説明

コンタクトチップの交換装置

【課題】コンタクトチップを適正に挿入保持するとともに、トーチとソケットの相対的な位置と回転中心のずれを補正することができる交換装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ソケット10と、ソケット回転手段と、ソケット10が挿入されるガイド穴34aを有するソケットガイド34が形成されたパレット30と、ソケット10とガイド穴34aの底面との間に介設された弾性部材37とを備え、ソケット10とともにコンタクトチップを正逆回転させ、トーチにコンタクトチップを脱着させる交換装置1であって、ソケット10の回転中心にチップ保持穴11が形成され、チップ保持穴11の底部に位置決め部が形成されるとともに、チップ保持穴11の開口部にはコンタクトチップに係合する長穴形状部が形成され、ソケット10の外径はガイド穴34aの内径よりも小さく形成され、ソケット10がソケットガイド34に対して回転および傾動自在となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機のトーチに取り付けられたコンタクトチップを交換するための交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接作業に用いられる溶接機では、トーチに取り付けられたコンタクトチップに溶接ワイヤを挿通させ、コンタクトチップを介して溶接ワイヤに給電している。コンタクトチップは、トーチに送り込まれた溶接ワイヤをガイドしているため、溶接ワイヤとの接触による磨耗が生じる。したがって、コンタクトチップの磨耗が大きくなった場合には、コンタクトチップを新しいものに交換する必要がある。
【0003】
コンタクトチップを交換するための交換装置としては、コンタクトチップが嵌合保持される穴部が形成されたレンチ部と、レンチ部を軸回りに回転させる駆動手段と、レンチ部を回転自在に支持する保持部と、を備えているものがある(例えば、特許文献1参照)。
この交換装置では、レンチ部とともにコンタクトチップを正逆回転させることで、コンタクトチップのねじ部をトーチのねじ穴に自動で脱着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3082501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の交換装置では、コンタクトチップがレンチ部の回転中心に対して、位置がずれていたり傾斜している場合には、コンタクトチップをトーチから外すときに、コンタクトチップをレンチ部(本発明におけるソケット)に挿入することができない。また、コンタクトチップをトーチに取り付けるときには、コンタクトチップのねじ部をトーチのねじ穴に挿入することができない。このような状態で、コンタクトチップの脱着を無理に行った場合には、トーチのねじ穴が損傷するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、トーチがソケットの回転中心に対して、位置がずれていたり傾斜している場合でも、トーチとソケットの相対的な位置と回転中心のずれを補正し、ソケットによってコンタクトチップを保持して脱着させることができる交換装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、コンタクトチップが嵌合される筒状のソケットと、前記ソケットを軸回りに回転させるソケット回転手段と、前記ソケットの下部が挿入されるガイド穴を有するソケットガイドが形成されたパレットと、前記ソケットと前記ガイド穴の底面との間に介設された弾性部材と、を備え、前記ソケットとともに前記コンタクトチップを正逆回転させることで、トーチに対して前記コンタクトチップを脱着させる交換装置である。そして、前記ソケットの回転中心には、前記コンタクトチップが挿入されるチップ保持穴が形成され、前記チップ保持穴の底部には、前記コンタクトチップが同心に嵌合される位置決め部が形成されるとともに、前記チップ保持穴の開口部には、前記位置決め部よりも拡幅され、前記コンタクトチップの外周面に形成された平面部に係合する長穴形状部が形成されている。さらに、前記ソケットの外径は、前記ガイド穴の内径よりも小さく形成され、前記ソケットが前記ソケットガイドに対して回転および傾動自在となっている。
【0008】
この構成では、コンタクトチップをチップ保持穴に挿入するときに、コンタクトチップがチップ保持穴に対して傾斜している場合でも、コンタクトチップの傾斜に合わせてソケットが傾動するため、コンタクトチップをチップ保持穴に挿入することができる。
また、ソケットの回転中心からずれた位置で、コンタクトチップがチップ保持穴の長穴形状部に挿入された場合でも、コンタクトチップの下端部がチップ保持穴の位置決め部に嵌合されることによって、コンタクトチップとソケットの回転中心を合わせることができる。
【0009】
前記した交換装置において、前記ソケット回転手段が、前記ソケットの外周面に形成された従動ギヤと、前記従動ギヤに係合する駆動ギヤと、を有する場合には、前記従動ギヤと前記駆動ギヤの係合状態が維持されるように、前記ソケットガイドに対する前記ソケットの傾動範囲を設定することで、ソケットを傾斜した状態で回転させることができる。
【0010】
前記した交換装置において、前記ガイド穴の底面に、前記パレットを貫通したダスト排出穴を形成した場合には、ガイド穴に入り込んだスパッタや埃などの塵をダスト排出穴から外部に排出することができる。
【0011】
前記した交換装置において、前記パレットを上下方向の軸回りに回転自在に構成した場合には、前記パレットの上面に複数の前記ソケットガイドおよびパレット回転用部材を前記パレットの回転方向に並設させ、前記トーチを保持するロボットアームによって、前記パレット回転用部材を前記パレットの回転方向に押し出すことで、前記パレットを回転させてもよい。
この構成では、パレットを回転させるための駆動装置を必要としないため、交換装置を小型化するとともに、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の交換装置では、コンタクトチップをチップ保持穴に挿入するときに、コンタクトチップがソケットに対して傾斜したり、ソケットの回転中心からずれている場合でも、ソケットにコンタクトチップを適正に挿入保持させることができる。また、コンタクトチップをトーチに取り付けるときにも、ソケットが傾動することで、コンタクトチップとトーチの相対的な位置と回転中心を合わせることができる。これにより、コンタクトチップを交換するときの作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】交換装置の全体構成を示した側断面図である。
【図2】トーチを示した図で、(a)は側断面図、(b)はB−B断面図である。
【図3】パレットのパレット下板を示した図で、図1のA−A断面図である。
【図4】ソケットを示した斜視図である。
【図5】ソケットの取り付け構造を示した側断面図である。
【図6】トーチとパレットを示した模式図である。
【図7】コンタクトチップによってソケットを押し込んだ状態を示した図で、(a)は側断面図、(b)はC−C断面図である。
【図8】コンタクトチップがソケットに保持された状態を示した図で、(a)は側断面図、(b)はD−D断面図である。
【図9】ソケットがソケットガイドに対して傾斜した状態を示した側断面図である。
【図10】コンタクトチップとソケットの関係を示した図で、(a)はコンタクトチップがソケットの回転中心からずれている状態の側断面図、(b)はコンタクトチップがチップ保持穴に対して傾いている状態の側断面図である。
【図11】パレットをロボットアームによって回転させる態様を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の交換装置は、アーク溶接に用いられる溶接機のトーチに取り付けられたコンタクトチップを交換するものである。本実施形態の溶接機では、ロボットアームの先端部にトーチが保持されている。
【0015】
トーチ100は、溶接対象物にアーク溶接を行う部位であり、図2(a)に示すように、トーチ取り付け金具201を介してロボットアーム200(図6参照)に保持されたトーチ本体110と、トーチ本体110に外嵌された円筒状のノズル120と、トーチ本体110の先端面に取り付けられたコンタクトチップ130と、を備えている。
【0016】
コンタクトチップ130は、トーチ本体110から送り出された溶接ワイヤ(図示せず)が挿通される円筒状の金属部品である。このコンタクトチップ130を介して溶接ワイヤに給電するように構成されている。
コンタクトチップ130は、基部よりも先端部が縮径された先細り形状となっている。また、コンタクトチップ130の上端部には、ねじ部131が突設されている。このねじ部131がトーチ本体110の先端面に形成されたねじ穴111に螺合されることで、コンタクトチップ130がトーチ本体110に取り付けられている。
図2(b)に示すように、コンタクトチップ130の外周面上部の両側(図2(b)の上下両側)には、二つの平面部132,132が形成されている。両平面部132,132の間の幅は、コンタクトチップ130の最大径よりも小さくなっている。
【0017】
交換装置1は、図1に示すように、円筒状のソケット10と、ソケット10を軸回りに回転させるソケット回転手段(50,51,52,15)と、ソケット10の下部が挿入されるソケットガイド34が形成されたパレット30と、ソケット回転手段およびパレット30を支持するベース部材40と、を主に備えている。
この交換装置1は、図8(a)に示すように、ソケット10に保持されたコンタクトチップ130を正逆回転させ、コンタクトチップ130のねじ部131をトーチ本体110のねじ穴111に脱着させることで、トーチ100のコンタクトチップ130を交換するものである。
【0018】
ベース部材40は、図1に示すように、床面に載置される平板状のベース板41と、ベース板41の上面に立設された支柱42と、支柱42に支持されたモータテーブル43と、を備えている。
モータテーブル43は、平板部43aと、平板部43aの上面の略中央部に突設されたシャフト支持部43bと、シャフト支持部43bの上端面に開口したシャフト穴43cに回転自在に挿入されたシャフト44と、を備えている。シャフト44は、円形断面の部材であり、上端部がシャフト穴43cから突出している。
【0019】
モータテーブル43の下面の略中央部には、モータ50が取り付けられている。モータ50は、上面から出力軸51が突出しており、図示しない制御装置によって出力軸51が正逆回転するように構成されている。
出力軸51は、平板部43aを貫通した穴部を通じて平板部43aの上面側に突出している。出力軸51の上端部には、出力軸51の軸回りに歯面が形成された駆動ギヤ52が取り付けられている。
【0020】
モータテーブル43において、図1の左側の端部には、後記するパレット下板32の下面に形成された凹部32cを検出するマイクロスイッチ60が取り付けられている。
マイクロスイッチ60の上端部には、上方に付勢された突起部61が設けられており、 突起部61がパレット下板32の下面に当接するように構成されている。
そして、パレット30が回転して、マイクロスイッチ60の直上に凹部32cが移動すると、突起部61が凹部32cに入り込んでスイッチ機構が作動し、マイクロスイッチ60から図示しない制御装置に検出信号が出力される。
【0021】
モータテーブル43において、図1の右側の端部には、パレット30の回転方向のずれを防ぐためのボールプランジャ70が取り付けられている。
ボールプランジャ70の上端部には、上方に付勢されたボール71が設けられており、 ボール71がパレット下板32の下面に当接するように構成されている。
そして、パレット30が回転して、ボールプランジャ70の直上に凹部32cが移動すると、ボール71が凹部32cに入り込んで係合される。これにより、パレット30がボールプランジャ70に保持され、パレット30の回転方向へのずれが防止される。
パレット30を回転させる場合には、パレット30を回転方向に押し出すと、パレット下板32の下面によってボール71が下方に押し込まれ、ボール71と凹部32cの係合状態が解除される。
【0022】
パレット30は、上下に配置された円板状のパレット上板31およびパレット下板32と、パレット上板31およびパレット下板32の外周縁部に取り付けられた外周側板33と、を備えている(図6参照)。
【0023】
図3に示すように、パレット下板32の中央部には、シャフト支持部43bおよび出力軸51が挿通された円形の開口部32aが形成されている(図1参照)。
パレット下板32の上面において、開口部32aの周辺部には、八つのソケットガイド34が等間隔に立設されている(図1参照)。
ソケットガイド34は、円筒状の部材であり、その中心部には上端面に開口した円形のガイド穴34aが形成されている。図5に示すように、ガイド穴34aの底面の中心部には、パレット下板32を貫通したダスト排出穴34bが形成されている。また、ガイド穴34aの上部には、円筒状の無給油ブッシュ35が嵌合されている。
【0024】
パレット下板32の下面には、図3に示すように、各ソケットガイド34に対応させて、八つの凹部32cが周方向に等間隔に形成されている。凹部32cは、図1に示すように、マイクロスイッチ60の突起部61またはボールプランジャ70のボール71が入り込むように形成された窪みである。
【0025】
パレット上板31の下面の中心には、シャフト44の上端面が取り付けられており、パレット30はシャフト44とともに、シャフト44の軸回りに回転自在となっている。
パレット上板31には、図6に示すように、八つのソケット挿通穴31aが周方向に等間隔に形成されている。図1に示すように、各ソケット挿通穴31aは、パレット下板32の各ガイド穴34aの直上でパレット上板31を貫通している。ソケット挿通穴31aは、後記するソケット10の上部が挿通可能であるとともに、図7に示すように、トーチ100の先端部が挿入可能な大きさに形成されている。
【0026】
図6に示すように、パレット上板31の上面において、各ソケット挿通穴31aに対して、パレット30の回転方向(図11参照)の前方となる位置には、平板状のパレット回転用部材36が立設されている。パレット回転用部材36の両面は、パレット30の回転方向に向けられている。
本実施形態では、図11に示すように、ロボットアーム200に保持されたトーチ100をパレット回転用部材36に当接させ、ロボットアーム200によってパレット30を回転方向に押し出すことで、パレット30を回転させることができる。
【0027】
ソケット10は、コンタクトチップ130(図8(a)参照)を保持するものであり、図4に示すように、中心部にチップ保持穴11および収容穴12が形成された円筒状の部材である。このソケット10は、図5に示すように、下部がガイド穴34aに挿入され、上端部はソケット挿通穴31aを通じてパレット上板31の上面側に突出している。
【0028】
チップ保持穴11は、ソケット10の上端部から略中間部に亘って形成されている。チップ保持穴11の底部には円形の位置決め部11aが形成され、チップ保持穴11の上側開口部には長穴形状部11bが形成されている。さらに、位置決め部11aと長穴形状部11bとの間には、下方に向かうに従って縮径された傾斜部11cが形成されている。
【0029】
位置決め部11aは、ソケット10と同心に形成されている。また、図8(a)に示すように、コンタクトチップ130が位置決め部11aに同心に嵌合されるように、位置決め部11aの内径はコンタクトチップ130の外径に合わせて形成されている。したがって、位置決め部11aに挿入されたコンタクトチップ130は、ソケット10の中心に位置決めされる。
【0030】
長穴形状部11bは、図5に示すように、位置決め部11aよりも一方向(図5の左右方向)に拡幅されており、ソケット10の上端面に開口している。
図8(b)に示すように、コンタクトチップ130が長穴形状部11bに挿入されると、コンタクトチップ130の両平面部132,132が長穴形状部11bの両平面に係合し、コンタクトチップ130が長穴形状部11bに対して回転不可となる。
【0031】
収容穴12は、図4に示すように、位置決め部11aの下端部に連通するとともに、ソケット10の下端面に開口した円形の穴部であり、位置決め部11aよりも拡径されている。
図5に示すように、位置決め部11aと収容穴12との連通部には、ばね受け部材13が設けられている。ばね受け部材13は、位置決め部11aに回転自在に嵌合された円筒状の無給油ブッシュである。ばね受け部材13の下側開口縁部に形成された環状の鍔部が、収容穴12の上端面に係合することで、ばね受け部材13の位置決め部11a側への抜け止めが構成されている。
【0032】
ソケット10の下部は、ガイド穴34aに嵌合された無給油ブッシュ35に挿入されており、ソケット10はガイド穴34aに対して回転自在となっている。
また、ソケット10とガイド穴34aの底面との間には、弾性部材37が介設されており、ソケット10の下端部はガイド穴34aの底面から離れている。そのため、ソケット10に対して上方から押圧力を付与することで、ソケット10を弾性部材37の弾性力に抗して下方に移動させることができる。
【0033】
弾性部材37は、上下方向に伸縮するコイルばねであり、下端部はガイド穴34aの底面に当接し、上端部は収容穴12内でばね受け部材13の鍔部に当接している。弾性部材37は、ばね受け部材13を介してソケット10に支持しているため、ソケット10は弾性部材37に対して回転自在となっている。
【0034】
このように、ソケット10は、下側の一端がソケットガイド34に支持されている。また、ソケット10の外径は、無給油ブッシュ35(ガイド穴34a)の内径よりも小さく形成されており、ソケット10の外周面と無給油ブッシュ35の内周面との間には隙間が形成されている。したがって、図9に示すように、ソケット10はソケットガイド34に対して傾動自在となっている。
【0035】
図5に示すように、ソケット10の軸方向の略中間部には、環状のフランジ部14が形成されている(図4参照)。フランジ部14の外周縁部には側壁部が立ち上げられている。また、フランジ部14には複数の穴部が上下方向に貫通しており、各穴部にはボルト14aが挿通されている。
【0036】
フランジ部14の下面には、ソケット10に外嵌された環状の従動ギヤ15が取り付けられている。フランジ部14に挿通されたボルト14aを従動ギヤ15のねじ穴に螺合させることで、従動ギヤ15がフランジ部14に固定されている。
従動ギヤ15は、ソケット10の軸回りに歯面が形成された平歯車であり、ソケット10が交換位置P1(図6参照)に配置されたときに、駆動ギヤ52の歯面に係合するように構成されている。そして、従動ギヤ15を駆動ギヤ52に係合させた状態で、出力軸51を回転させると、その回転力が駆動ギヤ52から従動ギヤ15に伝達され、ソケット10が軸回りに回転する。
前記したモータ50、出力軸51、駆動ギヤ52および従動ギヤ15は、特許請求の範囲におけるソケット回転手段に相当するものである。
【0037】
なお、ソケット10の下方への移動範囲は、従動ギヤ15と駆動ギヤ52の係合状態が維持されるように設定されている。したがって、図7(a)に示すように、ソケット10が最も下方に移動した状態でも、従動ギヤ15と駆動ギヤ52の係合状態が維持され、ソケット10を回転させることができる。
【0038】
また、ソケットガイド34に対するソケット10の傾動範囲は、従動ギヤ15と駆動ギヤ52の係合状態が維持されるように設定されている。したがって、図9に示すように、ソケットガイド34に対してソケット10が傾斜した状態でも、従動ギヤ15と駆動ギヤ52の係合状態が維持され、ソケット10を回転させることができる。
【0039】
また、図1に示すベース部材40には、従動ギヤ15と駆動ギヤ52が係合される交換位置P1に配置されたソケット10におけるコンタクトチップ130(図2参照)の有無を検出するセンサ(図示せず)が設けられている。このセンサは、例えば、ソケット10の上方に光線を照射する光電センサであり、その検出結果を図示しない制御装置に出力する。
【0040】
前記した本実施形態の交換装置1を用いて、トーチ100のコンタクトチップ130を交換する際の手順について説明する。
まず、図6に示すように、パレット30に保持された八つのソケット10のうち、交換位置P1に配置されたソケット10以外の七つのソケット10に交換用の新しいコンタクトチップ130を挿入する。
このとき、コンタクトチップ130がチップ保持穴11の回転中心からずれたり、コンタクトチップ130がチップ保持穴11に対して傾斜して挿入された場合でも(図10(a)および(b)参照)、コンタクトチップ130の下端部は、図8(a)に示すように、傾斜部11cに案内されて位置決め部11aに挿入されることで、コンタクトチップ130は位置決め部11aに同心に嵌合され、コンタクトチップ130はソケット10の回転中心に位置決めされる。
【0041】
続いて、作業者は、図示しない操作盤を操作して、図1に示すモータ50の出力軸51を回転させ、その回転力を駆動ギヤ52から従動ギヤ15に伝達させることで、交換位置P1のソケット10を軸回りに回転させる。このとき、トーチ本体110のねじ穴111からコンタクトチップ130のねじ部131(図2参照)を取り外す方向にソケット10が回転するように、出力軸51の回転方向を制御する。
また、制御装置では、ロボットアーム200(図6参照)に保持されたトーチ100を交換位置P1の直上に移動させ、図7(a)に示すように、トーチ100を下降させることで、コンタクトチップ130の先端部をチップ保持穴11の長穴形状部11bに挿入する。
【0042】
このとき、図9に示すように、コンタクトチップ130の軸線がチップ保持穴11の軸線に対して傾斜している場合でも、コンタクトチップ130に合わせてソケット10が傾斜するため、コンタクトチップ130をチップ保持穴11に挿入することができる。
なお、ソケット10が傾斜した状態でも、駆動ギヤ52と従動ギヤ15の係合状態は維持されるため、ソケット10を回転させることができる。
【0043】
図7(b)に示すように、コンタクトチップ130をチップ保持穴11に挿入したときに、両平面部132,132が長穴形状部11bの両平面に重ならない場合には、コンタクトチップ130の外周縁部が長穴形状部11bの開口縁部に当接する。これにより、ロボットアーム200(図6参照)からソケット10に対して下方に向けた押圧力が付与され、ソケット10が弾性部材37の弾性力に抗して下方に押し込まれる。
【0044】
ロボットアーム200(図6参照)によってソケット10を下方に押し込みながらソケット10を回転させ、図8(b)に示すように、コンタクトチップ130の両平面部132,132が長穴形状部11bの両平面に重なる位置に配置されると、弾性部材37の弾性力によってソケット10が押し上げられる。これにより、コンタクトチップ130が長穴形状部11bおよび位置決め部11aに挿入され、コンタクトチップ130の両平面部132,132が長穴形状部11bの両平面に係合される。
【0045】
なお、長穴形状部11bに挿入されたコンタクトチップ130が位置決め部11aの中心からずれている場合(図10(a)の状態)や、コンタクトチップ130がチップ保持穴11に対して傾斜している場合(図10(b)の状態)でも、コンタクトチップ130の下端部は傾斜部11cに案内されて位置決め部11aに挿入される。
そして、図8(a)に示すように、コンタクトチップ130は位置決め部11aに同心に嵌合され、コンタクトチップ130がソケット10の回転中心に位置決めされる。
【0046】
コンタクトチップ130をチップ保持穴11に挿入したときに、トーチ100に付着したスパッタや埃などの塵がチップ保持穴11に入り込んでしまう場合があるが、これらの塵はダスト排出穴34bからパレット30の外部に排出される。また、ソケット10の周囲に落ちた塵はフランジ部14の上面に溜まるため、従動ギヤ15と駆動ギヤ52との係合部位に塵が入り込むのを防ぐことができる。
【0047】
以上のようにして、チップ保持穴11にコンタクトチップ130が保持され、ソケット10とともにコンタクトチップ130が軸回りに回転することで、コンタクトチップ130のねじ部131が、トーチ本体110のねじ穴111から取り外される。
【0048】
トーチ100が下降してから所定時間が経過した後に、制御装置はトーチ100を上昇させるようにロボットアーム200(図6参照)を制御する。トーチ100を下降させてから上昇させるまでの時間は、コンタクトチップ130がトーチ本体110から取り外されるまでの時間を予め計測した結果に基づいて設定されている。
【0049】
交換位置P1のソケット10に保持されたコンタクトチップ130をセンサが検出すると、図11に示すように、制御装置はトーチ100を交換位置P1のパレット回転用部材36に回転方向の後側から当接させるようにロボットアーム200を制御し、ロボットアーム200によってパレット回転用部材36を回転方向の前方に押し出す。
【0050】
パレット30は、図1に示すように、モータテーブル43に回転自在に取り付けられたシャフト44の上端部に支持されているため、ロボットアーム200(図11参照)から押圧力が付与されると、モータテーブル43およびベース部材40に対してシャフト44の軸回りに回転する。
パレット30が回転すると、パレット下板32の下面によって、マイクロスイッチ60の突起部61およびボールプランジャ70のボール71は下方に押し込まれ、突起部61およびボール71とパレット30の凹部32cとの係合状態が解除される。
また、交換位置P1のソケット10の従動ギヤ15は、モータテーブル43に取り付けられた駆動ギヤ52から離れる方向に移動し、従動ギヤ15と駆動ギヤ52の係合状態が解除される。なお、ソケット10は軸回りに回転自在であるため、駆動ギヤ52の回転が固定された状態でも、従動ギヤ15が駆動ギヤ52の歯面に対して回転しながら移動することで、従動ギヤ15は駆動ギヤ52からスムーズに離間する。
【0051】
パレット30をモータテーブル43に対して回転させ、各ソケット10が一区間(隣り合うソケット10,10の間隔)を移動すると、交換位置P1に他のソケット10が配置される。そして、交換位置P1に移動してきたソケット10の従動ギヤ15が、モータテーブル43に取り付けられた駆動ギヤ52に係合される。このとき、駆動ギヤ52に接触した従動ギヤ15が、駆動ギヤ52の歯面に対して回転しながら移動することで、従動ギヤ15と駆動ギヤ52がスムーズに係合される。
また、ボールプランジャ70およびマイクロスイッチ60の直上には、パレット30の凹部34cが配置される。そして、ボールプランジャ70のボール71が凹部32cに係合され、パレット30の回転方向へのずれが防止される。さらに、マイクロスイッチ60の突起部61が凹部32cに入り込み、マイクロスイッチ60から制御装置に検出信号が出力される。
【0052】
制御装置に検出信号が入力されると、制御装置は、図8(a)に示すように、トーチ本体110のねじ穴111を、交換位置P1のソケット10に保持されたコンタクトチップ130のねじ部131に当接させるように、ロボットアーム200(図11参照)を制御する。
さらに、制御装置は、出力軸51をコンタクトチップ130の取り外し時とは逆向きに回転させ、ソケット10とともにコンタクトチップ130を逆回転させることで、コンタクトチップ130のねじ部131をトーチ本体110のねじ穴111に螺合させる。
【0053】
このようにして、ソケット10とともにコンタクトチップ130を正逆回転させて、コンタクトチップ130をトーチ100に脱着させることで、コンタクトチップ130が自動で交換される。
【0054】
さらに、トーチ100が下降してから所定時間が経過した後に、制御装置はトーチ100を上昇させるようにロボットアーム200(図6参照)を制御する。そして、交換したコンタクトチップ130を用いて所定時間のアーク溶接が行われた後に、ロボットアーム200は、磨耗したコンタクトチップ130を交換位置P1のソケット10のチップ保持穴11に挿入し、前記した交換作業と同様にコンタクトチップ130を交換する。
【0055】
以上のような交換装置1では、図9に示すように、コンタクトチップ130がチップ保持穴11に対して傾斜している場合でも、コンタクトチップ130をチップ保持穴11に挿入することができる。
また、図10(a)および(b)に示すように、コンタクトチップ130がチップ保持穴11の中心からずれている場合や、コンタクトチップ130がチップ保持穴11に対して傾斜している場合でも、コンタクトチップ130をソケット10の回転中心に位置決めすることができる。
したがって、本実施形態の交換装置1では、コンタクトチップ130がソケット10に対して傾斜したり、ソケット10の回転中心からずれている場合でも、ソケット10にコンタクトチップ130を適正に挿入保持させることができる。また、コンタクトチップ130をトーチ100に取り付けるときにも、ソケット10が傾動することで、コンタクトチップ130とトーチ100の相対的な位置と回転中心を合わせることができる。これにより、コンタクトチップ130を交換するときの作業効率を高めることができる。
【0056】
また、図11に示すように、トーチ100を保持するロボットアーム200によって、パレット回転用部材36をパレット30の回転方向の前方に押し出すことで、パレット30を回転させており、パレット30を回転させるための駆動装置を必要としないため、交換装置1を小型化することができる。また、制御を簡易化するとともに、製造コストを低減することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図8(b)に示すように、コンタクトチップ130の外周面の二箇所に平面部132,132が形成されているが、平面部132の数は限定されるものではない。例えば、一つの平面部132が長穴形状部11bの平面に係合するように構成してもよい。また、コンタクトチップ130の外周面の四方に平面部132を形成した場合には、平面部132が長穴形状部11bに係合し易くなる。
【0058】
また、本実施形態では、図6に示すように、八つのソケット10が設けられており、七つの新しいコンタクトチップ130を交換可能となっているが、その数は限定されるものではない。パレット30の径が小さい場合には、ソケット10の数を少なくし、パレット30の径が大きい場合には、ソケット10の数を増やすことができる。
【0059】
また、本実施形態では、図5に示すガイド穴34aに無給油ブッシュ35を嵌合させているが、ガイド穴34aの内周面の上端部にボールベアリングを嵌合させ、ボールベアリングによってソケット10を回転自在に支持してもよい。
【0060】
また、本実施形態では、図1に示すモータ50、出力軸51、駆動ギヤ52および従動ギヤ15によって、ソケット10を回転させるためのソケット回転手段を構成しているが、ソケット回転手段の構成は限定されるものではなく、例えば、ソケット10の外周面と出力軸51とを環状のベルトによって連結することで、出力軸51の回転力をソケット10に伝達してもよい。
【0061】
また、本実施形態では、図11に示すように、ロボットアーム200によってパレット回転用部材36を押し出すことでパレット30を回転させているが、パレット30を回転させるための駆動装置を設けてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 交換装置
10 ソケット
11 チップ保持穴
11a 位置決め部
11b 長穴形状部
11c 傾斜部
12 収容穴
14 フランジ部
15 従動ギヤ(ソケット回転手段)
30 パレット
31 パレット上板
31a ソケット挿通穴
32 パレット下板
32c 凹部
34 ソケットガイド
34a ガイド穴
34b ダスト排出穴
35 無給油ブッシュ
36 パレット回転用部材
37 弾性部材
40 ベース部材
43 モータテーブル
44 シャフト
50 モータ(ソケット回転手段)
51 出力軸(ソケット回転手段)
52 駆動ギヤ(ソケット回転手段)
60 マイクロスイッチ
70 ボールプランジャ
100 トーチ
110 トーチ本体
120 ノズル
130 コンタクトチップ
131 ねじ部
132 平面部
200 ロボットアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトチップが嵌合される筒状のソケットと、
前記ソケットを軸回りに回転させるソケット回転手段と、
前記ソケットの下部が挿入されるガイド穴を有するソケットガイドが形成されたパレットと、
前記ソケットと前記ガイド穴の底面との間に介設された弾性部材と、を備え、
前記ソケットとともに前記コンタクトチップを正逆回転させることで、トーチに対して前記コンタクトチップを脱着させる交換装置であって、
前記ソケットの回転中心には、前記コンタクトチップが挿入されるチップ保持穴が形成され、
前記チップ保持穴の底部には、前記コンタクトチップが同心に嵌合される位置決め部が形成されるとともに、
前記チップ保持穴の開口部には、前記位置決め部よりも拡幅され、前記コンタクトチップの外周面に形成された平面部に係合する長穴形状部が形成されており、
前記ソケットの外径は、前記ガイド穴の内径よりも小さく形成され、前記ソケットが前記ソケットガイドに対して回転および傾動自在であることを特徴とするコンタクトチップの交換装置。
【請求項2】
前記ソケット回転手段は、前記ソケットの外周面に形成された従動ギヤと、前記従動ギヤに係合する駆動ギヤと、を有しており、
前記従動ギヤと前記駆動ギヤの係合状態が維持されるように、前記ソケットガイドに対する前記ソケットの傾動範囲が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のコンタクトチップの交換装置。
【請求項3】
前記ガイド穴の底面には、前記パレットを貫通したダスト排出穴が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンタクトチップの交換装置。
【請求項4】
前記パレットは、上下方向の軸回りに回転自在であり、
前記パレットの上面には、複数の前記ソケットガイドおよびパレット回転用部材が前記パレットの回転方向に並設されており、
前記トーチを保持するロボットアームによって、前記パレット回転用部材を前記パレットの回転方向に押し出すことで、前記パレットが回転するように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンタクトチップの交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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