説明

コーティング組成物及びそれを用いたプラスチックレンズ

【課題】高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することが可能なコーティング組成物を提供すること。
【解決手段】(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子と、 (B)下記一般式:RSi(OR4−(a+b) …(1)(式(1)中、Rは官能基を有する有機基又は不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基を示し、Rは炭素数1〜6の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基を示し、a及びbはそれぞれ0又は1を示し、且つa+bは1又は2を示す。)で表される有機ケイ素化合物又はその加水分解物と、 (C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)と、 (D)アセチルアセトネート金属錯体化合物と、を含有することを特徴とするコーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物及びそれを用いたプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズと比較して成型性、加工性、安全性の高いことから眼鏡用として広く用いられている。しかしながら、プラスチックレンズにおいては、プラスチック自体の硬度不足によるキズに対する弱さ(耐擦傷性)が問題となるため、プラスチックレンズとしては、プラスチックレンズ基材の表面にハードコート膜が形成されたものが広く用いられている。
【0003】
また、このようなハードコート膜を形成するためのコーティング組成物は、従来は酸化ケイ素微粒子を主成分とするものであったが、プラスチックレンズの高屈折率化に伴い、ハードコート膜に干渉縞が見え、見栄えが悪くなるという問題が生じた。そのため、酸化ケイ素微粒子に変わって、例えば酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ジルコニウムのような高屈折率の金属酸化物からなる複合酸化物の微粒子を主成分とするコーティング組成物が提案されている。
【0004】
さらに、高屈折率のプラスチックレンズ用のコーティング組成物として、例えば、特開平07-168002号公報(特許文献1)には、酸化チタンと酸化ジルコニウムとの複合酸化物の微粒子、並びに有機ケイ素化合物又はその加水分解物を含有するコーティング組成物が開示され、明細書中において、金属錯体化合物を更に含有するコーティング組成物が記載されている。また、特開2006−89749号公報(特許文献2)には、アセチルアセトナート金属錯体化合物を含有するコーティング組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献等に記載されているようなコーティング組成物を用いて得られるハードコート膜においては、耐擦傷性や干渉縞の問題は解決されるものの、高屈折率のプラスチックレンズ基材とハードコート膜との密着性という点で必ずしも満足できるものではなく、特に太陽光等に曝された場合にハードコート膜の密着性が著しく低下してしまう(耐候性が劣る)という問題があった。
【特許文献1】特開平07-168002号公報
【特許文献2】特開2006−89749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れ、例えば長期間にわたり太陽光等に曝された場合においても高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することが可能なコーティング組成物、並びにそれを用いたプラスチックレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化チタン含有複合酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物を主成分として含有し、エチレンジアミン四酢酸鉄(III)及び特定のアセチルアセトネート金属錯体化合物を更に含有するコーティング組成物によれば、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れ、例えば長期間にわたり太陽光等に曝された場合においても高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のコーティング組成物は、(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子と、
(B)下記一般式:
Si(OR4−(a+b) …(1)
(式(1)中、Rは官能基を有する有機基又は不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基を示し、Rは炭素数1〜6の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基を示し、a及びbはそれぞれ0又は1を示し、且つa+bは1又は2を示す。)
で表される有機ケイ素化合物又はその加水分解物と、
(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)と、
(D)中心金属が、リチウム、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、ジルコニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム、ビスマス、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つの金属であるアセチルアセトネート金属錯体化合物と、
を含有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のコーティング組成物においては、(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを更に含有することが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のコーティング組成物においては、前記(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)の含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコーティング組成物においては、前記(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物の含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.1〜15質量部の範囲となる量であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のコーティング組成物においては、前記(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムの含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることが好ましい。
【0013】
本発明のプラスチックレンズは、屈折率1.60以上のプラスチックレンズ基材と、前記プラスチックレンズ基材の表面に形成された、前記コーティング組成物から形成されるハードコート膜とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れ、例えば長期間にわたり太陽光等に曝された場合においても高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することが可能なコーティング組成物、並びにそれを用いたプラスチックレンズを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明のコーティング組成物について説明する。すなわち、本発明のコーティング組成物は、以下説明する(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子、(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物、(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)、及び(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物を含有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明にかかる(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子は、酸化チタンを含有する複合酸化物の微粒子である。このような複合酸化物の微粒子は、複合酸化物を水、メタノール又はその他の有機溶媒等に分散したゾルとして用いられる。また、このような複合酸化物の微粒子の粒子径は、1〜100nmの範囲であることが好ましい。粒子径が前記下限未満では、酸化チタン含有複合酸化物ゾル自体の安定性も悪くなり、ゾルの製造が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとコーティング組成物の安定性や得られるハードコート膜の透明性、平滑性等が低下する傾向にある。
【0018】
また、このような複合酸化物は、酸化チタンと他の金属酸化物を複合させたものである。このように酸化チタンと複合させて用いることができる他の金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ランタン、酸化インジウム、酸化ニオブが挙げられる。これらの他の金属酸化物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、このような酸化チタン含有複合酸化物としては、例えば、酸化チタン/酸化ジルコニウム複合酸化物、酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/酸化鉄/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/酸化スズ/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/酸化スズ/酸化ジルコニウム複合酸化物、酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素/酸化アンチモン複合酸化物が挙げられる。これらの中でも、得られるハードコート膜の耐擦傷性及び耐候性の観点から、酸化チタン/酸化スズ/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物、酸化チタン/酸化スズ/酸化ジルコニウム複合酸化物、酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素/酸化アンチモン複合酸化物が好ましい。
【0019】
また、このような酸化チタン含有複合酸化物中の酸化チタンの含有比率は、特に限定されないが、10〜95質量%の範囲であることが好ましい。酸化チタンの含有比率が、前記下限未満では、干渉縞を低減するために十分な屈折率が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、太陽光等に曝された場合にハードコート膜が変色しやすくなるという問題を生ずる傾向にある。なお、酸化チタンの含有比率を調整することにより、得られるハードコート膜の屈折率を調節することもできる。
【0020】
本発明にかかる(B)有機ケイ素化合物は、下記一般式:
Si(OR4−(a+b) …(1)
で表されるものである。
【0021】
前記一般式(1)において、Rは官能基を有する有機基又は不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基を示す。また、Rは炭素数1〜6の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を示す。さらに、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基を示す。また、a及びbはそれぞれ0又は1を示し、且つa+bは1又は2を示す。
【0022】
また、前記一般式(1)において、Rは官能基としてエポキシ基を有する有機基であることが好ましい。このように官能基としてエポキシ基を有する有機ケイ素化合物はエポキシシランと呼ばれるものである。そして、このような有機ケイ素化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが挙げられる。また、前記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物のうち、Rが官能基としてエポキシ基を有するもの以外(a=0のものを含む)の有機ケイ素化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン化合物;ビニルトリアセトキシシラン等のトリアシロキシシラン化合物;ビニルトリメトキシエトキシシラン等のトリアルコキシアルコキシシラン化合物が挙げられる。これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
また、本発明にかかる(B)有機ケイ素化合物は、そのまま使用しても良いが、得られるコーティング組成物の反応速度を増し、硬化温度を下げるという観点から、有機ケイ素化合物の加水分解物として使用することもできる。
【0024】
本発明のコーティング組成物は、前述した(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子及び(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物を主成分として含有するものである。本発明のコーティング組成物中における前記(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子と、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物との含有割合としては、質量比(前記(A):前記(B))で1:0.5〜1:10の範囲にあることが好ましく、1:0.5〜1:3の範囲にあることがより好ましい。前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物の含有割合が前記下限未満では、得られるハードコート膜にクラックが発生する可能性があると共にレンズ基材への密着性を十分に確保することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるハードコート膜の屈折率や耐擦傷性を十分に確保することが困難となる傾向にある。なお、これらの含有割合を調整することにより、得られるハードコート膜の屈折率を調節することもできる。
【0025】
本発明のコーティング組成物は、前述した(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子及び(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物の他に、(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)及び(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物を含有するものである。このように(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)及び(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物を併せて含有するコーティング組成物を用いることにより、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れたハードコート膜を形成することが可能となる。また、このような(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)及び(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物を添加することにより、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物の三次元構造形成反応を促進する効果、或いは得られるコーティング組成物のポットライフを延長する効果を得ることもできる。
【0026】
このような(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物は、中心金属が、リチウム(Li)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、ビスマス(Bi)、及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも一つの金属であるアセチルアセトネート金属錯体化合物である。これらのアセチルアセトネート金属錯体化合物の中でも、十分な耐擦傷性や耐候性を確保するという観点から、アルミニウムアセチルアセトネート、鉄(III)アセチルアセトネートが好ましい。また、これらのアセチルアセトネート金属錯体化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、本発明のコーティング組成物においては、前記(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)の含有量は、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることが好ましく、1〜5質量部の範囲となる量であることがより好ましい。含有量が前記下限未満では、得られるハードコート膜の耐候性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コーティング組成物(コーティング液)の安定性が損なわれる傾向にある。
【0028】
さらに、本発明のコーティング組成物においては、前記(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物の含有量は、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.1〜15質量部の範囲となる量であることが好ましく、0.5〜10質量部の範囲となる量であることがより好ましい。含有量が前記下限未満では、得られるハードコート膜の耐擦傷性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるハードコート膜にクラックが発生する可能性があると共にレンズ基材への密着性を十分に確保することができない傾向にある。
【0029】
また、本発明のコーティング組成物においては、(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを更に含有することが好ましい。このような(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを前記(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)及び前記(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物と併用することにより、得られるハードコート膜の耐擦傷性を更に向上させることができる。
【0030】
このような(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを用いる場合には、その含有量は、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることが好ましく、1〜5質量部の範囲となる量であることがより好ましい。含有量が前記下限未満では、得られるハードコート膜の耐擦傷性を向上させる効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コーティング液の安定性が損なわれる傾向にある。また、このような(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを用いる場合には、(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムの含有量と前記(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)の含有量との合計量を、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して10質量部以下となる量とすることが好ましく、5質量部以下となる量とすることがより好ましい。これらの含有量が前記上限を超えると、コーティング液の安定性が損なわれる傾向にある。
【0031】
さらに、本発明のコーティング組成物は、コーティング組成物を液状にするため或いは粘度を低くするために、必要に応じて更に溶媒を含有していてもよい。このような溶媒としては、例えば、水、低級アルコール、アセトン、エーテル、ケトン、エステルが挙げられる。また、本発明のコーティング組成物は、必要に応じて更に各種添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、pH調節剤、粘度調節剤、レベリング剤、つや消し剤、染料、顔料、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0032】
以上説明したような本発明のコーティング組成物によれば、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れ、例えば長期間にわたり太陽光等に曝された場合においても高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することができる。
【0033】
本発明のコーティング組成物を用いてハードコート膜を形成する方法としては、例えば、本発明のコーティング組成物をプラスチックレンズ基材に塗布した後に熱硬化させることによって、プラスチックレンズ基材の表面にハードコート膜を形成する方法を採用することができる。
【0034】
このような塗布手段としては、刷毛塗り、浸漬、ロール塗り、スプレー塗装、流し塗り等の通常の塗装法を用いることができる。さらに、コーティング組成物の塗布膜厚としては、硬化後のハードコート膜の厚みが0.5〜6μmの範囲となるような厚みとすることが好ましい。さらに、熱硬化の温度は70〜130℃の範囲とすることが好ましい。なお、本発明のコーティング組成物を鋳型に塗布した後、プラスチックレンズ基材の原料を注形重合してプラスチックレンズ基材を成形してもよく、また、本発明のコーティング組成物を成形物に塗布した後、未だ硬化していない塗膜表面を鋳型と密着させ、その上で塗膜を硬化させてもよい。
【0035】
また、このようなプラスチックレンズ基材としては、特に高屈折率のものに限定されない。さらに、このようなプラスチックレンズ基材の原料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート及びその共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)の重合体を挙げられる。
【0036】
次に、本発明のプラスチックレンズについて説明する。すなわち、本発明のプラスチックレンズは、屈折率1.60以上のプラスチックレンズ基材と、前記プラスチックレンズ基材の表面に形成された、前記コーティング組成物から形成されるハードコート膜とを備えることを特徴とするものである。
【0037】
このように屈折率1.60以上の高屈折率プラスチックレンズ基材の原料としては、例えば、チオウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂が挙げられる。また、前記コーティング組成物を用いてハードコート膜を形成する方法としては、前述の通りの方法を採用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(調製例1)
反応容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン45質量部を投入し、攪拌しながら0.1N塩酸水溶液10質量部を徐々に滴下して有機ケイ素化合物の加水分解物を得た。
【0040】
(実施例1)
調製例1で得られた有機ケイ素化合物の加水分解物55質量部に対し、酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物ゾル(メタノール分散液、触媒化成工業(株)製、固形分:30質量%)120質量部を添加し、次いで、エチレンジアミン四酢酸鉄1質量部及びエチレンジアミン四酢酸アルミニウム0.5質量部を純水25質量部に溶かして添加した。その後、メタノール45質量部にアルミニウムアセチルアセトネート1質量部を溶かしたアルミニウムアセチルアセトネート溶液を反応容器にさらに添加し、次いで、テトラエトキシシラン5質量部及び界面活性剤L−7001(東レダウコーニング社製)0.5質量部を添加した後に攪拌してコーティング組成物を得た。
【0041】
次に、屈折率1.67のプラスチックレンズ基材(ニコン・エシロール製、製品名「ニコンライト4AS400」)を準備し、洗浄及びアルカリ処理を行った。そして、このようなプラスチックレンズ基材に得られたコーティング組成物をディップコート法で膜厚が2.0μmになるように塗布し、温度100℃にて4時間硬化させてハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0042】
(実施例2)
エチレンジアミン四酢酸鉄の添加量を0.5質量部とした以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0043】
(実施例3)
エチレンジアミン四酢酸鉄の添加量を0.25質量部とした以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0044】
(実施例4)
酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物ゾル(メタノール分散液、触媒化成工業(株)製、固形分:30質量%)に代えて、酸化チタン/酸化鉄/二酸化ケイ素複合酸化物ゾル(メタノール分散液、触媒化成工業(株)製、固形分:30質量%)を使用した以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0045】
(実施例5)
酸化チタン/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物ゾル(メタノール分散液、触媒化成工業(株)製、固形分:30質量%)120質量部に代えて、酸化チタン/酸化スズ/酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合酸化物ゾル(メタノール分散液、触媒化成工業(株)製、固形分:20質量%)180質量部を使用し、アルミニウムアセチルアセトネート溶液のメタノール量を5質量部とした以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0046】
(実施例6)
エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0047】
(比較例1)
エチレンジアミン四酢酸鉄を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0048】
(比較例2)
エチレンジアミン四酢酸鉄を添加せず、エチレンジアミン四酢酸アルミニウムの添加量を1.5質量部とした以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0049】
(比較例3)
エチレンジアミン四酢酸鉄の添加量を1.5質量部とし、エチレンジアミン四酢酸アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートを添加しなかった以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物及びハードコート付きプラスチックレンズを得た。
【0050】
<耐候性及び耐擦傷性の評価>
(1)耐候性の評価方法
ハードコート付きプラスチックレンズの耐候性を以下に示す方法で評価した。すなわち、ハードコート付きプラスチックレンズを試料として、試料の表面に60キロルクスの紫外線を照射した。そして、UV照射前(初期)及び照射時間50時間毎の試料について、ハードコート膜のプラスチックレンズ基材への密着性を評価することにより、ハードコート付きプラスチックレンズの耐候性を評価した。なお、密着性の評価は、試料にカッターで碁盤目状25マスの切り込み(1mm/マス)を入れ、セロハンテープを用いて剥離操作を行った後のハードコート膜の剥離度合いを確認することにより行った。そして、試料の密着性は以下に示す基準に従って判定した。
◎:剥がれがない。
○:点状にわずかに剥がれを生じた。
△:表面面積に対して10%未満の剥がれを生じた。
×:表面面積に対して10%以上の剥がれを生じた。
【0051】
(2)耐擦傷性の評価方法
ハードコート付きプラスチックレンズの耐擦傷性を以下に示す2つの擦傷性試験によって評価した。
【0052】
(i)擦傷性試験1
ハードコート付きプラスチックレンズの表面をスチールウール♯0000で摩擦した際のキズの度合いを、以下に示す基準に従って判定した。
◎:かなり強く摩擦してもキズがつかない。
○:かなり強く摩擦すると少しキズがつく。
×:弱い摩擦でもキズがつく。
【0053】
(ii)擦傷性試験2
ハードコート付きプラスチックレンズを試料として、COLTS Laboratories社のBayer Test法に準拠した方法で耐擦傷性を評価した。すなわち、試料と未コートのCR39スタンダードレンズとを共に砂中で振動試験を行い、振動試験後のレンズ表面の曇度をそれぞれ測定した。そして、試料の曇度とCR39スタンダードレンズの曇度との比(CR39スタンダードレンズの曇度/試料の曇度)を算出し、この比の数値に基づいて以下に示す基準に従って判定した。なお、この比の数値が1であればCR39スタンダードレンズと同程度の耐擦傷性であることを示し、数値が増大すれば評価レンズの耐擦傷性が高まっていることを示している。
◎:比の数値が2.5以上である。
○:比の数値が2.0以上であり、且つ2.5未満である。
△:比の数値が1.5以上であり、且つ2.0未満である。
×:比の数値が1.5未満である。
【0054】
(3)評価結果
実施例1〜6及び比較例1〜3得られたハードコート付きプラスチックレンズの耐候性及び耐擦傷性を評価した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のコーティング組成物を用いた場合(実施例1〜6)は、耐候性及び耐擦傷性が十分に優れたものであった。一方、エチレンジアミン四酢酸鉄を含有していないコーティング組成物を用いた場合(比較例1、2)は、UV照射後におけるハードコート膜のプラスチックレンズ基材への密着性が不十分であり、耐候性が劣ったものであった。また、アルミニウムアセチルアセトネートを含有していないコーティング組成物を用いた場合(比較例3)は、耐擦傷性が劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、十分な耐擦傷性を有し、しかも耐候性に優れ、例えば長期間にわたり太陽光等に曝された場合においても高屈折率プラスチックレンズ基材に対して十分な密着性を有するハードコート膜を形成することが可能なコーティング組成物、並びにそれを用いたプラスチックレンズを提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化チタン含有複合酸化物微粒子と、
(B)下記一般式:
Si(OR4−(a+b) …(1)
(式(1)中、Rは官能基を有する有機基又は不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基を示し、Rは炭素数1〜6の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基を示し、a及びbはそれぞれ0又は1を示し、且つa+bは1又は2を示す。)
で表される有機ケイ素化合物又はその加水分解物と、
(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)と、
(D)中心金属が、リチウム、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、ジルコニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム、ビスマス、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つの金属であるアセチルアセトネート金属錯体化合物と、
を含有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムを更に含有することを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記(C)エチレンジアミン四酢酸鉄(III)の含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記(D)アセチルアセトネート金属錯体化合物の含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.1〜15質量部の範囲となる量であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記(E)エチレンジアミン四酢酸アルミニウムの含有量が、前記(B)有機ケイ素化合物又はその加水分解物100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲となる量であることを特徴とする請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
屈折率1.60以上のプラスチックレンズ基材と、前記プラスチックレンズ基材の表面に形成された、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のコーティング組成物から形成されるハードコート膜とを備えることを特徴とするプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2008−214397(P2008−214397A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50314(P2007−50314)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(300035870)株式会社ニコン・エシロール (51)
【Fターム(参考)】