説明

コークス製造方法

【課題】粘結材を石炭に配合することによりコークス強度が向上し、それでいて軟化溶融時の膨張圧が高くなるのを極力抑制し、同時に炉幅方向のコークス収縮率を向上できるコークス製造方法を提供する。
【解決手段】石炭に粘結材を配合してコークスを製造する。粘結材の平均粒子径を所定以下に調整して、コークスの炉幅方向の収縮率を大きくすることを特徴とするコークス製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコークス製造方法に関し、詳しくは、石炭に粘結材を配合して製造するコークス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークスを製造するに際して、適切な量の粘結材を石炭に配合することで、コークスの強度(ドラム指数)が向上することが知られている(例えば、下記非特許文献1)。また、適切な量の粘結材を石炭に配合することで、コークスが高炉内で晒される状態を加味したコークスの品質評価の1つである二酸化炭素によるガス化反応後のコークス強度(CSR)が向上することが知られている(例えば、下記非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1には、石炭液化の際に副生する重質成分であるSRC(solvent refined coal)を石炭に添加した際の品質向上効果(コークスの冷間、熱間強度の向上)が示されている。その理由として、低軟化点材料の添加により装入炭の粒子間摩擦が減り、炭化室内で装入密度が向上すること、SRCが石炭と相溶することにより軟化溶融過程での膨張性が増大すること、生成コークスの光学的異方性組織の発達により高石炭化度炭に相当するコークス組織が増加すること、等が記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、粘結材を石炭に配合してコークスを製造すると、膨張率および膨張圧が大きくなることが記載されている。
【0005】
【非特許文献1】「石炭・コークス」2002年発行、発行所:日本鉄鋼協会、4.4配合、乾留、事後処理によるコークス品質制御技術p119〜120
【非特許文献2】「鉄と鋼」第63巻 S87、1977年発行、発行所:日本鉄鋼協会、“各種コークス用粘結剤の性状比較”p87
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、粘結材を石炭に配合することによりコークス強度が向上することは、上記文献により知られている。しかしながら、コークス炉への装入炭に各種粘結材を配合すると、前記装入炭が軟化溶融したときの膨張圧が高くなる(例えば、非特許文献2)ことから、過度の膨張圧によるコークス炉炭化室炉壁への押圧は、コークス炉炉壁の変形による崩壊にも繋がるため、過度の膨張圧は炉の保全上好ましくない。また、膨張圧が高くなると、コークスの収縮率は小さくなる傾向にあり、炉壁とコークスケーキとの間隙が狭くなる。その結果、乾留が完了したコークスを炭化室内から押出し排出する際にコークスケーキと炉壁との摩擦抵抗が上がり、円滑なコークスケーキの押出しの障害となる。このように過度の膨張圧と炉幅方向のコークス収縮率の低下は、コークス炉の炭化室の炉壁に過剰な負担がかかり、炉寿命の観点からは好ましいものではない。
【0007】
そこで、本願発明者らは、石炭に配合する粘結材の粉砕粒度がコークスの収縮率に対して与える影響について鋭意研究し、粘結材の粉砕粒度を調整することにより、膨張圧が高くなるのを抑制でき、収縮率の大きいコークスが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、粘結材を石炭に配合することによりコークス強度が向上し、それでいて軟化溶融時の膨張圧が高くなるのを極力抑制し、同時に炉幅方向のコークス収縮率を向上できるコークス製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、各請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係るコークス製造方法の特徴構成は、石炭に粘結材を配合してコークスを製造する方法において、粘結材の平均粒子径を所定以下に調整して、コークスの炉幅方向の収縮率を大きくすることにある。
【0010】
この構成によれば、石炭に粘結材を配合してコークスの強度(ドラム指数)を効果的に向上させることができると共に、粘結材を配合したことに起因して石炭が軟化溶融した際の膨張率および膨張圧が大きくなることと同時に、炉幅方向のコークス収縮率が小さくなることを抑制することができ、粘結材を配合したことによる炉寿命に与える悪影響を効果的に低減できる。
【0011】
その結果、粘結材を石炭に配合することによりコークス強度が向上し、それでいて軟化溶融時の膨張圧が高くなるのを極力抑制し、同時に炉幅方向のコークス収縮率を向上できるコークス製造方法を提供することができた。
【0012】
前記粘結材の平均粒子径が、4.6mm以下であることが好ましい。
【0013】
粘結材の平均粒子径が4.6mm以下であると、コークスの強度(ドラム指数)を確実に向上させ、それでいて石炭が軟化溶融した際の膨張圧が高くなること、及びコークスの炉幅方向の収縮率が小さくなることを、実生産上支障のない程度に抑制することができる。より好ましくは、粘結材の平均粒子径が2.4mm以下であり、より一層好ましくは0.8mm以下である。
【0014】
前記石炭への粘結材の配合割合は5%以下であることが好ましい。
【0015】
石炭への粘結材の配合割合がこの範囲であると、好適にドラム指数を高めることができ、それでいて石炭が軟化溶融した際の膨張圧が高くなること、およびコークスの炉幅方向の収縮率が小さくなることを、実生産上支障のない程度に抑制することができる。粘結材の配合割合が5%を越えると、石炭が軟化溶融した際の膨張圧が高くなり易い。より好ましくは、粘結材の配合は2〜5%である。粘結材の配合割合が2%未満であると、コークスのドラム指数が高くなり難い。
【0016】
前記粘結材としては、アスファルトを熱分解して得られるピッチを好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。まず、冶金用コークスの製造工程を図1により簡単に説明する。
【0018】
<コークスの製造工程>
岸壁に接岸した石炭運搬船1から石炭が陸上げされ、貯炭場2において、石炭の性状(銘柄)ごとに貯蔵される。貯炭場2に貯蔵されている石炭は、銘柄ごとに必要な分量がリクレーマーで払い出され、ベルトコンベアにより配合槽3へと送り出される。配合槽3は複数槽を有しており、1つの配合槽に1つの銘柄の石炭が貯蔵される。石炭は、その性状によりコストの高低があり、品質のよいコークスを安価なコストで製造するために、複数の配合槽3から性状の異なる石炭を最適な配合比率で切り出し、コークス製造用の原料炭としての配合が完了する。
【0019】
すなわち、コークス製造には、種々の種類(銘柄)の石炭を海外から輸入し、銘柄ごとに貯炭場2に貯蔵する。これは、各炭鉱で採掘される石炭は、炭鉱ごとに性状が異なり、性状が異なれば製造されるコークスの性状も異なるため、複数の石炭を配合することで、最も安価なコストでユーザーから要求されるコークス性状(品質)を満足することが必要となるためである。
【0020】
粉砕設備4には、公知の粉砕機が設けられており、配合された石炭の粉砕処理を行う。粉砕設備4において粉砕された石炭は、ベルトコンベア等によりコークス炉6へと移送される。移送された石炭は、コールビン(石炭塔)6aに一旦貯蔵された後、装入車6bによりコークス炉6に装入され、約20時間乾留(蒸し焼き)される。乾留された石炭はコークスとなり、押出機6cによりコークス炉外に押し出される。得られた製品コークスは、最終的に高炉へと送り込まれる。
【0021】
押出機6cによるコークス押し出し時に炭化室炉壁に対する圧力(側圧)が高すぎると、炭化室炉壁に少なくない負荷を与え、炉の詰まり現象(押し詰まりや押し止め)が生じたり、炉壁に損傷を与えたりし、炉寿命を低下させることになる。そのため、コークスの炭化室炉幅方向の収縮率は大きいことが望ましい。
【0022】
<実験結果>
本発明において、石炭を粉砕する粉砕設備4によりアスファルト熱分解ピッチ(ASP)を粉砕することができる。石炭にアスファルト熱分解ピッチを配合することにより、コークス強度を向上させることは知られている。
【0023】
しかしながら、上記したように、コークス炉装入炭に各種粘結材を配合すると、装入炭が軟化溶融したときの膨張率および膨張圧が大きくなることが知られており(非特許文献2)、膨張圧が高くなると、コークスの収縮率は小さくなる傾向にあり、その結果、コークス炉の炭化室炉壁に過剰な負担がかかり、炉寿命に悪影響を及ぼす。
【0024】
そこで、アスファルト熱分解ピッチの粉砕粒度を制御することにより、石炭が軟化溶融した際の膨張圧が高くなるのを抑制し、コークスの炉幅方向の収縮率が低下するのを抑制できないかと考え、これを実験的に確認した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、粒度の異なるアスファルト熱分解ピッチを調整した(3種類)。すなわち、アスファルト熱分解ピッチを入手して、これを粒度分布が変わるように粉砕し、3種類のアスファルト熱分解ピッチ試料(ピッチ4.6、ピッチ2.4、ピッチ0.8)を得た。各試料の平均粒子径と3mm以下の粒度割合を表1に示す。平均粒子径は、JIS Z8801−1に準拠した篩により篩い分けを行い、フラクション毎の中間値と、その粒度割合から加重平均値として算出した。試料名として、右下に平均粒子径を添字で示している。
【0027】
【表2】

【0028】
表2には、アスファルト熱分解ピッチを配合していない配合炭(比較例)と、その配合炭に上記表1で示すアスファルト熱分解ピッチ試料をそれぞれ2.0%配合した試料(実施例1,2,3)及び5.0%配合した試料(実施例4,5,6)とを準備した。
【0029】
幅430mm、高さ900mm(有効高さ800mm)、長さ1200mmの炭化室を有する中規模試験炉を用い、上記表2の試料を試料水分が7.5%となるように調整した後、嵩密度735kg/m3で充填し、炉温1010℃で約18時間乾留し、窯出し後、湿式冷却を行ってコークスを得た。
【0030】
コークスの炉幅方向の収縮率の測定は、図2に示すように、コークス塊11の炉幅方向の最も長い部分の長さ(L1 +L2 )をノギスにて測定して乾留後のコークスの炉幅方向の長さ(Wcoke)とし、乾留前の石炭層幅(Wcoal)に対して、下記式でコークスの炉幅方向の収縮率を算出した。ここに、図番12は、炭化室の炉壁であり、Sは乾留後に生じた中央部の焼き減りであり、pは炭化室の炉壁とコークス塊11との間隙を示す。なお、この測定は得られた全てのコークスについて実施した。
【0031】
コークスの炉幅方向の収縮率[%]=(Wcoal−Wcoke)×100/Wcoal
coal:乾留前の石炭層幅[mm]
coke:乾留後のコークスの炉幅方向の長さ[mm]=Wcoal−S−2p
ドラム指数については、次のように測定した。得られたコークスを、高さ2mから2回落下させた後に、コークス強度をJIS K2151に準じて、ドラム指数DI15015(150回転後における粒径15mm以上の割合(質量%))を測定した。各実験例それぞれから8回サンプルを採取、測定した。測定結果からドラム指数平均値を算出した。
【0032】
次に、上記石炭試料について、その膨張圧を以下に示す方法で測定した。その測定方法としては、直径14mm、長さ150mmの試験管14にて、表2に示す各石炭試料の試料水分を7.5%に調整した後、試料高さが35mmとなるように、嵩密度780kg/m3 で石炭試料(約4.6g)16を充填して行った。
【0033】
すなわち、図3に示すように、予め150℃に昇温した電気炉13内に試験管14を配置して、試験管14に各石炭試料16を充填し、試験管14内部にピストン15を挿入し、ピストン上部に700gの荷重Mを掛け、更にその上にロードセルCを設置した。その後、各石炭試料16を150℃から600℃まで、昇温速度約3℃/分で昇温し、その間の石炭試料16の膨張圧をロードセルCに接続した記録計(図示略)にて記録した。その結果を表3に示す。表3で、炉幅方向の収縮率は、各実験例それぞれの平均値を表す。なお、図3で図番17は、石炭試料16中に含まれるアスファルト熱分解ピッチを模式的に表す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3より、炉幅方向の収縮率はアスファルト熱分解ピッチを配合すると、配合しない場合に比べて小さくなるが、同一の配合割合の場合を比較すると、アスファルト熱分解ピッチの平均粒子径を小さくした方がコークスの炉幅方向の収縮率の大きいコークスが得られることが判る。実施例1〜6に示す炉幅方向の収縮率程度であれば、実生産上とくに支障はない。
【0036】
ドラム指数は、アスファルト熱分解ピッチを配合することにより、配合しない場合に比べて高くなり、同一の配合割合で比較するとアスファルト熱分解ピッチの平均粒子径を小さくした方が、ドラム指数の高いコークスが得られる。
【0037】
従って、アスファルト熱分解ピッチの配合割合が同じでも、その平均粒子径を小さくした方が炉幅方向の収縮率は高くなり、ドラム指数も高いコークスが得られることが判る。
【0038】
最大膨張圧については、表3から、アスファルト熱分解ピッチを配合することにより、配合しない場合に比べて高くなるが、アスファルト熱分解ピッチの平均粒子径を小さくすることにより、最大膨張圧が高くなるのを抑制できることが判る。実施例1〜6に示す最大膨張圧程度であれば、実生産上とくに支障はない。
【0039】
以上に示したように、本実施形態によれば、新たな設備を導入するなど、多大な費用をかけることなく、粘結材の粉砕粒度を調整することにより、最大膨張圧が高くなるのを抑制できて、しかも炉幅方向の収縮率の大きいコークスが得られることが判る。
【0040】
〔別実施の形態〕
上記実施形態において、冶金用コークスの製造工程として説明を行ったが、冶金用以外のコークス製造の場合にも本発明は応用できるものである。また、粘結材としてアスファルト熱分解ピッチを例に挙げて説明したが、軟化点が200℃までの粘結材であれば、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るコークス製造方法の概略工程を説明する図
【図2】コークスの炉幅方向の収縮率を測定する方法を説明する模式図
【図3】膨張圧試験装置の概略説明図
【符号の説明】
【0042】
1 石炭運搬船
2 貯炭場
3 配合槽
6 コークス炉
6a コールビン
6b 装入車
6c 押出機
11 コークス塊
13 電気炉
14 試験管
15 ピストン
16 石炭試料
17 粘結材(アスファルト熱分解ピッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭に粘結材を配合してコークスを製造する方法において、粘結材の平均粒子径を所定以下に調整して、コークスの炉幅方向の収縮率を大きくすることを特徴とするコークス製造方法。
【請求項2】
前記粘結材の平均粒子径が、4.6mm以下である請求項1記載のコークス製造方法。
【請求項3】
前記石炭への粘結材の配合割合が5%以下である請求項1又は2記載のコークス製造方法。
【請求項4】
前記粘結材が、アスファルトを熱分解して得られるピッチである請求項1〜3のいずれか1項記載のコークス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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