説明

コンバインの制御装置

【課題】走行車体が左右に傾いても刈取装置が刈る穀稈の位置が左右で均等になるようにして、刈取脱穀作業の円滑化と圃場の刈跡の美観向上を図る。
【解決手段】刈取装置(30)前端の左右の分草杆(1a,1d)に対地高さを検出する左右の非接触式の対地距離センサ(2a,2d)を夫々設け、刈取走行中に左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以下を検出すると刈取装置(30)を上昇制御し、左右の対地距離センサ(2a,2d)の片側のみが制御下限高さ以下を検出すると左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以上を検出するように走行車体をローリング制御する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインは、機体前側に設ける刈取装置で穀稈の株元を刈り取って後方の脱穀装置で穀粒を収穫するようにしている。そして、刈取装置と圃場面との間隔を超音波センサなどで計測し、圃場面の凹凸に応じて自動で刈取装置を昇降させるようにしている。
【0003】
例えば、特開昭62−285720号公報には、車速が一定速度以上でポテンショセンサと超音波センサで刈高さを制御する構成が記載され、特開平11−346525公報には、車速の増速が検出されると刈取装置の高さを基準設定高さより少し上昇させて対地高さ検出での制御遅れによる分草杆の土中突っ込みを防止するように制御する構成が記載されている。
【特許文献1】特開昭62−285720号公報
【特許文献2】特開平11−346525公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバインの刈取装置は、走行車体に横架した枢支軸で昇降するようになっている。このために、湿田や圃場の凹凸によって走行車体が傾くと刈取装置も同じ方向へ傾き、対地高さを一箇所で検出して刈取装置を昇降制御する従来の刈高さ制御では刈取装置の左右での刈高さが均等でなく高刈や浅刈になる。
【0005】
そこで、本発明では、走行車体が左右に傾いても刈取装置が刈る穀稈の位置が左右で均等になるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上述の如き課題を解決するために、以下のような技術的手段を講じる。
即ち、刈取装置(30)前端の左右の分草杆(1a,1d)に対地高さを検出する左右の非接触式の対地距離センサ(2a,2d)を夫々設け、刈取走行中に左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以下を検出すると刈取装置(30)を上昇制御し、左右の対地距離センサ(2a,2d)の片側のみが制御下限高さ以下を検出すると左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以上を検出するように走行車体をローリング制御する構成としたコンバインの制御装置とした。
【0007】
この構成で、刈取装置30の左右片側が制御下限高さ以下になると走行車体をローリングして刈取装置30を圃場面と平行にするので、穀稈の刈取高さが均一になる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によると、単に刈取装置30を昇降するだけでなく走行車体をローリングして刈取装置30を圃場面と平行にするので、走行車体が傾く湿田や凹凸のある圃場においても穀稈の刈取高さを均一にでき、刈取穀稈の長さが揃って円滑に脱穀でき、また、圃場の刈跡の美観を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
図1と図2に示す如く、横に四列並んだ分草杆1a,1b,1c,1dの左右両端の分草杆1a,1dに超音波計測式の対地距離センサ2a,2dを取り付けて、圃場面Gとの距離を検出するようにしている。分草杆1a,1b,1c,1dを含んだ刈取装置30は、走行車体に横架した横軸で昇降可能に枢支され、以下に説明する制御装置で油圧駆動により昇降制御される。
【0010】
図3は、制御装置の制御信号の入出力を表す制御ブロック図である。
まず、制御信号の入力側を説明すると、デジタル信号入力処理10へ湿田制御スイッチ3のオン・オフ信号と、車体左傾斜スイッチ4の左傾斜信号と、車体右傾斜スイッチ5の右傾斜信号が入力し、デジタルデータ信号として刈取昇降制御手段13と車高上下制御手段14へ送られる。
【0011】
また、アナログ信号入力処理11へ左の対地距離センサ2dから左分草杆1dの圃場面Gからの距離と、右の対地距離センサ2aから右分草杆1aの圃場面Gからの距離と、刈取昇降レバーのポジションセンサ6から刈取装置30の高さ設定値と、刈取高さセンサ7から刈取装置30の高さ検出値と、車体左右傾斜センサ8から車体の左右傾斜検出値が入力し、デジタルデータ信号として刈取昇降制御手段13と車高上下制御手段14及び扱ぎ深さ制御/畦際制御手段15へ送られる。
【0012】
さらに、パルス入力検出手段12へ回転センサ9から走行速度が入力し、デジタルデータ信号として車高上下制御手段14と扱ぎ深さ制御/畦際制御手段15へ送られる。
次に、制御信号の出力側を説明すると、刈取昇降制御手段13から刈取上昇出力16と刈取下降出力17が出力される。また、車高上下制御手段14から車高左上昇出力18と車高左下降出力19、及び車高右上昇出力20と車高右下降出力21が出力される。さらに、扱ぎ深さ制御/畦際制御手段15から調節チェン深扱ぎ出力22と調節チェン浅扱ぎ出力23が出力される。
【0013】
図4は、刈取装置の昇降を制御する刈取昇降制御のフローチャートである。前記制御ブロックの制御データ入力側から設定信号と検出信号を入力し、ステップS1で走行速度が走行最低速度より速いかを判定し、速ければステップS2で走行速度に応じて新たな走行最低速度を内蔵のデータから決定し、ステップS3で左右分草杆1a,1dの制御下限高さも走行速度が速ければ高めに変更する。走行速度が走行最低速度より遅ければ、ステップS15に移行する。
【0014】
なお、走行速度が零すなわち停止している場合には、以下の制御を解除して刈取装置30を地面に接地出来るようにする。
ステップS4で、左分草杆1dの対地高さがステップS3で設定した制御下限高さより低いかを判定する。低ければ(YESであれば)ステップS6で右分草杆1aの対地高さが制御下限高さより低いかを判定し、これも低ければ(YESであれば)刈取装置30全体が低いので、ステップS10で刈取装置30を上昇するように出力してリターンする。ステップS6の判定で右分草杆1aの対地高さが制御下限高さより高ければ(NOであれば)刈取装置30が左に傾いているので、ステップS7で右分草杆1aと左分草杆1dの高さの差を算出し、ステップS8で刈取装置30が左に傾いているとして、ステップS9で分草杆1aと左分草杆1dの高さの差を解消するように車体の右を下降させ左を上昇させるようにローリングさせてリターンする。車体のローリング時に低い分草杆側を上昇させて左右分草杆1a,1dの対地高さが制御下限高さ以下にならないようにするが、制御下限高さ以下にならないと右分草杆1aと左分草杆1dの高さの差を解消出来ない場合には、ローリング制御を中断し刈取装置30を上昇する。
【0015】
ステップS4の判定で左分草杆1dの対地高さがステップS3で設定した制御下限高さより高ければ(NOであれば)、ステップS5に移行する。ステップS5で右分草杆1aの対地高さが制御下限高さより低いかを判定し、低ければ(YESであれば)刈取装置30が右に傾いているので、ステップS11で右分草杆1aと左分草杆1dの高さの差を算出し、ステップS12で刈取装置30が右に傾いているとして、ステップS13で分草杆1aと左分草杆1dの高さの差を解消するように車体の左を下降させ右を上昇させるようにローリングさせてリターンする。ローリング制御の限界は前記と同様である。
【0016】
ステップS5の判定で右分草杆1aの対地高さが制御下限高さより高ければ(NOであれば)、ステップS15に移行する。ステップS15とステップS16では刈取昇降レバーの操作を判定し、ステップS15で上昇操作であれば(YESであれば)、ステップS17で刈取装置30の上昇出力を行い、ステップS16で下降操作であれば(NOであれば)、ステップS18で刈取装置30の下降出力を行う。
【0017】
図5は、刈取装置30の走行車体に対する位置を検出する刈高さポジションセンサを設けた場合の制御フローチャートで、ステップS20で左右分草杆1a,1dの対地高さと刈高さポジションセンサでの走行車体に対する位置を検出し、ステップS21で左右分草杆1a,1dの対地高さが所定値以下で、ステップS22で刈高さポジションセンサでの走行車体位置が所定高さより高い場合は、ステップS23で走行車体の左右を上昇させて刈取装置30を浮かせることなく、ステップS24で畦際制御すなわち脱穀部での深扱ぎを行わせないようにする。このような場合は、コンバインが圃場へ乗り込みながら刈取を行ったり湿田で走行車体が沈み込みながら刈取を行っている状態であるので、刈取装置30が穀稈を刈る位置が変わらず穀稈の脱穀部への供給状態が通常と変わりないようにするためである。
【0018】
図6は、図5と同じく、刈取装置30の走行車体に対する位置を検出する刈高さポジションセンサを設けた場合の制御フローチャートで、ステップS30で左右分草杆1a,1dの対地高さと刈高さポジションセンサで刈取装置30の走行車体に対する位置を検出し、ステップS31で左右分草杆1a,1dの対地高さが所定値以下で、ステップS32で刈高さポジションセンサでの刈取装置30の走行車体に対する位置が所定高さより低い場合は湿田刈取が終了しているので、、ステップS33で湿田制御スイッチ3のオフを確認し、車体の左右を降下させて刈取装置30を車体の標準位置に戻す。この制御によって、走行車体を上昇させたままで刈取作業を続行させることによる刈跡不良を無くする。この制御は、湿田制御スイッチ3をオフにする必要があるが、直ぐに湿田刈り取りに戻る場合には、湿田制御スイッチ3をオンのままにして車体の左右を降下させる制御を行わない。
【0019】
図7は、刈取昇降制御と刈取装置30の駆動を制御する制御装置の制御信号の入出力を表す制御ブロック図である。
まず、制御信号の入力側を説明すると、デジタル信号入力処理10へ駐車ペダルスイッチ31のオン・オフ信号と、掻込ペダルスイッチ32のオン・オフ信号と、刈取自動停止スイッチ33のオン・オフ信号と、脱穀モノレバースイッチ35のオン・オフ信号が入力し、デジタル信号入力処理10からデジタルデータ信号として刈取昇降制御手段13へ送られる。
【0020】
また、アナログ信号入力処理11へ刈取昇降レバー6の設定信号と、主変速レバーのポジションセンサ36の変速位置信号と、刈取高さセンサ7から刈取装置30の刈高さ信号が入力し、このアナログ信号入力処理11からデジタルデータ信号として刈取クラッチ駆動・停止手段39へ送られる。
【0021】
さらに、パルス入力検出手段12へ回転センサ9から走行速度が入力し、さらに、デジタルデータ信号として刈取昇降制御手段13へ送られる。
制御回路46の内部には、タイマーカウント手段37や油圧制御電流設定手段38も設けられ、刈取昇降制御手段13を中心にタイマーカウント手段37と刈取クラッチ駆動・停止手段39の間でデータの更新が行われ、油圧制御電流設定手段38へ制御信号が出力される。
【0022】
制御回路46の外部には、刈取昇降制御手段13からブザー出力40と刈取上昇出力41と刈取下降出力42が行われ、油圧制御電流設定手段38から油圧バルブ電流出力43が行われ、刈取クラッチ駆動・停止手段39から刈取クラッチ入出力44と刈取クラッチ切出力45が行われる。油圧バルブ電流出力43は刈取上昇出力41と刈取下降出力42に合流する。
【0023】
図8は、刈取装置の昇降と駆動を制御する刈取昇降駆動制御のフローチャートである。前記制御ブロックの制御データ入力側から設定信号と検出信号を入力し、ステップS40で脱穀モノレバースイッチ35の入を判定し、入であればステップS41で掻込ペダルスイッチ32の操作有無を判定し、操作が有ればステップS42で刈取昇降レバー6が下降操作されたかを判定し、下降操作有りであれば(YESであれば)、ステップS43で標準降下速度で降下するように出力し、ステップS44で刈取駆動監視タイマをリセットし、ステップS46に移行する。刈取装置30の手動降下時にはオペレータが周囲の安全を確認しているので、比較的速く降下させる。
【0024】
ステップS42で刈取昇降レバー6が下降操作されていなければ(NOであれば)、ステップS45で刈取装置30の高さが刈取駆動停止の高さより高いかの判定を行い、高ければ(YESであれば)ステップS47で刈取自動停止スイッチ33の入を判定し、入であれば(YESであれば)、ステップS48で低速で刈取装置30の下降出力を行い、ステップS49で警報ブザー出力40を行い、ステップS50で刈取駆動監視タイマを初期化する。自動降下は低速としかつ警報を鳴らすことで安全を図っている。ステップS47で刈取自動停止スイッチ33が入でなければ(NOであれば)、そのままでリターンする。
【0025】
ステップS46では、刈取装置30の高さが刈取駆動停止の高さより低いかの判定を行い、低ければ(YESであれば)、ステップS51で刈取駆動監視タイマのカウントを行い、ステップS52で刈取駆動監視時間が経過したかを判定し、ステップS53で刈取クラッチ入を出力して、リターンする。
【0026】
この制御は、コンバインの走行停止時に刈取装置30と脱穀装置を駆動する掻込ペダル32の操作に関連し、刈取装置30が自動停止高さより高く上がっていれば、掻込ペダル32を踏込んでも刈取装置30を手動で降下させるか自動で降下するまで刈取装置30と脱穀装置を駆動しなくして安全で良好な脱穀を行わせるためである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施例の一部を示す平面模式図である。
【図2】本実施例の一部を示す側面模式図である。
【図3】制御ブロック図である。
【図4】制御フローチャート図である。
【図5】制御フローチャート図である。
【図6】制御フローチャート図である。
【図7】制御ブロック図である。
【図8】制御フローチャート図である。
【符号の説明】
【0028】
1a 右側分草杆
2d 左側分草杆
2a 右側の対地距離センサ
2d 左側の対地距離センサ
30 刈取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取装置(30)前端の左右の分草杆(1a,1d)に対地高さを検出する左右の非接触式の対地距離センサ(2a,2d)を夫々設け、刈取走行中に左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以下を検出すると刈取装置(30)を上昇制御し、左右の対地距離センサ(2a,2d)の片側のみが制御下限高さ以下を検出すると左右両方の対地距離センサ(2a,2d)が制御下限高さ以上を検出するように走行車体をローリング制御する構成としたコンバインの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−4795(P2010−4795A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167461(P2008−167461)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】