説明

コンクリート用の樹脂塗装鉄筋

【課題】従来のエポキシ樹脂塗装鉄筋及びステンレス鉄筋における問題点を一挙に解決することのできる新規な構成のコンクリート用の樹脂塗装鉄筋を提供すること。
【解決手段】鉄筋本体14が塗装樹脂膜15によって被覆されているコンクリート用の樹脂塗装鉄筋12。鉄筋本体14がSUS410やSUS316等のステンレス鋼であるとともに、塗装樹脂膜15の樹脂を、エポキシ樹脂又はエポキシと同等の耐アルカリ性、鉄筋への付着性、及び塩化物イオン遮蔽性を有する極性樹脂とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用の樹脂塗装鉄筋及び該樹脂塗装鉄筋を使用する鉄筋コンクリートの施工方法および鉄筋コンクリート構造(コンクリート製品を含む。)に関する。
【0002】
具体的には、橋梁、高潮堤(防波堤)や、海岸近辺のホテルその他の観光施設等の建造物をコンクリート施工する際に好適な発明に係る。なお、本発明の鉄筋コンクリート構造は、現場施工の場合ばかりでなく、プレキャスト等の鉄筋コンクリート製品にも勿論適用できるものである。
【背景技術】
【0003】
上記のような建造物を鉄筋コンクリートで施工する際には塩害を考慮して、エポキシ樹脂塗装鉄筋(1)乃至ステンレス鉄筋(2)を使用している。
【0004】
(1)ここで、樹脂塗装鉄筋の樹脂材料としてエポキシ樹脂が使用されるのは、現状では、耐アルカリ性、鉄筋への塗膜付着性、及び塩化物イオン遮蔽性に優れているためである。
【0005】
エポキシ樹脂塗装鉄筋についての、土木学会規格「JSCE−E102(2003)「エポキシ樹脂塗装鉄筋の品質規格」(以下単に「塗装鉄筋規格」という。)の一部を、表1として引用する。
【0006】
【表1】

【0007】
しかし、該エポキシ樹脂塗装鉄筋は、規格塗装膜厚が、防錆上の見地から、上記塗装鉄筋規格に規定されているように「220±40μm(180〜260μm)」と厚い。このため、下記のような課題(問題点)があった。
【0008】
1)塗料消費量が嵩み、省資源の見地から望ましくなく、且つ、塗装工数も嵩む。
【0009】
2)コンクリートとの付着強度が低下する。この付着強度の低下は、鉄筋の構造設計に折り込む必要がある。すなわち、付着強度が15%低下することを見込んで、コンクリート13への基本定着長さを無塗装鉄筋の1.18倍以上確保する必要がある。すなわち、図1に示す如く、鉄筋12、12相互を接続配筋する場合、鉄筋12、12の重ね継手とする場合の重ね長さL1を塗装品においては、無塗装鉄筋の1.18倍以上とするように前記「塗装鉄筋規格」に規定されている。
【0010】
3)塗料の柔軟性が低下する。特に、冬季等の低温下では塗料柔軟性の更なる低下によりその傾向は顕著となる。すなわち、塗装鉄筋規格において、曲げ加工半径は、低温(5℃以下)では3D(D:鉄筋径)、室温では2Dと規定されている。冬季に2Dの曲げ加工をしようとすると、鉄筋を加温する必要があるが、現場での加温曲げ加工は困難である。
【0011】
4)重塩害地域では、エポキシ樹脂鉄筋を使用しても、下記理由により、通常、コンクリート層13の被り厚L2(図2参照)をも増大させて対応していた(設計自由度が制限された。)。
【0012】
塗装樹脂鉄筋の素材(炭素鋼:通常、SD又はSR)の腐食発生限界塩化物イオン濃度(土木学会規格JSCE−E104「エポキシ樹脂塗装鉄筋用塗料の品質規格」)が、1.2kg/mと低い。また、鉄筋加工・搬送・施工に際して、塗膜面が傷つくことが避けられず、補修塗装は完璧に行うことが困難である。さらには、塗膜面のピンホールが5〜8個/mの頻度で許容されている(塗装鉄筋規格)。
【0013】
5)曲げ加工に際して、樹脂製ローラを使用する。しかし、樹脂製ローラは、鉄製ローラに比して、耐久性が非常に低く、結果的に鉄筋組み立ての施工コストが嵩む。樹脂製ローラを使用するのは、塗膜のエグレ・傷つき等防止の見地からである。
【0014】
(2)ステンレス鉄筋としては、耐塩害性を確保するために、SUS316鉄筋の使用が検討されることがある。しかし、SUS316鉄筋は、単価が900円/kg(平成20年4月現在、以下同じ。)と炭素鋼鉄筋の単価:100円/kgに比して非常に高いため、非磁性が要求される病院や研究所等に限られ、汎用の箇所には使用が制限された。このため、SUS316鉄筋より単価の安いステンレス鉄筋、例えば、値段的にSUS316鉄筋の半値であるSUS410鉄筋(単価:450円/kg)を使用することが考えられる。しかし、SUS410鉄筋のレベルでは、防錆性は、塩基度がpH12以上でなければ確保し難く、pHがそれらより低い中性域では、確保できないとされている。
【0015】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、エポキシ樹脂鉄筋の防錆性を改善する発明に関連する先行技術文献としては、特許文献1・2等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−51748号公報(要約書等)
【特許文献2】特開2006−57335号公報(要約書、請求項8等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術の問題点(課題)を一挙に解決することのできる新規な構成の樹脂塗装鉄筋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の樹脂塗装鉄筋に想到した。
【0019】
鉄筋本体が塗装樹脂膜によって被覆されているコンクリート用の樹脂塗装鉄筋において、鉄筋本体がステンレス鋼であるとともに、塗装樹脂膜の樹脂が、エポキシ樹脂又はエポキシと同等の耐アルカリ性、鉄筋への付着性、及び塩化物イオン遮蔽性を有する極性樹脂であることを特徴とする。
【0020】
上記構成において、ステンレス鋼が、SUS410又は同等の防錆性を有するマルテンサイト系である場合には、塗装樹脂膜の設定乾燥膜厚は30〜170μmとする。また、上記ステンレス鋼が、SUS316又は同等の防錆性を有するオーステナイト系である場合には、塗装樹脂膜の設定乾燥膜厚は10〜150μmとする。
【0021】
また、適用するステンレス鉄筋の鉄筋径は、通常、6〜60mmとする。
【0022】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、変性エピクロロヒドリン−ビスフェノールA型とし、塗装樹脂膜を粉体塗装で形成することが望ましい。
【0023】
上記各構成の樹脂塗装鉄筋を使用して鉄筋コンクリートを施工する方法も本発明の技術的範囲に属する。
【0024】
また、上記各構成の樹脂塗装鉄筋で形成された配筋がコンクリートで被覆されてなる鉄筋コンクリート構造(コンクリート製品も含む)も本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】コンクリート鉄筋の配筋接続部を示すモデル断面である。
【図2】コンクリートで被覆された塗装樹脂鉄筋のモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の望ましい形態について説明する。
【0027】
本発明の樹脂塗装鉄筋12は、鉄筋本体14が塗装樹脂膜15で被覆されているものである(図2参照)。
【0028】
ここで、鉄筋本体14の材質は、ステンレスとする。ステンレスの種類は、特に限定されない。オーステナイト系(例えば、SUS304、SUS316)、オーステナイト・フェライト系、フェライト系(例えば、SUS410L)およびマルテンサイト系(例えば、SUS410)を問わず、コスト及び/又は耐塩害性、曲げ加工性等の要求性能に応じて選択する。
【0029】
コスト的な見地からは、相対的に低価格のSUS410又は同等の防錆性を有するマルテンサイト系のものを選択し、性能的な見地からは、相対的に耐防錆性の高いSUS316又は同等の防錆性を有するオーステナイト系のものを選択する。
【0030】
すなわち、マルテンサイト系の場合、同一の防錆性を得るためにはオーステナイト系に比して相対的に塗膜厚を厚くする必要がある。そして、同一膜厚ではオーステナイト系の方がマルテンサイト系に比して防錆性が高くなる。したがって、マルテンサイト系の場合、経済的であり実際的であるのに対し、オーステナイト系の場合、特殊な用途や高度の防錆性(耐塩害性)が要求される場合の設計の自由度が増大し、非磁性が要求される病院や研究所は勿論、高度の防錆性(耐塩害性)が要求される部位への使用が期待できる。
【0031】
鉄筋本体12の太さは、JIS G3112に規定されている、鉄筋径(称呼径)10〜60mmのものを使用できる。
【0032】
塗装樹脂膜を形成する合成樹脂(塗膜形成要素)の種類は、耐アルカリ性(pH12以上)を有し、且つ、前述のJSCE−E104に規定する鉄筋に対する塗膜密着性および塩化物イオン遮蔽性の各試験方法において基準を満たすものであれば特に限定されない。通常、実績のあるエポキシ樹脂を使用する。
【0033】
そして、塗料のタイプも、粉体、エマルション、サスペンション、溶液を問わない。通常、塗装形態も特に限定されない。作業・大気環境の見地、及び、省資源の見地から、下記のような態様で粉体塗装により行うことが望ましい。
【0034】
素材(鉄筋)をブラスト処理後、素材表面温度を180〜240℃まで加温維持した状態で、設定乾燥膜厚となるように静電塗装(電圧:100kV)を行う。
【0035】
塗装樹脂膜14の設定乾燥膜厚は、要求性能(曲げ加工性、防錆性等)により異なる。ステンレスの種類により異なるが、例えば、要求性能が従来のエポキシ樹脂塗装鉄筋と同等の場合、下記のような膜厚とする。当然、従来のエポキシ樹脂塗装鉄筋より優れた防錆性が要求される場合はより肉厚とし(例えば、170μm超260μm以下)、防錆性が要求されない場合はより薄肉でよい。
【0036】
SUS410:30〜170μm(好ましくは60〜140μm)
SUS316:10〜150μm(好ましくは30〜100μm)
上記実施形態の樹脂塗装鉄筋の使用態様は、従来のエポキシ樹脂塗装鉄筋と同様である。
【0037】
そして、本実施形態においては、鉄筋がステンレスであることと、膜厚が薄いこととの相乗により、下記のような作用・効果を奏する。
【0038】
1)塗装樹脂鉄筋の製造に際して、塗料使用量を大幅に軽減できる。たとえば、鉄筋径20mmの鉄筋で従来220μmであったものを、100μmとした場合、下記円環面積の式を用いて、比率を求めると、
π(D+t)/4−π(D)/4=π(2Dt+t)/4
(2×20×0.10+0.01)/(2×20×0.22+0.048)=1/2.2ですむ。
【0039】
2)曲げ加工性が向上する。すなわち、低温下(5℃)でも、常温(20℃)における曲げ内半径2D(D:鉄筋径)の曲げ加工が可能となり、冬季においても、現場で樹脂塗装鉄筋を暖めることが不要となる。
【0040】
3)設定乾燥膜厚を略50μm以下とすることで、無塗装鉄筋と同等の付着強度が期待できる。すなわち、鉄筋径によるが、設定乾燥膜厚が略50μmを超えると異形鉄筋(リブ付き鉄筋)の凹凸が丸みを帯び、鉄筋のコンクリートに対する結合力(付着力)が相対的に低下する。
【0041】
したがって、コンクリートへの定着長さを余分に採る必要がなくなる。
【0042】
4)重塩害地域でも、コンクリートの被り厚L2を増大させる必要がなくなる。すなわち、被り厚L2の低減は、構造物(工作物)の重量低減及びコンクリート使用量の削減につながる。さらには、設計の自由度、屋内占有空間を増大できる。通常の、エポキシ樹脂塗装鉄筋の素材(鉄筋コンクリート用棒鋼:SD、SDR、SR、SRR)は、腐食発生限界塩化物イオン濃度が、1.2kg/mであるのに対し、SUS410の場合8〜9kg/mである。このため、鉄筋の曲げ加工時・曲げ加工時・搬送時に傷が発生したとしても、ステンレス自体の防錆性と樹脂被膜による保護作用が相まって、防錆性を確保できる。したがって、補修必要性が低減して、施工現場での、鉄筋の加工・配筋・補修における作業性が向上する。
【0043】
4)鉄製ローラによる曲げ加工が可能となる。塗装膜厚を薄くすることにより、樹脂ローラを使用しなくても、塗膜のツブレ・エグレ等が発生しがたくなるためである。したがって、高価な樹脂ローラの使用が不要となる。
【0044】
5)SUS316鉄筋と同等の防錆性を有する鉄筋をより安価に提供できる。例えば、平成20年4月現在において、SUS316の単価は900円/kgであるのに対し、SUS410の単価は450円/kgであり、エポキシ樹脂塗装の鉄筋重量当たり単価は57〜92円/kgである。したがって、半値近くで提供できることになる。
【0045】
6)ステンレスがSUS410レベルのものであっても、錆び発生を抑制できる。コンクリートが酸性雨等による中性化の結果pH12以下となっても、エポキシ樹脂による保護膜により、極性樹脂(エポキシ樹脂)により塩化物イオンが遮蔽されるものと推定される。中性化したコンクリートでは、SUS410レベルでは、赤錆が発生してしまうとされている。
【0046】
7)溶接箇所に、塗装樹脂と同系の補修用塗料を塗布しておけば、溶接部位の耐食性を確保できる。ステンレスであっても、溶接箇所は、急冷しないと、表面に酸化スケールの析出等により赤錆が発生し易くなる。
【実施例】
【0047】
次に本発明の効果を確認するために従来例・対照例とともに実施例について行った性能試験結果について説明する。
【0048】
1) 実施例1・2の鉄筋は、異形鉄筋(SUS410、鉄筋径(称呼径):19mm)をブラスト処理後、215±15℃に加熱維持して、表2に示す各膜厚となるように静電塗装(電圧:100kV)を行った後、空冷して調製した。
【0049】
2)対照例1・2・3の鉄筋は、SUS410、SUS304、SUS316製の各異形鉄筋(市販品、称呼径:19mm)の無塗装品を用いた。
【0050】
3) 従来例は、粉体エポキシ樹脂塗装の異形鉄筋(市販品、素材:SD、称呼径:19mm、設定乾燥膜厚:220±40μm)を用いた。
【0051】
上記各従来例・各対照例・各実施例について、表2に示す項目の試験をJCSE E 102に準じて行った。
【0052】
それらの結果を示す表2から、実施例1・2の樹脂塗装鉄筋は、耐衝撃性、曲げ加工性及び付着強度において、従来例(エポキシ樹脂塗装鉄筋)より優れ、また、耐食性においても、従来例及び無塗装SUS410鉄筋(対照例1)よりも優れ、無塗装SUS304・SUS316鉄筋(対照例2・3)と同等であることが確認できた。
【0053】
【表2】

【符号の説明】
【0054】
12 (異形)鉄筋
13 コンクリート(層)
14 鉄筋本体
15 塗装樹脂膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋本体が塗装樹脂膜によって被覆されているコンクリート用の樹脂塗装鉄筋において、前記鉄筋本体がステンレス鋼であるとともに、前記塗装樹脂膜の樹脂が、エポキシ樹脂又はエポキシと同等の耐アルカリ性、鉄筋への付着性、及び塩化物イオン遮蔽性を有する極性樹脂であることを特徴とする樹脂塗装鉄筋。
【請求項2】
前記ステンレス鋼が、SUS410又は同等の防錆性を有するマルテンサイト系である場合において、前記塗装樹脂膜の設定乾燥膜厚が30〜170μmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂塗装鉄筋。
【請求項3】
前記ステンレス鋼が、SUS316又は同等の防錆性を有するオーステナイト系である場合において、前記塗装樹脂膜の設定乾燥膜厚が10〜150μmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂塗装鉄筋。
【請求項4】
前記ステンレス鋼の鉄筋径が6〜60mmφであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の樹脂塗装鉄筋。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、変性エピクロロヒドリン−ビスフェノールA型であって、前記塗装樹脂膜が粉体塗装で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂塗装鉄筋。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂塗装鉄筋を使用して配筋後、コンクリートを被せることを特徴とする鉄筋コンクリートの施工方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂塗装鉄筋で形成された配筋がコンクリートで被覆されてなる鉄筋コンクリート構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−169019(P2011−169019A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33445(P2010−33445)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(592261904)筒井工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】