説明

ゴニオステージ、及び当該ゴニオステージを有する電子顕微鏡

【課題】
本発明の目的は、試料ホルダーが有する固有振動を少しでも緩和するゴニオステージを提供することにある。
【解決手段】
本発明のゴニオステージは、試料ホルダーの固有振動を低減するための制振手段を有することを特徴とする。本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、前記制振手段が、コレット機構によるものであることを特徴とする。本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、前記コレット機構が、前記試料ホルダーの軸重心位置で前記試料ホルダーをクランプすることを特徴とする。また、本発明の電子顕微鏡は、本発明のゴニオステージを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴニオステージ、及び当該ゴニオステージを有する電子顕微鏡に関し、特に、制振手段を有するゴニオステージ、及び当該ゴニオステージを有する電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)等の電子顕微鏡における高分解能解析が進んでおり、例えば、ナノオーダーからピコオーダーへと高分解能解析が要望されてきている。既存のゴニオステージ(Gonio)では試料ホルダー(Holder)を保持する機構は、試料ホルダー(Holder)を、ローラー等その他の部材で支えているだけである。例えば、ホルダ装着孔23aと、内端部分の外側に形成された球面23bとを有するホルダ装着部材23が知られている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−315471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1を含め従来技術においては、試料ホルダー(Holder)軸部材の重心自体は、ゴニオステージ(Gonio)内でフリーであり、外乱より受けた振動が、ゴニオステージ(GonioはTEM本体に固定されていて、TEM本体を構成している)の固有振動とは、別途の固有振動を発生する。その結果、TEM光軸に対し、試料ホルダー(Holder)の固有振動は観察試料位置のブレとなる。それにより、試料ホルダー(Holder)が持つ固有振動が浮上してきた。したがって、試料ホルダーが有する固有振動を阻止し得る新たな機構の開発が望まれていた。しかし、このような機構はこれまで存在しない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を解決すべく、試料ホルダーが有する固有振動を少しでも緩和するゴニオステージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、ゴニオステージ及び試料ホルダーとの装着機構について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0007】
本発明のゴニオステージは、試料ホルダーの固有振動を低減するための制振手段を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、前記制振手段が、コレット機構によるものであることを特徴とする。
【0009】
本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、前記コレット機構が、前記試料ホルダーの軸重心位置で前記試料ホルダーをクランプすることを特徴とする。
【0010】
本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、さらに、固定部を有することを特徴とする。
【0011】
前記固定部が、前記コレット機構によるクランプ部分以外の部分に配することを特徴とする請求項4記載のゴニオステージ。
【0012】
本発明の電子顕微鏡は、本発明のゴニオステージを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴニオステージによれば、試料ホルダーをゴニオステージ、ひいては電子顕微鏡と一体化させることができるので、試料ホルダーの固有振動を自由に制御することが可能となるという有利な効果を奏する。さらに、本発明の電子顕微鏡によれば、試料ホルダーの固有振動を軽減させる事が出来る結果、高分解能解析のData取得能力が向上するという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明において適用可能な透過型電子顕微鏡の一例における基本構成の概念図を示す。
【図2】図2は、本発明の一例におけるゴニオステージの態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のゴニオステージは、試料ホルダーの固有振動を低減するための制振手段を有する。本発明において、制振手段としては、振動を減衰させることが可能な手段であれば、特に限定されることはない。例えば、試料ホルダーの振動を減衰させるように振動させることにより制振効果を発揮する制振装置や、ダンパーなどを使用してもよい。また、好ましい実施態様において、前記制振手段が、コレット機構によるものであることを特徴とする。コレットとは、一般に、工作機械部品(旋盤)の一種で、工作物を加工する際に、工作物を保持するための部品であるが、本明細書において、試料ホルダーを保持することにより、試料ホルダーの固有振動を減衰させることが可能であれば、コレット機構は、形状、構造等について特に限定されない。また、好ましい実施態様において、前記コレット機構が、前記試料ホルダーの軸重心位置で前記試料ホルダーをクランプする。試料ホルダーの軸重心位置においてクランプすることにより、試料ホルダーの固有振動を大幅に軽減することができる。高分解能の解析においては、特に試料ホルダーの固有振動によって観察試料位置のブレが問題となるが、このようなブレの問題も解決することができる。
【0016】
このようにゴニオステージ(Gonio)の保持筒に試料ホルダーを掴むコレット機構を搭載することによってもホルダー軸重心位置で完全にクランプさせることができる。これにより、試料ホルダーは、ゴニオステージと一体化することが可能となり、試料ホルダーの固有振動を抑えることが可能となる。
【0017】
また、本発明のゴニオステージの好ましい実施態様において、さらに、固定部を有する。固定部は、試料ホルダーを固定する部分である。また、本発明の好ましい態様において、前記固定部が、前記コレット機構によるクランプ部分以外の部分に配する。コレット機構によるクランプ部分以外の部分の固定部において、試料ホルダーを固定することにより、より試料ホルダーの固有振動を減衰させることが可能となる。固定部の位置は特に限定されないが、例えば、試料ホルダーの先端部及び/又は後端部に設けることができる。固定部は、制振手段を用いてもよく、ローラー等で試料ホルダーを支えるようなものであってもよい。固定部により、試料ホルダーの固有振動を、さらに減衰させることが可能となる。また、固定部の固定部材は、リテーナー、ダンパー等であってもよい。
【0018】
また、本発明の電子顕微鏡は、上述した本発明のゴニオステージを有することを特徴とする。電子顕微鏡については、特に限定されるものではない。図1は、本発明において適用可能な透過型電子顕微鏡の一例における基本構成の概念図を示す。図1中、1は真空領域部、2は電子加速電極、3は絶縁ガス領域、4はX線吸収部材、5はコンデンサー絞り(可動機構部)、6は対物絞り(可動機構部)、7は視野制限絞り(可動機構部)、8は第2中間結像レンズ、9は投影レンズ、10は観察ガラス窓、11は蛍光スクリーン、12は画像取得用カメラ、13はカメラ室、14は真空仕切りバルブ、15は第1中間結像レンズ、16は後焦点レンズ、17は対物(下極)レンズ、18は対物(上極)レンズ、19は第2収束レンズ、20は第1収束レンズ、21は真空仕切りバルブ、22は絶縁硝子、23は電子線光源(フィラメント)、24は高電圧送ケーブルを、それぞれ示している。25は、電子線偏向子、または非点補正子用のコイル部材を示し、26は、各収束電子レンズのコイル部材を示している。このような一例による電子顕微鏡に本発明のゴニオステージを組み込むことが可能である。
【0019】
図2は、本発明の一例におけるゴニオステージの態様を示したものである。31はゴニオステージのX軸制御で観察可能な試料の取り付け位置、32は試料ホルダー、33は試料ホルダー軸部、34は試料ホルダー保持筒に有する試料位置の駆動支点にあたる部位、35は試料ホルダーの取手部、38は試料ホルダーの保持筒(ここに試料ホルダーが収まる。)、39は試料ホルダーの保持筒の挿入口面、41はゴニオステージ機構のフレーム(図例では、筒状を表す)、42は電子顕微鏡鏡筒内部の真空な部分、43は電子線経路で、符号44と直行するY軸の中心線(β軸回り)、44は試料ホルダー略長手方向のX軸の中心線(α軸回り)、45は電子顕微鏡鏡筒、46は試料ホルダーに取り付けられた真空遮断用Oリング、47は電子顕微鏡とゴニオステージの符号34との真空遮断Oリング、48は試料ホルダーのY軸駆動用リニアアクチュエーター、49は試料ホルダーのY軸押し返しピン、50は符号49に力を与える、押しバネスプリング、51は試料ホルダーのX軸駆動用リニアアクチュエーター、52は符号51の駆動ピン、53はX軸駆動力伝達に用いるリンク部材、54は固定部(ローラーなど、後端部)、55は固定部(ローラーなど、先端部)、56は制振手段を、それぞれ示す。
【0020】
図2において、制振手段56によって、試料ホルダーの軸重心位置で前記試料ホルダーをクランプしているようすを示している。図2においては、この他、試料ホルダーの先端部及び後端部において、固定部として、ローラーを用いて試料ホルダーを支えているが、当該固定部はあってもなくてもよく、必須ではない。また、この図2に示す以外に、他に、ダンパーを複数個所設置して、試料ホルダーの固有振動を減衰させてもよく、制振手段を複数個所設置して、試料ホルダーの固有振動を減衰させてもよい。試料ホルダーを、ゴニオステージ、ひいては、電子顕微鏡と一体となる程度に、クランプして、所望の分解能解析に応じて、階層的に減衰の程度を調整することも可能である。目的、用途等に応じて、階層的に、多段階的に、固定の程度を調整可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
試料ホルダー(Holder)の固有振動を緩和させる事ができれば、ナノオーダーからピコオーダーへ解析能力の向上に寄与し、広範な技術分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 真空領域部
2 電子加速電極
3 絶縁ガス領域
4 X線吸収部材
5 コンデンサー絞り(可動機構部)
6 対物絞り(可動機構部)
7 視野制限絞り(可動機構部)
8 第2中間結像レンズ
9 投影レンズ
10 観察ガラス窓
11 蛍光スクリーン
12 画像取得用カメラ
13 カメラ室
14 真空仕切りバルブ
15 第1中間結像レンズ
16 後焦点レンズ
17 対物(下極)レンズ
18 対物(上極)レンズ
19 第2収束レンズ
20 第1収束レンズ
21 真空仕切りバルブ
22 絶縁硝子
23 電子線光源(フィラメント)
24 高電圧送ケーブル
25 この印は、電子線偏向子、または非点補正子用のコイル部材を示す
26 この印は、各収束電子レンズのコイル部材を示す
31 ゴニオステージのX軸制御で観察可能な試料の取り付け位置
32 試料ホルダー
33 試料ホルダー軸部
34 試料ホルダー保持筒に有する試料位置の駆動支点にあたる部位
35 試料ホルダーの取手部
38 試料ホルダーの保持筒(ここに試料ホルダーが収まる。)
39 試料ホルダーの保持筒の挿入口面
41 ゴニオステージ機構のフレーム(図例では、筒状を表す)
42 電子顕微鏡鏡筒内部の真空な部分
43 電子線経路で、符号44と直行するY軸の中心線(β軸回り)
44 試料ホルダー略長手方向のX軸の中心線(α軸回り)
45 電子顕微鏡鏡筒
46 試料ホルダーに取り付けられた真空遮断用Oリング
47 電子顕微鏡とゴニオステージの符号34との真空遮断Oリング
48 試料ホルダーのY軸駆動用リニアアクチュエーター
49 試料ホルダーのY軸押し返しピン
50 符号49に力を与える、押しバネスプリング
51 試料ホルダーのX軸駆動用リニアアクチュエーター
52 符号51の駆動ピン
53 X軸駆動力伝達に用いるリンク部材
54 固定部(ローラーなど、後端部)
55 固定部(ローラーなど、先端部)
56 制振手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ホルダーの固有振動を低減するための制振手段を有するゴニオステージ。
【請求項2】
前記制振手段が、コレット機構によるものである請求項1記載のゴニオステージ。
【請求項3】
前記コレット機構が、前記試料ホルダーの軸重心位置で前記試料ホルダーをクランプすることを特徴とする請求項2記載のゴニオステージ。
【請求項4】
さらに固定部を有する請求項1〜3項のいずれか1項に記載のゴニオステージ。
【請求項5】
前記固定部が、前記コレット機構によるクランプ部分以外の部分に配することを特徴とする請求項4記載のゴニオステージ。
【請求項6】
請求項1〜5項のいずれか1項に記載のゴニオステージを有する電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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