説明

コンバイン

【課題】比較的低出力の電動モータでも効果的にエンジンの出力不足を補助するハイブリッド方式のコンバインを提供する。
【解決手段】エンジン(1)で走行装置(26)と脱穀装置(25)を駆動可能に構成し、電動モータ(2)の出力を脱穀駆動クラッチ(17)を介して脱穀装置(25)に伝動可能に構成すると共に走行駆動クラッチ(13)を介して走行装置(26)に伝動可能に構成し、旋回操作時に脱穀駆動クラッチ(17)を切り走行駆動クラッチ(13)を入れてエンジン(1)の出力と電動モータ(2)の出力で走行装置(26)を駆動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインにおける脱穀装置の動力源として内燃機関(エンジン)と電動モータを用いるハイブリッド方式のコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
脱穀装置の動力源として内燃機関(エンジン)と電動モータを併用したいわゆるハイブリッド方式のコンバインが提案されている。
例えば、特開2009−112202号公報に記載のコンバインは、走行装置と脱穀装置等作業機を駆動するエンジンと脱穀装置のみを駆動する電動モータを設け、エンジンの駆動負荷が増大すると電動モータで脱穀装置の駆動を補助し、さらに駆動負荷が増大するとエンジンからの脱穀装置駆動を切って、電動モータのみで脱穀装置を駆動しエンジンの駆動力を走行のみに使用することで、エンジンを小型化しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−112202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のコンバインの構成では、駆動負荷が増大するとエンジンからの脱穀装置駆動を切って脱穀装置の駆動を電動モータだけで行うものであるために、電動モータが単独で駆動負荷の大きい脱穀装置を駆動できるだけの大出力のものとしなければならない。
【0005】
これに対して、本発明は、比較的低出力の電動モータでも効果的にエンジンの出力不足を補助するハイブリッド方式のコンバインを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、エンジン(1)の出力で走行装置(26)と脱穀装置(25)を駆動可能に構成し、電動モータ(2)の出力を脱穀駆動クラッチ(17)を介して脱穀装置(25)に伝動可能に構成すると共に該電動モータ(2)の出力を走行駆動クラッチ(13)を介して走行装置(26)に伝動可能に構成し、旋回操作時に脱穀駆動クラッチ(17)を切り走行駆動クラッチ(13)を入れてエンジン(1)の出力と電動モータ(2)の出力とで走行装置(26)を駆動する構成としたことを特徴とするコンバインとした。
【0007】
この構成で、通常の収穫作業時は走行装置(26)と脱穀装置(25)をエンジン(1)で駆動し電動モータ(2)で脱穀装置(25)の駆動を補助しているが、走行負荷が増大する旋回操作時には電動モータ(2)の出力を走行装置(26)の駆動の補助にのみ使用する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記走行装置(26)の左右の走行駆動軸(27R,27L)のうちの旋回内側となる走行駆動軸を変速駆動するミッションケース(9)内の旋回軸(28)に電動モータ(2)の駆動力を入力したことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとした。
【0009】
この構成で、電動モータ(2)の変速で旋回軸(28)の回転速度を変えてコンバインの旋回走行状態を変更出来る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によると、コンバインの刈取作業中は脱穀装置(25)の駆動を電動モータ(2)が補助し、旋回操作時には脱穀装置(26)の負荷が軽減するので電動モータ(2)による脱穀装置(25)の駆動補助を切って走行装置(26)の駆動を補助して走行装置(26)の駆動負荷の増大に対応するので、コンバインに搭載するエンジン(1)と電動モータ(2)を小型化でき、低燃費化および低騒音化を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明の効果に加え、急旋回やその場旋回などの旋回方法の変更が電動モータ(2)の回転制御で出来るため、旋回操作機構を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明実施例の第一実施例を示す伝動機構線図である。
【図2】制御のフローチャート図である。
【図3】第二実施例を示す伝動機構線図である。
【図4】第三実施例を示す伝動機構線図である。
【図5】第四実施例を示す伝動機構線図である。
【図6】第五実施例を示す伝動機構線図である。
【図7】第六実施例を示す伝動機構線図である。
【図8】電動モータの扱胴駆動の第一実施例の伝動機構線図である。
【図9】電動モータの扱胴駆動の第二実施例の伝動機構線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
図1に示す伝動機構図は、本発明の第一実施例で、エンジン1のエンジン出力軸3に固着の第一エンジンプーリ4と走行装置26のミッションケース9に取り付けた油圧変速装置8の油圧入力軸7に固着の油圧入力プーリ5を走行駆動ベルト6で繋ぎエンジン1の出力で走行装置26を常時駆動し、同じくエンジン出力軸3に固着の第二エンジンプーリ18と脱穀装置25の扱胴22の扱胴軸20に固着の扱胴入力プーリ19を脱穀駆動ベルト21で繋ぎエンジン1の出力で脱穀装置25を常時駆動している。
【0014】
扱胴軸20の軸延長上に電動モータ2を設け、この電動モータ2の電動出力軸15と扱胴軸20を脱穀駆動クラッチ17で断続し、この脱穀駆動クラッチ17を入れると電動モータ2で扱胴22の駆動を補助する。また、電動出力軸15に固着の電動出力プーリ16と前記ミッションケース9の油圧変速モータ軸10に固着の電動入力プーリ11を電動ベルト12で繋ぎ、走行駆動クラッチ13で電動モータ2のミッションケース9への駆動力伝動の断続を行う。
【0015】
ミッションケース9では、刈取駆動軸23に固着の刈取駆動プーリ24から刈取装置を駆動し、左右走行駆動軸27R,27Lにそれぞれ固着の左右スプロケット14R,14Lで走行装置26のクローラベルトを駆動して走行する。
【0016】
ミッションケース9の内部では、油圧変速装置8や油圧変速モータ軸10の回転が副変速軸37のギヤで変速され、減速軸39のギヤに伝動され、さらにサイドクラッチ軸30のセンターギヤ31に伝動され、ブレーキ29が装着された旋回軸28の左右旋回ギヤ34R,34Lとサイドクラッチ軸30のサイドクラッチギヤ32R,32Lを介して左右走行駆動軸27R,27Lの左右走行出力ギヤ33R,33Lに伝動される。
【0017】
電動モータ2の駆動力は、走行装置26の旋回操作によって適宜に脱穀装置25と走行装置26の駆動を補助するように制御されるが、その制御は、図2に示す如く、ステップS1で刈取駆動クラッチ17を入れ、電動モータ2から駆動する走行駆動クラッチ13を切って脱穀駆動クラッチ17を入れて脱穀装置25を駆動し、ステップS2でエンジン1による走行装置26と脱穀装置の駆動を開始して収穫作業を行う。そして、ステップS3で操向レバーの旋回操作を感知するセンサで旋回を判定し、旋回操作があれば、脱穀駆動クラッチ17を切って脱穀を中断し、旋回によって負荷が増大する走行装置26を駆動補助するためにステップS5で走行駆動クラッチ13を入れる。
【0018】
その後、ステップS6で旋回が終了するのを待って、ステップS7で脱穀駆動クラッチ17を入れ、走行駆動クラッチ13を切って、リターンする。
尚、電動モータ2に電力を供給するバッテリは、エンジン1で駆動する充電用発電機で充電したり、脱穀装置25の停止時の慣性力で電動モータ2を回転して発電した電力を充電したりする。
【0019】
図3は、本発明の第二実施例で、第一実施例との違いは、旋回軸28をミッションケース9から突出させてその軸端に旋回プーリ35を固着し、この旋回プーリ35と電動出力プーリ1に電動ベルト12を巻き掛け、走行駆動クラッチ13で動力伝動の断続を行っている点である。
【0020】
この構成では、電動モータ2が第一実施例のタイミングで走行装置26の駆動補助を行うと共に、電動モータ2を変速可能にすることで、旋回方法を緩旋回にしたり急旋回にしたりその場旋回にしたり出来ることである。
【0021】
旋回時には、旋回内側のサイドクラッチギヤ32R,32Lがセンターギヤ31から外れ、このサイドクラッチギヤ32R,32Lと一体で旋回軸28上をスライドする回転体が、旋回軸28と一体回転する係合部材に噛み合い、旋回外側のサイドクラッチギヤはセンターギヤ31と噛み合っているため、一定速度で回転する。
【0022】
この状態で、電動モータの駆動速度を操向レバーの倒し角度に応じて変速制御することで、旋回内側のサイドクラッチギヤが緩速駆動されると緩旋回、停止すると急旋回、逆転するとその場旋回となる。
【0023】
図4に示す第三実施例の第一実施例との違いは、刈取駆動軸23に走行入力プーリ36を固着して、この走行入力プーリ36と電動出力プーリ16に電動ベルト12を巻き掛け、走行駆動クラッチ13で動力伝動の断続を行っている点である。
【0024】
図5に示す第四実施例の第一実施例との違いは、副変速軸37をミッションケース9から突出させてその軸端に走行入力プーリ38を固着し、この走行入力プーリ38と電動出力プーリ16に電動ベルト12を巻き掛け、走行駆動クラッチ13で動力伝動の断続を行っている点である。
【0025】
図6に示す第五実施例の第一実施例との違いは、減速軸39をミッションケース9から突出させてその軸端に走行入力プーリ60を固着し、この走行入力プーリ60と電動出力プーリ16に電動ベルト12を巻き掛け、走行駆動クラッチ13で動力伝動の断続を行っている点である。
【0026】
図7に示す第六実施例の第一実施例との違いは、サイドクラッチ軸30をミッションケース9から突出させてその軸端に走行入力プーリ61を固着し、この走行入力プーリ61と電動出力プーリ16に電動ベルト12を巻き掛け、走行駆動クラッチ13で動力伝動の断続を行っている点である。
【0027】
図8に示す実施例では、エンジン1から扱胴22の駆動経路にクラッチギヤ40とデフギヤ機構46を介在させている。すなわち、エンジン出力軸3に固着のエンジンプーリ47とクラッチギヤ軸48に固着の中継プーリ49とを脱穀駆動クラッチ17を介在させたエンジンベルト21で連結し、クラッチギヤ40をデフケースギヤ41と噛み合わせ、デフギヤ機構46のデフサイドギヤ42を扱胴軸20に固着している。また、電動出力軸15に固着の電動ギヤ43をデフギヤ機構46のデフサイドギヤ45と一体のデフ入力ギヤ44と噛み合わせている。
【0028】
上記の伝動構成で、エンジン1の回転を一定にしたままで電動モータ2の回転を変更すると扱胴22の回転を正逆回転で変速も可能になる。また、脱穀駆動クラッチ17を切りクラッチギヤ40をロックすると扱胴軸20の回転停止時の慣性力で電動出力軸15を回転させて電動モータ2を発電機として充電に利用できる。
【0029】
図9に示す実施例では、エンジン1から扱胴22の駆動経路にクラッチギヤ40と遊星ギヤ機構52を介在させている。すなわち、エンジン出力軸3に固着のエンジンプーリ47とクラッチギヤ軸48に固着の中継プーリ49とを脱穀駆動クラッチ17を介在させたエンジンベルト21で連結し、クラッチギヤ40を遊星ケースギヤ50と噛み合わせ、遊星ギヤ機構52の太陽ドギヤ53を扱胴軸20に固着している。また、電動出力軸15に固着の電動ギヤ43を遊星ギヤ機構52の衛星ギヤ54と一体の遊星入力ギヤ51と噛み合わせている。
【0030】
上記の伝動構成で、エンジン1の回転を一定にしたままで電動モータ2の回転を変更すると扱胴22の回転を正逆回転で変速も可能になる。また、脱穀駆動クラッチ17を切りクラッチギヤ40をロックすると扱胴軸20の回転停止時の慣性力で電動出力軸15を回転させて電動モータ2を発電機として充電に利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
2 電動モータ
9 ミッションケース
13 走行駆動クラッチ
17 脱穀駆動クラッチ
25 脱穀装置
26 走行装置
28 旋回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)の出力で走行装置(26)と脱穀装置(25)を駆動可能に構成し、電動モータ(2)の出力を脱穀駆動クラッチ(17)を介して脱穀装置(25)に伝動可能に構成すると共に該電動モータ(2)の出力を走行駆動クラッチ(13)を介して走行装置(26)に伝動可能に構成し、旋回操作時に脱穀駆動クラッチ(17)を切り走行駆動クラッチ(13)を入れてエンジン(1)の出力と電動モータ(2)の出力とで走行装置(26)を駆動する構成としたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記走行装置(26)の左右の走行駆動軸(27R,27L)のうちの旋回内側となる走行駆動軸を変速駆動するミッションケース(9)内の旋回軸(28)に電動モータ(2)の駆動力を入力したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−67155(P2011−67155A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222195(P2009−222195)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】