説明

コンベアベルト用ゴム組成物

【課題】 高い耐摩耗性を有しつつ、低ロス性及び耐引き裂き性のいずれにも優れ、ベルトコンベア用、特にベルトコンベアの内周カバーベルト用として有効に利用できるコンベアベルト、特にコンベアベルトの内周カバーゴムを提供すること。
【解決手段】 (A)分子量分布(Mw/Mn)が1.6〜3.5であり、且つ、フーリエ変換赤外分光法による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体50〜85質量%並びに(B)ジエン系ゴム50〜15質量%を含有する、コンベアベルト用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベアベルト用ゴム組成物(特にコンベアベルトの内周(裏面)カバーゴム用ゴム組成物)、コンベアベルトの内周(裏面)カバーゴム、該内周(裏面)カバーゴムを用いたコンベアベルト及び該コンベアベルトを装着したベルトコンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトコンベアは物品を輸送する手段として多用されており、該ベルトコンベアに装着するベルト(コンベアベルト)は、通常、中に芯体(補強材)を有し、該芯体の上側(コンベアベルトに使用した場合に外周となる面。)[以下、外周カバーゴムと称する。]のカバーゴムと内周(コンベアベルトに使用した場合の裏面。下側。)[以下、内周カバーゴムと称することがある。]のカバーゴムで挟んでいる。かかる外周カバーゴムとその裏面に位置する内周カバーゴムでは要求される物性が異なり、内周カバーゴムは、耐摩耗性のみならず、コンベアベルトと多数のローラとの接触によるエネルギーの損失を減らす、すなわち低ロス化して電力消費量を低減する必要があり、さらに、異物が引っ掛かることによるコンベアベルトの引き裂きを防止するため、耐引き裂き性も高い必要がある。
従来、コンベアベルト用ゴム組成物としては、天然ゴム(NR)にブタジエンゴム(BR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)を種々の組み合わせで含有したゴム組成物が知られている(特許文献1〜5参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−139523号公報
【特許文献2】特開2001−26670号公報
【特許文献3】特開2003−48609号公報
【特許文献4】特開2003−105136号公報
【特許文献5】特開2004−346220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び5に記載のゴム組成物のようにSBRを含有させると、耐引き裂き性が良好となる傾向にあるものの、コンベアベルトにおけるエネルギーの損失が大きく、省エネという要望には応えられないという問題があった。一方、特許文献1〜5に記載のゴム組成物のようにBRを含有させると、エネルギーの損失を小さく(低ロス化)することができるものの、耐引き裂き性が低くなる傾向にあるため、BRの配合量に限度があり、充分に低ロス化できなくなるという問題があった。このように、従来の技術では低ロス性と耐引き裂き性を両立させることができなかった。
従来、耐引き裂き性の目標水準としては、引裂力が10N/mm以上とされてきたが、10N/mm程度では市場では満足されていないのが現状であり、現在は引裂力が15N/mm以上である材料が求められている。また、コンベアベルトとローラとの接触によるエネルギーの損失度合いの指標として、tanδ/E’0.32[tanδは損失正接、E’は動的弾性率(N/mm)]があり、ゴム材料においては、−5℃におけるtanδ/E’0.32が0.11以下である場合に前記エネルギーの損失が少ない(低ロス性に優れる)とされており、目標値とされている。これら耐引き裂き性及び低ロス性に関して市場の要望を満足すると共に、耐摩耗性を兼ね備えたゴム材料の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記問題に着目し、コンベアベルト用ゴム組成物、特に内周カバーゴム用ゴム組成物について鋭意研究を重ねた結果、(A)分子量分布が1.6〜3.5であり、且つフーリエ変換赤外分光法による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体[以下、超ハイシスBRと称する。]及び(B)ジエン系ゴムを一定配合で含有するゴム組成物であれば高い耐摩耗性を有し、且つ低ロス性及び耐引き裂き性のいずれにも優れ、ベルトコンベア用、特にベルトコンベアの内周カバーベルト用として有効に利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1](A)分子量分布(Mw/Mn)が1.6〜3.5であり、且つ、フーリエ変換赤外分光法による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体50〜85質量%並びに(B)ジエン系ゴム50〜15質量%を含有する、コンベアベルト用ゴム組成物、
[2]1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量とビニル結合含量とが、下記式:
ビニル結合含量(%)≦0.25×(「シス−1,4結合含量(%)」−97)
の関係を満たす、上記[1]に記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[3]分子量分布(Mw/Mn)が1.6〜2.7である、上記[1]又は[2]に記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[4]ブタジエン系重合体が、1,3−ブタジエン単量体80〜100質量%と1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体20〜0質量%とからなる、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[5]ブタジエン系重合体が1,3−ブタジエン単量体のみからなる、上記[4]に記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[6]数平均分子量(Mn)が100,000〜500,000である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[7]数平均分子量(Mn)が150,000〜300,000である、上記[6]に記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[8]ジエン系ゴムが、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムである、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[9]さらに低ロス化剤を含有する、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[10]さらにシリカを含有する、上記[1]〜[9]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[11]コンベアベルトの内周カバーゴム用である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物、
[12]上記[1]〜[11]のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物から得られる、コンベアベルトの内周カバーゴム、
[13]上記[12]に記載の内周カバーゴムを用いたコンベアベルト、
[14]上記[13]に記載のコンベアベルトを装着したベルトコンベア、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴム組成物に超ハイシスBRを含有させることにより、耐摩耗性、低ロス性及び耐引き裂き性(引裂力:15N/mm以上)に優れたコンベアベルト、特にコンベアベルトの内周カバーゴムを提供することができる。また、ゴム組成物にさらに低ロス化剤を配合することにより、低ロス性をより高くすることができ、シリカを含有させることにより、耐引き裂き性をより高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のコンベアベルト用ゴム組成物は、(A)分子量分布が1.6〜3.5であり、且つ、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体(超ハイシスBR)50〜85質量%並びに(B)ジエン系ゴム50〜15質量%を含有する。
【0009】
まず、成分(A)の超ハイシスBRについて説明する。
超ハイシスBRは、1,3−ブタジエン単量体80〜100質量%と1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体20〜0質量%からなることが好ましく、1,3−ブタジエン単量体100質量%からなることがより好ましい。
かかる1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体としては、例えば2−メチル−1、3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの炭素数5〜8の共役ジエン単量体;スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体が挙げられる。
【0010】
超ハイシスBRの分子量分布(Mw/Mn)は1.6〜3.5であり、1.6〜2.7であることが好ましく、1.9〜2.7であることがより好ましく、2.2〜2.4であることがさらに好ましい。なお、本明細書における、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。ブタジエン系重合体の分子量分布が1.6未満であると、ゴム組成物をロール機により混練りする際にバギング(ロール間隙を通過したゴムバンドが浮き上がる現象)が発生するため混練作業性が悪化し、コンベアベルトの内周カバーゴム(以下、単に内周カバーゴムと称することがある。)としての物性を充分に向上させることができない。一方、3.5を超えると、ヒステリシスロス等による該内周カバーゴムの物性低下を招く。
【0011】
数平均分子量(Mn)に特に制限は無いが、100,000〜500,000であることが好ましく、150,000〜300,000であることがより好ましい。かかる範囲であれば、内周カバーゴムの弾性率が安定し、ヒステリシスロスが増加することもなく、耐摩耗性の低下も生じないため好ましく、さらに内周カバーゴム用ゴム組成物の混練時における作業性も低下せず、内周カバーゴムの物性を充分に向上させることができるため好ましい。
【0012】
超ハイシスBRは、上記の通り、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体であり、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98.2%以上且つビニル結合含量が0.2%以下であることが好ましく、シス−1,4結合含量が98.35%以上且つビニル結合含量が0.15%以下であることがより好ましい。FT−IRによる測定において、シス−1,4結合含量が98%未満であるか、又はビニル結合含量が0.3%を超えていると、伸長結晶性が不充分であり、内周カバーゴムの耐摩耗性、耐引き裂き性及び耐摩耗性を向上させる効果に乏しい。なお、FT−IRによるミクロ構造の測定方法は、公知の方法に従えばよく、例えば特開2005−15590号公報を参照できる。
また、超ハイシスBRは、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量とビニル結合含量とが、下記式:
ビニル結合含量(%)≦0.25×(「シス−1,4結合含量(%)」−97)
を満たすことが好ましい。この関係を満たしていると、超ハイシスBRの伸長結晶性がさらに向上するため、内周カバーゴムの耐摩耗性、耐カット性及び耐屈曲疲労性がさらに良好なものとなる。
【0013】
該超ハイシスBRは、従来のブタジエン系重合体に比べ、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が高く且つビニル結合含量が低い。例えば、比較的シス−1,4結合含量が高い「ハイシスBR」として市販されている「BR01」(商品名、JSR株式会社製)は、FT−IRによる測定において、シス−1,4結合含量が96.29%であり、ビニル結合含量が2.20%である。また、同じくハイシスBRとして市販されている「BR150L」(商品名、宇部興産株式会社製)は、FT−IRによる測定において、シス−1,4結合含量が97.18%であり、ビニル結合含量が1.63%である。超ハイシスBRのシス−1,4結合含量とは数%の差であり、ビニル結合含量も数%の差であるが、本発明は、この差がゴムの伸長結晶性に大きな差をもたらし、コンベアベルト、特に内周カバーゴムの性能に大きく影響を与えることを見出したものであり、従来のBR及びハイシスBRの代替品として非常に有用である。
【0014】
このような超ハイシスBRの製造方法は、公知の方法を利用できる(特開2005−15590号公報参照)。例えば、(1)周期律表の原子番号57〜71の希土類元素を含有する化合物又は該化合物とルイス塩基との反応物、(2)有機アルミニウム化合物及び(3)ルイス酸、金属ハロゲン化物とルイス塩基との錯化合物、及び活性ハロゲンを含む有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲン化合物、並びに必要に応じて(4)アルミノキサンからなる触媒の存在下に、1,3−ブタジエン及び必要に応じて該1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体を25℃以下で重合させることにより得られる。
【0015】
次に、成分(B)のジエン系ゴムについて説明する。
成分(B)のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、(ハイシス)ブタジエンゴム[(ハイシス)BR]、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム又はこれらの混合物などが挙げられる。(ハイシス)BRとは、FT−IRによる測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が90%未満のブタジエンゴム又はシス−1,4結合含量が90%以上98%未満のハイシスブタジエンゴムのことである。内周カバーゴムの物性バランスの観点から、成分(B)としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、又はこれらの混合物であることが好ましく、特にNRであることがより好ましい。
該成分(B)は、成分(A):成分(B)=50〜85:50〜15(質量比)となるように含有させ、耐摩耗性の観点からは、成分(A):成分(B)=60〜80:40〜20(質量比)であることがより好ましい。成分(B)が上限値を超える(成分(A)が下限値未満である)と、内周カバーゴムの耐摩耗性及び低ロス性を向上させる効果が小さくなり、一方、成分(B)が下限値未満である(成分(A)が上限値を超える)と、耐引き裂き性が低下する傾向にあり、内周カバーゴムの寿命が低下する。
【0016】
本発明の内周カバーゴム用ゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、さらにその他の添加剤を加えてもよい。かかる添加剤としては、通常、コンベアベルトのカバーゴムに含有されるものであれば特に制限は無いが、例えば、カーボンブラック、オイル、ステアリン酸などの脂肪酸、低ロス化剤、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、シリカ、シリカカップリング剤、硫黄、加硫促進剤、加硫遅延剤(スコーチ防止剤)、しゃく解剤、オゾン亀裂防止剤、抗酸化剤、クレー、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これらは、市販品を使用できる。添加剤の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で当業者が適宜選択できる。
【0017】
カーボンブラックとしては、標準品種であるSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF(以上ゴム用ファーネス)、MTカーボンブラック(熱分解カーボン)などを挙げることができる。カーボンブラックを使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、20〜90質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましい。
オイルとしては、例えばスピンドルオイルや、パラフィン系、ナフテン系、アロマチック系のプロセスオイルなどを挙げることができる。オイルを使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましい。
【0018】
脂肪酸を使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
低ロス化剤とは、コンベアベルトにおけるエネルギーの損失を低減するものであれば特に制限は無く、例えば3−ヒドロキシ−N'−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド(BMH)(大塚化学株式会社製)などが挙げられる。低ロス化剤を使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
酸化亜鉛を使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
老化防止剤としては、公知の老化防止剤を選択し用いることができる。例えば、N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(「ノクラック(登録商標)6C、大内新興化学工業株式会社製」)やN−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン(「ノクラック(登録商標)3C、大内新興化学工業株式会社製」)、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物(RD)などが挙げられる。
シリカとしては、ニップシールAQ(商品名、東ソー・シリカ株式会社製)の市販品を使用することができる。シリカを使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、1〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。
【0019】
硫黄を使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、硫黄分として0.5〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)等のチアゾール系、あるいはDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができる。市販品としては、例えば「ノクセラー(登録商標)NS−F」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)などが挙げられる。加硫促進剤を使用する場合、その使用量は、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜2質量部である。
【0020】
このように、本発明の内周カバーゴム用ゴム組成物は、成分(A)及び(B)と、適宜必要な添加剤を混練することにより得られる。混練方法は、当業者が通常実施する方法に従えばよく、例えば、硫黄、加硫促進剤以外の全成分を、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサーなどを用いて混練(A練り)した後、硫黄、加硫促進剤を添加(B練り)して混練ロール機などで混練すればよい。得られる内周カバーゴム用ゴム組成物は、tanδ/E’0.32が0.11以下であり、且つJIS K6252に従ってトラウザ形試験片を用いて測定した引裂力が15N/mm以上となり、コンベアベルトへの利用に適している。かかるコンベアベルト用組成物を加熱金型によって成形することにより、内周カバーゴムを得ることができる。
該内周カバーゴムは、外周(上面)カバーゴムと共に芯体(補強材)を挟んで一つのコンベアベルトとなり、ベルトコンベアに装着される。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各分析は以下の通りに行なった。
【0022】
[FT−IRによるミクロ構造の分析法]
同一セルの二硫化炭素をブランクとして、5mg/mLの濃度に調製したブタジエン系重合体の二硫化炭素溶液のFT−IR透過率スペクトルを測定し、該スペクトルの1130cm-1付近の山ピーク値をa、967cm-1付近の谷ピーク値をb、911cm-1付近の谷ピーク値をc、736cm-1付近の谷ピーク値をdとしたとき、下記行列式
【0023】
【数1】

【0024】
から導かれるe、f、gの値を用い、下記式:
(シス−1,4結合含量)=e/(e+f+g)×100 (%)
(トランス−1,4結合含量)=f/(e+f+g)×100 (%)
(ビニル結合含量)=g/(e+f+g)×100 (%)
に従って1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量及びビニル結合含量を求める。なお、上記スペクトルの1130cm-1付近の山ピーク値aはベースラインを、967cm-1付近の谷ピーク値bはトランス−1,4結合を、911cm-1付近の谷ピーク値cはビニル結合を、736cm-1付近の谷ピーク値dはシス−1,4結合を示す。
【0025】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定]
GPC[東ソー株式会社製、HLC−8020]により検出器として屈折計を用いて測定し、単分散ポリスチレンを標準としたポリスチレン換算で示した。なお、カラムはGMHXL[東ソー株式会社製]で、溶離液はテトラヒドロフランである。
【0026】
<製造例1>超ハイシスBRの製造
−触媒の調製−
乾燥及び窒素置換された内容積100mLのゴム栓付きガラスビンに、順次、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(ブタジエン濃度:15.2質量%)7.11g、ネオジムネオデカノエートのシクロヘキサン溶液(ネオジム濃度:0.56M)0.59mL、PMAO(商品名、ポリメチルアルミノキサン、東ソーファインケム株式会社製)のトルエン溶液(アルミニウム濃度:3.23M)10.32mL、水素化ジイソブチルアルミニウム[関東化学株式会社製]のヘキサン溶液(0.90mol/L)7.77mLを投入し、室温で2分間熟成した後、塩化ジエチルアルミニウム[関東化学株式会社製]のヘキサン溶液(0.95mol/L)1.45mLを加え、室温で時折撹拌しながら15分間熟成した。こうして得られた触媒溶液中のネオジム濃度は、0.011mol/Lであった。
−超ハイシスBRの製造−
乾燥及び窒素置換された内容積1Lのゴム栓付きガラスビンに、乾燥精製された1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液及び乾燥シクロヘキサンをそれぞれ仕込み、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(ブタジエン濃度:5.0質量%)400gが仕込まれた状態とし、10℃の水浴中で十分に冷却した。次に、上記のようにして調製した触媒溶液1.56mL(ネオジム換算で0.017mmol)を加え、10℃の水浴中で3.5時間重合を行った。引き続き、老化防止剤として、2,2'−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)のイソプロパノール溶液(濃度;5質量%)2mLを加えて反応を停止させ、更に、微量の2,2'−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)を含むイソプロパノール溶液中で再沈澱させた後、常法にて乾燥して、収率約100%で超ハイシスBR(数平均分子量205,000、分子量分布2.3)を得た。FT−IRによりミクロ構造を分析したところ、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量は98.43%であり、ビニル結合含量は0.13%であった。また、0.25×(「シス−1,4結合含量」−97)=0.48であった。
【0027】
<実施例1〜7及び比較例1〜7>
表1及び表2に示した配合(単位:phr)で、硫黄及び加硫促進剤を除く各成分をバンバリーミキサーにて混練(A練り)し、引き続き硫黄及び加硫促進剤を添加して混練(B練り)することによりコンベアベルト用ゴム組成物を得、該ゴム組成物を金型温度160℃で成形することにより、コンベアベルトに用いる内周カバーゴムを得た。
得られた内周カバーゴムの耐摩耗性、低ロス性及び耐引き裂き性を以下のようにして測定し、結果を表1及び表2に示した。
【0028】
[耐摩耗性]
JIS K6264−2に従い、DIN摩耗試験機を使用して室温で摩耗量を測定した。値が小さいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
[低ロス性]
上記コンベアベルト用ゴム組成物から縦40mm、横5mm、厚さ2mmのシートを作成した。かかるシートを用い、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)により、チャック間距離10mm、動的歪2%、周波数10Hzの測定条件にて、動的粘弾性測定を行ない、−30℃、−5℃及び20℃における損失正接(tanδ)を測定した。動的弾性率をE’(N/mm)としたとき、tanδ/E’0.32を求めることにより、低ロス性の指標とした。値が小さいほど、低ロス性に優れることを示す。
[耐引き裂き性]
JIS K6252に従い、トラウザ形試験片を用いて引裂力(N/mm)を測定した。値が大きいほど、耐引き裂き性に優れることを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
*1:製造例1にて製造した超ハイシスブタジエンゴム
*2:BR01(商品名)、ハイシスブタジエンゴム、JSR株式会社製
*3:天然ゴム、グレード;RSS−3号
*4:IR2200(商品名)、イソプレンゴム、JSR株式会社社製
*5:シースト6P(商品名)、ISAFカーボン、東海カーボン株式会社製
*6:「ルナック(登録商標)RA」(商品名)、花王株式会社製
*7:亜鉛華3号、白水化学工業株式会社製
*8:「ノクラック(登録商標)6C」(商品名)、大内新興化学工業株式会社製
*9:BMH(商品名)、大塚化学株式会社製
*10:ニップシールAQ(商品名)、東ソー・シリカ株式会社製
*11:Sulfax Z(商品名)、鶴見化学工業株式会社製
*12:「ノクセラー(登録商標)NS−F」(商品名)、大内新興化学工業株式会社製
【0032】
表1に示すように、ゴム成分がNR又はIR並びに超ハイシスBRである場合、ゴム成分において超ハイシスBRが50〜80質量%であると(実施例1〜7)、引裂力が15N/mm以上となり、耐引き裂き性に優れ、且つ−30〜20℃における低ロス性に優れ、特に−30℃におけるtanδ/E’0.32は0.18以下、−5℃では0.11以下、20℃では0.08以下となっていることがわかる。さらに摩耗量も少なく、耐摩耗性が良好といえる。一方、表2に示すように、ゴム成分が超ハイシスBRのみである(比較例1)か、又はNR及び超ハイシスBRからなり、超ハイシスBRが90質量%である場合(比較例4)、低ロス性及び耐摩耗性には優れるものの、引裂力が15N/mm未満となり、耐引き裂き性の点で現在の市場の要望に合わない。また、ゴム成分がNR及び超ハイシスBRからなり、ゴム成分において超ハイシスBRが20質量%又は40質量%である場合(比較例2、3)は、耐引き裂き性に優れるものの、低ロス性及び耐摩耗性が大幅に低下した。特に−5℃におけるtanδ/E’0.32は0.11を超えており、エネルギーの損失が大きくなり、コンベアベルト用としては需要が低い。実施例1、3及び4において、超ハイシスBRの代わりに、従来のハイシスBRを使用した場合(比較例5〜7)、耐引き裂き性及び耐摩耗性が共に大きく低下し、低ロス性もやや低下した。
また、実施例6のように、ゴム組成物に低ロス化剤を含有させることにより、耐引き裂き性及び耐摩耗性をほとんど低下させずに低ロス性を高めることができた。また、実施例7のように、ゴム組成物にさらにシリカを含有させることにより、低ロス性及び耐摩耗性をほとんど低下させずに耐引き裂き性を高めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のゴム組成物は、高い耐摩耗性を有しつつ、低ロス性及び耐引き裂き性のいずれにも優れるため、電力消費量を抑えながら長期間の使用が可能であり、コンベアベルト、特にコンベアベルトの内周(裏面)カバーゴムとして利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子量分布(Mw/Mn)が1.6〜3.5であり、且つ、フーリエ変換赤外分光法による測定において、1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量が98%以上及びビニル結合含量が0.3%以下となるブタジエン系重合体50〜85質量%並びに(B)ジエン系ゴム50〜15質量%を含有する、コンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項2】
1,3−ブタジエン単量体単位中のシス−1,4結合含量とビニル結合含量とが、下記式:
ビニル結合含量(%)≦0.25×(「シス−1,4結合含量(%)」−97)
の関係を満たす、請求項1に記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項3】
分子量分布(Mw/Mn)が1.6〜2.7である、請求項1又は2に記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項4】
ブタジエン系重合体が、1,3−ブタジエン単量体80〜100質量%と1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体20〜0質量%とからなる、請求項1〜3のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項5】
ブタジエン系重合体が1,3−ブタジエン単量体のみからなる、請求項4に記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項6】
数平均分子量(Mn)が100,000〜500,000である、請求項1〜5のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項7】
数平均分子量(Mn)が150,000〜300,000である、請求項6に記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項8】
ジエン系ゴムが、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムである、請求項1〜7のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項9】
さらに低ロス化剤を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項10】
さらにシリカを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項11】
コンベアベルトの内周カバーゴム用である、請求項1〜10のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のコンベアベルト用ゴム組成物から得られる、コンベアベルトの内周カバーゴム。
【請求項13】
請求項12に記載の内周カバーゴムを用いたコンベアベルト。
【請求項14】
請求項13に記載のコンベアベルトを装着したベルトコンベア。

【公開番号】特開2009−298542(P2009−298542A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154368(P2008−154368)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】