説明

コンサートボックス

【課題】コンサートホールの音は演奏者からの直接音と壁、天井、床からの若干の遅れを持った反響音が合成された音であり、それと同様のことを電気的制御のみに頼らずに、狭いスペースで極力再現させることができ、あたかもコンサートホールにいるような音響効果を手軽に得ることができる音響装置であるコンサートボックスを提供する。
【解決手段】建物室内に設置できるボックス1であり、聴き手側を正面とし、ステレオユニットを構成する2つのスピーカー14、15をボックス1内に前記正面に向けて設置し、反射音を作りだすためのスピーカー16、17をボックス1の内側の反射壁10に向けて2台設置し、反射壁10から反射音の返る向きを聴き手側とした。さらには、ボックス1の正面を開口面2に形成し、反射壁10は奥側壁部3に設け、左右に2種類の材質を配置し、反射音を作りだすためのスピーカー16、17は各材質に向け、音量の調節で違う材質の合成音の比率を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンサートホールのような音響効果を家庭等の小規模住宅でも簡単に得て楽しむことができる音響装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昭和57年の大阪ザ・シンフォニーホール、その後の東京サントリーホールのオープンを契機にして、この20数年間に全国各地に数多くのクラシック音楽専用のコンサートホールが誕生した。
【0003】
ホールや劇場の音響設計の目標は静けさと良い響きの実現にあるが、そのもっともシビアな性能が求められるのがコンサートホールである。
【0004】
コンサートホールを初めとして、室内音場の特徴としては反射音があることであり、屋外では反射音はほとんどないが、室内では壁、床あるいは天井からで音が反射されるため、音源(楽器など)から直接届く音(直接音)だけでなく、反射音もあわせて聞いていることになる。
【0005】
したがって、同じ音源から出た音でも、室内と屋外では同じようには聞こえない。室内の音場での聞こえ方は、反射音がどのようにどのくらい返って来るかによって、大きく異なる。
【0006】
多数の反射音が次々と返ってくる結果、「残響」が形成される。残響があると、音源が停止して音が止まった後でも、響きが残って聞こえることになる。残響は室内音場の最も顕著な特徴であり、残響の特性や質によって、聞こえ方は大きく異なる。
【0007】
ところで、リスニングルーム等において、コンサートホール等のまったく別の空間の音場を再生する技術を音場創生技術や音場再生技術等というが、従来から、音場再生技術には、聴取者の周りに設置される複数のスピーカーによるマルチチャンネル再生システムや、頭部伝達関数に基づいて加工した音をヘッドホンによって再生するヘッドホンシステム等がある。
【0008】
下記特許文献もその一つであり、音場創生装置は、音源からの音を出力する1つ以上のスピーカーと、音源からの音に基づき反射音を生成する反射音生成部と、反射音生成部からの反射音を出力する開放型ヘッドホンと、開放型ヘッドホンから出力される反射音が、スピーカーから出力される音より遅れて聴取者の耳に到達するように、開放型ヘッドホンから出力される反射音を遅延させる信号処理部と、を具備する。
【特許文献1】特開2010−193105号公報
【0009】
この特許文献1は、通常のヘッドホンを用いる場合と比べて、開放型ヘッドホンを用いることで、頭内定位や不自然な定位感を解消することが可能なものである。
【0010】
この他にも、下記特許文献2は、仮想スピーカーを用いて予想される任意の角度の反射音を自在に再現でき、臨場感の高い音場再生を可能とするものであり、空間内に複数の実スピーカーを配置して音場の再生を行う音場再生システムにおいて、前記複数の実スピーカーに入力される各音響信号に基づいて、実スピーカー用の反射音を生成して前記実スピーカーに出力する実スピーカー用反射音生成部と、前記複数の実スピーカーに入力される各音響信号に基づいて、仮想スピーカー用の反射音を生成する仮想スピーカー用反射音生成部と、前記仮想スピーカー用反射音生成部によって生成された仮想スピーカー用の反射音を入力して3次元処理した後、前記実スピーカーに出力する仮想スピーカー用3次元処理部とを有し、前記仮想スピーカー用3次元処理部の3次元処理により、反射音の到来位置に仮想スピーカーを設定して反射音を再生するようにしたことを特徴とする音場再生システムである。
【特許文献2】特開2001−16698号公報
【0011】
また、特許文献3は、音源や受聴位置の移動にリアルタイムに追随することのできる残響音発生装置を提供するものとして、仮想反射壁に入射する音をその入射方向に無関係に加算し、その仮想反射壁の向きと反射方向とに応じて反射音のパワーを分配することを内容とするもので、1つもしくは複数の音源から放射された音を複数の仮想反射壁へ伝達する第1の演算手段、前記仮想反射壁に入射した入射音を互いに加算するとともに、該仮想反射壁から反射した反射音を、該反射音に反射方向による重みを付して、前記複数の仮想反射壁のうちの少なくとも1つの仮想反射壁に伝達する第2の演算手段、および前記仮想反射壁から反射した反射音を、該反射音に反射方向に重みを付して、1つもしくは複数の受聴位置へ伝達する第3の演算手段を備えたことを特徴とする残響音発生装置である。
【特許文献3】特開平7−49694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のように、リスニングルーム等において、コンサートホール等のまったく別の空間の音場を再生する音場創生技術や音場再生技術は、複数のスピーカーを電気的に制御してコンサートホール等に近い反射音を得るようなものがほとんどであった。
【0013】
本発明の目的は前記従来例のものとは相違し、コンサートホールの音は演奏者からの直接音と壁、天井、床からの若干の遅れを持った反響音が合成された音であり、それと同様のことを電気的制御のみに頼らずに、狭いスペースで極力再現させることができ、あたかもコンサートホールにいるような音響効果を手軽に得ることができる音響装置であるコンサートボックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、聴き手側を正面とし、この正面を開口面に形成し、少なくとも奥側壁部、左右壁部、天井部を有するボックス内に、ステレオユニットを構成する2つのスピーカーを正面の開口面に向いて設置し、反射音を作りだすためのスピーカーを奥側壁部に向けて左右に2台設置し、奥側壁部から反射音の返る向きを聴き手側としたことを要旨とするものである。
【0015】
請求項1記載の本発明によれば、少なくとも奥側壁部、左右壁部、天井部を有するボックスはその正面を開口面して聴き手側となっている。そこで聴き手はボックス正面に向く。ボックス内には、ステレオユニットを構成する2つのスピーカーが正面の開口面に向いて設置されており、ここからの音がステレオとして聴き手に届く。また、ボックス内には、反射音を作りだすためのスピーカーが奥側壁部に向けて左右に2台設置されており、このスピーカーからの音は奥側壁部において反射音として返り聴き手側に届く。
【0016】
このようにして、ステレオユニットを構成する2つのスピーカーからの音はコンサートホールの演奏者からの音と同様に直接音として、また、奥側壁部においての反射音が若干の遅れを持ってこれに合成され、コンサートホールのような音響効果が、狭いスペースで極力再現できる。
【0017】
請求項2記載の本発明は、奥側壁部の反射壁は左右に2種類の材質を配置し、反射音を作りだすためのスピーカーは各材質に向け、音量の調節で違う材質の合成音の比率を変えることを要旨とするものである。
【0018】
請求項2記載の本発明によれば、奥側壁部の反射壁を2種類の材質とすることにより、2種類の反射音を作りだすことができ、さらに、スピーカーの音量の調節で自分の好みの音を選ぶことも出来る。なお、実際のホールで使用している材料で同じ反射音が聴くことも可能であり、材種や合成する比率を変えることにより好きなホールの音に近づけることも出来る。さらに、自分の好みの音を選ぶことも出来る。(木・石・漆喰壁・塗装等)
【0019】
請求項3記載の本発明は、反射壁の2種類の材質は、木と石であることを要旨とするものである。
【0020】
請求項3記載の本発明によれば、石の反射音はどちらかと言うと力強く鋭い、また木の反射音は優しく綺麗である等特徴はそれぞれ持っている。それらを組み合わせるとそれぞれの優れた部分が引き出される。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように本発明のコンサートボックスは、あたかもコンサートホールにいるような音響効果を手軽に得ることができる音響装置であり、コンサートホールの音は演奏者からの直接音と壁、天井、床からの若干の遅れを持った反響音が合成された音であり、それと同様のことを電気的制御のみに頼らずに、狭いスペースで極力再現させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明のコンサートボックスの実施形態を示す正面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は同上横断平面図、図4は底面図である。
【0023】
図中1は建物室内に設置できるものとして、正面を開口面2に形成した矩形のボックスであり、少なくとも奥側壁部3、左壁部4、右壁部5、天井部6を有する。この開口面2である正面が聴き手側となる。
【0024】
図示の例では、キャビネットタイプとして床7を設けるとともにその下に機器収納スペース8を形成し、最下部にキャスター9を設け、全体を移動可能とした。
【0025】
なお、このような床7の配設や機器収納スペース8の設置は必然的なものではなく、色々のバリエーションを適宜選択できる。
【0026】
本実施形態では床7は勾配床とした。材質は松・楢・檜等で実際のホールで使用している材料で同じ反射音が聴こえるように配慮する。実際のホールでは床は平らなのであるが、聴き手位置が最も良く聴こえる2階席の前列と同じ角度から音が来るように床に勾配を付けることで床からの反射音も活かす。
【0027】
奥側壁部3には反射壁10を設けるものであり、該反射壁10は左右に2種類の材質を配置した。図示の例は木材11と石材12とで構成する。これらはボックス1の中央を接合の境界として各端が奥側に向くように左右に傾斜させる。木材11と石材12はプレート状のもので、木材11は松・楢・檜等、石材12は大理石、花崗岩、大谷石等天然のものが使用できる。
【0028】
この反射壁10にも実際のホールで使用している材料を使用することで同じ反射音が聴くことが出来きる。例えば石材12による石の反射音はどちらかと言うと力強く鋭い、また、木材11による木の反射音は優しく綺麗である等特徴はそれぞれ持っている。それらを組み合わせるとそれぞれの優れた部分が引き出される。
【0029】
なお、反射壁10は、材種や合成する比率を変えることにより好きなホールの音に近づけることも出来る。さらに自分の好みの音を選ぶことも出来る。前記木材11と石材12の他に、他の材質、例えば、漆喰壁・塗装等を選択することが可能である。
【0030】
反射壁の選択は、材質の選択と大きさの選択および後述の音量の割合の選択があり、どの反射壁の音が好みか聴いて決めることが好ましい。
【0031】
単音の場合と、2種類の複合音の場合がある。好みの単音でも良いが複音にすると両方の良い点が加算されて感じる。2種類の比率を変えた複合音が推薦であるが、最も自分の好みの比率を探してみる。
【0032】
天井部6には、天井反射壁13を設ける。これも実際のホールで使用している材料で同じ反射音が聴こえるようにする。天井反射壁13の材質としては塗装・漆喰・アクリル板・木等が選択でき、ボイド状にすることで少し柔らかい音にするのが好ましい。特にアクリル板は光を通す利点があり、照明等では使い易いが、反射が強いのでさらに多孔質板にするのがよい。天井からの反射音は必要であるが、強過ぎないのが良い。
【0033】
図示の例では、天井反射壁13は凸状に湾曲させたものであり、2段の湾曲(曲率は400Rで同じ)を組み合わせて、複数の面から反射音が届くようにした。
【0034】
図中14、15はステレオユニットを構成する2つのスピーカーであり、ボックス1の正面側を聴き手側として、これらスピーカー14、15はボックス1内に正面に向けて設置する。
【0035】
また、反射音を作りだすためのスピーカー16、17をボックス1の内側の反射壁10に向けて2台設置し、反射壁10から反射音の返る向きを聴き手側とした。このスピーカー16、17は反射壁10の各材質、木材11と石材12に向ける。
【0036】
前記スピーカー14〜17は、ボックス1内の反射音をできるだけ妨げないように小型のものとする。
【0037】
前記スピーカー16、17には、アクリル板によるツイーター反射板18を設けた。実際のバイオリンやビオラの高音楽器は音の広がりが上部への指向性が強いが、該ツイーター反射板18は反射音の高音を天井方向へ導くものであり、ツイーターに上方向反射板を付けることにより実際の音に近づけるものである。
【0038】
図示は省略するが、前記スピーカー14〜17の制御として、スピーカー14、15からの音とスピーカー16、17からの音に時間差を持たせるデイレイ装置を接続する。このデイレイ装置には市販されているものを利用できるが、アンプ装置などとともに機器収納スペース8に設置する。
【0039】
デイレイ装置は、ホールのメインのスピーカー(クラスタースピーカー)と複数の客席用補助スピーカーとの時間差を個別に調整し聴き易くする為に使用されているものである。その他ギターなどのアンプを使用した楽器の加工音を作る装置(エフェクター)の一機能として多く使われている。
【0040】
本発明では、デイレイ装置をボックス1内でコンサートホールの壁や天井から戻る反射音と同じような反射音を作る為に使用する。実際のホールでは壁や天井が奏者から離れている。そのため反射音はホールの広さにより30〜50ミリセカンド遅れる。(音が遠回りした距離分の時間)
【0041】
次に使用法について説明すると、ボックス1内には通常のステレオユニットと同じように正面を向いた2つのスピーカー14、15が配置されていて、これでステレオとして音を直接聴くことができる。
【0042】
また、反射音を作り出すスピーカー16、17は反射壁10の各材質、木材11と石材12に向けられており、このスピーカー16、17からの音は反射壁10の各材質、木材11と石材12で反射して聴き手に届くが、前記デイレイ装置によりその遅らせた音を後ろ向きのスピーカー(スピーカー16、17)に送り壁や天井等からの反射音とした。その音をスピーカー14、15での一般のLとRのステレオの音に加えることにより実際のホールと同じように奥行きを持った音として聴くことが出来る。
【0043】
なお、反射壁10の各材質、木材11と石材12の面積割合を変えることも可能であるが、スピーカー16、17の音量の調節で違う材質の合成音の比率を変えることも可能である。
【0044】
ここで反射壁の10の仕様の決定について説明すると、
(イ)反射音の質を変化を出来るようにする場合は、(1)反射音の音源はRとLを合成させ同じものを左右のスピーカーに送る場合と、(2)左右の反射壁を好みの2種類の壁で作成する場合があり、いずれも、2種類の壁に対し音量の比率で曲に合った比率に容易に変えることが出来る。
【0045】
(ロ)音の像位置重視にする場合は、(1)反射音でもRとLをそれぞれに送る場合と、(2)左右の反射壁の中で2種類の壁を好みの音になるように組み合わせて作成する場合があり、(1)は先に述べたように、2種類の比率を変えた複合音、最も自分の好みの比率を探してみることになるが、奏者の位置をより合わせることが可能である。(2)は、例えば、例:各一枚を中央側2/3を木,外側1/3を石とし左右対称に作成する。
【0046】
また、前記実施形態では、奥側壁部3には反射壁10を設けたが、スタジオ等でスペースのある場合では、聴き手がボックス1内に入り、聴き手の後ろ側に反射壁10を設けるようなことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のコンサートボックスの実施形態を示す正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明のコンサートボックスの横断平面図である。
【図4】本発明のコンサートボックスの底面図である。
【符号の説明】
【0048】
1…ボックス 2…開口面
3…奥側壁部 4…左壁部
5…右壁部 6…天井部
7…床 8…機器収納スペース
9…キャスター 10…反射壁
11…木材 12…石材
13…天井反射壁 14〜17…スピーカー
18…ツイーター反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物室内に設置できるボックスであり、聴き手側を正面とし、ステレオユニットを構成する2つのスピーカーをボックス内に前記正面に向けて設置し、反射音を作りだすためのスピーカーをボックス内側の反射壁に向けて2台設置し、反射壁から反射音の返る向きを聴き手側としたことを特徴とするコンサートボックス。
【請求項2】
ボックス正面を開口面に形成し、反射壁は奥側壁部に設け、左右に2種類の材質を配置し、反射音を作りだすためのスピーカーは各材質に向け、音量の調節で違う材質の合成音の比率を変える請求項1記載のコンサートボックス。
【請求項3】
反射壁の2種類の材質は、木と石である請求項2記載のコンサートボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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