説明

ゴマ様香味増強剤

【課題】 ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味を増強することができるゴマ様香味増強剤および該増強剤を有効成分として含有する香料組成物、並びに該増強剤または該香料組成物を用いてゴマ様の香味が付与された飲食品を提供すること。
【解決手段】 3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートからなるゴマ様香味増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴマ様の香味、特にゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味を増強することができるゴマ様香味増強剤およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴマは、多くの家庭料理に使用されるばかりでなく、様々に加工され加工食品や調味料などに利用されている。飲食品にゴマの香味を付与するには、ゴマそのものを使用するか、あるいはゴマ油を使用する場合が多い。ゴマそのものを使用する場合、固形であるためその使用範囲が制限され、また、ゴマ油を使用する場合は、ある程度大量に使用しなければゴマの香味を付与することができないため、飲食品の物性に悪影響を及ぼしたり、コスト高となるなどの問題がある。さらに、ゴマ油の場合は、搾油時にゴマの煎りたて、擂りたての香味が散逸してしまうなどの欠点がある。
【0003】
飲食品にゴマ様香味を増強するための方法として、例えば、ゴマ種子を遠赤外線ヒーターにより加熱して採油する方法(特許文献1参照)、焙煎ゴマを水蒸気蒸留して得られる留出液を中鎖脂肪酸トリグリセライドで抽出する方法(特許文献2参照)などが提案されているが、ゴマの焙煎香を賦与する方法としては効果があるが、ゴマの煎りたて、擂りたての香味を増強する方法としては十分満足できるものではない。
【0004】
また、ゴマの香気成分の分析について様々な検討がなされ、例えば、非特許文献1には、2−メルカプト−3−ペンタノンが擂りたてゴマの特徴的な成分であることが報告されている。さらに、特許文献3には、2−プロピオニルチアゾールを含有するゴマ風味を有する液体調味料用のフレーバー組成物が開示され、特許文献4には、2−アセチルピリジンを含有するゴマ風味を有する液体調味料が開示されている。
【0005】
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌,Vol.55,No.8,P.383−388(2008)
【特許文献1】特開平4−363393号公報
【特許文献2】特開2001−112432号公報
【特許文献3】特開2008−154476号公報
【特許文献4】特開2008−154475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、消費者の嗜好性の多様化により、飲食品等に使用する香料においても天然感、フレッシュ感あふれる素材が求められており、従来の香料物質を組み合わせることではその要求に十分対応しきれないのが現状である。したがって、本発明の目的は、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味を増強することができるゴマ様香味増強剤および該増強剤を有効成分として含有する香料組成物、並びに該増強剤または該香料組成物を用いてゴマ様の香味が付与された飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意検討した結果、今回、これまでゴマの香気分析からは見出されておらず、ましてやゴマの香料成分として利用されたことのない3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを極微量使用することによりゴマ様の香味、特に、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味を増強することができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明は、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートからなるゴマ様香味増強剤を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記のゴマ様香味増強剤を10−4〜10ppmの濃度範囲で含有することを特徴とするゴマ様香料組成物を提供することができる。
【0010】
さらに本発明は、前記のゴマ様香味増強剤を10−2〜10ppbの濃度範囲で含有することを特徴とするゴマ様香味を有する飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴマ様香味増強剤は、ゴマの香味、特にゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味を増強することができ、該増強剤は、飲食品などに用いるゴマ様香味を増強する香料組成物の調合素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のゴマ様香味増強剤およびその使用について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明のゴマ様香味増強剤は、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを有効成分とする。3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートは、コーヒーの香気成分として検出され(J.Agric.Food Chem.1999,47,695−699)、また、コーヒーフレーバーとして使用できることが開示されている(特公昭57−51831号公報、特開2001−128620号公報)が、ゴマの香味、特に、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感等の香味増強に有効であることは従来知られていなかった。
【0014】
本発明のゴマ様香味増強剤の有効成分である3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートは、特に制限されないが、例えば、J.Agric.Food Chem.1999,47,695−699に記載の方法により容易に得ることができる。
【0015】
本発明のゴマ様香味増強剤は、そのまま飲食品などに極微量配合してゴマ様の香味を増強することができるが、他の成分と混合してゴマ様香料組成物を調製し、該香料組成物を用いて飲食品などにゴマ様の香味を増強することもできる。該香料組成物の前記式(1)の化合物と共に含有し得る他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。
【0016】
本発明のゴマ様香料組成物における3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの含有量は、混合される他の香料成分により異なり一概にはいえないが、通常、該香料組成物の重量を基準として10−4〜10ppm、好ましくは10−3〜10ppmの濃度範囲とすることができる。3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの含有量が10−4ppm未満であればゴマ様香味増強効果が得られず、10ppmを越える含有量であれば不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0017】
3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを含有する本発明のゴマ様香料組成物には、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている、例えば、水、エタノール等の溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライド等の香料保留剤を含有することができる。
【0018】
本発明の3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートからなるゴマ様香味増強剤は、上記したようにそれ自体単独で、または3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを含有するゴマ様香料組成物を調製して、各種の製品、例えば、飲食品などにゴマ様香味を付与することができる。
【0019】
本発明の3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートからなるゴマ様香味増強剤または3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを含有するゴマ様香料組成物によってゴマ様香味を付与することができる飲食品の具体例としては、何ら限定されるものではなく、炭酸飲料、清涼飲料、果汁飲料類、果実酒類、乳飲料類、乳酸菌飲料類、ドリンク剤類、豆乳、茶飲料などの飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナック、チューインガム、饅頭、羊羹などの菓子類;和風スープ、洋風スープ、中華スープなどのスープ類;パン類;ジャム類;マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料類;各種インスタント飲料類;各種インスタント食品類などを挙げることができる。
【0020】
ゴマ様香味を付与する際の上記した各種の製品への3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの添加量は、製品の種類や形態に応じて異なり一概にはいえないが、通常、製品の重量を基準として10−2〜10ppb、好ましくは10−1〜10ppbの濃度範囲とすることができる。3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの含有量が10−2ppb未満であればゴマ様香味増強効果が得られず、10ppbを越える含有量であれば不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0022】
実施例1:ゴマ油への3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの添加効果
ゴマ油(かどや製油社製)100gに3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメート(本発明品1)を0.1mg(ゴマ油に対して1ppm)添加して本発明品1の香料組成物を調製した。本発明品1の香料組成物の0.1%エタノール溶液をよく訓練された5名のパネラーにより香気評価を行った。香気評価は30mLサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液をにおい紙につけて行った。その結果、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを配合したゴマ油は、無添加品のゴマ油に比べて格段にゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感、特に油脂感の香味が増強されていた。
【0023】
実施例2:ゴマ油への3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの添加濃度の検討
ゴマ油(かどや製油社製)100gに対して、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを0.001μg(10−5ppm:比較品1)、0.01μg(10−4ppm:本発明品2)、1μg(10−2ppm:本発明品3)、1mg(10ppm:本発明品4)、0.1g(10ppm:比較品2)を添加して本発明品2〜4、比較品1および比較品2の香料組成物を調製した。それぞれの香料組成物の0.1%エタノール溶液をよく訓練されたパネラーにより香気評価を行った。香気評価は30mLサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液をにおい紙につけて行った。無添加品のゴマ油を対照品として、よく訓練された5名のパネラーの平均的な香気評価を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の評価結果から明らかなように、比較品1では3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートの添加効果はみられず、本発明品2〜4では、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感の香気が増強されていた。一方、比較品2ではゴマとは異なる異質な不快臭が感じられたとの評価であった。
【0026】
実施例3:ゴマ様基本調合香料組成物への添加検討
ゴマ様の調合香料組成物として、下記表2に示す成分からなる基本調合香料組成物(対照品)を調製した。
【0027】
【表2】

【0028】
上記対照品のゴマ様基本調合香料組成物1000gに3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメート0.1mg(0.1ppm)を混合して、新規なゴマ様の調合香料組成物(本発明品5)を調製した。本発明品5と対照品の香気について、専門パネラー10人により比較した。その結果、専門パネラー10人の全員が本発明品5は、対照品に比べて、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感が格段に増強され、かつ持続性の点でも優れていると評価した。
【0029】
実施例4:ゴマ風味ドレッシングへの賦香例
食酢20g、コーンサラダ油38g、ゴマ油2g、市販練りゴマ10gおよび水30gを混合した分離型ドレッシング100gとした中に、実施例3で得られたゴマ様調合香料組成物(本発明品5)およびゴマ様基本調合香料組成物(対照品)をそれぞれ0.5g配合して、それぞれのゴマ風味ドレッシングを作製した。それぞれのドレッシングについて、よく訓練された専門パネラー10名にて香味の評価を行った。その結果、専門パネラー10名全員が本発明品5のゴマ様調合香料組成物を使用したものの方が対照品を使用したものに比べ、ゴマの煎りたて感、擂りたて感、油脂感が格段に優れ、かつ香味の持続性もあると評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートからなるゴマ様香味増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載のゴマ様香味増強剤を10−4〜10ppmの濃度範囲で含有することを特徴とするゴマ様香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のゴマ様香味増強剤を10−2〜10ppbの濃度範囲で含有することを特徴とするゴマ様香味を有する飲食品。

【公開番号】特開2010−148412(P2010−148412A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329390(P2008−329390)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】