説明

コーティング材及び高撥水・高しゅう動性製品

【課題】基材の表面に高撥水・高しゅう動性に優れたシリカコーティング膜を形成できるコーティング材を提供する。
【解決手段】シリカコーティング膜を形成するためのコーティング材において、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂とからなり、シルセスキオキサン100重量部に対し、改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材及び高撥水・高しゅう動性製品に係り、特に、プラスチック、ゴム、金属、セラミックスやこれらの複合材、さらには耐熱性がなく、低強度の有機素材からなる有機基材を高撥水、高しゅう動性とするコーティング材及び高撥水・高しゅう動性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、ゴム、金属、セラミックス等に代表される素材でできた建材などの有機基材の表面に、撥水性、耐摩耗性を付与することにより、製品を高耐久性化、長寿命化することができ、それによって、製品を高付加価値化することが可能となる。そのため、従来、さまざまな製品の研究開発が行われているが、基材表面に撥水性、高しゅう動性を共に付与することはなかなか困難であり、実用化されているのは少ないのが実情であった。
【0003】
その中で撥水性コーティングとしては現在よく用いられているのは、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)コーティングであるが、焼き付けして製造されるため、例えば、耐熱性のない基材にコーティングすることが難しく、耐摩耗性も必ずしも十分とは言えず実用は限定されたものになっている。
【0004】
また、従来、ケイ酸塩やシリカをコーティングする方法が種々報告されており、例えば、亀裂を生じにくい安定塗膜を与える無機コーティング材、耐水性のガラス質コーティング膜の形成法、金属基体をコーティングするための組成物、その他、多数の技術が提案されている。このように、従来ケイ酸塩やシリカを安定性や耐水性コーティング材として使用することは公知技術である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−2511号公報
【特許文献2】特開平11−181352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、当該技術分野において、ケイ酸塩及びシリカコーティング膜を施して、基材に撥水性、高しゅう動性を共に付与することは実現されていなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、基材に撥水性、耐摩耗性を共に付与することが可能なコーティング材及び高撥水・高しゅう動性製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、シリカコーティング膜を形成するためのコーティング材において、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂とからなり、前記シルセスキオキサン100重量部に対し、前記改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有するコーティング材である。
【0009】
請求項2の発明は、前記反応性官能基は、ビニル基、メタクリロ基、アクリロ基、エポキシ基のいずれかからなる請求項1に記載のコーティング材である。
【0010】
請求項3の発明は、前記改質ふっ素樹脂は、その原料となる原料ふっ素樹脂の融点以上の温度、大気圧下、かつ酸素濃度1.3kPa以下の条件の下、前記原料ふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質したものである請求項1または2に記載のコーティング材である。
【0011】
請求項4の発明は、前記コーティング材は、さらに、前記シルセスキオキサン100重量部に対し過酸化物重合開始剤またはカチオン重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有する請求項1〜3いずれかに記載のコーティング材である。
【0012】
請求項5の発明は、前記コーティング材は、さらに、前記シルセスキオキサン100重量部に対しラジカル重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有する請求項1〜3いずれかに記載のコーティング材である。
【0013】
請求項6の発明は、プラスチック、ゴム、金属、セラミックス等に代表される素材からなる基材に、請求項1〜5いずれかに記載のコーティング材を塗布し、これを硬化させて前記基材にシリカコーティング膜を形成した高撥水・高しゅう動性製品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材の表面に高撥水・高しゅう動性に優れたシリカコーティング膜を形成できるコーティング材及び高撥水・高しゅう動性製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0016】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を抜本的に解決すると共に、基材に撥水性、耐摩耗性を共に付与できる高撥水・高しゅう動性製品を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、基材の表面に、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂からなるシリカコーティング膜を施すことにより高撥水・高しゅう動性に優れた製品が得られることを見出した。
【0017】
本発明の好適な実施形態を示すコーティング材は、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂とからなり、シルセスキオキサン100重量部に対し、改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有するものである。
【0018】
本実施形態では基材として、好適には、例えばプラスチック、ゴム、金属、セラミックス、木材、紙、竹、有機繊維、それらの組み合わせ、およびそれらの積層体を用いる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同等ないし類似のものであれば同様に用いることができる。
【0019】
また、上記シルセスキオキサンは、3官能性シランを加水分解することで得られる(RSiO1.5の構造を持つネットワーク型ポリマー、または多面体クラスターである。ここで、Rは炭化水素基、nは1以上の自然数である。
【0020】
シルセスキオキサンの反応性官能基は、ビニル基、メタクリロ基、アクリロ基、またはエポキシ基のいずれかからなるとよい。
【0021】
すなわち、反応性官能基を有するシルセスキオキサンとしては、ポリシロキサンの誘導体であるエポキシ基含有シルセスキオキサン、ビニル基含有シルセスキオキサン、アクリロイル基含有シルセスキオキサン、メタクリロイル基含有のシルセスキオキサンを用いるとよい。
【0022】
改質ふっ素樹脂は、その原料となる原料ふっ素樹脂の融点以上の温度、大気圧下、かつ酸素濃度1.3kPa(10torr)以下の条件の下、原料ふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質したものである。
【0023】
原料ふっ素樹脂としては通常のPTFEを用い、このPTFEを上述の条件で改質して改質ふっ素樹脂とした後、ジェットミルにより微粉砕した。
【0024】
この微粉砕した改質ふっ素樹脂を上記シルセスキオキサンに加えるが、このとき、シルセスキオキサン100重量部に対し、改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有するようにする。
【0025】
これは、改質ふっ素樹脂が10重量部未満であると、撥水性、耐摩耗性ともに低くなり、改質ふっ素樹脂が100重量部を超えると、撥水性は高いが、耐摩耗性が低くなるためである。
【0026】
また、本実施形態では、反応性官能基を有するシルセスキオキサンを熱や光により硬化させ、目的とする物性を付与させる。
【0027】
熱硬化の場合、シルセスキオキサンに過酸化物重合開始剤やカチオン重合開始剤を添加するとよい。
【0028】
過酸化重合開始剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等を、カチオン重合開始剤としては、第4級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスニウム塩等を用いるとよい。
【0029】
熱硬化の場合、本実施形態に係るコーティング材は、シルセスキオキサン100重量部に対し、過酸化重合開始剤またはカチオン重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有するとよい。
【0030】
これは、過酸化重合開始剤またはカチオン重合開始剤が0.5重量部未満であると、硬化が不十分でコーティング材の硬度が低く耐摩耗性等の強靱性が得られず、5重量部を超えると、硬化後のシリカコーティング膜中にボイドを生じやすくなるためである。
【0031】
一方、光硬化の場合には、ラジカル重合開始剤を添加し、可視光、紫外線、電子線等の照射によりラジカルを発生させ、このラジカルによりシルセスキオキサンを硬化させるとよい。
【0032】
ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、トリアジン等を用いるとよい。
【0033】
光硬化の場合、本実施形態に係るコーティング材は、シルセスキオキサン100重量部に対し、ラジカル重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有するとよい。
【0034】
これは、ラジカル重合開始剤が0.5重量部未満であると、硬化が不十分でコーティング材の硬度が低く耐摩耗性等の強靱性が得られず、5重量部を超えると、硬化後のシリカコーティング膜中にボイドを生じやすくなるためである。
【0035】
上述したコーティング材を上記基材に塗布し、これを硬化して基材の表面にシリカコーティング膜を形成すると、本実施形態に係る高撥水・高しゅう動性製品が得られる。
【0036】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0037】
本実施形態に係るコーティング材は、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂とからなり、シルセスキオキサン100重量部に対し、改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有している。
【0038】
シルセスキオキサンは、シリカコーティング膜表面に耐水性、耐摩耗性を付与し、改質ふっ素樹脂は、シリカコーティング膜の表面に局在することにより、撥水性、撥油性を付与する。
【0039】
つまり、本実施形態のコーティング材で基材表面にシリカコーティング膜を形成することで、その基材に撥水性、耐摩耗性を共に付与できる。
【0040】
また、本実施形態に係るコーティング材により形成されたシリカコーティング膜は、耐熱性を有しており、例えば、プラスチック等の可燃性の有機基材にコートすることにより、これを耐熱性とするだけでなく、それらの強度も格段に向上させることができる。
【0041】
すなわち、本実施形態に係るコーティング材は、基材に撥水・高しゅう動性を共に付与するだけではなく、特に、有機素材からなる有機基材の強度を向上させ、高耐久性化と長寿命化を実現できる。
【0042】
さらに、本実施形態に係るコーティング材は、熱硬化で用いる場合、シルセスキオキサン100重量部に対し過酸化物重合開始剤またはカチオン重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有している。
【0043】
これにより、コーティング材の硬化が不十分であったり、硬化後のシリカコーティング膜中にボイドを生じることがなくなり、十分な強度を有するシリカコーティング膜を形成できる。
【0044】
また、本実施形態に係るコーティング材は、光硬化で用いる場合、前記シルセスキオキサン100重量部に対しラジカル重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有している。
【0045】
これにより、熱硬化の場合と同様に、十分な強度を有するシリカコーティング膜を形成できる。
【0046】
本実施形態に係る高撥水・高しゅう動性製品は、本実施形態に係るコーティング材を基板に塗布し、これを硬化するという簡便な方法により製造できる。
【0047】
また、本実施形態に係る高撥水・高しゅう動性製品は、形成されたシリカコーティング膜表面が緻密なシリカ構造を有するため、耐水性に優れており、汚れを簡易に拭き取ったり洗い流したりできる利点を有する。
【実施例】
【0048】
基材として、アルミ板を使用して高撥水・高しゅう動性製品を作製した。
【0049】
(1)製品の作製
トリエトキシシランとビニルトリメトキシシランとを加水分解し共重合させることにより、ビニル基を有するシルセスキオキサン1を合成した。また、トリエトキシシランと3アクリロキシプロピルトリメトキシシランとを加水分解し共重合させることによりアクリロイル基を有するシルセスキオキサン2を合成した。これらのシルセスキオキサンに改質ふっ素樹脂と、ラジカル重合開始剤としてアセトフェノン(または過酸化物重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド)とを添加し分散させ、コーティング材とした。厚さ2mmのアルミ表面に、エタノールをスプレーした後、赤外線ランプで乾燥し、これを3回繰り返し表面の洗浄を行った。その後、前述のコーティング材をスピンコートにより塗布し、紫外線(波長100〜400nm)または熱によって硬化させ、厚さ30μmのコーティング膜を得た。
【0050】
改質ふっ素樹脂の原料ふっ素樹脂には、PTFE(P−192 旭硝子製)を使用した。このPTFEを、酸素濃度が0.133kPa(1torr)、窒素濃度が101.192kPa(759torr)の大気圧下(101.325kPa(760torr))、340℃の温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を100kGy照射し、改質を行った。これをジェットミルにより平均粒径20μmに微粉砕した。
【0051】
以上のようにして、表1に示す実施例1〜5および比較例1〜4の製品を作製した。
【0052】
(2)試験方法及び結果
実施例1〜5および比較例1〜4の製品について、耐熱性、撥水性を評価し、さらに耐久性・長寿命化の指標としてしゅう動特性を評価した。
【0053】
耐熱性は、上記コーティング材10mgを常温で真空中(圧力1.3Pa(10−2torr))、24時間乾燥後、熱天秤(窒素50mL/分、昇温速度10℃/分)を用い、30℃から200℃まで上げ30℃と200℃での重量を測定し、両者の差から変化率を算出した。
【0054】
撥水性については、接触角計(CA−D型 協和界面化学株式会社製)を用い、液滴径1.9mmに調整し水の接触角により評価した。
【0055】
しゅう動特性については、次の方法により行った。試験にはリングオンデスク摩耗試験装置を使用し、JISK7218に準じ、SUS304製の円筒リング(外径25.6mm、内径20.6mm、平均粗さ0.6μm)と前記試験片をしゅう動させた。圧力0.1MPa、速度50m/分の条件で行い、雰囲気は空気中、20℃とし、20分後の比摩耗量および摩擦係数を測定した。
【0056】
比摩耗量VSAは、20分後の重量減少(摩耗量V)を測定し、下記の式(1)から求めた。
【0057】
SA=V/(P・L) (1)
V:摩耗量、P:試験荷重、L:平均滑り距離
試験結果を表1にまとめて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すとおり、本発明に基づく実施例1〜5は接触角が高く撥水性に優れ、しかも耐摩耗性が良好であり更に摩擦係数も低く、低摩擦性に優れる特徴を有していることがわかる。
【0060】
これに対し、改質ふっ素樹脂を混合していない比較例1は接触角が低く撥水性に劣り、耐摩耗性も低い。また改質されていないふっ素樹脂を用いた比較例2は分散性が悪く、比較例1と同様、接触角が低く撥水性に劣り、耐摩耗性も低い。改質ふっ素樹脂の混和量が限定値未満(10重量部未満)の比較例3は、接触角が低く撥水性に劣り、耐摩耗性が低く、一方改質ふっ素樹脂の混和量が限定値(100重量部)を超えた比較例4では、耐摩耗性が低下している。
【0061】
以上説明してきた実施例と比較例との対比からも明らかなように、本発明によれば、高撥水・高しゅう動性に優れた耐摩耗性を付与でき、有機ポリマの応用範囲を広げる上で大きく貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカコーティング膜を形成するためのコーティング材において、反応性官能基を有するシルセスキオキサンと改質ふっ素樹脂とからなり、前記シルセスキオキサン100重量部に対し、前記改質ふっ素樹脂を10〜100重量部含有することを特徴とするコーティング材。
【請求項2】
前記反応性官能基は、ビニル基、メタクリロ基、アクリロ基、エポキシ基のいずれかからなる請求項1に記載のコーティング材。
【請求項3】
前記改質ふっ素樹脂は、その原料となる原料ふっ素樹脂の融点以上の温度、大気圧下、かつ酸素濃度1.3kPa以下の条件の下、前記原料ふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質したものである請求項1または2に記載のコーティング材。
【請求項4】
前記コーティング材は、さらに、前記シルセスキオキサン100重量部に対し過酸化物重合開始剤またはカチオン重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有する請求項1〜3いずれかに記載のコーティング材。
【請求項5】
前記コーティング材は、さらに、前記シルセスキオキサン100重量部に対しラジカル重合開始剤を0.5〜5重量部の範囲内で含有する請求項1〜3いずれかに記載のコーティング材。
【請求項6】
プラスチック、ゴム、金属、セラミックス等に代表される素材からなる基材に、請求項1〜5いずれかに記載のコーティング材を塗布し、これを硬化させて前記基材にシリカコーティング膜を形成したことを特徴とする高撥水・高しゅう動性製品。

【公開番号】特開2009−29986(P2009−29986A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197208(P2007−197208)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】