コンバインの刈取り部駆動構造
【課題】 収穫作業中は良好な刈取りを行うことができるとともに、走行停止時における脱粒の発生を未然に回避することができるコンバインの刈取り部駆動構造を提供する。
【解決手段】 走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作機構と、検知手段が走行停止状態を検知するとクラッチ操作手段を作動させて刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備える。
【解決手段】 走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作機構と、検知手段が走行停止状態を検知するとクラッチ操作手段を作動させて刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として全稈投入型(普通型)のコンバインに有用な刈取り部駆動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインにおける刈取り部駆動構造としては、(1)全稈投入型のコンバインにおいては、エンジン動力を走行系と作業系とに分岐し、その作業系の動力で脱穀装置および刈取り部を駆動するように構成し、刈取り部を走行速度と関係なく一定の速度で駆動するよう構成したものが多用され(例えば、特許文献1参照)、また、(2)自脱型のコンバインにおいては、油圧式の無段変速装置からの変速出力で走行装置と刈取り部を同調駆動するよう構成したもの(例えば、特許文献2参照)や、(3)刈取り部を走行速度と同調した速度で駆動するとともに、低速走行域では刈取り部を走行速度と関係のない一定速度で駆動するよう構成したもの(例えば、特許文献3参照)、などが開発されている。
【特許文献1】特開平11−266670号公報
【特許文献2】特開2004−224122号公報
【特許文献3】特開2004−65015公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記(1)または(3)の刈取り部駆動構造では、低速で走行しても刈取り部は所定の速度で駆動されるので、刈取り装置を切断性能を低下させることのない速度で駆動することができ、良好な刈取り収穫を行うことができるのであるが、収穫作業中や刈り始めの条合わせの際に走行を停止した時に刈取りクラッチの切り操作が遅れると、刈取り部の前端部に装備された掻込みリールや引起し装置が未刈り作物に掻き込み作用や引起し作用を不要に加えて脱粒が発生するおそれがある。
【0004】
これに対して上記(2)の刈取り部駆動構造では、走行の停止と同時に刈取り部の駆動も停止されるので、走行停止時に上記のように脱粒をもたらすことはないのであるが、その反面、低速で走行すると刈取り装置も低速で駆動されることとなって切断性能が大きく低下することがある。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、収穫作業中は良好な刈取りを行うことができるとともに、走行停止時における脱粒の発生を未然に回避することができる刈取り部駆動構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作手段と、前記検知手段が走行停止状態を検知すると前記クラッチ操作手段を作動させて前記刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備えてあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、通常の収穫走行時には刈取り部の刈取り装置は切断性能を低下させることのない所定の速度で駆動され、的確な刈取りが行われる。また、収穫走行中や条合わせ時に走行を停止すると、これに連動して刈取り部への伝動が自動的に停止され、未刈り作物に不当な掻込み作用や引起し作用を加えることはない。
【0008】
従って、第1の発明によると、収穫作業中は良好な刈取りを行うことができるとともに、走行停止時における脱粒の発生を未然に回避することができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記自動クラッチ制御手段の制御作動を人為的に入り切りする選択手段を備えてあるものである。
【0010】
上記構成によると、自動クラッチ制御手段を制御作動可能な状態に選択設定しておくと、上記した走行停止に伴う刈取りクラッチ自動切り制御が実行されるが、自動クラッチ制御手段を制御作動不能な状態に選択設定しておくと、走行を停止しても刈取り部は駆動され続けることになるので、全稈投入型コンバインの場合、枕地形成のために手刈りした作物を刈取り部に供給して脱穀装置に送り込む作業、いわゆる枕脱穀作業を容易に行うことができる。
【0011】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記刈取り部に植立作物を掻き込む掻込みリールを備えるとともに、この掻込みリールの回転速度を変更する変装置を備え、前記自動クラッチ制御手段によって刈取りクラッチがクラッチ切り操作されるのに先立って前記変速装置が減速制御されるように構成してあるものである。
【0012】
上記構成によると、掻込みリールを任意変速して作物状況に好適な掻き込みを行うことができるとともに、走行停止が検知されても掻込みリールが高速で作動している時には、掻込みリールの減速制御が行われての後に刈取りクラッチの切り作動が実行されるので、回転慣性の大きい掻込みリールが高速回転のまま急停止されることによるリール駆動系の損傷を未然に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係るコンバインの全体側面が、また、図2に、その全体平面がそれぞれ示されている。このコンバインは、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2にキャビン付きの運転部3、全稈投入式に構成された軸流型の脱穀装置4、および、スクリュー式のアンローダ5を備えた穀粒タンク6が搭載されるとともに、脱穀装置4の前部に支点p周りに上下揺動自在に連結された刈取り作物搬送用のフィーダ7が配備され、このフィーダ7の前端に機体横幅と略同幅の刈幅を有する刈取り部8が左端側に片寄って連結され、また、前記運転部3における下方にエンジン9が横向きに配備された構造となっている。
【0014】
図1に示すように、前記クローラ走行装置1は、接地側の転輪81群が軸支されたトラックフレーム82を油圧シリンダ83で略平行に昇降することで走行接地面を走行機体2に対して昇降可能な構造に構成されており、左右のクローラ走行装置1の接地面を各別に昇降させることで、走行機体2およびこれに連結された刈取り部8の左右傾斜姿勢を変更することができるよう構成されている。
【0015】
そして、図1に示すように、前記刈取り部8の下端部左右には、対地追従して上下に揺動する幅広の接地体84が配備され、この接地体84の揺動位置をポテンショメータなどで連続的に検知する対地高さ検出センサ85が、前記油圧シリンダ83の電磁バルブ86を作動制御する制御装置87に接続されている。両検出センサ85の検出した対地高さに基づいて刈取り部8の左右傾斜角度と対地高さ(刈高さ)とが演算され、検出した左右傾斜角度が角度調節器88で調節設定された目標傾斜角度から不感帯以上に外れると、左右クローラ走行装置1の各油圧シリンダ83が作動制御されて、刈取り部8の傾斜角度を目標角度に安定維持する自動ローリング制御が実行されるようになっている。また、検出した対地高さが刈り高さ調節器89で調節設定された目標高さから不感帯以上に外れると前記油圧シリンダ14の電磁バルブ90が制御されて、刈取り部8の対地高さを目標刈高さに安定維持する自動刈高さ制御が実行されるようになっている。
【0016】
前記刈取り部8は、縦壁状に構成された左右一対の分草フレーム11に亘って刈取り装置12と、刈り取った作物を横送りして前記フィーダ7の始端部に送り込むオーガ13が架設された構造となっており、フィーダ7と走行機体2との間に架設された油圧シリンダ14の伸縮作動によって刈取り部8がフィーダ7と一体に昇降されるようになっている。また、刈取り部8の前部上方に、植立した作物を後方に掻き込む掻込みリール15が装備されている。
【0017】
次に、前記フィーダ7および刈取り部8における各部の構造について説明する。
【0018】
図6,7に示すように、前記フィーダ7は、前後に貫通した筒形の搬送ケース17の内部に掻上げコンベア18を収容して構成されている。この掻上げコンベア18は、ケース基部に前記支点pと同心に貫通支架されたフィーダ駆動軸19の駆動スプロケット20とケース前端に回転自在に横架支承した遊転ドラム21に亘って左右一対の搬送チェーン22を巻回張設するとともに、左右の搬送チェーン22に亘って搬送バー23を架設して構成されたものであり、ケース前端の作物入口aに供給された作物を搬送チェーン22の下側経路において搬送バー23で掻き上げ搬送してケース基端の作物出口bから搬出して脱穀装置4の扱室始端に投入するように構成されている。
【0019】
なお、図7に示すように、フィーダ駆動軸19に連結された左右の駆動スプロケット20の間には大径筒24が介在されており、フィーダ駆動軸19へのワラ屑や雑草の巻き付きが防止されている。
【0020】
前記刈取り装置12はバリカン型に構成されており、その可動刃を往復駆動する刈刃ケース25が左側の分草フレーム11に装着されている。
【0021】
図6に示すように、前記オーガ13は、前方から下方に向かう一定方向に回転駆動される大径ドラム26の外周に、刈取り作物をフィーダ7の作物入口a側に向けて横送りするスクリュー27が設けられるとともに、前記作物入口aに対向するドラム外周部分の周方向4箇所に、ドラム回転に伴って出退作動する掻込みフィンガー28が左右2本づつ装備された構造となっており、幅広く刈り取られた作物を横送り合流してフィーダ7の作物入口aに強制的に掻き込み供給するよう構成されている。
【0022】
ここで、前記スクリュー27の横送り終端部の左右方向位置と、前記掻込みフィンガー28群のうちの最横外端で作動する掻込みフィンガー28の左右方向位置と、前記掻上げコンベア18における搬送バー23の両端の左右方向位置とが略一致しており、これによって、スクリュー27で横送りされた後、掻込みフィンガー28で後方に掻き出された作物が円滑に作物入口aに送り込まれるとともに、作物入口aでの停滞や引っ掛かりの発生なく確実かつ円滑に掻上げコンベア18に受け渡されるようになっている。
【0023】
また、前記大径ドラム26の外周には、スクリュー27による横送り作用域で作動する補助掻込みフィンガー28aが別途装備されており、フィーダ7の作物入口aから横方向に離れた箇所においてオーガ13の前方で搬送デッキ上に倒れ込んだ作物は補助掻込みフィンガー28aによってスクリュー27の横送り作用域にまで掻き込まれ、スクリュー27の横送り作用を受けて掻込みフィンガー28群の作用域に送られるようになっている。
【0024】
図4に示すように、前記掻込みリール15は、支点c周りに上下揺動自在な左右一対の支持アーム30の前部に支持ブラケット31を介して支架されており、油圧シリンダ32によって支持アーム30を上下揺動することで掻込みリール15の掻込み作用高さを変更することができるとともに、支持ブラケット31を支持アーム30に沿ってスライド調節することで掻込み作用位置を前後に調節することが可能となっている。なお、支持アーム30の基部には直流電動モータMで伸縮作動する電動シリンダ33によって支点d周りに前後に揺動駆動される操作アーム34が装備されるとともに、この操作アーム34と前記支持ブラケット31が操作ロッド35連動連結されており、操作アーム34を前後に駆動揺動することで支持ブラケット31を所定の範囲に亘って前後にスライド調節するよう構成されている。
【0025】
掻込みリール15は、左右の支持アーム30に支持ブラケット31を介して水平に支架されたリール駆動軸36、このリール駆動軸36の左右に連結固定された正六角形状のリールフレーム37、左右のリールフレーム37の六箇所の頂部に亘って自転回動可能に水平支架された回転支軸38、回転支軸38に左右方向に並列装着された多数本のタイン39、リールフレーム37の駆動軸心eに対して後方にずれた偏心軸心fを中心にして回動自在に支持された正六角形状の補助リールフレーム40を備えるとともに、各回転支軸38の端部から後方に向けて固定延出されたアーム38aの先端部が前記補助リールフレーム40の各頂部に枢支連結された構造となっており、リールフレーム37が駆動軸心eを中心にして回動(公転)されると、これに連動して補助リールフレーム40が偏芯軸心fを中心にして同方向に同調回動し、これによって各回転支軸38がリールフレーム37に対して逆方向に自転回動され、もって、各回転支軸38のタイン39が常に下向き姿勢に維持したままで公転移動して掻き込み作用を発揮するように構成されているのである。
【0026】
ここで、刈取り部8における左右分草フレーム11の前部には先細り形状の分草具41が装着されるとともに、各分草具41の外側および内側には、斜め後方に向かう棒状のガイド部材42,43が設けられており、未刈り作物と刈幅内に導入される刈取り対象の作物とを円滑に押し分けるよう構成されている。そして、図8に示すように、内側のガイド部材43における後端の左右方向位置は、掻込みリール15におけるリールフレーム37の左右方向位置よりも内側に位置し、かつ、最も横外側方のタイン39の左右方向位置よりも外側に位置している。これによって、分草具41の内側面に近い位置の植立作物をガイド部材43で刈幅内方に押しやることで、この作物が掻込みリール15におけるリールフレーム37と分草フレーム11との間に挟み込まれるのを回避するとともに、ガイド部材43によって刈幅内方に押しやられた作物をガイド部材43に干渉することなく回動するタイン39で確実に掻き込むことができるようになっている。
【0027】
また、前記掻込みリール15を最も下降させた状態では、タイン39の下端回動軌跡が地面近くに位置し、掻込みリール15を最も前方に調節した状態では、分草具41の前端よりも掻込みリール15が前方に出ないように、掻込みリール15の前方移動限界が設定されている。
【0028】
次に、各部への伝動構造について説明する。
【0029】
図3に示すように、エンジン9からの動力は走行系と作業系に分けられ、走行系の動力は静油圧式無段変速装置(HST)45に入力されて変速された後、ミッションケース46を介して左右のクローラ走行装置1に伝達される。また、作業系の動力は2系統に分けられ、その一方の分岐動力は脱穀装置4のカウンター軸47にテンション式の脱穀クラッチC1を介してベルト伝達され、他方の分岐動力で油圧ポンプ48、空調用のコンプレッサ49、および、穀粒タンク6の搬出用底スクリュー6aおよびアンローダ5が駆動される。
【0030】
脱穀装置4のカウンター軸47に伝達された動力はさらに2系統に分けられ、その分岐動力の一方はカウンター軸47を経て脱穀装置4の各作動部に伝達されるとともに、他方の分岐動力がフィーダ7および刈取り部8の駆動用に利用される。
【0031】
つまり、前記カウンター軸47と前記フィーダ駆動軸19の右側(エンジン側)端部とがテンション式の刈取りクラッチC2を介してベルト連動され、フィーダ駆動軸19に入力された動力で先ずフィーダ7の掻上げコンベア18が駆動される。そして、フィーダ駆動軸19の機体左側への突出端部から取り出された動力で、フィーダ7および刈取り部8の左外側面に沿って配備された巻掛け式の伝動機構50を介して刈取り部8の刈取り装置12、オーガ13、および、掻込みリール15が以下のように駆動されるようになっている。
【0032】
刈取り部8の左外側には、刈取り部カウンター軸51、リール用伝動軸52、オーガ支軸53、等が配備されており、前記フィーダ駆動軸19の左端部と前記刈取り部カウンター軸51とがチェーン54を介して連動連結されるとともに、このチェーン54の巻回径路途中で前記リール用伝動軸52が巻き掛け連動されている。そして、刈取り部カウンター軸51とオーガ支軸53とがチェーン55を介して連動連結されるとともに、前記刈刃駆動ケース25に備えられた入力軸56と刈取り部カウンター軸51とがベルト57を介して連動連結されている。
【0033】
前記リール用伝動軸52はベルト式の無段変速装置58の入力軸となっており、無段変速装置58の出力軸59から取り出された変速出力がチェーン60を介して中継軸61に減速伝達された後、チェーン62を介して前記リール駆動軸36に減速伝達されるようになっている。
【0034】
図5に示すように、中継軸61には無段変速装置58の変速出力がチェーン60を介して減速伝達される大径スプロケット63が遊嵌支持されるとともに、チェーン62を介してリール駆動軸36へ動力伝達する小径スプロケット64が中継軸61の端部に固着され、大径スプロケット63から中継軸61への動力伝達を断続するクラッチC3が装備されている。このクラッチC3は、中継軸61にシフト可能にスプライン外嵌された可動クラッチ部材66を大径スプロケット63に軸心方向から爪咬合させるよう構成されたものであり、可動クラッチ部材66はバネ67によって爪咬合方向に付勢されている。従って、可動クラッチ部材66が大径スプロケット63に咬合されることで大径スプロケット63から可動クラッチ部材66への動力伝達がなされて中継軸61と小径スプロケット64が駆動回転され、また、可動クラッチ部材66がバネ67に抗して後退シフトされることで上記動力伝達が断たれるようになっている。
【0035】
前記可動クラッチ部材66には、縦向きの支点g周りに横揺動されるシフトフォーク68が係合作用しており、シフトフォーク68から延出された操作レバー69を左右に操作してレバーガイド70のU形溝70aの一端に選択係止しておくことで、可動クラッチ部材66をクラッチ入り位置とクラッチ切り位置に切換えシフトすることができるようになっている。このようにしてクラッチC3を切った状態では掻込みリール15を手回しで正逆転させることができ、掻込みリール15の詰まり除去やタイン39の交換作業などに便利に利用できる。
【0036】
ここで、大径スプロケット63に設けられた係合爪71および可動クラッチ部材66の係合爪72にはそれぞれ伝動用係合面saと乗り上がり傾斜面sbが形成され、伝動用係合面sa同士が係合することで上記動力伝達が行われるようになっており、乗り上がり傾斜面sbの乗り上がり作用によって、従動側となる可動クラッチ部材66が駆動側の大径スプロケット63に対してリール駆動方向Fに先行回転することが可能となっている。つまり、前記クラッチC3は、従動側が正規のリール駆動方向に先行回転することができる一方向クラッチとしても構成されているのである。
【0037】
従って、掻込みリール15を掻き込み駆動している状態において刈取りクラッチC2を切ると、無段変速装置58が停止されることで大径スプロケット63が停止するが、掻込みリール15に連動連結されている中継軸61は掻込みリール15の大きい回転慣性を受けてリール駆動方向Fに逆駆動されることになり、この逆駆動力を受けた可動クラッチ部材66が乗り上がり傾斜面sbの乗り上がり作用によってバネ67に抗して咬合離脱方向に自力で後退し、掻込みリール15の慣性回転が持続される。これによって、回転慣性の大きい掻込みリール15が急激に停止されることが抑制されて、無段変速装置58より伝動下手におけるチェーン伝動系での伝動部材の損傷やチェーン62の外れなどのが未然に回避されるのである。なお、シフトフォーク68がクラッチ入り位置にある状態でも可動クラッチ部材66が上記のように自力でクラッチ切り位置まで乗り上がり退避できるように、可動クラッチ部材66のフォーク溝66aは退避余裕をもって広く形成されている。
【0038】
なお、図4に示すように、前記無段変速装置58は、駆動側の可変径プーリ75と従動側の可変径プーリ76に亘ってベルト77を巻回して構成されており、詳細な構造の説明は省略するが、各可変径プーリ75,76の中心に組み込んだ図示されない回動カム機構を、電動モータ78によって正逆にネジ送り操作される押し引きロッド79で操作することで両可変径プーリ75,76の巻掛け径を背反的に変更して伝動比を無段に変更するように構成されている。そして、前記電動モータ78は運転部3に備えたリール変速スイッチ91を操作することで任意に正逆転及び停止することが可能であり、作業状況を見ながら掻込みリール15の駆動速度を任意に変更調節することが可能となっている。なお、リール昇降用の油圧シリンダ32の電磁バルブ92、および、リール前後調節用の電動シリンダ33を運転部3に備えたリール昇降スイッチ93およびリール前後調節スイッチ94の操作によって作動調節して、掻込みリール15の作用位置を調節することが可能となっている。
【0039】
また、無段変速装置58の変速出力を掻込みリール15に伝達するチェーン62の弛み側経路には、掻込みリール15の大きい前後位置変更に対応してチェーン62の緩みを自動吸収するテンション機構80が備えられている。
【0040】
上記伝動構造において、本発明ではフィーダ7および刈取り部8への動力断続を行う刈取りクラッチC2が以下のように作動制御されるようになっている。
【0041】
図9の制御ブロック図に示されるように、前記刈取りクラッチC2はクラッチ入り方向にバネ付勢されるとともに前記制御装置87に接続された電動シリンダ95によって強制切り操作可能に構成されている。また、前記ミッションケース46には走行速度を検知する回転センサ96が装備されて制御装置87に接続されるとともに、運転部3に備えられた刈取りクラッチ入切スイッチ97およびオートクラッチ入切スイッチ98が制御装置87に接続されている。
【0042】
図10の制御フロー図に示されるように、オートクラッチ入切スイッチ98が「切」に選択されて状態では、電動シリンダ95はクラッチ操作スイッチ97の操作に基づいて作動され、任意に刈取りクラッチC2を入り切りすることができる(♯1〜♯5)。
【0043】
オートクラッチ入切スイッチ98が「入」に選択された場合、回転センサ96からの検出情報で走行中であることが判別されると刈取りクラッチ自動入り制御が実行され(♯1,♯6,♯7,♯5)、回転センサ96からの検出情報で走行速度が0.05m/s以下(走行停止とみなす)になったことは判別されると刈取りクラッチ自動切り制御が実行される(♯1,♯6,♯8,♯4)。この場合、電動モータ78の作動位置から検知された掻込みリール15の駆動速度が予め設定された所定の低速以下にあれば刈取りクラッチ自動切り制御が直ちに実行されるが、掻込みリール15の駆動速度が所定の低速よりも高速であれば掻き込みリール15の減速制御が先行して行われ(♯9)、その後に刈取りクラッチ自動切り制御が実行される(♯4)。また、刈取りクラッチ自動切り制御が行われた後、走行が再開されて走行速度が0.05m/sを越えたことが検知されると、刈取りクラッチ自動入り制御が実行される。
【0044】
〔他の実施例〕
【0045】
(1)上記実施例では、走行駆動系と刈取り部駆動系が完全に独立され、走行速度範囲全域において刈取り部8が速項速度と関係なく所定の速度で駆動される場合が例示されているが、ミッションケース46から取り出した走行速度と同調する速度のPTO動力で刈取り部8を駆動するとともに、走行速度V1が設定以下の低速域に至ると、刈取り部8の駆動速度V2を走行速度V1と関係のない一定の速度Vaにするよう構成して、通常の作業走行時には走行速度V1と同調した速度で刈取り部8を駆動するとともに、極低速で走行して収穫作業する場合に刈取り部が不当に遅く駆動されない駆動特性(図11参照)で駆動する形態のものに本発明を適用することもできる。
【0046】
(2)本発明は、自脱型コンバインに装備されるのと同様な縦回し型の引起し装置および刈取り穀稈をオーガに挟持搬送する搬送機構を刈取り部8に装備した型式の全稈投入型のコンバインに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コンバイン全体の左側面図
【図2】コンバイン全体の平面図
【図3】伝動系統図
【図4】刈取り部の左側面図
【図5】掻込みリール用クラッチの一部切欠き正面図
【図6】オーガおよびフィーダ始端部の平面図
【図7】フィーダ終端部の横断平面図
【図8】刈取り部における左側前端部を示す正面図
【図9】制御ブロック図
【図10】刈取りクラッチ制御のフロー図
【図11】別実施例における走行速度と刈取り部駆動速度との関係を示す特性線図
【符号の説明】
【0048】
8 刈取り部
15 掻込みリール
58 変速装置
C2 刈取りクラッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として全稈投入型(普通型)のコンバインに有用な刈取り部駆動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインにおける刈取り部駆動構造としては、(1)全稈投入型のコンバインにおいては、エンジン動力を走行系と作業系とに分岐し、その作業系の動力で脱穀装置および刈取り部を駆動するように構成し、刈取り部を走行速度と関係なく一定の速度で駆動するよう構成したものが多用され(例えば、特許文献1参照)、また、(2)自脱型のコンバインにおいては、油圧式の無段変速装置からの変速出力で走行装置と刈取り部を同調駆動するよう構成したもの(例えば、特許文献2参照)や、(3)刈取り部を走行速度と同調した速度で駆動するとともに、低速走行域では刈取り部を走行速度と関係のない一定速度で駆動するよう構成したもの(例えば、特許文献3参照)、などが開発されている。
【特許文献1】特開平11−266670号公報
【特許文献2】特開2004−224122号公報
【特許文献3】特開2004−65015公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記(1)または(3)の刈取り部駆動構造では、低速で走行しても刈取り部は所定の速度で駆動されるので、刈取り装置を切断性能を低下させることのない速度で駆動することができ、良好な刈取り収穫を行うことができるのであるが、収穫作業中や刈り始めの条合わせの際に走行を停止した時に刈取りクラッチの切り操作が遅れると、刈取り部の前端部に装備された掻込みリールや引起し装置が未刈り作物に掻き込み作用や引起し作用を不要に加えて脱粒が発生するおそれがある。
【0004】
これに対して上記(2)の刈取り部駆動構造では、走行の停止と同時に刈取り部の駆動も停止されるので、走行停止時に上記のように脱粒をもたらすことはないのであるが、その反面、低速で走行すると刈取り装置も低速で駆動されることとなって切断性能が大きく低下することがある。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、収穫作業中は良好な刈取りを行うことができるとともに、走行停止時における脱粒の発生を未然に回避することができる刈取り部駆動構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作手段と、前記検知手段が走行停止状態を検知すると前記クラッチ操作手段を作動させて前記刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備えてあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、通常の収穫走行時には刈取り部の刈取り装置は切断性能を低下させることのない所定の速度で駆動され、的確な刈取りが行われる。また、収穫走行中や条合わせ時に走行を停止すると、これに連動して刈取り部への伝動が自動的に停止され、未刈り作物に不当な掻込み作用や引起し作用を加えることはない。
【0008】
従って、第1の発明によると、収穫作業中は良好な刈取りを行うことができるとともに、走行停止時における脱粒の発生を未然に回避することができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記自動クラッチ制御手段の制御作動を人為的に入り切りする選択手段を備えてあるものである。
【0010】
上記構成によると、自動クラッチ制御手段を制御作動可能な状態に選択設定しておくと、上記した走行停止に伴う刈取りクラッチ自動切り制御が実行されるが、自動クラッチ制御手段を制御作動不能な状態に選択設定しておくと、走行を停止しても刈取り部は駆動され続けることになるので、全稈投入型コンバインの場合、枕地形成のために手刈りした作物を刈取り部に供給して脱穀装置に送り込む作業、いわゆる枕脱穀作業を容易に行うことができる。
【0011】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記刈取り部に植立作物を掻き込む掻込みリールを備えるとともに、この掻込みリールの回転速度を変更する変装置を備え、前記自動クラッチ制御手段によって刈取りクラッチがクラッチ切り操作されるのに先立って前記変速装置が減速制御されるように構成してあるものである。
【0012】
上記構成によると、掻込みリールを任意変速して作物状況に好適な掻き込みを行うことができるとともに、走行停止が検知されても掻込みリールが高速で作動している時には、掻込みリールの減速制御が行われての後に刈取りクラッチの切り作動が実行されるので、回転慣性の大きい掻込みリールが高速回転のまま急停止されることによるリール駆動系の損傷を未然に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係るコンバインの全体側面が、また、図2に、その全体平面がそれぞれ示されている。このコンバインは、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2にキャビン付きの運転部3、全稈投入式に構成された軸流型の脱穀装置4、および、スクリュー式のアンローダ5を備えた穀粒タンク6が搭載されるとともに、脱穀装置4の前部に支点p周りに上下揺動自在に連結された刈取り作物搬送用のフィーダ7が配備され、このフィーダ7の前端に機体横幅と略同幅の刈幅を有する刈取り部8が左端側に片寄って連結され、また、前記運転部3における下方にエンジン9が横向きに配備された構造となっている。
【0014】
図1に示すように、前記クローラ走行装置1は、接地側の転輪81群が軸支されたトラックフレーム82を油圧シリンダ83で略平行に昇降することで走行接地面を走行機体2に対して昇降可能な構造に構成されており、左右のクローラ走行装置1の接地面を各別に昇降させることで、走行機体2およびこれに連結された刈取り部8の左右傾斜姿勢を変更することができるよう構成されている。
【0015】
そして、図1に示すように、前記刈取り部8の下端部左右には、対地追従して上下に揺動する幅広の接地体84が配備され、この接地体84の揺動位置をポテンショメータなどで連続的に検知する対地高さ検出センサ85が、前記油圧シリンダ83の電磁バルブ86を作動制御する制御装置87に接続されている。両検出センサ85の検出した対地高さに基づいて刈取り部8の左右傾斜角度と対地高さ(刈高さ)とが演算され、検出した左右傾斜角度が角度調節器88で調節設定された目標傾斜角度から不感帯以上に外れると、左右クローラ走行装置1の各油圧シリンダ83が作動制御されて、刈取り部8の傾斜角度を目標角度に安定維持する自動ローリング制御が実行されるようになっている。また、検出した対地高さが刈り高さ調節器89で調節設定された目標高さから不感帯以上に外れると前記油圧シリンダ14の電磁バルブ90が制御されて、刈取り部8の対地高さを目標刈高さに安定維持する自動刈高さ制御が実行されるようになっている。
【0016】
前記刈取り部8は、縦壁状に構成された左右一対の分草フレーム11に亘って刈取り装置12と、刈り取った作物を横送りして前記フィーダ7の始端部に送り込むオーガ13が架設された構造となっており、フィーダ7と走行機体2との間に架設された油圧シリンダ14の伸縮作動によって刈取り部8がフィーダ7と一体に昇降されるようになっている。また、刈取り部8の前部上方に、植立した作物を後方に掻き込む掻込みリール15が装備されている。
【0017】
次に、前記フィーダ7および刈取り部8における各部の構造について説明する。
【0018】
図6,7に示すように、前記フィーダ7は、前後に貫通した筒形の搬送ケース17の内部に掻上げコンベア18を収容して構成されている。この掻上げコンベア18は、ケース基部に前記支点pと同心に貫通支架されたフィーダ駆動軸19の駆動スプロケット20とケース前端に回転自在に横架支承した遊転ドラム21に亘って左右一対の搬送チェーン22を巻回張設するとともに、左右の搬送チェーン22に亘って搬送バー23を架設して構成されたものであり、ケース前端の作物入口aに供給された作物を搬送チェーン22の下側経路において搬送バー23で掻き上げ搬送してケース基端の作物出口bから搬出して脱穀装置4の扱室始端に投入するように構成されている。
【0019】
なお、図7に示すように、フィーダ駆動軸19に連結された左右の駆動スプロケット20の間には大径筒24が介在されており、フィーダ駆動軸19へのワラ屑や雑草の巻き付きが防止されている。
【0020】
前記刈取り装置12はバリカン型に構成されており、その可動刃を往復駆動する刈刃ケース25が左側の分草フレーム11に装着されている。
【0021】
図6に示すように、前記オーガ13は、前方から下方に向かう一定方向に回転駆動される大径ドラム26の外周に、刈取り作物をフィーダ7の作物入口a側に向けて横送りするスクリュー27が設けられるとともに、前記作物入口aに対向するドラム外周部分の周方向4箇所に、ドラム回転に伴って出退作動する掻込みフィンガー28が左右2本づつ装備された構造となっており、幅広く刈り取られた作物を横送り合流してフィーダ7の作物入口aに強制的に掻き込み供給するよう構成されている。
【0022】
ここで、前記スクリュー27の横送り終端部の左右方向位置と、前記掻込みフィンガー28群のうちの最横外端で作動する掻込みフィンガー28の左右方向位置と、前記掻上げコンベア18における搬送バー23の両端の左右方向位置とが略一致しており、これによって、スクリュー27で横送りされた後、掻込みフィンガー28で後方に掻き出された作物が円滑に作物入口aに送り込まれるとともに、作物入口aでの停滞や引っ掛かりの発生なく確実かつ円滑に掻上げコンベア18に受け渡されるようになっている。
【0023】
また、前記大径ドラム26の外周には、スクリュー27による横送り作用域で作動する補助掻込みフィンガー28aが別途装備されており、フィーダ7の作物入口aから横方向に離れた箇所においてオーガ13の前方で搬送デッキ上に倒れ込んだ作物は補助掻込みフィンガー28aによってスクリュー27の横送り作用域にまで掻き込まれ、スクリュー27の横送り作用を受けて掻込みフィンガー28群の作用域に送られるようになっている。
【0024】
図4に示すように、前記掻込みリール15は、支点c周りに上下揺動自在な左右一対の支持アーム30の前部に支持ブラケット31を介して支架されており、油圧シリンダ32によって支持アーム30を上下揺動することで掻込みリール15の掻込み作用高さを変更することができるとともに、支持ブラケット31を支持アーム30に沿ってスライド調節することで掻込み作用位置を前後に調節することが可能となっている。なお、支持アーム30の基部には直流電動モータMで伸縮作動する電動シリンダ33によって支点d周りに前後に揺動駆動される操作アーム34が装備されるとともに、この操作アーム34と前記支持ブラケット31が操作ロッド35連動連結されており、操作アーム34を前後に駆動揺動することで支持ブラケット31を所定の範囲に亘って前後にスライド調節するよう構成されている。
【0025】
掻込みリール15は、左右の支持アーム30に支持ブラケット31を介して水平に支架されたリール駆動軸36、このリール駆動軸36の左右に連結固定された正六角形状のリールフレーム37、左右のリールフレーム37の六箇所の頂部に亘って自転回動可能に水平支架された回転支軸38、回転支軸38に左右方向に並列装着された多数本のタイン39、リールフレーム37の駆動軸心eに対して後方にずれた偏心軸心fを中心にして回動自在に支持された正六角形状の補助リールフレーム40を備えるとともに、各回転支軸38の端部から後方に向けて固定延出されたアーム38aの先端部が前記補助リールフレーム40の各頂部に枢支連結された構造となっており、リールフレーム37が駆動軸心eを中心にして回動(公転)されると、これに連動して補助リールフレーム40が偏芯軸心fを中心にして同方向に同調回動し、これによって各回転支軸38がリールフレーム37に対して逆方向に自転回動され、もって、各回転支軸38のタイン39が常に下向き姿勢に維持したままで公転移動して掻き込み作用を発揮するように構成されているのである。
【0026】
ここで、刈取り部8における左右分草フレーム11の前部には先細り形状の分草具41が装着されるとともに、各分草具41の外側および内側には、斜め後方に向かう棒状のガイド部材42,43が設けられており、未刈り作物と刈幅内に導入される刈取り対象の作物とを円滑に押し分けるよう構成されている。そして、図8に示すように、内側のガイド部材43における後端の左右方向位置は、掻込みリール15におけるリールフレーム37の左右方向位置よりも内側に位置し、かつ、最も横外側方のタイン39の左右方向位置よりも外側に位置している。これによって、分草具41の内側面に近い位置の植立作物をガイド部材43で刈幅内方に押しやることで、この作物が掻込みリール15におけるリールフレーム37と分草フレーム11との間に挟み込まれるのを回避するとともに、ガイド部材43によって刈幅内方に押しやられた作物をガイド部材43に干渉することなく回動するタイン39で確実に掻き込むことができるようになっている。
【0027】
また、前記掻込みリール15を最も下降させた状態では、タイン39の下端回動軌跡が地面近くに位置し、掻込みリール15を最も前方に調節した状態では、分草具41の前端よりも掻込みリール15が前方に出ないように、掻込みリール15の前方移動限界が設定されている。
【0028】
次に、各部への伝動構造について説明する。
【0029】
図3に示すように、エンジン9からの動力は走行系と作業系に分けられ、走行系の動力は静油圧式無段変速装置(HST)45に入力されて変速された後、ミッションケース46を介して左右のクローラ走行装置1に伝達される。また、作業系の動力は2系統に分けられ、その一方の分岐動力は脱穀装置4のカウンター軸47にテンション式の脱穀クラッチC1を介してベルト伝達され、他方の分岐動力で油圧ポンプ48、空調用のコンプレッサ49、および、穀粒タンク6の搬出用底スクリュー6aおよびアンローダ5が駆動される。
【0030】
脱穀装置4のカウンター軸47に伝達された動力はさらに2系統に分けられ、その分岐動力の一方はカウンター軸47を経て脱穀装置4の各作動部に伝達されるとともに、他方の分岐動力がフィーダ7および刈取り部8の駆動用に利用される。
【0031】
つまり、前記カウンター軸47と前記フィーダ駆動軸19の右側(エンジン側)端部とがテンション式の刈取りクラッチC2を介してベルト連動され、フィーダ駆動軸19に入力された動力で先ずフィーダ7の掻上げコンベア18が駆動される。そして、フィーダ駆動軸19の機体左側への突出端部から取り出された動力で、フィーダ7および刈取り部8の左外側面に沿って配備された巻掛け式の伝動機構50を介して刈取り部8の刈取り装置12、オーガ13、および、掻込みリール15が以下のように駆動されるようになっている。
【0032】
刈取り部8の左外側には、刈取り部カウンター軸51、リール用伝動軸52、オーガ支軸53、等が配備されており、前記フィーダ駆動軸19の左端部と前記刈取り部カウンター軸51とがチェーン54を介して連動連結されるとともに、このチェーン54の巻回径路途中で前記リール用伝動軸52が巻き掛け連動されている。そして、刈取り部カウンター軸51とオーガ支軸53とがチェーン55を介して連動連結されるとともに、前記刈刃駆動ケース25に備えられた入力軸56と刈取り部カウンター軸51とがベルト57を介して連動連結されている。
【0033】
前記リール用伝動軸52はベルト式の無段変速装置58の入力軸となっており、無段変速装置58の出力軸59から取り出された変速出力がチェーン60を介して中継軸61に減速伝達された後、チェーン62を介して前記リール駆動軸36に減速伝達されるようになっている。
【0034】
図5に示すように、中継軸61には無段変速装置58の変速出力がチェーン60を介して減速伝達される大径スプロケット63が遊嵌支持されるとともに、チェーン62を介してリール駆動軸36へ動力伝達する小径スプロケット64が中継軸61の端部に固着され、大径スプロケット63から中継軸61への動力伝達を断続するクラッチC3が装備されている。このクラッチC3は、中継軸61にシフト可能にスプライン外嵌された可動クラッチ部材66を大径スプロケット63に軸心方向から爪咬合させるよう構成されたものであり、可動クラッチ部材66はバネ67によって爪咬合方向に付勢されている。従って、可動クラッチ部材66が大径スプロケット63に咬合されることで大径スプロケット63から可動クラッチ部材66への動力伝達がなされて中継軸61と小径スプロケット64が駆動回転され、また、可動クラッチ部材66がバネ67に抗して後退シフトされることで上記動力伝達が断たれるようになっている。
【0035】
前記可動クラッチ部材66には、縦向きの支点g周りに横揺動されるシフトフォーク68が係合作用しており、シフトフォーク68から延出された操作レバー69を左右に操作してレバーガイド70のU形溝70aの一端に選択係止しておくことで、可動クラッチ部材66をクラッチ入り位置とクラッチ切り位置に切換えシフトすることができるようになっている。このようにしてクラッチC3を切った状態では掻込みリール15を手回しで正逆転させることができ、掻込みリール15の詰まり除去やタイン39の交換作業などに便利に利用できる。
【0036】
ここで、大径スプロケット63に設けられた係合爪71および可動クラッチ部材66の係合爪72にはそれぞれ伝動用係合面saと乗り上がり傾斜面sbが形成され、伝動用係合面sa同士が係合することで上記動力伝達が行われるようになっており、乗り上がり傾斜面sbの乗り上がり作用によって、従動側となる可動クラッチ部材66が駆動側の大径スプロケット63に対してリール駆動方向Fに先行回転することが可能となっている。つまり、前記クラッチC3は、従動側が正規のリール駆動方向に先行回転することができる一方向クラッチとしても構成されているのである。
【0037】
従って、掻込みリール15を掻き込み駆動している状態において刈取りクラッチC2を切ると、無段変速装置58が停止されることで大径スプロケット63が停止するが、掻込みリール15に連動連結されている中継軸61は掻込みリール15の大きい回転慣性を受けてリール駆動方向Fに逆駆動されることになり、この逆駆動力を受けた可動クラッチ部材66が乗り上がり傾斜面sbの乗り上がり作用によってバネ67に抗して咬合離脱方向に自力で後退し、掻込みリール15の慣性回転が持続される。これによって、回転慣性の大きい掻込みリール15が急激に停止されることが抑制されて、無段変速装置58より伝動下手におけるチェーン伝動系での伝動部材の損傷やチェーン62の外れなどのが未然に回避されるのである。なお、シフトフォーク68がクラッチ入り位置にある状態でも可動クラッチ部材66が上記のように自力でクラッチ切り位置まで乗り上がり退避できるように、可動クラッチ部材66のフォーク溝66aは退避余裕をもって広く形成されている。
【0038】
なお、図4に示すように、前記無段変速装置58は、駆動側の可変径プーリ75と従動側の可変径プーリ76に亘ってベルト77を巻回して構成されており、詳細な構造の説明は省略するが、各可変径プーリ75,76の中心に組み込んだ図示されない回動カム機構を、電動モータ78によって正逆にネジ送り操作される押し引きロッド79で操作することで両可変径プーリ75,76の巻掛け径を背反的に変更して伝動比を無段に変更するように構成されている。そして、前記電動モータ78は運転部3に備えたリール変速スイッチ91を操作することで任意に正逆転及び停止することが可能であり、作業状況を見ながら掻込みリール15の駆動速度を任意に変更調節することが可能となっている。なお、リール昇降用の油圧シリンダ32の電磁バルブ92、および、リール前後調節用の電動シリンダ33を運転部3に備えたリール昇降スイッチ93およびリール前後調節スイッチ94の操作によって作動調節して、掻込みリール15の作用位置を調節することが可能となっている。
【0039】
また、無段変速装置58の変速出力を掻込みリール15に伝達するチェーン62の弛み側経路には、掻込みリール15の大きい前後位置変更に対応してチェーン62の緩みを自動吸収するテンション機構80が備えられている。
【0040】
上記伝動構造において、本発明ではフィーダ7および刈取り部8への動力断続を行う刈取りクラッチC2が以下のように作動制御されるようになっている。
【0041】
図9の制御ブロック図に示されるように、前記刈取りクラッチC2はクラッチ入り方向にバネ付勢されるとともに前記制御装置87に接続された電動シリンダ95によって強制切り操作可能に構成されている。また、前記ミッションケース46には走行速度を検知する回転センサ96が装備されて制御装置87に接続されるとともに、運転部3に備えられた刈取りクラッチ入切スイッチ97およびオートクラッチ入切スイッチ98が制御装置87に接続されている。
【0042】
図10の制御フロー図に示されるように、オートクラッチ入切スイッチ98が「切」に選択されて状態では、電動シリンダ95はクラッチ操作スイッチ97の操作に基づいて作動され、任意に刈取りクラッチC2を入り切りすることができる(♯1〜♯5)。
【0043】
オートクラッチ入切スイッチ98が「入」に選択された場合、回転センサ96からの検出情報で走行中であることが判別されると刈取りクラッチ自動入り制御が実行され(♯1,♯6,♯7,♯5)、回転センサ96からの検出情報で走行速度が0.05m/s以下(走行停止とみなす)になったことは判別されると刈取りクラッチ自動切り制御が実行される(♯1,♯6,♯8,♯4)。この場合、電動モータ78の作動位置から検知された掻込みリール15の駆動速度が予め設定された所定の低速以下にあれば刈取りクラッチ自動切り制御が直ちに実行されるが、掻込みリール15の駆動速度が所定の低速よりも高速であれば掻き込みリール15の減速制御が先行して行われ(♯9)、その後に刈取りクラッチ自動切り制御が実行される(♯4)。また、刈取りクラッチ自動切り制御が行われた後、走行が再開されて走行速度が0.05m/sを越えたことが検知されると、刈取りクラッチ自動入り制御が実行される。
【0044】
〔他の実施例〕
【0045】
(1)上記実施例では、走行駆動系と刈取り部駆動系が完全に独立され、走行速度範囲全域において刈取り部8が速項速度と関係なく所定の速度で駆動される場合が例示されているが、ミッションケース46から取り出した走行速度と同調する速度のPTO動力で刈取り部8を駆動するとともに、走行速度V1が設定以下の低速域に至ると、刈取り部8の駆動速度V2を走行速度V1と関係のない一定の速度Vaにするよう構成して、通常の作業走行時には走行速度V1と同調した速度で刈取り部8を駆動するとともに、極低速で走行して収穫作業する場合に刈取り部が不当に遅く駆動されない駆動特性(図11参照)で駆動する形態のものに本発明を適用することもできる。
【0046】
(2)本発明は、自脱型コンバインに装備されるのと同様な縦回し型の引起し装置および刈取り穀稈をオーガに挟持搬送する搬送機構を刈取り部8に装備した型式の全稈投入型のコンバインに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コンバイン全体の左側面図
【図2】コンバイン全体の平面図
【図3】伝動系統図
【図4】刈取り部の左側面図
【図5】掻込みリール用クラッチの一部切欠き正面図
【図6】オーガおよびフィーダ始端部の平面図
【図7】フィーダ終端部の横断平面図
【図8】刈取り部における左側前端部を示す正面図
【図9】制御ブロック図
【図10】刈取りクラッチ制御のフロー図
【図11】別実施例における走行速度と刈取り部駆動速度との関係を示す特性線図
【符号の説明】
【0048】
8 刈取り部
15 掻込みリール
58 変速装置
C2 刈取りクラッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、 走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作手段と、前記検知手段が走行停止状態を検知すると前記クラッチ操作手段を作動させて前記刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備えてあることを特徴とするコンバインの刈取り部駆動構造。
【請求項2】
前記自動クラッチ制御手段の制御作動を人為的に入り切りする選択手段を備えてある請求項1記載のコンバインの刈取り部駆動構造。
【請求項3】
前記刈取り部に植立作物を掻き込む掻込みリールを備えるとともに、この掻込みリールの回転速度を変更する変速装置を備え、前記自動クラッチ制御手段によって刈取りクラッチがクラッチ切り操作されるのに先立って前記変速装置が減速制御されるように構成してある請求項1または2記載のコンバインの刈取り部駆動構造。
【請求項1】
走行速度に関係なく刈取り部を所定の速度で駆動可能に構成したコンバインにおいて、 走行停止状態を検出する検知手段と、刈取り部への伝動系に備えた刈取りクラッチを自動入り切り操作するクラッチ操作手段と、前記検知手段が走行停止状態を検知すると前記クラッチ操作手段を作動させて前記刈取りクラッチを自動的に切り操作する自動クラッチ制御手段を備えてあることを特徴とするコンバインの刈取り部駆動構造。
【請求項2】
前記自動クラッチ制御手段の制御作動を人為的に入り切りする選択手段を備えてある請求項1記載のコンバインの刈取り部駆動構造。
【請求項3】
前記刈取り部に植立作物を掻き込む掻込みリールを備えるとともに、この掻込みリールの回転速度を変更する変速装置を備え、前記自動クラッチ制御手段によって刈取りクラッチがクラッチ切り操作されるのに先立って前記変速装置が減速制御されるように構成してある請求項1または2記載のコンバインの刈取り部駆動構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−271240(P2006−271240A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93559(P2005−93559)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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