説明

コンバインの刈取部

【課題】軽いトルクでもって掻込搬送装置の逆転操作を可能とし、穀稈詰り除去の容易化を図る。
【解決手段】刈取部(4)の前処理部(4A)と後処理部(4B)との間の刈取伝動経路中には前処理部(4A)への伝動を入り切りする断続クラッチ(20)を設ける。前処理部(4A)は刈取横フレーム内の刈取横伝動軸(22)から回転駆動するよう連動構成する。引起し装置(8)と刈取横伝動軸(22)との間の伝動経路中に引起し装置(8)の逆転を規制する逆転規制手段(23)を設ける。刈取横伝動軸(22)の端部には刈取横伝動軸(22)を強制的に逆転駆動する手動ハンドル(25)を着脱自在に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圃場の立毛穀稈を刈り取って脱穀するコンバインの刈取部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立毛する穀稈を左右に分草する分草体と、分草後の穀稈を引き起す引起し装置と、引起し後の穀稈を刈り取るバリカン式の刈取装置と、刈取後の穀稈を掻込搬送する掻込搬送装置と、掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送し後方の脱穀部に搬送供給する穀稈揚上搬送供給装置等からなる刈取部を備えたコンバインにおいて、刈取部の略中央に位置する左右の掻込搬送装置の合流部に穀稈の詰りなどが発生した場合には、手動操作具の操作に基づき、刈取部の全駆動系を自動的に逆転駆動させて、詰り穀稈を除去する技術が存在する。また、このような逆転手段を備えたコンバインにおいては、特に起伏可能なラグ付きチェンからなる引起し装置の逆転を規制する手段を設けることにより、刈取部の逆転時にラグ付きチェンが逆転して引起し装置を破損させるなどの不都合を防止するようにした技術も存在する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−223132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術のものでは、刈取部の搬送系に穀稈の詰りが発生した場合には、引起し装置を除く刈取部の全駆動系を逆転駆動するものであるから、トルクが大き過ぎてエンジンやHST等の駆動力を借りない限り、人力による人為的操作だけでは困難であった。
【0004】
本発明の課題は、従来の問題点を解消し、軽いトルクでもって掻込搬送装置の逆転操作を可能とし、穀稈詰り除去の容易化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、引起し作用開始時に起立し作用終了時に伏倒する起伏可能なラグ(8a)付きチェン(8b)を備えた引起し装置(8)、引起し後の穀稈を刈り取る刈取装置(9)、刈取後の穀稈を掻込搬送する掻込搬送装置(10)を備えた前処理部(4A)と、前記掻込搬送装置(10)による掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送し後方の脱穀部(3)に供給する穀稈揚上搬送供給装置(11)を備えた後処理部(4B)とからなる刈取部(4)を、車体(1)に対して前後方向に沿わせて設けた昇降自在の刈取縦フレーム(16)及び該刈取縦フレームの先端に左右横方向に沿わせて設けた刈取横フレーム(17)に装備し、前記刈取部(4)の前処理部(4A)と後処理部(4B)との間の刈取伝動経路中には前記前処理部(4A)への伝動を入り切りする断続クラッチ(20)を設け、前記前処理部(4A)の各装置(8,9,10)は刈取横フレーム(17)内の刈取横伝動軸(22)から連動して駆動する構成とし、引起し装置(8)と前記刈取横伝動軸(22)との間の伝動経路中に該引起し装置(8)の逆転を規制する逆転規制手段(23)を設け、前記刈取横伝動軸(22)の端部に、該刈取横伝動軸(22)を強制的に逆転駆動する手動ハンドル(25)を着脱自在に構成したことを特徴とするコンバインの刈取部とする。
【0006】
掻込搬送経路に穀稈が詰まった場合には、刈取部4の前処理部4A側への駆動系を切りにし、手動ハンドル25の操作によって刈取横伝動軸22を逆転駆動する。すると、掻込搬送装置10が逆転駆動されて詰まった穀稈が除去される。そして、前処理部の逆転時は、引起し装置8の逆転が逆転規制手段23によって規制され、引起し装置8の逆転に起因する引起し装置8の破損が防止される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、後処理部4Bや引起し装置8などの起伏可能なラグ8a付きチェン8bは逆転駆動しないため、人為的手動操作であっても軽いトルクで掻込搬送装置10を逆転させて穀稈の詰りを容易に除去することができる。また、刈取横伝動軸22を逆転駆動操作する手動ハンドル25を、刈取部4の左右端側から穀稈の詰り具合を見ながら容易に逆転操作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1は、コンバインの側面図を示すものであり、この走行車体1には、左右一対の走行クローラ2,2を備え、後部に搭載した脱穀装置(脱穀部)3の前方部に刈取部4を設置し,刈取部4の横側部には運転席5や操作ボックス6等を有する運転操作部を備え、更に、その運転操作部の後方には脱穀粒を一時的に貯留するグレンタンクGを装備している。
【0009】
刈取部4は、立毛する穀稈を左右に分草する分草体7,7…、分草後の穀稈を引き起す3条分の穀稈引起し装置8…、引起し後の穀稈を刈り取るバリカン式の刈取装置9、刈取後の穀稈を掻込搬送する掻込搬送装置10等を備えた前処理部4Aと、前記掻込搬送装置による掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送し後方の脱穀部3に搬送供給する穀稈揚上搬送供給装置11等を備えた後処理部4Bとからなり、車体に対して上下に昇降可能で前後方向に沿わせて設けた刈取縦フレーム16及び該刈取縦フレームの先端に左右横方向に沿わせて設けた刈取横フレーム17に装備している。
【0010】
引起し装置8は、引起し作用開始時に起立し作用終了時に伏倒する起伏可能なラグ8a付きチエン8bからなる構成である。
掻込搬送装置10は、穀稈の株元側を掻き込む掻込スターホイル10a、穀稈の株元側を挟持搬送する掻込搬送チエン10b及び穀稈の穂先側を係止搬送する起伏可能なラグ付き穂先搬送チエン10c等からなる。
【0011】
エンジンEからの回転動力が走行ミッションケース30に入力され、走行ミッションケースに入力された駆動力はHST31によって変速されてミッション出力軸32から出力される。ミッション出力軸32からの駆動力は、ベルト33、刈取入力プーリ34を介して刈取入力軸18に伝達されるようになっている。なお、ベルト33には、刈取部4の全駆動系を入り切りする刈取テンションクラッチが設けられる。
【0012】
刈取入力軸18からの駆動力は、ベベルギヤG1,G2を介して刈取縦フレーム16内の刈取縦伝動軸19と、ベベルギヤG3,G4、G5,G6及びG7,G8を介して後処理部4Bの穀稈揚上搬送供給装置11とに伝達する構成としている。
【0013】
刈取縦伝動軸19は、入力側伝動軸19aと出力側伝動軸19bとに分割されてあり、そして、この両軸19a,19b間には出力側伝動軸19b側への回転動力を入り切りする断続クラッチ20が設けられ、前処理クラッチレバー21によって断続切替操作できる構成としている。クラッチレバー21の操作でクラッチ「入り」にすると、出力側伝動軸19bが回転し、この伝動軸19bからベベルギヤG9,G10を介して刈取横フレーム17内の刈取横伝動軸22を回転駆動すべく連動構成している。また、クラッチ「切り」にすると、入力側伝動軸19aからの回転動力は出力側伝動軸19b側には伝わらないようにしている。なお、前記穀稈揚上搬送供給装置11へは刈取入力軸18から動力伝達されるものであるため、断続クラッチ20を「切り」にしても、動力伝達は可能な状態になっている。
【0014】
刈取横伝動軸22からは、ベベルギヤG11,G12、引起し縦伝動軸35、引起し横伝動軸36等を介して引起し装置8のラグ付きチエン8bを回転駆動すべく連動構成している。刈取装置9は、刈取横伝動軸22からギヤ機構37、クランク軸38等を介して駆動すべく連動構成してあり、また、掻込搬送装置10は、引起し縦伝動軸35からベベルギヤG13,G14を介して左側掻込搬送チェン10b、左側掻込スターホイル10a、穂先伝動軸39を経て左側穂先搬送チェン10cを回転駆動すべく連動構成し、刈取横伝動軸22からベベルギヤG15,G16を介して右側掻込搬送チェン10b、右側掻込スターホイル10a、右側穂先搬送チェン10cを回転駆動すべく連動構成している。
【0015】
前記穀稈引起し装置8と刈取横伝動軸22間の伝動経路中で、且つ、左側掻込搬送装置10への伝動経路より下手側において、該引起し装置8の逆転を規制する逆転規制手段23が設けられている。また、掻込搬送装置10には起伏可能なラグ付きチェンからなる穂先搬送チェン10cが設けられているので、この穂先搬送チェン10cと掻込搬送チェン10b間の伝動経路中には、該穂先搬送チェン10cの逆転を規制する逆転規制手段24が設けられている。この逆転規制手段23,24は、図2に示すように、正転方向のみ係合し逆転方向は阻止するワンウェイクラッチとしてもよく、図3の実施例で示すように、通常の噛合式係脱クラッチを採用した場合には、前処理クラッチレバー21、引起しクラッチレバー41、穂先クラッチレバー42L,42Rを連動させ、単一の総合操作クラッチレバー43によって上記複数のクラッチ「入り」「切り」を同時に行うように連動構成しておくと良い。なお、この総合操作クラッチレバー43は、後記する逆転用手動ハンドルの近くに設置しておくと便利である。
【0016】
前記刈取横フレーム17の外端側には、刈取横伝動軸22を強制的に逆転駆動する手動ハンドル25を設けて、該刈取横伝動軸22に対し着脱可能に装着している。前記前処理部への断続クラッチを「切り」にし、手動ハンドル25でもって刈取横伝動軸22を強制的に逆転駆動すると、特に掻込搬送装置が逆転駆動されて詰った穀稈や雑草などを除去することができる。なお、この時、引起し装置8や穂先搬送チェン10cはワンウェイクラッチ23,24の作用によって逆転しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】コンバイン要部の側面図
【図2】コンバイン要部の展開伝動経路図
【図3】同上要部の展開伝動経路図
【符号の説明】
【0018】
1 走行車体
4 刈取部
4A 前処理部
4B 後処理部
8 引起し装置
9 刈取装置
10 掻込搬送装置
11 穀稈揚上搬送供給装置
16 刈取縦フレーム
17 刈取横フレーム
19 刈取縦伝動軸
20 断続クラッチ
22 刈取横伝動軸
23 逆転規制手段
25 手動ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引起し作用開始時に起立し作用終了時に伏倒する起伏可能なラグ(8a)付きチェン(8b)を備えた引起し装置(8)、引起し後の穀稈を刈り取る刈取装置(9)、刈取後の穀稈を掻込搬送する掻込搬送装置(10)を備えた前処理部(4A)と、前記掻込搬送装置(10)による掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送し後方の脱穀部(3)に供給する穀稈揚上搬送供給装置(11)を備えた後処理部(4B)とからなる刈取部(4)を、車体(1)に対して前後方向に沿わせて設けた昇降自在の刈取縦フレーム(16)及び該刈取縦フレームの先端に左右横方向に沿わせて設けた刈取横フレーム(17)に装備し、前記刈取部(4)の前処理部(4A)と後処理部(4B)との間の刈取伝動経路中には前記前処理部(4A)への伝動を入り切りする断続クラッチ(20)を設け、前記前処理部(4A)の各装置(8,9,10)は刈取横フレーム(17)内の刈取横伝動軸(22)から連動して駆動する構成とし、引起し装置(8)と前記刈取横伝動軸(22)との間の伝動経路中に該引起し装置(8)の逆転を規制する逆転規制手段(23)を設け、前記刈取横伝動軸(22)の端部に、該刈取横伝動軸(22)を強制的に逆転駆動する手動ハンドル(25)を着脱自在に構成したことを特徴とするコンバインの刈取部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−201427(P2009−201427A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48129(P2008−48129)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】