説明

ゴム組成物およびこれを用いた空気入りタイヤ

【課題】 グリップ性能の低下を生じさせることなく低燃費化が可能で、かつ使用後には微生物によって分解され得る空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含むゴム成分の100質量部に対して、生分解性脂肪族ポリエステルを0.5〜80質量部の範囲内で含有するゴム組成物に関する。該生分解性脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネートから選択される1種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性脂肪族ポリエステルを配合したゴム組成物およびこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源化や炭酸ガス(CO2)排出抑制の規制強化等の環境問題上の観点から、タイヤの低燃費性が重要視されており、低燃費性と、グリップ性能等のタイヤ特性との両立が急務となっている。低燃費化の方法としては、たとえばシリカとシランカップリング剤とを使用する方法が多数報告されているが、要求性能を満足するには至っていないのが現状である。
【0003】
一方、使用済みのタイヤのリサイクルにおいても、タイヤのゴム片またはゴム粉末をそのまま用い、ゴムとして再利用するマテリアルリサイクルの実用化が要求されている。リサイクルの方法としては、たとえば二軸押出機等によってゴム片またはゴム粉末に大きな剪断力を加えて、粉砕、脱硫する方法等が検討されているが、このような物理的な処理方法は大きなエネルギーを必要とするという問題がある。そこで、より少ないエネルギーでマテリアルリサイクルを行なう方法として、微生物による各種ゴムの分解処理方法が種々提案されている。しかし微生物を用いる方法は、処理に時間がかかる点等により実用性に乏しいという問題がある。特許文献1には、廃タイヤをはじめとするゴム製品の廃棄物に含まれる加硫ゴム組成物を木材腐朽菌により分解する方法が提案されている。この方法によれば使用済のタイヤの分解処理を比較的容易に行なうことが可能であるが、特許文献1においてはタイヤ自体の特性向上については考慮されていない。
【0004】
樹脂業界においては、同じく環境保護の観点から、微生物等の作用により経時的に分解可能な樹脂、すなわち生分解性樹脂の開発が進められている。このような生分解性樹脂は、従来のプラスチックと同様に溶融加工等によって各種製品の生産に利用することができる。また、生分解性樹脂は自然界で微生物により分解されるという利点を有しており、従来の多くの有機高分子化合物のように自然環境に残留して環境汚染を引き起こすことがない。しかし、樹脂はゴムのような柔軟性を有さないため、タイヤ用のゴム組成物に用いることは難しいという問題がある。
【0005】
また、天然資源を配合したタイヤとしては、たとえばスターチ複合物を用いる方法が提案されているが、この方法においては、スターチ複合物を十分に分散させるために高温での混合工程が必要であり、工程が複雑になるのみでなく、ポリマーの劣化が促進されるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−99738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、グリップ性能の低下を生じさせることなく低燃費化が可能で、かつ使用後には微生物によって分解が促進され得る空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含むゴム成分の100質量部に対して、生分解性脂肪族ポリエステルを0.5〜80質量部の範囲内で含有するゴム組成物に関する。
【0008】
本発明においては、生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネートから選択される1種以上であることが好ましい。
【0009】
また、該生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が500〜800,000の範囲内であることが好ましい。
【0010】
また、該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度が、−70℃〜30℃の範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、ゴム成分が、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有天然ゴムおよび/または官能基含有ジエン系ゴムを含むことが好ましい。また、ゴム成分がエポキシ化天然ゴムを含むことが好ましい。
【0012】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分の100質量部に対して、シリカを5〜150質量部の範囲内、およびシランカップリング剤を該シリカの含有量に対して1〜20質量%の範囲内となるようにそれぞれ含有することが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、生分解性脂肪族ポリエステルを配合したゴム組成物を用いることにより、グリップ性能を低下させることなく低燃費化の実現が可能で、かつ使用後には微生物によって分解され得る空気入りタイヤを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のゴム組成物は、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含むゴム成分の100質量部に対して、生分解性脂肪族ポリエステルを0.5〜80質量部の範囲内で含有する。本発明において、生分解性脂肪族ポリエステルとは、生体内または微生物の作用によって分解される脂肪族ポリエステルを意味する。
【0016】
本発明のゴム組成物に配合される生分解性脂肪族ポリエステルは、特に、微生物の作用によって最終的に二酸化炭素と水とに分解され得るものであることが好ましい。この場合、使用後の空気入りタイヤをより容易に分解処理することが可能となる。
【0017】
本発明のゴム組成物に配合される生分解性脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネートから選択される1種以上であることが好ましい。これらの脂肪族ポリエステルは、微生物による生分解性に特に優れるとともに、これらの脂肪族ポリエステルを用いた場合、良好なグリップ性能の確保と低燃費化が可能である。
【0018】
生分解性脂肪族ポリエステルは、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含むゴム成分の100質量部に対して0.5〜80質量部の範囲内で配合される。配合量が0.5質量部未満の場合、生分解性脂肪族ポリエステルを配合することによる燃費の低減効果および生分解性の向上効果が十分得られず、80質量部を超える場合、生分解性脂肪族ポリエステルの分散性が悪化し、耐摩耗性が十分得られない。生分解性脂肪族ポリエステルの配合量は、1〜60質量部の範囲内、さらに2〜50質量部の範囲内とされることが特に好ましい。
【0019】
本発明においては、生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が500〜800,000の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量が500以上である場合、物理的強度に優れるゴム組成物が得られる。一方800,000以下である場合、生分解性脂肪族ポリエステルをゴム組成物中に均一に分散させることができるため、耐摩耗性の低下が生じ難く、またタイヤの使用後においては、微生物による生分解を比較的短期間で進行させることができる。生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、さらに500〜500,000の範囲内、さらに500〜100,000の範囲内とされることが好ましい。
【0020】
生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、−70℃〜30℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度が−70℃以上である場合転がり抵抗特性や耐摩耗性が良好であり、30℃以下である場合グリップ性能が良好であるとともに、ゴム成分との相溶性にも優れる。該ガラス転移温度は、さらに−60℃〜20℃の範囲内であることが好ましい。
【0021】
生分解性脂肪族ポリエステルの分子構造、およびゴム組成物中の該生分解性脂肪族ポリエステルの含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)や赤外線吸収スペクトル等、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)等、ガラス転移温度は示差走査熱量分析装置等をそれぞれ用いて評価可能である。
【0022】
本発明において使用される生分解性脂肪族ポリエステルの好ましい例としては、微生物産生系では、ポリヒドロキシブチレートとして、三菱ガス化学社製の「ビオグリーン」等が挙げられる。また、化学合成系では、ポリ乳酸として、カーギル−ダウ社製の「NatureWorks」、三井化学社製の「レイシア」、カネボウ合繊社製の「ラクトロン」、大日本インキ化学工業社製の「プラメート」等、ポリカプロラクトンとして、ダウ社製の「TONE」、ダイセル化学工業社製の「セルグリーンPH」等、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)として、ダイセル化学工業社製の「セルグリーンCBS」等、ポリブチレンサクシネートとして、昭和高分子社製の「ビオノーレ」等、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)として、昭和高分子社製の「ビオノーレ」、Ireケミカル社製の「Enpol」等、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)として、三菱ガス化学社製の「ユーペック」等、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)として、デュポン社製の「Biomax」等、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)として、BASF社製の「Ecoflex」、Ireケミカル社製の「Enpol」等、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)として、イーストマンケミカル社製の「Eastarbio」等、ポリエチレンサクシネートとして、日本触媒社製の「ルナーレSE」等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の組合せでも用いられ得る。
【0023】
本発明のゴム成分は、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含む。ジエン系ゴムとしては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム等が挙げられる。これらのゴムは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
本発明のゴム成分は、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有天然ゴムおよび/または官能基含有ジエン系ゴムを含むことが好ましい。天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムがこれらの官能基を含む場合、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相溶性が向上するという効果が得られる。ゴム成分がエポキシ化天然ゴムを含む場合、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相溶性が特に良好になる点で好ましい。
【0025】
アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基は、官能基含有天然ゴム中または官能基含有ジエン系ゴム中に1〜80モル%の範囲内で含まれることが好ましい。官能基の含有量が1モル%以上であれば、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相溶性の向上効果が良好に得られ、80モル%以下であれば未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられ、加工性が良好となる。
【0026】
天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムにアルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有させる方法としては、たとえば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用いて重合されたスチレン−ブタジエン共重合体の重合末端に官能基を導入する方法や、天然ゴムあるいはジエン系ゴムをクロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法によりエポキシ化する方法等が挙げられる。
【0027】
また、本発明においては、ゴム成分の100質量部に対して、シリカを5〜150質量部の範囲内、およびシランカップリング剤を該シリカの含有量に対して1〜20質量%の範囲内となるようにそれぞれ含有することが好ましい。シリカの配合量が5質量部以上である場合、走行時のタイヤの発熱が低減されるとともに、良好なウエットグリップ性能と耐摩耗性とが得られる。また150質量部以下である場合、未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられること等によりゴム組成物の製造時の加工性、作業性が良好となる。シリカの含有量は、さらに10〜120質量部の範囲内、さらに15〜100質量部の範囲内とされることが好ましい。
【0028】
シリカとしては、従来ゴム補強用として慣用されているものが使用でき、たとえば乾式法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカ等の中から適宜選択して用いることができる。また、窒素吸着比表面積(N2SA)が100〜300m2/gの範囲内、さらに120〜280m2/gの範囲内であるものを用いることが好ましい。シリカのN2SAが100m2/g以上である場合ゴム組成物に対する補強効果が大きい点で好ましく、300m2/g以下である場合ゴム組成物中での該シリカの分散性が良好で、該ゴム組成物の発熱性の増大を防止できる点で好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物には、好ましくはシランカップリング剤がさらに配合される。シリカの含有量に対してシランカップリング剤の含有量が1質量%以上である場合、シランカップリング剤の配合によるカップリング効果が十分得られる。また20質量%より多くシランカップリング剤を配合してもコスト上昇の割にカップリング効果の上昇は少ない上、シランカップリング剤の含有量が過度に多い場合には、補強性、耐摩耗性がかえって低下する場合があるため、シリカの含有量に対するシランカップリング剤の含有量は20質量%以下とされることが好ましい。該含有量は、2〜15質量部の範囲内とされることが特に好ましい。
【0030】
シランカップリング剤としては、従来からシリカ充填剤と併用される任意のシランカップリング剤を用いることができる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシプロピル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
中でも、カップリング効果と製造コストとの両立の面で、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が特に好ましく用いられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
本発明のゴム組成物には、上記のゴム成分、生分解性脂肪族ポリエステル、シリカ、シランカップリング剤の他、カーボンブラック等の充填剤や、軟化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄その他の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
【0033】
カーボンブラックが配合される場合、該カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下、さらに20〜80質量部の範囲内とされることが好ましい。カーボンブラックの配合量が100質量部以下であればゴム組成物の調製時の分散性および作業性を悪化させる危険性が少ない。
【0034】
カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が、たとえば80〜280m2/gの範囲内、さらに100〜200m2/gの範囲内に設定されたものが好ましく用いられる。窒素吸着比表面積が80m2/g以上であれば該ゴム組成物がタイヤに使用された場合に良好なウエットグリップ性能および耐摩耗性が得られ、280m2/g以下であればゴム組成物を調製する際のカーボンブラックの分散性悪化によるゴム組成物の耐摩耗性の低下が防止される。
【0035】
本発明のゴム組成物にはシランカップリング剤が配合されるが、用途に応じてその他のカップリング剤、たとえばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を併用することも可能である。
【0036】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、さらに、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等の無機充填剤を単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0037】
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、などが挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下とされることが好ましく、この場合、該ゴム組成物がタイヤに使用された際のウエットグリップ性能を低下させる危険性が少ない。
【0038】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0039】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するものを使用することが可能である。
【0040】
スルフェンアミド系としては、たとえばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物などが挙げられる。
【0041】
チアゾール系としては、たとえばMBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0042】
チウラム系としては、たとえばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0043】
チオウレア系としては、たとえばチアカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物などが挙げられる。
【0044】
グアニジン系としては、たとえばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジフェニルグアニジンフタレートなどのグアニジン系化合物が挙げられる。
【0045】
ジチオカルバミン酸系としては、たとえばエチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンの錯塩、ヘキサデシル(またはオクタデ
シル)イソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0046】
アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系としては、たとえばアセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物などが挙げられる。
【0047】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0048】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には必要に応じて可塑剤を配合することができる。具体的には、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、等が挙げられる。
【0049】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、スコーチを防止または遅延させるためスコーチ防止剤として、たとえば無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸などの有機酸、N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を使用することができる。
【0050】
本発明のゴム組成物を用いてタイヤを製造する方法は特に限定されず、たとえば、本発明のゴム組成物を未加硫の段階で適用されるタイヤの部材の形状に合わせて押出加工し、タイヤ成型機によって加圧してタイヤを得る方法等、通常用いられる方法を採用することができる。
【0051】
本発明のゴム組成物は、乗用車用、トラック・バス用、重機用等、種々のタイヤに対して好適に適用され得る。図1は、本発明に係る空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。タイヤTは、ビード部1とサイドウォール部2とトレッド部3とを有している。さらに、ビード部1にはビードコア4が埋設される。また、一方のビード部1から他方のビード部にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア4を係止するカーカス5と、該カーカス5のクラウン部外側の2枚以上のベルトプライよりなるベルト層6とが配置されている。カーカス5とその折返し部5aに囲まれる領域には、ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス7が配置される。本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤの主としてトレッド部、サイドウォール部、カーカスプライやベルトプライに対して好適に使用され得る。
【0052】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<ゴム組成物の製造>
表1に示す配合成分のうち硫黄、加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉型ミキサーを用いて130〜140℃で5分間混練し、マスターバッチを得た。このマスターバッチに硫黄、加硫促進剤を添加し、8インチのオープンロールを用いて50℃で5分間混練し、未加硫ゴム組成物を得た。これをさらに170℃で20分間プレス加硫し、実施例および比較例のゴム組成物を得た。未加硫ゴム組成物および得られたゴム組成物につき、下記の特性評価を行なった。
【0054】
<加工性>
未加硫ゴム組成物につき、JIS K6300に定められたムーニー粘度の測定法に従って130℃でムーニー粘度(ML1+4)の測定を行ない、下式により定義されるムーニー粘度指数を算出した。ムーニー粘度指数が大きい程、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
ムーニー粘度指数=(比較例1のML(1+4))/(各実施例または各比較例のML(1+4))×100
結果を表1に示す。
【0055】
<耐摩耗性>
得られたゴム組成物について、ランボーン摩耗試験機にて、温度20℃、スリップ率20%、試験時間5分間の条件でランボーン摩耗量を測定し、各実施例および各比較例のゴム組成物の容積損失を計算し、下式により定義される摩耗指数を算出した。指数が大きい程耐摩耗性に優れる。
摩耗指数=(比較例1の容積損失)/(各実施例または各比較例の容積損失)×100
結果を表1に示す。
【0056】
<転がり抵抗特性>
得られたゴム組成物について、粘弾性スペクトロメーター「VES」(岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各実施例および各比較例のゴム組成物のtanδを測定し、下式により定義される転がり抵抗指数を算出した。転がり抵抗指数が大きい程転がり抵抗特性が優れる。
転がり抵抗指数=(比較例1のtanδ)/(各実施例または各比較例のtanδ)×100
結果を表1に示す。
【0057】
<ウエットグリップ性能>
得られたゴム組成物について、スタンレー社製のポータブルスキッドテスターを用い、ASTM E303−83の方法に従ってウエットスキッドの測定を行ない、下式により定義されるウエットスキッド指数を算出した。ウエットスキッド指数が大きい程ウエットグリップ性能に優れる。
ウエットスキッド指数=(各実施例または各比較例の測定値)/(比較例1の測定値)×100
結果を表1に示す。
【0058】
<生分解性試験>
(微生物の前培養)
下記に示す組成の培地を作製し、オートクレーブ内で、121℃で20分間滅菌処理した後、滅菌済シャーレに20mlずつ分注して固化させ、培地プレートを得た。培地プレート上に、Ceriporiopsis subvermispora FP90031を一白金耳量植菌して、28℃で7日間、前培養した。
【0059】
前培養の培地
日水製薬(株)製ポテトデキストロース粉末:39.0g
蒸留水 :1L
上記のポテトデキストロース粉末には、ポテト浸出液末4.0g、ブドウ糖20.0g、寒天15.0gが含まれる。
【0060】
(ゴム組成物の分解実験)
前述の方法で調製した各実施例および各比較例のゴム組成物から、20mm×20mm×2mmのゴムシートをそれぞれ切り出し、分解実験用サンプルとした。海砂80g、蒸留水20ml、木片10gを加えたフラスコに該ゴムシートをそれぞれ3枚置き、下記に示す組成の培地を10ml加えて、シリコン栓をした後、オートクレーブ内で、121℃で20分間滅菌処理した。続いて、前述の前培養を経た培地プレートをコルクボーラーで打ち抜いて、直径約4mmの円柱型の菌ペレットを作製し、滅菌処理後のフラスコ内の培地に該菌ペレットを5個ずつ植菌した。植菌したフラスコを恒温槽に入れ、28℃、湿度70%で100日間静置してインキュベーションを行なった。
【0061】
分解実験の培地
グルコース :700mg
コーンスティープリカー:700mg
蒸留水 :100ml
インキュベーション終了後、フラスコ内からゴムシートを回収し、70質量%エタノールで洗浄、乾燥後、該ゴムシートの質量を測定し、インキュベーション前の質量を100%としたときの質量減少率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
注1:天然ゴムは、RSS♯3である。
注2:エポキシ化天然ゴムは、Kumplan Guthrie Berhad社(マレーシア)製の「ENR−50」(エポキシ化率:50モル%)である。
注3:シリカは、デグッサ社製の「Ultrasil VN3」(N2SA:210m2/g)である。
注4:シランカップリング剤は、デグッサ社製の「Si266」(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)(lの平均値:2.2)である。
注5:アロマオイルは、(株)ジャパンエナジー製の「JOMOプロセスX140」である。
注6:ポリ乳酸は、三井化学(株)製の「レイシアH−100J」(分子量:170,000、Tg:59℃)である。
注7:ポリブチレンサクシネートは、昭和高分子(株)製の「ビオノーレ♯1003」(分子量:83,000、Tg:−32℃)である。
注8:ポリカプロラクトンは、ダイセル化学工業(株)製の「セルグリーンPH7」(分子量:10,000、Tg:−60℃)である。
注9:老化防止剤は、大内新興化学工業(株)製の「ノクラック6C」(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)である。
注10:ステアリン酸は、日本油脂(株)製である。
注11:酸化亜鉛は、三井金属鉱業(株)製の「亜鉛華1号」である。
注12:硫黄は、鶴見化学(株)製の「粉末硫黄」である。
注13:加硫促進剤TBBSは、大内新興化学工業(株)製の「ノクセラーNS」(N−第三−ブチル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド)である。
注14:加硫促進剤DPGは、大内新興化学工業(株)製の「ノクセラーD」(N,N’−ジフェニル・グアニジン)である。
【0064】
表1に示す結果より、生分解性脂肪族ポリエステルを含有するゴム組成物を用いた実施例1〜5においては、生分解性脂肪族ポリエステルを含有しない比較例1および2と比べて、同等またはそれ以上のムーニー粘度指数および摩耗指数を維持しつつ、転がり抵抗指数およびウエットスキッド指数が向上している。よって、本発明のゴム組成物を用いることにより、加工性および耐摩耗性を維持しつつ、転がり抵抗特性の向上により低燃費化が可能で、さらにウエットグリップ性能が向上された空気入りタイヤを得ることができることが分かる。また、実施例1〜5においては、比較例1および2と比べて分解実験における質量減少率が高い傾向にあることから、本発明のゴム組成物は生分解性に優れていることが分かる。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明においては、生分解性脂肪族ポリエステルを配合したゴム組成物を、たとえば空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、カーカスプライ、ベルトプライ等に対して用いることにより、グリップ性能を低下させることなく低燃費化の実現が可能で、かつ使用後には微生物によって分解され得る空気入りタイヤを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
T タイヤ、1 ビード部、2 サイドウォール部、3 トレッド部、4 ビードコア、5 カーカス、5a 折返し部、6 ベルト層、7 ビードエーペックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを含むゴム成分の100質量部に対して、生分解性脂肪族ポリエステルを0.5〜80質量部の範囲内で含有するゴム組成物。
【請求項2】
前記生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネートから選択される1種以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が500〜800,000の範囲内である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度が、−70℃〜30℃の範囲内である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分が、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有天然ゴムおよび/または官能基含有ジエン系ゴムを含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分がエポキシ化天然ゴムを含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分の100質量部に対して、シリカを5〜150質量部の範囲内、およびシランカップリング剤を前記シリカの含有量に対して1〜20質量%の範囲内となるようにそれぞれ含有する、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39585(P2007−39585A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226771(P2005−226771)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】