説明

ゴム成型品およびその製造方法

【課題】
本発明ではDLCコーティング処理で問題となっていた皮膜剥がれが全く発生しない低摩擦係数で高耐摩耗性の表面を有するゴム成型品およびその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、ワイパーブレード、ゴムローラ、シール部材に適したゴム成形品を提供する。
【解決手段】
表面側から内部に向かって各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比が指数関数的に減少する表面改質領域を有することを特徴とするゴム成型品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム表面を改質することによりゴム本来の弾性を損なうことなく摩擦係数の低減や耐摩耗性の向上を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムはその弾性や高摩擦係数を利用して様々に用途に利用されているが、ワイパー、ゴムローラまたはシール材などに使われるゴムに関しては、弾性を利用する一方で摩擦係数を低くしたり、耐摩耗性を向上させたりするなどのニーズがある。このようにニーズに対して、ゴム表面にダイヤモンドライクカーボンなどの摩擦係数が低く耐摩耗性の高い皮膜をコーティングする技術が発明されている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
しかし、ダイヤモンドライクカーボンなどの皮膜は摩擦係数が低い点では優れた特性を実現できるが、ゴムなどの柔らかい基材にコーティングした場合にはコーティング皮膜が割れたり剥がれたりする問題があった。特に生産装置や印刷装置などに使われるゴムロールで皮膜剥がれが発生した場合には、ゴム基材の摩擦および摩耗特性を維持できなくなるばかりでなく、剥がれた皮膜が工程や製品に混入して品質を大きく低下させる問題があった。
【特許文献1】特許第3008832号
【特許文献2】特開2008−81239
【特許文献3】特許第3355950号
【特許文献4】特許第3791060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明では皮膜剥がれによる問題が全く発生しない低摩擦係数で高耐摩耗性のゴム成型品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、以下に記載する本発明によって解決される。
【0006】
即ち、本発明に係るゴム成型品は、表面側から内部に向かって各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比が指数関数的に減少する表面改質領域を有する。ここでいう表面改質領域とは、原子組成や構造が内部とは異なる表面および表面近傍領域のことをいう。また、表面改質領域とゴム内部との境界は明確には区別できない程度に連続である。また、表面改質領域内部の炭素原子数に対する窒素原子数の比が指数関数的に変化していることからしても、表面改質領域は被膜とは区別されるものである。なお、表面改質領域の窒素原子はガス分子状態、原子状態、ラジカル状態あるいは炭素やゴムを構成する他の原子と結合した状態のいずれの状態のものが存在してもよいが、炭素やゴムを構成する他の原子と結合した状態のもが多いと耐摩耗性が向上し易いので好ましい。
【0007】
また、本発明に係るゴム成型品は、表面改質領域の各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比の最大値と最小値の差(以下D値と記す)が0.03以上ある。炭素原子数に対する窒素原子数の比の最大値はゴム成型品表面近傍に存在し、最小値はゴム系製品内部に存在する。なお、D値が0.05以上あると、ゴム成型品表面の摩擦係数を低くできかつ耐摩耗性を向上し易いのでよい。ただし、D値が0.5以上の場合にはゴム成型品表面の摩擦係数が低くなり難く、耐摩耗性も向上し難いので好ましくない。
【0008】
また、本発明に係るゴム成型品は、表面の動摩擦係数が0.3以下とすることができる。本発明に係るゴム成型品の表面改質領域は単分子層以上の厚みを有しており、実用的な面圧や摺動回数に対しても安定して低い摩擦係数を維持できる。
【0009】
また、本発明に係るゴム成型品は、ゴムが天然ゴム系、クロロプレン系、エチレンプロピレン系、アクリル系、フッ素系、ニトリル系、ブチル系、シリコーン系のいずれかを用いることができる。ゴムは加硫処理が施されたものあるいは施されていないもののいずれでもよいが、加硫処理されたものの方が耐摩耗性を高め易いので好ましい。クロロプレン系、エチレンプロピレン系、アクリル系、フッ素系、ニトリル系、ブチル系のゴムは分子基本構造内に酸素原子を含んでおらず、表面改質領域形成時に分子基本構造内の酸素が耐摩耗性などの表面改質特性に影響を与え難いのでよい。シリコーン系のゴムは分子基本構造内に酸素原子を含んでいるが、珪素と酸素の結合が強いために、表面改質領域形成時に分子基本構造内の酸素が耐摩耗性などの表面改質特性に影響を与え難いのでよい。これらのゴムには通常のゴム組成物に配合され得るような成分、例えば、加硫剤、架橋助剤、充填剤、老化防止剤、可塑剤、プロセスオイル、着色剤、発泡剤などが含まれていてもよい。
【0010】
また、本発明に係るゴム成型品は、ゴムがワイパーブレードに成形されている。ワイパープレードの具体例としては自動車用途が挙げられる。ワイパーブレードとガラスあるいはガラス表面のコーティング被膜との滑りが悪いと、拭き取り不良や異音の発生だけでなく、ワイパーブレードそのものの寿命を低下させてしまう。本発明に係るゴム成型品は摩擦係数が低い上に耐摩耗性も改善されているのでワイパーブレード用途に適している。また、ゴム表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を施すなどの従来の発明などと比較して、被膜剥がれが発生しないため、摺動や屈曲の激しいワイパーブレード用途に極めて適している。なお、本発明をワイパーブレードに適用する場合は、改質領域を表面全体に設ける必要はなく、ワイパーブレードとガラスが接する部分に設ければよい。
【0011】
また、本発明に係るゴム成型品は、ゴムがゴムローラの被覆材に成形されている。ゴムローラの具体例としては、プリンター、コピー機、印刷機で紙などの搬送やインクあるいはトナーなどの転写などに使われるものが挙げられる。また、別の例としては、紙やプラスチックフィルムなどの製造または加工工程に用いられるものが挙げられる。いずれも柔軟なシート状の基材にキズなどの損傷を与えないために表面に柔軟性が求められる。一方、設備や工程条件の安定性を確保するためにはゴムローラの耐久性すなわち耐摩耗性を向上させる必要がある。本発明に係るゴム成型品は摩擦係数が低い上に耐摩耗性も改善されているのでゴムローラの被覆材用途に適している。また、ゴム表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を施すなどの従来の発明などと比較して、被膜剥がれが発生しないため、工程や製品への被膜片混入の恐れがないためゴムローラの被覆材用途に極めて適している。なお、本発明をゴムローラの被覆材に適用する場合は、改質領域を表面全体に設ける必要はなく、ゴムローラと紙、フィルムインク、あるいはトナーなどが接する部分に設ければよい。
【0012】
また、本発明に係るゴム成型品は、ゴムがシール部材に成形されている。シール部材の具体例としては、Oリングや角リングなどが挙げられる。使われ方としては、軸シールなどの摺動部に使われるものと、パッキンなどの非摺動部に使われるものがあるが、いずれの用途に対しても本発明に係るゴム成型品は有用である。すなわち、摺動部のシール部材に適用すればゴムの摩耗が少なく寿命が長くなるので交換頻度を下げることができる。また、本発明に係るゴム成型品は、潤滑油の使用量を減らせるまたは無くせるため、精密機器や医療機材などの摺動部分に適用することもできる。一方、本発明に係るゴム成型品は摩擦係数が低いため、表面の物理的および/または化学的活性が低く安定なため、パッキンなどに適用すればゴムの劣化等によりパッキングがシール面に凝着するのを抑制できる。
【0013】
また、本発明に係るゴム成型品は、表面改質領域を真空中での窒素イオン注入法で形成することができる。窒素イオンは窒素ガスをプラズマ状態にして生成することができ、プラズマの生成方法としては直流放電、高周波放電、容量結合放電、誘導結合放電などいずれの方法を用いてもよいが、高周波放電を用いる方が高密度な窒素イオンを生成しやすく、またプラズマ電極からの不純物イオンがプラズマ中に混入し難いのでよい。窒素イオンの加速方法は、プラズマ生成部で加速するいわゆるイオン銃を用いる方法や、ゴム成型品の背面に電圧を印加して窒素イオンを引き込むPBII法などが挙げられるが、いずれの方法を用いても良い。
【0014】
また、本発明に係るゴム成型品は、窒素イオンを電圧が−5kV以上、かつパルス幅が1.0μs〜20μsの範囲のパルス電圧で加速してゴム成型品表面に照射して表面改質領域を形成することができる。窒素イオンの加速電圧を−5kV以上とすると十分な厚みの表面改質層を数十分程度の比較的短時間で形成できるのでよい。また、加速電圧をパルスとすることにより、ゴム成型品表面が窒素イオンの電荷により帯電することによるイオン加速電界の低下やスパーク放電を抑制できるのでよい。また、加速電圧が−5kV以上でかつ加速電圧のパルス幅が1.0μs以上あると窒素イオンが十分な運動エネルギーを得るまでに加速される時間を確保できるのでよい。一方、パルス幅を0.20μs以上としてもゴム成型品表面が窒素イオンの電荷により帯電してしまい窒素イオンを十分注入できなくなるので好ましくない。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム成型品は、表面から内部に向かって原子組成が指数関数的に変化する改質領域により、その表面の摩擦係数の低減と耐摩耗性の向上をゴム本来の弾性を殆ど損なうことなく実現できる。この表面改質領域はゴム内部との間に明確に界面を持たないように工夫されているため、外部から加えられた応力をゴム内部に適度に分散でき、改質領域が剥離するなどの問題を根本的に抑制できる。また、本発明に係る表面改質領域はDLC膜や金属膜のようなゴムと比較して著しく硬い無機質の被膜を形成するものではなく、窒素により高分子構造が改質されたものである。窒素によるゴムの構造改質のメカニズムとしては、アミド結合やイミド結合が導入されることにより、ゴム分子の結合が局所的に剛直化しているものと推察される。
【0016】
また、本発明のゴム成型品の製造方法は、ゴム成型品の表面に窒素イオンを注入して表面改質する方法であるため、成型品の形状を維持したまま表面の耐摩耗性などの特性を改良できる。また、酸やアルカリを用いる必要がなく環境負荷も少なくて良い。また、窒素イオンを電界で加速した運動エネルギーによりゴム表面近傍に注入することにより、熱拡散などと比較して低温で表面改質領域を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下この発明の実施形態について説明する。本発明は種々のゴム成型品に適用可能であり、ゴムの種名としては、天然ゴム系、クロロプレン系、エチレンプロピレン系、アクリル系、フッ素系、ニトリル系、ブチル系、シリコーン系の他にも、イソプレン系、スチレンブタジエン系、ブタジエン系、クロロスルホン化ポリエチレン系、ウレタン系などに適用することができる。例えば耐摩耗性に優れるエチレンプロピレン系ゴムの耐摩耗性をさらに高めることや、比較的摩擦係数の高いブチル系ゴムの弾性を保ったまま摩擦係数を下げることに適用すれば、従来よりも幅広い用途にゴム成形品を適用することが可能となる。
【0018】
ゴム成形品の表面は窒素イオンにより改質領域を設けると低摩擦係数と高耐摩耗性を比較的簡単に実現できるのでよい。手順としては、先ずゴム成型品基材を洗浄、乾燥した後、真空装置内で窒素イオンを注入する2工程を施す。洗浄は、ゴム成形品基材表面を中性洗剤と水道水を用いて十分に洗浄した後、水道水の流水で中性洗剤を洗い流し、さらに第1と第2の純水中で超音波洗浄機を用いて各5分ずつ洗浄する。これにより、表面に付着した易滑剤や析出した添加物などを支障のない程度に概ね除去できる。洗浄後、イソプロピルアルコール中ですすいで脱水した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させるのがよい。
【0019】
次に、ゴム成形品基材を真空装置にセットし窒素イオンを注入する。窒素イオンをゴム成型品基剤に注入する手段としては、イオン銃やPlasma−Based Ion Implantation(PBII)法などが適しているが、比較的複雑な形状の基材に対してはPBII法の方が比較的均一に表面改質し易いのでよい。ゴム成形品基材は、高周波電力と加速電圧を印加できる導電性ホルダー面に配置することでゴム成形品基材近傍に高密度のプラズマを形成でき、かつイオンを効率よく注入できるのでよい。ゴム成形品基材をセットした後、チャンバー内を10−2Pa以下に排気する。その後、純度99.9999%以上の窒素ガスを導入し、0.5Pa〜1.5Paとなるように窒素ガス導入量と排気量を調節する。次にアルミ製のホルダーに13.56MHzの高周波電力200W〜1500Wの範囲で印加し、ゴムシート基材近傍に窒素プラズマを生成する。また、高周波電力は1kHz〜5kHzでパルス変調し、このパルス幅は50μs〜100μsの範囲で設定する。高周波電力をパルス変調することで、そのパルス間にイオン引き込み用加速電圧を印加できるのでよい。具体的には、パルス変調された高周波電力のパルスの間に電圧−5kV〜−10kVでパルス幅5μs〜20μsの負パルスを印加する。この条件をクリーニング条件として10分〜30分行うのがよい。次に、圧力を0.1Pa〜0.5Pa、高周波パルス幅を30μs〜50μs、負パルス電圧を−10kV〜−15kVとして窒素イオン注入を30分から90分行うのがよい。そして、上記クリーニングと窒素イオン注入工程を終えた後、チャンバー内を大気開放すれば所望のゴム成型品基材を取り出せる。
【実施例1】
【0020】
以下に本発明の具体的実施例を説明する。ゴム成形品基材として、タイガースポリマー株式会社製のエチレンプロピレンゴムシートとイソブチレンイソプレン(ブチル)ゴムシートを用いた。厚みは5mmで25mm×25mm角に切り出して基材とした。切り出した基材を中性洗剤と水道水を用いて十分に洗浄した後、水道水の流水で中性洗剤を洗い流し、さらに第1と第2の純水中で超音波洗浄機を用いて各5分ずつ洗浄した。洗浄後、イソプロピルアルコール中ですすいで脱水した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
【0021】
乾燥させたエチレンプロピレンゴムとブチルゴムの基材に対して、栗田製作所製の3Dプラズマイオン注入成膜装置(標準機)を用いて表面改質を行った。エチレンプロピレンゴムとブチルゴムの各シート基材それぞれ3枚ずつを直径300mmの円盤状アルミ製のホルダー上に、一辺が100mmの六角形の頂点の位置に配置した。これを真空チャンバーにセットした後、チャンバー内を10−2Pa以下に排気した。
【0022】
次に、純度99.9999%以上の窒素ガスを導入し、0.8Paとなるように窒素ガス導入量と排気量を調節する。次にアルミ製のホルダーに15.56MHzの高周波電力300Wを印加し、ゴムシート基材近傍に窒素プラズマを生成した。また、高周波電力は1kHzでパルス変調し、このパルス幅は100μsに設定した。そして、パルス変調された高周波電力のバルスの間に電圧−5kVでパルス幅5μsの負パルスを印加した。この条件をクリーニング条件として20分間行った。引き続き、チャンバー内の圧力を0.3Pa、高周波パルス幅を30μs、負パルス電圧を−10kVとして窒素イオン注入を40分間行った。そして、上記クリーニングと窒素イオン注入工程を終えた後、チャンバー内を大気開放してゴム成型品基材を取り出した。
【0023】
次に、上記方法により表面改質を施されたゴム成形シートの表面近傍の組成深さプロファイルをX線光電子分析により、また表面摩擦係数を摩擦摩耗試験器により評価した。各詳細条件は下記の通りである。
(1)X線光電子分析
装置メーカー:アルバック・ファイ株式会社
型式:ESCA5800
X線出力:400W(Mgターゲット)
パスエネルギー:187.85eV(survey)
58.70eV(element)
分析領域:800μmφ
スパッタリング
Arイオン加速電圧:1kV
捜査面積:6mm×6mm
スパッタ速度:0.16nm/min(SiO相当)
(2)摩擦摩耗試験
装置メーカー:神鋼造機株式会社
摺動ボール:SUS304、3/8インチφ
摺動周波数:6Hz
負荷荷重:50g
温度:室温
摺動距離:6mm(片道)
【0024】
図1に、表面改質されたエチレンプロピレンゴム成形品の表面近傍の各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数N/Cおよび炭素原子数に対する酸素原子数O/Cを示す。なお、各原子数はX線光電子分析により得られた各元素に相当するピークに対して各元素の感度補正を行うことにより求めた。図1の縦軸はN/CおよびO/Cを常用対数で示している。横軸はX線光電子分析時のスパッタリング時間で、表面からの深さに相当する。この様に、N/Cが表面からスパッタリング時間1〜1.5分程度の深さまでにおいて指数関数的に減少しており、それよれも深い場所ではゴム成型品内部の組成と区別できなくなっている。また、表面近傍でN/Cが最大0.04以上、スパッタリング時間3分以上で実質的に0であり、その差は0.04ある。すなわち、ゴム成型品内部に対して表面近傍に窒素が優意に注入されていることがわかる。一方、O/Cは表面近傍で最大0.08程度あり、プラズマ雰囲気の残留酸素が一部取り込まれていると推察される。なお、表面改質前のチャンバー内圧力が10−2Paで、改質時の圧力が0.3Paなので、最大で3.3%の残留ガスが存在していたと推察される。
【実施例2】
【0025】
図2に、実施例1の場合よりチャンバー内部の圧力を下げて10−3Paとして残留ガスを0.3%以下として表面改質を施したエチレンプロピレンゴム成形品の表面近傍の各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数N/Cおよび炭素原子数に対する酸素原子数O/Cを示す。横軸はX線光電子分析時のスパッタリング時間で、表面からの深さに相当する。この様に、N/Cが表面からスパッタリング時間4〜5分程度の深さまでにおいて指数関数的に減少しており、それよれも深い場所ではゴム成型品内部の組成と区別できなくなっている。また、表面近傍でN/Cが最大0.018以上、スパッタリング時間5分以上で実質的に0であり、その差は0.018ある。すなわち、ゴム成型品内部に対して表面近傍に窒素が優意に注入されていることがわかる。また、O/Cは表面近傍で最大0.03程度あり、プラズマ雰囲気の残留酸素が一部取り込まれることを抑制できている。その効果と思われるが、チャンバー雰囲気に酸素が残留していたと思われる図1の場合よりも、改質領域がゴム成型品内部まで及んでいることがわかる。
【実施例3】
【0026】
図3に、図1で示した表面改質領域を有するエチレンプロピレンゴム成形品の摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないエチレンプロピレンゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図3に示すように、測定ごとのバラツキは多少あるものの、測定開始直後の動摩擦係数は0.2以下と非常に低くなっており、摺動距離6m程度まではほぼ安定していることがわかる。
【実施例4】
【0027】
図4に、実施例1で示した表面改質領域を有するエチレンプロピレンゴム成形品と同時に表面改質を施したブチルゴムの摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないブチルゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図4に示すように、バラツキが少なく、摺動距離20m以上でも動摩擦係数0.2程度で安定していることがわかる。
【実施例5】
【0028】
図5に、実施例2で示した表面改質領域を有するエチレンプロピレンゴム成形品の摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないエチレンプロピレンゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図5に示すように、測定ごとのバラツキは少なく、摺動距離20m以上でも動摩擦係数0.2程度で安定していることがわかる。図3と比較して動摩擦係数が低い値で安定している要因としては、図1と図2の比較において明らかなように、表面改質領域が図3で評価した試料の方が深くまで存在しているためと考えられる。
【実施例6】
【0029】
図6に、実施例2で示した表面改質領域を有するエチレンプロピレンゴム成形品と同時に表面改質を施したブチルゴムの摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないブチルゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図6に示すように、測定ごとのバラツキは少なく、摺動距離20m以上でも動摩擦係数0.2程度で安定していることがわかる。
【実施例7】
【0030】
図7に、実施例1において使用した窒素ガスを純度99.9999%以上のアルゴンガスに代えて、その他の条件は実施例1と同様として表面改質されたエチレンプロピレンゴム成形品の摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないエチレンプロピレンゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図7に示すように、動摩擦係数は表面改質を行っていないものと比較して小さくなっているものの、摺動距離の増加に伴って0.6以上に増加する傾向が見られる。すなわち、実施例3〜6の結果は単にプラズマ処理によるものではなく、窒素イオンが注入されていることによってもたらされていることを示すものと考えられる。
【実施例8】
【0031】
図8に、実施例7と同様の条件で表面改質されたブチルゴム成型品の摩擦摩耗試験を示す。縦軸は動摩擦係数で、横軸は摩擦圧子ボールとゴム成型品との摺動距離である。測定は25mm×25mmの試料に対して3回行っており、それぞれn1〜n3で示してある。なお、表面改質を行っていないエチレンプロピレンゴム成形品の動摩擦係数は1.0以上であったが、測定圧子との摩擦が滑らかに行えず正確には測定できなかった。図8に示すように、動摩擦係数は0.4程度と多少ひくくなっているものの、バラツキが大きく安定性に乏しい結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のゴム成形品はおよびその製造方法は表面に無機膜または有機膜などを被覆することなく、ゴムの弾性を維持したまま表面に低摩擦係数や高耐摩耗性を付与することができるため、従来よりも長寿命あるいは、従来のゴム成形品では使用できなかったような条件下でも適用可能とすることができる。特に、ワイパー、ゴムロール、シール材への適用が適している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1を説明する図。
【図2】本発明の実施例2を説明する図。
【図3】本発明の実施例3を説明する図。
【図4】本発明の実施例4を説明する図。
【図5】本発明の実施例5を説明する図。
【図6】本発明の実施例6を説明する図。
【図7】本発明の実施例7を説明する図。
【図8】本発明の実施例8を説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から内部に向かって各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比が指数関数的に減少する表面改質領域を有することを特徴とするゴム成型品。
【請求項2】
表面改質領域の各深さにおける炭素原子数に対する窒素原子数の比の最大値と最小値の差が0.015以上あることを特徴とする、請求項1に記載のゴム成型品。
【請求項3】
表面改質領域の各深さにおける炭素原子数に対する酸素原子数の比が0.05以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のゴム成型品。
【請求項4】
表面の動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のゴム成型品。
【請求項5】
ゴムが天然ゴム系、クロロプレン系、エチレンプロピレン系、アクリル系、フッ素系、ニトリル系、ブチル系、シリコーン系のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のゴム成型品。
【請求項6】
ゴムがワイパーブレードに成形されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のゴム成型品。
【請求項7】
ゴムがゴムローラの被覆材に成形されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のゴム成型品。
【請求項8】
ゴムがシール部材に成形されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のゴム成型品。
【請求項9】
表面改質領域を真空中での窒素イオン注入法で形成することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のゴム成型品の製造方法。
【請求項10】
窒素イオンを電圧が−5kV以上、かつパルス幅が1.0μs〜20μsの範囲のパルス電圧で加速してゴム成型品表面に照射することを特徴とする、請求項9に記載のゴム成型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−77227(P2010−77227A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245051(P2008−245051)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(305052986)プロマティック株式会社 (11)
【出願人】(501070735)株式会社アストム (1)
【Fターム(参考)】