説明

コンデンサマイクロホンユニット及びその製造方法

【課題】振動板と固定極との間の静電容量の変化を、電圧変化として取り出すコンデンサマイクロホンユニットにおいて、振動板と固定極との間の電気的絶縁性を確保して漏洩電流の発生を防止し、且つ、マイク感度の低下を抑制する。
【解決手段】支持リング13に張設された振動板14と、前記振動板と対向配置された固定極16と、前記固定極の周囲を支持する絶縁座2とを備え、前記支持リングの下面と前記絶縁座の上面との間にスペーサリング17が狭持されることにより、前記振動板と固定極との間に所定の間隙が形成されたコンデンサマイクロホンユニットであって、前記振動板と対向配置された固定極の上面には、所定の膜厚を有する絶縁皮膜3aが形成され、前記固定極の周辺部における前記絶縁座の上面には、前記固定極の周縁に沿って環状溝2aが形成されると共に、前記環状溝内に所定の厚さを有する絶縁層3bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板と固定極との間の静電容量の変化を、電圧変化として取り出すコンデンサマイクロホンユニットに関し、特に固定極と振動板との間における漏洩電流の発生を防止することのできるコンデンサマイクロホンユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロホンは、振動板と固定極とをスペーサリングを介して対向配置してなるコンデンサマイクロホンユニットを備え、FET(電界効果トランジスタ)などのインピーダンス変換器を介して音声信号を出力している。
【0003】
従来のコンデンサマイクロホンユニットの概略構成について説明する。図3は、従来のコンデンサマイクロホンユニットの一部破断側面図であり、図4は、その主要部(音響電気変換器)の構成を示す断面図である。
図3に示すコンデンサマイクロホンユニット10は、両端が開放された円筒状のハウジング11を有し、図では上端に配置された環状の枠体12に静電型の音響電気変換器20が保持されている。
音響電気変換器20は、支持リング13、及びこれに張設された振動板14と、電気絶縁性の絶縁座15に支持された固定極16とを備える。振動板14と固定極16とは、図4に示すように電気絶縁性の円環状のスペーサリング17を介して対向配置されている。
【0004】
前記枠体11の上には複数の孔(音響端子)18aが設けられた蓋体18が被せられ、この蓋体18がハウジング11の上端開口に対し例えば螺合により結合されると、支持リング13と絶縁座15とが、それぞれスペーサリング17に密着し、これを挟み込む構成となされている。また、ハウジング11の下部には、インピーダンス変換器としてのFETが実装された回路基板(図示せず)が配置され、この回路基板に前記固定極16が電気的に接続されている。
尚、このようなコンデンサマイクロホンユニットの構成については、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−50869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記のようにコンデンサマイクロホンユニット10は、振動板14と固定極16との間の静電容量が非常に小さい音響電気変換器20を有するため、入力インピーダンスの極めて高いインピーダンス変換器(FET)を介して音声信号が出力される。
しかしながら、両電極に対し高インピーダンスを介して成極電圧(直流電圧)が加えられるため、振動板14と固定極16との間の電気的絶縁性が低下すると漏洩電流が発生し、これに伴う大きな雑音が発生するという課題があった。
【0007】
前記課題を解決するためには、振動板14と固定極16との間の電気的絶縁性を確保することが必要である。
しかしながら、ポリカーボネイトやPET等のプラスチック材料により形成された絶縁座15、及びスペーサリング17にあっては、その体積抵抗率は極めて高いが、表面抵抗率は空気中の湿度に影響を受け易く、表面抵抗が低下した際に、前記漏洩電流に起因する雑音を発生させていた。具体的には、絶縁座15に組み込まれた固定極16周辺の沿面距離(絶縁座15とスペーサリング17とを経由する沿面距離)が短いため、その部分における表面抵抗の低下が問題となっていた。
【0008】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、振動板と固定極との間の静電容量の変化を、電圧変化として取り出すコンデンサマイクロホンユニットにおいて、振動板と固定極との間の電気的絶縁性を確保して漏洩電流の発生を防止し、且つ、マイク感度の低下を抑制することのできるコンデンサマイクロホンユニット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットは、支持リングに張設された振動板と、前記振動板と対向配置された固定極と、前記固定極の周囲を支持する絶縁座とを備え、前記支持リングの下面と前記絶縁座の上面との間にスペーサリングが狭持されることにより、前記振動板と固定極との間に所定の間隙が形成されたコンデンサマイクロホンユニットであって、前記振動板と対向配置された固定極の上面には、電気絶縁性を有する所定厚の絶縁皮膜が形成され、前記固定極の周辺部における前記絶縁座の上面には、前記固定極の周縁に沿って環状溝が形成されると共に、前記環状溝内に電気絶縁性を有する所定厚の絶縁層が形成されていることに特徴を有する。
また、前記絶縁皮膜及び前記絶縁層は、フッ素系コーティング剤により形成されていることが望ましい。
【0010】
このように構成することにより、振動板が固定極に接触するような状況であっても、絶縁皮膜が介在するため、電荷の移動に伴う雑音の発生を防止することができる。また、フッ素系コーティング剤により絶縁皮膜を形成することにより、その膜厚を非常に薄くすることができ、マイク感度の低下を抑制することができる。
また、絶縁座の上面に環状溝部を設けたことによって、固定極周辺の沿面距離(絶縁座とスペーサリングとを経由する沿面距離)が長くなり、更に環状溝部内に耐湿性に優れるフッ素系コーティング剤からなる絶縁層を設けることにより、空気中の湿度変化に起因する表面抵抗の低下を防止することができる。即ち、表面抵抗の低下による漏洩電流の発生を抑制し、それに起因する雑音発生を防止することができる。
【0011】
また、前記した課題を解決するために、本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットの製造方法は、振動板が張設された支持リングの下面と、前記振動板と対向配置される固定極の周囲を支持する絶縁座の上面との間にスペーサリングが狭持され、前記振動板と固定極との間に所定の間隙が形成されたコンデンサマイクロホンユニットの製造方法であって、前記絶縁座の形成工程において、前記固定極を支持した際、前記固定極の周辺部となる該絶縁座の上面に、前記固定極の周縁に沿った環状溝を設けるステップと、前記絶縁座に前記固定極を配置するステップと、前記絶縁座及び前記固定極の上面を研磨し、平坦とするステップと、前記絶縁座及び前記固定極の上面にフッ素系コーティング剤を塗布するステップと、前記塗布されたフッ素系コーティング剤に含まれる溶剤を揮発させ、少なくとも前記固定極の上面に所定の膜厚を有する絶縁皮膜を形成し、前記環状溝内に所定の厚さを有する絶縁層を形成するステップとを含むことに特徴を有する。
尚、前記絶縁座及び前記固定極の上面にフッ素系コーティング剤を塗布するステップにおいて、前記環状溝内には前記フッ素コーティング剤が溜まる状態となされることが望ましい。
【0012】
前記ステップを含む工程を実施することにより、本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットを得ることができ、前記した効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動板と固定極との間の静電容量の変化を、電圧変化として取り出すコンデンサマイクロホンユニットにおいて、振動板と固定極との間の電気的絶縁性を確保して漏洩電流の発生を防止し、且つ、マイク感度の低下を抑制することのできるコンデンサマイクロホンユニット及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットが備える音響電気変換器の全体構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットが備える音響電気変換器の製造方法の流れを示すフローである。
【図3】図3は、従来のコンデンサマイクロホンユニットの一部破断側面図である。
【図4】図4は、従来のコンデンサマイクロホンユニットが備える音響電気変換器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットが備える音響電気変換器1の全体構成を示す断面図である。
尚、図1において、先に図3、図4を用いて説明した従来例に示した部材と同一、若しくは相当する部材については同じ符号で示している。
【0016】
本発明に係るコンデンサマイクロホンユニットは、図3に示した構成における音響電気変換器20を図1に示す音響電気変換器1に置き換えた構成である。
即ち、両端が開放された円筒状のハウジング11の一端に環状の枠体12が配置され、その枠体12に静電型の音響電気変換器1が保持される。
前記音響電気変換器1は、図3に示す蓋体18がハウジング11の上端開口に対し例えば螺合結合されることにより、ハウジング11内に固定される。
【0017】
図1に示すように音響電気変換器1は、円環状の支持リング13と、その下面に所定の張力をもって張設された振動板14と、電気絶縁性の(例えばポリカーボネイトからなる)絶縁座2に支持された固定極16とを有する。
支持リング13と絶縁座2との間には電気絶縁性の(例えばPETからなる)スペーサリング17が配置され、振動板14と固定極16との間には、所定の間隙が形成されている。
【0018】
また、固定極16の上面、及び固定極16が支持された絶縁座2の上面には、電気絶縁性を有する薄膜(例えば1μm以下)の絶縁皮膜3aが形成されている。絶縁皮膜3aは、耐湿性に優れ、高い体積抵抗率、及び表面抵抗率を有するフッ素系コーティング剤(例えば、(株)アイ・エヌ・ジー社のフロロバリア−FP−1054E)により形成されている。
【0019】
尚、固定極16には、音響端子18aからの音波を振動板14の裏面側に作用させるための複数の音孔16aが穿設されているが、図1に示す例にあっては、固定極16上面の絶縁皮膜3aは、非常に薄い皮膜であるため、音孔16aを塞ぐ状態で形成されている。しかしながら、音波を振動板14の裏面側により作用させるという点から、前記絶縁皮膜3aは前記音孔3を除く固定極16の上面のみに形成してもよい。
【0020】
また、図1に示すように、絶縁座2が固定極16を支持した状態で、絶縁座2上面における固定極16の周辺部に、前記支持リング13及び前記スペーサリング17と同心であって、所定の幅及び深さを有する環状溝2aが固定極16の周縁に沿って形成される。そして、その環状溝20内に前記絶縁皮膜3aよりも厚い膜厚を有する電気絶縁性の絶縁層3bが形成されている。
この絶縁層3bは、絶縁皮膜3aと同様にフッ素系コーティング剤により形成され、絶縁皮膜3aと絶縁層3bとは、その沿面が連続して形成されている。
【0021】
このように構成された音響電気変換器1がハウジング11内に配置され、蓋体18がハウジング11に螺合結合されると、支持リング13と絶縁座2とが、それぞれスペーサリング17に密着し、これを狭持する構成となる。
即ち、振動板14と固定極16上面との間は、スペーサリング17によって所定の間隙空間となされるが、そこに薄膜の絶縁皮膜3aが介在する状態となされる。
【0022】
前記音響電気変換器1は、図2に示す工程を経て構成される。
即ち、絶縁座2を形成する際には、前記環状溝2aを設ける(図2のステップS1)。この環状溝2aは、例えば図1に示すように絶縁座2の内周側の上端縁部に段差状に形成され、絶縁座2に固定極16が配置されることによって、凹状の溝となされる。即ち、図示するように固定極16の上端外周面が環状溝2aの内径側の周壁とされる。
【0023】
次いで、絶縁座2に固定極16を配置し(図2のステップS2)、絶縁座2及び固定極16の上面が平坦面となるように研磨処理を施す(図2のステップS3)。
絶縁座2及び固定極16の上面が平坦な状態になされると、そこに所定量のフッ素コーティング剤(例えば、(株)アイ・エヌ・ジー社のフロロバリア−FP−1054E)を塗布する(図2のステップS4)。
尚、この塗布処理の際に、前記環状溝2aに前記フッ素コーティング剤が溜まる状態となされる。
【0024】
絶縁座2及び固定極16の上面にフッ素コーティング剤が塗布されると、所定時間の間放置され、フッ素コーティング剤中の溶剤が揮発される(図2のステップS5)。これにより、絶縁座2及び固定極16の上面に塗布されたフッ素コーティング剤は、所定膜厚(1μm以下)の絶縁皮膜3aとなり、環状溝2aに溜められたフッ素コーティング剤は、前記絶縁皮膜3aよりも厚い絶縁層3bとなる。
【0025】
このようにして絶縁座2及び固定極16の上面に絶縁皮膜3aが形成され、環状溝2aに絶縁膜3bが形成されると、支持リング13に張設された振動板14を、スペーサ17を介し固定極16の上面に対向配置させ、音響電気変換器1を構成する(図2のステップS6)。
【0026】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、固定極16の上面に、薄膜の絶縁皮膜3aが設けられる。また、固定極16の周辺部に環状溝2aが形成され、そこに前記絶縁皮膜3aよりも厚い膜厚の絶縁層3bが設けられる。更に、前記絶縁皮膜3a及び絶縁層3bは、耐湿性に優れ、体積抵抗率、並びに表面抵抗率が高いフッ素系コーティング剤により形成される。
【0027】
この構成により、振動板14が固定極16に接触するような状況であっても、絶縁皮膜3aが介在するため、電荷の移動に伴う雑音の発生を防止することができる。また、フッ素系コーティング剤により絶縁皮膜3aを形成するため、その膜厚を非常に薄く(例えば1μm以下)することができ、マイク感度の低下を抑制することができる。
また、絶縁座2に環状溝部2aを設けたことによって、固定極16周辺の沿面距離(絶縁座2とスペーサリング17とを経由する沿面)が長くなり、更に環状溝部2aに耐湿性に優れるフッ素系コーティング剤からなる絶縁層2bが設けられるため、空気中の湿度変化に起因する表面抵抗の低下を防止することができる。即ち、表面抵抗の低下による漏洩電流の発生を抑制し、それに起因する雑音発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 音響電気変換器
2 絶縁座
2a 環状溝
3a 絶縁皮膜
3b 絶縁層
11 ハウジング
13 支持リング
14 振動板
16 固定極
17 スペーサリング
18 蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持リングに張設された振動板と、前記振動板と対向配置された固定極と、前記固定極の周囲を支持する絶縁座とを備え、前記支持リングの下面と前記絶縁座の上面との間にスペーサリングが狭持されることにより、前記振動板と固定極との間に所定の間隙が形成されたコンデンサマイクロホンユニットであって、
前記振動板と対向配置された固定極の上面には、電気絶縁性を有する所定厚の絶縁皮膜が形成され、
前記固定極の周辺部における前記絶縁座の上面には、前記固定極の周縁に沿って環状溝が形成されると共に、前記環状溝内に電気絶縁性を有する所定厚の絶縁層が形成されていることを特徴とするコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項2】
前記絶縁皮膜及び前記絶縁層は、フッ素系コーティング剤により形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項3】
振動板が張設された支持リングの下面と、前記振動板と対向配置される固定極の周囲を支持する絶縁座の上面との間にスペーサリングが狭持され、前記振動板と固定極との間に所定の間隙が形成されたコンデンサマイクロホンユニットの製造方法であって、
前記絶縁座の形成工程において、前記固定極を支持した際、前記固定極の周辺部となる該絶縁座の上面に、前記固定極の周縁に沿った環状溝を設けるステップと、
前記絶縁座に前記固定極を配置するステップと、
前記絶縁座及び前記固定極の上面を研磨し、平坦とするステップと、
前記絶縁座及び前記固定極の上面にフッ素系コーティング剤を塗布するステップと、
前記塗布されたフッ素系コーティング剤に含まれる溶剤を揮発させ、少なくとも前記固定極の上面に所定の膜厚を有する絶縁皮膜を形成し、
前記環状溝内に所定の厚さを有する絶縁層を形成するステップとを含むことを特徴とするコンデンサマイクロホンユニットの製造方法。
【請求項4】
前記絶縁座及び前記固定極の上面にフッ素系コーティング剤を塗布するステップにおいて、
前記環状溝内には前記フッ素コーティング剤が溜まる状態となされることを特徴とする請求項3に記載されたコンデンサマイクロホンユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39489(P2012−39489A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179224(P2010−179224)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】