説明

コーヒーの濾過器

【課題】フィルタ製の袋本体の前後の面部に厚板紙製の掛止め部材を直接接合した使い捨てに係るコーヒーの濾過器における上記掛止め部材の強度を補強し、カップに対する係止力を保つと共に、装着作業時の損傷を防止して取扱いを容易にした濾過器を提供する。
【解決手段】厚板紙から固定片9と腕片10と係止片11を連続した状態で一体に形成してなる掛止め部材3をフィルタ製の袋本体2の前後の面部2a,2bに止着するに当って固定片9の全面を止着するのに併せて該固定片9から舌状に延設される前記腕片10の基端部13から自由先端部に向かう所要の範囲を、前記前後の面部4a,2bの外表面部に止着して補強弾性部14を形成し、掛止め部材3を引起こしてカップに掛止める際に前記腕片10の引起こしと共に補強弾性部14を介して前後の面部2a,2bを引起こし、腕片基端部に集中する負荷を分散して腰折れを回避して腕片の損傷を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てに係るドリップ式の簡易型コーヒーの濾過器に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てになるドリップ式の簡易型コーヒーの濾過器については多種多様なものが提案され、また実用化されて多くが市場に出回っている。
中でもコーヒー粉末を内包したフィルタ製の袋本体を厚紙製の支持体でコーヒーカップ上に載置固定するようにしたもの(載置タイプ)、或は支持体に設ける係止片をコーヒーカップの縁に掛け止めて袋本体をカップ内部に吊設状に支えるもの(掛止めタイプ)等のフィルタ並びに厚紙を素材に形成したドリップ式の使い捨てタイプの濾過器が製造コスト等の面から多数実用化され市販されている。
【0003】
一回限りの使用による使い捨て濾過器は、材料単価が低いことと製造コストを抑えて量産できることが求められる結果、構造的にシンプルなものが指向される。
この様な中にあって前記後者のフィルタ製の袋本体に対してこの袋本体を支える係止手段を直接袋本体に取付け、使用時にはこの係止手段をコーヒーカップの縁に掛け止めて吊設状態に支持するようにした掛け止めタイプの濾過器は、構造上求められる一応の要件を備えるものとなっている。具体的には例えば、特許文献1に記載されるものがその一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−230143号公報。
【0005】
この特許文献1に記載される濾過器は、ドリップバッグとして提案されているが、コーヒー粉末を封入する袋本体2の前後の面に掛止部材3を一体に取付け、この掛止部材3の貼着部11から連続して設けられるアーム部5を引き起し、更に、このアーム部から連続して設けられる掛止片12を引き起してこれをカップ30の縁に掛け止めることによって前記袋本体2をカップの中に吊設状に支持できるようにしたものであり、使用時には上記袋本体2の上縁部を横方向にミシン目7に沿って切り取ることによって開口させ、カップに対して吊設した状態に装着したのち、袋本体のコーヒー粉末に対して湯を注ぎ込み、濾過することができるようにしたものである。
【0006】
この特許文献1に記載の濾過器は、袋本体2に直接掛止部材3の貼着部11を貼り付けることによって形成されるものであり、シンプルな構造に係るものであって製造性の面から、又材料の面から使い捨ての濾過器として優れた利点を有している。ことに、上記掛止部材3は薄板片を切り抜くことによって貼着部11、アーム部5、掛止片12の各部を一体のものとして形成することができることからその製造性を更に有利なものにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この既提案に係るドリップバッグ、即ち濾過器の問題点は、材料を節約して、最大限簡略化したことによって、中でも掛止部材において使用時に形状維持能力を失い袋本体の開口部の開放状態が崩れること、或はカップに対する係止力が弱まり安定した支持が得られなくなると言った問題があることである。
【0008】
この問題は、掛止部材となる薄板状材料、具体的には所要の剛性をもった板厚紙を切り抜いて貼着部、アーム部、掛止片を連続した形で一体に形成すること、そして使用時には袋本体に固定する上記貼着部からアーム部を引き起して掛止片をカップの縁に掛け止めることによって支持する構造にしてあることにある。つまり、アーム部を引き起したとき、貼着部との接続点となるアーム部の基端部が引き起しの基点となることによって引き起しの力がこの基端部、つまり引き起こしの基点となる部分に集中してこれが原因となって屈折するからである。
【0009】
掛止部材のカップに対する係止力は、掛止片がカップの縁に引っ掛ることに加えて引き起されたアーム部が素材の復元力で貼着部側、つまり袋本体側に引き寄せられることによって強められる。そして、上記掛止片の係止状態が強められ、安定した支持が得られることに併せて上記復元力で貼着部がカップの縁に係止する掛止片側に引き寄せられることによって袋本体の前後の面が外に引き出され、その結果袋本体の開口部が広げられることになる。
【0010】
従って、上記提案に係る濾過器においては掛止片の引き起しによる係止力の強化は重要な意義を持っている。しかし、この掛止片の引き起しの際に、或は引き起したのちカップの縁に掛け止める際に、素材の強度、耐久力を超える力がアーム部に作用して引き起しの基点となる基端部に集中し、これによってアーム部が腰折れの如く屈折することになると、アーム部の反り返りによって生ずる反発力が失われることになり、係止力が弱まることによって支持の不安定化を招来し、また袋本体の開口部の広がりを失うことになる。
ことに、袋本体の開口部の広がりはアーム部の復元力に依存しているところが大きく、これを失うと充分な開放状態が得られなくなると同時に、湯の注入に伴って開口部の縁が内方に垂れ込んで開口部を閉じ、湯の注ぎ込みを困難にすることになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記従来の提案に係る濾過器における問題に鑑み、これを改善すべく研究開発されたものであり、その目的とするところは、使用に当って掛止部材のアーム部、つまり腕片を引き起す際に貼着部、つまり固定片と接続する基端部に集中する引き起しの力を緩和し、この基端部に起る折れ曲りを回避して反り返り状態の維持を図り、掛止片のカップの縁に対する係止力を保つと共に、この反り返り状態によって袋本体の前後の面部を外に引き出してこの面部の復元力をも引き出して、袋本体の開口部の広がりを確保するようにしたコーヒーの濾過器を提供しようとするものである。
【0012】
更に詳述すれば、本発明は、透水性フィルタ素材により形成される上部に開口部を備える袋本体と、この袋本体の前、後面部の外表面に取付く一対の掛止め部材とを有してなるコーヒーの濾過器であって、前記掛止め部材は厚紙板片を切り抜いて互いに連続する状態で前記袋本体に固定する固定片と、この固定片から上向きに舌片状に延設される腕片と、この腕片の上端部から左右方向に延び出し前記固定片の外側縁に沿って囲むように門形若しくは方形に延設される係止片とを一体に形成すると共に、この掛止め部材の前記固定片を前記袋本体の前,後面部の各外表面に接着固定して一体に取付けると同時に、この固定片から延設される前記腕片の基端部を先端部に向けて所要の範囲に亘って前記袋本体の前,後面部の外表面に接合し、該基端部に腰折れ防止の補強弾性部を形成してなることを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項1に記載の発明)。
【0013】
上記袋本体をコーヒーカップに装着し支持する掛止め部材に使用される厚紙板片は、所要の剛性を有した厚板紙であり、この厚板紙を切り抜くことで掛止め部材を構成するところの固定片、腕片、係止片を連続した状態で一体に形成することになる。そして、上記固定片を袋本体の前後の面部のそれぞれの外表面に接着することにより、前後一対のものが取付けられることになり、非使用時、つまり未使用状態においては厚板紙の原形を保って袋本体の前後の面部に寄り添った状態に置かれることになる。
【0014】
一方、前記袋本体は透水性のフィルタ素材、例えば合成樹脂製の不織布を材料にして上方を開放した袋状に形成される。その内部には所要量の被抽出物たるコーヒー粉末が投入され、開口部を閉じることによってこれを封入した状態に保たれる。
【0015】
本発明に係る上記濾過器は、袋本体に投入したコーヒー粉末の賞味を保つため気密の包装袋に包装して保管することになる。そして使用に当ってはこの包装袋から取り出すと共に、袋本体の開口部を開封し、次に前後の面部に取付けた掛止め部材の各係止片を前後方向に引き出し、この作業によって腕片を引き起して係止片を装着するカップの開口部の口径に合せたところまで広げ、この状態においてカップの縁に被せるようにして掛止め、装着することになる。
【0016】
上記装着作業において、係止片と共に引き出される腕片は、固定片に接続する基端部を基点にして係止片と接続する先端、つまり自由端を起して素材の剛性に抗して反り返り、復元力を蓄積しながら外に向かって伸び出すことになる。そして、同時にこの反り返りに併せて上記基端部を袋本体の前後の面部に接合することで形成される補強弾性部を介してこのフィルタからなる前後の面部を外に向けて引き出すことになる。このため、腕片の引き起しが進行するにつれて前後面部の抵抗を受けることになり、その結果次第に反り返りの角度が抑えられることになる。この様なことから、上記腕片はフィルタからなる前後の面部の支持を得て基端部を緩慢に湾曲させることになり、腰折れ状態に屈折するのを回避することになる。
【0017】
その一方、上記補強弾性部による腕片の屈折が回避される結果、腕片には復元力が蓄積されることになり、係止片のカップに対する係止力が安定的に得られることになり、同時にこの係止片を基点にして腕片が袋本体の前後の面部を外に引き寄せることから開口部の前後の縁が外に引き出され、自動的に開口部を拡張させた状態に保つことができることになる。
【0018】
また一方、本発明は、前記袋本体は上部開口部の縁に沿って前、後面部の上縁部を折り返し、重ね合わせに接合して補強縁部を形成することを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項2に記載の発明)。
【0019】
この発明は、袋本体の開口部を前後の面部を折り返して二重にすることによって縁部の剛性を高め、開口時に内方への垂れ込みを防止すると同時に、縁部を二重にすることによってコーヒー粉末との接触が不充分な湯の透過を防止することになる。
【0020】
袋本体は、前後面部をフィルタ素材によって形成することから剛性に乏しく、開口時における自立性に欠けることから、外に広げたとき袋本体の中間部、つまり胴の中央部は前述したように掛止め部材の係止作用によって広がるが、逆に開口部は広がり切れずに内側に倒れ込んで閉じる傾向がある。加えて開口させた状態で湯が注ぎ込まれると底部が膨らむことから閉じる状態となり、この結果湯の注ぎ込みを妨げることになる。
【0021】
この様に、袋本体の開口部を縁部に沿って二重とすることにより剛性が付与される結果、内方への垂れ込みが防止され、湯の注ぎ込みの妨げとなるのを回避することができると共に、縁部の形状を維持できることができることになり、更に縁部が二重になることによってこの部分におけるフィルタの透水率が低下するためコーヒー粉末との接触が不充分な湯の流出が避けられることになり、回収されるコーヒー液の濃度の低下を回避することができる。
【0022】
また本発明は、前記袋本体の上部開口部の縁に沿って前、後面部の上縁部に厚紙板片からなる補強片を一体に添設してなることを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項3に記載の発明)。
【0023】
この発明では、前記発明(請求項3に係る発明)と同様に袋本体の開口部の強化に係る発明であって、開口部に臨む上縁部に沿って補強片を添わせることによって開口部の縁部の剛性を高めることになり、フィルタの透水性を抑えて湯の漏れ出しを防止することができる。
【0024】
また本発明は、前記前、後面部の上縁部に添設される補強片に各上縁部から互い違いに向き合う摘み片を袋本体の開口部を超えて突出形成してなることを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項4に記載の発明)。
【0025】
この発明によれば、上記発明における補強片に互い違いに向き合う摘み片を各一体に設けることによって、袋本体の開口部を開放操作する際にこの摘み片により簡単に開放することができることになる。
この摘み片は、開口部において前後の面部を接合し、閉塞するようにして封入するコーヒー粉末の漏れ出しを防止するようにした場合に有効であり、前後の摘み片を指で摘んで前後に引き離すことによって簡単に開封することができることになる。
【0026】
また本発明は、前記袋本体は前、後面部の各側縁部を内側に折り込み、且つ側縁部端縁同士を一体に連続させて袋本体の両側部に拡張可能な襠を形成することを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項5に記載の発明)。
【0027】
この発明によれば、袋本体の左右の側縁部を内側に折り込み襠を設けることから未使用状態において偏平に折り畳んだとき横幅を縮小させることができる。これにより包装袋に収納するに当って最少の形態で収納することができることになり、包装形態を小型化できることになる。
その一方、この小型化される袋本体は、使用に当って開口部を開放したとき左右側部の襠を開くことによって内部を拡張することができるため必要な容積を確保して湯の注ぎ込みを容易にすると同時に、充分なコーヒー粉末との接触を図ることができる。
【0028】
また本発明は、前記袋本体の開口部は該開口部に臨む前、後面部の内表面同士を点又は線状に接合して開閉可能に閉塞し、コーヒー粉末を封入することを特徴としたコーヒーの濾過器を提供することにある(請求項6に記載の発明)。
【0029】
この発明によれば、袋本体の開口部を開閉可能に閉塞して内部にコーヒー粉末を封入する構造にすることから、コーヒー粉末を封入した状態において包装袋に収納し、保管できると共に、使用時には包装袋から取り出したのち、熱融着部分を破壊して開口部を容易に開放し、湯の注ぎ込みを可能にするため、極めて取り扱い易い濾過器を提供することができることになる。
【0030】
尚、上記提供に係る本発明濾過器は、袋本体をフィルタ素材によって形成するものとするが、製造の上からヒートシールを可能にする合成樹脂製のフィルタ素材が適している。更に言うならば、フィルタを二層構造とし、内面側を強接着性に、そして外面側を弱接着性とする合成樹脂製の不織布からなる二層構造のフィルタにして、袋本体を構成する前後の面部同士の接合を内面側同士の接面による接合にして強固なものにして、所要の強度を出すことができるようにし、その一方、開口部の閉塞に当っては弱接着性である外側面同志を接合して接着状態を抑え、これを利用して容易に剥離できるようにして使用時の開封作業が容易に行えるようにするとよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、上述の如く構成されることから、特に掛止め部材の腕片の基端部に袋本体の前後の面部に接合する補強弾性部を設けて、この腕片を引き起したとき、フィルタ素材による補強によって屈曲が一点に集中するのを回避することができる構造となることから、使用時に腕片の反り返り状態を維持して復元力を保つことができ、従ってカップに対する係止力と袋本体の前後の面部を引き出して開口部の開放を助けることができることから湯の注ぎ込みが容易であり、しかも安定した装着が可能なコーヒーの濾過器を提供することができる。
【0032】
また、本発明は腕片における補強弾性部の上記働きに加えて、使用時に開放される袋本体の開口部は、フィルタ素材を二重に折り返して補強縁部を形成することから素材の腰の弱さから内方に垂れ込んだり、湯の注ぎ込みによって内部重量の増加によって袋本体の形状が変化する場合にも、開放状態をそのまゝ維持することができる。
【0033】
勿論、この開口部の縁部に沿って補強片を添わせたものにおいては、更に形状維持能力を高めて安定した開放状態を維持できるとともに、未使用閉塞時には前後の面部の接面を補強し、封入するコーヒー粉末の漏れ出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るコーヒの濾過器の正面図である。
【図2】袋本体に止着する掛止め部材と補強片とを分解して示した正面図である。
【図3】使用に備えて袋本体を開放すると共に、掛止め部材を引き起した状態を示す傾斜図である。
【図4】図1のA−A線に沿って断面とした拡大断面図である。
【図5】図3のB−B線に沿って断面とした拡大断面図である。
【図6】掛止め部材の腕片を引き起したときにおける基端部の反り返り状態と袋本体のフィルタ素材の引き出しに伴う補強状態を説明する拡大縦断面図である。
【図7】本発明にかかる濾過器をコーヒーカップに掛止めた使用状態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
添付する図面は、本発明に係るコーヒーの濾過器の一実施形態を示したものである。以下、これら図面に示す実施の形態に基づき本発明を説明し、その特徴とするところを明らかにする。
図面において、符号1は本発明に係るコーヒーの濾過器であり、2はこのコーヒーの濾過器1の袋本体であり、3は使用時に袋本体2をコーヒーカップ4の縁に掛け止め支持する掛止め部材である。
【0036】
袋本体2は合成樹脂の不織布からなるフィルタを素材にして上方を開放する袋形にしてある。ここでは、袋本体2の前後の面部2a,2bの左右の縁部をそれぞれ内側に折り返して前後の面部2a,2bの間に折り込む襠5,5を設け、偏平に折りたゝめるようにしてあり、また、前後の面部2a,2bの各上縁部を内側に折り返して二重にし、且つこれを接合して補強縁部6を形成して、この補強縁部6によって開口部7の全周を強化してある。
【0037】
ここにおける前記フィルタ素材にはヒートシールが可能な合成樹脂製フィルタを使用しているが、更にここでは弱接着性と強接着性の接着性を異にした二層構造のフィルタ素材を使用し、前後の面部2a,2bはそれぞれ内面側に強接着性のフィルタ層aを、そして外面側に弱接着性のフィルタ層bが向くようにして、前記補強縁部6を形成する際には折り返しによって二重にしたところでヒートシールすることで一体に接合し、この補強縁部6を容易に形成することができるようにしている。
【0038】
図4は、この状態を具体的に示したもので、内側面になる強接着性のフィルタ層aにはポリプロピレンのフィルタが、また外側面の弱接着性のフィルタ層bにはポリエステルのフィルタが配置され二層構造を形成している。
この接着強度の異る二層構造のフィルタの使用は補強縁部6の形成と共に、袋本体2の底部8おける前後面部2a,2bの接合にも有効に利用され、強固な接合を実現する。その一方、図4に示したように前後の面部2a,2bの上縁相互を接合して開口部7を閉塞する際は弱接着性のフィルタ層b,bによる接着となるため、後述する様にその接合点は接合強度が弱いものとなり、指先による引き離しによって簡単に剥離開封が可能なものとなる。
【0039】
掛止め部材3は、所要剛性を有したやゝ厚手の板紙を素材にしてこれを切抜くことによって形成される。図1に示したように略方形の板紙を切抜いて固定片9と腕片10,係止片11を一体に形成し、更にここでは掛止め部材3に併せて、補強片12を同時に形成している。
【0040】
掛止め部材3を構成する前記固定片9,腕片10,係止片11のうち、固定片9は略凹字形に切抜いて形成してある。この固定片9の凹字形の溝の底部に続くようにして舌片状の腕片10を切出し、更にこの腕片10の上端部から左右方向に延び出し、且つ前記固定片9を囲み込むように略矩形の枠形をなす係止片11を切り出している。
【0041】
この掛止め部材3は、固定片9を前後の面部2a,2bの各外表面に接合することによって前後1対のものが対称的に固定してある。そして、それぞれはこの固定片9の取付けによって平面状を維持したまゝ袋本体の前後の面部2a,2bの外表面に接面した状態で取付き、未使用時の袋本体2を偏平に保つことになる。
【0042】
一方、この掛止め部材3の取付けにおいて、前記固定片9の接合に併せてこの固定片9から連続して形成される腕片10は基端部13の背面をそれぞれ前後の面部2a,2bの外表面に接合してここにフィルタ素材と一体をなす補強弾性部14を形成している。
この補強弾性部14は、更に説明すると舌片状に形成される腕片10の固定片9に続く基端部13(図面において腕片10の両側縁を形成する切込みの終端同士を結ぶ位置)から先端部(自由端部)側に向う所要の領域において前、後面部2a,2bに直接接着することによって形成されている。
【0043】
従って、腕片10を引き起こすと、接着により一体化した前後面部2a,2bがこの接着部分において一緒に引き上げられ、その結果、フィルタ素材の復元力が同時に働くことになり、基端部13に集中する引き起しの力がこの部分全体に分散され腰折れ状態、即ち屈折を回避することになる。
【0044】
尚、図1において破線15は固定片9と腕片10の補強弾性部14の前後の面部2a,2bに対する接合範囲を示したものである。また、破線16は後述するように係止片11をカップ4の縁に掛止めるとき、この係止片がカップの外側に回り込み易くするための折曲げ部分を示したものである。
【0045】
ところで、前記掛止め部材3と共に形成される前記補強片12は、係止片11の外側を囲むように門形に形成してあり、上縁部12aの上部には中央部から右側にずらして摘み片17を突設している。
この補強片12は、上縁部12aを袋本体2の開口部7に沿って接着し、二重にした補強縁部6に重ねてこの開口部7の縁を補強するものであり、また左右の端から垂設する側片部12b,12bを前後の面部2a,2bのそれぞれの側縁部に接着することにより襠5,5の内側に入り込めるようにしてある。そして、上縁部12aの左右には上記側片部12b,12bが襠5,5の内側に無理なく折り込めるように折曲げのミシン線18を形成している。
【0046】
尚、上記袋本体2は、開口部7に添って厚紙によって形成される補強片12を接着して補強することから、フィルタ素材の柔軟性による垂れ込みを回避することができ、開放時の閉塞を防止できると同時に、この開放時に開かれる襠5の中に側片部12b,12bと共に上縁部12aの両端部分が入ってフィルタ素材を支えることから開放される開口部7を略矩形に開くことができ、湯の注ぎ込みを容易にすることになる。
【0047】
さて、上記構成に係る本発明濾過器は、袋本体2の中に所要量のコーヒー粉末(通常8〜10g前後の粉末量)を充填し、未使用時には前後の面部2a,2bを寄せ合せて偏平状にすると共に、接面する開口部7においてヒートシールによって前後面の部分19を接着し、閉塞した状態にして気密性の包装袋(図示せず)に収容し、保管することになる。
そして、使用時には包装袋から取り出したのち、補強片12の摘み片17を摘んで前後に開き、部分19の接着を剥離して開封し、カップ4に掛止めることになる。
【0048】
この使用の実際について説明すると、濾過器1の装着は、前後の面部2a,2bに取付けた掛止め部材3,3の係止片11,11を引き出すことによって行うことになる。
前後の面部2a,2bに接面した状態にある係止片11を指で摘んで引き起し、この作業を通して腕片10を起すと共に、袋本体2の前後の面部2a,2bを開口部7と共に開放し、前後の係止片11,11がカップ4の口に合う程度に開いたところで縁に掛け止め、装着作業を終了することになる。
【0049】
この装着作業において、係止片11の引き出しによって引き起される腕片10は、前後の面部2a,2bに固定される固定片9との接続点となる基端部13を基点にして起き上りを開始し、厚紙素材の剛性に抗しながら反り返り、係止片11の引き出しに追随することになる。
そして、腕片10の剛性に抗しての起き上りは、同時に袋本体2の前後の面部2a,2bを外に引き出すことになり、開放を誘導することになる。これと共に、この引き出し時に補強弾性部14を介して上記前後面部2a,2bの一部を引き出しながら起き上ることから基端部13を基点にしながら徐々に反り返ることになり、これに伴って反り返りの基点が一点に集中するのが回避されることになる。
【0050】
ところで、厚紙は、材料としてのコストが低く、打抜きによる加工も容易で製造性に優れることから、使い捨ての濾過器の素材として条件を備えたものとなるが、同時に、折れ曲げに対しては耐久性に欠け、簡単に折れ曲って復元力を失う問題があることは前述した通りである。
本発明濾過器は、上述した通り、引き起しによって腕片10に反りが加えられたとき、前記補強弾性部14によってフィルタ素材の裏打ちを受けて急激な反り返りが防止される構造になっていることから、折れ曲りが回避され、反り返り状態が維持されて復元力が残されることになる。その結果、反発力が腕片10に蓄積され、袋本体2の開放と、係止片11,11の係止力が保たれて安定した装着状態が得られることになる。
【0051】
勿論、この様に腕片10の引き起しにおいて基端部13の屈曲が回避されることは、装着時の安定性が保たれることになると同時に、装着作業時に腕片10の引き起し作業の中で簡単に折れ曲るのが回避されることになるため、安心して装着作業を行うことができ、取り扱いを容易にすることができる。
【0052】
また一方、前述したように袋本体2は開口部7を補強片部6によって、また補強片12によってそれぞれ補強され、柔軟なフィルタ素材に対して所要の剛性が付与される構造になっていることから、掛止め部材3,3によるカップ4に対する装着が行われたとき、開口部7をしっかり開放した状態に保つことができ、また未使用時には開口部7を閉じた状態において前、後の面部2a,2bの上縁部同士を接面した状態に閉じ合せて内容物のコーヒー粉末を確実に封入して置くことができることになる。そして、このとき補強片部6と補強片12によって剛性が付与されることから、前述の様に部分19のみによる接着でも充分な閉塞状態が保持されることになる。
【0053】
さて、図7は本発明に係る濾過器1をコーヒーカップ4に装着した状態を示す使用状態を示す斜視図である。予めコーヒー粉末(図示せず)を封入して置く袋本体2は、この装着に当って先ず開口部7上に突出する摘み片17,17を指先で摘んで前後方向に引き離す作業を通して接合した部分19同士を剥離し、開封することになる。
この開封作業後に前後の面部2a,2bに備える掛止め部材3,3の各係止片11,11を外に引き出し、これに伴わせて腕片10,10を引き起して両係止片11,11がコーヒーカップ4の口径まで開いたところで、この係止片11,11をそれぞれカップ4の縁の外側に掛け止めて装着を完了することになる。
【0054】
図7は、この装着完了状態を示している。上記係止片11,11の引き出しにおいて腕片10,10の引き起しと共に、この引き起しに連動して袋本体2の接面した状態にたゝまれた前後の面部2a,2bが引き離されることになる。これに併せて左右の襠5,5が開かれ、袋本体2は筒形に拡張開放することになる。そして、この操作において図示するように開口部7は矩形に開放し、内部に封入したコーヒー粉末に対して湯の注ぎ込みが容易に行えるようになる。
【0055】
図5及び図6は、この袋本体2の装着作業において、前後の掛止め部材3,3の各係止片11,11を引き出し、この引き出しによって腕片10,10が引き起される状態と、この腕片10,10と袋本体2の前後の面部2a,2bとの関係を示したものである。尚、ここでは前後の掛止め部材3,3は同一であるので、前面側の掛止め部材3と前面部2aとの関係について説明し、他方を省略している。
【0056】
この中で、図5は、固定片9に揃って前面部2aに接面した状態にある係止片11及び腕片10を引き起しを始めた状態を示している。この状態における腕片10は僅かに起された状態にあることから、緩い反り返り状態にあり、無理のない姿勢を保つことになる。
次に、図6は係止片11がカップ4の縁に掛けられる程に引き出され、これに伴って腕片10が弓形に反り返り、復元力による反発力が蓄積された状態を示している。
【0057】
腕片10が図6の如く引き起されると、腕片10自体がその剛性に抗して反り返ることになると同時に、引き出しに伴う反り返りによってその基端部13において前面部2aに接合して一体化が図られた補強弾性部14がこの前面部2aを盛上げる如く外に向けて引き出されることになるため、反り返りの基点が上記基端部13の位置から補強弾性部14の全体に及び、この補強弾性部14において腕片10は緩い反り返り状態を作ることになる。つまり、ここで一点集中に伴う腰折れを回避し、反り返り状態から反発力を生み出して係止片11の係止力及び袋本体2の開放状態を安定的に保つことになるのである。
【0058】
更に言えば、上記補強弾性部14は、反り返る腕片10にフィルタ素材の前面部2aを接合して一体化することにより補強するもので、腕片10の反り返りを緩慢にして折れ曲りを回避し、同時にフィルタ素材の持つ復元力を腕片10に作用させて、これにより補強及び弾性を付与するものであり、厚紙素材からなる腕片10の脆さを補強するものとなるのである。
【0059】
尚、腕片10に形成される上記補強弾性部14は、素材の厚紙によっても異ることになるが、袋本体2に一体に接着固定される固定部9に接続する基端部13から先端部方向に向かって約2〜4mm程度の範囲に亘って形成されると、所要の効果を上げることができる。勿論、接合範囲が大きくなると、腕片10の引き起しによる反り返りが少なくなり、延び出しが小さくなってこれに伴う負荷が狭い部分に集中することになるので、返って腰折れの原因となることから、設計時の配慮が求められることになる。
【0060】
以上の様に、本発明に係る濾過器1は、掛止め部材3,3の腕片10,10の基端部13,13に袋本体2の前後の面部2a,2bと直接接合する補強弾性部14,14を形成することで、比較的強度の低い厚紙製の掛止め部材であっても充分な強度を保ち、且つ反発力を失うことなく掛止め状態を作ることができるため、信頼性の高い濾過器とすることができ、しかも特段の手間を要することなく製造できるため、コスト高となることもない。
【符号の説明】
【0061】
1 本発明に係る濾過器
2 袋本体
2a,2b 袋本体の前,後面部
3 掛止め部材
5 袋本体の側部に形成す襠
6 袋本体の開口部に沿って形成する補強縁部
7 袋本体の開口部
9 掛止め部材の固定片
10 掛止め部材の腕片
11 掛止め部材の係止片
12 補強片
12a 補強片の上縁部
12b 補強片の側片部
13 腕片の基端部
14 補強弾性部
17 補強片に設けた摘み片
19 開口部を閉塞接合する部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性フィルタ素材により形成される上部に開口部を備える袋本体と、この袋本体の前、後面部の外表面に取付く一対の掛止め部材とを有してなるコーヒーの濾過器であって、前記掛止め部材は厚紙板片を切り抜いて互いに連続する状態で前記袋本体に固定する固定片と、この固定片から上向きに舌片状に延設される腕片と、この腕片の上端部から左右方向に延び出し前記固定片の外側縁に沿って囲むように門形若しくは方形に延設される係止片とを一体に形成すると共に、この掛止め部材の前記固定片を前記袋本体の前,後面部の各外表面に接着固定して一体に取付けると同時に、この固定片から延設される前記腕片の基端部を先端部に向けて所要の範囲に亘って前記袋本体の前,後面部の外表面に接合し、該基端部に腰折れ防止の補強弾性部を形成してなることを特徴としたコーヒーの濾過器。
【請求項2】
請求項1に記載のコーヒー濾過器において、袋本体は上部開口部の縁に沿って前、後面部の上縁部を折り返し、重ね合わせに接合して補強縁部を形成することを特徴としたコーヒーの濾過器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコーヒーの濾過器において、袋本体の上部開口部の縁に沿って前、後面部の上縁部に厚紙板片からなる補強片を一体に添設してなることを特徴としたコーヒーの濾過器。
【請求項4】
請求項3に記載のコーヒーの濾過器において、前、後面部の上縁部に添設される補強片には各上縁部から互い違いに向き合う摘み片を袋本体の開口部を超えて突出形成してなることを特徴としたコーヒーの濾過器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの請求項に記載のコーヒーの濾過器において、袋本体は前、後面部の各側縁部を内側に折り込み、且つ側縁部端縁同士を一体に連続させて袋本体の両側部に拡張可能な襠を形成することを特徴としたコーヒーの濾過器。
【請求項6】
請求項5に記載のコーヒーの濾過器において、袋本体の開口部は該開口部に臨む前、後面部の内表面同士を点又は線状に接合して開閉可能に閉塞し、コーヒー粉末を封入することを特徴としたコーヒーの濾過器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−125508(P2011−125508A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286882(P2009−286882)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【特許番号】特許第4571224号(P4571224)
【特許公報発行日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(591253401)片岡物産株式会社 (18)
【Fターム(参考)】