説明

コンデンサ

【課題】 低温で容易に作製可能であり、かつ可撓性のあるコンデンサを提供する。
【解決手段】 誘電体層とこれを挟む2つの電極からなるコンデンサにおいて、誘電体層が絶縁性有機物の中に金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物を含んでなるものであり、かつその金属微粒子等のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位であることを特徴とするコンデンサを提供する。電圧印加することで金属微粒子等に一度電荷が入ると、絶縁性有機物とのエネルギー準位の関係からこの電荷は金属微粒子等中に閉じ込められることになる。この閉じ込められた電荷が誘電体における誘電分極と同様の作用をするために、誘電率の小さな絶縁性有機物を用いても実効的に非常に大きな誘電率を得る事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体とコンデンサに関する。コンデンサは、詳しくは電子回路としてプリント基板に内蔵したり集積回路内に内蔵したりするようなコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器の小型化・薄型化・軽量化、および電気機器回路の高密度化・デジタル化に伴い、電子部品に対する小型化、高性能化高信頼性化の要望がますます高まってきている。そのような情勢の中で、コンデンサも同様の小型で大容量を有するものが要求されている。
【0003】
しかしながら、プリント配線基板上でコンデンサなどの実装部品が占める面積は依然として大きい。このことが、今後電子機器の更なる小型化をしようとする際の大きな障害になる。そのような問題を解決するために、コンデンサなどの電子部品を回路基板に内蔵する試みがなされている(例えば、特許文献1〜2)。
【0004】
一方、IC回路の高周波化や低電圧化に伴って、ノイズによって電源電圧が変動し、誤動作を生じることが大きな問題となってきている。このような問題が生じる理由は、電源電圧の低電圧化に伴い、電源電圧の許容変動幅が小さくなってきたからである。高周波ノイズによる誤動作を防止するために、通常はコンデンサを電源周りに設置する。このような用途に使用されるコンデンサは、バイパスコンデンサやデカップリングコンデンサと呼ばれ、高周波ノイズを除去し、電源電圧の瞬間的な低下をコンデンサからの瞬時のエネルギー供給により防ぐ働きをしている。このエネルギー供給には、コンデンサの静電容量の大きさが重要な役割を果たす。
【0005】
理想的なコンデンサは抵抗成分やインダクタンス成分が0で静電容量成分のみであるはずであるが、実際のコンデンサは直列抵抗成分と直列インダクタンス成分を持つ。容量成分のインピーダンスは、周波数増加とともに減少し、インダクタンス成分は周波数増加とともに増加する。このため、今後、動作周波数が高くなるにつれ、素子の持つインダクタンス成分や配線によるインダクタンス成分がノイズの原因になると予想される。そのようなことから、コンデンサとしてはできるだけインダクタンス成分が小さいものを使用し、コンデンサ自体の自己共振周波数を高くすることにより、確実に高周波域までコンデンサとして機能させる必要がある。また、デカップリングコンデンサの実装位置は、配線距離によるインダクタンス成分をできるだけ小さくするためにCPUに近接な程良い。
【0006】
一方、設置するコンデンサの使用定格電圧は、前述のような電源電圧の低電圧化に伴い、今後ますます小さいもので対応できるようになる。
【0007】
上記のようなIC回路の高周波化、低電圧化の課題に対応するために、高性能のコンデンサをプリント配線基板内部に埋設し、CPUとコンデンサ間の配線距離をできるだけ短くすることや(例えば、特許文献3〜5)、コンデンサを薄膜化し電源ICに組み込んで1チップ化することが提案されている。
【0008】
さらには、携帯電話に代表される小型携帯機器内のプリント配線基板材料の主流は樹脂基板であるため、樹脂基板と同様に若干の可撓性があり、高周波特性が優れるようなコンデンサが熱望されていた。
【0009】
一方、これまでに開示された提案の中では、誘電体として高温焼成を必要とするセラミックス系の材料をセラミック基板に埋め込むものが多かった(例えば、特許文献6〜7)。
【特許文献1】特開平10−56251号公報
【特許文献2】特開平11−68321号公報
【特許文献3】特開平4−211191号公報
【特許文献4】特開平10−335178号公報
【特許文献5】特開平11−111561号公報
【特許文献6】特開平8−222656号公報
【特許文献7】特開平8−181453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高温焼成を必要とするセラミックス系の材料をセラミック基板に埋め込む誘電体は、問題もある。セラミックス材料は工業的な生産プロセスにおいて、破損,剥離または汚染しやすいため容易に欠陥を生じやすく、特に、ペースト塗布,実装を含む電極形成過程においてひび割れを生じて、これが素子特性に問題を生じることが多かった。
【0011】
また、樹脂基板にコンデンサを内蔵する場合、焼成より誘電体となるセラミックス系ペーストを基板内に形成した後に、樹脂基板ごと高温で焼成することは不可能であり、そのため、樹脂基板には後付で単品のセラミックコンデンサを埋め込まなければならないという手間が必要であった。
【0012】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決するもので、低温で容易に作製可能であり、かつ可撓性のあるコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明のコンデンサは、誘電体層とこれを挟む2つの電極からなるコンデンサにおいて、誘電体層が絶縁性有機物の中に金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物(以下、金属微粒子等とも記す)を含んでなるものであり、かつその金属微粒子等のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位であることを特徴とする。
本発明のコンデンサによれば、電圧印加することで金属微粒子等に一度電荷が入ると、絶縁性有機物とのエネルギー準位の関係からこの電荷は金属微粒子等の中に閉じ込められることになる。この閉じ込められた電荷が誘電体における誘電分極と同様の作用をするために、誘電率の小さな絶縁性有機物を用いても実効的に非常に大きな誘電率を得る事ができる。
このようなコンデンサは、真空蒸着法、スピンコート法などの簡易な方法で室温にて作製でき、かつ有機物の特徴である可撓性も備えている。
本発明において、絶縁性有機物が2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、キノメタン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、ピリドン系化合物、金属微粒子がアルミ、金、銅から選ばれることが好ましい。
本発明において、絶縁性有機物が、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、トリフェニルアミン系化合物、α−NPD、電荷トラップとなる有機物としては、ピリドン系化合物、フタロシアニン類、α−6T、からなる一群から選ばれる一以上が好ましい。
【0014】
即ち、本発明は、絶縁性有機物と該絶縁性有機物の中の金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物を含んでなり、該金属微粒子の仕事関数が該絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位であるか、又は該金属微粒子若しくは該電荷トラップとなる有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力が該絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位である誘電体、及び該誘電体の層とこれを挟む2つの電極を含んでなるコンデンサを提供する。
また、本発明は、電極薄膜を形成するステップと、形成された電極薄膜上に絶縁性有機物と金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物の混合液を塗布し乾燥するステップと、乾燥した塗布膜に電極薄膜を形成するステップを含むコンデンサの製造方法を提供する。
さらに、本発明は、電極薄膜を形成するステップと、形成された電極薄膜上に絶縁性有機物と金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物を共蒸着するステップと、共蒸着により形成された膜に電極薄膜を形成するステップを含むコンデンサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
以下に詳細に説明するように、本発明によれば、比誘電率の低い絶縁性有機物を用いても大きな比誘電率を得る事ができ、容量の大きなコンデンサを得る事ができる。さらには作製プロセスがほぼ室温と低温であり、可撓性もあるために、このコンデンサはプリント基板、集積回路内等、様々な場所に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のコンデンサの一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示すように、このコンデンサは、基板10上に、電極層21a、誘電体層として金属微粒子等を含む絶縁性有機物の層30、電極層21bが順次積層された構成となっている。
【0017】
基板10としては、特に限定されないが、ガラス基板、ポリイミドなどのフィルム基板等が好ましく用いられる。
【0018】
電極層21a、21bとしては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、鉄などの金属材料や、ITO、カーボン等の無機材料、共役系有機材料、液晶等の有機材料、シリコンなどの半導体材料などが適宜選択可能であり、特に限定されない。
【0019】
本発明によるコンデンサにおいては、誘電体層30が極薄の有機膜で構成される。これらの生産プロセスは、100℃以下の低温でなされ、かつ材料が可撓性を有するために、従来のセラミック材料で見られた破損、剥離、汚染などの問題はほとんど生じない。
【0020】
誘電体層30は、絶縁性有機物の中に金属微粒子等を含んでなるものであり、かつその金属微粒子の仕事関数、もしくはその金属微粒子等のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位であることを特徴としている。
仕事関数は、固体から真空中に電子を取出すのに要する最小限の仕事の大きさである。
イオン化ポテンシャルは、中性原子やイオン、分子から電子を1個取去るのに必要なエネルギーであり、真空中で最外殻の電子1個を取去るためのエネルギーを第一イオン化ポテンシャル、ついで1価の陽イオンからもう1個の電子を取去るのに必要なエネルギーを第二イオン化ポテンシャル、さらに第三、第四番目の電子を取去るためのエネルギーを第三、第四イオン化ポテンシャルという。従って、イオン化ポテンシャルが小さいということは陽イオンになりやすいことを示す。本発明では、第一イオン化ポテンシャルを考慮の対象とする。
電子親和力は、原子、分子、陰イオンに電子を1個付加するときに放出されるエネルギーである。
【0021】
誘電体層のイオン化ポテンシャルについては、例えば大気中光電子放出分光法(理研計器社製AC−2等)により容易に測定できる。また、電子親和力については、光吸収スペクトルから光学的バンドギャップを測定し、上記のイオン化ポテンシャルに加算して得る方法が一般に用いられる。
金属材料の単一原子に対するイオン化ポテンシャルと電子親和力に関しては、表1に示したように、測定値又は計算値が得られている。また、金属材料の寸法が充分大きくなった場合(バルク状態)は、これらの値は仕事関数として観測され、前記の大気中光電子放出分光法等により容易に測定が可能であると同時に、多くの材料について値が既に得られている。これに対し、本件特許の如くそのサイズがnm程度の微粒子である場合は、これらの値は粒子サイズに依存することが知られている。即ち、微粒子状態でのイオン化ポテンシャル、電子親和力は単一原子のイオン化ポテンシャル、電子親和力と、バルク状態の仕事関数の中間の値をとる。これらの値は、誘電層材料内では周囲の分極などにより若干の影響を受けるものの、基本的には微粒子寸法と良い相関があることが知られており、多くの金属材料についてデータが得られている。例えば、Hellmut
Haberland編、「クラスターズ・オブ・アトムズ・アンド・モレキュルズ」Spring−Verlag、ベルリン、1994年を参照されたい。
即ち、最も簡便なモデルでは、イオン化ポテンシャルIP、電子親和力EAと仕事関数WF、微粒子直径R(nm)との関係は以下の通り表される。
IP=WF+A/R ・・・(I)
EA=WF−B/R ・・・(II)
(上式中、A=3e/8、B=5e/8であり、eは電子の電荷である。)
即ち、微粒子の寸法を観察することで、おおよそのイオン化ポテンシャルと電子親和力を推定することが可能である。
【0022】
絶縁性有機物としては、特に限定されないが、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、キノメタン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、ピリドン系化合物、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、α−NPD(N,N’−ジ(ナフフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)、TPD(N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)、Alq3(トリス−(8−ヒドロキシキノリナート)−アルミニウム)、CBP(4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−ビフェニル)などが使用可能である。
金属微粒子の平均粒径は、特に限定されないが、使用される金属微粒子の製造方法及び分散方法の点から好ましくは、蒸着法では2〜100nmであり、塗布法では1〜50nmである。
また、電荷トラップとなる有機物は、絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルよりも小さなイオン化ポテンシャル、および絶縁性有機物の電子親和力よりも大きな絶縁性有機物である事が必要であり、必然的に絶縁性有機物よりもエネルギーギャップの小さな物質となる。エネルギーギャップとしては、組み合わされる絶縁性有機物によるが、2eV以下であることが好ましい。
より具体的には、電荷トラップとなる有機物は、ピリドン系化合物、フタロシアニン類、α−6T(α−セキシチオフェン)に代表されるチオフェン系化合物、ペンタセンに代表されるアセン系化合物などが好ましい。
上記に示す材料のうち、特に金属微粒子を用いる態様にあっては、絶縁性有機物としては、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート又はキノメタン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、ピリドン系化合物、金属微粒子としては、アルミニウムと金と銅からなる一群から選ばれる一以上が特に好ましい。
また、上記に示す材料のうち、特に電荷トラップとなる有機物を用いる態様にあっては、絶縁性有機物としては、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、トリフェニルアミン系化合物、α−NPD、電荷トラップとなる有機物としては、ピリドン系化合物、フタロシアニン類、α−6Tからなる一群から選ばれる一以上が特に好ましい。
なお、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの構造式を下記に示す。
【0023】

【0024】
なお、特に限定されるものではないが、キノメタン系化合物には、以下の式で表される化合物が含まれる。



【0025】
また、トリフェニルアミン系化合物には、以下の式で表される化合物が含まれる。





【0026】
また、ピリドン系化合物には、以下の式で表される化合物が含まれる。


【0027】
また、フタロシアニン類には、銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、アルミニウムフタロシアニン、鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、すずフタロシアニン、チタニルフタロシアニン、メタルフリーフタロシアニンが含まれる。
【0028】
金属微粒子等と絶縁性有機物の例について、仕事関数、イオン化ポテンシャル、電子親和力を表1に示す。
表1に示すように、アルミニウム、金、銅いずれの仕事関数も2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートのイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位にあるので、金属微粒子に電荷が蓄積される事で実効的に誘電率を向上させることができる。また、式(I)、(II)と表1の仕事関数WFから算出されるIP、EPが絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間となる粒子径の金属微粒子を用いることにより、金属微粒子に電荷が蓄積される事で実効的に誘電率を向上させることができる。また、表1に示すように、ピリドン系化合物、フタロシアニン類、α−6Tいずれのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力も2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートのイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位にあるので、電荷トラップとなる有機物に電荷が蓄積される事で実効的に誘電率を向上させることができる。
【0029】


【0030】
金属微粒子と絶縁性有機物の配合体積比は、好ましくは1:1から8:1である。1:1より金属微粒子の量が少ないと誘電率が小さくなり、所望の特性が得られない場合があり、8:1より金属微粒子の量が多いと金属微粒子同士が接触して分散効果が得られず、また電気的短絡する場合がある。
また、電荷トラップとなる有機物と絶縁性有機物の配合体積比は、好ましくは1:100から1:1である。1:100より電荷トラップとなる有機物の量が少ないと誘電率が小さくなり、所望の特性が得られない場合があり、1:1より電荷トラップとなる有機物の量が多いと電荷トラップとなる有機物同士が接触して分散効果が得られず、また電気的短絡する場合がある。
金属微粒子等が絶縁性有機物中に分散される態様では、絶縁性有機物中に均一に分散されているのが好ましい。これは、分散が不均一な場合は、局所的に金属微粒子の濃度が高くなり、金属微粒子等同士の接触によって所望の分散効果が得られない可能性が高くなるからである。
【0031】
上記の電極層21a、誘電体層30、電極層21bは、基板10上に順次薄膜として形成されることが好ましい。
電極層21a、21bの薄膜を形成する方法は、真空蒸着法等の従来公知の方法が好ましく用いられ、特に限定されない。
【0032】
誘電体層30を形成する方法は、絶縁性有機物31と金属微粒子等32とを予め混合し一度に塗布する方法、絶縁性有機物31と金属微粒子等32とを共蒸着する方法、金属微粒子等32の層が絶縁性有機物31の層で挟まれる、即ち絶縁性有機物31の中に中間層として金属微粒子等32の層を設ける方法などが用いられるが、特に限定されない。
また、誘電体層30がさらに絶縁性有機物の層で挟まれる、即ち絶縁性有機物の中に中間層として誘電体層30を設ける構成も用いられる。
【0033】
絶縁性有機物と金属微粒子等の混合液を塗布する方法では、溶媒として、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、エチルアルコール等を用い、金属微粒子等と絶縁性有機物を上記配合体積比で混合し、0.3〜3.0重量%の濃度に希釈して塗布することが好ましい。必要であれば、界面活性剤、樹脂バインダ等を加えてもよい。塗布方法としては、スピンコート法が好ましい。塗布後は、70〜110℃で乾燥することが好ましい。
【0034】
蒸着時の基板温度は、使用する電極材料及び絶縁性有機物、金属微粒子等によって適宜選択されるが、電極層21a、21bの形成においては0〜150℃が好ましく、誘電体層30の形成においては、0〜100℃が好ましい。
絶縁性有機物と金属微粒子等の混合層を蒸着する方法では、好ましい真空度は3×10−6Torr、好ましい膜の成膜速度は絶縁性有機物が0.5〜2.0Å/s、金属微粒子が0.1〜1.0Å/sである。この範囲の成膜速度が好ましいのは、蒸着物による膜の損傷を抑制するとともに、蒸着膜の結晶形態を抑制する必要があるからである。
【0035】
誘電体層30を形成する方法は、有機薄膜の一般的な形成方法であるスピンコート法、真空蒸着法等を用いることができる。また、Au、Pt、Rh、Ag等、特定の金属微粒子に関しては、絶縁性有機物の膜とこれらの膜を積層した後、熱処理を行なうことにより、金属を有機膜中に拡散させる拡散法を用いることも可能である。
【0036】
各層の膜厚は、電極層21a、21bとしては50〜200nmが好ましく、誘電体層30としては20〜200nmが好ましい。
【0037】
上記の製造方法によって得られる本発明のコンデンサが高誘電率を示すメカニズムは詳細には分かっていないが、下記のように考えられる。すなわち、トンネル注入などにより金属微粒子等に一度電荷が入ると、絶縁性有機物とのエネルギー準位の関係からこの電荷は金属微粒子等の中に閉じ込められる事になる。この閉じ込められた電荷が誘電体における誘電分極と同様の作用をするために、誘電率の小さな絶縁性有機物を用いても実効的に非常に大きな誘電率を得る事ができる。
【0038】
これにより、本来は誘電率の小さな絶縁性有機物を用いた場合でも、実効的に高い誘電率として動作させる事ができ、容量の大きなコンデンサを作成できるものと考えられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて、本発明のコンデンサについて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順で、図1に示すような構成のコンデンサを作成した。
基板10としてガラス基板を用い、真空蒸着法により、電極層21aとしてアルミニウム薄膜を形成した。次に、絶縁性有機物31として2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート(東京化成社製A1292)、金属微粒子32としてアルミニウムを用いてこれらを共蒸着法にて誘電体層30を形成し、その後、電極層21bとしてアルミニウムを順次連続して薄膜を形成し、実施例1のコンデンサを形成した。
なお、電極層21a、誘電体層30、電極層21bは、それぞれ、100nm、100nm、100nmの厚さとなるように成膜した。金属微粒子32としてのアルミニウムの平均粒径は約25nmであった。蒸着装置は拡散ポンプ排気で、3×10−6torrの真空度で行なった。また、アルミニウムの蒸着は抵抗加熱方式により成膜速度は3Å/secで行い、金属微粒子としてアルミニウムを含有する2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートは、共蒸着法により作製した。蒸着は抵抗加熱方式であり、成膜速度は2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートが2Å/sec、アルミニウムが1Å/secである。各層の蒸着は同一蒸着装置で連続して行い、蒸着中に試料が空気と接触しない条件で行った。
【0040】
[実施例2]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、金属微粒子32に金を用い、これらを共蒸着法した膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。
【0041】
[実施例3]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、金属微粒子32に銅を用い、これらを共蒸着法した膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。
【0042】
[実施例4]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、金属微粒子32にアルミニウムを用いた。さらに、誘電体層30と電極21a、21bとの間には、それぞれ2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートのみの層を設け、絶縁性有機物の中に中間層として誘電体層30を設ける構成とした。これを2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を40nm、誘電体層30の層を20nm、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を40nmとなるように順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。
【0043】
[実施例5]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記キノメタン系化合物A、金属微粒子32にアルミニウムを用い、キノメタン系化合物40nm、誘電体層20nm、キノメタン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。


【0044】
[実施例6]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記キノメタン系化合物B、金属微粒子32にアルミニウムを用い、キノメタン系化合物40nm、誘電体層20nm、キノメタン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。

【0045】
[実施例7]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記トリフェニルアミン系化合物C、金属微粒子32にアルミニウムを用い、トリフェニルアミン系化合物40nm、誘電体層20nm、トリフェニルアミン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。


【0046】
[実施例8]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記トリフェニルアミン系化合物D、金属微粒子32にアルミニウムを用い、トリフェニルアミン系化合物40nm、誘電体層20nm、トリフェニルアミン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。

【0047】
[実施例9]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記ピリドン系化合物E、金属微粒子32にアルミニウムを用い、ピリドン系化合物40nm、誘電体層20nm、ピリドン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例1と同様な条件である。

【0048】
[実施例10]
金属微粒子32の代わりに、電荷トラップとなる有機物32として銅フタロシアニンを用い、成膜速度は2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートが1Å/sec、銅フタロシアニンが0.5Å/secである。これ以外は、実施例1と同様な条件である。
【0049】
[実施例11]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、電荷トラップとなる有機物32に銅フタロシアニンを用いた。さらに、誘電体層30と電極21a、21bとの間には、それぞれ2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートのみの層を設け、絶縁性有機物の中に中間層として誘電体層30を設ける構成とした。これを2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nm、誘電体層30の層を40nm、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nmとなるように順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例10と同様な条件である。
【0050】
[実施例12]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、電荷トラップとなる有機物32に上記ピリドン系化合物Eを用い、これを2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nm、誘電体層30の層を40nm、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nmとなるように順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例11と同様な条件である。
【0051】
[実施例13]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネート、電荷トラップとなる有機物32にα−6Tを用い、これを2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nm、誘電体層30の層を40nm、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの層を30nmとなるように順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例11と同様な条件である。
【0052】
[実施例14]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記トリフェニルアミン系化合物F、電荷トラップとなる有機物32に銅フタロシアニンを用い、トリフェニルアミン系化合物40nm、誘電体層20nm、トリフェニルアミン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例11と同様な条件である。

【0053】
[実施例15]
誘電体層30として、絶縁性有機物31に下記トリフェニルアミン系化合物G、電荷トラップとなる有機物32に銅フタロシアニンを用い、トリフェニルアミン系化合物40nm、誘電体層20nm、トリフェニルアミン系化合物40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例11と同様な条件である。

【0054】
[実施例16]
誘電体層30として、絶縁性有機物31にα−NPD、電荷トラップとなる有機物32に銅フタロシアニンを用い、α−NPD40nm、誘電体層20nm、α−NPD40nmの順に真空蒸着法にて積層した三層膜を用いた。これ以外は、実施例11と同様な条件である。
【0055】
[比較例1]
基板10としてガラス基板を用い、真空蒸着法により、電極層21aとしてアルミニウムを、誘電体層として2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートを、電極層21bとしてアルミニウムを順次連続して薄膜を形成し、比較例1のコンデンサを形成した。作製条件は、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートを蒸着する時にアルミニウムを共蒸着しない事を除いては実施例1と同様な条件を用いている。
【0056】
[比較例2]
誘電体層として実施例5のキノメタン系化合物Aを用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例2のコンデンサを形成した。
【0057】
[比較例3]
誘電体層として実施例6のキノメタン系化合物Bを用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例3のコンデンサを形成した。
【0058】
[比較例4]
誘電体層として実施例7のトリフェニルアミン系化合物Cを用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例4のコンデンサを形成した。
【0059】
[比較例5]
誘電体層として実施例8のトリフェニルアミン系化合物Dを用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例5のコンデンサを形成した。
【0060】
[比較例6]
誘電体層として実施例9のピリドン系化合物Eを用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例6のコンデンサを形成した。
【0061】
[比較例7]
基板10としてガラス基板を用い、真空蒸着法により、電極層21aとしてアルミニウムを、誘電体層として2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートを、電極層21bとしてアルミニウムを順次連続して薄膜を形成し、比較例7のコンデンサを形成した。作製条件は、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートを蒸着する時に銅フタロシアニンを共蒸着しない事を除いては実施例10と同様な条件を用いている。
【0062】
[比較例8]
誘電体層として実施例14のトリフェニルアミン系化合物Fを用いた以外は、比較例7と同様にして、比較例8のコンデンサを形成した。
【0063】
[比較例9]
誘電体層として実施例15のトリフェニルアミン系化合物Gを用いた以外は、比較例7と同様にして、比較例9のコンデンサを形成した。
【0064】
[比較例10]
誘電体層として実施例16のα−NPDを用いた以外は、比較例7と同様にして、比較例10のコンデンサを形成した。
【0065】
[評価方法]
上記の実施例1〜16、および比較1〜10のコンデンサについて、その比誘電率を室温環境で測定した。比誘電率は、インピーダンスアナライザー(YHP4192A)により測定した。1kHzにおける比誘電率をまとめて表2に示す。また、実施例1の誘電体層の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0066】

【0067】
表2より、比較例1では絶縁性有機物31である2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの比誘電率が測定されているのに対して、実施例1〜4では同じ絶縁性有機物を使用しているのにも関わらず、20〜70倍もの比誘電率が得られている。また、絶縁性有機物31にキノメタン系有機物、トリフェニルアミン系化合物、ピリドン系化合物を用いた実施例5〜9においても、比較例2〜6と比較して5〜20倍と大きな誘電率が得られている。
【0068】
同様に、表2より、比較例7では絶縁性有機物31である2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートの比誘電率が測定されているのに対して、実施例10〜13では同じ絶縁性有機物を使用しているのにも関わらず、10〜20倍もの比誘電率が得られている。また、絶縁性有機物31にトリフェニルアミン系化合物、α−NPDを用いた実施例14〜16においても、比較例8〜9と比較して5〜20倍と大きな誘電率が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のコンデンサの一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】実施例1の誘電体層の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【符号の説明】
【0070】
10:基板
21a、21b、:電極層
30:誘電体層
31:絶縁性有機物
32:金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、比誘電率の低い絶縁性有機物を用いても大きな比誘電率を得る事ができ、容量の大きなコンデンサを得る事ができる。さらには作製プロセスがほぼ室温と低温であり、可撓性もあるために、このコンデンサはプリント基板、集積回路内等、様々な場所に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性有機物と、該絶縁性有機物の中の金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物とを含んでなり、該金属微粒子の仕事関数が該絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位であるか、又は該金属微粒子若しくは該電荷トラップとなる有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力が該絶縁性有機物のイオン化ポテンシャルと電子親和力との間のエネルギー準位である誘電体。
【請求項2】
上記金属微粒子及び/又は上記電荷トラップとなる有機物が、上記絶縁性有機物中に分散されているか、又は、上記金属微粒子及び/又は上記電荷トラップとなる有機物の層が、上記絶縁性有機物の層で挟まれる請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
上記絶縁性有機物が、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートとキノメタン系化合物とトリフェニルアミン系化合物とピリドン系化合物とポリスチレンとポリビニルカルバゾールとα−NPDとTPDとAlq3とCBPとからなる一群から選ばれる請求項1又は請求項2に記載の誘電体。
【請求項4】
上記絶縁性有機物が、2−アミノ−4,5−イミダゾールジシアネートと、トリフェニルアミン系化合物と、α−NPDとからなる一群から選ばれ、かつ上記電荷トラップとなる有機物が、ピリドン系化合物と、フタロシアニン類と、α−6Tとからなる一群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体の層とこれを挟む2つの電極を含んでなるコンデンサ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体を絶縁性有機物の層で挟み、さらに電極で挟んでなるコンデンサ。
【請求項7】
電極薄膜を形成するステップと、形成された電極薄膜上に絶縁性有機物と金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物の混合液を塗布し乾燥するステップと、乾燥した塗布膜に電極薄膜を形成するステップを含むコンデンサの製造方法。
【請求項8】
電極薄膜を形成するステップと、形成された電極薄膜上に絶縁性有機物と金属微粒子及び/又は電荷トラップとなる有機物を共蒸着するステップと、共蒸着により形成された膜に電極薄膜を形成するステップを含むコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/001851
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511076(P2005−511076)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009139
【国際出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】