説明

コールドスプレー装置

【課題】材料粉末供給装置やガス加熱器を低圧で運転することができ、ガス消費コストを低減することができ、しかもコールドスプレーノズルを閉塞させずに安定した運転を行うことができるコールドスプレー装置を提供する。
【解決手段】材料粉末を作動ガスとともにコールドスプレーノズルから高速で噴射し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置において、
コールドスプレーノズル1内に設けられ、作動ガスのガス通路幅を絞ることにより高速ガス流を形成する高速ガス流形成部Aと、材料粉末Mを低圧ガスに搬送させてコールドスプレーノズルに供給する材料粉末供給路6と、コールドスプレーノズルに高圧の作動ガスを供給する高圧ガス供給路8と、材料粉末を伴う低圧ガスを、コールドスプレーノズルの中心軸方向から高速ガス流形成部Aの近傍且つその下流側に導入する材料粉末供給ノズル4とを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料粉末を作動ガスとともにノズルから高速で噴射し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレーに関し、より詳しくは、そのコールドスプレーに使用するコールドスプレー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コールドスプレーは、プラズマ溶射等の溶射法に比べ材料粉末を高温に加熱する必要がないため、材料の酸化がほとんどない良好な被膜を得ることができる。
【0003】
図8は、従来の一般的なコールドスプレー装置の構成を示したものであり、コールドスプレー装置は、スプレーガン50aとその先端に設けられたノズル50bからなり、作動ガスのすべてを単一のガス供給部(例えば、窒素ボンベや液体窒素容器等)から得ている。
【0004】
上記ガス供給部から供給される高圧の作動ガスは二つの経路に分岐され、一方の作動ガスG1はガス加熱器51を経て、材料粉末の融点または軟化温度よりも低い温度に加熱された後、スプレーガン50aに供給される。
【0005】
他方の作動ガスG2は粉末供給装置52に送られ、キャリアガスとして材料粉末とともにスプレーガン50aに供給される。
【0006】
スプレーガン50aに供給された作動ガスG(G1、G2)と材料粉末は、流路が絞られたノズル50bを経ることにより音速から超音速流となりノズル50bの出口から噴出される(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
なお、作動ガスGとしては、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が用いられるが、流速が速い点からヘリウムが好適である。また、材料粉末を超音速流れによって加速させる場合、通常、作動ガスGとして3〜4MPaの高圧ガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4310251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来のコールドスプレー装置では、以下に示すような欠点がある。
【0010】
(1) 材料粉末の付着歩留まりを重視して材料粉末を加熱した場合、材料粉末がノズル内壁に付着したり、その付着に起因するノズル閉塞が生じるようになる。
【0011】
(2) 粉末供給装置52とガス加熱器51が3〜4MPaの高圧ガス環境に曝されるため、それぞれ耐圧設計が必要となり、コールドスプレー装置のコストが高くなる。
【0012】
(3) 単一のガス供給部しか持たないため、材料の酸化を防ぐためにはすべての作動ガスを空気以外の例えば窒素ガスやヘリウムガスにしなければならず、加えて作動ガスのほぼ全量を加熱する必要があることからガス消費コストが高くつく。
【0013】
本発明は以上のような従来のコールドスプレー装置における課題を考慮してなされたものであり、材料粉末供給装置やガス加熱器を低圧で運転することができ、ガス消費コストを低減することができ、しかもコールドスプレーノズルを閉塞させずに安定した運転を行うことができるコールドスプレー装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、材料粉末を作動ガスとともにコールドスプレーノズルから高速で噴射し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置において、
上記コールドスプレーノズル内に設けられ、上記作動ガスのガス通路幅を絞ることにより高速ガス流を形成する高速ガス流形成部と、
上記材料粉末を低圧の作動ガスに搬送させて上記コールドスプレーノズルに供給する材料粉末供給路と、
上記コールドスプレーノズルの高速ガス流形成部に高圧の作動ガスを供給する高圧ガス供給路と、
上記材料粉末を伴う上記低圧の作動ガスを、上記コールドスプレーノズルの中心軸方向から上記高速ガス流形成部の近傍且つその下流側に導入する材料粉末供給ノズルと、
を備えてなるコールドスプレー装置である。
【0015】
本発明において、上記材料粉末供給路に、上記材料粉末を伴う上記低圧の作動ガスを加熱する加熱装置を設けることが好ましい。
【0016】
本発明において、上記コールドスプレーノズルが、上記材料粉末供給ノズルが挿入される中空室を備えた本体部とその本体部から延設される加速ノズル部を有する場合、
上記材料粉末供給ノズルの先端外壁と上記加速ノズル部の入口側内壁との間に上記高速ガス流形成部を形成することができる。
【0017】
本発明において、上記加速ノズル部が、ノズルの先端に向けて内径が段階的に拡大するように内径が異なる複数のリング状部品を筒状に連結することによって構成される場合、隣接する上記リング状部品の内壁段差部分に、上記高速ガス流をノズル先端側に向けて筒状に噴射する環状の噴射口を形成することができる。
【0018】
また、上記加速ノズル部における下流側の上記噴射口に圧縮空気を供給する圧縮空気供給路を接続すれば、安価なガスを用いてコールドスプレーノズル内の高速流れを維持しつつ材料粉末の温度降下を防止することができる。
【0019】
さらにまた、上記圧縮空気供給路に、上記圧縮空気の温度を調整する温度調整装置を設ければ、コールドスプレーノズルから噴射される材料粉末の温度を調整することができる。
【0020】
なお、本発明における材料粉末としては、金属、合金、金属間化合物、セラミックス等を使用することができる。また、作動ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。
【0021】
また、本発明の高速ガス流とは、例えばマッハ数Mが3の超音速ガス流を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、材料粉末供給路における材料粉末供給装置やガス加熱器を低圧で運転することができるため耐圧設計が不要となる。また、ガス消費コストを低減することができるとともに、ノズルが閉塞しないコールドスプレーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るノズル内マッハ数とノズル内圧力の関係を示したグラフである。
【図2】本発明に係るコールドスプレーノズルの第一実施形態を示す縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図2に示したコールドスプレーノズルを用いたコールドスプレー装置のフロー図である。
【図5】本発明に係るコールドスプレーノズルの第二実施形態を示す縦断面図である。
【図6】図5に示したコールドスプレーノズルを用いたコールドスプレー装置のフロー図である。
【図7】材料粉末を模擬した水滴が加速ノズル内を飛行する状態を示した図面代用写真である。
【図8】従来のコールドスプレー装置の構成を示す説明図である。
【図9】図5に示したコールドスプレーノズルの基本形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0025】
1. 本発明のコールドスプレーノズルの原理
コールドスプレーに使用される超音速ノズル内のガス流れは、ガス通路の最狭部分で流速が丁度、音速に等しいマッハM=1の流れになっており、その上流側ではマッハM<1の亜音速流れとなり、その下流側ではマッハM>1の超音速流れになっている。
【0026】
流速が速くなると、流体の持つエネルギのうち運動エネルギはより高くなるのに反し、圧力エネルギは相対的に低下する。すなわち、超音速流れでは圧力が低下する。
【0027】
この関係式は下記式(1)により表される。
【0028】
【数1】

ここで、p:作動ガスの元圧、p:マッハ数Mでのノズル内圧力、M:ノズル内流れのマッハ数、κ:ガスの比熱比(空気や窒素はκ=1.4)
【0029】
例えば作動ガスの元圧が4MPaの場合、ノズル内マッハ数とノズル内圧力との関係は図1のグラフに示す特性Nのように変化する。同グラフにおいて、横軸はノズル内マッハ数、縦軸はノズル内圧力MPaを示している。
【0030】
同グラフにおいて、ノズル内マッハ数Mが3になると、もはや超音速ノズル内の圧力は大気圧と同じ0.1MPaまで低下していることが分かる。このような環境に材料粉末を供給するのであれば、従来のコールドスプレー装置のように粉末キャリアガスを4MPaもの高圧にする必要ない。
【0031】
そこで、0.4MPa程度の低圧のガスをキャリアガスとして使用し、十分に加熱した材料粉末および低圧のキャリアガスを、超音速ノズルに供給することを計画した。
【0032】
2. 本発明の第一実施形態
2.1 コールドスプレーノズルの第一の構成
図2は、一段ノズルから高圧の作動ガスを噴射し、材料粉末を加速させるコールドスプレーノズルを示したものであり、図3は図2に示した高速ガス流形成部Aの拡大図である。
【0033】
図2に示したコールドスプレーノズル1は、本体部2と、その本体部2の先端に接続される加速ノズル部3とから主として構成されている。
【0034】
上記本体部2は中空室2aを有する有底筒状部材からなり、上記加速ノズル部3はその中空室2aの開口を閉塞するフランジ部3aとそのフランジ部3aから延設される直管部3bとを備えている。
【0035】
中空室2a内にはノズル中心軸C上に材料粉末供給ノズル4が挿入されている。
【0036】
この材料粉末供給ノズル4に一次ガスS1を供給する経路には、ホッパーから構成される材料粉末供給装置5が設けられ、一次ガスS1中に所定量の材料粉末Mを導入するようになっている。
【0037】
上記一次ガスS1は、材料粉末Mを加速ノズル部3へと搬送すること、および材料粉末Mの付着歩留まりが高くなるように加熱することを目的としており、高温に加熱した低圧ガスを使用する。また、一次ガスS1は高温中で材料粉末Mと接触するため、酸素を含まない、例えば窒素ガスを使用することが好ましい。
【0038】
このように、低圧のガスを一次ガスS1として用い加速ノズル部3内に供給するが、この一次ガスS1は材料粉末Mと一緒に二次ガス(後述する)から運動力をもらって加速されるため、材料粉末Mを搬送できる最小限の流量で足りる。
【0039】
上記中空室2aには材料粉末Mを加速させるための二次ガスS2が高圧で供給されており、加速ノズル部3内に超音速の流れを形成するようになっている。
【0040】
二次ガス供給孔2bを通じて本体部2に供給される二次ガスS2は、材料粉末Mと接触する機会が多いため、酸素を含まない例えば窒素ガスを使用することが好ましい。また、材料粉末Mの温度を低下させないよう、500℃程度の中温度に加熱しておくことが好ましい。
【0041】
この二次ガスS2は、加速ノズル部3の内壁付近を高速で流れることからシールド効果が働き、材料粉末Mが加速ノズル部3の内壁に接触する確率が小さくなる。それにより、材料粉末Mが加速ノズル部3の内壁に付着することが防止される。
【0042】
二次ガスS2は、加速ノズル部3の内壁を材料粉末Mの接触から保護するとともに、材料粉末Mの酸化と温度降下を防ぎ、自ら超音速の気流になりその粘性により加速ノズル部3の中心付近を飛行する材料粉末Mを加速させる。
【0043】
また、図3に示すように、材料粉末供給ノズル4と加速ノズル部3入口との間には高速ガス流形成部としてのスロートが形成されている。
【0044】
詳しくは、加速ノズル部3の入口側内壁分には、断面円弧状に突出した凸部3cが形成されており、この凸部3cと対向するようにして材料粉末供給ノズル4の先端部4a外壁には、断面楔状のガス流偏向部4bが形成されている。
【0045】
上記スロートは環状の噴射口と連通しており、噴射口出口T1の開口幅D1>スロート最狭部分T2の開口幅D2となるように、上記ガス流偏向部4bと上記凸部3cの形状が決められている。
【0046】
また、上記ガス流偏向部4bの先端は、噴射口最狭部分T2よりも下流側(ガス流れ方向において)に配置されており、それにより、スロート最狭部分T2を通過して超音速流れとなり大気圧と同じ程度の圧力となった領域に、材料粉末供給ノズル4から材料粉末Mが供給されるようになっている。
【0047】
2.2 コールドスプレー装置
図4は上記コールドスプレーノズル1を用いたコールドスプレー装置のフロー図である。なお、同図において図2と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図4において、材料粉末供給ノズル4の入口には材料粉末供給路6を通じて窒素ガスボンベ7が接続され、本体部2の二次ガス供給孔2bには高圧ガス供給路8を通じて別の窒素ガスボンベ9が接続されている。
【0049】
上記材料粉末供給路6には、低圧圧力調整弁10、電磁弁からなる緊急遮断弁11、材料粉末供給装置5、加熱装置12が、ガス供給方向に向けて順に設けられている。
【0050】
一方、上記高圧ガス供給路8には、高圧圧力調整弁13、電磁弁からなる緊急遮断弁14、加熱装置15がガス供給方向に向けて順に設けられている。
【0051】
上記各緊急遮断弁11、14はPLC(Programmable Logic Controller)16によって開閉動作が制御されるようになっており、このPLC16には圧力センサ17が接続されている。圧力センサ17は、コールドスプレーノズル1上流側の材料粉末供給路6の圧力を検知し、検知した圧力を電気信号にしてPLC16に与える。なお、図中、Fは被膜形成対象である基材を示している。
【0052】
2.3 コールドスプレー装置の動作
次に、上記コールドスプレー装置の動作について説明する。
【0053】
一次ガスS1と二次ガスS2は、独立した2系統からコールドスプレーノズル1に供給される。
【0054】
一次ガスS1は低圧であり、この一次ガスS1によって搬送される材料粉末Mは加熱装置12に送られ、材料の融点以下の十分な高温状態まで加熱され、加熱された材料粉末Mと一次ガスS1はコールドスプレーノズル1へ供給される。
【0055】
具体的には、窒素ガスボンベ7から供給される一次ガスS1を低圧圧力調整弁10で0.4MPaまで減圧し、流量0.2(g/s)でコールドスプレーノズル1の材料粉末供給ノズル4の入口に供給する。
【0056】
材料粉末供給路6を流れる一次ガスS1の流れに対し、材料粉末供給装置5から流量0.2g/sで材料粉末Mが供給され、一次ガスS1と材料粉末Mとの固気二相流が形成される。
【0057】
次いで、上記固気二相流は、インコネルチューブの周囲をセラミックファイバーヒータで隙間無く覆った加熱装置12に導入され、1000℃まで加熱される。
【0058】
本実施形態のコールドスプレー装置では、作動ガスの大半を二次ガスS2としてコールドスプレーノズル1に供給するように構成しているため、加熱装置12が加熱すべき一次ガスS1と材料粉末Mの量は極めて少なくて済む。加熱装置12の加熱能力は、例えば1kW以下のヒータ出力で足りる。
【0059】
一方、窒素ガスボンベ9から供給される二次ガスS2は、圧力4MPa、流量30g/sでコールドスプレーノズル1に供給される。
【0060】
本実施形態のコールドスプレー装置によれば、スロート下流の超音速ガス流れに対して材料粉末Mを供給するにあたり、ノズル中心軸C上からノズル軸方向に向けて材料粉末Mを供給するように構成しているため、ノズル内の材料粉末Mの分布は、ノズル中心軸上で密になり、ノズル内壁近傍で粗になる。それにより、材料粉末Mがノズル内壁に接触する頻度が減少しノズルの閉塞を防ぐ効果がある。
【0061】
また、コールドスプレーノズル内に材料粉末Mを供給する時点で材料粉末Mを搬送する一次ガスS1の温度の方が二次ガスS2の温度よりも高温になっている。すなわち、従来のように、一旦、作動ガスの全量を加熱してから材料粉末Mを加熱する方法では、作動ガスの平均温度>材料粉末Mの温度となるため、その高温の作動ガスによって基材Fが広範囲に加熱されてしまうという問題が起こる。これに対し、本実施形態では、従来と同じ程度まで材料粉末Mの温度を高めても、このとき、作動ガスとしての二次ガスS2の平均温度<材料粉末Mの温度となるため、基材Fが広範囲に加熱されることを避けることができるという利点がある。
【0062】
上記構成を有するコールドスプレー装置は、閉塞のない安定運転を行うという点に関しては、特に優れた効果はないものの、材料粉末Mと少量の一次ガスS1については低圧で加熱することができるようになるため、コールドスプレーにおける材料粉末供給系を安価且つ簡単に設計することができ、しかも、材料粉末Mを少ないヒータ出力で高温に加熱することができるという利点がある。
【0063】
また、本実施形態のコールドスプレーノズル1は、一段のみから構成された単純な構成であるため、安価にコールドスプレーノズル装置を設計、製作することができるという利点もある。
【0064】
3. 本発明の第二実施形態
3.1 コールドスプレーノズルの第二の構成
図5は、多段ノズルから高圧ガスを噴射し、材料粉末Mを加速させるコールドスプレーノズルを示したものである。
【0065】
この構成のコールドスプレーノズルは、特許第4268193号公報の図21に示した噴射ノズル装置と基本的に同じ構成のものを使用している。
【0066】
同特許の噴射ノズル装置の構成を概略説明すると、図9に示すように、中空室71aには高圧ガスを供給する第1供給孔71cと、高圧ガスと材料粉末とを供給する第2供給孔71dがそれぞれ設けられており、各高圧ガスは共通のガス源(窒素、ヘリウム、空気等)から分岐させて供給するようになっている。
【0067】
上記噴射ノズル装置70によれば、第1供給孔71cを通じて供給される高圧ガスと第2供給孔71dを通じて供給される、材料粉末を含む高圧ガスとが中空室71a内で合流し先細部71bを通過することにより加速され、さらに各リング状部品72a〜72kの連結部分から筒状に噴射される高圧ガスによって加速ノズル部72内を飛行する材料粉末がシールドされるようになっている。
【0068】
本発明の第二実施形態に係るコールドスプレーノズルが上記噴射ノズル装置70と異なる主な点は、材料粉末を搬送するキャリアガスが、高圧ガスから独立した低圧のガス供給系で構成されていることにある。
【0069】
以下、図5を参照しながら詳しく説明する。
【0070】
同図に示すコールドスプレーノズル20は、本体部21と、その本体部21の先端に接続される加速ノズル部22とから主として構成されている。
【0071】
本体部21は中空室21aを有する有底筒状部材からなり、加速ノズル部22は、ノズル先端に向けて内径が段階的に拡大するように、内径が異なる複数のリング状部品22a〜22eを筒状に連結することによって構成されている。
【0072】
隣接するリング状部品の内径段差部分には、高速ガス流をノズル先端側に向けて筒状に噴射する環状の噴射口が形成されている。ただし、22eはノズルエンドである。
【0073】
本体部21に挿入された材料粉末供給ノズル23と、最も上流側のリング状部品22aの入口側内壁との間、および各リング状部品22a〜22eにおける出口側外壁と入口側内壁との間には高速ガス流形成部Aとしてのスロートが形成されており、作動ガスの流れを亜音速から超音速に形成するようになっている。
【0074】
詳しくは、上記高速ガス流形成部Aは、本体部21については、材料粉末供給ノズル23の先端部外壁に形成された断面楔状のガス流偏向部22fとリング状部品22aの入口側内壁に形成された断面円弧状の凸部22gとから構成されている。加速ノズル部22については、リング状部品の出口側外壁に形成された断面楔状のガス流偏向部22fとリング状部品22aの入口側内壁に形成された断面円弧状の凸部22gとから構成されている。
【0075】
加速ノズル部22の各スロートを通過するガスは、加速ノズル部22内を飛行する材料粉末Mに対し、その周囲に筒状のシールドガスを形成するようになっている。
【0076】
上記スロートは環状の噴射口と連通しており、その噴射口出口T1の開口幅D1>スロート口最狭部分T2の開口幅D2となるように、上記凸部22gが配置されている。
【0077】
本体部21の中空室21a内にはノズル中心軸C上に材料粉末供給ノズル23が配置されている。この材料粉末供給ノズル23の先端部23aは先細に形成され、上記ガス流偏向部22fとして機能するようになっている。
【0078】
上記コールドスプレーノズル20では、材料粉末Mを搬送するための一次ガスS1として高温に加熱した低圧のガスを使用し、材料粉末Mを搬送するその一次ガスS1は、ノズル中心軸C上から加速ノズル部22内に供給される。
【0079】
詳しくは、一次ガスS1は、スロート最狭部分T2を通過して超音速になり圧力が低下している領域中に材料粉末供給ノズル23を介して供給される。上記一次ガスS1は、材料粉末Mを加速ノズル部22へと搬送すること、および材料粉末Mの付着歩留まりが高くなるようにその材料粉末Mを加熱することを目的としている。
【0080】
一次ガスS1は高温中で材料粉末Mと接触するため、酸素を含まない、例えば窒素ガスを使用することが好ましい。
【0081】
なお、材料粉末Mはホッパーから構成される材料粉末供給装置24から供給される。
【0082】
一次ガスS1は上記したように低圧で加速ノズル部22内に供給されるが、材料粉末Mと一緒に、二次ガス、三次ガス(後述する)から運動力をもらって加速ノズル部22内で加速されるため、一次ガスS1としては材料粉末Mを搬送できる最小限の流量で足りる。
【0083】
また、ガスの流量を少なくすることができる代わりに、その一次ガスS1を材料粉末Mの融点を超えない範囲で加熱装置により可能な限り高温に加熱しておくことが好ましい。
【0084】
なお、一次ガスS1を用いた材料粉末供給系については高圧に耐え得る耐圧仕様にする必要がないため、一般的な加熱装置を利用して例えば1000℃を超えるような加熱も容易に行える。
【0085】
また、本体部21の中空室21aには高圧の二次ガスS2が導入され、貫通孔22iを通じてリング状部品22a〜22dに流れ、材料粉末供給ノズル23と最上流側リング状部品22aとの間の噴射口、各リング状部品22a〜22eの連結部分に形成された噴射口から噴射され、加速ノズル部22内に超音速の流れを形成している。
【0086】
二次ガス供給孔21bを通じて本体部21内に供給される二次ガスS2は、材料粉末Mと接触する機会が多いため、酸素を含まない例えば窒素ガスを使用することが好ましく、また、材料粉末Mの温度を低下させないよう、500℃程度の中温度に加熱しておくことが好ましい。
【0087】
上記二次ガスS2は、加速ノズル部22の内壁付近を高速で流れるためにシールド効果が働き、材料粉末Mが加速ノズル部22の内壁に接触する確率を低くすることができる。それにより、加速ノズル部22内壁への材料粉末Mの付着を防止することができる。
【0088】
このように、二次ガスS2は、加速ノズル部22の内壁を、高温で飛行する材料粉末Mの接触から保護するとともに材料粉末Mの酸化と温度降下を防ぎ、自ら超音速の気流になりその粘性により加速ノズル部22中心付近を飛行する材料粉末Mを加速させる。
【0089】
材料粉末Mをより高速に加速させるためには加速ノズル部22を長くして加速距離を十分確保する必要がある。
【0090】
しかしながら、加速ノズル部22を長くした場合、加速ノズル部22内で生じる気流の乱れによって、ノズル中心軸C方向から見た場合の材料粉末Mの分布がノズル中心から外周側に徐々に広がっていき、加速ノズル部22の内壁に接触することになる。
【0091】
また、加速ノズル部22内壁とその内部を流れるガスとの間で摩擦が生じるため、加速ノズル部22内の超音速流れのマッハ数がその摩擦抵抗によって低下し、マッハ1に近づいてしまう。
【0092】
そのため、加速ノズル部22内の気流を超音速に維持しながら加速ノズル部22を長くするためには、加速ノズル部22の後段のリング状部品からさらに高圧ガスを噴射する必要がある。
【0093】
この後段加速用の作動ガスとして三次ガスS3を使用する。
【0094】
三次ガス供給孔22hを通じて後段のリング状部品22dに供給する三次ガスS3は、加速ノズル部22内において最外周部分を流れ、ノズル中心軸C付近を飛行する材料粉末Mと接触する可能性が低いため、酸素を含む常温の大気を高圧に圧縮して供給することができる。
【0095】
この三次ガスS3についてもシールド効果が働くため、材料粉末Mが加速ノズル部22の内壁に接触する確率が低くなり、材料粉末Mの付着を防止することができる。また、安価な空気を圧縮し、加熱装置を経ずに三次ガスS3として使用するため、運転コストを抑制することができる。
【0096】
三次ガスS3の役割は、加速ノズル部22の内壁を材料粉末Mの接触から保護しつつ、自ら超音速の気流になりその粘性により加速ノズル部22の中心軸C付近を飛行する材料粉末Mを加速させることにある。
【0097】
3.2 コールドスプレー装置
図6は上記コールドスプレーノズル20を用いたコールドスプレー装置のフロー図である。なお、同図において図5と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0098】
図6において、コールドスプレーノズル20の本体部21に挿入されている一次ガスノズル23の入口は、材料粉末供給路30を通じて窒素ガスボンベ31と接続され、本体部21の二次ガス供給孔21bは、高圧ガス供給路32を通じて別の窒素ガスボンベ33と接続され、三次ガス供給孔22hは、圧縮空気供給路34を通じて空気圧縮機35と接続されている。
【0099】
上記材料粉末供給路30には、低圧圧力調整弁36、電磁弁からなる緊急遮断弁37、材料粉末供給装置24および加熱装置38が、ガスの流れ方向に向けて順に設けられている。
【0100】
上記高圧ガス供給路32には、高圧圧力調整弁39、電磁弁からなる緊急遮断弁40および加熱装置41がガスの流れ方向に向けて順に設けられている。
【0101】
上記圧縮空気供給路34には、必要に応じて設けられる放熱装置42および電磁弁からなる緊急遮断弁43が設けられている。
【0102】
上記緊急遮断弁37、40および43はPLC44によって開閉動作が制御されるようになっており、そのPLC44には、コールドスプレーノズル20上流側の材料粉末供給路30の圧力を検知する圧力センサ45が接続されている。
【0103】
3.3 コールドスプレー装置の動作
次に、上記構成を有するコールドスプレー装置の動作について説明する。
【0104】
ガスは3系統に分かれてコールドスプレーノズル20に供給される。
【0105】
一次ガスS1は最も低圧でありこの一次ガスS1によって搬送される材料粉末Mは、加熱装置38に送られて材料粉末Mの融点以下の十分な高温状態まで加熱され、コールドスプレーノズル20へ供給される。
【0106】
具体的には、窒素ガスボンベ31から供給される一次ガスS1は低圧圧力調整弁36で0.4MPaまで減圧され、流量0.2(g/s)でコールドスプレーノズル20の最上流側にある直径1mmの材料粉末供給ノズル23の入口に供給される。
【0107】
一次ガスS1を供給する経路の途中で材料粉末供給装置24から流量0.2g/sで材料粉末Mがその一次ガスS1中に供給され、固気二相流となる。
【0108】
材料粉末Mを搬送する一次ガスS1は、インコネルチューブの周囲をセラミックファイバーヒータで隙間無く覆った加熱装置38を通過する際に、1000℃まで加熱される。
【0109】
第二実施形態に係るコールドスプレー装置では、作動ガスの大半を二次ガスS2および三次ガスS3としてコールドスプレーノズル20に供給するため、上記加熱装置38が加熱すべき一次ガスS1の量は極めて少なくて済み、したがって加熱装置38の能力としては例えば1kW以下のヒータ出力で足りる。
【0110】
一方、窒素ガスボンベ33から供給される二次ガスS2は、圧力4MPa、流量10g/sでコールドスプレーノズル20に供給される。
【0111】
この二次ガスS2は、ステンレス管の周囲にリングヒータを取り付けた加熱装置41を通過することにより、500℃に加熱される。なお、このときのリングヒータの出力は10kW以下で足りる。
【0112】
また、三次ガスS3としての圧縮空気は、空気圧縮機35からコールドスプレーノズル20の後段に直接、供給するようになっている。
【0113】
詳しくは、空気圧縮機35としてオイルフリーのレシプロ圧縮機を用い、大気を4MPaまで圧縮し、流量20g/sでリング状部品22dの三次ガス供給孔22hに供給する。
【0114】
空気圧縮機35での断熱変化により、圧縮された空気は数100℃の高温(本実施形態では200℃)になっているため、三次ガスS3は、加熱装置を必要とせずコールドスプレーノズル20に供給することができる。この高温の三次ガスS3は、コールドスプレーノズル20内の超音速流れを維持するとともに、コールドスプレーノズル20内を飛行する材料粉末Mの温度降下を抑制することができる。
【0115】
ただし、基材Fが樹脂材のように熱に弱い材料の場合、圧縮空気供給路34の配管外周面に放熱フィン等からなる放熱装置42を設け、三次ガスS3の温度を下げることが好ましい。
【0116】
このように、放熱装置42を設ければ、コールドスプレーノズル20から噴射する全作動ガスの平均温度を下げる方向に制御することができるため、上記放熱装置42は圧縮空気の温度を調整する温度調整装置として機能する。
【0117】
こうして、材料粉末Mを一次ガスS1とともに1,000℃近くまで加熱し、その高温の材料粉末Mをコールドスプレーノズル20に搬送すると、コールドスプレーノズル20の中心部のガスも全温度(超音速流れでは速度が増すにしたがって圧力エネルギのみならず分子の内部エネルギも減少して温度は低下するが、流れを堰き止めて流速をゼロにした場合に温度回復した結果の温度)で略1000℃になり、その近くを流れる二次ガスS2は全温度で略500℃になり、最外周部を流れる三次ガスS3は、全温度で略200℃になり、いわゆるコールドスプレーが得られる。
【0118】
上記1000℃の一次ガスS1、500℃の二次ガスS2、200℃程度の三次ガスS3の温度を平均すると、基材Fに接触する作動ガスの平均全温度は300℃程度となる。従来のコールドスプレー装置では、予め1000℃まで全量の作動ガスを加熱していたことを考慮すると、極めて低い作動ガス平均温度でのコールドスプレーが実現できることになる。
【0119】
このように、本発明のコールドスプレー装置は、付着歩留まりを考慮した場合に粉末温度は高温に維持したいという一方で、熱に弱い基材を熱から守るためには作動ガスの温度を低くしたいという要望を実現させたため、例えば熱に弱い半導体等に接続する材料にも本発明を適用することが可能になる。
【0120】
3.4 緊急遮断弁の動作
なお、コールドスプレーノズル20の内壁に材料粉末Mが付着して堆積すると、その堆積部分において流れ抵抗が大きくなるため、作動ガスは運動量を損失し、その堆積部分での流れがマッハ1となる一方で堆積部分の上流側が全体的に亜音速になるという、ファノ流れと同じ現象が生じる。
【0121】
本来であればリング状部品の連結部分に形成されるスロート最狭部分T2(図5参照)でマッハ数が1となり、その下流側、すなわち、コールドスプレーノズル20の加速ノズル部22内の全域で超音速の流れが得られるが、上記した堆積部分でマッハ数が1になってしまうと、その上流側についてはたとえ上記スロート最狭部分T2の下流側であったとしても亜音速のガス流れとなる。
【0122】
亜音速のガス流れになると、図1に示したように、ノズル内圧力が2MPaを上回るため、材料粉末供給路30に設けられた耐圧設計のなされていない各機器は破壊されてしまうことになる。
【0123】
コールドスプレーノズル20内壁への材料粉末Mの付着は、数秒間から数十秒間をかけてゆっくり発生する現象である。そこで、コールドスプレーノズル20の入口近傍の材料粉末供給路30に圧力センサ45を設け、この圧力センサ45によって検知される圧力が0.3MPaを上回ると、PLC44が材料粉末供給路30、高圧ガス供給路32および圧縮空気供給路34にそれぞれ設けた緊急遮断弁37、40および43を一斉に閉じるように構成している。
【0124】
コールドスプレーノズル20内の材料粉末Mの飛行状態を観察するための実験として、一次ガスS1〜三次ガスS3までの全ての作動ガスを空気として供給し、さらに、一次ガス供給系には材料粉末Mの代わりに水を供給し、コールドスプレーノズル20内を飛行する材料粉末Mに見立てた水滴によって材料粉末Mの分布を観察した。
【0125】
図7は、材料粉末を模擬した水滴が加速ノズル内を飛行する状態を示しており、材料粉末Mを模擬した水滴はコールドスプレーノズル20の中心部に集中しており、外周部のノズル内壁近傍には水滴がほとんど存在していないことが確認された。
【0126】
ただし、この実験では空気と水の質量流量比を10:1とし、コールドスプレーノズル20は、マッハ数M=2の適正膨張になる条件、すなわち、コールドスプレーノズル20内部の圧力を大気圧に等しい条件で運転した。
【符号の説明】
【0127】
1 コールドスプレーノズル
2 本体部
2a 中空室
2b 二次ガス供給孔
3 加速ノズル部
3a フランジ部
3b 直管部
3c 凸部
4 材料粉末供給ノズル
4a 先端部
4b ガス流偏向部
5 材料粉末供給装置
6 材料粉末供給路
7 窒素ガスボンベ
8 高圧ガス供給路
9 窒素ガスボンベ
10 低圧圧力調整弁
11 緊急遮断弁
12 加熱装置
13 高圧圧力調整弁
14 緊急遮断弁
15 加熱装置
16 PLC
17 圧力センサ
A 高速ガス流形成部
C ノズル中心軸
M 材料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粉末を作動ガスとともにコールドスプレーノズルから高速で噴射し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置において、
上記コールドスプレーノズル内に設けられ、上記作動ガスのガス通路幅を絞ることにより高速ガス流を形成する高速ガス流形成部と、
上記材料粉末を低圧ガスに搬送させて上記コールドスプレーノズルに供給する材料粉末供給路と、
上記コールドスプレーノズルの高速ガス流形成部に高圧の作動ガスを供給する高圧ガス供給路と、
上記材料粉末を伴う上記低圧ガスを、上記コールドスプレーノズルの中心軸方向から上記高速ガス流形成部の近傍且つその下流側に導入する材料粉末供給ノズルと、
を備えてなることを特徴とするコールドスプレー装置。
【請求項2】
上記材料粉末供給路に、上記材料粉末を伴う上記低圧ガスを加熱する加熱装置が設けられている請求項1に記載のコールドスプレー装置。
【請求項3】
上記コールドスプレーノズルは、上記材料粉末供給ノズルが挿入される中空室を備えた本体部とその本体部から延設される加速ノズル部を有し、
上記材料粉末供給ノズルの先端外壁と上記加速ノズル部の入口側内壁との間に上記高速ガス流形成部が形成されている請求項1または2に記載のコールドスプレー装置。
【請求項4】
上記加速ノズル部は、ノズルの先端に向けて内径が段階的に拡大するように内径が異なる複数のリング状部品を筒状に連結することによって構成され、隣接する上記リング状部品の内壁段差部分に、上記高速ガス流をノズル先端側に向けて筒状に噴射する環状の噴射口が形成されている請求項3に記載のコールドスプレー装置。
【請求項5】
上記加速ノズル部における下流側の上記噴射口に圧縮空気を供給する圧縮空気供給路が接続されている請求項4記載のコールドスプレー装置。
【請求項6】
上記圧縮空気供給路に、上記圧縮空気の温度を調整する温度調整装置が設けられている請求項5記載のコールドスプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−240314(P2011−240314A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117432(P2010−117432)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】