のピーク値(以下、ピーク位相角)が小さくなる傾向が認められる。
【0038】
図5は、コンクリート体10のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、(a)は含水率=0.7%のコンクリート体10(古コンクリート体)の測定結果、(b)は含水率=2.0%のコンクリート体10(古コンクリート体)の測定結果、(c)は含水率=7%のコンクリート体10(新コンクリート体)の測定結果である。これら図5(a)〜(c)においては、いずれも、横軸を周波数(kHz)、縦軸を位相角(deg)としており、コンクリート体10の塩分濃度=0.0Kg/m、1.2Kg/m、2.4Kg/mの測定結果をプロットしている。
この図5から明らかなように、含水率が7%の場合は、塩分濃度によるピーク周波数やピーク位相角の差は見られないが、含水率が低い2%、0.7%の場合は、塩分濃度によりピーク周波数やピーク位相角に差が見られ、塩分濃度が高い程、ピーク周波数がわずかに高周波側へ移動し、ピーク位相角がわずかに高くなる傾向がある。
このように、ピーク周波数及びピーク位相角は、含水率と塩分濃度との両方のパラメータにより変化するが、上述したインピーダンスの周波数特性の測定結果と同様に、含水率が低い2%、0.7%の古コンクリート体では、塩分濃度の違いによるピーク周波数の変化が明確に認められる。
【0039】
(測定結果−含水率とピーク周波数の関係)
図6は、含水率とピーク周波数の関係を示すグラフであり、横軸を含水率(%)、縦軸をピーク周波数(kHz)としており、コンクリート体10の塩分濃度=0.0Kg/m、1.2Kg/m、2.4Kg/mの測定結果をプロットしている。
この図6から明らかなように、含水率が測定等により特定できれば、ピーク周波数から塩分濃度が特定できる。しかし、含水率が特定できない場合、同一のピーク周波数に、0.0Kg/m、1.2Kg/m、2.4Kg/mの塩分濃度がそれぞれ対応して存在するため、塩分濃度が特定できない。
【0040】
(測定結果−含水率とピーク位相角の関係)
図7は、含水率とピーク位相角の関係を示すグラフであり、横軸を含水率(%)、縦軸をピーク位相角(deg)としており、コンクリート体10の塩分濃度=0.0Kg/m、1.2Kg/m、2.4Kg/mの測定結果をプロットしている。
この図7から明らかなように、含水率が4%より大きい新コンクリート体では、ピーク位相角により含水率はほぼ特定できるが、含水率が4%より小さい古コンクリート体では、ピーク位相角では含水率は特定できない。この理由は、含水率が4%より小さい古コンクリート体では、ピーク位相角の変化が小さく、図5(a)、(b)に示すように、ピーク位相角が含水率だけでなく、塩化物量によっても大きく変化するためである。
【0041】
(測定結果−プラスチックフィルムの効果)
図8は、コンクリート体10のインピーダンスの位相角の周波数特性の測定結果を示すグラフであり、図5(b)と同じ測定を行ったものであるが、プラスチックフィルム3の影響を比較するため、プラスチックフィルム3を用いずに測定を行った結果を示している。
図8から明らかなように、プラスチックフィルム3を用いずに測定を行った場合には、低周波数における位相角が塩分濃度により異なっているのに対して、図5(b)から明らかなように、プラスチックフィルム3を用いて測定を行った場合には、低周波数における位相角を塩分濃度に関わらず常にマイナス90度に補正して揃えることができ、コンクリート体10のインピーダンスの位相角の周波数特性の比較を容易かつ正確に行うことができるようになっている。
【0042】
(測定結果を再現できるコンクリートの等価回路を用いたモデリング)
(測定結果を考慮した等価回路)
これまで説明したインピーダンスと位相角の測定結果に基づいて、さらに、以下のような特性を挙げることができる。
1)「測定結果−プラスチックフィルムの効果」で説明したように、プラスチックフィルム3を用いて測定を行った場合には、低周波数での位相角が常にマイナス90度に補正されていたことから、電極2a,2bとコンクリート体10を絶縁するプラスチックフィルム3がコンデンサの役割を果たしていると考えられる。
2)「測定結果−インピーダンスの位相角の周波数特性」で説明したように、位相角の周波数特性がピーク値を取ることから、水の抵抗成分とコンデンサ成分とが並列接続回路になっていると考えられる。
3)「測定結果−インピーダンスの位相角の周波数特性」で説明したように、乾燥処理を施した供試体でも塩分濃度の違いにより位相角のピーク値が変化したことから、水の静電容量と塩化物イオンの静電容量は別に存在することが示唆された。
【0043】
このように推定された特性に基づいて発明者が提案するコンクリート体の等価回路を、図9に示す。ここで、C、C、Ccon、Cclは、それぞれ、プラスチックフィルム3の静電容量、コンクリート体10の水分の静電容量、コンクリート体10の静電容量、コンクリート体10の塩化物イオンの静電容量を示している。また、R、Rclは、それぞれコンクリート体10の水分の抵抗、コンクリート体10の塩化物イオンの抵抗を示している。
【0044】
この等価回路からコンクリート体10の全体のインピーダンスZを求めると、以下の式(2)になる。
【0045】
【数2】

式(2)において、
【0046】
【数3】

【0047】
式(2)から、インピーダンスZの実軸成分Zと虚軸成分Zは、それぞれ式(4)、式(5)のように求まる。
【0048】
【数4】

【0049】
【数5】

【0050】
ここで、位相角θは、θ=tan−1(Z/Z)により求まるので、式(4)及び式(5)式から、下記式(6)で求まる。
【0051】
【数6】

【0052】
ただし、式(4)〜式(6)において、A、B、C、Dは、それぞれ下記式(7)〜(10)のように定義した。
【0053】
【数7】

【0054】
【数8】

【0055】
【数9】

【0056】
【数10】

【0057】
(含水率が変化した場合の等価回路でのインピーダンスの変化)
図10は、等価回路に基づくインピーダンスの周波数特性の算定結果を示すグラフであり、(a)は含水率が大きい場合の算定結果、(b)は含水率が小さい場合の算定結果である。これら図10(a)(b)では、いずれも、横軸を周波数(kHz)、縦軸をインピーダンス(Mオーム)としており、塩分濃度が低い場合と塩分濃度が高い場合の算定結果をプロットしている。ここでは、C=100(pF)、Ccon=50(pF)で、含水率が大きい場合には、R=0.01(Mオーム)、C=250(pF)で、含水率が小さい場合には、R=1(Mオーム)、C=25(pF)とそれぞれ仮定した。また、含水率が大きい場合は含水率が小さい場合に比べて、Rは小さく、Cは大きい値とした。塩分濃度が高い場合には、Rcl=250(kオーム)、Ccl=2000(pF)であり、塩分濃度が低い場合には、Rcl=5000(kオーム)、Ccl=100(pF)とそれぞれ仮定した。また、塩分濃度が高い場合には塩分濃度が低い場合に比べて、Rclは小さく、Cclも小さい値とした。
この図10(a)から明らかなように、含水率が大きい場合では、塩分濃度によるインピーダンスの差は小さく、また、図2(a)に示した含水率=9.5%での測定結果と傾向が一致している。図10(b)に示した含水率が小さい場合の算定結果では、塩分濃度の違いによる差が大きく、図2(b)に示した含水率2.0%、図2(c)に示した含水率=0.7%での測定結果と、傾向が一致した。
【0058】
(含水率が変化した場合の等価回路での位相角の変化)
図11は、等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。この図11では、横軸を周波数(kHz)、縦軸を位相角(deg)としており、含水率が低い場合(含水率=4.0%の場合)と含水率が高い場合(含水率=6.5%の場合)の算定結果をプロットしている。ここでは、C=100(pF)、Ccon=50(pF)、Rcl=250(kオーム)、Ccl=2000(pF)にそれぞれ固定し、含水率が大きい場合には、R=0.01(Mオーム)、C=250(pF)で、含水率が小さい場合には、R=1(Mオーム)、C=25(pF)とそれぞれ仮定した。また、含水率が大きい場合は含水率が小さい場合に比べて、Rは小さく、Cは大きい値とした。塩分濃度が高い場合には、Rcl=250(kオーム)、Ccl=2000(pF)であり、塩分濃度が低い場合には、Rcl=5000(kオーム)、Ccl=100(pF)とそれぞれ仮定し、塩分濃度が高い場合には塩分濃度が低い場合に比べて、Rclは小さく、Cclも大きい値とした。
この図11から明らかなように、含水率が大きくなる程、ピーク位相角が高周波側に移動すると共に、ピーク位相角が小さくなる一方、含水率が大きい場合は、塩分濃度による差は認められず、図4の測定結果と傾向が一致した。
【0059】
(塩分濃度が変化した場合の等価回路での位相角の変化)
図12は、等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。この図12では、横軸を周波数(kHz)、縦軸を位相角(deg)としており、塩分濃度が低い場合(塩分濃度=0.0kg/mの場合)と塩分濃度が高い場合(塩分濃度=1.2kg/mの場合)の算定結果をプロットしている。ここでは、C=100(pF)、Ccon=50(pF)とし、含水率が低い場合を想定して、含水率が低い場合におけるR=1(Mオーム)、C=25(pF)とそれぞれ仮定した。また、塩分濃度が高い場合には、Rcl=250(kオーム)、Ccl=2000(pF)、塩分濃度が低い場合には、Rcl=5000(kオーム)、Ccl=100(pF)にそれぞれ仮定した。また、塩分濃度が高い場合には塩分濃度が低い場合に比べて、Rclが小さく、Cclは大きい値とした。
この図12から明らかなように、塩分濃度が高くなる程、ピーク位相角が高周波側に移動すると共に、ピーク位相角がわずかに大きくなり、図5(a)(b)に示した、含水率が低い2%、0.7%の古コンクリート体10での測定結果と傾向が一致した。
【0060】
(コンクリート体の静電容量が一定の場合と周波数特性を変化させた場合の等価回路での位相角の変化)
図13は、等価回路に基づく位相角の周波数特性の算定結果を示すグラフである。この図13では、横軸を周波数(kHz)、縦軸を位相角(deg)としている。Ccl=300(pF)、R=0.5(Mオーム)、C=500(pF)、Rcl=15、000(kオーム)、Ccon=一定=1、500(pF)と仮定し、式(1)〜(10)による等価回路で計算を行った結果、ピーク位相角は測定結果(含水率=4%、塩分濃度=0.0kg/m)と一致したが、グラフの曲線の勾配は測定結果と一致しなかった。
そこで、Cconの周波数特性の近似曲線を用いて位相角を計算した。この近似曲線は、非特許文献「A.M.Neville、「ネビルのコンクリートの特性」、技報堂出版、1979」の表7.4に記載されている普通ポルトランドセメント(気中養生の期間126日)の152mm立方体供試体を、埋込み電極で測定した、50Hz、500Hz、25、000Hzの静電容量値の間の周波数帯を補完して作成した。この近似曲線を図14に示す。なお、別の非特許文献「野田一弘、河野広隆、久田真、森濱和正、「交流作用時の硬化コンクリートの電気的性質に関する基礎的研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.25、No.1、pp.575〜580、2003」でも、比誘電率が周波数とともに小さくなることが示されている。
この近似曲線を用いて計算した位相角を図14に示す。この図14から明らかなように、Cconを周波数で変化させた位相角の計算結果の曲線の勾配は、測定結果と良く一致した。
【0061】
〔実施の形態1〕
次に、上記基礎理論に基づいて構築された本発明の実施の形態1について説明する。この形態は、インピーダンスと含水率を測定し、当該測定したインピーダンスと含水率に基づいて塩分濃度を特定する形態である。
【0062】
(塩分濃度測定システム)
この実施の形態1に係る塩分濃度測定システム1の構成を説明する。図15は、この塩分濃度測定システム1のブロック図である。この塩分濃度測定システム1は、図1に示した実験用の塩分濃度測定システム1と同様に、一対の電極2a,2b、プラスチックフィルム3、インピーダンスメータ4、及び演算装置5を図示のように電気的に接続して構成されている。
【0063】
一対の電極2a,2bは、コンクリート体10の表面に、相互に間隔を隔てて配置される導電体である。各電極2a,2bの材質や形状は任意であるが、本実施の形態では、各電極2a,2bは平板状に形成され、コンクリート体10の表面に平行かつ接触するように配置される。これら一対の電極2a,2bの相互間隔は、測定を行いたいコンクリート体10の内部の深さに応じて決定することができる。すなわち、一対の電極2a,2bの相互間隔を広げる程、コンクリート体10の内部のうち、これら一対の電極2a,2bを結ぶ直線に対して直交する方向(図1ではZ方向)に沿って深い部分を、測定することが可能になる。従って、電極2a,2bの相互間隔と測定対象部分の深さとの関係を予め特定しておき、各測定時の測定対象部分の深さに対応する間隔で一対の電極2a,2bを配置することで、所望の深さの部分を測定することができる。また、このように一対の電極2a,2bの相互間隔を容易かつ正確に調整可能とするため、これら一対の電極2a,2bをスライドゲージの如き間隔調整器具の各端部に配置等してもよい。
【0064】
プラスチックフィルム3は、コンクリート体10の表面の凹凸によって生じる電極2a,2bとの接触抵抗を均一化するために、コンクリート体10と各電極2a,2bとの相互間に配置される絶縁層である。このプラスチックフィルム3は、例えば、各電極2a,2bの側面の中で、少なくとも、コンクリート体10に対向する側面に取り付けられる。なお、「均一化する」とは、理想的には、電極2a,2bの各部とコンクリート体10の表面との相互間の接触抵抗を相互に完全に同一化することを意味するが、必ずしも完全に同一化する必要はなく、測定に支障がないレベルで同一化できればよい。このため、絶縁層としては、軟質な絶縁層を用いることが好ましい。
【0065】
インピーダンスメータ4(LCRメータ)は、一対の電極2a,2bの相互間にコンクリート体10を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定手段である。このインピーダンスメータ4の測定原理は任意であるが、例えば、ブリッジ法や共振法の如き方法によってインピーダンスを測定する。ただし、インピーダンスメータ4に代えて、発振器や電流計等を組み合わせて測定手段を構成してもよい。
【0066】
演算装置5は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段である。この演算装置5は、例えば、公知のパーソナルコンピュータにより構成されており、入力部6、出力部7、記憶部8、及び制御部9を備える。
【0067】
入力部6は、本実施の形態に係る測定方法を実行するために必要な各種の情報の入力を受け付けるための入力手段であり、例えば、キーボード、各種のスイッチ類、インピーダンスメータ4に接続される端子等として構成されている。
【0068】
出力部7は、本実施の形態に係る測定方法を実行するために必要な各種の情報を出力する出力手段であり、例えば、モニタ等として構成されている。
【0069】
記憶部8は、演算装置5の処理に必要な各種の情報を記憶する記憶手段であり、例えばハードディスクやその他の記録媒体によって構成されるもので、特性情報データベース8a(以下、データベースを「DB」と称する)を備える。この特性情報DB8aは、コンクリート体10の特性に関する情報を格納する特性情報格納手段であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報を格納する特性情報格納手段である。この第1特性情報は、例えば、図2に測定結果として示したように、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフで、複数の異なる塩分濃度に関するデータをプロットしたグラフであって、含水率毎に異なるグラフとして構成することができる。あるいは、図2に示すような2次元グラフに代えて、紙面に直交する方向に含水率の軸を設けた3次元グラフであってもよい。若しくは、グラフではなく、数値データであってもよい。すなわち、形式に関わらず、インピーダンス−周波数−含水率−塩分濃度の相互関係が特定できる情報であればよい。このような第1特性情報は、例えば、含水率及び塩分濃度が既知であるコンクリート体10を対象として、インピーダンス及び周波数を実際に測定することで、取得することができる。
【0070】
制御部9は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたインピーダンスと、任意の方法で測定された含水率とに基づいて、特性情報DB8aに格納された第1特性情報を参照することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段である。この制御部9は、具体的には、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのRAMの如き内部メモリを備えて構成されている。特に、本実施の形態に係る塩分濃度測定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納され、当該記録媒体から演算装置5にインストールされることで、制御部9を実質的に構成する。
【0071】
(塩分濃度測定方法)
次に、このように構成された塩分濃度測定システム1を用いて行われる塩分濃度測定方法について説明する。この方法では、最初に、第1特性情報を準備する。例えば、測定等により第1特性情報を取得して特性情報DB8aに格納する。
【0072】
次いで、測定対象となるコンクリート体10がある現場等において、このコンクリート体10に鉄筋や鋼管等が埋設されている可能性がある場合には、これら鉄筋や鋼管等による測定への影響を回避するために、ユーザがコンクリート体10における鉄筋や鋼管等の位置を測定する。この測定には、公知の任意の方法を用いることができ、例えば、本願発明者等による特開2010−210588号公報に開示の装置及び方法を適用することができる。この際、鉄筋や鋼管等の位置を測定する装置の構成を、塩分濃度測定システム1の構成と共通化することにより、測定システム全体を簡素化することが好ましい。
【0073】
その後、コンクリート体10の表面において、上記測定された鉄筋や鋼管等の位置を除外した位置に、ユーザが一対の電極2a,2bを配置を相互に間隔を隔てて配置する。この配置間隔は、上述のように、測定を行いたい深さに応じて決定する。そして、一対の電極2a,2bの相互間にコンクリート体10を介して交流電流を流し、その際の交流電流の周波数とインピーダンスをインピーダンスメータ4により測定し、この測定値を入力部6を介して演算装置5に入力する。この際、交流電流の周波数を所定範囲(例えば、図2の対応する10kHzから100kHz)まで徐々に変化させ、各周波数に対応するインピーダンスを測定して演算装置5に入力する。ただし、インピーダンスのピーク値のみで塩分濃度が特定できる場合には、インピーダンスがピーク値となる周波数(図2の例では10kHz)におけるインピーダンスのみを測定して演算装置5に入力してもよい。
【0074】
また、コンクリート体10の含水率を公知の含水率計を用いて測定する。この際、一対の電極2a,2bにより測定対象とした部分と同じ部分の含水率を測定することが好ましいが、深部の含水率の測定が困難である場合には、コンクリート体10の全体において含水率に大きな差異がないという前提の元、コンクリート体10の表面の含水率を測定してもよい。そして、このように測定された含水率を入力部6を介して演算装置5に入力する。なお、含水率とインピーダンスの測定は、いずれを先に行ってもよい。
【0075】
演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された周波数、インピーダンス、及び含水率に基づいて、特性情報DB8aの第1特性情報を参照し、これら周波数、インピーダンス、及び含水率の組み合わせに対応する塩分濃度を取得し、当該取得した塩分濃度を出力部7を介して出力する。この結果、コンクリート体10の塩分濃度を把握することが可能になる。
【0076】
その後、コンクリート体10の複数の部分を対象として塩分濃度を測定したい場合には、ユーザが一対の電極2a,2bをコンクリート体10の表面に沿って移動させながら、上記と同様に、周波数とインピーダンスの測定と塩分濃度の特定及び出力を行えばよい。この際、測定対象部分の位置情報は、ユーザが電極2a,2bを移動させる毎に、絶対的又は任意の位置を基準とする相対的な座標等により任意の入力手段を介して入力してもよく、あるいは、電極2a,2bの移動に伴って位置情報を取得するような手段(高精度のGPS等)から自動的に取得するようにしてもよい。なお当然のことながら、全ての対象部分について周波数とインピーダンスの測定を行った後で、各対象部分の塩分濃度をまとめて特定及び出力してもよい。
【0077】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、インピーダンスを測定することにより、コンクリート体10の塩分濃度を直接的に特定することができるので、維持管理が必要な鉄筋コンクリート構造物又は建築物の施工現場等において塩分濃度を簡易かつ正確に非侵襲で測定することが可能になる。
【0078】
また、プラスチックフィルム3を用いることで、コンクリート体10と電極2a,2bとの相互間の接触抵抗を均一化することができ、コンクリート体10の表面の平滑度が悪いような場合であっても、塩分濃度を正確に測定することが可能になる。
【0079】
また、インピーダンスと含水率とを測定することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定することができるので、インピーダンスの周波数特性に対して含水率が支配的に影響を与えるような場合であっても、塩分濃度を正確に特定することができる。
【0080】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、インピーダンスを測定し、当該測定したインピーダンスに基づいて含水率と塩分濃度を特定する形態である。ただし、実施の形態2において特に説明なき構成及び工程については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0081】
(塩分濃度測定システム)
実施の形態2に係る塩分濃度測定システム1は、実施の形態1に係る塩分濃度測定システム1と同様に構成されている。
ただし、演算装置5の制御部9は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、特性情報DB8aに格納された第1特性情報を参照することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段として構成されている。
【0082】
(塩分濃度測定方法)
次に、実施の形態2に係る塩分濃度測定方法について説明する。この方法では、実施の形態1と同様に、周波数とインピーダンスを測定し、当該特定された周波数とインピーダンスを演算装置5に入力する。演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された周波数及びインピーダンスに基づいて、特性情報DB8aの第1特性情報を参照し、これら周波数及びインピーダンスの組み合わせに対応する含水率と塩分濃度を取得し、当該取得した含水率と塩分濃度を出力部7を介して出力する。この結果、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を把握することが可能になる。例えば、図2の例では、交流電流の周波数=10kHzとした場合のインピーダンスのピーク値が、含水率と塩分濃度の両方に対して一意であるため、この周波数=10kHzのインピーダンスを測定することで、含水率と塩分濃度を同時に特定することができる。
【0083】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、インピーダンスのみを測定することにより、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を特定することができるので、含水率の測定作業を省略でき、塩分濃度を一層簡易に特定することができる。特に、含水率の非侵襲での測定が困難なコンクリート体10の深部に関しても、塩分濃度を特定することができる。
【0084】
〔実施の形態3〕
次に、実施の形態3について説明する。この実施の形態3は、ピーク周波数と含水率を測定し、当該測定したピーク周波数と含水率に基づいて塩分濃度を特定する形態である。ただし、実施の形態3において特に説明なき構成及び工程については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0085】
(塩分濃度測定システム)
実施の形態3に係る塩分濃度測定システム1は、実施の形態1に係る塩分濃度測定システム1と同様に構成されている。
ただし、記憶部8の特性情報DB8aには、コンクリート体10の特性に関する情報を格納する特性情報格納手段であって、ピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第2特性情報が格納されている。この第2特性情報は、例えば、図5に測定結果として示したように、周波数と位相角との関係を示すグラフで、複数の異なる塩分濃度に関するデータをプロットしたグラフであって、含水率毎に異なるグラフとして構成することができる。あるいは、図5に示すような2次元グラフに代えて、紙面に直交する方向に含水率の軸を設けた3次元グラフであってもよい。若しくは、ピーク周波数と塩分濃度のグラフであって含水率毎に異なる2次元のグラフや、ピーク周波数と塩分濃度と含水率の3次元グラフであってもよい。また、グラフではなく、数値データであってもよい。すなわち、形式に関わらず、ピーク周波数−含水率−塩分濃度の相互関係が特定できる情報であればよい。このような第2特性情報は、例えば、含水率及び塩分濃度が既知であるコンクリート体10を対象として、ピーク周波数を実際に測定することで、取得することができる。
【0086】
また、演算装置5の制御部9は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたピーク周波数と、任意の方法で測定された含水率とに基づいて、特性情報DB8aに格納された第2特性情報を参照することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段として構成されている。
【0087】
(塩分濃度測定方法)
次に、実施の形態3に係る塩分濃度測定方法について説明する。この方法では、実施の形態1と同様に、交流電流の周波数とインピーダンスの位相角をインピーダンスメータ4により測定し、この測定値を入力部6を介して演算装置5に入力する。この際、交流電流の周波数を所定範囲(例えば、図2の対応する10kHzから100kHz)まで徐々に変化させ、各周波数に対応するインピーダンスの位相角を測定して演算装置5に入力する。また、コンクリート体10の含水率を公知の含水率計を用いて測定して演算装置5に入力する。
【0088】
演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された周波数とインピーダンスの位相角に基づいて、ピーク周波数を特定し、当該特定したピーク周波数及び入力された含水率に基づいて、特性情報DB8aの第2特性情報を参照し、これらピーク周波数及び含水率の組み合わせに対応する塩分濃度を取得し、当該取得した塩分濃度を出力部7を介して出力する。この結果、コンクリート体10の塩分濃度を把握することが可能になる。なお、ピーク周波数は、上記測定された周波数とインピーダンスの位相角とに基づいてユーザが目視等で特定し、当該特定したピーク周波数を演算装置5に入力するようにしてもよい。
【0089】
その後、コンクリート体10の複数の部分を対象として塩分濃度を測定したい場合には、ユーザが一対の電極2a,2bをコンクリート体10の表面に沿って移動させながら、上記と同様に、周波数とインピーダンスの位相角の測定と塩分濃度の特定及び出力を行えばよい。なお当然のことながら、全ての対象部分について周波数とインピーダンスの位相角の測定を行った後で、各対象部分の塩分濃度をまとめて特定及び出力してもよい。
【0090】
(実施の形態3の効果)
このように実施の形態3によれば、ピーク周波数を測定することにより、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を直接的に特定することができるので、建築物の施工現場等において塩分濃度を簡易かつ正確に非侵襲で測定することが可能になる。
【0091】
また、プラスチックフィルム3を用いることで、コンクリート体10と電極2a,2bとの相互間の接触抵抗の影響を低減し均一化することができ、コンクリート体10の表面の平滑度が悪いような場合であっても、塩分濃度を正確に測定することが可能になる。また、コンクリート体10と電極2a,2bとの相互間にコンデンサ成分を形成することができ、低周波数における位相角を塩分濃度に関わらず常にマイナス90度に補正して揃えることができるので、コンクリート体10のインピーダンスの位相角の周波数特性の比較を容易かつ正確に行うことができる。
【0092】
また、ピーク周波数と含水率とを測定することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定することができるので、ピーク周波数の周波数特性に対して含水率が支配的に影響を与えるような場合であっても、塩分濃度を正確に特定することができる。
【0093】
〔実施の形態4〕
次に、実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、ピーク周波数を測定し、当該測定したピーク周波数に基づいて含水率と塩分濃度を特定する形態である。ただし、実施の形態4において特に説明なき構成及び工程については実施の形態3と同様であり、実施の形態3と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態3で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0094】
(塩分濃度測定システム)
実施の形態4に係る塩分濃度測定システム1は、実施の形態3に係る塩分濃度測定システム1と同様に構成されている。
ただし、演算装置5の制御部9は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたピーク周波数に基づいて、特性情報DB8aに格納された第2特性情報を参照することにより、コンクリート体10の含水率及び塩分濃度を特定する特定手段として構成されている。
【0095】
(塩分濃度測定方法)
次に、実施の形態4に係る塩分濃度測定方法について説明する。この方法では、実施の形態3と同様に、周波数とインピーダンスの位相角を測定し、当該特定された周波数とインピーダンスの位相角を演算装置5に入力する。演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された周波数及びインピーダンスの位相角に基づいて、ピーク周波数を特定し、当該特定したピーク周波数に基づいて特性情報DB8aの第2特性情報を参照し、このピーク周波数に対応する含水率と塩分濃度を取得し、当該取得した含水率と塩分濃度を出力部7を介して出力する。この結果、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を把握することが可能になる。例えば、図5、6の例では、ピーク周波数が、含水率と塩分濃度の両方に対して一意であるため、このピーク周波数を測定することで、含水率と塩分濃度を同時に特定することができる。
【0096】
(実施の形態4の効果)
このように実施の形態4によれば、実施の形態3と同様の効果に加えて、ピーク周波数のみを測定することにより、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を特定することができるので、含水率の測定作業を省略でき、塩分濃度を一層簡易に特定することができる。特に、含水率の非侵襲での測定が困難なコンクリート体10の深部に関しても、塩分濃度を特定することができる。
【0097】
〔実施の形態5〕
次に、実施の形態5について説明する。この実施の形態5は、インピーダンス及びピーク周波数を測定し、当該測定したインピーダンスに基づいて含水率を特定し、当該特定した含水率と当該測定したピーク周波数に基づいて塩分濃度を特定する形態である。ただし、実施の形態5において特に説明なき構成及び工程については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0098】
(塩分濃度測定システム)
実施の形態5に係る塩分濃度測定システム1は、実施の形態1に係る塩分濃度測定システム1と同様に構成されている。
ただし、記憶部8の特性情報DB8aには、コンクリート体10の特性に関する情報を格納する特性情報格納手段であって、第2特性情報と第3特性情報が格納されている。この第3特性情報は、例えば、第1特性情報と同様に構成できるが、少なくとも、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率とを、相互に対応付けて構成されていればよく、塩分濃度は明確に特定されている必要はない。例えば、図2の測定結果において、図2(a)〜(c)のグラフの各々を、当該各図に示す3つの曲線の各プロット値の最小値、最大値、あるいは中間値のみでプロットされた1本の曲線に置換したものを、第3特性情報としてもよい。つまり、含水率の差異に対するインピーダンスの変化は顕著であるため、この含水率の差異が判定できる情報であればよく、塩分濃度までを明確に特定できる必要はない。
【0099】
また、演算装置5の制御部9は、インピーダンスメータ4を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、特性情報DB8aに格納された第3特性情報を参照することにより、コンクリート体10の含水率を特定し、当該特定した含水率と特性情報DB8aに格納された第2特性情報を参照することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定する特定手段として構成されている。
【0100】
(塩分濃度測定方法)
次に、実施の形態5に係る塩分濃度測定方法について説明する。この方法では、実施の形態1と同様に、周波数とインピーダンスを測定し、また、実施の形態3と同様に、周波数とインピーダンスの位相角を測定し、当該特定された周波数、インピーダンス、及びインピーダンスの位相角を演算装置5に入力する。演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された周波数及びインピーダンスに基づいて、特性情報DB8aの第3特性情報を参照することにより、コンクリート体10の含水率を特定し、当該特定した含水率と特性情報DB8aに格納された第2特性情報を参照することにより、コンクリート体10の塩分濃度を特定し、当該特定した含水率と塩分濃度を出力部7を介して出力する。この結果、コンクリート体10の含水率と塩分濃度を把握することが可能になる。つまり、つまり、含水率の差異に対するインピーダンスの変化は顕著であるため、インピーダンスに基づいて含水率のみを特定し、また、含水率及び塩分濃度の差異に対するピーク周波数の変化は顕著であるため、これら含水率及び塩分濃度に基づいて塩分濃度を特定する。
【0101】
(実施の形態5の効果)
このように実施の形態5によれば、実施の形態1、3と同様の効果に加えて、インピーダンス及びピーク周波数を測定し、インピーダンスに基づいて含水率を特定し、この含水率とピーク周波数に基づいて塩分濃度を特定することができるので、含水率と塩分濃度のそれぞれを、これらの各々に対して最も顕著な差異が生じる個別の特性に基づいて特定でき、含水率と塩分濃度を一層正確に特定することができる。
【0102】
〔実施の形態6〕
次に、実施の形態6について説明する。この実施の形態6は、インピーダンス又はピーク周波数を測定し、当該測定したインピーダンス又はピーク周波数と、等価回路及び特性曲線とに基づいて、含水率と塩分濃度を特定する形態である。ただし、実施の形態6において特に説明なき構成及び工程については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0103】
(塩分濃度測定システム)
実施の形態6に係る塩分濃度測定システム1は、実施の形態1に係る塩分濃度測定システム1と同様に構成されている。
ただし、記憶部8の特性情報DB8aには、第1特性情報として、インピーダンスと周波数とを相互に対応付けて構成された第1特性曲線を含む情報が格納されており、又は、第2特性情報として、インピーダンスの位相角と周波数とを相互に対応付けて構成された第2特性曲線を含む情報が格納されている。第1特性曲線とは、例えば、図2に示したような曲線であり、第2特性曲線とは、例えば、図5に示したような曲線である。なお、第1特性情報としては、第1特性曲線以外にも、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けるための情報が格納されている。また、第2特性情報としては、第2特性曲線以外にも、ピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けるための情報が格納されている。また、特性情報DB8aには、これら第1特性曲線又は第2特性曲線に加えて、コンクリート体10の静電容量と周波数とを相互に対応付けて構成された第3特性曲線が格納されている。第3特性曲線とは、例えば、図14に示したような曲線であり、周波数とコンクリート体10の静電容量Cconとを相互に対応付けて構成された曲線であって、コンクリート体10の含水率(水分量)に応じて異なる複数の曲線として、特性情報DB8aに格納されている。これら各情報は、例えば、含水率及び塩分濃度が既知であるコンクリート体10を対象として、インピーダンスや位相角等を実際に測定することで、取得することができる。なお、「特性曲線を含む情報が格納されている」とは、必ずしも特性曲線自体が格納されている場合に限定されず、特性曲線を構成することができる数値データが格納されていることを含む。
【0104】
また、演算装置5の制御部9は、測定された複数の周波数におけるインピーダンスと、コンクリート体10の電気的特性を示す所定の等価回路であって、コンクリート体10の塩化物イオンの抵抗、コンクリート体10の水分の抵抗、コンクリート体10の塩化物イオンの静電容量、及びコンクリート体10の水分の静電容量をパラメータとして含む等価回路とに基づいて、第1特性曲線に適合するように、等価回路の各パラメータを最小二乗法等により算定し、当該算定した各パラメータに基づいてコンクリート体10の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する。あるいは、制御部9は、測定された複数の周波数における位相角と、等価回路と、第3特性曲線とに基づいて、準備工程において準備された第2特性曲線に適合するように、等価回路の各パラメータを最小二乗法等により算定し、当該算定した各パラメータに基づいてコンクリート体10の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する。
【0105】
(塩分濃度測定方法)
次に、実施の形態6に係る塩分濃度測定方法について説明する。
この方法では、複数の周波数の各々におけるインピーダンスを測定し、当該特定された各周波数におけるインピーダンスを演算装置5に入力する。また、プラスチックフィルム3の静電容量を公知の方法により測定して演算装置5に入力する。そして、演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された各周波数におけるインピーダンスと、プラスチックフィルム3の静電容量と、図9に示した等価回路とに基づいて、第1特性曲線に適合するように、等価回路の各パラメータを最小二乗法等により算定する。すなわち、等価回路のパラメータのうち、測定によって特定されたプラスチックフィルム3の静電容量を除く各パラメータを、測定によって特定されたインピーダンスに近似するように仮定し、当該仮定した各パラメータに基づいて構成される第1特性曲線が、特性情報DB8aに格納された第1特性曲線に近似するように最小二乗法等によりカーブフィッティングさせる。そして、最も曲線が近似した場合のパラメータを、最終的なパラメータとして特定し、当該特定したパラメータに基づいて、コンクリート体10の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する。そして、当該算定した含水率及び塩分濃度を出力部7を介して出力する。
【0106】
あるいは、この方法では、複数の周波数の各々における位相角を測定し、当該特定された各周波数における位相角を演算装置5に入力する。また、プラスチックフィルム3の静電容量を公知の方法により測定して演算装置5に入力する。そして、演算装置5の制御部9は、上記入力部6を介して入力された各周波数における位相角と、プラスチックフィルム3の静電容量と、図9に示した等価回路と、特性情報DB8aに格納されている第3特性曲線とに基づいて、第2特性曲線に適合するように、等価回路の各パラメータを最小二乗法等により算定する。すなわち、等価回路のパラメータのうち、測定によって特定されたプラスチックフィルム3の静電容量と、第3特性曲線から取得したコンクリート体10の静電容量Cconとを除く各パラメータを、測定によって特定された位相角に近似するように仮定し、当該仮定した各パラメータに基づいて構成される第2特性曲線が、特性情報DB8aに格納された第2特性曲線に近似するように最小二乗法等によりカーブフィッティングさせる。そして、最も曲線が近似した場合のパラメータを、最終的なパラメータとして特定し、当該特定したパラメータに基づいて、コンクリート体10の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する。そして、当該算定した含水率及び塩分濃度を出力部7を介して出力する。
【0107】
(実施の形態6の効果)
このように実施の形態6によれば、インピーダンス又はピーク周波数のみを測定することにより、等価回路と特性曲線を用いてコンクリート体10の含水率と塩分濃度を算定することができるので、含水率の測定作業を省略でき、塩分濃度を一層簡易に特定することができる。特に、含水率の非侵襲での測定が困難なコンクリート体10の深部に関しても、塩分濃度を特定することができる。
【0108】
〔各実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0109】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。さらに、本発明によって、上述していない課題を解決したり、上述していない効果を奏することもある。
【0110】
(塩分濃度測定システムの構成について)
塩分濃度測定システム1は、任意に分散又は統合を行うことができる。例えば、インピーダンスメータ4の機能の全部又は一部を、演算装置5に統合してもよい。あるいは、演算装置5の機能の全部又は一部を、複数の装置に分散してもよい。
【0111】
また、塩分濃度測定システム1の構成には、さらなる工夫を施すことができる。例えば、一対の電極2a,2bは、図16に示すように、それぞれを円筒状に形成すると共に、相互に同心円状に配置してもよい。また、図17に示すように、塩分濃度測定システム1と、この塩分濃度測定システム1の電源となる電池(図示省略)とを、一つの筐体20に一体に収容してもよい。この筐体20からは一対の電極2a,2b、入力部6(図示省略)、及び出力部7(図示省略)を露出させ、電極2a,2bの外面にはプラスチックフィルム3を固定する。また、筐体20の他の側面には、塩分濃度測定システム1を把持するための取手21を設ける。このような塩分濃度測定システム1によれば、現場において塩分濃度を測定することが一層容易になる。あるいは、複数の測定位置で測定を行う場合には、これら複数の測定位置の各々に一対の電極2a,2bを容易に移動させるため、車輪付きの台車に、一対の電極2a,2bを含む塩分濃度測定システム1や電源を積載し、台車を移動させることで、一対の電極2a,2bを各測定位置に移動させるようにしてもよい。この際、例えば、台車の車輪の回転数に基づいて台車の移動距離を測定する距離測定手段を持たせ、この距離測定手段によって測定された移動距離に基づいて、一対の電極2a,2bの位置を決定してもよい。
【0112】
(特性情報について)
特性情報としては、全てを生データとして格納する必要はなく、一部の生データのみを格納すると共に必要に応じて他のデータを補間により生成してもよい。例えば、第1特性情報として、周波数とインピーダンスとの関係を示すデータを格納する場合、複数の断続的な周波数に対応するインピーダンスのみを生データとして格納しておき、これら複数の周波数の間の周波数に対応するインピーダンスについては、生データに基づいて補間により生成してもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 塩分濃度測定システム
2a,2b 電極
3 プラスチックフィルム
4 インピーダンスメータ
5 演算装置
6 入力部
7 出力部
8 記憶部
8a 特性情報DB
9 制御部
10 コンクリート体
20 筐体
21 取手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の塩分濃度を測定するためのシステムであって、
前記コンクリート体の特性に関する情報を格納する特性情報格納手段であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報、又は、インピーダンスの位相角がピークになるピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第2特性情報、を格納する特性情報格納手段と、
前記コンクリート体の表面に、相互に間隔を隔てて配置された一対の電極と、
前記一対の電極の相互間に前記コンクリート体を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定手段と、
前記測定手段を用いて測定されたインピーダンスに基づいて、前記特性情報格納手段に格納された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定手段を用いて測定されたピーク周波数に基づいて、前記特性情報格納手段に格納された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、特定手段と、
を備えるコンクリート体の塩分濃度測定システム。
【請求項2】
前記コンクリート体と前記電極との相互間の接触抵抗を均一化すると共に、前記コンクリート体と前記電極との相互間にコンデンサ成分を形成するための軟質絶縁層を、前記コンクリート体に対向する前記電極の側面に配置した、
請求項1に記載のコンクリート体の塩分濃度測定システム。
【請求項3】
コンクリート体の塩分濃度を測定するための方法であって、
前記コンクリート体の特性に関する情報であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第1特性情報、又は、インピーダンスの位相角がピークになるピーク周波数と、含水率と、塩分濃度とを、相互に対応付けて構成された第2特性情報、を準備する準備工程と、
前記コンクリート体の表面に相互に間隔を隔てて一対の電極を配置し、当該一対の電極の相互間に前記コンクリート体を介して交流電流を流した状態におけるインピーダンス又はピーク周波数を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、特定工程と、
を含むコンクリート体の塩分濃度測定方法。
【請求項4】
前記測定工程において、前記コンクリート体と前記電極との相互間の接触抵抗を均一化すると共に、前記コンクリート体と前記電極との相互間にコンデンサ成分を形成するための軟質絶縁層を、前記コンクリート体と前記電極との相互間に配置し、当該軟質絶縁層を配置した状態で前記インピーダンス又は前記ピーク周波数を測定する、
請求項3に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法。
【請求項5】
前記測定工程において、前記インピーダンス又は前記ピーク周波数に加えて、前記コンクリート体の含水率を測定し、
前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンス及び含水率に基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数及び含水率に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、
請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法。
【請求項6】
前記測定工程において、前記インピーダンス又は前記ピーク周波数のみを測定し、
前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を特定し、又は、前記測定工程において測定されたピーク周波数に基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を特定する、
請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法。
【請求項7】
前記準備工程において、前記第2特性情報、及び、前記コンクリート体の特性に関する情報であって、インピーダンスと、当該インピーダンスに対応する周波数と、含水率とを、相互に対応付けて構成された第3特性情報を、準備し、
前記測定工程において、前記インピーダンス及び前記ピーク周波数を測定し、
前記特定工程において、前記測定工程において測定されたインピーダンスに基づいて、前記準備工程において準備された前記第3特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の含水率を特定し、当該特定した含水率と前記測定工程において測定されたピーク周波数とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性情報を参照することにより、前記コンクリート体の塩分濃度を特定する、
請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法。
【請求項8】
前記準備工程において、
前記第1特性情報として、インピーダンスと周波数とを相互に対応付けて構成された第1特性曲線を含む情報を準備し、
又は、
前記第2特性情報として、インピーダンスの位相角と周波数とを相互に対応付けて構成された第2特性曲線を含む情報を準備すると共に、コンクリート体の静電容量と周波数とを相互に対応付けて構成された第3特性曲線を準備し、
前記測定工程において、複数の周波数における前記インピーダンス、又は、前記ピーク周波数を含む複数の周波数における位相角を測定し、
前記特定工程において、
前記測定工程において測定された複数の周波数におけるインピーダンスと、前記コンクリート体の電気的特性を示す所定の等価回路であって、コンクリート体の塩化物イオンの抵抗、コンクリート体の水分の抵抗、コンクリート体の塩化物イオンの静電容量、及びコンクリート体の水分の静電容量をパラメータとして含む等価回路とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第1特性曲線に適合するように、前記等価回路の各パラメータを算定し、当該算定した各パラメータに基づいて前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定し、又は、
前記測定工程において測定された複数の周波数における位相角と、前記等価回路と、前記第3特性曲線とに基づいて、前記準備工程において準備された前記第2特性曲線に適合するように、前記等価回路の各パラメータを算定し、当該算定した各パラメータに基づいて前記コンクリート体の含水率及び塩分濃度を逆問題により算定する、
請求項3又は4に記載のコンクリート体の塩分濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−184948(P2012−184948A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46513(P2011−46513)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】