説明

コンピューターモデル化した処理脂肪組織の沈着を使用する乳房再建または増大

軟組織の再建および増大のための組織意欲方法。本方法は、患者から脂肪組織を採取することを含む。採取した組織を遠心分離によって処理し、脂肪組織の精製サブセットを単離し、これは相当量のトリグリセリドを採取した脂肪組織から分離および除去することを含む。遠心分離は、精製脂肪組織からの水の分離を生じさせ、かつ成熟脂肪細胞からの油の分離も生じさせるよう行ないうる。特に、回転速度は、成熟脂肪細胞において損傷を生じさせ、その結果として油の放出を生じるのに充分に速い速度になるように、選択しうる。本方法は、再建または増大のため同定された患者の乳房その他の領域への精製脂肪組織の移植へと続く。移植は、注入点の位置および各点からの複数の注入経路の方向を決定する注入経路モデルに基づき行われる。

【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許出願第61/013,864号(2007年12月14日出願)および米国特許出願第12/334,140号(2008年12月12日出願)に基づく優先権を主張し、これらの全開示は引用により全体として本明細書に含まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、組織の再建および増大、例えば、乳房組織の再建または増大に関し、特に、例えば、コンピューター化モデルまたはコンピューター支援外科手術計画を使用して処理または精製脂肪組織(例えば、脂肪由来成人幹細胞(ADAS)、または高濃度のADASを有する脂肪組織)の選択的沈着または注入のような脂肪組織を使用する乳房再建または乳房増大の方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
毎年、大勢の女性が乳房組織を増大または再建する乳房手術を受けている。手術は、増大術によって乳房を大きくするような美容的手術の場合もある。他の多くの場合において、手術は、乳房組織の除去または損傷を生じた治療的手術または治療法の後に行なわれる。この種の乳房手術は、再建手術と考えられ、これは、治療前の乳房の形および感触を有する乳房を患者に提供するものである。例えば、女性が乳癌と診断され、処置が組織(例えば、脂肪を蓄える体組織)を用いて行なわれる。組織除去に代わってまたはそれに加えて、乳癌の治療は放射線治療を含む場合があり、該治療は、一般に例えば線維増多または損傷を誘発することによって、脂肪組織を包含する乳房組織に永久的に損傷を与える。損傷は、時間の経過と共にさらに悪化して、患者において潰瘍または他の問題を生じうる。現在、2つの主要な増大および再建方法は、乳房インプラントの導入または乳房への組織移植であるが、これらの方法のいずれにも限界があり、よって、この継続的課題により良い解決策を見出すために医療機関による研究が継続的になされている。
【0004】
乳房インプラントは、大部分の整形外科医によって比較的速く効果的に導入できるので、現在も、最も一般的な再建および増大方法である。乳房インプラントは、女性の乳房を大きくするのに使用されるプロテーゼである。例えば、所望の大きさおよび形のエラストマーまたはシリコーンシェルに、滅菌生理食塩水を充填するか、またはシリコーンゲルを充填し、再建または増大手順は、患者を切開し、充填シェルを挿入することを含む。外科的手順は比較的簡単であるが、多くの患者が重大な問題を経験している。インプラントは、一般に終生装置ではなく、大部分の患者は、例えばインプラントが破裂してインプラントの漏出および収縮が生じた後に、追加手術を必要とする。免疫反応として、患者の体がインプラントの周囲に密織コラーゲン線維の被膜を形成し(例えば、被膜拘縮)、その結果、インプラントの外観および質感が変化し、患者に苦痛を生じうる。患者には、自己免疫問題または感染も生じうる。さらに、手術後にインプラントが移動し、ずれた場合に、対称性が失われる場合もある。
【0005】
医療産業において、乳房および体の他の部分、例えば、顔、臀部、および他の軟組織領域の再建および増大を行なう際に、組織移植の使用が好まれることが多い。例えば、外科医は、乳房空隙に、患者自身の脂肪組織を補充するかまたはそれで覆うことを好む場合が多い。しかし、脂肪組織のような組織の多量移植を含む試みは、特に成功しているわけではなく、技術的課題により、多くの内科医または外科医はこれらの方法に慎重であり、インプラントの使用を薦める場合が多い。脂肪組織は人体の多くの場所に見出され、過剰量で見出されるので、輪郭の変形または他の問題を生じずに大部分の患者から採取することができる。脂肪組織の移植または転移は、一般に、腹部または患者の大腿部を脂肪吸引することによって開始される。次に、脂肪注入の際に考えうる小ゲージ針の使用によって、採取または吸引した脂肪組織を患者の乳房領域に挿入する。
【0006】
残念なことに、自己脂肪移植または脂肪組織の直接移植は、現在のところ、良い結果が得られておらず、移植組織の体積減少が50%以上に達するとの推定もある。組織体積の減少は、不充分な血管再生の結果と考えられ、ある研究は、血液供給の欠乏によって壊死が生じ、該欠乏は嚢胞、線維増多またはカルシウム沈着をも生じうることを示している。ある場合に、体は、移植した脂肪または脂肪組織の少なくとも一部を数ヶ月間で吸収する傾向がある。脂肪組織の移植に関する他の問題は、脂肪組織に見出される成熟脂肪細胞が、脂肪吸引および他の採取方法に使用される機械的な力による吸引の間に、容易に損傷されることである。成熟脂肪細胞は、主として脂肪組織を構成し、細胞質のリングまたはシート(ring or sheet of cytoplasm)で囲まれた1つ以上の脂質を含有する細胞であり、間葉幹細胞は、脂肪細胞に分化することができ、採取された脂肪組織に見出される。しかし、損傷した脂肪細胞は、移植された際に成長および増殖を続けず、少量の幹細胞は、損傷組織、例えば放射線治療によって損傷した組織を処置するのに有効でない。
【0007】
組織移植の課題への取り組みが進んでいるが、既存工程は、一般に実施するのが比較的困難であり、高コストであり、かつ/または有効性が立証されていない。例えば、前駆脂肪細胞(即ち、成熟脂肪細胞に分化する前駆細胞)および成人幹細胞(両方とも、標準細胞培養法を使用して比較的速く増殖する)の使用に関して、研究が進んでいる。乳房における脂肪組織の再建または増大のために、前駆脂肪細胞または成人幹細胞を、一般に生分解性マトリックス等において増殖させて、新しいまたは増殖した脂肪組織が充分に血管新生化されることを確実にする努力がなされている。さらに、生体組織工学者は、最終組織形態を得るための生分解性材料から形成された支持構造物または足場、および移動および増殖させるための足場依存性細胞用の物理的支持物を使用している。足場は、例えば多孔質生分解性ポリマーフォームのように埋め込んでもよく、またはヒドロゲルように注入してもよい。成長因子をマトリックスに付加して、組織形成を促進する微小環境を提供してもよい。他の増大手順は、下記を含む:患者自身の脂肪組織を採取し;採取した組織の第一部分を後の移植用に保存し;採取した組織の第二部分を処理して、幹細胞を抽出し;抽出した幹細胞を、移植される脂肪組織部分に混合して、この組織の幹細胞濃度を増加させ(即ち、損傷した脂肪細胞と置き換えるため);そして、付加幹細胞を有する脂肪組織を脂肪注入する。これらの組織移植方法は、かなりの向上を与えるものであるが、極めて高コストであり、技術的に難しく、精鋭施設および高度訓練を受けた熟練医師によってのみ実施でき、長い組織成長時間および回復時間を要しうる。
【0008】
乳房インプラントと比較して、組織移植についての他の継続的課題は、新組織を最適に配置または分布させる方法である。いくつかの既存外科的方法は、脂肪組織または他の組織を、1つ以上の比較的大きい集塊において、乳房に移植または注入することを必要とするにすぎない。これにより血液供給が低くなることが多く、結果、組織の壊死をもたらしうる。そのような集塊注入によって、再建または増大した乳房に顕著なしこりも生じる。外科医の中には、乳房の基底部から乳頭に向かって層状に、数回の移植組織の注入を行なう手順を行なう者もある。幾分より良い移植組織分布を与えるが、それは均一分布を与えず(例えば、注入部位に多くの小さいしこりを生じうる)、その有効性が、外科医によって、および患者ごとに大きく変化する。ある再建手順において、先ず、組織エキスパンダーを患者に埋め込み、新しい組織を形成することを意図した細胞を播種した生分解性マトリックスを1つの部位に注入する。エキスパンダーが徐々にまたは定期的に収縮されるかまたは体積が減少されるのに伴って、組織が成長してエキスパンダーの周囲の空隙を満たす。この工程は、組織分布においていくつか改善を与えるが、組織エキスパンダーの使用を必要とし、組織エキスパンダーを調整するために繰り返し受診する必要がある。
【0009】
軟組織の増大および再建を行なうための改善された方法およびツールが現在も必要とされている。そのような方法およびツールは、乳房手術、例えば、放射線治療後の乳房再建等における使用に充分に適したものであることが好ましい。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、移植の前に組織を調製または精製する改善された方法、および、しこりの形成を抑制し、増加した血管新生化を与えるために、より均一な組織分布を得る改善された方法を含む組織移植方法を提供することによって前記の課題に取り組むものである。簡単に言えば、本発明の実施形態は、患者またはドナーから脂肪組織を採取または除去し、次に、増大、またはより一般的には再建(例えば、放射線治療が軟組織を損傷させた後)に同定された同じかまたは異なる患者の部位または領域に移植する前に、採取した組織を精製することを含む。精製は、採取した脂肪組織から水およびトリグリセリドを分離するだけでなく、脂肪組織中の成熟脂肪細胞の有意部分を損傷させるかまたは損傷を生じるように選択される回転速度および時間での遠心分離を一般に含む。水、トリグリセリドおよび損傷した成熟脂肪細胞からの油(ならびに他の副生成物または組織成分)が、その時点で「精製されている」脂肪組織から分離され、それが患者の組織注入部位または領域に注入または脂肪注入される。均一分布は、注入経路モデルに基づいて組織の注入または移植を行なうことによって得られ、該モデルは、多くの注入点の位置および各注入点で使用される1つ以上の注入経路の方向を規定する。注入経路モデルは、先ず、患者の注入領域または部位のサーフェスモデル(例えば、再建または増大される乳房の3Dモデル)を形成し、次に、入力最適化変数またはパラメーター、例えば、注入点の数、各注入点における注入経路の数、および注入経路の長さに基づいて、分布を最適化することによって生成される。実際の移植は、外科医にリアルタイムガイダンスを与え、かつ、患者における達成対モデル化組織分布の演算ができるように実際の注入点および経路を決定するために、監視されることが多い。
【0011】
本発明の組織移植法は、脂肪組織の採取が成熟脂肪細胞に重大な損傷を生じ、かつ主要活性成分が脂肪由来成人幹細胞(ADAS)であることを認めるものである。他の方法は、生存成熟脂肪細胞の濃度を増加させようとする方法であるが、本発明の方法は、実際に成熟脂肪細胞をさらに損傷させて移植後のそれらの除去を早め、かつトリグリセリドを除去する精製法を使用する方法であり、精製脂肪組織の使用の初期結果は、処置された患者の照射領域の治癒を包含する結果の質において有意な向上を示している。
【0012】
特に、軟組織の再建および増大に有用な組織移植法を提供する。該方法は、患者からある量の脂肪組織を採取または除去することを含む。採取した組織を遠心分離または他の分離法によって処理して、脂肪組織の精製サブセットを単離する。この処理は、相当量のトリグリセリドを、採取した脂肪組織から分離および除去することを含む。該方法によって、再建または増大のために同定された領域または部位(例えば、患者の顔または乳房)において、患者に精製脂肪組織を移植する。遠心分離は、精製脂肪組織からの水の分離を生じさせ、かつ成熟脂肪細胞からの油の分離も生じさせる、1つ以上の回転速度および回転時間で行ないうる。特に、回転速度は、成熟脂肪細胞において損傷または他の損傷を生じさせ、その結果として油の放出を生じるのに充分に速い速度になるように、選択しうる。例えば、回転速度は、約1000〜約4000RPMであってよく、一般に約1500〜約2700RPMである。いくつかの実施形態における移植は、注入経路モデルに基づいて行なわれ、このような実施形態において、組織移植法は注入経路モデルの生成を含み、該生成は注入領域または部位のサーフェスモデルを作製し;最適化変数、例えば、使用する注入点の数、注入経路の長さ、および各注入点における注入経路の数を、選択または入力し;最適化変数に基づいて、サーフェスモデルにおける組織の均一分布のための最適化アルゴリズムを行ない;サーフェスモデルにおける各注入点の位置、および各注入点からの各注入経路の方向を含む注入経路モデルを提供することを含む。該方法は、移植の間に次の注入経路を決定するため、注入経路モデルに基づいて移植を監視することをさらに含んでもよく、それによりモデルからの偏差を確認し、かつ患者において実際に達成された組織分布を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A〜1Cは、患者から脂肪組織を採取し、採取した組織を処理または精製し、精製した組織を、コンピューター支援によって(例えば、事前にモデル化したか、または計画した注入点および経路を提供するため、および/または移植の間に達成された分布を監視するため)、患者の乳房に移植する本発明の方法を例示する。
【0014】
【図2】図2は、本発明の1つの実施形態である組織移植システムのブロック図であり、組織移植を支援するために使用されるコンピューターソフトウエアおよびメモリー(例えば、プログラム、アルゴリズム、および保存され、かつ/またはメモリーから実行されるモデル化データ)を包含するツールの機能を示している。
【0015】
【図3】図3は、軟組織の増大または再建のために、患者に移植される脂肪細胞を調製する1つの例示的方法または工程を示すフローチャートである。
【0016】
【図4】図4は、増大または再建のために患者の体のある領域をモデル化し;注入経路を規定し;組織注入/移植の実施ならびに組織の注入および分布の監視における、コンピューター支援の提供を行なうのに有用な例示的組織移植法を示すフローチャートである。
【0017】
【図5】図5は、本例において、再建される(または増大される)仮想乳房のモデル化を示す簡略化したコンピューターモデル化工程を示す。
【0018】
【図6】図6は、注入経路モデルを示し、それはコンピューターモニターに示されるかまたはプリントアウトしてもよく、該モデルは、所望の組織分布(例えば、より均一な分布)を得るために、規定された注入点、および各注入点に関して規定された1つ以上の経路を示す。
【0019】
【図7】図7は、図6のモデルの側面図であり、経路が、異なるかまたは等しい長さ、および注入ガイドを通る水平面または他の基準面に対して異なる角投射(angular projections)を有しうることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
簡単に言えば、本発明は、患者の軟組織、例えば、乳房、顔、臀部等に見出される組織の再建または増大を行なうための方法および関連ツールおよび/またはシステムに関する。該方法は、脂肪由来成人幹細胞(ADAS)療法と考えられ、なぜなら、該方法は、例えば同じ患者または自己由来組織からのドナー脂肪組織を、ADASから成るかまたは少なくともそれに富むように組織を処理または精製した後に、移植することを含むからである。いくつかの好ましい実施形態において、精製脂肪組織を患者のドナー部位から採取し、次に、遠心分離によって精製して、採取組織から水を分離し、損傷成熟脂肪細胞から油を分離する。分離した水および油を処理した組織から除去し、精製脂肪組織を、再建または増大される患者の領域に、例えば脂肪注入によって移植する。本発明の方法は、乳房組織の増大および再建における使用に適しており、以下の記載は、この適用に重点をおいて本発明の特徴を説明しやすくしているが、当業者は、脂肪組織のような軟組織から成る他の身体領域への該方法の有用性を容易に理解しうる。
【0021】
組織移植は、先ず、処置すべき領域、女性の乳房を、モデル化することを一般に含む。次に、モデル化した処置面または領域を使用して、精製組織の注入に使用される複数の注入点の位置、および1つ以上の経路(例えば、基準面からの角軌道(angular trajectory)、および各経路の長さ、または針もしくはカニューレの挿入の深さ)を規定する。注入点および経路の規定は、反復最適化アルゴリズムによって行なわれる場合もある。次に、精製組織をより均一に分布または移植するのに使用される外科手術前に計画された沈着を、医師に表示するかまたは提供する。組織移植は、例えばX線、MRIまたは赤外線(IR)装置によって監視してもよく、該装置は、注射針またはカニューレまたはそれらのマーカーを監視して、進行中かまたはリアルタイムのフィードバックを医師に与え、かつ/または患者における移植組織の達成分布を決定するために、実際の分布経路および点を監視する(例えば、追加移植が必要か等を決定するため)。
【0022】
以下の記載は、乳癌の放射線治療による特殊再建法の必要性に関する背景考察で始まり、この記載に続いて、癌患者の乳房再建に使用するのに特に適した本発明の実施について記載する。しかし、本発明の発想、例えば、移植または埋め込み前の採取脂肪組織の処理が、再建または増大手術において、ならびに乳房再建または増大における使用において、有用であることがここでも強調される。
【0023】
現在、女性が乳癌と診断された場合、処置は乳房組織を除去する乳腺腫瘤摘出術または定型的乳房切断術を含み、そのような組織除去に続いて放射線治療が行なわれるのが極めて一般的である。放射線治療は、乳房に残存する組織に永久的な損傷を与え、この損傷は、時間の経過に伴って実際に悪化しうる。損傷は、軽度〜重度の乳房皮下脂肪組織における放射線誘発線維増多を包含し、炎症領域または脂質食性肉芽腫も包含しうる。毛細血管は、数が減少することもあり、基底膜の限局性重複(focal duplication)を有することもある。研究により、さらに、核周囲細胞質におけるリソソーム(lisosomes)または脂質周囲細胞質シートの拡大を包含する脂肪細胞への損傷も示されている。放射線誘発線維増多および他の損傷は、放射線量を制限するか、またはそのような損傷を抑制または減少させるために患者にどのように放射線治療を行なうことができるかを規定する。これまでの再建の努力は、非処理脂肪組織のインプラントおよび移植の使用を含むが、どのような再建方法も充分に成功していない。インプラント受容体は、潰瘍を生じることが多く、これは痛みを伴うことがあり、さらにはインプラントを露出させる場合もある。成熟脂肪細胞から成る脂肪組織の移植受容体は、該組織が、一般に充分に血管新生化せず、それにより壊死および他の問題を生じ、かつ後に肉芽腫を生じうる有意量のトリグリセリドも含有するので、有効でない。さらに、注入組織の分布が局在的または無秩序である場合が多く、それにより不規則な感触または形、ならびに損傷組織および健康組織の局在箇所を生じうる。以下の記載から明らかなように、本発明の組織移植法は、採取脂肪組織からトリグリセリドを除去し、患者への注入後に損傷成熟脂肪細胞のクリアランスまたは除去を増加させる処理を行なう方法を一般に含む。組織移植法は、注入点の位置および各注入点からの注入経路を規定することによってより均一な分布を達成するために、組織移植の間に使用されるコンピューター化モデルの生成も包含する。
【0024】
図1A〜1Cは、本発明の組織移植法の実施を簡単化して示している。図1Aに関して、組織移植法は、ベッドまたは支持物114に腹臥で示されているドナー112から、脂肪組織を採取する工程110を含む。いくつかの好ましい実施形態において、組織移植は自己組織移植であり、これらの実施形態において、ドナー112は乳房再建または増大を受けるのと同じ患者(図1Cに示す)である。医師または技術者120は、脂肪吸引機130を使用して、針またはカニューレ134によって、ある量の脂肪組織を抜き取る。脂肪組織を得るために、種々のドナー部位(例えば、腹部150、大腿部もしくは大転子領域152、または膝154であるがそれらに限定されない)を選択しうる。
【0025】
図1Bに関して、本発明の方法は、壊死、および多量のトリグリセリドおよび成熟脂肪細胞を有する脂肪組織の移植に伴う他の問題による、大組織移植に関するこれまでの組織課題に取り組むために、採取脂肪組織160を処理または精製することを含む。精製160の間に、技術者または操作者162は、ある量の採取脂肪組織167を含有するバイアルまたは他の組織容器166を、遠心分離機(または他の分離装置)164に配置する。示されているように、遠心分離機164は、組織からの水、および組織に蓄えられたトリグリセリドの大部分を分離するために、ある時間にわたって稼働または回転される。次に、これらの両分離成分を、バイアル166から除去する(あるいは、水およびトリグリセリドから分離された脂肪組織を、後の患者112への注入のために取り出す)。興味深いことに、精製法160は、成熟脂肪細胞を比較的非損傷の状態に維持しようとするのではなく、脂肪組織167におけるこれらの成熟脂肪細胞の有意量をさらに損傷させて、移植後の患者の体によるクリアランスを早めるように設計されている。
【0026】
例えば、遠心分離(例えば、約1500rpm〜約4000rpmの速度で、数分〜約20分間またはそれより長い分数)は、成熟脂肪細胞の薄い細胞質シートに傷を生じ、これは移植後のそれらの急速クリアランスを促進する。これらの損傷脂肪細胞からの油または他の副生成物も脂肪組織から分離し、除去して、ある量の精製脂肪組織を得る(または、分離した水、油および他の副生成物から、組織を取り出す)。遠心分離機164の操作、および精製脂肪組織の分離/単離は、制御装置(例えば、図示されているようなモニター付きコンピューター、またはプロセッサーおよびメモリー付きの他の電子装置)168によって自動的に制御でき、該制御装置は、前もって決定した1つ以上の精製プログラムまたはプロトコルを記憶し、後に実行して、所望の精製結果を与えることができる。
【0027】
組織移植法は、患者112への、組織移植または沈着170も包含する。処理工程160からの精製組織は、再建および増大における使用において、好結果の移植および受容により適していると考えられ、従って、脂肪および他の細胞/組織の注入および分布のあらゆる既存法を使用して、精製脂肪組織を移植しうる。しかし、他の実施形態において、改善した分布が得られるように移植170を行なうのが望ましい。以下の記載から明らかなように、脂肪組織のより均一な分布は、患者の乳房(または他の移植部位もしくは領域)のコンピューター支援モデル化ならびに注入点の位置およびそのような注入点からの注入経路(例えば、該注入点からの経路長さおよび角軌道)の最適化を使用することによって得ることができる。さらに、移植170の間に、注射針またはカニューレ等の配置を監視して、リアルタイムフィードバックを医師172に提供し、かつ/またはモデル化注入点および経路が移植170の間に使用または追従されたかを決定することができる(即ち、実際の注入点および経路を決定して、患者112において達成された組織分布を決定することができる)。
【0028】
この簡単な背景を考慮して、医師172が、工程160からのある量の精製脂肪組織174を充填したシリンジを使用して、組織174を針またはカニューレ175によって患者112の乳房113に移植することを含む工程170が示されている。注入ガイド176を、乳房(または再建/増大部位もしくは領域)113の周囲に配置して、医師172が注入点を同定するのを補助する(注入ガイドの使用に関する詳しい説明については図6も参照)。注入ガイド176は、各注入点から種々の注入経路に沿って組織174を注入するための基準を医師172に提供するように構成(例えば、分度器に似た角オフセットで印をつけた平面形態)してもよい。あるいは、手術または組織移植170の前に、注入点をマッピングしマーク付けして、医師が所定注入点を見いだせるようにしうる。制御システム180、例えばモニター付きコンピューターを準備して、医師172に注入経路モデルを示し、該モデルは、組織沈着を順次に行なうために医師172によって使用される全ての注入点およびそれらの経路または「次の」注入点およびその経路または「次の」経路と共に、モニターに表示されている乳房113の三次元(3D)モデルを含みうる。監視システム190にはモニター/センサー192が備わっており、工程170の進行を追跡し、この追跡は、例えば、X線、MRI、IRまたは他の方法を、ガイド176および/または針175の任意マーカーと共に使用することによって行なわれて、医師172によって実際に追従された注入点および経路を同定しうる。いくつかの実施形態において、注入の追跡または監視は、システム180のモニター(または別のモニター)におけるリアルタイム画像作成および表示、および/または情報記憶を含み、それを後に使用して、実際の注入点および経路、および/または手順170の前に作成した注入点および経路モデルからの偏差を示しうる組織沈着マップを決定するかまたは生成する。
【0029】
本発明の組織移植の実施形態は、脂肪吸引物(例えば、脂肪吸引または類似の方法によって患者から採取または吸引された脂肪組織のような組織)の自己移植であると考えられうる。前記のように、本発明の移植法の重要な使用の1つは、放射線治療後に放射線誘発損傷を罹患する患者の身体領域に組織再生するための使用である。この目的のために、図2は、ある量の脂肪組織を採取または得ることに加えて、移植システムまたはツール200は、サーフェスモデリングシステム210、組織精製システム240、および組織移植システムまたはサイト260を含み、それぞれが、所望の目的機能を達成するために、それ自身のツール、装置およびシステムを有することを機能ブロックの形で示している。
【0030】
集塊注入を避けるためにランダム注入または最良な判断試み(best judgment attempts)を使用するのではなく、サーフェスモデリングシステム210を使用して、最適化注入点および経路のマップまたはモデルを生成する。この目的のために、システム210はプロセッサーまたはCPU212を含み、それは、1つ以上のカメラ214、および任意に、手動スキャナーまたはセンサー216からインプットを受け取って処理する。カメラ214およびセンサー216は、癌の処置を受けた乳房のようなインプラントを受容する部位のデジタル画像222、および癌の処置を受けていない患者の乳房のような健康な乳房の画像222を得るために使用しうる。画像222は、メモリー220に記憶されるか、またはプロセッサー212に使用しうる。あるいは、画像222は、再建または増大される領域または表面のデジタル画像222を得るために、例えば、増大が行なわれている乳房の画像を得るため、または患者が両方の乳房を損傷し、再建に使用するための画像222を提供できない場合に、他の女性または患者から得てもよい。プロセッサー212は、モデリングアルゴリズム218を実行して画像222を処理して乳房モデル(または、再建または増大される別の身体の領域または表面のモデル)を生成し、該生成は、例えば、患者の正常または非損傷乳房の鏡像を生成するか、または再建または増大後の身体特徴のモデル化に関して再建または美容外科分野の当業者には既知の既存乳房の操作によって行なわれる。
【0031】
メモリー220における乳房モデル224を使用して、プロセッサー212は、次に、注入オプティマイザー230を稼働させ、該オプティマイザーは1つ以上の最適化アルゴリズムを使用して、乳房モデル224および一連の最適化変数226を処理して、一連の注入点位置およびその注入点からの経路(注入点からの長さおよび角軌道によって規定しうる)228を決定する。変数またはパラメーター226は、使用される最大数の注入点、および各注入点からの多くの経路を包含しうる。一般に、各経路によって注入される組織の量は、前もって決められているか、または一定している(例えば、沈着または移植される精製組織の全量を、注入経路の数で割った量であるが、当然、組織の量は、本発明を実施して乳房における所望の分布を得るために、各注入点において、および/または各経路に沿って、変化しうる)。
【0032】
サーフェスモデリングシステム200は、脂肪吸引外科的沈着のコンピューター支援の患者特異的計画を提供する。計画または支援は、マッピングした、または決定した注入点位置および規定された経路228を用いて行なわれ、それらは、前記のように、治療される身体領域のコンピューター化2Dモデル、より一般的には3Dモデルに基づいて生成される。モデル224は、カメラ214、スキャナー216または他の装置(図示せず)からのデジタル写真および較正写真または画像および/またはレーザー走査画像によって得られる。脂肪吸引物沈着のコンピューター支援手術前計画は、ほぼ最大の均一分布が得られ、かつ、組織沈着における有意な重複および間隙を制限するように、設計される。オプティマイザー230によって行なわれる処理は制約付き最適化法に基づき、該制約または変数226は、ある場合には、入口点の数および初期位置、挿入経路の実行可能な長さ(例えば、沈着に使用されることを意図し、増大または再建される身体領域の大きさに基づくことが多い、カニューレの長さの関数として)、実行可能な挿入経路のピーク角値を包含し、ある場合には、接近できないかまたは処置できない領域を包含する。いくつかの好ましい実施形態において、これらの変数226は、患者特異的であり、医師または他の専門家によって、特定患者および該患者の必要性および/または体形および輪郭に適合するように選択される(例えば、注入オプティマイザーまたはアルゴリズム230による最適化の前の、モデル化工程の段階として、メモリー220に入力される)。
【0033】
オプティマイザー230を稼働させることによって、システム210によって実施される患者最適化手術計画は、制約目的関数を最小限にするかまたは減少させることを含み、組織沈着経路の交差によって生じる領域の寸法および変動性を最小限にするかまたは制限するように設計される(例えば図6参照)。生成されたマップ注入モデル228は、選択患者画像222および/または3Dデジタル化モデル224に重ねた最適化入口点位置およびこれらの点からの挿入経路の方向の複合表示を生成するのに使用されるか、または使用しうる(ここでも、例えば図6参照)。モデリングシステム210およびその実施工程の利点は、それらが組織沈着のための対話型最適化処理を可能にすることである。例えば、技術者はまたは医師は、モデル224の生成の間に、システム210と対話して、再建または増大の後に、および最適化変数226の選択または設定(例えば、注入点の数、経路の数等の変更)の間に、所望の結果を得ることができる。そのような手術前計画によって、外科医の判断、経験、技術レベルに依存するのではなく、手術手順を標準化することができ、手術前量的パラメーターを得ることができる。これにより、最終的に、異なる患者間の臨床結果における不確実性が減少し、組織沈着における達成可能精度についての患者関連定量的ドキュメンテーションが得られる。
【0034】
組織移植ツールのシステムまたはセット200は、インプラントへの使用前に脂肪組織を処理または精製する組織精製システム240を含む。図示されているように、採取脂肪組織242を、遠心分離機244のような分離装置に取り付けられるかまたは配置する。遠心分離機244は、手動で操作してもよく、または精製プロトコル248(例えば、1つ以上の遠心分離速度および時間を規定するプログラム)に基づく制御装置246によって自動的に稼働させてもよい。この処理の間に、組織の一部、例えば、水、損傷成熟脂肪細胞からの油、トリグリセリドおよび他の成分が、他の脂肪組織から分離する。この量または部分が除去256されて、ある量の精製脂肪組織250が残る。例えば、プロトコル248が、遠心分離機244の各レザバーまたはバイアルに入れる採取量、遠心分離機の回転速度、および時間を規定しうる。その時間の経過後に、分離された不必要部分256が、遠心分離機244の各レザバーまたはバイアルから除去される。あるいは、プロトコル248は、段階的手順を規定でき、かつ各段階で除去される分離組織256の量を規定でき(例えば、第一速度で遠心分離機を稼働させ、特定量の分離組織256を除去し、第二速度で遠心分離機を稼働させ、さらなる量の組織256を除去する等)、またはそのような除去をいくつかの遠心分離機244または分離装置によって自動的に行なうこともでき、そのような装置は、分離組織256を選択的に除去するか、または精製脂肪組織を遠心分離器のレザバーまたはバイアル中の「リング」から除去する(例えば、遠心分離速度および組織250の密度に基づく精製脂肪組織250の予測位置に基づく)ように、構成される。
【0035】
重要なことに、自己(または他のドナー)脂肪組織または脂肪吸引物の入手および処理の手順は、脂肪組織を採取することの他に、該組織を精製することを含む。脂肪吸引物精製手順は、一般に、採取脂肪組織に蓄えられた大部分のトリグリセリドを除去するように設計される。遠心分離または類似方法による精製は、採取脂肪組織における成熟脂肪細胞の薄い細胞質シートに損傷を生じる作用もする。言い換えれば、精製は、脂肪吸引または採取工程で傷ついた脂肪細胞に付加的損傷を意図的に生じさせることを含み、この付加的損傷は、好ましくは1つ以上の傷を生じる程度であり、それにより、処置を受けた患者が移植後に損傷成熟脂肪細胞を除去する速度を速めることができる。いくつかの好ましい実施形態において、精製は遠心分離によって行なわれ、該遠心分離は、部分的に、一組の脂肪組織(即ち、精製脂肪組織)を、その水分から、かつ損傷脂肪細胞の分解によって生じた油から、分離する。本発明の精製法を使用する利点は、他の多くの組織移植法に一般的な、患者の体外で追加組織を増殖させるためのいかなる細胞培養も必要とせず、培養を行なわないことによって、微生物汚染のリスクをより高度に抑制し、組織調製工程の複雑性を減少させ、関連コストを抑制または限定することである。該精製法または組織調製法のさらなる利点は、該方法により、技術的に難しい脂肪由来幹細胞(ADAS)の単離または抽出工程を必要とせず、それに代わって、血管新生化および他の有利事象を促進する天然支持構造物または3D足場にADASを残留させることができる点である。
【0036】
システム200は、組織移植サイトまたはシステム260も含む。システム260は、組織移植の間または前に、医師にコンピューター支援を与える役割をするプロセッサーまたはCPU280を含む。プロセッサー280の機能は、メモリー290にアクセスし、分布モデルを表示することであり、該表示は、例えば、モデル化注入点位置および経路292をモニター288に表示する(またはハードコピーを与える)か、または患者身体の乳房または他の部分の3Dまたは2Dモデルにこの情報292を重ねることによって行なわれる。図示されているように、ツールまたはシステム260は、注入を行なうための基準点および面を与えるモデル化注入点を示すインジケーター274付き注入ガイド270を含む。注入または組織移植は、この場合、精製システム240からのある量の精製脂肪組織264を含有するシリンジ262または類似装置を用いて行なわれる。モニター上のモデル化注入分布およびガイド270を使用して、医師(図示せず)が組織沈着を行ない、該沈着は、各注入点(例えば、患者に印または参照を付けた注入点、またはガイド270のインジケーター274による注入点)に針またはカニューレ266を挿入し、規定経路に従うようにすることによって行なわれる。注入経路モニター284を用いて、例えば、針266上のマーカー268の位置を確認することによって、組織沈着または移植の間に医師によって実際に使用された経路を決定する。注入経路モニター284からのこの情報は、メモリー290における達成分布データ294によって示されるように、プロセッサー280によってさらに処理されるかまたは処理されずに保存しうる。
【0037】
組織移植サイトまたは一連のツール260を使用して、システム200は、脂肪吸引物沈着のためのコンピューター支援手術中ガイダンスを与える。注入点および経路292を含む手術前プランは、高レベルの脂肪組織沈着の均一性を得るための手術中ガイダンスまたは目的のためのマップを外科医に与え、該組織は一般に精製脂肪組織であるが、手術前プランはほぼあらゆる組織移植またはインプラントに有利であり、そのような組織は例えば非精製脂肪組織、付加的幹細胞または他の組織/細胞(例えば、間葉細胞、特に平滑筋または骨格筋細胞、筋細胞(筋肉幹細胞)、軟骨細胞、脂肪細胞、線維筋芽細胞、外胚葉細胞または神経細胞であって、それらは解離していてもしていなくてもよい)を有する脂肪組織である。さらに、成長因子、血管因子、抗炎症物質、選択的成長阻害物質等も、組織移植後に与えることができる。組織および細胞は、好ましくは、生検によって得られ、培養によって拡大させた自己細胞であるが、近親者または他のドナーからの細胞も、例えば適切な免疫抑制を行なって、使用しうる。免疫学的に不活性な細胞、例えば、胚細胞、幹細胞、および免疫抑制の必要がないように遺伝子操作した細胞も使用しうる。さらに、ある適用において、組織エキスパンダーが有用な場合があるが、一般に、本発明の組織移植法と共に使用する必要のないツールである。
【0038】
特定の対話型ツール、例えばシステム260によって、操作者は、(例えば、マウス、キーボード、タッチスクリーン、ボイスコマンドまたは他のユーザーインターフェースまたはユーザーインプットデバイスによって)特定の入口点または注入点および該注入点における経路を選択することができ、(例えば、プロセッサー290によるモデル292のモニター288における表示によって)1経路ずつおよび1注入点ずつ進んで所定経路のネットワークを完成させることができる。ツールセット260のさらなるの特徴は、モニター284を含み、該モニターはプロセッサーによって使用されて、カニューレ266の挿入の間に外科医を誘導する手術ナビゲーションシステムを提供する。そのような監視システム284は、光学IRリアルタイム追跡デバイスに基づいてよく、該デバイスは、カニューレ266(例えば、IR反射マーカー268の配列等を有する)の3D位置を、モニター288に示される患者に取り付けられた定位基準フレームまたはモデルに対して示し、手術プラン292をその上に重ねるかまたはマッピングしてもよい。この実施形態において、リアルタイムグラフィックフィードバックがコンピュータースクリーン288における表示手術プラン(例えば、組織移植分布マッピング)に生成されて、現在の沈着方向についての情報を与え、ある場合には、計画軌道または経路に対するシグナリング偏差を与え、さらにある実施形態では、関連補正を与える。この手術中法は、計画注入点および経路292を実際の手術手順に移す精度を確実に改善し、しかも、操作者または外科医が特定患者のために達成することができた脂肪吸引物の実際の配置を描写する特定の定量的ドキュメンテーション294も生成する。
【0039】
図3は、組織調製法300の工程を一般に示し、該方法は、305で開始され、例えば除去および/または放射線治療後の軟組織の増大または再建のために、患者に移植または沈着されるある量の脂肪組織を調製するのに使用される。該方法300は、次の工程310において、ドナーおよびドナー部位を選択する。前記のように、組織は一般に自己組織であるが、これは、本発明の必要条件ではない。工程310において、脂肪組織を得るためのドナー部位は、例えば、膝の内側領域、腹部領域、大転子領域、またはドナー身体の他の領域から選択される。320において、ドナー部位を採取のために準備し、該準備は、例えば、アドレナリン(例えば、10〜20立方センチメートル(cc))およびリドカイン(例えば、20〜30ccリドカイン0.5%/500cc等)を添加した冷生理食塩水を選択領域に浸潤させることによって行なわれる。330において、ある量の脂肪組織(例えば、2〜3ccまでかまたはそれより多い脂肪組織)を、例えばカニューレ(例えば、2mmまたは他の口径のカニューレ)およびシリンジを使用して除去する。
【0040】
340において、採取脂肪組織を遠心分離または精製のために遠心分離機に装填し、該装填は、例えば、複数のシリンジを直接的に遠心分離機に配置するか、またはそれらの含有物を異なるレザバーまたはバイアルに移して行なわれる。いくつかの実施形態において、操作者は、一連の事前決定有用プロトコルから精製プロトコルを選択することができるが、他の場合に、デフォルトプロトコルまたは好ましいプロトコルが、全精製工程350における使用のために設定または固定される。ある場合に、例えば、プロトコルは(a)約1900rpmの回転速度または遠心分離速度で、約15分間の回転時間;(b)約2700rpmの回転速度で約8分間;(c)約2700rpmの回転速度で約15分間;(d)約3500rpmの回転速度で約8分間;および(e)約3500rpmの回転速度で約15分間を包含しうる(それらに限定されない)。より一般的には、プロトコルは、組織からの水、損傷成熟脂肪細胞からの油、トリグリセリドおよび/または他の望ましくない成分の実質的分離を得るために前もって決められた回転速度および回転時間で遠心分離機を稼働させることであると考えることができ、回転速度は、一般に、約1000rpm〜約4000rpmまたはそれより速く、より一般的には約1900rpm〜約3500rpmであり、回転時間は、数分〜約30分またはそれより長い分数、より一般的には約8分〜約15分である。好ましいプロトコルは、一般に、幹細胞の構造的完全性を維持しながら(例えば、ADASの生存度を高度に維持する)、有意パーセントの成熟脂肪細胞に損傷を生じた際の油の実質的分離、および実質的トリグリセリドの分離を達成するプロトコルである。360において、採取脂肪組織を装填した遠心分離機を、選択されたプロトコルまたはデフォルトプロトコルに基づいて稼働させる。370において、脂肪組織から分離した油、水、トリグリセリドおよび/または他の成分または組織を除去して、より少ない量の精製脂肪組織(例えば、ADASから成るかまたはそれに富む組織)を得る。精製脂肪組織を、工程380において、少なくとも一時的に、後の患者(例えばドナー)への移植用に保存または包装し、方法300を395で終了する。精製脂肪組織の総量は、本発明を実施するために、および一般に患者ごとに、広く変化しうる。例として、乳房インプラントの平均的大きさは約325cc〜約400ccであり、約400ccまでかまたはそれより多い精製脂肪組織を調製して、全乳房切除術およびその後の放射線治療後に、乳房再建を行なうのが望ましい。
【0041】
図4は、405で開始される本発明の組織移植または沈着方法400の、例示的工程を示している。工程410において、脂肪組織のような軟組織の喪失または損傷後に増大または再建される患者の領域(例えば、患者の乳房の片方または両方)が、モデル化される。そのようなモデル化500は、図5に相対的に一般的に示され、例えば、再建または増大される領域518および基準領域514(例えば、患者の他方の乳房)のような領域の1つ以上の写真を得ることを含む。ある場合に、手動スキャナーまたはレーザースキャナーを、写真の代わりに、または写真に加えて使用して、基準乳房または領域514およびインプラントを受容する領域518の3Dトポグラフを示す複数のデータ点510を得てもよい。画像は、520に示すようにデジタル化されて、基準領域524およびインプラント領域または部位528のデジタル画像または複数のデータ点を提供する。補間、フィルタリングおよびレンダリングを使用して、530に示すような、基準乳房または領域、および増大または再建される領域の、より完全なコンピューターモデルを生成する。次に、テクスチャテクスチャリングおよび他の処理を行なって、再建または増大される乳房の3Dモデルまたは仮想バージョン540を得、これは一般に、乳房または身体領域の所望の形態または最終の形態であり、基準乳房または領域の鏡像であってもよく、または再建または増大される乳房または領域のモデル化したかまたはテクスチャー表示したモデルまたはプランであってもよい。
【0042】
次に、420において、方法400は、分布最適化パラメーターまたは変数値を入力するか、または1つ以上のデフォルト値を受諾する。パラメーターまたは変数は、一般に、少なくとも注入点の数、および各注入点または入口点における注入経路の数を含む。パラメーターは、経路の最大長さも含んでよく、経路の最大またはピーク角を含む場合もありうる。420において、方法400は、工程410からのモデル化乳房または組織注入表面を処理し、該処理は、工程420の最適化パラメーターを使用して、一連の注入点からの好ましいまたは「最適化」注入経路を規定することによって行なわれ、注入点位置も規定される。モデル化または計画された注入マッピング/ネットワークをメモリーに保存し、440において、組織移植または沈着を行なうのに使用するために医師に提供される。モデルは一般に、工程410のモデル化乳房に、オーバーレイされるかまたは重ね合わせられ、モデルは多くの場合、手術室のコンピューターまたは他のモニターに提供される。工程450において、任意注入ガイドが、患者の上または近く、例えば、再建または増大される乳房または他の領域の周囲に配置される。ガイドは任意であるが、ある場合には、インプラント部位においてモデルからの注入点をマークするかまたは確認するのに好ましい。460において、経路モデルを使用して、ある量の精製脂肪組織または他の組織を各注入部位で各規定経路に沿って注入する。工程470は任意であり、工程460の組織移植または注入を監視して、注入ガイダンスおよび/または実際の組織分布の確認/ドキュメンテーションを提供する。次に、監視または検出された注入経路およびモデル化組織分布(算出された実際の分布)を、工程480でコンピューターメモリーに保存でき、工程495で方法400が終了する。
【0043】
図6および図7は、モニターに表示してもよく、または別の方法で操作者または外科医に提示してもよい例示注入経路モデル610を示し、使用中の該モデルを、注入点インジケーターまたは基準線622を有する注入ガイド620と共に示している。複数の注入点630が、インプラント領域(例えば、患者の乳房)周囲に間隔をあけて配置されている。図示されているように、点630は同じ間隔で配置されず、より適切な分布を得るために最適化アルゴリズムによって不規則なパターンに配置されている。さらに、点630によって規定される周囲または輪郭は、相対的に円形、卵形、楕円形等に示されているが、多くの場合、周囲は不規則形である。図示されているように、最適化パラメーターは、7個の点を含み、各点における注入点の数は4に設定された。当然、より少ないまたはより多い数値を、これらのパラメーターまたは変数に使用しうる。さらに、図6および図7において、移動経路634は必ずしも同じ長さではなく、各経路における外科医による注入は、針/カニューレ上の参照表示、またはこれらの長さに適合する針/カニューレの種々の長さを必要としうるという特徴も示されている。さらに、各注入経路634は、間隔をあけて配置され、注入点または入口点630からの対応する軌道角(正または負)によって規定され、該軌道角は、注入点を水平および垂直に通る平面に対してもよく(例えば、3D軌道経路が各経路に関して規定される)、ある場合には、ガイド620が軌道経路634のための水平基準面を提供する。
【0044】
1つの実施形態において、コンピューター最適化アルゴリズムが、マルチパラメーター最適化を、非線形、非制約最小化によって行なう(例えば、射影2Dバージョンにおいて)。この場合、インプットは、インプラント領域または部位のサーフェスモデル、入口点の数(例えば、3〜10またはそれより多い)、各入口点に対する経路の数(例えば、1〜5またはそれより多い)、および経路長さ(例えば、いくつかの実施形態において、各経路の固定長さ)であってよい。プログラムまたはアルゴリズムのアウトプットは、サーフェスモデル(例えば、患者のインプラント部位)における入口点、および全注入点の経路方向である。機能コストは、一般に経路が重なる領域の数(ほとんどの場合、最大化される)、領域寸法(ほとんどの場合、最小化される)、および領域変動性(ほとんどの場合、最小化される)から成る。実際には、アルゴリズムは、一般に初期推測から開始し、次に、インプラント部位表面のモデルに関する「最良」位置を、入口点、経路方向、およびある場合には経路長さについて反復的にサーチすることによって行なわれる。いつくかの好ましい場合において、「最良」位置は、注入経路の交差点によって形成される領域の数を最大にするように、かつ、それらの絶対サイズおよびサイズ変動性を最小限にするよう(即ち、均一性)に選択される。
【0045】
前記のように、本発明の組織移植法およびツールは、患者に移植する脂肪組織を調製する向上した方法、および、組織沈着を行なうための向上したコンピューター支援モデルを提供する。先に概説した組織調製および移植は、多くの組織増大および再建の場面で使用でき、特定の処置または外科手術に限定されない。しかし、本発明者は、強皮症様慢性微小血管障害の検出によって生じる病原考察に基づいて、本明細書に記載されている方法およびツールは、放射線治療を受けた女性を処置する自己移植に特に適しており、脂肪由来成人幹細胞(ADAS)の豊富な組織または精製脂肪組織の注入に基づくことを認識している。これを考慮して、自己ADASの注入に基づいて、放射線治療関連病的状態を最小限にするかまたは抑制することを目的とした革新的治療法を使用して、臨床試験を行なった。
【0046】
臨床試験を20人の患者について行ない、該患者は、癌の補助的放射線治療を受け、LENT-SOMAスケールにおいて、グレード3もしくは重度症状、またはグレード4もしくは不可逆性機能損傷、に分類される放射性病変を有していたが、結合組織(connective)疾患、代謝疾患または皮膚疾患の病歴を有していなかった。放射線治療によって損傷され、精製脂肪組織またはADAS豊富組織(前記)を使用して処置された領域は、鎖骨上領域、前胸壁(即ち、乳房切除術部位)を含んだ。20人の患者のうち14人は、乳房の初期再建または試行前再建の一部として挿入された乳房用プロテーゼを有していた。グレード4の放射性損傷を有する11人の患者グループにおいて、病変が胸壁にあるのが8人、乳房が2人、鎖骨上領域が1人であった。線維増多、萎縮および退縮が、グレード4に分離された。胸壁病変を有する8人の患者の他に、4人の患者がシリコーンゲル乳房インプラントを有していた。これらの4人の患者のうち3人が、インプラントを露出させる潰瘍を有し、1人の患者が4平方センチメートルより大きい皮膚領域における毛細血管拡張を有していた。インプラントを有さない他の4人の患者のうち、1人の患者は骨放射線壊死肋骨を露出する潰瘍および難治性疼痛を有し、1人の患者は4平方センチメートルより大きい領域における毛細血管拡張を有していた。乳房病変を有する2人の患者のうち、1人は潰瘍を有し、もう1人は毛細血管拡張を有していた。グレード3の放射性損傷を有する9人の患者グループにおいて、1人は病変が乳房にあり、他の8人は胸壁にあった。これらの患者のうち4人は、シリコーンゲル乳房インプラントを有していた。これらの患者全員が、グレード3の萎縮、線維増多および退縮を有していた。これらの症状に加えて、毛細血管拡張および疼痛を、これらの患者の何人かが有していた。
【0047】
組織移植法は、ある領域(例えば、膝の内側領域、腹部領域、または大転子領域)をドナー部位として選択し、次に、約15ccのアドレナリン、および約20cc〜約30ccのリドカイン0.5%/500ccを添加した冷生理食塩水を、その領域に浸潤させることを含む。脂肪組織を、2mm口径および3ccシリンジを有するカニューレで除去した。シリンジを直接的に遠心分離器に配置し、次に、約2700rpmに設定し、15分間稼働させ、それによって、注入用の精製脂肪組織が、その水分から、および損傷脂肪細胞の分解によって生じる油から、分離された。次に、後者の油および残留液体(トリグリセリドを含む)を捨てた。ADASまたは精製脂肪組織の実質的に均一な分布を確実にするために、注入点および経路の手術前プランまたはモデル(先に詳しく記載)に従うことによって形成した単一トンネルまたは経路に、1mm口径を有する注入カニューレで脂肪組織を同じ患者に移植した。
【0048】
コンピューター化注入モデルは、組織移植および沈着の手術手順のプランを提供し、反復最適化アルゴリズムを実行するコンピューターによって計画された。その目的は、アクセス点の最適位置決定ならびに挿入経路の数および方向に関する定量的手術前情報を得ることであった。目的は、最大のまたは少なくとも改善された分布均一性を外科医が達成できるようにし、組織沈着における有意な重複(これは、しこりまたは不充分な血管新生を生じうる)および間隙を制限することであった。最適化法において最適化される変数は、入口点位置および組織注入経路の方向であった。その両方が、患者に取り付けられた解剖学的基準フレームまたはガイドに関して示された。最大数の入口点および経路ならびに実行可能な挿入経路のピーク角値を、最適化法の境界として設定した。最適化パラメーターは、多次元非制約非線形最小化によって、反復的に同定された。アルゴリズムの目的関数は、パラメーターの各組と関連した組織沈着経路の交差によって生じる領域の寸法および変動性を最小限にするように設計された。最適化法のアウトプットは、事前規定した一連の境界パラメーターに基づいて組織沈着の高均一性を与える、入口点位置および挿入経路方向を含んでいた。アルゴリズム収束のレベル、および目的関数の残留値(residual value)は、手術手順の期待される幾何学的性質に相関していた。入口点および各入口点における経路の数を増加させることは、組織分布の均一度を増加させるが、組織移植または沈着を完成させるのに必要とされる複雑性および時間を増加させるものと理解される。
【0049】
グレード4に分類された11人の患者において、注入モデルまたはプランに基づいて、自己由来の精製脂肪組織を使用して組織移植を行なった後に、線維増多、萎縮および退縮に関して、4人の患者がグレード0に改善し、5人の患者がグレード1に改善し、2人の患者がグレード2に改善した。潰瘍化を有する5人の患者に関して、潰瘍化がプロテーゼの露出を生じさせた乳房インプラントを有する3人の患者のうち2人は、ADASの移植および再縫合後に、病変の治癒を示し、インプラントが保護された。もう1人の患者において、処置は成功せず、プロテーゼの突出があった。胸部に潰瘍化を有する乳房インプラントを有さない患者において、精製脂肪組織移植は、優れた組織肉芽化を生じ、それが後に皮膚移植片で覆われた。乳房に潰瘍を有する患者において、病変が治癒した。鎖骨上領域に毛細血管拡張および退縮を有する患者において、毛細血管拡張および疼痛が消えた。毛細血管拡張を有する5人の患者のうち、2人において、全回復(即ち、グレード0)があり、他の3人において、血管径および色強度の有意な減少(即ち、グレード1)があった。グレード3に分類された9人の患者のうち、5人の患者において、線維増多、萎縮および退縮がグレード0に改善し、他の4人の患者において、グレード1に改善した。最後に、毛細血管拡張を有する患者において、痛みを生じる症状の全寛解と共に完全治癒が達成された。
【0050】
これらの結果は、極めて有望であり、少なくとも最初に、かつ控え目に、本明細書に教示されている組織移植法の潜在的有効性を示している。先に記載したように、他者によって行なわれた以前の実験は、成熟脂肪細胞から成る脂肪組織の移植片が充分に血管新生化されずに、壊死および他の問題を生じることを示している。本発明者は、移植された組織に存在する多量のグリセリドが、好ましくない肉芽腫を発生することも確認した。従って、組織移植法は、採取組織に蓄えられた大部分のトリグリセリドを除去することを目的とする精製手順を含む。例えば遠心分離機または他の装置によって、分離するのが有利であると考えられ、その理由は、部分的に、該分離が成熟脂肪細胞の薄い細胞質シートに損傷を与え(または、採取手順に加えて、さらなる損傷をそれらに与えて)、患者への注入後のそれらの迅速クリアランスに有利であるからである。この方法を使用して、一般的なまたは非処理の脂肪組織と比較して、幹細胞が豊富な、または高パーセンテージの幹細胞を有する組織を、注入することができた。この方法は、幹細胞の損失を避ける組織の解離に好ましいと考えられる。本明細書に提案されている比較的簡単な精製法は、細胞培養に関連した微生物による汚染のリスクも減少させる。さらに、幹細胞またはADASが、原理的に微小血管床の再建に有利であると考えられる天然または既存の3D足場または支持構造物に、保持された。精製手順後に行なった脂肪細胞の超微細構造試験は、血管間質成分(それは、血管周囲部位における内皮細胞および間葉幹細胞から成っていた)における充分に保存された要素を示したので、これらの考えまたは仮説を裏付けた。精製脂肪組織に残っている残留成熟細胞は、細胞質膜の断裂を示し、細胞壊死にまでおよぶ種々の程度の変性を示した。
【0051】
さらに、本発明のADASまたは精製脂肪組織で処置した組織について、試験を行なった。1ヵ月後、皮下組織は正常形態であり、脂肪細胞は一般に、充分に保存されていると考えられる。注入された物質を除去する工程が進み、おそらく除去が最も遅いと考えられる線維結合組織中に、単離脂質小滴を見出すことができた。マクロファージまたはリンパ細胞が、時折、見出された。処置された組織は、一般に非処置患者と比較して、より水和していると考えられた。脂肪細胞間の間隔は大きく、コラーゲンはほとんどなかった。血管が高度に活性化され、基底膜の透過性亢進および重複の様相を呈していた。成熟前駆脂肪細胞の特徴を有する要素(即ち、豊富なポリリボソームおよび脂質小滴を有する細長いまたは丸い比較的低分化の細胞)が存在していた。基底膜は、これらの前駆脂肪細胞が脂肪細胞系に属することについて、いくつかの根拠を与えた。新しく形成されたと考えられる毛細血管が存在していたが、なぜなら、それらの基底膜が重複を示さず、かつ、それらの外観が、放射線で処置された領域に見られる血管と対照的に、正常であったからであった。全体像が、再生の徴候と共に、注入物質の除去の徴候を特徴としていた。再生を示す現象は、幹細胞の、脂肪細胞および血管細胞の両方への成熟を含んだ。前駆脂肪細胞は、処置から1ヵ月後に、注入用に準備された組織(即ち、精製脂肪組織)に見られる前駆脂肪細胞より成熟していると考えられた。そのパターンは、新しく形成された微小循環と共に、同じ組織に共存する古い微小循環(これは放射線治療による病変から認識できる)を示唆していた。
【0052】
2ヵ月後、注入物質を除去する工程がさらに進み、ほぼ全ての壊死細胞片が存在しなかった。マクロファージおよびリンパ細胞が稀に見出された。組織は水和していると考えられたが、線維増多の領域が時折見られた。脂肪細胞間の間隔は大きく、コラーゲンはほとんどなかった。脂肪細胞は充分に保存されていると考えられた。血管は、ごく稀に、基底膜の透過性亢進または重複の様相を呈していた。全体像は、物質除去の終わりを示していた。放射線の作用が、組織においてまだ見られたが、再生現象は、ほぼ成熟した多房性脂肪細胞の存在によって示されるように、進行した状態にあった。重複血管の非存在は、新しく形成された微小循環が進んでいることを示した。4ヵ月〜6ヵ月後に、注入物質を除去する工程が終了していた。ごくわずかの細胞が結合組織に見出され、それは充分に水和されていると考えられ、コラーゲンはほとんどなかった。脂肪細胞は正常であった。成熟脂肪細胞は、もはや見られなかった。微小血管は、正常な超微細構造を有し、極めて低いパーセンテージの血管が、基底膜重複を示していた。しかし、1つの例において、線維増多の領域が見られた。全体像は、極めて良好または有望と考えられ、物質除去の形跡がなかった。組織は充分に水和され、新しく形成された微小循環は損傷を示さなかった。古い血管が、稀に残留する線維増多領域にだけ見られた。1年後、全体像は、細胞外空間のいくらかの縮小傾向以外は、実質的に変化がなかった。脂肪細胞は大きく、全体的外観は、充分に形成された微小循環を有する成熟脂肪組織であった。
【0053】
大集団の放射線照射を受けた患者の観察によれば、微小血管パターンに関する問題は、自発的に改善せず、処置をしなければ一般に線維増多に向かうことが示されている。簡単に言えば、放射線療法は、瘢痕領域を有する線維性脂肪組織を発生させる。ADASの豊富な精製脂肪組織を使用する本発明の治療法は、臨床的かつ超微細構造レベルの両方で評価できる損傷組織における抜本的変化をもたらす。ADASでの治療後の初期段階において、組織の「間葉化」があると考えられ、該組織は、充分に水和していると考えられ、胎児結合組織に似た大きい細胞外空間を有する。次に、組織が成熟して、正常成熟脂肪組織に似た外観を呈する。従って、正常脂肪組織の幹細胞が豊富な血管間質成分の投与は、放射線照射された組織の構造を改善させることができる。
【0054】
初期段階において、精製脂肪組織の幹細胞が損傷領域を標的にするという仮説が立てられている。第二段階またはその後の段階において、幹細胞が血管形成因子を排出し、これが新しい微小血管を形成させ、次に、新しく形成された血管が透過性亢進に向かうのに伴って組織を水和させると考えられる。従って、組織の「間葉化」をもたらす一連の事象は、幹細胞による損傷組織の標的化(これは、塊状のまたは低均一の分布法と比較して、損傷領域への直接的な均一注入によるのが有利である);血管形成因子の放出;新血管の形成;および水和であると考えられる。この方法は、成熟脂肪細胞におけるADASの発生に有利であると考えられる。精製脂肪組織の移植後に、新しく形成された微小循環が、既存の重度に損傷した微小循環と置き換わる。損傷血管は線維増多領域になお見出すことができ、これは、多くの注入点を使用し、各注入点に1〜約4またはそれより多い注入経路を使用して、放射線照射損傷組織全体に均一な作用を与えることが重要であることを強調するものである。簡単に言えば、本明細書に記載されている組織調製法および組織移植法を使用する治療法は、病変を生じさせ病変を進行させる脈管遮断に作用することによって、放射線療法病変を治療することができると考えられる。
【0055】
本発明を、ある程度詳細に説明し例示したが、本開示は例示するものにすぎず、以下の特許請求の範囲に記載されるように、本発明の精神および範囲を逸脱せずに、部分の組合せおよび配置における多くの変更を、当業者によって加えうるものと理解される。本説明は、放射線治療を受けた乳房組織を再建するための、調製された脂肪組織の使用および注入法の具体的な例を示した。しかし、本発明の方法によって精製された脂肪組織を、他の身体領域、例えば、顔、臀部、および他の領域(脂肪組織のような軟組織が除去または損傷された領域)の再建に使用してもよい。さらに、精製組織は、組織移植を使用する増大法、例えば乳房増大等にも使用しうる。同様に、注入モデル化法も、均一な組織沈着が望まれ、乳房の再建または増大に限定されないほぼあらゆる組織移植法に使用できる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織移植法であって、
ある量の脂肪組織を患者から採取する工程;
採取した量の脂肪組織を遠心分離によって処理して、脂肪組織の精製サブセットを単離する工程;および
精製脂肪組織を、軟組織の再建または増大に同定された領域において、患者に移植する工程であって、該移植が三次元(3D)注入経路モデルに基づいて行なわれる工程、
を含んで成る、組織移植法。
【請求項2】
採取した量の脂肪組織がトリグリセリドを含み、処理工程が、少なくとも一部のトリグリセリドを精製脂肪組織から分離するために行なわれる、請求項1に記載の組織移植法。
【請求項3】
遠心分離が、精製脂肪組織からの水の分離、および精製脂肪組織中の成熟脂肪細胞からの油の分離を生じるように選択された1つ以上の回転速度および1つ以上の回転時間で行なわれる、請求項1に記載の組織移植法。
【請求項4】
回転速度および回転時間が成熟脂肪細胞に損傷を生じるように選択される、請求項3に記載の組織移植法。
【請求項5】
回転速度が約1000〜約4000回転/分(RPM)の範囲から選択される、請求項3に記載の組織移植法。
【請求項6】
移植工程が注入経路モデルに基づいて行なわれ、3D注入経路モデルを生成することを含む、請求項1に記載の組織移植法であって、該モデル生成が、
軟組織の再建または増大に同定された領域をレーザー走査する工程;
軟組織の再建または増大に同定された領域の3Dモデルを調製する工程;
注入点の数を選択する工程;
注入経路の長さを選択する工程;
注入点における注入経路の数を選択する工程;
選択された注入点の数、注入経路の長さおよび注入経路の数に基づいて、3Dモデルにおける組織分布について最適化アルゴリズムを実行する工程;および
最適化アルゴリズムの実行に基づいて3D注入経路モデルを得る工程であって、該3D注入経路モデルが、3Dモデルにおける各注入点の位置、および各注入点からの各注入経路の方向を含む工程、
を含んで成る、組織移植法。
【請求項7】
移植の間に次の注入経路を決定するために、3D注入経路モデルに基づいて移植を監視することをさらに含んで成り、それによって3D注入経路モデルからの偏差を確認し、達成組織分布を決定しうる、請求項6に記載の組織移植法。
【請求項8】
増大または再建に同定された領域が乳房である、請求項1に記載の組織移植法。
【請求項9】
乳房が以前に放射線治療を受け、該乳房内の組織が放射線治療による組織損傷を有する、請求項8に記載の組織移植法。
【請求項10】
組織移植に使用される脂肪組織の調製方法であって、
ドナー部位から除去されたある量の脂肪組織を得る工程;
該量の脂肪組織を遠心分離機に装填する工程;
該遠心分離機を、ある回転速度で、少なくともある精製時間にわたって稼働させる工程であって、該回転速度および該精製時間が、遠心分離機の稼働によって、脂肪組織中の成熟脂肪細胞に損傷を生じ、脂肪組織からある量の水を分離し、損傷成熟脂肪細胞からある量の油を分離するように、選択される工程;および
少なくとも一部の油および水を脂肪組織から除去することによって、ある量の精製脂肪組織を得る工程、
を含んで成る、方法。
【請求項11】
遠心分離機を稼働させる工程が、成熟脂肪細胞に損傷を生じるように選択された回転速度で行なわれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
回転速度が少なくとも約1000RPMである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
遠心分離機を稼働させる工程が、ある量のトリグリセリドを脂肪組織から分離することをさらに含んで成り、ある量の精製脂肪組織を得る工程が、該量のトリグリセリドの一部を脂肪組織から除去することを含んで成る、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ある量の脂肪組織を得る工程が、患者におけるドナー部位を選択し、ドナー部位の脂肪組織を除去に備えるためにドナー部位に浸潤させることを含んで成る、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
向上した分布が得られるように組織移植を行なう方法であって、
患者における組織移植部位の三次元(3D)注入経路モデルを生成する工程であって、該モデルが、複数の注入点のそれぞれの位置、および2つ以上の注入経路のための各注入点からの角軌道を規定する工程;
3D注入経路モデルを得る工程;および
得られた3D注入経路モデルの3D注入経路を使用して、各注入点において、ある量の組織を注入する工程、
を含んで成る、方法。
【請求項16】
3D注入経路モデルを得る工程が、患者の組織移植部位の3Dモデルを生成し、一連の最適化変数および3Dモデルに基づいて組織分布を最適化することを含んで成る、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
一連の最適化変数が、注入点の数、注入経路の数、および注入経路の長さを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
各注入点の規定位置および注入経路の角軌道についての位置基準を与える注入ガイドを、組織移植部位の近位に配置することをさらに含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ある量の組織を注入するのに使用された実際の注入経路を同定するために注入工程を監視し、実際の注入経路を規定する情報をメモリーに保存することをさらに含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
現在表示されている3D注入経路モデルバージョンに関して、実際の注入経路をモニターに表示することをさらに含んで成り、それによって3D注入経路モデルからの偏差が確認される、請求項19に記載の方法
【請求項21】
組織が、脂肪由来成人幹細胞(ADAS)を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
放射線治療後に、患者の乳房を再建する方法であって、
乳房用の、複数の注入点、および各注入点における注入経路の三次元(3D)モデルを生成する工程であって、該モデルが、各注入点の位置、および各注入経路の方向を規定する工程;
ある量の脂肪組織を精製する工程であって、該工程が脂肪組織からある量のトリグリセリドを除去すること、および脂肪組織中の損傷成熟脂肪細胞からある量の油を除去することによって行なわれる工程;および
ある量の精製脂肪組織を患者の乳房に移植する工程であって、該工程が生成された3Dモデルの規定注入点および注入経路に基づいて、該量の精製脂肪組織の一部を移植することによって行なわれる工程、
を含んで成る、方法。
【請求項23】
乳房の3Dモデルが、患者の他方の乳房のデジタルモデルを生成することに基づいて生成される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
移植の前に、注入点の各位置に関して物理的基準を与えるように構成された注入ガイドを、乳房の周囲に配置することをさらに含んで成る、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
ある量の脂肪組織を患者から採取することをさらに含んで成り、精製工程が、少なくとも一部の成熟脂肪細胞に損傷を生じさせるために約1000RPMより速い回転速度で遠心分離することを含んで成る、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
遠心分離によって生じた損傷が、一部の成熟脂肪細胞の細胞質シートの損傷を含む、請求項25に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505992(P2011−505992A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538222(P2010−538222)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/086765
【国際公開番号】WO2009/079431
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】