説明

ゴム−充填剤複合体の製造方法

【課題】天然ゴムのフィールドラテックスを用いながら、濃縮工程を省略しつつ、濃縮天然ゴムラテックスと同等の低発熱性、耐疲労性、耐熱老化性を発揮するゴム−充填剤複合体を提供する。
【解決手段】充填剤を含有する充填剤スラリーを混合処理チャンバー(10)に供給しながら、天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流にて前記混合処理チャンバー内に噴射することにより、該フィールドラテックス中のタンパク質をゴム成分から分離し除去するとともに、前記フィールドラテックスと前記充填剤スラリーとを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムと充填剤の複合体であるゴム−充填剤複合体の製造方法に関する。より詳細には、天然ゴムにカーボンブラックやシリカなどの充填剤が分散されてなるマスターバッチとして用いられるゴム−充填剤複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどに用いられるゴム組成物には、補強などの目的のため、カーボンブラックなどの充填剤が配合されている。従来、かかる充填剤とゴムとの混合は、ドライ混合と称される、ゴムに対して充填剤を粉末のまま添加して混練するという手法が採られているが、この手法で充填剤をゴムに対して均一に微分散させるのには限界がある。
【0003】
そこで、近年、カーボンブラックやシリカなどの充填剤を水に予め分散させた充填剤スラリーと、ゴムラテックスとを混合することにより、ウェットマスターバッチと称されるゴム−充填剤複合体を作製して、これをゴム組成物に配合することで、低発熱性や悪路での耐摩耗性などを改良することが提案されている(下記特許文献1〜4参照)。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、充填剤スラリーとゴムラテックスを混合する混合ゾーンに対して、充填剤スラリーやゴムラテックスを高圧下でジェット流として供給して両者を混合することが提案されており、これにより、ドライ混合よりも低発熱性、悪路での耐摩耗性を改良することができる。しかしながら、この文献では、ゴムラテックスを混合ゾーンに供給する際の流速が秒速100〜800フィート、即ち最大で244m/秒であり、速度が不十分であって、ゴム−充填剤複合体としての最大限の性能を引き出すには不十分である。また、天然ゴムのフィールドラテックスを所定流速以上の高速流にて噴射することで、フィールドラテックス中のタンパク質を除去できる点についても開示されていない。
【0005】
一方、天然ゴムのフィールドラテックスには、タンパク質などの非ゴム成分が含まれており、低発熱性や耐疲労性、耐熱老化性などに悪影響を与える。そのため、フィールドラテックスを濃縮してなる濃縮天然ゴムラテックスが提供されており、下記特許文献5,6には、天然ゴムのフィールドラテックスを遠心分離濃縮法により脱タンパク処理することが開示されている。しかしながら、この場合、ゴム−充填剤複合体の製造に際し、充填剤スラリーとゴムラテックスとを混合する前処理として、フィールドラテックスの濃縮工程が必要となる。
【特許文献1】特表2000−507892号公報
【特許文献2】特開2006−152117号公報
【特許文献3】特開2004−99625号公報
【特許文献4】特開2004−182994号公報
【特許文献5】特開2006−213750号公報
【特許文献6】特開2004−262973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、天然ゴムのフィールドラテックスを高速噴射しながら充填剤スラリーと混合することにより、フィールドラテックス中のタンパク質を除去することで、濃縮工程を省略しつつ、濃縮天然ゴムラテックスと略同等の低発熱性、耐疲労性、耐熱老化性を得ることができるゴム−充填剤複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るゴム−充填剤複合体の製造方法は、充填剤を含有する充填剤スラリーを混合処理チャンバーに供給しながら、天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流にて前記混合処理チャンバー内に噴射することにより、該フィールドラテックス中のタンパク質をゴム成分から分離し除去するとともに、前記フィールドラテックスと前記充填剤スラリーとを混合することを特徴とする。
【0008】
上記本発明において、より好ましくは、前記フィールドラテックスと混合する前に、前記充填剤スラリーを流速300m/秒以上で分散処理チャンバーに供給することにより前記充填剤をスラリー中に微分散させることである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流で噴射することにより、フィールドラテックス中のタンパク質をゴム成分から分離し除去することができる。そのため、濃縮天然ゴムラテックスと略同等の低発熱性、耐疲労性、耐熱老化性を得ることができる。また、このようにフィールドラテックスを高速噴射しながら充填剤スラリーと混合するので、濃縮工程を省略することができ、加工工数を減らして、コスト低減を図ることができる。
【0010】
また、本発明において、フィールドラテックスとの混合に先立って、充填剤スラリーを、流速300m/秒以上という音速と同等以上の高速流で処理することにより、凝集した充填剤を効果的に粉砕することができる。このようにして分散処理した充填剤スラリーをフィールドラテックスと混合することにより、充填剤をゴム成分中に均一に微分散させることができる。そのため、得られたゴム−充填剤複合体をゴム組成物に使用することで、ゴム−充填剤複合体の性能を最大限に引き出し、ゴム組成物の低発熱性、耐疲労性を更に向上させることができ、また加工性も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本発明において、上記充填剤としては、カーボンブラックの他、シリカ、クレー、ゼオライトなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはいずれか単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、カーボンブラック、シリカ、又は、カーボンブラックとシリカの併用である。なお、シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカなどが挙げられる。
【0013】
充填剤スラリーは、上記充填剤が水などの水系溶媒に分散してなるものである。かかる充填剤スラリーは、例えば、充填剤に水を加え撹拌機で撹拌することにより得ることができる。該充填剤スラリー中における充填剤の含有率は5〜20重量%であることが、充填剤の分散工程における粉砕効果、更には、その後のフィールドラテックスとの混合工程におけるラテックスとの混合効果の点から好ましい。
【0014】
本発明では、ゴムラテックスとして、天然ゴムのフィールドラテックスを用いる。フィールドラテックスは、天然ゴム木からのタッピングにより収集されるゴムラテックスであり、通常、ゴム濃度(DRC:Dry Rubber Content)が30〜40重量%である。かかるフィールドラテックスには、タンパク質などの非ゴム成分が含まれている。そこで、本発明では、フィールドラテックスを流速500m/秒以上にて高速噴射することで脱タンパク化する。
【0015】
次に、本発明の好適な一実施形態に係るゴム−充填剤複合体の製造方法について詳細に説明する。同実施形態に係る製造方法は、
1.充填剤スラリーを微分散化処理する分散工程と、
2.天然ゴムのフィールドラテックスを高速噴射しつつ、微分散化した充填剤スラリーと混合させる混合工程と、
を含む。
【0016】
上記分散工程では、流速300m/秒以上の充填剤スラリーの高速流を生成して、これを分散処理チャンバーに供給することにより充填剤を粉砕してスラリー中に微分散させる。従来、特にタイヤ用途のゴム−充填剤複合体のためにこのような高速での微分散化処理は全くなされておらず、このような高速での微分散化処理がタイヤ性能に実際上有利な効果を与えるとは考えられていなかった。すなわち、充填剤をゴムに均一に分散させることは従来から求められていたものの、これほどまでに高度な微分散までは要求されていなかった。本発明は、従来のレベルを大幅に超える高速流で処理することにより、タイヤなどに用いられるゴム−充填剤複合体として実際上有利な効果を与えることを見い出したものである。
【0017】
上記充填剤スラリーの流速は、300〜700m/秒であることが好ましく、より好ましくは500〜700m/秒である。下限の300m/秒について、これ未満では、微分散化効果に劣り、ゴム組成物としての低発熱性、高耐疲労性、加工性などの改良効果が不十分である。一方、微分散化効果としては流速が高いほど好ましいが、700m/秒を超えるような流速は現状の機械では制御困難であるため、上限は700m/秒以下であることが好ましい。
【0018】
分散工程では、充填剤スラリーに、アニオン、カチオン、ノニオン、両性タイプなどの各種分散剤を予め添加することができる。具体的には、分散剤としては、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ラウリルベタインなどが挙げられ、これらはいずれか単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
分散工程では、より詳細には、高圧発生器などを用いて、充填剤スラリーに超高圧の圧力エネルギーを与えて、流速300m/秒以上の高速流を生成する。例えば、45MPa〜245MPaという超高圧の圧力エネルギーを与えて、300〜700m/秒に加速する。
【0020】
そして、この高速流を分散処理チャンバーに供給し、チャンバー内での衝突、キャビテーション、乱流などの作用で充填剤の粉砕、分散などを行うことで充填剤スラリーを微分散化させる。より詳細には、(A)流体が充填されたチャンバー内に上記高速流を噴射した際のキャビテーションや乱流によって微分散化する方法、(B)上記高速流を2つに分岐させて両者をチャンバー内で対向衝突させて粉砕させる方法、(C)上記高速流を球体などの剛体に対して噴射して衝突により粉砕させる方法、(D)複数のノズルで充填剤スラリーを加速して高速流を生成しこれらの高速流をチャンバー内に噴射して衝突混合させて粉砕させる方法、などが挙げられる。
【0021】
図1は、分散工程の好適な1態様例を示したものであり、分散処理チャンバー(1)は筒状をなしている。分散処理チャンバー(1)の軸方向の一端面(1a)には、充填剤スラリーを供給する供給口(2)が設けられ、該供給口(2)には充填剤スラリーを上記高速流の状態にて供給する高圧発生器(3)が接続されている。分散処理チャンバー(1)の軸方向の他端部(1b)には、分散処理された充填剤スラリーの排出口(4)が設けられている。
【0022】
分散工程においては、予め分散処理チャンバー(1)内に水などの液体を充填しておき、供給口(2)から充填剤スラリーを流速300m/秒以上の高速流で分散処理チャンバー(1)内に噴射する。噴射された充填剤スラリーは、分散処理チャンバー(1)内においてキャビテーションや乱流によって充填剤が粉砕されて微分散化させる。なお、分散処理チャンバー(1)内に当初充填されていた液体は充填剤スラリーを噴射することで、当該充填剤スラリーに置換され、定常時には分散処理チャンバー(1)内は充填剤スラリーが満たされた状態となっている。このようにして微分散化された充填剤スラリーは排出口(4)から排出されて、次の混合工程に送られる。
【0023】
次いで、混合工程では、上記で得られた微分散化した充填剤スラリーを混合処理チャンバーに供給しながら、天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流にて混合処理チャンバー内に噴射して、フィールドラテックスと充填剤スラリーとを混合する。
【0024】
天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流で噴射することにより、混合処理チャンバー内での衝突、キャビテーション、乱流などの作用で、フィールドラテックス中のタンパク質がゴム成分から分離し、除去することができる。従来、フィールドラテックスについて、このような高速での噴射処理は全くなされておらず、本発明により初めて、タイヤなどに用いられるゴム−充填剤複合体として実際上有利な効果が見い出されたものである。
【0025】
フィールドラテックスの流速は、500〜700m/秒であることが好ましく、より好ましくは600〜700m/秒である。下限の500m/秒について、これ未満では、タンパク質の除去が不十分であり、ゴム組成物としての低発熱性、高耐疲労性などの改良効果が不十分である。一方、タンパク質除去効果としては流速が高いほど好ましいが、700m/秒を超えるような流速は現状の機械では制御困難であるため、上限は700m/秒以下であることが好ましい。
【0026】
混合工程において、より詳細には、高圧発生器などを用いて、フィールドラテックスに超高圧の圧力エネルギーを与えて、流速500m/秒以上の高速流を生成する。例えば、125MPa〜245MPaという超高圧の圧力エネルギーを与えて、500〜700m/秒に加速する。
【0027】
混合工程は、より詳細には、(E)混合処理チャンバー内にフィールドラテックスの高速流を噴射しつつ、充填剤スラリーをその下流側から供給し、上記高速流によるキャビテーションや乱流によって両者を混合する方法、(F)フィールドラテックスと充填剤スラリーをそれぞれ高速流として混合処理チャンバー内に噴射して衝突させて混合させる方法、などが挙げられる。
【0028】
図2は、混合工程の好適な1態様例を示したものであり、混合処理チャンバー(10)は筒状をなしている。混合処理チャンバー(10)の軸方向の一端面(10a)には、フィールドラテックスを供給する第1供給口(12)が設けられ、該第1供給口(12)にはフィールドラテックスを上記高速流の状態にて供給する高圧発生器(13)が接続されている。混合処理チャンバー(10)の軸方向の一端部(10b)における上記第1供給口(12)の下流側には、充填剤スラリーを供給する第2供給口(14)が設けられ、該第2供給口(14)には充填剤スラリーを供給するスラリー供給槽(15)が接続されている。混合処理チャンバー(10)の軸方向の他端部(10c)には、混合された流体を排出する排出口(16)が設けられている。
【0029】
混合工程においては、フィールドラテックスを第1供給口(12)から流速500m/秒以上の高速流で混合処理チャンバー(10)内に噴射する。噴射されたフィールドラテックスの混合処理チャンバー(10)内における流れによる負圧によって、充填剤スラリーがスラリー供給槽(15)から第2供給口(14)を通って混合処理チャンバー(10)内に吸い込まれる。そして、高速流のフィールドラテックスによる混合処理チャンバー(10)内でのキャビテーションや乱流によって、フィールドラテックス中のタンパク質などの非ゴム成分がゴム成分から分離し除去されるとともに、フィールドラテックスと充填剤スラリーとが混合され、充填剤がゴム成分中に微分散される。このようにして得られた充填剤スラリーとフィールドラテックスの混合液は排出口(16)から排出される。
【0030】
なお、充填剤スラリーとフィールドラテックスとの混合比率は、ゴム成分100重量部に対して充填剤が20〜80重量部となるような範囲内で行うことが好適である。
【0031】
図3は、混合工程の他の態様例を示したものである。この例では、上述した図2に示すものと同様の構成を持つ混合処理チャンバー(20)(22)を左右2つ有し、両チャンバーから噴出される高速流同士を衝突させて両者を混合するように構成されている。
【0032】
詳細には、第1の混合処理チャンバー(20)と第2の混合処理チャンバー(22)とが設けられ、各混合処理チャンバー(20)(22)には、フィールドラテックスを供給する第1供給口(24)がそれぞれ軸方向の一端面に設けられ、各第1供給口(24)にはフィールドラテックスを上記高速流の状態にて供給する高圧発生器(26)が接続されている。また、各混合処理チャンバーには、第1供給口(24)の下流側に、充填剤スラリーを供給する第2供給口(28)がそれぞれ設けられ、両第2供給口(28)は充填剤スラリーを供給する共通のスラリー供給槽(30)に接続されている。各混合処理チャンバー(20)(22)の軸方向の他端部は衝突槽(32)内に突き出ており、このようにして突き出た混合処理チャンバー(20)(22)の軸方向他端面には、混合された流体を噴射する噴射口(34)がそれぞれ設けられ、両噴射口(34)から噴射された高速の流体が衝突槽(32)内で衝突するようになっている。衝突槽(32)の下端部には、衝突により混合された流体を排出するための排出口(36)が設けられている。
【0033】
そして、混合工程においては、フィールドラテックスを第1供給口(24)から流速500m/秒以上の高速流で各混合処理チャンバー(20)(22)内に噴射する。これにより、図2の場合と同様に、充填剤スラリーがスラリー供給槽(30)から第2供給口(28)を通って混合処理チャンバー(20)(22)内に強制的に吸い込まれ、フィールドラテックスの脱タンパク化と、フィールドラテックスと充填剤スラリーの混合がなされる。そして、このようにして混合された流体は、両混合処理チャンバー(20)(22)の噴射口(34)から噴出され、衝突槽(32)内で衝突することにより、更に均一に分散混合されて、下方の排出口(36)から排出される。
【0034】
以上のようにして得られたフィールドラテックスと充填剤スラリーとの混合液は、常法に従い、即ち不図示の凝固、乾燥工程を経て、固形状のゴム−充填剤複合体が得られる。
【0035】
得られたゴム−充填剤複合体は、加硫用ゴム組成物を作製する際のマスターバッチとして用いることができる。かかるゴム組成物において、ゴム成分は、ゴム−充填剤複合体として添加されるもののみでもよいが、該ゴム−充填剤複合体とともに他のゴムを配合してもよい。その他の配合剤としては、オイル、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤などが挙げられ、特に限定されない。
【0036】
上記他のゴムとしては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、及びこれらの誘導体などの各種ゴムポリマーが挙げられる。
【0037】
上記ゴム−充填剤複合体を配合したゴム組成物であると、充填剤スラリーとの混合時にフィールドラテックスを高速噴射することで脱タンパク化できるので、フィールドラテックスの濃縮工程を省略することができ、濃縮天然ゴムラテックスと同等の低発熱性、高耐疲労性、耐熱老化性を得ることができる。しかも、予め微粉化した充填剤スラリーを用いることにより、充填剤の性能を最大限に引き出すことができ、低発熱性、高耐疲労性を更に向上するとともに、加工性を向上することができる。よって、該ゴム組成物は、タイヤのトレッドゴム、サイドウォールゴムなどのタイヤ用ゴム組成物を始めとして、各種ゴム組成物に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1〜4]
(マスターバッチの作製)
実施例1〜4及び比較例1〜4の各マスターバッチを以下のように作製した。
【0040】
・実施例1:まず、分散工程において、10重量%となるようにカーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA600」)に水を加え、撹拌機で撹拌した後(撹拌速度:50m/秒)、上記図1に示す分散処理チャンバー(内径=約20mm、長さ=約25cm、供給口(2)のノズル径=0.15mm)で分散処理した。分散処理は、上記撹拌後のスラリーを流速700m/秒(高圧発生器の圧力=245MPa)で分散処理チャンバー内に噴射して行い、この分散処理を5回通過させた。
【0041】
次いで、混合工程において、上記図2に示す混合処理チャンバー(内径=3.2mm、長さ=50cm、第1供給口(12)のノズル径=0.15mm)を用いて、天然ゴムのフィールドラテックス(Golden Hope社製「NRラテックス」、ゴム濃度DRC=30重量%)200重量部を、第1供給口(12)から、流速500m/秒(高圧発生器の圧力=125MPa)で噴射すると共に、上記で分散させたカーボンブラックスラリー300重量部を第2供給口(14)から供給した。このようにして混合した後、凝固物が得られ、得られた凝固物が1重量%水分率(100℃測定時)になるまで真空乾燥機で乾燥することにより、マスターバッチ(天然ゴム100重量部に対してカーボンブラック50重量部含有)を調製した。
【0042】
・実施例2:上記実施例1において、混合工程でのフィールドラテックスの流速を600m/秒(高圧発生器の圧力=180MPa)に設定し、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0043】
・実施例3:上記実施例1において、混合工程でのフィールドラテックスの流速を700m/秒(高圧発生器の圧力=245MPa)に設定し、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0044】
・実施例4:上記実施例3において、カーボンブラックに水とともに分散剤(花王株式会社製「デモールNL(β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナリトウム塩:アニオン性)」)を0.3重量%となるように添加してカーボンブラックスラリーを調製し、その後の分散工程及び混合工程は、実施例3と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0045】
・比較例1:上記実施例1において、混合処理チャンバーによる混合を行う代わりに、天然ゴムのフィールドラテックス200重量部とカーボンブラックスラリー300重量部を、撹拌機で撹拌し(撹拌速度:50m/秒)、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0046】
・比較例2:上記実施例1において、混合工程でのフィールドラテックスの流速を244m/秒(高圧発生器の圧力=30MPa)に設定し、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0047】
・比較例3:上記実施例1において、混合工程でフィールドラテックスをそのまま用いる代わりに、該フィールドラテックスを予め遠心分離機で濃縮処理(10000rpm×30分間)したラテックス100重量部を用い、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0048】
・比較例4:上記実施例1において、混合工程でフィールドラテックスを用いる代わりに、濃縮天然ゴムラテックス(レヂテックス株式会社製「NRラテックス」、ゴム濃度DRC=60重量%)100重量部を用い、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0049】
(マスターバッチの評価)
上記各マスターバッチについてタンパク質の含有量を測定した。タンパク質の含有量は、JIS K0102に準拠したケルダール法により、マスターバッチのゴム成分に含まれる全窒素量を測定した。詳細には、マスターバッチに濃硫酸を加えて加熱して、分解、酸化還元反応を起こさせ、タンパク質に含まれる窒素をNHに変え、滴定によって測定して窒素量を算出した。
【0050】
また、各マスターバッチを用いてゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、上記マスターバッチ150重量部(ゴム成分100重量部)に対し、ステアリン酸(花王株式会社製「ルナックS−25」)1重量部、老化防止剤(モンサント製「6PPD」)1重量部、亜鉛華(三井金属製「亜鉛華1号」)3重量部、ワックス(日本精鑞製「OZOACE0355」)1重量部、硫黄(鶴見化学工業製「油処理150メッシュ」)2重量部、加硫促進剤(三新化学製「CBS」)1重量部を配合した。得られた各ゴム組成物について、分散性、疲労性、発熱性、加工性、耐熱老化性を評価し、表1に結果を示した。各評価方法は以下の通りである。なお、各サンプルの加硫条件は150℃×30分である。
【0051】
・分散性:ASTM D2663−69のB法に準拠して測定、
・疲労性:JIS K6270に準拠して測定し、比較例1を100とした指数で表示。指数が大きいほど耐疲労性(耐亀裂性)が良好、
・発熱性:JIS K6265に準拠して発熱温度を測定し、比較例1を100とした指数で表示。指数が小さいほど発熱温度が低く、低発熱性が良好、
・加工性:JIS K6300−1に準拠してムーニー粘度を測定し、比較例1を100とした指数で表示。指数が小さいほどムーニー粘度が低く加工性が良好、
・耐熱老化性:90℃×96時間で熱老化させた後、JIS K6251に準拠して引張強さ(TB)の保持率を測定し、比較例1を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐熱老化性が良好。
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例のカーボンブラック/天然ゴム複合体を使用したゴム組成物では、高速噴射によりフィールドラテックスの脱タンパク化がなされていた。そのため、フィールドラテックスを用いたものであるにもかかわらず、濃縮天然ゴムラテックスを用いた比較例4に対して、略同等の低発熱性、耐疲労性、加工性、耐熱老化性が得られ、フィールドラテックスを高速噴射していない比較例1に比べて、これらの性能の大幅な改善が認められた。なお、比較例2では、フィールドラテックスの混合工程における流速が低く、本発明による十分な効果は得られなかった。
【0053】
また、比較例3のように予めフィールドラテックスを遠心分離により濃縮した場合、脱タンパク化により上記性能の改善は認められたものの、遠心分離による前処理が必要であり、加工工数が1工程余分に必要であった。また、比較例4についても、濃縮天然ゴムラテックスを用いたものであるため、その濃縮工程を1工程に含めれば、加工工数が1工程余分に必要である。
【0054】
[実施例5,6]
(マスターバッチの作製)
実施例5,6及び比較例5,6の各マスターバッチを以下のように作製した。
【0055】
・実施例5:上記実施例1において、カーボンブラックとして三菱化学株式会社製「#2700」を用い、また、混合工程で上記図3に示す混合処理チャンバー(各チャンバーの内径=約20mm、長さ=約10cm、第1供給口(24)のノズル径=0.15mm)を用い、その他は実施例1と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0056】
・実施例6:上記実施例5において、混合工程でのフィールドラテックスの流速を700m/秒(高圧発生器の圧力=245MPa)に設定し、その他は実施例5と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0057】
・比較例5:上記実施例5において、混合処理チャンバーによる混合を行う代わりに、天然ゴムのフィールドラテックス200重量部とカーボンブラックスラリー300重量部を、撹拌機で撹拌し(撹拌速度:50m/秒)、その他は実施例5と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0058】
・比較例6:上記実施例5において、混合工程でのフィールドラテックスの流速を244m/秒(高圧発生器の圧力=30MPa)に設定し、その他は実施例5と同様にして、マスターバッチを調製した。
【0059】
(マスターバッチの評価)
上記各マスターバッチについてタンパク質の含有量を測定した。また、各マスターバッチを用いてゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、上記実施例1と同様である。得られた各ゴム組成物について、分散性、疲労性、発熱性、加工性、耐熱老化性を評価し、表2に結果を示した。各評価方法は、上記表1の場合と同じである。但し、疲労性、発熱性、加工性および耐熱老化性の指数は、比較例5を100として表示した。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】分散処理チャンバーの一例を示す断面図
【図2】混合処理チャンバーの一例を示す断面図
【図3】混合処理チャンバーの他の例を示す断面図
【符号の説明】
【0061】
1…分散処理チャンバー、1a…一端面、1b…他端部、2…供給口、3…高圧発生器、4…排出口、10…混合処理チャンバー、12…第1供給口、13…高圧発生器、14…第2供給口、15…スラリー供給槽、16…排出口、20…第1混合処理チャンバー、22…第2混合処理チャンバー、24…第1供給口、26…高圧発生器、28…第2供給口、30…スラリー供給槽、32…衝突槽、34…噴射口、36…排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を含有する充填剤スラリーを混合処理チャンバーに供給しながら、天然ゴムのフィールドラテックスを流速500m/秒以上の高速流にて前記混合処理チャンバー内に噴射することにより、該フィールドラテックス中のタンパク質をゴム成分から分離し除去するとともに、前記フィールドラテックスと前記充填剤スラリーとを混合する、
ことを特徴とするゴム−充填剤複合体の製造方法。
【請求項2】
前記フィールドラテックスと混合する前に、前記充填剤スラリーを流速300m/秒以上で分散処理チャンバーに供給することにより前記充填剤をスラリー中に微分散させる、請求項1記載のゴム−充填剤複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造されたゴム−充填剤複合体。
【請求項4】
請求項3記載のゴム−充填剤複合体を用いたゴム組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−84473(P2009−84473A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257475(P2007−257475)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】