説明

コークス炉壁観察方法および装置

【課題】カメラ移動の状態によらず、随時視点変換画像を更新することができ、かつ、ハードウエア資源の消費を低減できるコークス炉壁観察方法および装置を提供する。
【解決手段】カメラ30をコークス炉10内に挿入し、カメラ位置と対応付けながら、炉壁11を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影するとともに、炉壁11の斜視像を視点変換処理して、炉壁11を正面から見た視点変換画像TIを生成し、視点変換画像TIのうちカメラ位置が所定の位置間隔のものを、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像WIを合成する。押し詰まりによりカメラの移動が止まったり、コークス炉内の同じ位置を何度も通過したりしても、視点変換画像を所定の時間間隔で更新することができる。炉壁全体画像に必要な視点変換画像のみを扱うことができ、ハードウエア資源の消費を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉壁観察方法および装置に関する。さらに詳しくは、コークス炉内にカメラを挿入し、その画像を用いて炉壁の状態を観察するコークス炉観察方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄に用いるコークスを製造するために、幅数十センチメートル、高さ数メートル、奥行き十数メートルのレンガ造りのコークス炉が用いられる。コークスの製造は、コークス炉の上面に設けられた石炭挿入口から炉内に石炭を挿入し、高温に熱せられた炉内で石炭を乾留することにより行われる。完成したコークスは、コークス炉両端の炉入口および炉出口を開放した後に押出機が炉入口から挿入され、炉出口側に配置されたバケットに押し出される。その際に炉内ではレンガが剥落したり、カーボンが付着したりして、炉壁が損傷する。製鉄所の主要設備であるコークス炉の安定操業と長寿命化の為には、炉壁の状態を随時観察し、損傷箇所を早期発見し、修繕する必要がある。
【0003】
従来、コークス炉の炉壁の観察は目視観察によるものが一般的であり、作業員が操業の合間に、コークス炉の両端から、あるいは石炭挿入口から直接観察を行っていた。そのため、狭窄な炉内を観察できる範囲は限られており、特に炉壁中心部の観察は困難であった。また、高温に保たれたコークス炉の観察は作業員にとって危険な作業でもあった。
【0004】
この問題に対する解決策として、熱対策したカメラを炉内に挿入し、炉壁を撮影した映像を観察する方法がある(例えば特許文献1)。カメラの映像により炉壁の状態を観察することができるので、炉壁中心部においても観察することができ、作業員にとっても確認作業を安全に行うことができる。
しかるに、特許文献1の方法では、図10(A)に示すようにカメラの向きを炉壁に対して正面としているため、幅が数十センチメートルのコークス炉の場合、カメラと炉壁との距離が短く、カメラで撮影できる視野が限られ、炉壁全体について迅速に観察することは困難であった。
また、カメラで撮影した映像は録画されるが、その録画された映像を観察する場合、映像をはじめから再生する必要があるため、確認作業に時間のかかるものであり、一見して炉壁全体の状況を把握できるものではなかった。
【0005】
これに対して特許文献2のコークス炉の内壁観察方法は、図10(B)に示すように、カメラの向きを炉壁に対して斜めとし、カメラをコークス炉内に挿入し、カメラの位置と対応付けながら炉壁の画像を斜視像として順次撮影する方法である。さらに、その斜視像を画像処理して炉壁を正面から見た視点変換画像(図11(A)参照)を生成し、カメラ位置に従って視点変換画像を張り合わせることで、炉壁全体画像(図11(B)参照)の合成を行うようにしている。なお、カメラは押出機に取り付けられており、押出機の移動によりコークスの押出と炉壁の撮影を同時に行うことを可能としている。
図10(B)に示すように、カメラの向きを炉壁に対して斜めとすれば、撮影できる視野を広くすることができ、炉壁全体について迅速に観察することが可能となる。また、合成された炉壁全体画像により一見して炉壁全体の状況を把握することが可能となる。
【0006】
特許文献2における炉壁観察は、大きく分けて(1)生成した視点変換画像を押出機移動中に観察する即時観察、(2)合成した炉壁全体画像を押出機の運用とは別の時期に観察する後日観察の2種類を行う。
そのため、押出機移動中は所定の間隔で視点変換画像を生成しモニタなどに表示するとともに、その視点変換画像を一時記憶しておき、その後、一時記憶された視点変換画像から炉壁全体画像を合成する。この際、視点変換画像を生成する間隔として、カメラ位置を基準に既定の位置間隔で生成を行う方法と、撮影時間を基準に既定の時間間隔で生成を行う方法とがある。
【0007】
しかるに、押出機でコークスを押し出す際に、コークスがコークス炉内に詰まり、押出機の移動が止まる押し詰まりの状態が発生する場合があるが、既定の位置間隔で視点変換画像の生成を行う場合、押し詰まりによりカメラ移動が中断すると、その間は視点変換画像が更新されず、即時観察ができなくなるという問題がある。
また、既定の時間間隔で視点変換画像の生成を行う場合、押し詰まりによりカメラ移動が中断すると、カメラが止まった同じ位置での視点変換画像を一時記憶し続けることとなり、炉壁全体画像の合成に必要のない視点変換画像まで記憶してしまうことでハードウエア資源を必要以上に消費してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−252242号公報
【特許文献2】特許第2664494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、カメラ移動の状態によらず、随時視点変換画像を更新することができ、かつ、ハードウエア資源の消費を低減できるコークス炉壁観察方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のコークス炉壁観察方法は、カメラをコークス炉内に挿入し、該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置と対応付けながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影し、該撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が所定の位置間隔のものを、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成することを特徴とする。
第2発明のコークス炉壁観察方法は、カメラをコークス炉内に挿入し、該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置と対応付けながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影し、該撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が前回一時記憶した視点変換画像の位置から所定の位置間隔だけ移動したものを一時記憶し、前記一時記憶された視点変換画像を、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成することを特徴とする。
第3発明のコークス炉壁観察方法は、第1または第2発明において、前記位置間隔が、前記視点変換画像のコークス炉炉長方向の長さに対する割合で定められることを特徴とする。
第4発明のコークス炉壁観察装置は、コークス炉内を移動しながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影するカメラと、該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置を計測する位置検出手段と、前記カメラで撮影した前記炉壁の斜視像と、前記位置検出手段で計測した前記カメラの位置とを取り込み、画像処理を行う画像処理手段とを備えるコークス炉壁観察装置であって、前記画像処理手段は、前記撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が所定の位置間隔のものを、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成することを特徴とする。
第5発明のコークス炉壁観察装置は、コークス炉内を移動しながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影するカメラと、該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置を計測する位置検出手段と、前記カメラで撮影した前記炉壁の斜視像と、前記位置検出手段で計測した前記カメラの位置とを取り込み、画像処理を行う画像処理手段とを備えるコークス炉壁観察装置であって、前記画像処理手段は、前記撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が前回一時記憶した視点変換画像の位置から所定の位置間隔だけ移動したものを一時記憶し、前記一時記憶された視点変換画像を、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成することを特徴とする。
第6発明のコークス炉壁観察装置は、第4または第5発明において、前記画像処理手段は、前記炉壁全体画像の合成に際し、前記位置間隔が、前記視点変換画像のコークス炉炉長方向の長さに対する割合で定められることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、所定の時間間隔ごとに視点変換画像を生成するので、押し詰まりによりカメラの移動が止まったり、コークス炉内の同じ位置を何度も通過したりしても、視点変換画像を所定の時間間隔で更新することができる。そして、所定の位置間隔の視点変換画像から壁全体画像を合成するので、炉壁全体画像に必要な視点変換画像のみを扱うことができ、ハードウエア資源の消費を低減することができる。
第2発明によれば、所定の時間間隔ごとに視点変換画像を生成するので、押し詰まりによりカメラの移動が止まったり、コークス炉内の同じ位置を何度も通過したりしても、視点変換画像を所定の時間間隔で更新することができる。そして、所定の位置間隔の視点変換画像のみを一時記憶するので、一時記憶する視点変換画像の数を抑えることができる。また、炉壁全体画像に必要な視点変換画像のみが一時記憶されているので、炉壁全体画像を合成する処理の時間を低減できる。
第3発明によれば、位置間隔が、視点変換画像の炉長方向の長さに対する割合で定められ、その割合を調整することにより、炉壁全体画像を合成する隣り合う視点変換画像の重なり幅が変わるため、炉壁全体画像の解像度と、一時記憶する視点変換画像の数を設定することができる。
第4発明によれば、所定の時間間隔ごとに視点変換画像を生成するので、押し詰まりによりカメラの移動が止まったり、コークス炉内の同じ位置を何度も通過したりしても、視点変換画像を所定の時間間隔で更新することができる。そして、所定の位置間隔の視点変換画像から壁全体画像を合成するので、炉壁全体画像に必要な視点変換画像のみを扱うことができ、ハードウエア資源の消費を低減することができる。
第5発明によれば、所定の時間間隔ごとに視点変換画像を生成するので、押し詰まりによりカメラの移動が止まったり、コークス炉内の同じ位置を何度も通過したりしても、視点変換画像を所定の時間間隔で更新することができる。そして、所定の位置間隔の視点変換画像のみを一時記憶するので、視点変換画像を一時記憶する領域の消費を抑えることができる。また、炉壁全体画像に必要な視点変換画像のみが一時記憶されているので、炉壁全体画像を合成する処理時間を低減できる。
第6発明によれば、位置間隔が、視点変換画像の炉長方向の長さに対する割合で定められ、その割合を調整することにより、炉壁全体画像を合成する隣り合う視点変換画像の重なり幅が変わるため、炉壁全体画像の解像度と、一時記憶する領域の大きさを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るコークス炉壁観察装置の構成図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】炉壁画像の一例の説明図である。
【図3】視点変換画像の座標から炉壁画像の座標への座標変換の説明図である。
【図4】カメラ、その光学系および炉壁の位置関係の説明図である。
【図5】カメラ、その光学系および炉壁の位置関係の説明図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図6】視点変換画像の一例の説明図である。
【図7】炉壁全体画像の一例の説明図である。
【図8】視点変換画像の一時記憶のタイミングの説明図である。
【図9】視点変換画像の炉長方向の長さおよび位置間隔の説明図である。
【図10】従来技術のカメラの取り付け向きの説明図である。
【図11】従来技術の(A)視点変換画像および(B)炉壁全体画像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、コークス炉10は高さ数メートル、奥行き十数メートルの対となるレンガ造りの炉壁11が数十センチメートルの間隔を隔てて設けられた、狭窄な炉である。コークス炉10内で製造されたコークスCは、コークス炉10の片側の炉入口12から押出機20が挿入されることにより反対側の炉出口13へと押し出される。
押出機20は、押板21とビーム22とからなり、ビーム22が図示しない駆動装置に接続されており、この駆動装置の動作により押板21がコークス炉10の炉入口12から炉出口13まで移動自在となっている。押板21がコークス炉10の断面と同形状をしているため、押板21の移動によりコークスCを押し出すことができる。
【0014】
本発明の一実施形態に係るコークス炉壁観察装置は、押出機20の押板21に取り付けられたカメラ30と、押出機20のビーム22の移動量から、カメラ位置を計測するエンコーダ40と、カメラ30からの炉壁画像とエンコーダ40からのカメラ位置情報を取り込み、画像処理を行うコンピュータ50とからなる。
【0015】
カメラ30は、押板21の背面に取り付けられており、コークスCの押出方向と逆方向(図1の右方向)を向くように取り付けられている。これは、カメラ30を押板21の前面に取り付けるとコークスCに阻まれて炉壁11の撮影ができないからである。カメラ30には、1台のカメラで両側の炉壁を撮影できるように、広角のレンズが取り付けられている。また、押出機20は赤熱したコークス炉10内(1000℃程度)に挿入されるため、カメラ30には冷却ボックスの中に設置するなどの熱対策が施されている。
【0016】
エンコーダ40は、ビーム22の挿入距離を計測することが可能な位置検出装置であり、ビーム22の挿入距離から、カメラ30のコークス炉10内の炉長方向の挿入位置を計測するものである。
【0017】
カメラ30およびエンコーダ40はコンピュータ50とケーブル31、41を介して接続されており、カメラ30で撮影された炉壁画像、およびエンコーダ40で計測されたカメラ位置情報はコンピュータ50に取込可能となっている。
コンピュータ50は主に、CPU51、メモリ52、ハードディスク53、モニタ54からなり、炉壁画像とカメラ位置情報から後述する画像処理を行い、その結果をモニタ54に表示する。
【0018】
つぎに、本発明の一実施形態に係るコークス炉壁観察装置を用いた炉壁観察について説明する。
炉壁観察は大きく分けて、(1)炉壁画像から視点変換画像を生成し、その視点変換画像を押出機移動中に観察する即時観察、(2)視点変換画像から炉壁全体画像を合成、保存し、その炉壁全体画像を押出機の運用とは別の時期に観察する後日観察の2種類を行う。
【0019】
(1)即時観察
即時観察は、押出機20の運転者などが、コークス押出のための押出機の通常運用を行う際に同時に行う観察である。
【0020】
まず、押出機20とともにカメラ30をコークス炉10内に挿入し、カメラ30で撮影した炉壁画像OI(図2参照)を、ケーブル31を介してコンピュータ50のメモリ52に取り込む。
この際に得られる炉壁画像OIは、図2に示すように、カメラ30はコークスCの押出方向と逆方向を向くように取り付けられているため、炉壁画像OIの中央には炉入口12が映し出される。また、カメラ30には広角レンズが取り付けられているため左右の炉壁11が、炉壁画像OIの左右に映し出される。なお図中、14はコークス炉の天井、15はコークス炉の底である。実際には、押出機20のビーム22も映し出されるが、説明のため省略してある。
【0021】
炉壁画像OIにより炉壁11の状態を観察することが可能であるが、炉壁画像OIにおいて炉壁11は斜視像として映し出されるため、これを炉壁11の正面から見た画像とした方が、観察が行いやすい。
そこで、CPU51によりメモリ52に記憶された炉壁画像OIを視点変換処理して、炉壁11を正面から見た視点変換画像TIを生成する。
【0022】
視点変換処理は例えば以下のように行われる。
一般に、画像処理により画像を変換して新たな画像を生成する場合、変換後の画像の各画素が変換前の画像のどの画素を参照すればよいかが分かればよい。すなわち、本実施形態の場合、視点変換画像TIの各画素が炉壁画像OIのどの画素を参照すればよいかが分かればよい。そのためには、図3に示すように、視点変換画像TI上の座標から炉壁画像OI上の座標を参照するための座標変換を導くことが必要である。
ここで、カメラ30がCCDカメラである場合、視点変換画像TI上の座標から炉壁画像OI上の座標への座標変換とは、炉壁11上のある点から出た光がカメラ30のCCD上のどこへ到達するか、という問題に置き換えることができる。つまり、カメラ30、その光学系および炉壁11の特性値および位置関係から座標変換を導くことができる。
【0023】
図4において、sx はカメラ30のCCDの幅[mm]、sy はCCDの高さ[mm]、f はCCD面から光学中心までの距離[mm]、d はカメラ30と炉壁11との距離[mm]、A は光学中心から炉壁11上へ垂線を下ろした時の交点、B はカメラ30で撮影可能な炉壁11上の最近接位置、D は点A から点B までの距離(最近接距離)である。
以上の通りに定義した場合、最近接距離 D[pixel] は、炉壁画像OI上での画素スケールを k[mm/pixel]とすると次式で与えられる(図5(A)参照)。
【数1】

【0024】
炉壁11上(すなわち視点変換画像TI上)のある点(x,y)[pixel]を出た光は、光学中心を通り、CCD面上(すなわち炉壁画像OI上)の点(u,v)[pixel]に到達する。
このように、光学中心を通る光線のみで撮像系をモデル化する手法をピンホールカメラモデルによるモデル化という。
図5(A)より、x から u への変換は以下の通りに記述できる。
【数2】

ここで、nx はCCDの幅方向の画素数であり、k’=sx/nx である。
また、図5(B)より、y から v への変換は以下の通りに記述できる。
【数3】

ここで、ny はCCDの高さ方向の画素数であり、k’’=sy/ny である。
これら数2、数3が視点変換画像TI上の座標から炉壁画像OI上の座標への座標変換となる。
【0025】
数2、数3で表わされる座標変換を、視点変換画像TIの全画素について計算し、求めた座標から炉壁画像OI上の色情報を参照して視点変換画像TIの色情報とすることで、視点変換画像TIを生成することができる。
しかしながら、この座標変換に要する計算コストは非常に大きい。またカメラ30などのハードウエアや、カメラ30と炉壁11との距離が変化しない限り、座標変換のためのパラメータも変化しないため、視点変換画像TIを生成するたびに同じ計算を繰り返すことは無駄である。
そこで、視点変換画像TIの全画素について一度だけ座標変換の演算を行い、その結果を保存しておくことが好ましい。より具体的には、視点変換画像TIの各画素に対応する炉壁画像OI上の座標をテーブル(以下、座標変換テーブルとする。)として生成し、ハードディスク53に保存しておく。通常運用時の視点変換処理においてはこの座標変換テーブルを参照し、視点変換画像TIの各画素の色情報を炉壁画像OIの対応する画素の色情報とすることで、視点変換処理を高速に行うことができる。
【0026】
なお、座標変換テーブルにサブピクセル単位(画素をより細分化した単位)での座標を格納しておけば、その座標の4近傍画素の色情報を内挿することにより、より鮮明な視点変換画像TIを生成することができる。
【0027】
以上の視点変換処理で生成された視点変換画像TIは図6に示すようになる。図6は片方の炉壁11に対する視点変換画像TIであるが、同様の視点変換画像TIを、左右の炉壁11それぞれに対して1枚得ることができる。図6に示される視点変換画像TIとして映し出される炉壁11の範囲は、図4に示す視野Vに対応する。カメラ30の手前側の手前側画像では、カメラ30の上下の視野角の範囲外となる視野範囲外領域O(上下一対の三角形の領域)が現れる。そのため、視点変換画像TIは、その手前側画像は高さ方向の視野が狭く、カメラ30から奥側の奥側画像は高さ方向の視野が広くなる。
【0028】
以上の炉壁画像OIの撮影と、視点変換画像TIの生成は、押出機20の移動中に一定の時間間隔で行われ、それにより得られる炉壁画像OIと視点変換画像TIはコンピュータ50のモニタ54に随時表示される。押出機20の運転者は、押出機20を運転しながら、モニタ54に映し出される画像から炉壁11の状態を観察する。
【0029】
なお、後述の通り、押出機20を移動する間、一定の時間間隔で生成される視点変換画像TIの全てもしくは一部は、炉壁全体画像WIの合成のために、エンコーダ40から得られるカメラ位置情報とともにメモリ52に一時記憶されていく。
【0030】
(2)後日観察
後日観察は、視点変換画像TIから炉壁11全体の画像を合成し、それを炉壁全体画像WIとして保存しておき、押出機の運用とは別の時期にその炉壁全体画像WIを用いて行う観察である。炉壁全体画像WIは、一見して炉壁11全体の状況を把握することを容易にするために生成される。
【0031】
前述の即時観察において、押出機20の移動が炉入口12から炉出口13まで完了すると、コークス炉10の全長にわたり、炉長方向の所定間隔ごとに視点変換画像TIが生成され、その視点変換画像TIに対応するカメラ位置情報とともにメモリ52に一時記憶された状態となる。
CPU51は、このメモリ52に一時記憶された視点変換画像TIを、それに対応するカメラ位置情報をもとに適当な位置に配置し、つなぎ合せることで、炉壁全体画像WIを合成する。
【0032】
合成された炉壁全体画像WIは図7に示すようになる。炉壁全体画像WIは、複数の視点変換画像TIがそれ対応するカメラ位置情報にもとづいて配置され、つなぎ合わされることで、コークス炉10の全長にわたった、炉壁11全体の画像となる。
【0033】
また、炉壁全体画像WIは、ハードディスク53に記憶され、押出機の運用とは別の時期に炉壁11の状態を観察する際に、モニタ54に表示され、観察が行われる。
【0034】
ところで、即時観察において、視点変換画像TIは一定の時間間隔で生成されるので、押出機20が一定の速度で移動する場合は、一定の位置間隔ごとに生成されることになる。この場合、図7に示すように、炉壁全体画像WIは視点変換画像TIが一定の位置間隔ごとに配置されることにより合成される。
ところが、押出機20でコークスCを押し出す際に、コークスCがコークス炉10内に詰まり、押出機20の移動が止まる押し詰まりの状態が発生する場合があり、また、この押し詰まりを解消するため、押出機20を引き戻してから再度押し出しを行う場合がある。この場合、押出機20は一定の速度で移動することはできない。
【0035】
押し詰まりが発生しているにもかかわらず、炉壁全体画像WIの合成のために、一定の時間間隔で生成される視点変換画像TIを全てメモリ52に一時記憶していくと、カメラ30が止まった同じ位置、もしくはほとんど変わらない位置での視点変換画像TIが一時記憶されることになる。これらの視点変換画像TIは、その大部分が他の視点変換画像TIと重なるので炉壁全体画像WIの合成に必要のない画像であり、この不要な視点変換画像TIをメモリ52に一時記憶することは、メモリ52領域を必要以上に消費してしまうことになる。
また、押出機20が一定の速度で移動する場合でも、押出機20の移動速度に比べて視点変換画像TI生成の時間間隔が短い場合は、カメラ位置がほとんど変わらない視点変換画像TIが生成されるため、それらをメモリ52に一時記憶することは、メモリ52領域を必要以上に消費してしまうことになる。
【0036】
そこで、一定の時間間隔で生成される視点変換画像TIを全てメモリ52へ一時記憶するのではなく、そのうちの炉壁全体画像WIの合成に必要な視点変換画像TIのみを一時記憶する。
より具体的には、一定の時間間隔で視点変換画像TIを生成しつづけ、そのうちカメラ位置が前回一時記憶した視点変換画像TIの位置から既定の位置間隔 d だけ移動した視点変換画像TIのみをメモリ52に一時記憶する。そして、メモリ52に一時記憶された視点変換画像TIを用いて炉壁全体画像WIを合成する。
【0037】
視点変換画像TIのメモリ52への一時記憶のタイミングを、押出機20の動きを例示して説明すると以下の通りとなる。
図8(A)に示すように、押出機20の移動が一定の速度であり、視点変換画像TI生成の時刻およびその時刻のカメラ位置が、(時刻,位置)として、(T,X0)、(T+t,X1)、 (T+2t,X2)、(T+3t,X3)、(T+4t,X4)であるとし、また、それぞれの時刻で生成された視点変換画像が TI0、TI1、TI2、TI3、TI4であるとする。
この場合、時刻 T において位置 X0 での視点変換画像 TI0 をメモリ52に一時記憶すると、時刻 T+t では、位置 X1 と前回一時記憶した視点変換画像 TI0 の位置 X0 との間隔、すなわち X1-X0 が既定の位置間隔 d よりも短いので、視点変換画像 TI1 を一時記憶しない。時刻 T+2t では、X2-X0 が d よりも長くなるので、視点変換画像 TI2 を一時記憶する。つぎに、位置間隔 d の基点が X0 から X2 へと変わり、時刻 T+3t では、X3-X2 が d よりも短いので、視点変換画像 TI3 を一時記憶せず、時刻 T+4t では、X4-X2 が d よりも長いので、視点変換画像 TI4 を一時記憶する。
ここで、視点変換画像TIを一時記憶する位置間隔は、X2-X0 もしくは X4-X2 であり、これらは位置間隔 d よりも長い間隔となる。しかし、押出機20の移動速度に比べて視点変換画像TI生成の時間間隔が短い場合は、X2-X0 および X4-X2 と位置間隔 d はほぼ同じ長さとなる。
【0038】
押し詰まりが発生する例として、図8(B)に示すように、視点変換画像TI生成の時刻およびその時刻のカメラ位置が、(時刻,位置)として、(T,X0)、(T+t,X1)、(T+2t,X2)、(T+3t,X3)、(T+4t,X4)、(T+5t,X5)であるとし、また、それぞれの時刻で生成された視点変換画像が TI0、TI1、TI2、TI3、TI4、TI5であるとする。また、時刻 T+2t で押し詰まりが発生し押出機20の移動が止まり、時刻 T+3t にかけて押出機20を引き戻しているとする。
この場合、時刻 T において位置 X0 での視点変換画像 TI0 をメモリ52に一時記憶すると、時刻 T+t では、位置 X1 と前回一時記憶した視点変換画像 TI0 の位置 X0 との間隔、すなわち X1-X0 が既定の位置間隔 d よりも短いので、視点変換画像 TI1 を一時記憶しない。時刻 T+2t においても、押し詰まりにより、まだ X2-X0 が d よりも短いので、視点変換画像 TI2 を一時記憶しない。時刻 T+3t においても、引き戻しにより、まだ X3-X0 が d よりも短いので、視点変換画像 TI3 を一時記憶せず、時刻 T+4t において、押出機20は押出方向に移動するが、まだ X4-X0 が d よりも短いので、視点変換画像 TI4 を一時記憶しない。時刻 T+5t では、X5-X0 が d よりも長くなるので、視点変換画像 TI5 を一時記憶する。
【0039】
以上のようにすることで、一定の時間間隔ごとに視点変換画像TIを生成するので、カメラ30が一定の速度で移動する場合でも、押し詰まりによりカメラ30の移動が止まったり、押出機20を引き戻してから再び押し出すことによりコークス炉10内の同じ位置を何度も通過したりしても、モニタ54に表示する視点変換画像TIを一定の時間間隔で更新することができる。また、一定の位置間隔の視点変換画像TIのみをメモリ52に一時記憶するので、メモリ52領域の消費を抑えることができる。さらに、炉壁全体画像WIに必要な視点変換画像TIのみが一時記憶されているので、不要な視点変換画像TIまで扱う場合に比べて、炉壁全体画像WIを合成する際のCPU51の処理時間を低減できる。すなわち、カメラ30の移動の状態によらず、随時視点変換画像TIを更新することができ、かつ、ハードウエア資源の浪費を低減することができる。
【0040】
なお、図9に示すように、位置間隔 d は、視点変換画像TIの炉長方向の長さ D を基準に、その割合から定めればよい。
視点変換画像TIは、元が斜視像であるため、カメラ30の手前側(図9の左側)の領域の方が奥側(図9の右側)の領域に比べて解像度が高くなる。炉壁全体画像WIを合成する場合には、このカメラ30手前側の領域を使用することになるが、位置間隔 d の設定により、隣り合う視点変換画像TI同士の重なり幅が変わるため、どこまで解像度の高い領域を使用するかが決定されることになる。すなわち、長さ D に対する位置間隔 d の割合が小さい場合は、高解像度の炉壁残体画像WIを合成することができるが、その場合、メモリ52に一時記憶する視点変換画像TIの数が多くなるので、メモリ52領域を多く使用することになる。逆に、長さ D に対する位置間隔 d の割合が大きい場合は、メモリ52に一時記憶する視点変換画像TIの数が少なくなるので、メモリ52領域の使用を少なくできるが、低解像度の領域まで用いて炉壁残体画像WIを合成することになる。すなわち、位置間隔 d により炉壁全体画像WIの解像度と、使用するメモリ52領域を設定することができるので、位置間隔 d はこれらを勘案し、設定する必要がある。
【0041】
(他の実施形態)
前述の実施形態おいて、カメラ30には広角レンズが取り付けられているが、これに代えて、2台のカメラで左右の炉壁を斜視像として撮影する実施形態としてもよい。さらに必要であれば、カメラを高さ方向に複数台取り付け、高さ方向の撮影可能範囲を広くしてもよい。
また、前述の実施形態おいて、すべての視点変換画像TIを生成した後に炉壁全体画像WIを合成するとしたが、これに限られず、視点変換画像TIを生成しながら炉壁全体画像WIを合成する実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
OI 炉壁画像
TI 視点変換画像
WI 炉壁全体画像
V 視野
O 視野範囲外領域
10 コークス炉
11 炉壁
20 押出機
30 カメラ
40 エンコーダ
50 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラをコークス炉内に挿入し、
該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置と対応付けながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影し、
該撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、
前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が所定の位置間隔のものを、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成する
ことを特徴とするコークス炉壁観察方法。
【請求項2】
カメラをコークス炉内に挿入し、
該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置と対応付けながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影し、
該撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、
前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が前回一時記憶した視点変換画像の位置から所定の位置間隔だけ移動したものを一時記憶し、
前記一時記憶された視点変換画像を、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成する
ことを特徴とするコークス炉壁観察方法。
【請求項3】
前記位置間隔が、前記視点変換画像のコークス炉炉長方向の長さに対する割合で定められる
ことを特徴とする請求項1または2記載のコークス炉壁観察方法。
【請求項4】
コークス炉内を移動しながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影するカメラと、
該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置を計測する位置検出手段と、
前記カメラで撮影した前記炉壁の斜視像と、前記位置検出手段で計測した前記カメラの位置とを取り込み、画像処理を行う画像処理手段とを備えるコークス炉壁観察装置であって、
前記画像処理手段は、
前記撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、
前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が所定の位置間隔のものを、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成する
ことを特徴とするコークス炉壁観察装置。
【請求項5】
コークス炉内を移動しながら、コークス炉内の炉壁を斜視像として所定の時間間隔ごとに順次撮影するカメラと、
該カメラのコークス炉内におけるカメラ位置を計測する位置検出手段と、
前記カメラで撮影した前記炉壁の斜視像と、前記位置検出手段で計測した前記カメラの位置とを取り込み、画像処理を行う画像処理手段とを備えるコークス炉壁観察装置であって、
前記画像処理手段は、
前記撮影とともに前記炉壁の斜視像を視点変換処理して、炉壁を正面から見た視点変換画像を生成し、
前記視点変換画像のうち前記カメラ位置が前回一時記憶した視点変換画像の位置から所定の位置間隔だけ移動したものを一時記憶し、
前記一時記憶された視点変換画像を、対応する前記カメラ位置をもとにつなぎ合せることで炉壁全体画像を合成する
ことを特徴とするコークス炉壁観察装置。
【請求項6】
前記画像処理手段は、
前記炉壁全体画像の合成に際し、
前記位置間隔が、前記視点変換画像のコークス炉炉長方向の長さに対する割合で定められる
ことを特徴とする請求項4または5記載のコークス炉壁観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−126989(P2011−126989A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286422(P2009−286422)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(502369746)住友重機械プロセス機器株式会社 (29)
【Fターム(参考)】