コーティングされた基板
基板をコーティングする方法が開示されており、該方法は、基板を準備する工程、無機物質の予備形成ナノ粒子を準備する工程、少なくとも一種の第一金属酸化物の前躯体を準備する工程、基板の少なくとも一方の表面に、該表面に第一金属酸化物の前躯体と予備形成ナノ粒子とを接触させることで、コーティングを堆積させる工程を含む。そのような方法を用いてコーティングされた基板も開示されている。コーティングされた基板は着色されている。金属酸化物は、コーティングの熱特性を修正するため、ドープされた金属酸化物が好ましい。好ましいナノ粒子は、白金族金属又は貨幣金属である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をコーティングするための方法、及びコーティングされた基板、特には、コーティングされたガラス等の透明な基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、着色ガラスは、溶融ガラスに、厳密に制御された量で着色剤、通常は金属酸化物を添加することで作製される。また、金属着色剤も使用されている。ローマ人によるソーダ石灰シリカガラスのリュクルゴスカップは、紀元後4世紀に製造されたと考えられる有名な例であり、分析により、このカップは金と銀のコロイド合金(AuとAg、それぞれ40ppmと300ppm)を含んでいることが明らかになっている。該カップは透過光においてルビー色であり、反射光において緑色である。これらの色彩は、少量埋め込まれたAu/Ag合金ナノ粒子により生じる。ローマ人は、貨幣をガラス溶融物に添加することで、これらの高度に着色した物品を製造していた。貨幣は、高温のガラス形成プロセスで溶解し、偶発的にバルクのガラスマトリックスの中に埋め込まれた合金ナノ粒子を形成した。金属ナノ粒子の鮮やかな色彩は、その金属ナノ粒子の形態、サイズ、形状、周囲の媒体の誘電率により制御される表面プラズモン共鳴(SPR)吸収によるものである(G Walters、I.P.Parkin、J.Mater. Chem.2009年 19巻 574〜590ページ)。G WaltersとI.P.Parkinは、Appl. Surf. Sci(2009年)(doi:10.1016/j:apsusc.2009.02.039)で、ナノ粒子と酸化物の溶液前躯体を用いた金属酸化物中のナノ粒子のコーティングの堆積方法について議論している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G Walters and I.P.Parkin、J.Mater. Chem.2009年 19巻 574〜590ページ
【非特許文献2】G Walters and I.P.Parkin、Appl. Surf. Sci 2009年 doi:10.1016/j:apsusc.2009.02.039
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
残念ながら、ガラスを着色する伝統的な方法は、特に大規模にガラスを製造する場合、欠点を有する。というのも、色彩変化後に適切な色彩を達成するためには、ガラス炉で処理される大量のガラスを必要とし、経費と作業の遅延をもたらすからである。また、ナノ粒子コーティングを堆積させる方法も、既知の方法では、質が悪く、又はムラのあるコーティングとなるため、非常に精密なコーティングプロセスの制御を必要とする、という問題がある。
【0005】
これらの問題に対処することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、第一の視点において、基板をコーティングする方法であって、
a) 基板を準備する工程、
b) 無機物質の予備形成ナノ粒子を準備する工程、
c) 第一金属酸化物の前躯体の少なくとも一種を準備する工程、及び
d) 前記基板の少なくとも一方の表面に、該表面に前記金属酸化物の前躯体と予備形成ナノ粒子とを接触させることで、コーティングを堆積させる工程、
を含む方法を提供する。
【0007】
その結果として、金属酸化物と予備形成ナノ粒子とを含むコーティングが堆積される。
【0008】
好ましくは、基板は、透明又は半透明の基板であり、最も好ましくはガラス又はプラスチックである。
【0009】
無機物質は、通常金属を含み、通例としてはd−ブロック金属であり、最も好ましくは、白金族金属又は貨幣金属のいずれかである。白金族金属は、周期表の第9族(コバルト、ロジウム、及びイリジウム)と第10族(ニッケル、パラジウム、及び白金)の金属を含む。貨幣金属は、周期表の第11族の金属(銅、銀、及び金)である。最も好ましくは、該金属は、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、もしくはそれらの合金から選択される。適切な合金としては、金と銀、金と銅、銀と銅又は金、銀及び/又は銅とその他の合金化金属、を含有する合金が挙げられ、好ましくはd−ブロック金属が挙げられる。
【0010】
ナノ粒子は、通常、無機マトリックスの中に含まれる。無機マトリックスは、好ましくは、マトリックス金属酸化物を含む。
【0011】
ナノ粒子を含む無機マトリックスは、コーティングの第一金属酸化物層とは別の層でもよい。そうすると、コーティングは少なくとも二つの層を持つこととなる。
【0012】
しかしながら、好ましい実施形態において、マトリックス金属酸化物は第一金属酸化物である。これは、コーティングの単層中で色彩を供与するため、有利である。故に、好ましい実施形態において、コーティング方法は、第一金属酸化物のマトリックスの中の予備形成ナノ粒子としてコーティングを堆積させる。
【0013】
驚くべきことに、(例えばマトリックスとしての)第一金属酸化物の性質は、屈折率が増加し、ナノ粒子のプラズモン共鳴を赤系統の色域へシフトさせることで、ナノ粒子の色彩特性を大いに変更することができる。故に、第一金属酸化物中の金属酸化物(もし存在するなら、及び/又はドーパント)の量及び/又は性質を変更すると、ナノ粒子によりもたらされるコーティングの色彩に大きく影響を与えることができる。
【0014】
通常、第一金属酸化物は、セリウム、スズ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ハフニウム、又はケイ素の酸化物を含む。第一金属酸化物として好ましい酸化物は、スズ酸化物である。また、酸化亜鉛も有利である。酸化亜鉛が第一金属酸化物である場合、前躯体がZn(acac)2でない事が好ましい。
【0015】
第一金属酸化物はドープされていても良い。ドープされた金属酸化物を形成するため、好ましいドーパントにはアルミニウム、ガリウム、フッ素、窒素、ニオブ、アンチモンの、一種又はそれ以上が含まれる。ドープされた金属酸化物がスズ酸化物を含む場合は、フッ素(フッ素ドープスズ酸化物をもたらす)、アンチモン、及び/又はニオブでドープされていることが好ましい。ドープされた金属酸化物が酸化亜鉛の場合は、酸化物はアルミニウム又はガリウムでドープされていることが好ましい。この特徴の利点は、コーティングがドープされた金属酸化物と、無機物質のナノ粒子の両方を含むため、その構成要素の相互作用により熱的(例えば反射率)特性と基板の色彩の両方を有利に変更することができる点にある。これは、着色ガラスは、熱制御のために(即ちソーラーコントロール、断熱のいずれかもしくは両方のために熱エネルギーの透過を減らすために)使用される際、しばしば問題を有するため特に有利である。何故ならば、熱反射コーティングにおいて、着色ガラスは熱エネルギーを反射するよりも、むしろ吸収してしまうからである。
【0016】
ドープされた金属酸化物は、通常導電性のドープされた金属酸化物で、好ましくは実質的に透明である(即ち、大きな歪みなく光を透過させることができる)。そのようなドープされた金属酸化物は、熱制御、そして特には、おおよそ0.8ミクロン〜3ミクロンの範囲において良好な赤外反射をもたらすため有利である。これは、それゆえ、(太陽エネルギーの熱の構成要素を反射することによる)ソーラーコントロール、及び断熱特性の両方を与えるのである。
【0017】
無機マトリックスの金属酸化物(例えば、もしそれが第一金属酸化物でない場合)は、通常、亜鉛、スズ、チタン、ケイ素、ジルコニウム、ハフニウム、セリウム、インジウム、又はアルミニウムの酸化物を含む。金属酸化物の他の可能性として、インジウム酸化物とスズ酸化物の固溶体(インジウムスズ酸化物 例えば90%In2O3と、10%のSnO2)が挙げられる。金属酸化物の性質は、ナノ粒子によってもたらされる所望の特性に依存する。上記のように、無機マトリクスの誘電率(反射率を含む)を選択することで、ナノ粒子により供与される色彩を調整することができる。それゆえ、金属酸化物の適当な反射率(と厚み)を選択することは大いに有益である。
【0018】
また、ナノ粒子のサイズも、コーティング中のナノ粒子成分の色彩と他の特性に影響を与える。ナノ粒子は、通常1nm〜300nm、1nm〜150nm、好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜80nm、特に好ましくは10〜60nm、最も好ましくは20〜50nmの粒子サイズを有する。
【0019】
コーティングの厚みは、通常10〜400nmであり、好ましくは20〜300nmである。複数層を有するコーティング中で、各層は、通常10〜150nmの厚みを有し、その厚みは、特定層が、ドープされた金属酸化物及び/又はナノ粒子を含むかに依存し、そして透明基板の透過及び反射特性を変更する際には、コーティングの各層の屈折率と、それらの相互作用に依存する。
【0020】
コーティングのための適当な技術としては、化学蒸着堆積、スプレー熱分解、エアゾールスプレー熱分解、及び/又はフレーム溶射が挙げられる。
【0021】
該方法が、ガラスオンライン(即ちロールドガラス又はフロートガラスの製造プロセスの間)に適用される場合、該方法は、オンラインスプレー堆積又は化学蒸着堆積、特に大気圧化学蒸着堆積(APCVD)が好ましい。オンラインコーティングは、コーティングのための最適な温度と雰囲気に応じて、フロートバス、ガラス焼きなまし炉、もしくは ガラス焼きなまし炉の間隙内で行われてもよい。
【0022】
堆積温度は、前躯体とコーティング方法に応じて、幅広い範囲から選択される。通常、基板の表面は、温度が80℃〜750℃の範囲であり、好ましくは100℃〜650℃、さらに好ましくは100℃〜600℃、最も好ましくは100℃〜550℃である。
【0023】
該コーティング方法は、好ましくは第一金属酸化物のマトリックスの中のナノ粒子としてコーティングを堆積することを含む。これは、ドープされた金属酸化物とナノ粒子を実質的に同時に共に堆積させることで達成してもよい。
【0024】
代わりに、(例えば金属酸化物の無機マトリックス中の)ナノ粒子と、ドープされた金属酸化物を(どの順番でも)連続して実質的に別の層に堆積させてもよい。
【0025】
第二の視点において、本発明は、コーティングを有する基板を提供し、該コーティングは第一金属酸化物と無機物質の予備形成ナノ粒子を含む。
【0026】
本発明の第二の視点の方法と基板は、基板自身を着色するというデメリットなしに、基板が透過、反射のいずれか又は双方において色彩を有することを可能とする点で有利である。
【0027】
本発明を以下の図を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マトリックスの屈折率の増加に伴うプラズモン共鳴と赤方シフトの変化を示す。
【図2】本発明の、着色と熱制御のためのガラスコーティングの構成を示す。層1=ドープされた金属酸化物マトリックス中の単一のナノ粒子、2=ガラス基板、3=着色を得るためだけの、ドーピングされていない金属酸化物層中のナノ粒子、4=熱制御を得るためだけの、ナノ粒子の集合体を有さない透明導電性酸化物。
【図3】本発明のスプレーコーティングプロセスを用いて堆積された、金ナノ粒子が埋め込まれたフッ素ドープスズ酸化物フィルムの測定透過スペクトルを示す。着色は、スペクトルの可視領域のプラズモン吸収に由来する。
【図4】本発明の、0.5%金ナノ粒子が埋め込まれた2%アルミニウムドープ酸化亜鉛の対応するフィルムの光学的特性の定量的なデータから計算されたスペクトルの標準反射率Rと透過率Tを示す。
【図5】本発明の、0.5%金ナノ粒子が埋め込まれたフッ素ドープスズ酸化物の対応するフィルムの光学的特性の定量的なデータから計算されたスペクトルの標準反射率Rと透過率Tを示す。
【図6】実施例3の測定光学特性〔透過(transmission)、コーティングされた面とガラス面の反射(coated and glass side reflection)、吸収(absorption)〕を示す。
【図7】実施例4の測定光学特性を示す。
【図8】比較例1の測定光学特性を示す。
【図9】実施例5の測定光学特性を示す。
【図10】実施例6の測定光学特性を示す。
【図11】実施例7の測定光学特性を示す。
【図12】実施例8のエネルギー分散型スペクトル(EDS)を示す。
【図13】実施例9のEDSを示す。
【実施例】
【0029】
また、以下に本発明の実施例を示す。
【0030】
実施例1:ガラスの着色の実験的検証
加熱されたガラス基板に前躯体溶液をスプレー堆積させて、大面積の窓ガラスに適した頑強かつ耐久性のあるフィルムを得るための金ナノ粒子が埋め込まれたスズ酸化物の単層を得た。基板の温度は、330〜370℃に維持した。前躯体は、エタノール中に、アミノベンゾエート安定化金ナノ粒子と、モノブチルスズ三塩化物を含む。図3は、スペクトルの可視部分の透過率の下落としてはっきりと確認できるナノ粒子から生じるプラズモン吸収に対応する透過スペクトルを示しており、これにより、青紫に着色したフィルムがもたらされる。例えば、類似の結果が、制御可能かつ美的に魅力的な青い色合いを生じる、金/チタニア複合フィルムによっても示される。
【0031】
実施例2:相違するマトリックス物質を用いた、色彩及び赤外制御のための二重機能フィルム
図4に、金ナノ粒子が埋め込まれたアルミニウムドープ酸化亜鉛のスプレー堆積された単層の反射と透過を示す。図5に、フッ素ドープスズ酸化物層中に金ナノ粒子が埋め込まれた同等の層を示す。ソーラーコントロールの性能は、プラズマ端反射の程度と位置(即ち、透過率の急速な減少かつ、反射率の上昇)に関連している。該端が赤系統の色域に近づけば近づくほど良い。これは、マトリックスフィルムの不純物ドーピングにより制御される。
【0032】
実施例3〜8と比較例1及び2
これらの実施例と比較例は、フレーム溶射、スプレーコーティング、又はCVDコーティングによって、300mm×750mmのガラス基板をコーティング可能な、実験室規模の大きい塗工機で製造した。全ての金と銀のナノ粒子又はナノ粒子の溶液は、Sonning CommonのJohnson Matthey Technical Centreから得た。
【0033】
実施例3:Al配位子を有するAuナノ粒子(Au−Al2O3)から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。
液圧 ― 1バール
噴霧エアー圧 ― 1バール
ファン空気圧 ― 1バール
ガラス温度300〜550℃(最も良好なコーティングは300〜350℃で得られた)
【0034】
溶液:エタノール中の0.1%w/vのAuナノ粒子であり、Al含有アミノベンゾエート配位子により安定化されている。該溶液は使用前に1時間、超音波処理を施し、また、HNO3によりpHを1〜2に調整した。
【0035】
300℃においてスプレーヘッドの下を1回通過させて、フロートガラス基板の上に、透明な厚いコーティングを得た。これは着色していた(薄青色〜灰色)。着色は、金ナノ粒子と、(金表面のプラズモン共鳴による)光学スペクトル中の弱い吸収帯の存在が原因である。Auナノ粒子は(アルミニウム含有安定化配位子の分解により形成された)酸化アルミニウムマトリックス中に埋め込まれていると考えられる。350℃において3回通過させて、フロートガラス基板の上に透明な厚いコーティングを得た。表1と図6に示されるようにこれも同様に着色していた(薄青色〜灰色)。強い着色は、金粒子と、(金表面のプラズモン共鳴による)光学スペクトル中の強い吸収帯の存在が原因である。
【0036】
【表1】
【0037】
比較例1:クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au/Alの混合溶液から得られるコーティング
クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au/Al溶液からコーティングを堆積する試みを実施した。これは酸化亜鉛/酸化アルミニウムマトリックス中に埋め込まれた金ナノ粒子の着色されたコーティングを与えるが、均一にならず、容認できない品質であった。
【0038】
実施例4:クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au(Al)ナノ粒子から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度 ― 500℃ ガラス速度 ― 36m/h
【0039】
溶液:0.1Mクロロ−亜鉛−4−アミノブタノエートのエタノール溶液+エタノール中の0.1%w/vのAu(Al)ナノ粒子の1:1混合物。
【0040】
スプレーヘッドの下を5回通過させて、フロートガラス基板の上に、薄く着色され、かつ透明なコーティングを得た。
【0041】
光学分析は、557nmにおける表面プラズモン共鳴帯の存在を示しており、これは透過色の色座標に反映されている(表2と図7を参照)。また、XRD分析によっても大量の金の存在が確認された。
【0042】
【表2】
【0043】
比較例2:亜鉛N,N−ジメチルグリシン+Zn/Al芳香族前躯体から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0044】
溶液:0.1Mの亜鉛N,N−ジメチルグリシンEtOH溶液中に、ヘキシルエタノエート中の6%w/v塩化アルミニウム−ニトロ−ピリジン−亜鉛−ジアセテート前躯体を添加したもの。Zn/Al前躯体の構造を図に示す。
【0045】
【化1】
【0046】
スプレーヘッドの下を3回通過させて、フロートガラス基板の上に、透明なコーティングを得た。
【0047】
XRD解析により該コーティングが酸化亜鉛であることが確認され、光学分析によっても、ドープされていない酸化亜鉛コーティングと一致した。アルミニウムの形跡は無く、該フィルムは非導電性であった(即ち、Zn/Al芳香族前躯体を用いたドーピングは失敗であった。おそらく、ZnとAlを分離する長い有機鎖が原因である)。SEMによる断面画像により、おおよそ360オングストロームの厚みを有する薄い連続的な層が存在することが示された。
【0048】
実施例5:Surchem E1(FTO)+Auナノ粒子を用いたコーティング
エタノール中にモノブチルスズ三塩化物とトリフルオロ酢酸とを含む溶液(Surchem E1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、導電性のフッ素ドープスズ酸化物コーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成金ナノ粒子を該溶液に添加した(表3と図9を参照)。SPR帯が、ホスト金属酸化物コーティングのナノ粒子の取り込みとつじつまの合う597nmで観察された。
【0049】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度 ― 500℃ ガラス速度 ― 36m/h
【0050】
溶液:Surchem E1溶液+H2O中の0.1%w/vのAuナノ粒子の1:1混合物。Auナノ粒子はトリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子を用いて安定化されている。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例6:Surchem SG1(TiO2)溶液+Agを用いたコーティング
チタンテトラエトキシドとチタンテトライソプロポキシドの混合物を含有する溶液(Surchem SG1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、二酸化チタンコーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成銀ナノ粒子を該溶液に添加した(表4を参照)。
【0053】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0054】
溶液:Surchem SG1溶液+H2O中の0.1%w/vのAgナノ粒子の1:1混合物。Agナノ粒子はトリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子により安定化されている。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例7:Surchem SG1(TiO2)溶液+Auを用いたコーティング
チタンテトラエトキシドとチタンテトライソプロポキシドの混合物を含有する溶液(Surchem SG1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、二酸化チタンコーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成金ナノ粒子を該溶液に添加した(表5と図11を参照)。SPR帯が、ホストの金属酸化物コーティングのナノ粒子の取り込みとつじつまの合う439nmで観察された。
【0057】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0058】
溶液:Surchem SG1溶液+H2O中の0.1%w/vのAuナノ粒子の1:1混合物。Auナノ粒子は、トリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子により安定化されている。
【0059】
【表5】
【0060】
実施例8及び9
これらの実施例はスプレー堆積によって、製造塗工機の上で堆積させた。該塗工機は、開放雰囲気において、650℃まで温度を上昇させることができる。該システム全体はガラスリボンの上に直接存在し、設置サイズは、おおよそ1.5m×1.5mである。
【0061】
実施例8
これは、溶液5―720gのZn-2-EtOHx+200mLのHxOAc+流速0.07L/minのアミノベンゾエート配位子を用いて安定化した200mLの1wt%Au含有エタノール、を用いた酸化亜鉛/Auナノ粒子の堆積物である。
【0062】
堆積したコーティングは厚さがおおおよそ168nmで、金を含有していた(図12を参照)。
【0063】
実施例9
これは、スズ酸化物/Auナノ粒子コーティングの堆積物であり、おおよそ43nmの厚みであった。Auナノ粒子は、アミノベンゾエート配位子で安定化した、エタノール溶液として供給した。
【0064】
前躯体溶液(溶液4)は、100cm3の溶液2に900cm3の0.4wt%の予備形成Auナノ粒子溶液を合わせて調製した。溶液2は、44.5Lの溶液1と750cm3の0.4wt%Au溶液であった。溶液1は、50kgのSurchem E1溶液と2Lの0.4wt%Au溶液であった。溶液4は、0.1L/minの流速で供給した。
【0065】
該コーティングは、図13に示されるように、金を含有していた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をコーティングするための方法、及びコーティングされた基板、特には、コーティングされたガラス等の透明な基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、着色ガラスは、溶融ガラスに、厳密に制御された量で着色剤、通常は金属酸化物を添加することで作製される。また、金属着色剤も使用されている。ローマ人によるソーダ石灰シリカガラスのリュクルゴスカップは、紀元後4世紀に製造されたと考えられる有名な例であり、分析により、このカップは金と銀のコロイド合金(AuとAg、それぞれ40ppmと300ppm)を含んでいることが明らかになっている。該カップは透過光においてルビー色であり、反射光において緑色である。これらの色彩は、少量埋め込まれたAu/Ag合金ナノ粒子により生じる。ローマ人は、貨幣をガラス溶融物に添加することで、これらの高度に着色した物品を製造していた。貨幣は、高温のガラス形成プロセスで溶解し、偶発的にバルクのガラスマトリックスの中に埋め込まれた合金ナノ粒子を形成した。金属ナノ粒子の鮮やかな色彩は、その金属ナノ粒子の形態、サイズ、形状、周囲の媒体の誘電率により制御される表面プラズモン共鳴(SPR)吸収によるものである(G Walters、I.P.Parkin、J.Mater. Chem.2009年 19巻 574〜590ページ)。G WaltersとI.P.Parkinは、Appl. Surf. Sci(2009年)(doi:10.1016/j:apsusc.2009.02.039)で、ナノ粒子と酸化物の溶液前躯体を用いた金属酸化物中のナノ粒子のコーティングの堆積方法について議論している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G Walters and I.P.Parkin、J.Mater. Chem.2009年 19巻 574〜590ページ
【非特許文献2】G Walters and I.P.Parkin、Appl. Surf. Sci 2009年 doi:10.1016/j:apsusc.2009.02.039
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
残念ながら、ガラスを着色する伝統的な方法は、特に大規模にガラスを製造する場合、欠点を有する。というのも、色彩変化後に適切な色彩を達成するためには、ガラス炉で処理される大量のガラスを必要とし、経費と作業の遅延をもたらすからである。また、ナノ粒子コーティングを堆積させる方法も、既知の方法では、質が悪く、又はムラのあるコーティングとなるため、非常に精密なコーティングプロセスの制御を必要とする、という問題がある。
【0005】
これらの問題に対処することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、第一の視点において、基板をコーティングする方法であって、
a) 基板を準備する工程、
b) 無機物質の予備形成ナノ粒子を準備する工程、
c) 第一金属酸化物の前躯体の少なくとも一種を準備する工程、及び
d) 前記基板の少なくとも一方の表面に、該表面に前記金属酸化物の前躯体と予備形成ナノ粒子とを接触させることで、コーティングを堆積させる工程、
を含む方法を提供する。
【0007】
その結果として、金属酸化物と予備形成ナノ粒子とを含むコーティングが堆積される。
【0008】
好ましくは、基板は、透明又は半透明の基板であり、最も好ましくはガラス又はプラスチックである。
【0009】
無機物質は、通常金属を含み、通例としてはd−ブロック金属であり、最も好ましくは、白金族金属又は貨幣金属のいずれかである。白金族金属は、周期表の第9族(コバルト、ロジウム、及びイリジウム)と第10族(ニッケル、パラジウム、及び白金)の金属を含む。貨幣金属は、周期表の第11族の金属(銅、銀、及び金)である。最も好ましくは、該金属は、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、もしくはそれらの合金から選択される。適切な合金としては、金と銀、金と銅、銀と銅又は金、銀及び/又は銅とその他の合金化金属、を含有する合金が挙げられ、好ましくはd−ブロック金属が挙げられる。
【0010】
ナノ粒子は、通常、無機マトリックスの中に含まれる。無機マトリックスは、好ましくは、マトリックス金属酸化物を含む。
【0011】
ナノ粒子を含む無機マトリックスは、コーティングの第一金属酸化物層とは別の層でもよい。そうすると、コーティングは少なくとも二つの層を持つこととなる。
【0012】
しかしながら、好ましい実施形態において、マトリックス金属酸化物は第一金属酸化物である。これは、コーティングの単層中で色彩を供与するため、有利である。故に、好ましい実施形態において、コーティング方法は、第一金属酸化物のマトリックスの中の予備形成ナノ粒子としてコーティングを堆積させる。
【0013】
驚くべきことに、(例えばマトリックスとしての)第一金属酸化物の性質は、屈折率が増加し、ナノ粒子のプラズモン共鳴を赤系統の色域へシフトさせることで、ナノ粒子の色彩特性を大いに変更することができる。故に、第一金属酸化物中の金属酸化物(もし存在するなら、及び/又はドーパント)の量及び/又は性質を変更すると、ナノ粒子によりもたらされるコーティングの色彩に大きく影響を与えることができる。
【0014】
通常、第一金属酸化物は、セリウム、スズ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ハフニウム、又はケイ素の酸化物を含む。第一金属酸化物として好ましい酸化物は、スズ酸化物である。また、酸化亜鉛も有利である。酸化亜鉛が第一金属酸化物である場合、前躯体がZn(acac)2でない事が好ましい。
【0015】
第一金属酸化物はドープされていても良い。ドープされた金属酸化物を形成するため、好ましいドーパントにはアルミニウム、ガリウム、フッ素、窒素、ニオブ、アンチモンの、一種又はそれ以上が含まれる。ドープされた金属酸化物がスズ酸化物を含む場合は、フッ素(フッ素ドープスズ酸化物をもたらす)、アンチモン、及び/又はニオブでドープされていることが好ましい。ドープされた金属酸化物が酸化亜鉛の場合は、酸化物はアルミニウム又はガリウムでドープされていることが好ましい。この特徴の利点は、コーティングがドープされた金属酸化物と、無機物質のナノ粒子の両方を含むため、その構成要素の相互作用により熱的(例えば反射率)特性と基板の色彩の両方を有利に変更することができる点にある。これは、着色ガラスは、熱制御のために(即ちソーラーコントロール、断熱のいずれかもしくは両方のために熱エネルギーの透過を減らすために)使用される際、しばしば問題を有するため特に有利である。何故ならば、熱反射コーティングにおいて、着色ガラスは熱エネルギーを反射するよりも、むしろ吸収してしまうからである。
【0016】
ドープされた金属酸化物は、通常導電性のドープされた金属酸化物で、好ましくは実質的に透明である(即ち、大きな歪みなく光を透過させることができる)。そのようなドープされた金属酸化物は、熱制御、そして特には、おおよそ0.8ミクロン〜3ミクロンの範囲において良好な赤外反射をもたらすため有利である。これは、それゆえ、(太陽エネルギーの熱の構成要素を反射することによる)ソーラーコントロール、及び断熱特性の両方を与えるのである。
【0017】
無機マトリックスの金属酸化物(例えば、もしそれが第一金属酸化物でない場合)は、通常、亜鉛、スズ、チタン、ケイ素、ジルコニウム、ハフニウム、セリウム、インジウム、又はアルミニウムの酸化物を含む。金属酸化物の他の可能性として、インジウム酸化物とスズ酸化物の固溶体(インジウムスズ酸化物 例えば90%In2O3と、10%のSnO2)が挙げられる。金属酸化物の性質は、ナノ粒子によってもたらされる所望の特性に依存する。上記のように、無機マトリクスの誘電率(反射率を含む)を選択することで、ナノ粒子により供与される色彩を調整することができる。それゆえ、金属酸化物の適当な反射率(と厚み)を選択することは大いに有益である。
【0018】
また、ナノ粒子のサイズも、コーティング中のナノ粒子成分の色彩と他の特性に影響を与える。ナノ粒子は、通常1nm〜300nm、1nm〜150nm、好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜80nm、特に好ましくは10〜60nm、最も好ましくは20〜50nmの粒子サイズを有する。
【0019】
コーティングの厚みは、通常10〜400nmであり、好ましくは20〜300nmである。複数層を有するコーティング中で、各層は、通常10〜150nmの厚みを有し、その厚みは、特定層が、ドープされた金属酸化物及び/又はナノ粒子を含むかに依存し、そして透明基板の透過及び反射特性を変更する際には、コーティングの各層の屈折率と、それらの相互作用に依存する。
【0020】
コーティングのための適当な技術としては、化学蒸着堆積、スプレー熱分解、エアゾールスプレー熱分解、及び/又はフレーム溶射が挙げられる。
【0021】
該方法が、ガラスオンライン(即ちロールドガラス又はフロートガラスの製造プロセスの間)に適用される場合、該方法は、オンラインスプレー堆積又は化学蒸着堆積、特に大気圧化学蒸着堆積(APCVD)が好ましい。オンラインコーティングは、コーティングのための最適な温度と雰囲気に応じて、フロートバス、ガラス焼きなまし炉、もしくは ガラス焼きなまし炉の間隙内で行われてもよい。
【0022】
堆積温度は、前躯体とコーティング方法に応じて、幅広い範囲から選択される。通常、基板の表面は、温度が80℃〜750℃の範囲であり、好ましくは100℃〜650℃、さらに好ましくは100℃〜600℃、最も好ましくは100℃〜550℃である。
【0023】
該コーティング方法は、好ましくは第一金属酸化物のマトリックスの中のナノ粒子としてコーティングを堆積することを含む。これは、ドープされた金属酸化物とナノ粒子を実質的に同時に共に堆積させることで達成してもよい。
【0024】
代わりに、(例えば金属酸化物の無機マトリックス中の)ナノ粒子と、ドープされた金属酸化物を(どの順番でも)連続して実質的に別の層に堆積させてもよい。
【0025】
第二の視点において、本発明は、コーティングを有する基板を提供し、該コーティングは第一金属酸化物と無機物質の予備形成ナノ粒子を含む。
【0026】
本発明の第二の視点の方法と基板は、基板自身を着色するというデメリットなしに、基板が透過、反射のいずれか又は双方において色彩を有することを可能とする点で有利である。
【0027】
本発明を以下の図を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マトリックスの屈折率の増加に伴うプラズモン共鳴と赤方シフトの変化を示す。
【図2】本発明の、着色と熱制御のためのガラスコーティングの構成を示す。層1=ドープされた金属酸化物マトリックス中の単一のナノ粒子、2=ガラス基板、3=着色を得るためだけの、ドーピングされていない金属酸化物層中のナノ粒子、4=熱制御を得るためだけの、ナノ粒子の集合体を有さない透明導電性酸化物。
【図3】本発明のスプレーコーティングプロセスを用いて堆積された、金ナノ粒子が埋め込まれたフッ素ドープスズ酸化物フィルムの測定透過スペクトルを示す。着色は、スペクトルの可視領域のプラズモン吸収に由来する。
【図4】本発明の、0.5%金ナノ粒子が埋め込まれた2%アルミニウムドープ酸化亜鉛の対応するフィルムの光学的特性の定量的なデータから計算されたスペクトルの標準反射率Rと透過率Tを示す。
【図5】本発明の、0.5%金ナノ粒子が埋め込まれたフッ素ドープスズ酸化物の対応するフィルムの光学的特性の定量的なデータから計算されたスペクトルの標準反射率Rと透過率Tを示す。
【図6】実施例3の測定光学特性〔透過(transmission)、コーティングされた面とガラス面の反射(coated and glass side reflection)、吸収(absorption)〕を示す。
【図7】実施例4の測定光学特性を示す。
【図8】比較例1の測定光学特性を示す。
【図9】実施例5の測定光学特性を示す。
【図10】実施例6の測定光学特性を示す。
【図11】実施例7の測定光学特性を示す。
【図12】実施例8のエネルギー分散型スペクトル(EDS)を示す。
【図13】実施例9のEDSを示す。
【実施例】
【0029】
また、以下に本発明の実施例を示す。
【0030】
実施例1:ガラスの着色の実験的検証
加熱されたガラス基板に前躯体溶液をスプレー堆積させて、大面積の窓ガラスに適した頑強かつ耐久性のあるフィルムを得るための金ナノ粒子が埋め込まれたスズ酸化物の単層を得た。基板の温度は、330〜370℃に維持した。前躯体は、エタノール中に、アミノベンゾエート安定化金ナノ粒子と、モノブチルスズ三塩化物を含む。図3は、スペクトルの可視部分の透過率の下落としてはっきりと確認できるナノ粒子から生じるプラズモン吸収に対応する透過スペクトルを示しており、これにより、青紫に着色したフィルムがもたらされる。例えば、類似の結果が、制御可能かつ美的に魅力的な青い色合いを生じる、金/チタニア複合フィルムによっても示される。
【0031】
実施例2:相違するマトリックス物質を用いた、色彩及び赤外制御のための二重機能フィルム
図4に、金ナノ粒子が埋め込まれたアルミニウムドープ酸化亜鉛のスプレー堆積された単層の反射と透過を示す。図5に、フッ素ドープスズ酸化物層中に金ナノ粒子が埋め込まれた同等の層を示す。ソーラーコントロールの性能は、プラズマ端反射の程度と位置(即ち、透過率の急速な減少かつ、反射率の上昇)に関連している。該端が赤系統の色域に近づけば近づくほど良い。これは、マトリックスフィルムの不純物ドーピングにより制御される。
【0032】
実施例3〜8と比較例1及び2
これらの実施例と比較例は、フレーム溶射、スプレーコーティング、又はCVDコーティングによって、300mm×750mmのガラス基板をコーティング可能な、実験室規模の大きい塗工機で製造した。全ての金と銀のナノ粒子又はナノ粒子の溶液は、Sonning CommonのJohnson Matthey Technical Centreから得た。
【0033】
実施例3:Al配位子を有するAuナノ粒子(Au−Al2O3)から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。
液圧 ― 1バール
噴霧エアー圧 ― 1バール
ファン空気圧 ― 1バール
ガラス温度300〜550℃(最も良好なコーティングは300〜350℃で得られた)
【0034】
溶液:エタノール中の0.1%w/vのAuナノ粒子であり、Al含有アミノベンゾエート配位子により安定化されている。該溶液は使用前に1時間、超音波処理を施し、また、HNO3によりpHを1〜2に調整した。
【0035】
300℃においてスプレーヘッドの下を1回通過させて、フロートガラス基板の上に、透明な厚いコーティングを得た。これは着色していた(薄青色〜灰色)。着色は、金ナノ粒子と、(金表面のプラズモン共鳴による)光学スペクトル中の弱い吸収帯の存在が原因である。Auナノ粒子は(アルミニウム含有安定化配位子の分解により形成された)酸化アルミニウムマトリックス中に埋め込まれていると考えられる。350℃において3回通過させて、フロートガラス基板の上に透明な厚いコーティングを得た。表1と図6に示されるようにこれも同様に着色していた(薄青色〜灰色)。強い着色は、金粒子と、(金表面のプラズモン共鳴による)光学スペクトル中の強い吸収帯の存在が原因である。
【0036】
【表1】
【0037】
比較例1:クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au/Alの混合溶液から得られるコーティング
クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au/Al溶液からコーティングを堆積する試みを実施した。これは酸化亜鉛/酸化アルミニウムマトリックス中に埋め込まれた金ナノ粒子の着色されたコーティングを与えるが、均一にならず、容認できない品質であった。
【0038】
実施例4:クロロ−亜鉛−4−アミノブタノエート+Au(Al)ナノ粒子から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度 ― 500℃ ガラス速度 ― 36m/h
【0039】
溶液:0.1Mクロロ−亜鉛−4−アミノブタノエートのエタノール溶液+エタノール中の0.1%w/vのAu(Al)ナノ粒子の1:1混合物。
【0040】
スプレーヘッドの下を5回通過させて、フロートガラス基板の上に、薄く着色され、かつ透明なコーティングを得た。
【0041】
光学分析は、557nmにおける表面プラズモン共鳴帯の存在を示しており、これは透過色の色座標に反映されている(表2と図7を参照)。また、XRD分析によっても大量の金の存在が確認された。
【0042】
【表2】
【0043】
比較例2:亜鉛N,N−ジメチルグリシン+Zn/Al芳香族前躯体から得られるコーティング
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0044】
溶液:0.1Mの亜鉛N,N−ジメチルグリシンEtOH溶液中に、ヘキシルエタノエート中の6%w/v塩化アルミニウム−ニトロ−ピリジン−亜鉛−ジアセテート前躯体を添加したもの。Zn/Al前躯体の構造を図に示す。
【0045】
【化1】
【0046】
スプレーヘッドの下を3回通過させて、フロートガラス基板の上に、透明なコーティングを得た。
【0047】
XRD解析により該コーティングが酸化亜鉛であることが確認され、光学分析によっても、ドープされていない酸化亜鉛コーティングと一致した。アルミニウムの形跡は無く、該フィルムは非導電性であった(即ち、Zn/Al芳香族前躯体を用いたドーピングは失敗であった。おそらく、ZnとAlを分離する長い有機鎖が原因である)。SEMによる断面画像により、おおよそ360オングストロームの厚みを有する薄い連続的な層が存在することが示された。
【0048】
実施例5:Surchem E1(FTO)+Auナノ粒子を用いたコーティング
エタノール中にモノブチルスズ三塩化物とトリフルオロ酢酸とを含む溶液(Surchem E1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、導電性のフッ素ドープスズ酸化物コーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成金ナノ粒子を該溶液に添加した(表3と図9を参照)。SPR帯が、ホスト金属酸化物コーティングのナノ粒子の取り込みとつじつまの合う597nmで観察された。
【0049】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度 ― 500℃ ガラス速度 ― 36m/h
【0050】
溶液:Surchem E1溶液+H2O中の0.1%w/vのAuナノ粒子の1:1混合物。Auナノ粒子はトリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子を用いて安定化されている。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例6:Surchem SG1(TiO2)溶液+Agを用いたコーティング
チタンテトラエトキシドとチタンテトライソプロポキシドの混合物を含有する溶液(Surchem SG1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、二酸化チタンコーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成銀ナノ粒子を該溶液に添加した(表4を参照)。
【0053】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0054】
溶液:Surchem SG1溶液+H2O中の0.1%w/vのAgナノ粒子の1:1混合物。Agナノ粒子はトリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子により安定化されている。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例7:Surchem SG1(TiO2)溶液+Auを用いたコーティング
チタンテトラエトキシドとチタンテトライソプロポキシドの混合物を含有する溶液(Surchem SG1)からコーティングを堆積させた。かかる溶液をスプレーすると、二酸化チタンコーティングが得られる。青色を付与するため、予備形成金ナノ粒子を該溶液に添加した(表5と図11を参照)。SPR帯が、ホストの金属酸化物コーティングのナノ粒子の取り込みとつじつまの合う439nmで観察された。
【0057】
一般的なスプレー条件を用いた。液圧 ― 0.1バール 噴霧エアー圧 ― 1バール ファン空気圧 ― 1バール 加熱炉温度―500℃ ガラス速度―36m/h
【0058】
溶液:Surchem SG1溶液+H2O中の0.1%w/vのAuナノ粒子の1:1混合物。Auナノ粒子は、トリエチルアミンにより脱プロトン化されたアミノベンゾエート配位子により安定化されている。
【0059】
【表5】
【0060】
実施例8及び9
これらの実施例はスプレー堆積によって、製造塗工機の上で堆積させた。該塗工機は、開放雰囲気において、650℃まで温度を上昇させることができる。該システム全体はガラスリボンの上に直接存在し、設置サイズは、おおよそ1.5m×1.5mである。
【0061】
実施例8
これは、溶液5―720gのZn-2-EtOHx+200mLのHxOAc+流速0.07L/minのアミノベンゾエート配位子を用いて安定化した200mLの1wt%Au含有エタノール、を用いた酸化亜鉛/Auナノ粒子の堆積物である。
【0062】
堆積したコーティングは厚さがおおおよそ168nmで、金を含有していた(図12を参照)。
【0063】
実施例9
これは、スズ酸化物/Auナノ粒子コーティングの堆積物であり、おおよそ43nmの厚みであった。Auナノ粒子は、アミノベンゾエート配位子で安定化した、エタノール溶液として供給した。
【0064】
前躯体溶液(溶液4)は、100cm3の溶液2に900cm3の0.4wt%の予備形成Auナノ粒子溶液を合わせて調製した。溶液2は、44.5Lの溶液1と750cm3の0.4wt%Au溶液であった。溶液1は、50kgのSurchem E1溶液と2Lの0.4wt%Au溶液であった。溶液4は、0.1L/minの流速で供給した。
【0065】
該コーティングは、図13に示されるように、金を含有していた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をコーティングする方法であって、
a) 基板を準備する工程、
b) 無機物質の予備形成ナノ粒子を準備する工程、
c) 第一金属酸化物の前躯体の少なくとも一種を準備する工程、及び
d) 前記基板の少なくとも一方の表面に、該表面に前記金属酸化物の前躯体と予備形成ナノ粒子とを接触させることで、コーティングを堆積させる工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記第一金属酸化物が、ドープされた金属酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティング方法が、前記第一金属酸化物のマトリックスの中のナノ粒子として前記コーティングを堆積させることを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板が、透明又は半透明の基板であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基板が、ガラス又はプラスチックを含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無機物質が、金属を含むことを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属が、d−ブロック金属であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属が、白金族金属又は貨幣金属であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Pt又はこれらの合金から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記予備形成ナノ粒子が、無機マトリックスの中に含まれることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記無機マトリックスが、マトリックス金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックス金属酸化物が、前記第一金属酸化物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第一金属酸化物が、Ce、Sn、Al、Ti、Zr、Zn、Hf又はSiの酸化物を含むことを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ドープされた金属酸化物が、Al、Ga、F、N、Nb又はSbでドープされていることを特徴とする、請求項2から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ドープされた金属酸化物が、導電性のドープされた金属酸化物であることを特徴とする、請求項2から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第一金属酸化物が、実質的に透明であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第一金属酸化物が、Sn、Ti、Si、Zr、Hf、Ce、又はAlの酸化物を含むことを特徴とする、請求項11から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、1nm〜150nm、好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜80nm、最も好ましくは20〜50nmの粒子サイズを有することを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティングが、20〜300nmの厚みを有することを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング方法が、化学蒸着堆積、スプレー熱分解、エアゾールスプレー熱分解、及び/又はフレーム溶射から選択されることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基板の表面が、80℃〜750℃、好ましくは100℃〜650℃、さらに好ましくは100℃〜600℃、最も好ましくは100℃〜550℃の範囲の温度であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
コーティングを有する基板であって、前記コーティングが第一金属酸化物と無機物質の予備形成ナノ粒子を含む、基板。
【請求項23】
前記第一金属酸化物がドープされた金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項24に記載の基板。
【請求項1】
基板をコーティングする方法であって、
a) 基板を準備する工程、
b) 無機物質の予備形成ナノ粒子を準備する工程、
c) 第一金属酸化物の前躯体の少なくとも一種を準備する工程、及び
d) 前記基板の少なくとも一方の表面に、該表面に前記金属酸化物の前躯体と予備形成ナノ粒子とを接触させることで、コーティングを堆積させる工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記第一金属酸化物が、ドープされた金属酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティング方法が、前記第一金属酸化物のマトリックスの中のナノ粒子として前記コーティングを堆積させることを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板が、透明又は半透明の基板であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基板が、ガラス又はプラスチックを含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無機物質が、金属を含むことを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属が、d−ブロック金属であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属が、白金族金属又は貨幣金属であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Pt又はこれらの合金から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記予備形成ナノ粒子が、無機マトリックスの中に含まれることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記無機マトリックスが、マトリックス金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックス金属酸化物が、前記第一金属酸化物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第一金属酸化物が、Ce、Sn、Al、Ti、Zr、Zn、Hf又はSiの酸化物を含むことを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ドープされた金属酸化物が、Al、Ga、F、N、Nb又はSbでドープされていることを特徴とする、請求項2から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ドープされた金属酸化物が、導電性のドープされた金属酸化物であることを特徴とする、請求項2から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第一金属酸化物が、実質的に透明であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第一金属酸化物が、Sn、Ti、Si、Zr、Hf、Ce、又はAlの酸化物を含むことを特徴とする、請求項11から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、1nm〜150nm、好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜80nm、最も好ましくは20〜50nmの粒子サイズを有することを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティングが、20〜300nmの厚みを有することを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング方法が、化学蒸着堆積、スプレー熱分解、エアゾールスプレー熱分解、及び/又はフレーム溶射から選択されることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基板の表面が、80℃〜750℃、好ましくは100℃〜650℃、さらに好ましくは100℃〜600℃、最も好ましくは100℃〜550℃の範囲の温度であることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
コーティングを有する基板であって、前記コーティングが第一金属酸化物と無機物質の予備形成ナノ粒子を含む、基板。
【請求項23】
前記第一金属酸化物がドープされた金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項24に記載の基板。
【図1】
【図2a)】
【図2b)】
【図2c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2a)】
【図2b)】
【図2c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−520758(P2012−520758A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500320(P2012−500320)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050467
【国際公開番号】WO2010/106370
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511226591)ユニバーシティー カレッジ ロンドン (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY COLLEGE LONDON
【出願人】(510290027)ザ チャンセラー,マスターズ アンド スカラーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ オックスフォード (2)
【出願人】(591229107)ピルキントン グループ リミテッド (82)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050467
【国際公開番号】WO2010/106370
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511226591)ユニバーシティー カレッジ ロンドン (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY COLLEGE LONDON
【出願人】(510290027)ザ チャンセラー,マスターズ アンド スカラーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ オックスフォード (2)
【出願人】(591229107)ピルキントン グループ リミテッド (82)
【Fターム(参考)】
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