説明

コンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法

【課題】 コンクリート躯体壁面に取付けるパネルが複雑な加工を必要としない熱可塑性樹脂構成され、所望数の略H型部材及び電磁誘導用金具を介設したコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法の技術を提供する。
【解決手段】 略H型部材17は所定幅長を有して前記コンクリート躯体16の壁面16aに垂直方向で延在させてなり、その左・右にH型部(フランジ部)17a、17aを成形してある。該略H型部材17を固定手段18により固定・配置する。そして、前記略H型部材17の相互間に高周波誘電加熱により熱可塑性樹脂板材20に溶着する電磁誘導金属板19aを備えた電磁誘導用金具19を固定・配置する。この電磁誘導用金具19も、前記略H型部材17と同じ固定手段18等により前記コンクリート壁面16aに固定する。また、固定手段18の頭部が概略H型部材17の表面に突出しないように埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築構造物のコンクリート躯体壁面にパネルを取付けて補修する補修構造及び補修方法に関し、更に詳細には、例えば、三面水路やトンネル等の躯体壁面に補修材となる複数枚の熱可塑性樹脂板材を取付けるコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水利構造物のコンクリートは経年すると劣化するものであり、劣化原因は外的要因と内的要因があるが、特に水利構造物のコンクリートは外的要因によるものとして、潤辺が流水により摩耗が著しいものであり、この対策としては流水面に各種塗布剤をコンクリートの表面に塗布する方法や板材を設置してコンクリートの表面を覆う方法がある。また、改築することにより当該水利構造物であるコンクリートを全面的に取り壊して新たにコンクリート構造物を新設する場合もある。
上述した流水面に各種塗布剤をコンクリートの表面に塗布する方法は、現場にての施工であるため塗布剤の耐候性や耐久性にその品質が左右される。また、補修施工に於いては、ピンホールの有無の問題が無視できず、一方、板材の取付けによる方法はコンクリート構造物と板材を貫通してボルト等により一体化することにより該ボルト等の頭部が表面に突出し、用水や下水等の流れを阻害する恐れがあり、コンクリート構造物との一体パネル形式の技術はパネル製作加工や取付けのためのコストが非常にかかるものであった。また、例えばトンネルの地山からの漏水防止においてパネル面で導水する方法がある。当該漏水防止工法はボードの裏側を導水路として地山からの湧水を路面に流水することを防ぐものであり、該パネル自体及び取付金具の厚みがあり、トンネル断面を縮小してしまうという恐れがあった。
【0003】
先づ、従来の技術の一つの例として、特開平11−200590号公開特許公報に開示されたものがある。図12に基づきこれについて説明すれば、この技術は構造物躯体壁面へのパネルの取付け構造を示すもので形材枠一体パネル1は、非金属材料からなる基板1aの両面に金属シート1bを積層して方形平板状に形成されたパネル本体と、このパネル本体の周縁に組み付けられてパネル本体の周縁を保護し且つ木口を覆う形材枠2を組み付けて構成されている。この形材枠2はアルミニウム材から形成され、形材枠一体パネル1の裏面に接合して固定される支持部2aと、パネル本体の周縁を包持する包持枠部2bと、この包持枠部2bとはほぼ反対方向に支持部2aから張り出し、目地溝を区画形成する目地溝形成壁部2cとを一体に形成して構成されている。そして、この形材枠2は、支持部2aと包持枠部2bの枠縁との間にパネル本体の周縁を挟み込んだ状態でパネル本体に接着剤及びブラインドリベット等を用いて固定される。このように形材枠2は、支持部2aからほぼ垂直に立ち上がる比較的に長い取付け脚部がないため、薄く構成する。
【0004】
そして、構築物躯体3の壁面にはアンカーボルト4が打設され、このアンカーボルト4を利用してクランク形をした差込み用舌片5が構築物躯体3の壁面に取付けられている。すなわち、差込み用舌片5は、縦長のプレート部材をクランク形に曲げて形成され、その下端側の表面にはボルト挿通用の取付け穴が形成されている。この差込み用舌片5の取付け方法としては、予めアンカーボルト4の頭部にワッシャーを入れ、次いでクランク形をした差込み用舌片5の上端部が構築物躯体3の壁面から離れるような向きにセットして下端側の取付け穴にアンカーボルト4の頭部を相対的に挿通し、ナット6を螺合締め付けることによって固定される。このようにして構築物躯体3の壁面に取り付けられた差込み用舌片5は、上方に向かって立ち上がり、その上端側の自由終端部5aが形材枠一体パネル1の裏面に取付けられた掛け金具7の係止用貫通溝7aに下側から挿入され、形材枠一体パネル1が構築物躯体3の壁面に位置決めされて取付けられる。そこで隣接する形材枠一体パネル1、1との相互間隔が目地部8となる。この目地部8内には止水対策として耐候性シール12が圧入されると共にこの目地部8の位置における構築物躯体3の壁面には、ベースプレート9がスペーサ10を介して当該壁面にアンカーピン11によって固定される。すなわち、ベースプレート9は、帯状の板部材からなり、目地部8となる予定位置における構築物躯体3の壁面に格子状に配置され、所定の間隔でアンカーピン11を打ち込むことで当該躯体3の外壁面に固着される。また、一方に於いて形材枠一体パネル1の裏面には、該裏面に設置された補強形材(図示せず)の接着剤保持部に於ける面部分上に粘性の接着剤塊を付着させ、該形材枠一体パネル1と該構築物躯体3とが固着される。
【0005】
次に、従来の技術の他の例として、特開平9−119167号公開特許公報に開示されたものがある。図13に基づきこれについて説明すれば、この技術はコンクリート躯体面の補修方法を示すもので例えば、下水道施設に用いられるコンクリート壁13の内壁面13aを補修するための方法であり、複数のパネル14と、複数の取付具15とを用いる。上記パネル14は、所定の曲げ弾性率を有する防食性プラスチックで構成してあり、パネル本体14aと、パネル本体14aの略中央部に、上下方向に連続して形成してある相対向する係止爪14b、14bを有する。該パネル14の略中央部に形成してある係止爪14b、14bは、取付具15の相対向する係止爪15a、15a間に嵌合可能に構成してあり、係止爪15a、15aの対の間に入り易くするためのガイド傾斜面14c、14cと、上記係止爪15a、15aのフック部15b、15bに係止する抜け止め用ロック面14d、14dとを有する。取付具15は、図示するように複数段に配置してあって、コンクリート内壁面13aに取り付けるための基板15cを有する。基板15cは、上部15f及び下部15gにそれぞれ係止爪15a、15a及び15a、15aを形成し、例えば、略十字形状を有し、その中央部に、横方向に細長い長孔15dが形成してある。長孔15dには、ボルト15eなどの取付手段が装着され、このボルト15eを用いて、コンクリート内壁面13aに取付具15を取り付ける。該取付具15には、長孔15dを隔てて上方と下方に各1対の係止爪15a、15a及び15a、15aがある。上下に各1対の係止爪15a、15a及び15a、15aが離れて存在することにより、上記パネル14側の係止爪14b、14bがこれに嵌合する際に受けるストレスを分散させている。取付具15を垂直なコンクリート躯体13の内壁面13aに固定するためのボルト15eは、その頭部の径は、上方の係止爪15a、15aの対と下方の係止爪15a、15aの対との間隙以下の範囲で可能な限り大きくし、取付具15はパネル14側の係止爪14b、14bが嵌合する際に受けるストレスで浮き上がらないよう広い面積で押さえ込む。係止爪14b、14bが係止爪15a、15a間に挿入される前には、フック部15b、15bが係止爪14b、14bのガイド傾斜面14c、14cに当たり、パネル14をコンクリート壁の内壁面13a側にさらに押し込むことで、係止爪15a、15aが開き、係止爪14b、14bが係止爪15a、15a間にワンタッチ式に入り込むこととなる。而して、パネル14がコンクリート壁13に固定される。
【特許文献1】特開平11−200590号公開特許公報
【特許文献2】特開平9−119167号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術は、叙上の構成であるので次の課題が存在している。
すなわち、従来の技術の一つの例によれば、形材枠一体パネル1がパネル本体と、このパネル本体に形材枠2を組付けてなり、また、形材枠一体パネル1を構築物躯体3に固定するための掛け金具7としての差込み用舌片5を有し、さらに補強形材を該形材枠一体パネル1に取付けているので、補修構造の全体が複雑であると共に形材枠一体パネル1の加工も複雑となりかつその組立工数や組付部品も増大する問題点があった。又、構築物躯体3に接着剤塊により、該形材枠一体パネル1を固着する技術も加わり、該形材枠一体パネル1の固定手段がさらに複雑化し、補修施工の費用がかかるうえに施工工期が長くなるという隘路があった。また、上述した形材枠一体パネル1の上下及び4隅に設けた掛け金具7としての差込み舌片5は形材枠一体パネル1の自重を係止する為や接着剤塊の強度発現までの仮固定の目的に過ぎないものであり、その固定強度に信頼性を欠くものであった。
【0007】
また、従来の技術の他の例によれば、コンクリート躯体13にボルト15eを用いて取付具15を取付けた後、係止爪14b、14bを一体成形したパネル14を該係止爪14b、14bとコンクリート躯体13側の取付具15の係止爪15a、15aを嵌合させて、コンクリート躯体13に取付ける方法である。したがって、パネル14に係止爪14b、14b成形することが必須条件であり、パネル14の作製が複雑であり、そのコストが大幅に増大するうえに係止爪14b、14bが切損する惧れもあった。また、係止爪14b、14bと係止爪15a、15aとの係合形態は線的接触であり、パネル14側の係止爪14b、14bの強度に影響を受け、その補強としてパネル14端部の突き合わせ接合部を構成し、連結部材を用いていて、パネル14とコンクリート躯体13は現場溶接により連結している。而して、パネル14に作用する他方面からの応力に抵抗させる構造としては弱い構造であって、補修構造の信頼性に欠き再補修も余儀なくされるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法によれば、コンクリート躯体壁面に取付けるパネルが複雑な加工を必要としない熱可塑性樹脂構成され、一方に於いてこの熱可塑性樹脂板材を所望数の略H型部材を介して、上記コンクリート躯体壁面に取付け、該熱可塑性樹脂板材を製造するに際し、低コスト化を図ると共に上記略H型部材の相互間隔を広く設定し、補修施工の簡易迅速化とその費用の低減化を実現し、他方に於いて、上記熱可塑性樹脂板材と上記コンクリート躯体壁面間に電磁誘導用金具を介設する。しかも、上記略H型部材に隣接して接合する熱可塑性樹脂板材の位置設定を確実にし、併せて上記コンクリート躯体壁面と上記熱可塑性樹脂板材との間隙に充填剤を注入した際にも該熱可塑性樹脂板材の表面が膨張することなく、さらに、上記略H型部材の表面を覆設した熱可塑性樹脂シートにより、防錆を図ると共に当該コンクリート躯体内の流路に乱流を生じさせないことを目的としたものであって、次の構成、手段から成立する。
【0009】
すなわち、請求項1記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を固定すると共に略H型部材の左・右側に隣接して配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明に於いて、前記コンクリート躯体壁面と前記熱可塑性樹脂板材とで形成した所定間隙内に無機系セメント充填材又はコンクリートを注入・打設することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明に於いて、前記熱可塑性樹脂板材は、所定間隙5(mm)ないし75(mm)の設定寸法で前記コンクリート躯体壁面に取付けられることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明に於いて、前記略H型部材は、ステンレススチール、溶融亜鉛メッキで処理された鋼材又はアルミニュウムでなる金属材料若しくは、硬質ゴム又は硬質プラスチックでなる非金属材料で成形されたことを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明によれば、請求項2記載の発明に於いて、前記熱可塑性樹脂板材は別異の熱可塑性樹脂板材を一体成形したことを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の発明によれば、請求項2又は5記載の発明に於いて、前記別異の熱可塑性樹脂板材は、厚さ5(mm)ないし20(mm)であって、幅長10(mm)ないし100(mm)に設定したことを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具と、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面に溶着手段により覆設する熱可塑性樹脂シートとで構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙かつ所定数の略H型部材を固定する第1工程と、前記略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を貼り付け固定し又は該別異の熱可塑性樹脂部材を一体成形する熱可塑性樹脂板材を前記略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置する第2工程と、前記H型部材の相互間であってコンクリート躯体壁面に固定する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具を高周波誘電加熱により、該電磁誘導用金具を前記熱可塑性樹脂板材の内面に溶着する第3工程と、熱可塑性樹脂シートで、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面を覆設する第4工程とでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は叙上の構成を有するので次の効果がある。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、補修構造全体がシンプル化し、コンクリート躯体壁面に略H型部材及び電磁誘導用金具を介在させて単純な構成を有し、製造コストを極めて低減した熱可塑性樹脂板材を簡易かつ迅速に取付けることができるうえに、該コンクリート躯体壁面の断面積を縮小すること及び補修強度を弱めることなく補修施工費用を削減しかつ施工工期を大幅に短縮すると共に補修品質を向上させる効果がある。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を固定すると共に略H型部材の左・右側に隣接して配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の効果に加えて、別異の熱可塑性樹脂板材を貼付け又は一体成形した熱可塑性樹脂板材を備えたのでコンクリート躯体壁面の補修部位を略H型部材のフランジの表面と該熱可塑性樹脂板材を面一にすることにより、突出部を表面に出すことがなくなりスムーズな流れを確保できることや通行車両の付帯物の引っかかりを防止できる効果がある。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、前記コンクリート躯体壁面と前記熱可塑性樹脂板材とで形成した所定間隙内に無機系セメント充填材又はコンクリートを注入・打設することを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項1又は2記載の効果に加えて、耐久性の高いコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する効果がある。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、前記熱可塑性樹脂板材は、所定間隙5(mm)ないし75(mm)の設定寸法で前記コンクリート躯体壁面に取付けられることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項1又は2記載の効果に加えて、上記所定間隙内に樹脂材料、モルタル、コンクリートを容易に注入・打設しかつ充填することができ、コンクリート躯体壁面に於ける著しい損傷部分にも適応でき、かつ、コンクリート躯体の補強を計ることもできる効果がある。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、前記略H型部材は、ステンレススチール、溶融亜鉛メッキで処理された鋼材又はアルミニュウムでなる金属材料若しくは、硬質ゴム又は硬質プラスチックでなる非金属材料で成形されたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項1又は2記載の効果に加えて、該略H型部材を汎用の材料で簡易、迅速に製作でき、さらに製作コストの低減化を図り、防錆効果を挙げると共に市場性に富む補修構造を提供する効果がある。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、前記熱可塑性樹脂板材は別異の熱可塑性樹脂板材を一体成形したことを特徴とする請求項2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項2記載の効果に加えて、さらに熱可塑性樹脂板材に於ける製作コストの管理工数を低減する効果がある。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、前記別異の熱可塑性樹脂板材は、厚さ5(mm)ないし20(mm)であって、幅長10(mm)ないし100(mm)に設定したことを特徴とする請求項2又は5記載のコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項2又は5記載の効果に加えて、該熱可塑性樹脂板材又は別異の熱可塑性樹脂板材を外表面に突出させることがなく両者を面一に設定することができ、熱可塑性樹脂板材の製作コストを大幅に削減する効果がある。
【0025】
請求項8記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具と、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面に溶着手段により覆設する熱可塑性樹脂シートとで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の効果に加えて、上記略H型部材の防錆効果を挙げること、また、コンクリート躯体壁面内の水路等の乱流を防止する効果がある。
【0026】
請求項9記載の発明によれば、コンクリート躯体壁面に所定間隙かつ所定数の略H型部材を固定する第1工程と、前記略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を貼り付け固定し又は該別異の熱可塑性樹脂部材を一体成形する熱可塑性樹脂板材を前記略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置する第2工程と、前記H型部材の相互間であってコンクリート躯体壁面に固定する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具を電磁誘導装置の高周波誘電加熱により、該電磁誘導用金具を前記熱可塑性樹脂板材の内面に溶着する第3工程と、熱可塑性樹脂シートで、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面を覆設する第4工程とでなるコンクリート躯体壁面の補修方法を提供する。
このような構成としたので、補修構造全体がシンプル化し、コンクリート躯体壁面に略H型部材及び電磁誘導用金具を介在させて単純な構成を有し、製造コストを極めて低減した熱可塑性樹脂板材を簡易かつ迅速に取付けることができるうえに、該コンクリート躯体壁面の断面横を縮小すること及び補修強度を弱めることなく補修施工費用を削減しかつ施工工期を大幅に短縮すると共に補修品質を向上させること、及び上記略H型部材の防錆効果を挙げること、また、コンクリート躯体壁面内の水路等の乱流を防止するコンクリートの躯体壁面の補修方法を提供する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及びコンクリート躯体壁面の補修方法について添付図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施の形態を示すものであって、コンクリート躯体壁面に所定間隙を有してアンカーボルトで熱可塑性樹脂板材及び電磁誘導用金具を固定・配置した状態を示す水平断面図である。
【0029】
16は、三面水路や水路トンネル、下水処理施設又は薬液貯留槽等各種の水利構造物等でなるコンクリート躯体である。17は、該コンクリート躯体16の壁面16aに固定される略H型部材である。この略H型部材17は所定幅長を有して前記コンクリート躯体16の壁面16aに垂直方向で延在させてなり、その左・右にH型部(フランジ部)17a、17aを成形してある。そして、一方に於いて、該略H型部材17は前記コンクリート躯体壁面16aの水平方向に所定間隔毎に例えば、アンカーボルト(コブラアンカー)の打込み作業やその他の固定手段18により連設して所望数個を固定・配置される。
【0030】
また、他方に於いて、前記コンクリート躯体壁面16aの水平方向であって、前記略H型部材17の相互間に高周波誘電加熱により後述する熱可塑性樹脂板材20に溶着する電磁誘導用金具19を固定・配置している。この電磁誘導用金具19も、前記略H型部材17と同じ固定手段18等により前記コンクリート躯体16の壁面16aに固定される。上述した固定手段18は、前記略H型部材17及び電磁誘導用金具19をコンクリート躯体壁面16aに固定した際、例えば、アンカーボルトの頭部が該略H型部材17の表面に突出しないようにその頭部等を埋設するように構成する。このように構成してコンクリート躯体16内を流送する用水や下水等の流れを円滑化し、乱流を防止する。
【0031】
前記略H型部材17は、ステンレススチール、溶解亜鉛メッキで処理された鋼材又はアルミニュウムでなる金属材料や硬質ゴム、硬質プラスチックでなる非金属材料で成形して作製する。
【0032】
20は、パネルとしての熱可塑性樹脂板材であって、前記コンクリート躯体16の壁面16aから所定間隙Aを有して前記略H型部材17及び電磁誘導用金具19に固定されている。そして、該熱可塑性樹脂板材20は所定幅を有してなり、その単一又は複数個を連続して貼合せて全体として一つの熱可塑性樹脂板材20及びその両側に別異の熱可塑性樹脂板材Bを接合して構成されている。つまり、前記略H型部材17の左・右側に隣接して嵌合・配置した際、その接合部(目地部)に当該熱可塑性樹脂板材20とは別異の熱可塑性樹脂板材Bを該熱可塑性樹脂板材20に溶着し又は貼合せて嵌合する。
尚、該別異の熱可塑性樹脂板材Bは、現場とは別の場所にて該熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aに予め一体成形加工したもの又は別異の部材として接合したものをコンクリート躯体の壁面補修部材として採用してもよい。
また、該別異の熱可塑性樹脂板材Bは必須構成要件ではなく、これを省略した実施の形態でも可能である。
【0033】
ここで前記熱可塑性樹脂板材及び別異の熱可塑性樹脂板材Bは、例えば、ポリエチレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリプピレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル重合体樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂/エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三重共重合体樹脂混合物、アイオノマー樹脂或いはエチレン−プロピレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等の樹脂素材或いはゴム素材からなる一種又は二種以上の組合せから構成されている。
【0034】
次に、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及びコンクリート躯体壁面の補修方法の実施の形態に基づく補修施工手順やその作用等について説明する。
【0035】
コンクリート躯体16の壁面16aに略H型部材17を例えば、略H型部材17に設けられた孔17bにコンクリートアンカーやコンクリートアンカーピン等の固定手段18を挿入して固定する。この場合、固定手段18がコンクリートアンカー以外の別の手段、例えば、該略H型部材17をコンクリート躯体16の壁面16aに堅固に固定できる手段であれば、該孔17bを形成する必要がない。そして、電磁誘導用金具19を前記略H型部材17、17間に適宜配置し、同じくコンクリートアンカーやコンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定する。
【0036】
次に、上記熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aをH型部(フランジ部)17a、17aに衝合すると共に別異の熱可塑性樹脂板材Bを貼合せた部分を前記略H型部材17、17のH型部(フランジ部)17a、17a相互間の隙間Sに差込み所定の位置に上・下に移動させる。これを順次繰り返して複数の熱可塑性樹脂板材20を設置する。これにより、図2(a)、(b)に示すように、例えば、幅長約4(m)程度の該熱可塑性樹脂板材20の各個を5段に順列配置することとなる。
【0037】
更に、熱可塑性樹脂板材20の設置完了後、予め、前記略H型部材17、17の相互間隔の略中央部分に単一又は複数個設置してある電磁誘導用金具19を磁石等を使用してその位置確認を検知し、高周波誘電加熱手段(図示せず)を使用して、電磁誘導金属板19aを加熱させ、該熱可塑性樹脂板材20を加熱させ溶着させて該熱可塑性樹脂板材20に該電磁誘導用金具19を溶着・固定する。このときの加熱時間は使用前にキャリブレーションして決定する。このようにして上述した略H型部材17及び電磁誘導用金具19によりパネルとしての前記熱可塑性樹脂板材20がコンクリート躯体16の壁面16aに固定される。そして、図2(a)、(b)に示すように、例えば、最上段目に於ける熱可塑性樹脂板材20は単一の電磁誘導用金具19を及び第2段目から第4段目に於ける熱可塑性樹脂板材20は2個の電磁誘導用金具19を配置することとなる。
【0038】
尚、上述に於いて、コンクリート躯体16の壁面16aに略H型部材17を例えば、略H型部材17に設けられた孔17bにコンクリートアンカー、コンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定することや電磁誘導用金具19を前記略H型部材17、17間に適宜配置し、同じくコンクリートアンカー、コンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定する前に、先に、上記熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aをH型部(フランジ部)17a、17aに衝合すると共に別異の熱可塑性樹脂板材Bを貼合せた部分を前記略H型部材17、17のH型部(フランジ部)17a、17a間の隙間Sに差込み所定の位置に上・下に移動させると共にこれを順次繰り返して複数の熱可塑性樹脂板材20を設置すること及び電磁誘導用金具19を前記略H型部材17、17間に適宜配置し、同じくコンクリートアンカーやコンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定することとし、補修施工手順等を変更し、又はその他の補修施工手順を追加してもよい。この補修施工手順は各種のコンクリート躯体の条件や現場の状況を考慮して決定する。
尚、上記別異の熱可塑性樹脂板材Bを設けない場合は、該熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aを直接に上記H型部(フランジ部)17a、17a相互間の隙間Sに嵌合する。
【0039】
而して、上述した補修施工手順により図2(a)、(b)に示すように、熱可塑性樹脂板材20はコンクリート躯体16の壁面16aに所定間隙Aを有して配置固定される。
ここで、図2は、前記熱可塑性樹脂板材20の各個をコンクリート躯体16の壁面16aの垂直方向に順次配列して固定した状態を示すものであって、(a)は(b)の矢視C−C方向から見た正面図であり、(b)は(a)の水平方向の断面図である。
そして、当該本発明に係る実施の形態の例として図2(a)、(b)に示すものを示したが、補修を必要とするコンクリート躯体16の種類や形状及び損傷部位の程度等補修条件によってはこれに限定されず、5段に分割することなく1枚による熱可塑性樹脂板材20や更に電磁誘導用金具19の設置数を追加構成してもよい。
【0040】
尚、上述した構成に於いて、さらに、コンクリート躯体16の壁面16aに不陸があることを考慮し、コンクリート躯体16の壁面16aと熱可塑性樹脂板材20の所定間隙Aに、頂部より無収縮モルタルや無機系セメント充填材若しくはコンクリートを均一に注入・打設する。このようにすれば、熱可塑性樹脂板材20をコンクリート躯体壁面16aに強固に固定することができ、耐久性の高いコンクリート躯体壁面の補修構造が成立する。
また、上記所定間隙A内に鉄筋又はカーボン繊維によるメッシュ筋を配置後、無機系セメント充填材等を注入することもある。
【0041】
また、本発明に於ける上述したコンクリート躯体16の壁面16aは断面形状が略矩形のものに限定されず、略半円形状やその他各種の形状にも適用できる。すなわち、本発明では、水利構造物やトンネルとしての当該コンクリート躯体16の断面形状が例えば、図3及び図4(a)、(b)に示すように略半円形形状若しくは円形状でも適用される。
ここで、図3はトンネル等の開口部を垂直方向であって、前記略H型部材17のH型部(フランジ部)17a、17aを切断した断面図であり、例えば、地山Dの一部にトンネルを構築した例を示すものである。
16aは、コンクリート躯体16としての覆工コンクリートの壁面を示すものである。図4(a)は、図3のE部を拡大した部分拡大図である。尚、図4(b)は、上記図3に示す例えば、水路トンネル等の開口部を垂直方向であって、前記電磁誘導用金具19の略中心部を切断した部分に於ける拡大断面図である。
図3及び図4(a)、(b)に於ける他の構成は上述した図1及び図2(a)、(b)に示すものと略同一であり、同一番号、同一符号を付し、その説明を省略する。
【実施例】
【0042】
次に、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける実施例を図5及び図6に基づき説明する。
【0043】
図5は、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施例を示すものであって、上述した図1に示す構成に加えて熱可塑性樹脂シートを備えるものであって、H型部材及び熱可塑性樹脂板材の表面にかかる熱可塑性樹脂シートを溶着手段により覆設した構成例を示す水平断面図である。図6は、図5に於いて、該略H型部材をコンクリート躯体の壁面に固定した状態を示す拡大水平断面図である。
【0044】
21は、例えばポリエチレンシート等で構成された熱可塑性樹脂シートであって、前記略H型部材17の左・右側の隣接部位F、つまり、左・右のH型部(フランジ部)17a、17aと熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aとの接合部位であるいわゆる目地部に於ける該略H型部材17及び該熱可塑性樹脂板材20の表面に溶着手段により覆設されている。これにより当該略H型部材17が例えば上述したような金属等材料で成形されたときにも、防錆機能を果すこととなる。他の構成については、上述した図1に示す実施の形態に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の構成と略同一であり、同一番号、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
次に、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法の実施例に基づく補修施工手順やその作用等について説明する。
【0046】
コンクリート躯体16の壁面16aに略H型部材17を例えば、略H型部材17に設けられた孔17bにコンクリートアンカーやコンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定する。この場合、固定手段18がコンクリートアンカー以外の別の手段であれば、該孔17bを形成する必要がない。そして、電磁誘導用金具19を前記略H型部材17、17間に適宜配置し、同じくコンクリートアンカーやコンクリートアンカーピン等の固定手段18で固定する。
【0047】
次に、上記熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aをH型部(フランジ部)17a、17aに衝合すると共に別異の熱可塑性樹脂板材Bを貼合せた部分を前記略H型部材17、17のH型部(フランジ部)17a、17aの相互間の隙間Sに差込み所定の位置に上・下に移動させる。これを順次繰り返して複数の熱可塑性樹脂板材20を設置する。
【0048】
更に、熱可塑性樹脂板材20の設置完了後、予め、前記略H型部材17、17の相互間の略中央部分に単一又は複数個設置してある。電磁誘導用金具19を磁石等を使用してその位置確認を検知し、高周波誘電加熱手段(図示せず)を使用して、該電磁誘導用金具19の電磁誘導金属板19aを加熱させ、該電磁誘導金属板19aを該熱可塑性樹脂板材20の裏面に溶着・固定する。このときの加熱時間は使用前にキャリブレーションして決定する。
加えて、前記熱可塑性樹脂シート21を前記略H型部材17の左・右側の隣接部位Fに於ける該略H型部材17及び該熱可塑性樹脂板材20の表面に溶着手段により熱溶着して固定する。
【0049】
また、前述した略H型部材17は図5及び図6に於いて、上述した実施例の変形例としてガスケット状金具17Aで構成してもよい。17Aはガスケット状金具で構成した略H型部材であり、前記熱可塑性樹脂シート21を前記ガスケット状金具で構成した略H型部材17Aの左・右側の隣接部位Fに於ける該略H型部材17A及び該熱可塑性樹脂板材20の表面に溶着手段により熱溶着して固定する。
【0050】
このようにして、熱可塑性樹脂板材20を略H型部材17、17の相互間に電磁誘導用金具19を設置できるので、補修施工の工数低減が図れる。また、左・右の熱可塑性樹脂板材20をガスケット状金具17Aにて連続化して、さらに、ガスケット状金具17Aの相互間隔に所定の個数のコンクリート釘等によりコンクリート躯体16に固定された電磁誘導用金具19にて熱可塑性樹脂板材20を溶着させた構造により、強固にコンクリート躯体16との熱可塑性樹脂板材20を一体化させている。
【0051】
尚、上述した図5及び図6に示す本発明に係る実施例に於いて、さらに、コンクリート躯体16の壁面16aに不陸があることを考慮し、コンクリート躯体16の壁面16aと熱可塑性樹脂板材20の所定間隙Aに、頂部より無収縮モルタルや無機系セメント充填材若しくはコンクリートを均一に注入・打設する。このようにすれば、耐久性の高いコンクリート躯体壁面の補修構造が成立する。
ここで、上記所定間隙A内に鉄筋又はカーボン繊維によるメッシュ筋を配置後、無機系セメント充填材等を注入することもある。
また、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法の実施例に於ける他の補修施工手順等は図1に示すものと同一であり、その説明を省略する。
【0052】
次に、図1及び図5に適用される本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける略H型部材の構成例の詳細について図7に基づき説明する。
【0053】
図7は、コンクリート躯体16の壁面16aにH型部材17を介して熱可塑性樹脂板材20が固定・配置される構成例を示す拡大斜視図である。
図7に示すように、コンクリート躯体16の壁面16aに略H型部材17を固定し、該略H型部材17に於いて、その一方及び他方のH型部(フランジ部)17a、17a及び17a、17aの相互の隙間Sに予め熱可塑性樹脂板材20を接合し又は貼付けられた別異の熱可塑性樹脂板材Bを嵌合し、前記略H型部材17のH型部(フランジ部)17a、17aの端部の表面に前記熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aを接合させる。このときの両者の接合部位は、該略H型部材17の左・右側の隣接部位Fとなる。ここで、上記H型部(フランジ部)17a、17aの相互の隙間Sは、概ね10(mm)が好適値であった。
【0054】
そして、当該本発明に於けるコンクリート躯体壁面の補修構造としての設定条件は次の設計仕様を満足することが望ましい。すなわち、該熱可塑性樹脂板材20の厚さt1は5(mm)ないし20(mm)であって、最適値は8(mm)である。また、該略H型部材17はいわゆるパネルとしての前記熱可塑性樹脂板材20の両側部分20a、20aを固定するための継目としての役割を有しており、その厚さt2は前記コンクリート躯体壁面16aからの所定間隙Aと前記熱可塑性樹脂板材20の厚さt1の合計値である。ここに、所定間隙Aは、5(mm)ないし75(mm)であり、よって、厚さt2が10(mm)ないし95(mm)であることが望ましい。
また、前記略H型部材17の一方及び他方のH型部(フランジ部)17a、17a及び17a、17aの相互の隙間Sは概ね前記別異の熱可塑性樹脂板材B及び熱可塑性樹脂板材20の厚さt1とほぼ同一であり、5(mm)ないし20(mm)であることが望ましく、そして、該別異の熱可塑性樹脂板材B自体の幅長は10(mm)ないし100(mm)が好適であることが判明した。
尚図中、G部は、上記略H型部材17、17の相互間であって、コンクリート躯体16の壁面16aに挿置された電磁誘導用金具19の所在場所を示す。
【0055】
次に、図1及び図5に適用される本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける電磁誘導用金具19の構成例の詳細について図8ないし図11に基づき説明する。
【0056】
図8は、コンクリート躯体16の壁面16aに高周波誘電加熱法の原理を利用した当該電磁誘導用金具19を介して熱可塑性樹脂板材20が固定・配置される構成例を示す拡大水平断面図である。
当該電磁誘導用金具19は、一般的の高周波誘電加熱法の原理を利用したもので適度な透磁性を有す電磁誘導金属板を熱可塑性樹脂シートに挟み込んだ取付金具である。被融着物の界面に配することにより、通電すると電磁誘導金属板が加熱機能を発揮し、両面の樹脂を直ちに溶融して、両面の樹脂が一体化すること及び取付けられる熱可塑性樹脂板材、シート材の建造物への保持力を向上するには、電磁誘導金属板の単位面積当たりの配置数を増やす、電磁誘導金属板の融着面積を増やす、或いは電磁誘導金属板に開けた小孔の開口率を増やす方法があり、この開口率を増やす方法として小孔一つ一つの面積を広くすることが簡便的な方法だが、面積が広がると、通電して電磁誘導金属板を加温しても小孔の中心部分の樹脂昇温に時間がかかり、中心部の樹脂が溶融するまでに電磁誘導金属板の表面の樹脂が過剰な加熱を受け、焦げて劣化する危険があるので、必ず施工する前に試験をして加熱時間を決定しておくことが肝要である。
【0057】
図8に示すように、コンクリート躯体16の壁面16aから所定間隙Aを有して熱可塑性樹脂板材20が配置されている。そして、電磁誘導用金具19の電磁誘導金属板19aの略中心部に図9(a)、(b)に示すように形成された固定手段挿入用孔としての貫通孔19bに挿通する固定手段18としての例えば、コンクリートアンカー(SUS)18Aが該コンクリート躯体16の壁面16aに打込まれ、該電磁誘導用金具19の電磁誘導金属板19aが固定される。電磁誘導用金具19の電磁誘導金属板19aは、図9(a)、(b)に示すように全体形状が略円盤状であって、その周縁部段差面19A及びその略中心部、すなわち前記貫通孔19bの周辺部に段差面19Bを形成している。
【0058】
前記電磁誘導金属板19aは、複数又は多数個の断面形状が略円形状の小孔19c、19c…を貫通してなり、その表・裏面は熱可塑性樹脂材料等を含有する樹脂層19d、19eを被膜して成形している。そして、該電磁誘導金属板19aと該樹脂層19d、19eとは熱加熱プレス加工により、該電磁誘導金属板19aに穿孔されている複数又は多数個の小孔19c、19c…の全空間内に該樹脂層19d、19eの一部が充填され、該小孔19c、19cの上部に該樹脂層19d、19eが盛上がるように一体に成形される。
尚、上記小孔19c、19c…は断面形状が略円形以外の矩形やその他各種の形状であっても差支えない。また、上記樹脂層19d、19eは電磁誘導金属板19aのいずれか一方の面、特に被融着物としての熱可塑性樹脂板材20の側の面にのみ被膜しても適用できる。
【0059】
而して、電流を流すと誘導電流コイル(図示せず)より磁力線が発生し、そして、磁力線が被融着物を透過して、電磁誘導金属板19aまで達し、電磁誘導金属板19aの内部で渦電流が発生し発熱する。そして、電磁誘導金属板19aに接触している樹脂層19d、19eの接触面から昇温し、さらに前記熱可塑性樹脂板材20に接触している被融着物が遅れて昇温する。さらに、電磁誘導金属板19aに接触している樹脂層19d、19eと、被融着物の前記熱可塑性樹脂板材20に接触している面の樹脂が溶融し、該電磁誘導用金具19と熱可塑性樹脂板材20が一体化した後、通電を停止し冷却するまで加圧すると融着・固定が完了する。
【0060】
尚、上述した電磁誘導用金具19は、全体形状が略円盤状のものを例示したが、本発明は矩形体であって、その両側及び中央部分に段差面を形成した構造等にも適用でき又各種の形状にも適応できる。
【0061】
また、前記電磁誘導用金具19は図10に示すように、樹脂やゴム等の非金属材料又は絶縁材料等で構成されるスペーサ22を備えることもできる。このように構成すると、コンクリート躯体16の壁面16aが凹凸状であって平滑化されていない面体であっても、当該電磁誘導用金具19を該コンクリート躯体壁面16aに面一に固定でき、補修施工を容易にすると共に施工精度の高いコンクリート躯体補修構造を提供できる。
図10に於いて、他の構成部分は図8に示すものと略同一であり、同一の番号及び同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
図11は、前述した図1及び図5に示す本発明に係る実施の形態及び実施例に適用する略H型部材の変形例を示すものであって、特に、コンクリート躯体16の壁面16aと熱可塑性樹脂板材20との隙間Aの長さを調整する場合に適用される。
【0063】
本発明はコンクリート躯体16の各種の建築・土木構造物の補修部位や補修形態に適応させた補修施工を実施する必要があり、そのためコンクリート躯体16の壁面16aと熱可塑性樹脂板材20との隙間Aの幅長を調整すること及び補修強度を確保する要請がある。ここで、図11のような補修構造例を示す。
【0064】
補修施工手順としては、コンクリート躯体16の壁面16aにコンクリートアンカー(M10)23を打込む。このコンクリートアンカー(M10)23は中心軸部分がねじ孔(図示せず)を形成しており、このねじ孔に例えば長大であって周囲にねじ山が刻設してある全ねじボルト24の一端を螺合し挿入する。一方に於いて、熱可塑性樹脂板材20及び別異の熱可塑性樹脂板材Bを嵌合し又は接合した略H型部材17の上面に例えば、アンカーボルト等の固定手段18で固定された支持板25の下面に上記全ねじボルト24の他端を高ナット(M10)を介して取付ける。該高ナット(M10)26は上記全ねじボルト24の他端を螺入させ、この高ナット(M10)26を回動させると、全ねじボルト24の進退方向を制御させ上記コンクリート躯体16の壁面16aと熱可塑性樹脂板材20との隙間Aの長さが調整できる。そして、上記高ナット(M10)26と上記支持板25との接触箇所を溶接手段で固定する。而して、コンクリート躯体16の壁面16aに熱可塑性樹脂板材20を所望の間隔Aを有して固定・配置することができる。
【0065】
次に、本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造及び補修方法について説明すれば、コンクリート躯体16の壁面16aに所定間隙かつ所定数の略H型部材17を固定する第1工程と、前記略H型部材17のH型部(フランジ部)17a、17aの両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材Bを貼り付け固定し又は該別異の熱可塑性樹脂部材Bを一体成形する熱可塑性樹脂板材20を前記略H型部材17の左・右側に隣接して嵌合配置する第2工程と、前記H型部材17の相互間であってコンクリート躯体16の壁面16aに固定する電磁誘導金属板19aを備えた電磁誘導用金具19を高周波誘電加熱により、該電磁誘導用金具19を前記熱可塑性樹脂板材20の内面に溶着する第3工程と、熱可塑性樹脂シート21で、前記H型部材17の左・右側の隣接部位Fに於ける該H型部材17及び前記熱可塑性樹脂板材20の表面を覆設する第4工程とでなるコンクリート躯体壁面16aの補修方法である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける実施の形態を示す水平断面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける実施の形態を示すものであって、コンクリート躯体の壁面に固定される略H型部材及び電磁誘導用金具の全体配置を示す図であり、(a)は(b)の矢視C−C線方向の側面図、(b)は(a)の水平断面図である。
【図3】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造に於ける実施の形態を示すものであって、コンクリート躯体の断面形状が略円形状である場合のその開口部から見た垂直断面図である。
【図4】図3に於けるE部の拡大した図面であって、(a)は略H型部材の略中心部を垂直方向に断面した図面であり、(b)は電磁誘導用金具の略中心部を垂直方向に断面した図面である。
【図5】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施例を示す水平断面図である。
【図6】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施例を示すものであって、略H型部材及び熱可塑性樹脂板材の固定状態を示す拡大した水平断面図である。
【図7】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施の形態及び実施例に適用する略H型部材及び熱可塑性樹脂板材に於ける細部の構成例を示す斜視図である。
【図8】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施の形態及び実施例に適用する電磁誘導装置用金具に於ける細部の構成例を示す水平拡大断面図である。
【図9】図8に示す電磁誘導用金具に使用される電磁誘導金属板の構造を示すものであって、(a)は(b)の矢視H−H線方向の断面図、(b)は平面図である。
【図10】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施の形態及び実施例に適用する電磁誘導用金具の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明に係るコンクリート躯体壁面の補修構造の実施の形態及び実施例に適用する略H型部材の変形例の固定状態を示す拡大した水平断面図である。
【図12】従来の技術に於ける一つの例であって、構築物躯体壁面へのパネルの取付け構造を示す垂直断面図である。
【図13】従来の技術に於ける他の例であって、コンクリート躯体壁面の補修方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
16 コンクリート躯体
16a コンクリート躯体の壁面
17 略H型部材
17A ガスケット金具(略H型部材)
17a 略H型部材のH型部(フランジ部)
17b 略H型部材の孔
18 固定手段(アンカーボルト)
18A コンクリートアンカー(固定手段)
19 電磁誘導用金具
19a 電磁誘導用金具の電磁誘導金属板
19b 電磁誘導金属板の貫通孔
19c 電磁誘導金属板の小孔
19d 電磁誘導金属板の表面の樹脂層
19e 電磁誘導金属板の裏面の樹脂層
19A 電磁誘導金属板の段差面
19B 電磁誘導金属板の段差面
20 熱可塑性樹脂板材
20a 熱可塑性樹脂板材の両側部分
21 熱可塑性樹脂シート
22 スペーサ
23 コンクリートアンカー
24 全ねじボルト
25 支持板
26 高ナット
A 所定間隙
B 別異の熱可塑性樹脂板材
D 地山
S H型部(フランジ部)の相互間の隙間
F 略H型部材の左・右側の隣接部位
t1 熱可塑性樹脂板材の厚さ
t2 略H型部材の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項2】
コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を固定すると共に略H型部材の左・右側に隣接して配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具とで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項3】
前記コンクリート躯体壁面と前記熱可塑性樹脂板材とで形成した所定間隙内に無機系セメント充填材又はコンクリートを注入・打設することを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂板材は、所定間隙5(mm)ないし75(mm)の設定寸法で前記コンクリート躯体壁面に取付けられることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項5】
前記略H型部材は、ステンレススチール、溶融亜鉛メッキで処理された鋼材又はアルミニュウムでなる金属材料若しくは、硬質ゴム又は硬質プラスチックでなる非金属材料で成形されたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂板材は別異の熱可塑性樹脂板材を一体成形したことを特徴とする請求項2記載のコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項7】
前記別異の熱可塑性樹脂板材は、厚さ5(mm)ないし20(mm)であって、幅長10(mm)ないし100(mm)に設定したことを特徴とする請求項2又は5記載のコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項8】
コンクリート躯体壁面に所定間隙を有して熱可塑性樹脂板材を取付ける補修構造に於いて、一方で、前記コンクリート躯体壁面に固定される所定間隔かつ所望数の略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置した前記熱可塑性樹脂板材と、他方で、前記コンクリート躯体壁面であって、前記略H型部材相互間に固定されかつ前記熱可塑性樹脂板材に高周波誘電加熱により溶着する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具と、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面に溶着手段により覆設する熱可塑性樹脂シートとで構成されたことを特徴とするコンクリート躯体壁面の補修構造。
【請求項9】
コンクリート躯体壁面に所定間隙かつ所定数の略H型部材を固定する第1工程と、前記略H型部材のH型部(フランジ部)の両側に嵌合する別異の熱可塑性樹脂部材を貼り付け固定し又は該別異の熱可塑性樹脂部材を一体成形する熱可塑性樹脂板材を前記略H型部材の左・右側に隣接して嵌合配置する第2工程と、前記H型部材の相互間であってコンクリート躯体壁面に固定する電磁誘導金属板を備えた電磁誘導用金具の高周波誘電加熱により、該電磁誘導用金具を前記熱可塑性樹脂板材の内面に溶着する第3工程と、熱可塑性樹脂シートで、前記H型部材の左・右側の隣接部位に於ける該H型部材及び前記熱可塑性樹脂板材の表面を覆設する第4工程とでなるコンクリート躯体壁面の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−161407(P2006−161407A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354323(P2004−354323)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【Fターム(参考)】