説明

コンクリート製水路壁の補修工法とコンクリート製水路壁構造体

【課題】工業用水路や農業用水路等の水理関連設備に用いられるコンクリート製水路構造体の壁表面に生じる劣化部位を除去し、従前以上の強度とし施工後表面に発生する微細クラック等を抑制できるコンクリート製水路壁の補修工法及び水路壁構造体を提供する。
【解決手段】本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、脆弱化箇所とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、正常なコンクリート内部の健全部を露出させる下地処理工程と、健全部に有機繊維を含むモルタル基材を塗工する塗工工程とよりなる。また本発明の補修工法は、水路壁の側面と床面との打ち継ぎ部位に側面と床面のモルタル基材内にて埋設材を埋設することにより連設する連設工程を有する。本発明のコンクリート製水路壁構造体10は、上記コンクリート製水路壁の補修工法により、水路Wの流れ方向に垂直な構造断面に、耐アルカリガラス繊維製シートFと、チョップ状繊維とを含むモルタル基材の層12、13を形成するように施工されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水路や農業用水路等の水理関連設備として用いられるコンクリート製の水路構造体の経時的な表面等の構造の劣化を補うために行われる補修工法、及びこの補修工法により構築される取水用、あるいは排水用の用水路設備のコンクリート製水路壁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の用途に用いられる用水路設備として、コンクリート製の水路構造物が一般に使用されている。このようなコンクリート製水路構造物は、一度構築されると長期に亘り使用し続けられるため、水路の表面部分等は経時的に水路を流れる水や水とともに流れる異物により化学的あるいは物理的な浸食等の影響を受け続けることになる。また水路の施工場所周囲の環境によっては、生物活動に伴う各種汚染の影響等のため構造物の表面等の劣化が著しく進行する場合もあるため、水路を長期間に亘り使用し続けるためには、劣化した箇所の補修、改修や修繕を施さなければならなくなる。
【0003】
例えば農業用水路の場合には、水路の壁表面は施工後わずか5年しか経たないのものであっても、水流や水圧に加えて水路周辺に生息する植物、すなわち草木根の外部壁面からの侵入、昆虫等の各種生物の侵入等、種々の要因によりモルタルの離脱作用が顕著に高まり、水路の壁表面の劣化が著しく進行する場合も認められる状況にある。
【0004】
また水路のコンクリート製の壁面に関しては、施工方法にも依存するものの施工後のコンクリート壁表面に微細なクラック、ひび割れ等の欠陥が発生しやすく、ひび割れ箇所を放置すると水路壁の施工後の耐用年数を設計時に想定していたよりも一層短くするという問題もある。
【0005】
このようなコンクリート製水路壁の劣化状況を改善し、用水路を継続的に長期に亘り使用できるものとするため、これまで用水路設備の補修を行う各種の工法が発明されて使用されてきた。例えば特許文献1では、モルタルとガラス屑、フライアッシュを混合した補修材を凹部に充填補修する方法が開示された。また特許文献2では、複数のレジンコンクリート製のパネル材と劣化水路表面との間に接着剤を充填する工法が開示されている。また老朽化や劣化が大きくなりすぎて用水路としての機能を充分に果たさなくなった場合には、用水路全体を一度破壊して、新たに用水路を構築するということも行われている。さらに特許文献3では、収縮低減剤を使用することでコンクリート硬化体の表面に発生するひび割れを抑制するという発明も開示されている。
【特許文献1】特開2001−213653号公報
【特許文献2】特開2005−120664号公報
【特許文献3】特開2004−175633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらこれまでに開示された工法だけでは、充分なものではない。上記特許文献1のような方法は、それなりの効果を有するが、充填補充した箇所と旧来の箇所との継ぎ目部がさらなる劣化原因となる場合もある。また特許文献2に開示された工法を採用する場合には、用水路の断面積を補修前よりも小さくせねばならないという問題もある。また用水路全体を一度破壊するには、高額の改修費用が必要となるばかりか、施工に必要となる時間も長時間を要するものとなってしまうという問題もある。
【0007】
また、特許文献3のような薬剤を使用することについてもひび割れの発生を押さえるにはそれなりに効果的なものではあるが、水路の側壁表面や床面の表面等のように大気中で利用されるよりも過酷な環境で発生するひび割れやクラックを抑制するには、より大きな抑止力を実現する必要がある。
【0008】
本発明は、係る状況に鑑み、工業用水路や農業用水路等の水理関連設備として用いられるコンクリート製の水路構造体の壁表面等に発生する経時的な劣化を改善し、従前以上の強度を実現すると同時に施工後の硬化体表面等に発生する微細なクラックやひび割れを効果的に抑制することのできるコンクリート製水路壁の補修工法と、この工法により得られる水路壁構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記脆弱化箇所または非老朽化箇所とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、正常なコンクリート内部の健全部を露出させる下地処理工程と、該健全部に有機繊維を含有するモルタル基材を塗工する塗工工程とを有することを特徴とする。
【0010】
ここで、脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記脆弱化箇所または老朽化箇所とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、正常なコンクリート内部の健全部を露出させる下地処理工程と、該健全部に有機繊維を含有するモルタル基材を塗工する塗工工程とを有するとは、経時的に物理的な弱体化あるいは化学的に脆弱化された状態にあるコンクリートにより構成された水路設備の内側壁、外側壁あるいは水等と接する床面、さらに水路構造体の底面の表面、また構造体内部に起因する経時的な劣化、施工環境的な要因により生じた欠陥、人的な欠陥、設計上発生した欠点さらにそれらが複合化した問題点などの水路を構成するコンクリート材料部の総てを対象とするものであって、このような問題の発生した部位を初期の強度状態あるいは初期以上の強度状態へと改善する補修工法である。弱体化状態あるいは脆弱化状態の表面から、削り除去を行うことにより弱体化状態あるいは脆弱化状態の表面部とその周囲の正常な状態にある部位の一部までも除去し、正常な表面が露出された状態とする下地処理工程と、その露出面上に有機繊維を含むモルタル基材を塗布する塗工工程の2つの工程によりコンクリート製の水路壁面に従前以上の外観品位と強度とを有する構造物を形成する塗工工程とよりなる工法であることを意味している。ここで健全部すなわち正常な部位とは、その水路に必要な機能について経時的に化学的あるいは物理的に顕著な劣化が認められない部位のことであって、単に外観的に色彩が変化したということを意味するものではない。劣化部位は、水路に必要となる強度、硬度や化学的耐久性などについて、本来有するべき性能を維持できなくなるような性能の低下の認められる部位を表している。
【0011】
ここで壁とは、単純に水路内部の側壁面のみを意味するのではなく、側壁の外表面、構造体の外面に相当する底面、水等の流動体と常に接触する床面等を含むものであり、さらに必ずしも表面とは限らず、コンクリート構造体の内部に起因する問題のため、構造体の表面をも再生せねばならない場合についても本件の壁に該当するものである。
【0012】
弱体化状態あるいは脆弱化状態の表面から、削り除去を行うことにより弱体化状態あるいは脆弱化状態の表面部とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、コンクリート内部の正常な表面が露出された状態とする下地処理工程については、例えば具体的に示すと次のような手順で行う。
【0013】
まず補修工法を適用する水路内に堆積した土砂、あるいはヘドロ等の除去を行う。その際に水草なども一緒に除去する。除去の方法はどのようなものでも良いが、水路コンクリートの容積が充分大きければ、小型のショベルカー等を用いると効率がよい。水路コンクリートの容積が十分に大きくない場合には人力によりショベル、スコップ等の工具などを駆使して作業を行う。水路内の土砂等の除去作業が完了後に10〜20MPa程度の高圧水を使用して、除去作業で十分に取り除けなかった藻や苔等と一緒に老朽化して脆弱となったコンクリート水路表面の除去を行う。高圧水の使用では、あまり水圧が高すぎると健全なコンクリート部が過剰に除去されすぎてしまい、反対に水圧が低すぎると充分な除去が出来ないため、確実に脆弱部を除去できる水圧であって、しかもわずかに健全部が除去される程度の水圧となるように注意して除去を行うのが好ましい。老朽化部の除去が完了した段階で、水路コンクリートの損傷の程度を調査する。この調査では、大きなひび割れ、鉄筋の露出、大きな欠損等の大きさや存在箇所、深さに注意する。また露出している鉄筋に対しては防錆処理を、大きな欠損に対してはモルタルによる埋め戻しを行い、ほぼ平坦な面とする。
【0014】
またその健全な露出面上に有機繊維を含むモルタル基材を塗布する塗工工程の2つの工程によりコンクリート製の水路壁に従前以上の外観品位と強度とを有する構造物を形成する塗工工程については、具体的に例示すると次のようになる。
【0015】
まず予めチョップ形態の有機繊維、水、砂、セメント、ガラス繊維を均等になるように混合した配合材となるようにモルタル基材を作製しておく。繊維類は連続繊維をカットしながら混練機に投入してもよい。モルタルに配合する添加物としては、前記以外にも特定の性能を付与する添加剤を任意に必要に応じて添加することができる。
【0016】
このような添加剤について例示すれば、コンクリート中に混和させても作業性を損なうことなく使用水量を減少させることができる減水剤、モルタルやコンクリートの温度や外気温度の影響を軽減化する場合や混合後に打設するまでの時間により凝結速度を調節するために使用される硬化促進剤や硬化遅延剤、水和熱低減効果、長期的な強度、耐浸食性あるいは耐熱性の向上、さらに水密性や流動性の向上、また収縮率低減などの諸機能を付与するためにも使用されるスラグ、フライアッシュ、シリカフューム等の珪素含有混和材、コンクリート中に無数の微細気泡を混入せしめ、型枠内へコンクリートを打ち込む際の作業性や硬化コンクリートの耐久性、耐凍害性を向上するために用いられるコンクリート混和材料であるAE剤(Air Entraining Agent:空気連行剤ともいう)、コンクリート中に含有される塩分(主に塩化成分)に起因する鉄筋等酸化性骨材の腐食制御のために使用される防錆剤、さらにモルタルおよびコンクリート中に多量の気泡を含ませて軽量化、断熱性等の性質付与のため使用される気泡剤、その他流動化剤、増粘剤、防水剤、着色剤、急結剤等を必要に応じて添加してもよい。また、補修モルタル表面に藻や苔の発生を抑制するための抗菌剤等や発生を促進する栄養剤、成長促進剤等を必要に応じて適量だけ添加してもよい。
【0017】
ここで、本発明に係るチョップ形態の有機繊維の材質については、コンクリートとの馴染みがよくコンクリートによって著しく化学的に変質することもなく、コンクリート中に混合することによって、施工後に硬化体の表面部の微細なクラックの生成を抑止するだけの充分な強度を有する材質よりなるものであれば特に限定されるものではない。
【0018】
例えば、このチョップ形態の有機繊維の材質としては、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ジアリルフタレート、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコール、メラミンフェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、アイオノマー、塩素化ポリエーテル、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン、アクリル塩化ビニル共重合樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリアセタール、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ノルカ樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ブタジエンスチレン樹脂、ポリウレタン、ポリアミノビスマレイド、ポリスルフォン、ポリブチレン、珪素樹脂、ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化エチレンプロピレン、ペルフロロアルコキシフッ化プラスチック、ポリフッ化ビニリデン、MBS樹脂、メタクリル−スチレン共重合体、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルスルフォン、ポリブタジエン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトンを使用することができる。またこれらの材料中にガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、ガラスパウダー、ガラスビーズ、セラミックスファイバ、セラミックス粉末等を適量混入した複合材料であってもよい。
【0019】
また本発明に係るモルタルは、いわゆるセメントモルタルであって、建築土木用材料として一般的に用いられるセメント、細骨材、軽量骨材、水、ポリマーを適量含有するセメントモルタルやポリマーセメントモルタルが使用できる。そして各種の混和剤を適宜添加混合することができる。特段の説明がない限り、本発明で言うところのモルタルは、セメントモルタル、ポリマーセメントモルタルのことを指している。
【0020】
水についても、特段のものは必要としない。ただし水の可溶成分としてセメントの水和反応による硬化を妨げるような働きをする成分が添加されたものを使用するのは好ましくなく、例えばJIS A 5308(2003)レディーミクストコンクリートに規定される水を使用することができる。
【0021】
また本発明に係るモルタル基材については、モルタル基材を構成する際に使用される砂、骨材の種類は問わない。すなわち、例えばJIS A 5308(2003)の付属書1に規定されている砕砂や砂であれば使用することができる。最大粒径が細かい砂を使用すると表面の仕上がりが良好となるので好ましい。また、0.15mm以下の微粉が少ない方がモルタルの耐摩耗性が向上するためよい。
【0022】
そして高圧洗浄を行うことによって脆弱部であった所に鉄筋が露出している箇所がある場合には、その表面に亜硝酸リチウム等の防錆塗料を塗布し、モルタルで埋め戻しておく。また吸水調整剤等の必要な薬剤を被施工面上に施すこともできる。この吸水調整剤はモルタルに添加するポリマーと同じ種類のものを使用すると相性が良く充分な接着強度が得られるため好ましい。
【0023】
このような一連の準備を経た後に、たらい型のいわゆる左官ミキサーやモルタルミキサーと呼ばれるミキサーかそれと同等以上の混練性能を持つミキサーを用いてモルタルの混練を行う。投入順に特に限定はないが、細骨材、セメントや混和材などの粉体を投入して空練りを行った後に、水やポリマーなどの液体を投入して混練すれば、材料のムラのないモルタルが得られるので好ましい。また、粉体を空練りする段階以降のどの段階においてでもよいので、混練を行いながら連続繊維を所定の長さに切断して投入することもできる。混練の完了した先に配合したモルタル基材を下地処理工程の完了した漏出した健全な被施工面上に塗り均して平坦な表面状態となるように下塗り層を形成する。下塗り層を形成する際には、新たに塗る健全部との間に空気が巻き込まれて構造体内に残留しないようにコテで充分に押さえて塗工すると、施工後にモルタル層のふくれ等の欠陥が発生しにくくなるので好ましい。下塗り層の厚みは劣化の状況によっても異なるが、補修層全体の約半分の厚み寸法に相当する量を塗工する。補修層全体の厚みとしては少なくとも用水路施工初期の鉄筋のかぶり厚を確保できる厚み以上とするが、その厚みが既に健全部のコンクリートで充分確保されている場合は10mm以上とする。そして下塗り層の表面に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートを押し当てて伏せ込む作業を行う。シートの浮きがないように伏せ込みを行うと、上塗り作業性が良くなり良好な補修層が形成できるため好ましい。
【0024】
弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートについては、他の性能、例えば化学的な耐久性や硬度等の性能について所定の性能を有するものであれば、どのような材質であってもよく、ポリエチレンやポリスチレン等の有機樹脂のシートやカーボンファイバを織製したシート、セラミックスファイバ製シート等を施工箇所などに応じて適宜採用することができる。ただ費用や施工の行い易さ、さらに耐久性などの種々の観点について検討し、それらを総合して比較するなら、ガラス繊維よりなるシートが好ましく、ZrO2を含有するガラス繊維を用いたシートであることが一層好ましい。
【0025】
さらにこの20GPa以上の弾性率を有する繊維よりなるシートが、例えば前述した耐アルカリガラス繊維を使用することで構成されたものを使用する場合についてさらに説明するならば、シート形状としては、ネットあるいはメッシュ状のものが好ましいが、他の形態例えば圧延布状、マット状であってもよい。ネットあるいはメッシュ状のシートについては、繊維を製織したものであっても、不織形態のものであってもよい。製織された形態のものである場合には、例えば絡み織り、平織り等の織り形式によるものを採用することができ、不織形態であれば組布のようなものであってもよい。繊維製のシートには、必要に応じて複数の有機樹脂を塗布することができ、シートの固さやハンドリング性を適切な状態に調整することができる。
【0026】
また弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートが、ネットあるいはメッシュ状である場合については、ネットやメッシュの網目の開きについては、コンクリートやモルタル等で併用する骨材の大きさに応じて適切な網目の開きのものを採用することができる。またネットあるいはメッシュはそれを構成する繊維の太さや本数などの形態について、所定の性能を満足するものであれば、特に限定されるものではない。
【0027】
20GPa以上の弾性率の繊維よりなるシートの伏せ込みが終了したら、その上からさらに上塗り層を形成するため、先に混練配合したモルタルコンクリート生地を下塗り層形成時と同様の手順で塗り均し、先に述べた補修層総厚となるように均し、平坦で平滑な表面となるようにする。平滑な表面とすることで粗度係数が改善されるため好ましい。さらに必要に応じて上塗り層の表面に塗装や目地のコーキングを行い、コンクリート製水路壁ができあがる。
【0028】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加え有機繊維が1mm以上で50mm以下の平均長さ寸法を有するチョップ形態であるならば、モルタルを施工した後の硬化段階で発生する表面のひび割れの発生率を確実に低減することができるので好ましい。
【0029】
ここで、有機繊維が1mm以上で50mm以下の平均長さ寸法を有するチョップ形態であるとは、モルタル基材中に混合される有機材の形態がフィラメント形状であって、その平均長さが1mm以上で0.05m以下の寸法であることを意味している。
【0030】
有機繊維の直径については、アスペクト比で決まる値によって限定するのが好ましい。繊維の長さに対する有機繊維の直径の比率、すなわち繊維の長さを有機繊維の直径で除した値として表されるいわゆるアスペクト比を充分に大きな値とすることが必要である。アスペクト比は少なくとも50以上は必要であり、この値を大きくすればするほど有機繊維の添加効果が大きくなるが、一方アスペクト比が大きくなると有機繊維をモルタル中に混練する際の作業性が低下するため2000までが好ましい。よってチョップ形態を有する有機繊維のアスペクト比の値は、50〜2000となるように、有機繊維の長さに対応して直径を決定すると良い。
【0031】
チョップ形態の有機繊維については、どのような成形法により得られたものであってもよい。すなわち例えば切断加工により成形されたものでも、吹き飛ばし成形や気相合成のような方法で成形したものでもそれ以外の方法によるものでもよい。
【0032】
チョップ形態の有機繊維の平均長さ寸法が50mmを越えるものであると、混合操作中に繊維が絡まりやすくなり、モルタルを均質化する混合操作に労力を要し、施工後も不均質な施工状態となり、クラック等を完全に抑止できる施工面とそのような効果の認められない施工面が現れることもあるので好ましくない。このような観点から、チョップ形態の有機繊維の長尺寸法はより好ましくは25mm以下であることであり、さらに好ましくは13mm以下とすることである。一方、有機繊維の平均長さが1mm未満であると、チョップ形態の有機繊維を加えることによるクラック抑止効果が得られなくなるので好ましくない。そして上記の有機繊維の添加効果を明瞭に発現させるという観点からは、より好ましくは有機繊維が3mm以上とすることであって、さらに好ましくは6mm以上とすることである。
【0033】
本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記水路壁の補修部位にチョップ状繊維を含有する第一のモルタル基材を塗工し、埋設材を付設し、その上から第二のモルタル基材を塗工する層状施工工程を有することを特徴とする。
【0034】
ここで、脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記水路壁の補修部位にチョップ状繊維を含有する第一のモルタル基材を塗工し、埋設材を付設し、その上から第二のモルタル基材を塗工する層状施工工程を有する前記したように経時的に物理的、化学的な脆弱化等の様々な原因により構造上の問題の生じたコンクリートにより構成された水路設備の所定の面構造部を補修するものであって、問題の発生した部位を初期の強度状態あるいは初期以上の強度状態へと改善する補修工法において、チョップ状の外観を呈する繊維材を含有する第一のモルタル基材を塗工した上に様々な性能、例えばモルタルの補強効果やクラック防止効果、膨張係数の調整効果等の性能を有する埋設材を埋め込み、さらにその上に第二のモルタル基材を塗工することによって、モルタル基材を均して層状となるように施工することを意味している。
【0035】
様々な性能を実現する埋設材については、その形態はどのようなものであってもよく、埋設する数や量にも制限はない。この埋設材は、固体状であって、肉眼で判る大きさがあり、しかもチョップ状繊維ではないものである。よってこの埋設材は、紐状、テープ状、シート状、塊状、ペレット状等の多様な形態が必要に応じて可能であり、所望の性能を意図的に付与することを可能とするものである。よって前記したようにこの埋設材をシート状とすることもできる。
【0036】
また本発明でモルタル基材を均して層状となるようにする方法としては、人力によるものであっても所定の工具や装置、機械等を駆使することで実現するものであっても所望の態様とすることができればよい。
【0037】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加え水路壁の側面と床面との打ち継ぎ部位に、側面と床面の各々のモルタル基材内に埋設材を埋設することにより側面と床面とを連設する連設工程を有するものであれば、側面と床面とを強固に結合することができ、外力等の影響を受けやすい場合であっても高い耐久性を有するものとすることができる。
【0038】
水路壁の側面と床面との打ち継ぎ部位に、側面と床面の各々のモルタル基材内に埋設材を埋設することにより側面と床面とを連設する連設工程を有するものとは、次のようなものである。すなわち前記したように問題の発生した水路壁の特定部位を初期の強度状態あるいは初期以上の強度状態へと改善する際に、水路壁の塗工の途中で、水路の側面と床面の壁部の接辺あるいは接辺近傍に位置する部位において、モルタル基材内に埋め込む埋設材により水路床面と側面とを接合して一体とする打ち継ぎによる工程を行うものである。
【0039】
埋設材については、上述した20GPa以上の弾性率を有する繊維よりなるシートであることが最も好ましいが、前記したような他の種々の形態の埋設材であってもモルタル基材内に埋め込むことで水路床面と側面とを強固に接合する性能を有するものであれば、そのような材料を使用することを妨げることはない。
【0040】
すなわち本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加え埋設材が、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるものであるならば、連設箇所をより強固な構造とすることができる。
【0041】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加え埋設材が、ガラス繊維又は炭素繊維よりなるものであるならば、非常に高弾性であるため打ち継ぎされた部位を充分に高い強度とできるため、補修後の水路壁の強度、耐クラック性が従前以上のものとなる。
【0042】
埋設材が、ガラス繊維又は炭素繊維よりなるものとは、埋設材の主要構成成分がガラス繊維あるいはカーボンファイバのいずれかを含むものであることを意味している。ガラス繊維としてはどのような材質や形状寸法、形態のものであってもよいが、前記したように耐アルカリガラスであることが最も好ましい。またカーボンファイバについても寸法や形態については問わない。
【0043】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加えモルタル基材を塗工した塗工面の略全面にわたって板状材を覆設する覆設工程を有するならば、塗工工程により形成された硬化面をさらに保護することとなるので好ましい。
【0044】
ここでモルタル基材を塗工した塗工面の略全面にわたって板状材を覆設する覆設工程を有するとは、前述したような手順で得られた塗工面上のほぼ全面について、十分な強度を有する板状材で覆って保護し、より強固なものとするということである。特に用水路の集合地点などの水路床面に落差のある箇所において、水路内を流れている水が水路床面の落差にともなって上位にある水路床面から下位にある水路床面上へと流下する場合に、水が直撃する箇所に相当する床面及びそれに関連する箇所に施工されると、施工表面を保護する効果が大きい。
【0045】
ここで使用する板状材については、どのような材質のものであっても塗工面を保護することのできる強度を有する材料であれば採用することができる。すなわち、天然石材、人工石材を問わず使用することができ、例えば人工石材なら、コンクリート板、ガラス板、セラミックス板、ガラスセラミックス板、FRP板、GRCボード、炭素繊維強化ボード等を適宜採用することが可能である。また例えば天然石材なら、御影石、大理石等の高級石材から、安価に入手できるもの、例えば堆積岩を切り出し、加工したもの等まで多様なものを採用することができる。
【0046】
また板状材については、その外形を限定するものではない。すなわち矩形状であっても三角形、五角形や六角形等の多角形の外観を呈するものであっても円形や楕円形、さらに他の不定形の形状を有するものであってもよい。また板状材については、その表面に適当な彩色や模様、表面の凹凸等の装飾を施すことも可能である。また、板状体については面積の大きい表面とその裏面以外に端面に何らかの凹凸や模様を施すこともできる。
【0047】
また板状材には、必要に応じて藻やプランクトン等の好ましくない微生物の大量発生を抑止する抗菌剤などを適量含有させることも可能である。例えば銀(Ag)イオン等の抗菌効果を有する成分を徐々に溶出させることで、殺菌等の所望の効果を持続発揮させることのできる薬剤等を適量混合添加することも可能である。またこれとは逆にこのような生物種の育成が水の浄化や水中含有成分を調整するのに好ましく、必要である場合には、富栄養化を促進することが可能となる徐放性薬剤を使用することもできる。さらにこの種の薬剤は、その表面に塗布、あるいは被覆することもできる。また、これらの薬剤を基材モルタル中に含有、塗布あるいは被覆させてもよい。
【0048】
板材料を覆設する方法としては、適切な樹脂剤などを単独あるいは複数使用することで接着してもよいし、適当な杭や錨材等の固定具を使用することで固定することもでき、板状材の端部に凹凸部を設ける等することで互いに組み合わせ固定することも可能である。むろん上塗りモルタルが未硬化の状態で板状材を押しつけて、張り付け固定することもでき、さらに上述の複数の方法を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0049】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加えモルタル基材が、セメント、砂、耐アルカリガラス繊維、及び水を含有するものであり、セメントに対する砂の質量比が1〜3の範囲にあるならば、高い強度と剛性とを有するため長時間に亘り耐用する構造物とすることができる。
【0050】
ここでモルタル基材が、セメント、砂、耐アルカリガラス繊維、及び水を含有するものであり、セメントに対する砂の質量比が1〜3の範囲にあるとは、前述したようなセメント、砂そして水に加えてアルカリに対して高い耐性を有するガラス材質を使用することができるものであることを意味している。さらにセメントを1とした場合のそれに対する砂の質量比率を1〜3とすることで乾燥収縮が一層低く抑えられ、乾燥時の施工部表面に生じるひび割れの発生率を低減できるため好ましい。1より低くなると乾燥収縮を抑制する効果が小さくなり、3を超えた値となると強度的に充分高い値を実現できない場合も生じる。
【0051】
耐アルカリ性能を発揮できるガラス繊維の組成としては、例えば、質量百分率表示で、SiO2 54〜65%、ZrO2 14〜25%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜17%、K2O 0〜8%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znの合量を表す) 0〜10%、TiO2 0〜7%、Al23 0〜2%が好適であって、より好ましくは、質量%で、SiO2 57〜64%、ZrO2 18〜24%、Li2O 0.5〜3%、Na2O 11〜15%、K2O 1〜5%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znの合量を表す)0.2〜8%、TiO2 0.5〜5%、Al23 0〜1%である。
【0052】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加えモルタル基材が、酢酸ビニルーエチレン共重合体、アクリル樹脂、またはSBR樹脂の何れかを含有するものであれば、水路壁の耐久性や強度、コンクリート下地とモルタル基材との接着強度、養生性を最適なものとすることができるので好ましい。
【0053】
ここで、モルタル基材は、酢酸ビニル−エチレン共重合体、アクリル樹脂、またはSBR樹脂の何れかを含有するとは、モルタル基材が、酢酸ビニルとエチレンとの共重合反応による生成物であるか、あるいはアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体であるか、スチレンとブタジエンのラジカル共重合物を含有するということを表している。
【0054】
酢酸ビニルーエチレン共重合体、アクリル樹脂、またはSBR樹脂の何れかの添加形態としては、エマルジョンのような液体として添加することもできるし、粉末の形態として添加することもできるし両方を併用することも可能である。いずれの有機剤もセメントに対して固形分換算で0〜50質量%の範囲内で適宜増減させることができる。
【0055】
また本発明のモルタル基材は、上記の有機添加物以外の有機剤を適量添加することを妨げるものではない。
【0056】
また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、上述に加え水路側壁の施工を行った後、それに続いて水路床面の施工を行うものであれば、水路側壁の施工時に施工後の材齢の若い表面部の軟弱な水路床面を保護することができ、最終的な外観の仕上がり品位を維持することができるので好ましい。
【0057】
本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上記のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の水路の流れ方向に垂直な断面に弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートとチョップ状繊維を含有するモルタル基材との層状構造を形成するように施工されたものであることを特徴とする。
【0058】
ここで上記のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の水路の流れ方向に垂直な断面に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートと、チョップ状繊維を含有するモルタル基材との層状構造を形成するように施工されたものであるとは、上述したように水路壁面上に下塗り層、上塗り層の順にチョップ状繊維を含有するモルタル基材を施工し、その両層間に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートを挟み込むことで、水路の流れ方向に垂直な構造断面内に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートと、チョップ状繊維を含有するモルタル基材との層状構造を形成するように構築された構造体であることを意味する。
【0059】
弾性率が20GPaよりも小さい値であると、コンクリートなどと共に施工された繊維が、コンクリートなどの施工後に発生する亀裂や割れなどの欠陥を抑制する効果が乏しくなる場合もあり好ましくない。このような観点から本発明のコンクリート製水路壁構造体に使用される繊維シートの弾性率は、25GPa以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは30GPa以上、一層好ましくは35GPa以上、さらに一層好ましくは40GPa以上とすることであって、最も好ましくは50GPa以上とすることである。
【0060】
本発明に係る弾性率が20GPa以上の繊維の材質としては、耐アルカリガラス繊維、カーボン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維などがある。耐アルカリガラス繊維としては、例えば質量百分率表示で、SiO2 54〜65%、ZrO2 14〜25%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜17%、K2O 0〜8%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znの合量を表す) 0〜10%、TiO2 0〜7%、Al23 0〜2%が好適であって、より好ましくは、質量%で、SiO2 57〜64%、ZrO2 18〜24%、Li2O 0.5〜3%、Na2O 11〜15%、K2O 1〜5%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znの合量を表す)0.2〜8%、TiO2 0.5〜5%、Al23 0〜1%が好ましい。
【0061】
20GPa以上の弾性率の繊維であることを確認する方法としては、公知の方法であって正確な再現性を有する方法であればよく、例えば繊維が耐アルカリガラス繊維であればJIS R3420(1999)に記載の方法により測定した引張強さと伸びにより弾性率を計算すればよく、カーボン繊維であれば、JIS R7606(2000)に記載の方法で、他の繊維であればJIS R3420に記載の方法を準用すればよい。
【0062】
またモルタル基材中のチョップ形状の繊維について、下塗り層、上塗り層で異なる形態、異なる材質の繊維を使用してもよいし、ひび割れの発生を抑制したい上塗り層にのみに繊維を添加してもよい。
【0063】
本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上述に加え上記のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の側面と床面とを連設する埋設材が埋設されてなるものであれば、脆弱化しやすい側面と床面との接合部を強化された状態にすることができる。
【0064】
ここで、コンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の側面と床面とを連設する埋設材が埋設されてなるものとは、前記したような補修工法を施すことによって問題の生じた水路壁を補修することによって水路の側面と床面とを一体化するように埋設材が、モルタル基材内に埋設されて埋設された状態となっている部位のあることを意味している。
【0065】
水路の側面と床面とを一体化する埋設材の具体的な態様については、どのようなものであっても耐クラック性が向上すればよく、例えば水路の側壁に使用された埋設材であるガラス繊維シート材と床面に使用された埋設材であるシートとを互いに重ね合わせて積層構造となる部位を形成することや、シート材同士を接合するピンや鋲等の治具を連結部位に埋め込むことによって2つのシートを連結するといったことが可能である。
【0066】
例えば水路の側壁に使用された埋設材であるガラス繊維シート材と床面に使用された埋設材であるシートとを互いに重ね合わせて積層構造となる部位を形成する場合には、シート材の大きさや水路の大きさにもよるが、少なくとも端辺からシートに沿って垂直方向に1cm以上重ね合わせ寸法を有する重ね合わせを行うことが必要であり、重ね合わせ寸法を3cm以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは5cm以上とすることである。
【0067】
また本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上述に加え水路壁の側面側から床面に延在して側面と床面とを連設する第一の埋設材と床面に埋設される第二の埋設材とが積層された積層部位が形成されてなるものであれば、コンクリート製水路壁構造体の構築が迅速かつ的確に行えるので、コンクリート製水路壁構造体を構築するに要する労力を最小とすることができ、しかも必要とされる性能を十分に満足するものとなる。
【0068】
また本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上述に加え埋設材がシート状物であるならば、埋設材の埋設作業や取り扱いに優れる。
【0069】
シート状物については、前記したように各種の材質、形態を許容する。また本発明のコンクリート製水路構造体は、他の構造物との連結なども任意に行うことができる。
【発明の効果】
【0070】
(1)以上のように、本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、脆弱化箇所または非老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記脆弱化箇所または非老朽化箇所とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、正常なコンクリートの内部を露出させて健全部とする下地処理工程と、該健全部に有機繊維を含有するモルタル基材を塗工する塗工工程とを有するものであるため、壁表面に発生する経時的な劣化を抑制し、従前以上の高い強度とすることができ、さらに施工後の硬化体表面に発生する微細なひび割れを効果的に抑制することも可能である。
【0071】
(2)また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、有機繊維が1mm以上で50mm以下の平均長さ寸法を有するチョップ形態であるならば、モルタル基材の調整時にモルタルが不均質な状態となることもなく、安定した性能を有するモルタル基材とすることができる。
【0072】
(3)さらに本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、前記水路壁の補修部位にチョップ状繊維を含有する第一のモルタル基材を塗工し、埋設材を付設し、その上から第二のモルタル基材を塗工する層状施工工程を有するものであるため、高い耐久性を有するコンクリート製水路壁を効率よく構築することが可能となる。
【0073】
(4)さらに本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、水路壁の側面と床面との打ち継ぎ部位に、側面と床面の各々のモルタル基材内に埋設材を埋設することにより側面と床面とを連設する連設工程を有するため、脆弱化する危険性の高い水路壁の側面と床面との連結箇所あるいはその近傍部を強化された状態とすることができ、長期に亘る安定した品位を実現することが可能となる。
【0074】
(5)また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、埋設材が、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるものであれば、高い弾性係数を有する材料を選択することによって、外力に対する耐久性を高めた構成とすることができ、しかもコンクリート製水路壁に使用される材料とも馴染み易い材料を選択できる。
【0075】
(6)また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、モルタル基材を塗工した塗工面の略全面にわたって板状材を覆設する覆設工程を有するものであるならば、施工面の強度、剛性を有するばかりでなく、水路の外観も審美的な景観を有するものとすることが可能である。
【0076】
(7)また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、モルタル基材が、セメント、砂、耐アルカリガラス繊維、及び水を含有するものであり、セメントに対する砂の質量比が1〜3の範囲にあるならば、構成成分や配合比の変更を適切に行うことによって被施工物の劣化状態に応じた対応を行うことができ、施工後の硬化体表面に生じるひび割れも確実に抑止することができる。
【0077】
(8)また本発明のコンクリート製水路壁の補修工法は、モルタル基材が、酢酸ビニル−エチレン共重合体、アクリル樹脂、またはSBR樹脂の何れかを含有するならば、高い強度耐久性と化学的耐久性とを有する水路壁を形成することのできるものであって、かつ、下地コンクリートとの十分な接着強度が得られるものであって、費用効果の高い構造物とすることが可能である。
【0078】
(9)本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上記何れかのコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の水路の流れ方向に垂直な断面に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートと、チョップ状繊維を含有するモルタル基材との層状構造を形成するように施工されたものであるため、種々の性能向上に加え、構築することが容易な構成であって、構築に要する時間も短縮化することができ経済性の高い構造体である。
【0079】
(10)本発明のコンクリート製水路壁構造体は、上記のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の側面と床面とを連設する埋設材が埋設されてなるものであれば、従前以上の安定した構造を有する水路となるので、水路の耐用期間を長期化することが可能となる。
【0080】
(11)本発明のコンクリート製水路壁構造体は、水路壁の側面側から床面に延在して側面と床面とを連設する第一の埋設材と床面に埋設される第二の埋設材とが積層された積層部位が形成されてなるものであるならば、コンクリート製水路壁構造体の構築が迅速かつ的確に行え、コンクリート製水路壁構造体の構築に要する諸経費を抑制することが可能となる。
【0081】
(12)本発明のコンクリート製水路壁構造体は、埋設材がシート状物であるならば、埋設材の埋設作業や取り扱いに優れるので、作業に要する時間を短くすることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
以下に本発明のコンクリート製水路壁の補修工法とその工法によるコンクリート製水路壁構造体について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0083】
図1に本発明のコンクリート製水路壁構造体の要部断面図を示す。図中で10は水路壁構造体、11はコンクリートの健全部、12は下塗りモルタルの層、13は上塗りモルタルの層、Fは20GPa以上の弾性率の繊維からなるシート、Tは鉄筋、Bは防錆処理層、Sは土壌、Wは水路をそれぞれ表している。また、14は鉄筋周辺の欠損部への詰め込みモルタル、Kは吸水調整剤を表している。本実施例のコンクリート製水路壁構造体10は、高圧洗浄により脆弱部であったところに鉄筋が露出した箇所がある場合であり、図1に示すように、鉄筋Tが配設された健全部11より内側壁面の水路Wの流れ方向に垂直な断面に、チョップ状繊維を含有するモルタル基材よりなる鉄筋Taが配設された下塗りモルタルの層12と、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートFと、チョップ状繊維を含有するモルタル基材よりなる上塗りモルタルの層13とを有する層状構造を形成するように施工されたものである。
【0084】
図2には、補修対象の用水路が施工された当時の要部断面を表す。この水路は農業用水路、特に稲作等の灌漑用途で使用される水供給用として使用される用水路についてのものである。図3には、経年変化によりコンクリート製水路壁の表面に劣化部位15が発生した状況を示す。この農業用水路では、次のような手順でコンクリート製の水路の劣化箇所を改善するための処理を行った。
【0085】
まず、補修工法を適用する水路内に堆積する土砂、ヘドロ及び水草等の除去を行った。水路内の土砂等の除去作業が完了後に、10〜20MPa程度の高圧水により除去作業で取りきれなかった藻や苔等と一緒に、老朽化して脆弱化し劣化部位となったコンクリート水路表面の除去を行い、図4に示すような状態とした。この時、わずかに健全部11が除去される程度まで確実に劣化部位が除去されるようにコンクリートの除去を行った。図4について、波線で表したのが、元の老朽化による劣化部位15の大きさであり、除去したのはそれよりも大きな容積となっていることを表している。老朽化による劣化部位15の除去が完了した段階で、水路コンクリートの損傷の程度を調査し、大きなひび割れ、鉄筋の露出、大きな欠損等の位置や大きさを特定した。露出している鉄筋Tに対しては日本化成(株)の「NSメンテペースト」(商品名)を用いて防錆処理Bを、大きな欠損に対しては、吸水調整材Kとして日本化成(株)製の樹脂性水性接着剤「NS−ハイフレックス HF−1000」(商品名)をプライマー処理として被覆した後にモルタルによる埋め戻し14を行い、図5に示すようにほぼ平坦な面とし、再度NS−ハイフレックス HF−1000を塗布して下地処理を完了した。大きな欠損部に鉄筋が露出していない部分は、防錆処理を行わないこと以外は上記と同じ下地処理を行った。
【0086】
このような下地処理を終えた後、図6に示すように、まず水路壁構造体10の両側壁面の露出面の健全部11に予め準備した下塗りモルタル12を鏝などの適切な工具を使用して均等に塗布した。下塗りモルタル12の調整としては、質量部表示で、セメント 100部、砂 200部、ガラス繊維 0.7部、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン 10部、チョップ状有機樹脂繊維 0.7部、水 45部となるように調整したものである。ここで、ガラス繊維については、日本電気硝子(株)製の耐アルカリガラス繊維製「スーパークラックノン・パック」(商品名)のARGチョップドストランドを、また酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョンについては、日本化成(株)製の「NS−ハイフレックス HF−1000」(商品名)を使用した。またチョップ状の有機樹脂繊維としては、長尺寸法6mm、直径寸法0.03mmであって、アスペクト比の値が200のポリプロピレン製チョップドストランドを使用している。こうして図6に示すように、水路構造体10の両側壁面の露出面の健全部11について、下塗り層12が約6mm施工された状態となる。次いで平坦に均された下塗りモルタルの層12の表面に図7に示すように弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートとして日本電気硝子(株)製の弾性率が約74GPa以上の耐アルカリガラス繊維からなる組布タイプのネット「TD5×5」(商品名)Fを伏せ込んだ。この際、耐アルカリガラス繊維製ネットFの床側の下端については、床面側に余らせた状態となるようにし、この余らせた部分を水路壁構造体10の水路Wの床面に耐アルカリガラス繊維製ネットFを施工する際に耐アルカリガラス繊維製ネットFを二重構造となるように重ね合わせることができる状態とする。これは、打ち継ぎ部からの漏水や構造の経時的な劣化を防止するため、打ち継ぎ部の構造を強固なものとするために必要なものである。
【0087】
そして耐アルカリガラス繊維製ネットFの上方より前記したと同様の配合組成を有するモルタルを均等に連続して塗布していき、下塗り層12との合計の厚みが10mmとなるように調整し、その表面を平坦で平滑な状態に仕上げた。こうして水路壁構造体10の両側壁面については、上塗りモルタル層13の施工された図8に示す構造となる。
【0088】
次いで、水路構造体10の側壁面と床面とのモルタルの打ち継ぎ方法について、図9から図12の各図を参照しながら詳細に説明する。
【0089】
水路の両側壁の上塗り層13の施工が完了した後、水路Wの床面について補修工法を適用する。すなわち前記同様のモルタルを下塗りモルタル層12として施工し、その上に耐アルカリガラス繊維製ネットFaの重複箇所が生じるように伏せ込みを行う。さらにその上から上塗りモルタル13aの塗工を行い、側壁面と同様の仕上げを床面についても行って、水路W全体の補修を完了することになる。
【0090】
この床面についての施工では、側壁面と床面とのモルタルの打ち継ぎを以下の手順で行う。図9(A)は、側壁面の下塗りモルタル12が完了し、耐アルカリガラス繊維製ネットFを伏せ込んだ状態を表している。ここでは図9(B)に示すように下塗りモルタル層12のモルタルを水路Wの床面に沿って5cm程度まで延ばし、さらに耐アルカリガラス繊維製ネットFについては10cm程度まで床面に沿って延ばしておく。
【0091】
この状態で側壁面の上塗りを行い、その表面の仕上げまでを行って図10に示す状態とする。ここでは上塗りモルタル層13については水路Wの床面に沿って延長することはせず、側壁面下端までの塗工とし、少なくとも下塗りよりも5cm以上短い塗工としている。
【0092】
両側壁面のモルタルの塗工が完了した後、床面の下塗りを行い下塗りモルタル層12aとし、その後に耐アルカリガラス繊維製ネットFaを伏せ込み図11に示す状態とした。床面の耐アルカリガラス繊維製ネットFaを両側の側壁面の一方の内端から他方の内端までを略全面について被覆する長さを使用して、床面にまで10cm延ばした側壁面の耐アルカリガラス繊維製ネットFに充分重ね合わせるようにして伏せ込んだ。床面の塗工は壁面の塗工と同一日が望ましいが、翌日としてもよい。
【0093】
最後に床面の上塗りを行い上塗りモルタル層13aとし、その表面の仕上げを行った。以上の一連の工程により、側壁面と床面との内継ぎ部は図12に示す状態となっている。
【0094】
さらに図示は行っていないが、この上塗りモルタル層13の表面には、ガラスセラミックス製の強固なプレートあるいは天然石を切り出した石材板を施工することができ、最終的な施工物は、さらに耐久性の高い構造物となる。
【0095】
以上のように本発明のコンクリート製水路壁の補修工法を採用することによって、水路Wの流れ方向に垂直な構造断面に、20GPa以上の弾性率の繊維からなるシートと、チョップ状繊維とを含むモルタル基材との層状構造となり、非常に強固で耐久性の高い構成物となる。またコンクリート製水路壁の補修工法では、上記のような手順で作業を行うため、老朽化した水路を一度全て破壊せずとも、短期間での改善が可能となり、また施工後の硬化体表面に発生する微細なクラックやひび割れを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のコンクリート製水路壁の説明図であって、(A)は部分断面斜視図、(B)は(A)の部分断面要部Xの拡大図。
【図2】部分断面要部Xについて、水路完成直後の健全な状態を表す断面図。
【図3】部分断面要部Xについて、補修前の劣化部位の認められる状態を表す断面図。
【図4】部分断面要部Xについて、脆弱化箇所または老朽化箇所とその周囲の健全部に及ぶ範囲を除去した状態を表す断面図。
【図5】部分断面要部Xについて、鉄筋の防錆処理とモルタルによる埋め戻しを行った後の状態を表す断面図。
【図6】部分断面要部Xについて、下塗りを行った後の状態を表す断面図。
【図7】部分断面要部Xについて、下塗りの上に耐アルカリガラス繊維製シートを施工した状態を表す断面図。
【図8】部分断面要部Xについて、耐アルカリガラス繊維製シート上に上塗りを行った後の状態を表す断面図。
【図9】本発明のコンクリート製水路壁の説明図で、(A)は部分断面斜視図、(B)は(A)の部分断面要部Yの拡大図。
【図10】部分断面要部Yについて、側壁の上塗りを行った後の状態を表す断面図。
【図11】部分断面要部Yについて、床面の下塗り後に耐アルカリガラス繊維製シートを施工した状態を表す断面図。
【図12】部分断面要部Yについて、耐アルカリガラス繊維製シート上に上塗りを行った後の状態を表す断面図。
【符号の説明】
【0097】
10 水路壁構造体
11 コンクリート健全部
12、12a 下塗りモルタル(層)
13、13a 上塗りモルタル(層)
14 詰め込みモルタル
15 劣化部位
B 防錆処理層
F、Fa 弾性率20GPa以上の繊維よりなるシート
K 吸水調整材
S 土壌
T、Ta 鉄筋
W 水路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、
前記脆弱化箇所または老朽化箇所とその周囲の正常な壁部位に及ぶ範囲を除去し、正常なコンクリート内部の健全部を露出させる下地処理工程と、該健全部に有機繊維を含有するモルタル基材を塗工する塗工工程とを有することを特徴とするコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項2】
有機繊維が1mm以上で50mm以下の平均長さ寸法を有するチョップ形態であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項3】
脆弱化箇所または老朽化箇所が生じたコンクリート製の水路壁を補修する補修工法であって、
前記水路壁の補修部位にチョップ状繊維を含有する第一のモルタル基材を塗工し、埋設材を付設し、その上から第二のモルタル基材を塗工する層状施工工程を有することを特徴とするコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項4】
水路壁の側面と床面との打ち継ぎ部位に、側面と床面の各々のモルタル基材内に埋設材を埋設することにより側面と床面とを連設する連設工程を有することを特徴とする請求項3に記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項5】
埋設材が、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるものであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項6】
モルタル基材を塗工した塗工面の略全面にわたって板状材を覆設する覆設工程を有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項7】
モルタル基材が、セメント、砂、耐アルカリガラス繊維、及び水を含有するものであり、セメントに対する砂の質量比が1〜3の範囲にあることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項8】
モルタル基材が、酢酸ビニル−エチレン共重合体、アクリル樹脂、またはSBR樹脂の何れかを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載のコンクリート製水路壁の補修工法。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れかに記載のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の水路の流れ方向に垂直な断面に、弾性率が20GPa以上の繊維よりなるシートと、チョップ状繊維を含有するモルタル基材との層状構造を形成するように施工されたものであることを特徴とするコンクリート製水路壁構造体。
【請求項10】
請求項1から請求項8の何れかに記載のコンクリート製水路壁の補修工法によって、水路壁の側面と床面とを連設する埋設材が埋設されてなることを特徴とするコンクリート製水路構造体。
【請求項11】
水路壁の側面側から床面に延在して側面と床面とを連設する第一の埋設材と床面に埋設される第二の埋設材とが積層された積層部位が形成されてなることを特徴とする請求項10に記載のコンクリート製水路構造体。
【請求項12】
埋設材がシート状物であることを特徴とする請求項11に記載のコンクリート製水路構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−297900(P2007−297900A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253669(P2006−253669)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】