説明

コンクリート鋼材補修方法及びコンクリート鋼材防錆方法

【課題】本発明は、鋼材の状態がどのような状態であっても低コストで錆びないようにするコンクリート鋼材補修方法とコンクリート鋼材防錆方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、コンクリート1に埋設する鉄筋2の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、鉄筋2の不動態皮膜が形成されている部分はアルカリ性還元剤によって不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分は浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分は不動態皮膜を形成するとともに、アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で浸透性樹脂を硬化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物を破砕して鋼材部分を補修するときのアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を使ったコンクリート鋼材補修方法、及びアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を使ったコンクリート鋼材防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物は通常コンクリート内部に多数の微小キャビティが不可避的に形成されるが、このキャビティに水分が浸透すると概ねpH12以上の高アルカリ性を示す。この高アルカリ環境によってコンクリートの打設時から鉄筋表面に厚さ約3nm程度のγ−Fe・nHOの緻密で安定した不動態皮膜が形成され、これによって鉄錆(赤錆)Fe(OH)の発生が継続的に抑えられている。すなわち、この緻密な酸化皮膜が鉄の酸化を遮断し、鉄筋の腐食を抑えている。
【0003】
しかし、セメントに混合される砂等には塩分が含まれていることが多く、また、海浜地帯では塩害があるため、塩分を含む外部の水がコンクリート表面から微小キャビティに浸透して鉄筋まで到達し、周辺のpHを9〜10程度に下げ、中性化させることが起こる。このため、高アルカリ環境下で形成された不動態皮膜がこの環境で破壊され、鉄筋の腐食が急速に進行し、コンクリートの強度を弱め、劣化させてしまう。すなわち、不動態皮膜に化学吸着している酸素原子あるいは水分子中に塩化物イオンClが割り込み、塩素と鉄の化合物が形成され、不動態皮膜に孔食が発生する。この孔から溶け出した鉄イオンFe++が、酸素Oと水HOと陽イオン2eの反応で生成したOHイオンと反応して、鉄錆となる水酸化第一鉄Fe(OH)を生成し、周囲の中性化を促進する。このとき鉄錆の発生により、この部分の鉄筋の体積は2.5倍程度に膨張し、膨張圧で鉄筋周辺のコンクリートには亀裂が形成され、コンクリート構造物の耐久性を低下させる。
【0004】
このような鉄錆対策として、従来一般的に、防錆混和剤が用いられてきた。この防錆混和剤は通常亜硝酸化合物等であって、高アルカリ環境下で不動態皮膜を形成するものである。しかし、これは一旦コンクリート内の中性化が起こった場合には十分機能しないものであった。というのは、この防錆混和剤は中性化に対する問題意識が充分でなかった頃からの対策であって、現実にはコンクリート内部の多数の微小キャビティを伝わって鉄筋付近にまで水が浸透し、鉄筋の周囲を中性化させて腐食を急速に進行させてしまうからである。このため、最近、例えば亜硝酸塩及び硫酸バリウムを含有する防錆混和剤が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、以上説明した鉄筋等の腐食と関係が無いが、コンクリート構造物がひび割れて損傷したような場合に、ひび割れた空間を補修するコンクリート構造物の注入補修工法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は、コンクリート構造物の損傷部を補修するに際し、エポキシ樹脂と、α位に置換基をもつケトン及びα位がメチレンであるポリアミンを反応させて得られるケチミン化合物とを含有する一液湿気硬化性エポキシ樹脂組成物を損傷部に注入するものである。この一液湿気硬化性エポキシ樹脂組成物による注入補修工法は、補強効果に優れ、コンクリート構造物の耐久性を向上させ、防水性にも優れ、かつ、作業性に優れるものである。
【0006】
【特許文献1】特開平2003−300764号公報
【特許文献2】特開平11−293929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上説明したようにコンクリート構造物は、コンクリート内部の微小キャビティを拡散、毛管現象等の物質移送によって鉄筋付近にまで水分が浸透し、鉄筋の周囲の環境を中性化させ、腐食を急速に進行させる。従来の防錆混和剤は、亜硝酸化合物による還元作用で不動態皮膜を形成することが中心に開発され、中性化に伴う不動態皮膜の破壊(孔食)を防ぐことができず、鉄筋を十分に保護できないという問題があった。
【0008】
また、鉄錆(赤錆)は多孔質組織を有しており、細孔内に水分を含み易いため、一旦鉄錆が形成されると鉄錆自身がさらに錆を生んでしまう。コンクリート補修時には、通常、ピックやウォータージェット等でコンクリートを破砕(以下、ハツリ)し、露出した鉄筋をワイヤーブラシで擦って錆落とし(以下、ケレン)を行うが、鉄筋背面(コンクリート表面から遠い部分)や鉄筋交差部分に形成された鉄錆はブラシでは取り除けず、錆の発生は不可避であった。剥離できないコンクリートに覆われた部分や、鉄筋を深く侵食した錆も同様である。このため、補修時に亜硝酸化合物の防錆混和剤を使ってもこうした部分の鉄錆の拡大は避けられないものであった。
【0009】
また、ウォータージェット等でコンクリートを破砕した(ハツリ出した)場合は、使用した水が原因で鉄筋に錆が生じ、ケレンした場合においても、作業の都合上、ケレン後直ちに補修コンクリートを充填することはできず、どうしても新しく鉄錆が生じてしまっていた。このため、含水状態のコンクリート中の鉄筋が腐食した場合は、鉄筋を交換しない限り完全に補修したことにはならなかった。
【0010】
そしてこれらの課題は、多用される丸棒状の鉄筋に限らず、I鋼、H鋼等のアングル材やその他の鋼材でも同様である。また、既存の鉄筋コンクリート構造物の鋼材だけでなく、新規に鉄筋コンクリート構造物を建設するときにも、同様の問題を有している。
【0011】
これに対して、特許文献1の一液湿気硬化性エポキシ樹脂組成物による注入補修工法は、コンクリートに発生したクラック、浮き等を補修し、コンクリートの亀裂の空間内を高強度の樹脂で充填するものである。このため、この方法の一液湿気硬化性エポキシ樹脂組成物は、架橋剤としての特性を使ってひび割れの進行を防ぐもので、コンクリート中の鋼材の腐食防止としては役に立たない。
【0012】
従って、コンクリート中の鋼材の防錆、補修は難しく、既存の技術では十分対処できないものであった。そしてコンクリート中の鋼材の状態、また新規にコンクリート中に埋設される鋼材の状態は部分部分さまざまで、すべてに対処するのはきわめて難しい。従って、コンクリートに埋設される鋼材の各部分の状態がどのような状態であっても、それぞれの部分の各状態に対応して最適に防錆、補修することができ、この作業を簡単化し、作業で使用した水で錆びることがなく、安価で、短時間に防錆、補修できる防錆方法、補修方法が望まれている。
【0013】
そこで、このような課題を解決するために本発明は、コンクリート内の鋼材の補修を容易化するとともに、鋼材の状態がどのような状態であっても低コストで再度錆びないようにするコンクリート鋼材補修方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、コンクリート内に埋設する鋼材の防錆を容易化するとともに、鋼材の状態がどのような状態であっても低コストで錆びないようにするコンクリート鋼材防錆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、コンクリートに埋設する鋼材の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、鋼材の不動態皮膜が形成されている部分はアルカリ性還元剤によって不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分は浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に該浸透性樹脂を充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分は不動態皮膜を形成するとともに、アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で浸透性樹脂を硬化させることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、湿った状態の鋼材にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、不動態皮膜が形成されている部分は高アルカリ性を保持し、鉄錆が形成されている部分は鉄錆組織内の水分を奪って水分と置き換わる形で樹脂を浸透、充満させ、鉄錆と不動態皮膜が形成されていない部分は不動態皮膜を形成して高アルカリ性を保持し、そのまま各部分を硬化させ、硬化した樹脂で酸化を止め、鉄錆の発生を抑え、低コストで鋼材を錆びないようにすることができる。また、コンクリートの破砕を伴う鋼材補修を容易化するとともに、低コストで鋼材を再度錆びないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の第1の形態は、コンクリート構造物を破砕して鋼材を露出し、鋼材を補修して、破砕箇所にコンクリートを充填するコンクリート鋼材補修方法であって、鋼材の補修が、該鋼材の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、鋼材の不動態皮膜が形成されている部分ではアルカリ性還元剤によって不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分では浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に該浸透性樹脂を充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分では不動態皮膜を形成するとともに、アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で浸透性樹脂を硬化させるコンクリート鋼材補修方法であり、湿った状態の鋼材にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、不動態皮膜が形成されている部分は高アルカリ性を保持し、鉄錆が形成されている部分は鉄錆組織内の水分を奪って水分と置き換わる形で樹脂を浸透、充満させ、鉄錆と不動態皮膜が形成されていない部分は不動態皮膜を形成して高アルカリ性を保持し、そのまま各部分を硬化させ、硬化した樹脂で酸化を止め、鉄錆の発生を抑えることができる。これによりコンクリートを破砕しての鋼材補修を容易化するとともに、低コストで鋼材を再度錆びないようにすることができる。
【0018】
本発明の第2の形態は、第1の形態に従属する形態であって、鋼材には未剥落コンクリートが付着した部分が含まれ、該未剥落コンクリートが付着した部分では、該未剥落コンクリートを含めて鋼材を湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着するコンクリート鋼材補修方法であり、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂がコンクリートを含めた鋼材の周囲から含侵して、不動態皮膜が形成されている部分では未剥落コンクリートを含め高アルカリ性を保持しながら硬化し、鉄錆が形成されている部分では鉄錆組織内及び未剥落コンクリート内の空隙の水分に置き換わる形で樹脂が浸透して硬化し、鉄錆と不動態皮膜が形成されていない部分は、不動態皮膜を再生して高アルカリ性を保持しながら硬化し、鉄錆の発生を止めることができる。
【0019】
本発明の第3の形態は、第1または2の形態に従属する形態であって、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂の塗着が、塗布または吹き付けによるコンクリート鋼材補修方法であり、塗着作業とアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂の厚さの管理が容易になる。
【0020】
本発明の第4の形態は、第1〜3のいずれかにの形態に従属する形態であって、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂が、ケチミン化合物とエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂組成物の浸透性樹脂にアルカリ性還元剤を混合したものであるコンクリート鋼材補修方法であり、ケチミン化合物であるため、鉄錆組織内の水分を奪って加水分解によりケトンとポリアミンとなり、このケトンは溶剤として鉄錆組織の空隙にエポキシ樹脂が入り易くし、ポリアミンは樹脂硬化剤としてエポキシ樹脂に作用する。アルカリ性還元剤は、鉄を不動態化させることができ、既に不動態皮膜が形成されている場合には、周囲を高アルカリ状態に保って不動態皮膜を保護することができる。ケチミン化合物混合のエポキシ樹脂が有する浸透性と水分に対する置換性を使って錆を不活性化させることができ、再び錆びないようにすることができる。
【0021】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態に従属する形態であって、エポキシ樹脂が湿潤面における浸透性を上げるための界面制御添加剤を加えた樹脂であるコンクリート鋼材補修方法であり、湿潤面で浸透性を上げるための界面制御添加剤を加えたエポキシ樹脂であるため、湿潤面に対する接着性に優れ、鉄錆組織内に効果的に浸透する。
【0022】
本発明の第6の形態は、第4または5の形態に従属する形態であって、直径13mm〜22mmの鋼材に対してアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗布する場合には、ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合物をセメント粉に対して重量比で25%〜35%の混合比とし、吹き付けを行う場合には、ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合物をセメント粉に対して重量比で15%〜25%の混合比とするコンクリート鋼材補修方法であり、これによりケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合比が最適となり、コンクリートを破砕しての鋼材補修を容易化するとともに、低コストで鋼材を再度錆びないようにすることができる。
【0023】
本発明の第7の形態は、コンクリートに埋設する鋼材の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、鋼材の不動態皮膜が形成されている部分はアルカリ性還元剤によって不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分は浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に該浸透性樹脂を充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分は不動態皮膜を形成するとともに、アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で浸透性樹脂を硬化させるコンクリート鋼材防錆方法であり、湿った状態の鋼材にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、不動態皮膜が形成されている部分は高アルカリ性を保持し、鉄錆が形成されている部分は鉄錆組織内の水分を奪って水分と置き換わる形で樹脂を浸透、充満させ、鉄錆と不動態皮膜が形成されていない部分は不動態皮膜を形成して高アルカリ性を保持し、そのまま各部分を硬化させ、硬化した樹脂で酸化を止め、鉄錆の発生を抑えることができる。
【0024】
本発明の第8の形態は、第7の形態に従属する形態であって、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂が、ケチミン化合物とエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂組成物の浸透性樹脂にアルカリ性還元剤を混合したものであるコンクリート鋼材防錆方法であり、ケチミン化合物であるため、鉄錆組織内の水分を奪って加水分解によりケトンとポリアミンとなり、このケトンは溶剤として鉄錆組織の空隙にエポキシ樹脂が入り易くし、ポリアミンは樹脂硬化剤としてエポキシ樹脂に作用する。アルカリ性還元剤は、鉄を不動態化させることができ、既に不動態皮膜が形成されている場合には、周囲を高アルカリ状態に保って不動態皮膜を保護することができる。ケチミン化合物混合のエポキシ樹脂が有する浸透性と水分に対する置換性を使って錆びないようにすることができる。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1のアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を使ったコンクリート鋼材補修方法について図1に基づいて説明をする。図1は本発明の実施例1におけるコンクリート鋼材補修方法で補修するハツリ前の状態を示す工程図、図2は図1の状態からハツリを行って湿潤状態にする工程図、図3は図2の状態から鉄筋にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗布するときの工程図、図4は本発明の実施例1における鉄錆部分の防錆・補修の概念図、図5は本発明の実施例1における不動態皮膜部分等の防錆・補修の概念図、図6は本発明の実施例1におけるコンクリートが付着した鉄錆部分の防錆・補修の概念図である。
【0026】
なお、以下、コンクリート構造物のハツリを行って補修するコンクリート鋼材補修方法を説明するが、ハツリを行うことなく防錆するのが、本発明のコンクリート鋼材防錆方法であり、この点を除いて基本的に同一である。従って、コンクリート鋼材防錆方法の詳細な説明は重複するのでこれをコンクリート鋼材補修方法の説明に譲って省略する。また、実施例1においては、いわゆる棒状の鉄筋を中心に説明するが、このような鉄筋のほかに、I鋼、H鋼等のアングル材やその他コンクリート中で使用する鋼材も同様であり、本発明ではこれらを含めて鋼材という。
【0027】
図1〜図3において、1はコンクリート、2は鉄筋である。この実施例1のコンクリート構造物においては、コンクリート1内の鉄筋2は縦断方向と横断方向の応力に対応するため交差して設置され、この縦横に交差した鉄筋2を上下方向に複数組(2組)配置している。3は鉄筋交差部Aを結束したナマシ鉄線、4はコンクリート構造物で補修するハツリ部分である。5はアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cの吹き付けを行うノズルである。なお、ノズル5に代えてブラシ等で塗布するのもよい。
【0028】
次に、図4〜6において、1aは部分的に付着した未剥落コンクリート、6はアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cの塗着した樹脂層である。7は膨張した鉄錆の多孔質組織(本発明の鉄錆組織)、8は不動態皮膜である。
【0029】
以下、本発明においては、上述した塗布や吹き付けのほかに、モルタルに混合しての塗布や、コンクリート1そのものにアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cを混合して充填することにより鉄筋2付近に供給することを含めて、塗着という。
【0030】
ここで、図1に示すようなコンクリート構造物の鉄筋2の状態を説明する。図1の下方に設置された鉄筋2は、コンクリート1の打設後に生じるブリージング水が溜まるため、塩化物イオンが集まり易く、鉄錆が多く発生し、この付近はコンクリート1の脆弱部である。
【0031】
図1〜3に示す鉄筋交差部Aは、錆び易いナマシ鉄線3で結束されている部分で、この交差面では鉄錆が発生し易く、鉄筋2を大きく撓ませない限りコンクリート1が未剥離状態で残る部分である。また、隅角部Bにある鉄錆はワイヤーブラシで鉄錆をケレンしようとしても、作業空間が狭くてワイヤーブラシが届かず、事実上鉄錆を除去できない箇所である。従来は、このような箇所の錆は除去しきれないため、鉄筋2を完全に交換するか、そのままコンクリート1を打設してしまうことすらあったものである。
【0032】
そこで、本発明の実施例1のコンクリート鋼材補修方法を説明する。まず図1に示すようにコンクリート構造物の補修部分のコンクリート1に対するハツリを行う。これにより縦横に交差した複数組の鉄筋2が上下方向に折り重なって露出状態となる。完全なハツリが行われれば未剥落コンクリート1aが付着することはないはずであるが、これは理論上のことであって、上述した鉄筋交差部A、ナマシ鉄線3部分、隅角部Bにはどうしても未剥落コンクリート1aが残ってしまう。このような鉄筋2の表面や未剥落コンクリート1aに水を注ぎ、表面と隙間に水分が付着した湿潤状態にする。この水の供給は、ウォータージェット等のハツリの水をそのまま利用するのでも、別途洗浄水のような形で水を供給するのでもよい。この状態が図2に示す状態である。
【0033】
次に、本発明のコンクリート鋼材補修方法では、この湿った状態の鉄筋2表面(本発明の湿潤部)に図3のノズル5から湿気硬化性のアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cの吹き付けを行う。このアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cはアルカリ性還元剤を含んだエポキシ樹脂のような浸透性樹脂であり、の吹き付けを行うとアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cは樹脂層6を形成するとともに、鉄錆の多孔質組織7が存在するところでは図4に示すように多孔質組織7の細孔内の水分を奪って空隙内に充満して硬化する。下地処理等は不要である。
【0034】
また、鉄錆(赤錆)がないところでは、図5のY1−Y1断面のように鉄筋2に不動態皮膜8が形成されていることが多く、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cは不動態皮膜8表面を覆って硬化し、アルカリ性還元剤を含んだ樹脂層6を形成する。また、Y2−Y2断面のように、ケレン直後等で鉄錆も不動態皮膜8形成されていない場合もあるが、この場合も同様にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cが表面を覆って硬化し、樹脂層6を形成する。下地処理を行う必要はない。その後このハツリした破砕箇所にコンクリート1を充填し、図1の状態に戻って補修を終える。
【0035】
ところで、図6に示すようにコンクリート1が未剥落状態で鉄錆が形成されているところでは、Z−Z断面のように鉄錆は径方向に大きく膨張し、付近のコンクリート1には多くの亀裂が入っている。この部分は、脆く、構造的に水分が含侵し易く、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cは未剥落コンクリート1aと多孔質組織7内の空隙の双方に浸透して水分と置き換わって硬化する。同様にコンクリート1が一部未剥落で、且つ不動態皮膜8が形成されているところでは、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cが水を含んだ未剥落コンクリート1aの周囲にアルカリ性還元剤を含んだ樹脂層6を形成し、未剥落コンクリート1a内部の水分と置換することでこの部分を高アルカリ化する。
【0036】
このように未剥落コンクリート1aが残っていてもいなくても、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂Cは鉄錆の多孔質組織7内の水分を排除して硬化し、還元作用で鉄錆を不活性化し、既存の不動態皮膜8の周りは高アルカリ性にして不動態皮膜8を安定化させるので、補修した部分が再び腐食するようなことはない。
【0037】
従来は、補修作業時に鉄筋交差部A、ナマシ鉄線3部分、隅角部Bのハツリ作業を徹底するほかなく、これに大きな労力を割かなければならなかったが、本発明の実施例1によればこの作業の手間やナマシ鉄線3の交換の労力を軽減できる。作業も、水分を含侵できる程度のカケラなら未剥落コンクリート1aが残ってもよく、補修後は再び鉄錆が発生することを防止でき、低コストで迅速に補修が行える。従来の防錆混和剤では水を完全に乾燥させないとこれが原因で更なる鉄錆が発生するが、本発明ではこの水分を利用することにより鉄錆の発生を抑えることができるものである。
【0038】
本発明のアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を使ったコンクリート鋼材補修方法は、上述したようなコンクリート1内部の鉄筋2に対する塗着のほかに、断面修復工法等にも使用することができる。塩分の進入を抑えることができる。阪神淡路大震災以降、コンクリート断面が同じでも、耐震性を確保するため鉄筋2の使用量が増えている。従って、コンクリート構造物内に狭隘な部分が増えて鉄錆除去が難しくなっているが、本発明のコンクリート鋼材補修方法によれば容易に鉄錆の発生を抑えることができる。
【0039】
なお、以上説明したコンクリート鋼材補修方法においては、鉄筋2の表面に塗着する方法として、吹き付け若しくはブラシによる塗布する方法を説明したが、モルタルに混合して鉄筋2に塗布することもできるし、ハツリ後にコンクリート1に混合して断面復旧材料に使うこともできる。さらに、新設コンクリートの木コン跡に詰めてセパレーターの腐食を抑えるように使用することもできる。
【0040】
続いて、本発明で用いるアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂について説明する。実施例1のアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂は、ケチミン化合物とエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂組成物の浸透性樹脂に、さらに還元作用を有するアルカリ性物質を混合したものである。浸透性樹脂は浸透性を備えたものであればよいが、ケトンと負に荷電した高分子物質に結合し安定化させるポリアミンとから合成されたケチミン化合物を混ぜた一液硬化性エポキシ樹脂が好適である。
【0041】
このケチミン化合物は鉄錆多孔質組織7内の水分を奪って加水分解によりケトンとポリアミンとなる。ケトンは溶剤として鉄錆の多孔質組織7の細孔にエポキシ樹脂が入り易くし、ポリアミンは樹脂硬化剤としてエポキシ樹脂に作用する。
【0042】
従って本発明のアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂は、コンクリート構造物のひび割れのような大きな空間に充填して強い架橋力で補強することを目的とするものではなく、多孔質組織7の微小な細孔内部の水分とほぼ完全に置換する強い浸透性をもち、各微小空隙内に十分に樹脂を充満させ、さらに鉄筋2の表面を高アルカリに保てるものであればよい。
【0043】
このようなアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂のケチミン化合物としては、例えば1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、メタキシリレンジアミン、ポリアミドアミン等のポリアミンと、メチルt−ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン等のケトンとをそれぞれ組み合わせたものが好適である。また、このエポキシ樹脂は汎用のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等でよいが、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂を使用するのも好適であるこのエポキシ樹脂の場合、ハツリ後の鉄錆、不動態皮膜、未剥離コンクリート1aの湿潤面に対する接着性に優れ、十分な浸透性を示す。さらにトリメトキシビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等の湿潤面で浸透性を上げるためのシランカップリング剤等の界面制御添加剤を含有させると、これらの湿潤面への接着性や浸透性を改善することができる。なお、ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合比率は、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂中のエポキシ基に対する活性水素当量で0.5〜3.0当量が適当である。
【0044】
ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合比については、直径13mm〜22mmの鉄筋2に対して、ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合物をハツリ後に充填するセメント粉に対して重量比で25%〜35%の混合比とするのがよい。通常30%を目安とすればよい。吹き付けする場合に使用する場合は15%〜25%とし、20%を目安とするのがよい。また、セメントとエポキシ樹脂を混ぜて、ポリマーモルタルやポリマーコンクリートを作る場合は、袋詰めセメント粉とポリマーとの混合比を重量比で15%〜35%とするのがよい。なお、これらの混合比は、直径13mm〜22mmの鉄筋2表面に0.5mm〜2mm程度の厚さで塗着することを想定しているものである。
【0045】
また、還元作用を有するアルカリ性還元剤としては、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウム等の強アルカリ性の亜硝酸塩が好適である。このような亜硝酸塩は、2Fe+++2OH+2NO→2NO+Fe+HO等の反応により、鉄を不動態化(γ−Fe・nHO)させることができ、既に不動態皮膜8が形成されている場合には、不動態皮膜8とエポキシ樹脂が固まった樹脂層6内のpHをpH12以上の高アルカリ状態に保って不動態皮膜8を保護することができる。
【0046】
亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウム等のアルカリ性還元剤は、鉄筋2位置で塩化物イオンに対して亜硝酸イオンをモル比(NO-/Cl-)で0.8以上となるように添加する。鉄錆発生限界は1.2Kg/m以上と考えられているが、塩化物イオンの侵入量はコンクリート構造物の場所によって違いがあるので、還元剤添加量はコンクリート1m当たり8Kg〜16Kgとするのがよい。
【0047】
このように本発明の実施例1においては、アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂をハツリ後の湿った状態の鉄筋2に付着させ、不動態皮膜8が形成されていて鉄錆がない鉄筋2については、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウムのナトリウムイオン、リチウムイオンの働きで、高アルカリ性を持続するので、鉄錆が発生することがない。表面に錆がある鉄筋2は、還元剤の亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウムの亜硝酸イオンの働きにより錆が取れ、不動態皮膜8を再生することができる。膨張した鉄錆の多孔質組織7、窪みや交差部面に鉄錆がある鉄筋2は、多孔質組織7内の水分に置き換わる形でケチミン化合物の作用で錆内部にエポキシ樹脂が鉄錆内部に浸透し、硬化し、酸化を止めることができる。水分を使って、通常とは逆に、鉄錆の発生を止めることができる。補修時のハツリの手間やナマシ鉄線3の交換、乾燥等の作業を軽減できる。水分を含侵できる程度の未剥落コンクリート1aは鉄筋2に付着していてもよく、再度鉄錆が発生することを防止できる。補修は低コストで迅速に行える。従ってこのコンクリート鋼材補修方法によれば、ハツリによる鉄筋補修を容易化するとともに、低コストで鉄筋を再度錆びないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、コンクリート構造物を破砕して鉄筋を補修するときのコンクリート鋼材補修方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1におけるコンクリート鋼材補修方法で補修するハツリ前の状態を示す工程図
【図2】図1の状態からハツリを行って湿潤状態にする工程図
【図3】図2の状態から鉄筋にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗布するときの工程図
【図4】本発明の実施例1における鉄錆部分の防錆・補修の概念図
【図5】本発明の実施例1における不動態皮膜部分等の防錆・補修の概念図
【図6】本発明の実施例1におけるコンクリートが付着した鉄錆部分の防錆・補修の概念図
【符号の説明】
【0050】
1 コンクリート
1a 未剥落コンクリート
2 鉄筋
3 ナマシ鉄線
4 ハツリ部分
5 ノズル
6 樹脂層
7 多孔質組織
8 不動態皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を破砕して鋼材を露出し、前記鋼材を補修して、破砕箇所にコンクリートを充填するコンクリート鋼材補修方法であって、前記鋼材の補修が、該鋼材の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、前記鋼材の不動態皮膜が形成されている部分ではアルカリ性還元剤によって前記不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分では浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に該浸透性樹脂を充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分では不動態皮膜を形成するとともに、前記アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で前記浸透性樹脂を硬化させることを特徴とするコンクリート鋼材補修方法。
【請求項2】
前記鋼材には未剥落コンクリートが付着した部分が含まれ、該未剥落コンクリートが付着した部分では、該未剥落コンクリートを含めて前記鋼材を湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着することを特徴とする請求項1記載のコンクリート鋼材補修方法。
【請求項3】
前記アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂の塗着が、塗布または吹き付けによることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート鋼材補修方法。
【請求項4】
前記アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂が、ケチミン化合物とエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂組成物の浸透性樹脂にアルカリ性還元剤を混合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート鋼材補修方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が湿潤面における浸透性を上げるための界面制御添加剤を加えた樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート鋼材補修方法。
【請求項6】
直径13mm〜22mmの鋼材に対して前記アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗布する場合には、前記ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合物をセメント粉に対して重量比で25%〜35%の混合比とし、吹き付けを行う場合には、前記ケチミン化合物とエポキシ樹脂の混合物をセメント粉に対して重量比で15%〜25%の混合比とすることを特徴とする請求項4または5記載のコンクリート鋼材補修方法。
【請求項7】
コンクリートに埋設する鋼材の表面を水で湿らせ、この湿潤部にアルカリ性還元剤含有浸透性樹脂を塗着し、前記鋼材の不動態皮膜が形成されている部分はアルカリ性還元剤によって前記不動態皮膜の周囲を高アルカリに保たせ、鉄錆が形成されている部分は浸透性樹脂によって鉄錆組織内の水分を奪って空隙内に該浸透性樹脂を充満させ、不動態皮膜または鉄錆がない部分は不動態皮膜を形成するとともに、前記アルカリ性還元剤によって周囲を高アルカリに保たせて、そのまま各部分で前記浸透性樹脂を硬化させることを特徴とするコンクリート鋼材防錆方法。
【請求項8】
前記アルカリ性還元剤含有浸透性樹脂が、ケチミン化合物とエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂組成物の浸透性樹脂にアルカリ性還元剤を混合したものであることを特徴とする請求項7記載のコンクリート鋼材防錆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−57335(P2006−57335A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240686(P2004−240686)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(504318968)
【Fターム(参考)】