説明

コンタクトチップ及び溶接トーチ

【課題】チップボディ3にコンタクトチップ21がねじ込まれた接合部で、焼付きが生じることを防止することができるコンタクトチップ21及び溶接トーチ20を提供する。
【解決手段】本発明のコンタクトチップ21は、鉄で形成されて、雄ネジが切られたネジ部23と、銅で形成されたコンタクトチップ本体22とから成り、溶接トーチ20内のチップボディ3の先端部にねじ込まれ、溶接ワイヤが軸芯部を挿通する。コンタクトチップ本体の基端部22bにネジ部の先端部23aが挿入される挿入孔22dが形成され、この挿入孔22dにネジ部の先端部23aが挿入された後に、圧着加工されてネジ部23がコンタクトチップ本体22に固定される。ネジ部23がチップボディの先端部3aにねじ込まれたときに、コンタクトチップ本体の基端部22bの面がチップボディの先端部3aの面に当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤに給電するためのコンタクトチップ及び溶接トーチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業者が手に把持する溶接トーチについて図2を参照して説明する。図2は、消耗電極ガスシールドアーク溶接に使用される一般的な溶接トーチの構造を示す部分断面図である。同図において、溶接トーチ1のトーチボディ2の基端部に一線式パワーケーブル8が接続され、この接続部を覆うように作業者が把持するハンドル9が取り付けられている。トーチボディ2の先端部にチップボディ3が取り付けられ、このチップボディ3の先端部にコンタクトチップ4が取り付けられている。チップボディ3及びコンタクトチップ4の軸芯部には、溶接ワイヤを挿通するための円形の孔が形成されている。図示を省略した溶接電源から一線式パワーケーブル8を通してコンタクトチップ4と被溶接物との間に電力が供給されて、コンタクトチップ4の孔に溶接ワイヤが内接触することによって溶接ワイヤに給電され、溶接ワイヤと被溶接物との間でアークが発生する。
【0003】
オリフィス6がチップボディ3の下方に設けられて、チップボディ3のシールドガス噴出口から噴出されたシールドガスが、このオリフィス6のシールドガス噴出口を通過することによってシールドガスが整流される。また、このオリフィス6は、後述するノズル7がチップボディ3と電気的に短絡することを防止していて、セラミックスなどの絶縁材料で形成されている。ノズル7はコンタクトチップ4とオリフィス6とを取囲んでいる。オリフィス6のシールドガス噴出口から噴出されたシールドガスがノズル7の先端部から噴出されて、シールドガスがアーク、溶融池及びその周辺を大気から遮蔽している。チップボディ3の周りに絶縁ブッシュ11が設けられ、ノズル7とチップボディ3とが絶縁されている。オリフィス6はノズル7の内面に設けられた突起部に引っ掛かかり、ノズル7がオリフィス6を介して絶縁ブッシュ11にねじ込まれる。
【0004】
図3は、従来技術のコンタクトチップがチップボディに取り付けられた状態を説明する断面図である。同図において、コンタクトチップの基端部4bに雄ネジが切られていて、この雄ネジが切られた部分と、コンタクトチップのその他の部分とは一体物である。チップボディの先端部3aにコンタクトチップの基端部4bが挿入される挿入孔が形成されていて、この挿入孔の内周面に雌ネジが切られている。コンタクトチップ4及びチップボディ3の軸芯部には溶接ワイヤが挿通される挿通孔が形成されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−23063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示したコンタクトチップ4及びチップボディ3の材質は、一般的にクロム銅、ジルコニウム入りクロム銅、真鍮などの銅合金であって、コンタクトチップ4及びチップボディ3には、通常、同一の銅合金が使用されている。そして、溶接トーチ1に高電流を通電して高使用率で溶接を行う場合、コンタクトチップ4とチップボディの先端部3aとはアークに近いために温度が上昇し、チップボディ3にコンタクトチップ4がねじ込まれた接合部が発熱する。この場合、両方の銅合金の線熱膨張係数が同じであるために焼付いて、コンタクトチップ4をチップボディ3から取り外すことが出来なくなる場合がある。その場合、コンタクトチップ4のみを交換する代わりに、コンタクトチップ4とチップボディ3とを同時に交換する必要があり、資源を浪費するという不具合がある。
【0007】
本発明は、チップボディにコンタクトチップがねじ込まれた接合部で、焼付きが生じることを防止することができるコンタクトチップ及び溶接トーチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接トーチ内のチップボディの先端部にねじ込まれ、溶接ワイヤが軸芯部を挿通するコンタクトチップにおいて、
鉄で形成されて、雄ネジが切られたネジ部と、
基端部に前記ネジ部の先端部が挿入される挿入孔が形成され、この挿入孔に前記ネジ部の先端部が挿入された後に、挿入された前記ネジ部の周囲が圧着加工されて前記ネジ部が固定され、銅で形成されたコンタクトチップ本体とを備え、
前記ネジ部が前記チップボディの先端部にねじ込まれたときに、前記コンタクトチップ本体の基端部面が前記チップボディの先端部面に当接することを特徴とするコンタクトチップである。
【0009】
請求項2の発明は、
請求項1記載のコンタクトチップを使用したことを特徴とする溶接トーチである。
【発明の効果】
【0010】
溶接トーチに高電流を通電して溶接を行う場合、チップボディにコンタクトチップのネジ部がねじ込まれた接合部が発熱するが、両方の線熱膨張係数が異なるために、チップボディにコンタクトチップのネジ部がねじ込まれた接合部が焼付くことを防止することができる。従って、コンタクトチップの先端部のワイヤ挿通孔が摩耗して交換する必要があるとき、コンタクトチップとチップボディとを同時に交換することがなく、コンタクトチップのみを交換すれば良い。よって、コンタクトチップよりも高価なチップボディの交換を頻繁に行う必要が無くなることによって、コストを大幅に低減することができ、資源の節約を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のコンタクトチップの断面図である。
【図2】消耗電極ガスシールドアーク溶接に使用される一般的な溶接トーチの構造を示す部分断面図である。
【図3】従来技術のコンタクトチップがチップボディに取り付けられた状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明のコンタクトチップの断面図である。同図において、コンタクトチップ21は、ネジ部23とコンタクトチップ本体22とから成り、ネジ部23の周囲に雄ネジが切られている。ネジ部23が図3に示したチップボディの先端部3aにねじ込まれる。ネジ部23とコンタクトチップ本体22との両方の軸芯部にワイヤ挿通孔が形成され、溶接ワイヤがこのワイヤ挿通孔に挿通して内接触して、溶接ワイヤが給電される。コンタクトチップ21のネジ部23がチップボディの先端部3aにねじ込まれた接合部で焼き付きが生じることを防止するために、コンタクトチップ21のネジ部23とチップボディ3との材質として、線膨張係数が異なる材質を使用している。ネジ部23は例えば軟鋼、ステンレス鋼又は特殊鋼などの鉄で形成され、チップボディ3は、例えばクロム銅、ジルコニウム入りクロム銅又は真鍮などの銅で形成される。ネジ部23のワイヤ挿通孔の基端部23b(X2方向)には、溶接ワイヤが挿入され易いようにテーパが形成されている。また、コンタクトチップ本体22と圧着加工したときに固定されるように、ネジ部23の外周面に凹部23cが形成されている。
【0013】
コンタクトチップ本体22は、ワイヤ挿通孔内で溶接ワイヤが接触して給電するために電気抵抗の小さい銅合金で形成されている。例えばクロム銅、ジルコニウム入りクロム銅又は真鍮などの銅で形成される。コンタクトチップ本体の基端部22b(X2方向)には、ネジ部の先端部23a(X1方向)が挿入される挿入孔22dが形成され、この挿入孔22dの内周面には雌ネジが切られ、ネジ部23の外周面に形成された凹部23cに対応する形状の凸部22cが形成されている。
【0014】
次に、コンタクトチップ21の製造方法を説明する。コンタクトチップ本体の基端部22b(X2方向)に挿入孔22dを形成する。この挿入孔22dの圧着加工する前の内径は、ネジ部の先端部23a(X1方向)が挿入されたときに、ネジ部23の周囲が挿入孔22dに形成された凸部22cに引っかからないように、ネジ部23の外径よりも少し大きく形成されている。ネジ部の先端部23a(X1方向)をコンタクトチップ本体の挿入孔22dに挿入して、コンタクトチップ本体の凸部22cとネジ部の凹部23cとが噛み合う位置に配置する。芯金(図示省略)をコンタクトチップ本体22及びネジ部23に挿入して、接合部の周囲に圧着用ダイス設ける。そして、接合部の周囲24を円周状にカシメることによってコンタクトチップ本体22とネジ部23とが圧着加工されて固定される。圧着用ダイスは、八方締め圧着装置又は六方締め圧着装置を使用する。
【0015】
コンタクトチップ本体22とネジ部23とに芯金を挿入してカシメることによって、コンタクトチップ本体22とネジ部23とが同軸に保持されて圧着される。また、接合部は、圧着用ダイスで圧着されて凹凸ができるので、コンタクトチップ本体22とネジ部23とが、円周方向に噛み合って容易に外れることがない。また、コンタクトチップ本体の凸部22cとネジ部の凹部23cとが噛み合っているために、溶接中にコンタクトチップ本体22とネジ部23との接合部が高温になっても、ネジ部23がコンタクトチップ本体22から軸方向に外れることがない。ネジ部の基端部23b(X2方向)が、図3に示したチップボディの先端部3a(X1方向)にねじ込まれて、コンタクトチップ本体の基端部22bの面がチップボディの先端部3aの面に当接したとき通電しやすいように、コンタクトチップ本体22とチップボディ3とが、電気抵抗の小さい銅合金の材質同士で接触するようにしている。
【0016】
上述したように、コンタクトチップ21のネジ部23とチップボディ3との材質を線熱膨張係数が異なる材質としたが、線熱膨張係数が異なる材質に加えて高温硬度特性も異なる材質で形成すると、コンタクトチップ21のネジ部23とチップボディ3との接合部での焼き付きを、さらに低減することができる。
【0017】
以下、動作を説明する。溶接作業者が溶接トーチ20(図2参照)のハンドル9を把持して、トーチスイッチ5をONすると、図示を省略した溶接電源から出力された電力が一線式パワーケーブル8によって溶接トーチ20のトーチボディ2に供給される。この電力がトーチボディ2の先端に取り付けられたチップボディ3を介してコンタクトチップ21に供給される。このコンタクトチップ21に送給された溶接ワイヤが内接触することによって溶接ワイヤに電力が給電され、溶接ワイヤと被溶接物との間でアークが発生する。
【0018】
またこのとき、図示を省略したガスボンベからシールドガスが一線式パワーケーブル8によって溶接トーチ20のトーチボディ2に供給される。このシールドガスがチップボディ3を通過してオリフィス6に供給されて、オリフィス6のシールドガス噴出口を通過することによってシールドガスが整流される。オリフィス6のシールドガス噴出口から噴出されたシールドガスがノズル7の先端部から噴出されて、シールドガスがアーク、溶融池及びその周辺を大気から遮蔽している。
【0019】
図3に示したチップボディの先端部3aに取り付けられるコンタクトチップ21は、ネジ部23とコンタクトチップ本体22とから成り、コンタクトチップ21のネジ部23とチップボディ3との接合部で焼き付きが生じないようにするために、線膨張係数が異なる材質を使用している。チップボディ3は銅合金で形成され、ネジ部23は鉄で形成され、コンタクトチップ本体22は、ワイヤ挿通孔内で溶接ワイヤが接触して給電されるために電気抵抗の小さい銅合金で形成されている。コンタクトチップ本体22とネジ部23とは圧着加工されて固定されている。
【0020】
ネジ部の基端部23b(X2方向)がチップボディの先端部3a(X1方向)にねじ込まれたときに、コンタクトチップ本体の基端部22b(X2方向)の面がチップボディの先端部3a(X1方向)の面に当接して、通電しやすい材質である銅合金同士で接触している。
【0021】
溶接トーチ20に高電流を通電して高使用率で溶接を行う場合、コンタクトチップ21とチップボディの先端部3aはアークに近いために温度が上昇し、チップボディ3にコンタクトチップ21のネジ部23がねじ込まれた接合部が発熱する。このとき、両方の線熱膨張係数が異なるために、焼き付くことを防止することができる。
【0022】
この結果、溶接トーチ20に高電流を通電して溶接を行う場合、チップボディ3にコンタクトチップ21のネジ部23がねじ込まれた接合部が発熱するが、両方の線熱膨張係数が異なるために、チップボディ3にコンタクトチップ21のネジ部23がねじ込まれた接合部が焼付くことを防止することができる。そのために、従来技術のようにコンタクトチップ4がチップボディ3に焼き付いて、取り外すことが出来なくなることがない。従って、コンタクトチップの先端部22a(X1方向)のワイヤ挿通孔が摩耗して交換する必要があるとき、コンタクトチップ21とチップボディ3とを同時に交換することがなく、コンタクトチップ21をチップボディ3から取り外して、コンタクトチップ21のみを交換すれば良い。従って、コンタクトチップ21よりも高価なチップボディ3の交換を頻繁に行う必要が無くなることによって、コストを大幅に低減することができ、資源の節約を図ることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 溶接トーチ
2 トーチボディ
3 チップボディ
3a 先端部
4 コンタクトチップ
4b コンタクトチップの基端部
5 トーチスイッチ
6 オリフィス
7 ノズル
8 一線式パワーケーブル
9 ハンドル
11 絶縁ブッシュ
20 溶接トーチ
21 コンタクトチップ
22 コンタクトチップ本体
22 コンタクトチップ本体
22a コンタクトチップ本体の先端部
22b コンタクトチップ本体の基端部
22c コンタクトチップ本体の凸部
22d コンタクトチップ本体の挿入孔
23 ネジ部
23a ネジ部の先端部
23b ネジ部の基端部
23c ネジ部の凹部
24 接合部の周囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ内のチップボディの先端部にねじ込まれ、溶接ワイヤが軸芯部を挿通するコンタクトチップにおいて、
鉄で形成されて、雄ネジが切られたネジ部と、
基端部に前記ネジ部の先端部が挿入される挿入孔が形成され、この挿入孔に前記ネジ部の先端部が挿入された後に、挿入された前記ネジ部の周囲が圧着加工されて前記ネジ部が固定され、銅で形成されたコンタクトチップ本体とを備え、
前記ネジ部が前記チップボディの先端部にねじ込まれたときに、前記コンタクトチップ本体の基端部面が前記チップボディの先端部面に当接することを特徴とするコンタクトチップ。
【請求項2】
請求項1記載のコンタクトチップを使用したことを特徴とする溶接トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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