説明

コンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造

【課題】プレグラウトされたセメント系グラウト材内に補強部材を挿入してもその周りに空気が溜まることなく、補強部材を確実に定着可能なコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を提供する。
【解決手段】製造工程S10から挿入工程S50までを実施することにより、モルタル40を製造する。まず、水とセメントと砂とを混合してモルタル40を製造する。次に、モルタル40を脱気する。次に、コンクリート部材本体12に形成された孔14内に脱気したモルタル40を充填する。次に、補強部材30を脱気したモルタル40内に浸す。最後に、モルタル40で覆われた補強部材30を、孔14に充填されたモルタル40内に挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材に補強部材を埋設することにより、このコンクリート部材をせん断補強する方法及構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、BOXカルバートの外壁など面外方向にせん断力が作用するコンクリート部材のせん断補強を行う方法として、コンクリート部材内にせん断力により生じるひび割れと交わるように補強棒を埋設する方法がある。この方法によれば、コンクリート部材に作用するせん断力を補強棒に負担させることで、せん断補強を行うことができる。
【0003】
このような補強棒を埋設する方法において、コンクリート部材にせん断力が作用すると、補強棒には引張力が作用するため、補強棒が引張力に抵抗できるように、補強棒をコンクリート部材に定着させる必要がある。このような定着を行う方法として、補強棒の端部に円盤状の定着材を取り付ける方法が知られている。かかる構成の補強棒に引張力が作用すると、引張力が定着材に伝達され、定着材の支圧面が前面(引張られる向きの前方の面)に存在するコンクリート部材を圧縮する。これにより、この補強棒は引張荷重に抵抗できる。また、この反力がコンクリートに伝達することにより、コンクリート部材のせん断破壊を防止することができる。
【0004】
本願出願人らは、補強棒に定着材を取り付ける方法として、補強棒に、図11(A)に示すようなねじ鉄筋211を用い、図11(B)に示すように、定着材としてナット212をねじ鉄筋211に螺合させて取り付けた補強部材210を用いる方法を提案している。
【0005】
この方法は、まず、補強部材210を埋設するための孔をコンクリート部材に形成し、次に、この孔にセメント系グラウト材を充填し、その後、孔内に補強部材を挿入する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007―278014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願出願人らは、特許文献1に記載の補強部材を孔内に挿入すると、定着材の挿入方向に対して背面(孔口側の面)側に空気溜まりが発生し、この空気溜まりが消滅することなく、そのままの状態でセメント系グラウト材が硬化してしまう場合が希にあるという知見を得た(図12参照)。
【0008】
この状態では、補強部材がセメント系グラウト材に完全に密着していないため、せん断補強材としての機能を充分に果たせない可能性がある。
【0009】
そこで、本願出願人らは、定着材の背面側に空気溜まりが発生する現象について検討した。その結果を以下に説明する。
【0010】
図13(A)に示すように、補強部材210を挿入すると、セメント系グラウト材及びこのセメント系グラウト材中の空気は、孔壁面と定着材212との狭い隙間を通過して孔口側へ移動することになる。この狭い隙間を通過する際に、セメント系グラウト材及びセメント系グラウト材中の空気は圧縮された状態になるとともに、その移動速度、すなわち通過速度が徐々に増加する。
【0011】
その後、セメント系グラウト材及びセメント系グラウト材中の空気がその狭い隙間を抜けると、セメント系グラウト材及びセメント系グラウト材中の空気の移動速度は徐々に低下する。そして、定着材212の背面側(孔口側の面)に滞留しているセメント系グラウト材と速度差ができることにより渦が形成される。この渦による負圧によって、セメント系グラウト材中の空気は渦に引き寄せられ、定着材212の背面近傍に滞留する。さらに、この現象が連続して生じることにより、定着材212の背面側にはセメント系グラウト材中の空気が供給され、個々の空気が一体化して大きなものになる。その結果、図14(B)に示すように、定着板212の背面側に空気溜まりが生じる。
【0012】
なお、上述した定着材212の背面に空気溜まりが生じる現象を、図14に示すように、セメント系グラウト材が充填された透明の筒内に補強部材210を挿入する実験によって確認した。
【0013】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、プレグラウトされたセメント系グラウト材内に補強部材を挿入してもその周りに空気が溜まることなく、補強部材を確実に定着可能なコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、せん断荷重の作用するコンクリート部材のせん断補強方法において、
製造したセメント系グラウト材に含まれる空気を排出する脱気工程と、
前記脱気工程にて脱気されたセメント系グラウト材を前記コンクリート部材に形成された孔内に充填する充填工程と、
前記充填工程にて前記セメント系グラウト材が充填された前記孔内に、断面形状が長手方向に沿って変化する部分を有する棒状の補強部材を挿入する挿入工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記セメント系グラウト材は、フローが50mm以上90mm以下であることとしてもよい。
【0016】
本発明のコンクリート部材のせん断補強構造は、上述したコンクリート部材のせん断補強方法にて構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレグラウトされたセメント系グラウト材内に補強部材を挿入してもその周りに空気が溜まることなく、補強部材を確実に定着可能なコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】せん断補強構造により補強された板状の鉄筋コンクリート部材を示す図であり、(A)は厚さ方向の断面図、(B)は(A)におけるB―B断面図である。
【図2】補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材を構成するねじ鉄筋を示す図である。
【図3】せん断補強構造の構築工程を示す図である。
【図4】モルタルの脱気作業を示す図である。
【図5】補強部材をモルタル内に浸した状態を示す図である。
【図6】バイブレーターをかけている状態を示す図である。
【図7】補強部材をモルタル内から引き揚げている状態を示す図である。
【図8】補強部材をモルタル内から引き揚げている状態を示す図である。
【図9】コンクリート部材本体内に補強部材を挿入する状態を示す図である。
【図10】補強部材の他の実施例を示す図であり、(A)背面側がテーパー状のナットを備えた補強部材を示す図、(B)はねじ鉄筋の径よりもやや大きい径のナットを備えた補強部材を示す図である。
【図11】従来の補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材を構成するねじ鉄筋を示す図である。
【図12】定着板の背面に空気が溜まり、そのままセメント系グラウト材が硬化した状態を示す図である。
【図13】定着板の背面に空気が溜まる状態を示す図であり、(A)は補強部材の先端部を孔内に挿入した状態を示す図、(B)は補強部材を孔底まで挿入した状態を示す図である。
【図14】空気溜まりが発生する現象を実験で確認している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
図1は、せん断補強構造1により補強された板状の鉄筋コンクリート部材10を示す図であり、(A)は厚さ方向の断面図、(B)は(A)におけるB―B断面図である。
【0021】
同図に示すように、鉄筋コンクリート部材10は、コンクリート部材本体12と、コンクリート部材本体12の表裏面の近傍に埋設された主鉄筋11と、表裏面の近傍に主鉄筋11と直交するように埋設された配力筋13と、を備える。
【0022】
図1(A)に示すように、鉄筋コンクリート部材10に、板厚方向にせん断力Pが作用すると、同図に一点鎖線で示すような斜めひび割れ面が発生する。
【0023】
せん断補強構造1は、このような斜めひび割れ面に当たる面と交差するように棒状の補強部材30が埋設されてなる。
【0024】
図2は、補強部材30を示す図であり、(A)は補強部材30全体を示す図、(B)は補強部材30を構成するねじ鉄筋31を示す図である。
【0025】
同図に示すように、補強部材30は、両端に螺条が形成された螺条部35を備えるねじ鉄筋31と、このねじ鉄筋31の螺条部35に夫々螺合する中央側のナット32及び端部側のナット33と、とからなる。
【0026】
ねじ鉄筋31は、その両端から所定の範囲に設けられた2つの螺条部35と、螺条部35の間に挟まれた外周面に螺条が形成されていない中央部36とを備える。補強部材30は、中央側のナット32をねじ鉄筋31の螺条部35に螺合させ、中央部36に向けて回転しなくなるまで締め付け、さらに、ねじ鉄筋31の両端部にナット33を螺条部35に螺合させることにより形成される。
【0027】
次に、上述したせん断補強構造1の構築方法を施工手順に従って説明する。
【0028】
図3は、せん断補強構造1の構築工程を示す図である。同図に示すように、製造工程S10から挿入工程S50までを実施することにより、せん断補強構造1を構築する。以下、各工程について説明する。
【0029】
まず、製造工程S10を実施する。この工程では、水とセメントと砂とを混合してモルタル40(セメント系グラウト材に相当)を製造する。
【0030】
モルタル40を製造する際は、まず、セメント、砂をそれぞれ所定の量だけミキサに投入して、セメントと砂とを練り混ぜる。次に、水を投入して更に練り混ぜることにより、モルタル40を製造する。なお、必要に応じて、混和剤を配合してもよい。
【0031】
本実施形態では、製造したモルタル40のフローが50mm以上90mm以下となるようにセメント、砂及び水を配合した。
【0032】
次に、脱気工程S20を実施する。この工程では、モルタル40内の空気を外へ排出する。
【0033】
図4は、モルタル40の脱気作業を示す図である。本図に示すように、モルタル40内の空気量をモルタルエアメーター(図示しない)で測定しながら、バイブレーター61でモルタル40を振動させて、空気量が所定の値以下になるまで脱気する。
【0034】
次に、充填工程S30を実施する。この工程では、コンクリート部材本体12に形成された孔14内に、脱気工程S20で脱気したモルタル40を孔口から溢れ出るまで充填する。
【0035】
次に、プレウエッティング工程S40を実施する。この工程では、図5に示すように、補強部材30を脱気工程S20で脱気したモルタル40内に浸すことにより、補強部材30の全体を覆うようにモルタル40を付着させる。
【0036】
図6は、バイブレーター61をかけている状態を示す図である。同図に示すように、補強部材30をモルタル40内に浸したまま、補強部材30の周囲のモルタル40をバイブレーター61で振動させてもよい。
【0037】
これにより、補強部材30をモルタル40に浸す際に、補強部材30と一緒にモルタル40内に連行された空気をモルタル40の外に排出するとともに、補強部材30の隅々までモルタル40を付着させることができる。
【0038】
図7及び図8は、補強部材30をモルタル40内から引き揚げている状態を示す図である。両図に示すように、補強部材30をモルタル40内から引き揚げる。引き揚げられた補強部材30は、モルタル40で覆われている。
【0039】
なお、本実施形態では、モルタル40内に補強部材30を浸したが、これに限定されるものではなく、ハケ等で補強部材30にモルタル40を塗布してもよい。
また、補強部材30全体にモルタル40を塗布するのではなく、定着材となるナット32、33の周辺にのみモルタル40を塗布することとしてもよい。
【0040】
次に、挿入工程S50を実施する。この工程では、図9に示すように、モルタル40で覆われた補強部材30を、モルタル40で充填されたコンクリート部材本体12の孔14内に挿入する。
【0041】
完全に補強部材30を挿入したら、孔口をモルタル40で間詰めして、モルタル40が所定の強度になるまで養生する。
【0042】
上述したせん断補強方法によれば、脱気工程S20を実施するので、製造工程S10でモルタル40内に空気が混入したとしても、その空気を排出することができる。これにより、モルタル40中にほとんど空気が存在しなくなるので、補強部材30の挿入によるナット32、33背面での空気溜まりの発生を防止することができる。
【0043】
また、モルタル40内への空気の混入は、モルタル40製造時の撹拌によって生じるものであり、本願発明の脱気工程S20は、モルタル40を撹拌するのではなく、振動させることから、脱気工程S20によって、モルタル40内に新たに空気が混入されるおそれはない。
【0044】
また、プレウエッティング工程S40を実施せずに、補強部材30をコンクリート部材本体12内に挿入すると、補強部材30の挿入とともに、モルタル40で充填された孔14内に空気を連行してしまうおそれが生じる。本願発明のプレウエッティング工程S40はこの空気の連行を防ぐために実施するものであり、補強部材30にモルタル40を塗布してその外形の形状をなだらかにすることにより、孔14内への挿入時における空気の連行を抑制することができる。
【0045】
さらに、プレウエッティング工程S40により、補強部材30のすべての面にモルタル40が付着しており、これが孔14内にあらかじめ充填されているモルタル40と一体化するので、補強部材30を確実にコンクリート部材本体12に定着することができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、セメント系グラウト材としてモルタル40を製造する場合について説明したが、モルタル40に限定されるものではなく、水とセメントとからなるセメントミルク、水とセメントと骨材とからなるコンクリートでもよい。また、これらに混和剤が含まれていてもよい。
【0047】
なお、本実施形態においては、ナット32の径とねじ鉄筋31の径との差が大きく、断面形状が長手方向に急激に変化する補強部材30を用いた場合について説明したが、断面形状が長手方向に緩やかに変化する補強部材を用いてもよい。例えば、異形鉄筋や、図10(A)に示すように、背面側がテーパー状のナット71を備えた補強部材70や、図10(B)に示すように、ねじ鉄筋31の径よりもやや大きい径のナット81を備えた補強部材80を用いてもよい。
補強部材70、80等のように、断面形状が長手方向に緩やかに変化するものを用いた場合には、ナット71、81の背面側に空気は溜まりにくいため、本実施形態で説明したプレウエッティング工程S40を省いてもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、充填工程S30の後にプレウエッティング工程S40を実施したが、この順番に限定されるものではなく、プレウエッティング工程S40の後に充填工程S30を実施したり、両工程S30、S40を並行して実施したりしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 せん断補強構造
10 鉄筋コンクリート部材
11 主鉄筋
12 コンクリート部材本体
13 配力筋
14 孔
30 補強部材
31 ねじ鉄筋
32 ナット
33 ナット
35 螺条部
36 中央部
40 モルタル
61 バイブレーター
70 補強部材
71 ナット
80 補強部材
81 ナット
S10 製造工程
S20 脱気工程
S30 充填工程
S40 プレウエッティング工程
S50 挿入工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断荷重の作用するコンクリート部材のせん断補強方法において、
製造したセメント系グラウト材に含まれる空気を排出する脱気工程と、
前記脱気工程にて脱気されたセメント系グラウト材を前記コンクリート部材に形成された孔内に充填する充填工程と、
前記充填工程にて前記セメント系グラウト材が充填された前記孔内に、断面形状が長手方向に沿って変化する部分を有する棒状の補強部材を挿入する挿入工程と、
を備えることを特徴とするコンクリート部材のせん断補強方法。
【請求項2】
前記セメント系グラウト材は、フローが50mm以上90mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート部材のせん断補強方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンクリート部材のせん断補強方法にて構築されたことを特徴とするコンクリート部材のせん断補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−1963(P2012−1963A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137458(P2010−137458)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】