説明

ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】空気入りタイヤなどを例えばブラスめっきされたスチールコードで補強することはよく知られている。しかし、このようなスチールコードは、ゴムに対する耐水接着性が乏しいという問題点があった。本発明は金属製補強コードに対し高い耐水接着性を有するゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【解決手段】ゴム成分100質量部に対し、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂を0.1〜15質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。ゴム成分100質量部に対し、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂を0.1〜15質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物と、該ゴム組成物に金属製補強コードを埋設させてなるゴム−金属複合材を用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、金属製補強コードに対し高い耐水接着性を有するゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤなどを例えばブラスめっきされたスチールコードで補強することはよく知られている。しかし、このようなスチールコードは、ゴムに対する耐水接着性が乏しいという問題点があった。
なお、下記特許文献1には、糖質類とフェノール類との反応によって得られた変性フェノール樹脂が開示されている。該樹脂の使用により、高流動性が付与され、硬化剤の使用量も低減できるとされている。しかしながら特許文献1には、該樹脂に金属製補強コードを埋設させ、耐水接着性を向上させるという技術思想は何ら開示または示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−90297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、金属製補強コードに対し高い耐水接着性を有するゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分に特定の変性フェノール樹脂を特定量配合してゴム組成物とし、これに金属製補強コードを埋設させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
1.ゴム成分100質量部に対し、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂を0.1〜15質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。
2.前記変性フェノール樹脂中、前記糖質類の置換比率が20〜95質量%であることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記1または2に記載のゴム組成物に、金属製補強コードを埋設させてなるゴム−金属複合材を用いた空気入りタイヤ。
4.前記金属製補強コードが、ベルトコード、カーカスコードおよびビードコードからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゴム成分に特定の変性フェノール樹脂を特定量配合したので、金属製補強コードに対し高い耐水接着性を有するゴム組成物を提供することができる。また、該ゴム組成物に金属製補強コードを埋設させることにより、金属製補強コードに対し高い耐水接着性を有する空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
まず、本発明で使用されるゴム組成物について説明する。
【0008】
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、ゴム組成物に配合することができる任意のゴム成分が挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらのゴム成分の中でも、本発明の効果の点からNRが好ましい。
【0009】
(変性フェノール樹脂)
本発明で使用される変性フェノール樹脂は、その構造の一部が糖質類で置換された樹脂である。
本発明で使用される変性フェノール樹脂は、酸性触媒存在下、糖質類と、フェノール類および必要に応じてホルムアルデヒドとの反応によって製造することができる。
糖質類としては、単糖類、2糖類、3糖類、少糖類、多糖類が挙げられる。具体的には、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、イソマルソース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、異性化糖、デキストリン、オリゴ糖、フラクタン、フラクオリゴ糖、澱粉、粗澱粉、アミロース、アミロペクチン、廃棄糖蜜(澱粉かす)などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。
酸性触媒としては、例えば、鉱酸類(例えば、塩酸、硫酸等)、有機酸類(例えば、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等)などが挙げられる。
糖質類とフェノール類との反応系において、両者の仕込み比率は、例えば質量比で糖質類を1としたときにフェノール類が2〜20である。本発明においては、変性フェノール樹脂中、糖質類の置換比率が20〜95質量%となるのが本発明の効果の観点から好ましい。この置換比率は、両者の仕込み比率を適宜変更することにより調整可能である。
反応温度は20〜200℃であることが好ましく、120〜160℃であることがより好ましい。反応温度が20℃以上であれば、充分に反応させることができ、200℃以下であれば、分解を抑制できる。
反応時間は0.5〜20時間であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、高い収率で変性フェノール樹脂を得ることができ、20時間以下であれば、生産性の低下を抑制できる。
なお、該変性フェノール樹脂は、前記特許文献1にも記載され公知である。また市販されているものを利用することができ、例えば群栄化学工業(株)から商品名BPS−9650、BPC−20、BPC−90等が挙げられる。
【0010】
本発明に使用されるゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対し、前記変性フェノール樹脂を0.1〜15質量部配合してなる。
変性フェノール樹脂の配合量が0.1質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に15質量部を超えて配合すると、粘弾性特性が悪化する。さらに好ましい変性フェノール樹脂の配合量は、前記ゴム成分100質量部に対し、0.5〜5質量部である。
【0011】
(その他成分)
本発明で使用されるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;各種オイル;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0012】
本発明に使用される金属製補強コードとしては、例えば、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等に一般的に使用される金属製補強コードが挙げられる。例えば、タイヤ用途の場合、金属製補強コードは、アンダートレッドに埋設されるベルト、カーカス、ビード(ビードコアおよびそれに収納されるスチールコードを含む)が挙げられる。中でも、アンダートレッドに埋設されるベルトまたはビードであるのが本発明の効果の観点から好適である。
【0013】
本発明のゴム組成物と金属製補強コードを複合するには、例えば、前記の各種成分をバンバリーミキサーやロールミキサーなどの汎用の混合機を用いて混合しゴム組成物を調製し、これに金属製補強コードを埋設させ、常法にしたがって例えば加硫することにより、得ることができる(以下、ゴム−金属複合材という)。
【0014】
前記ゴム−金属複合材の用途としては、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等が挙げられるが、とくにタイヤ用途が好ましい。タイヤ用途に使用する場合、その製造方法はとくに制限されず、公知技術にしたがい、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0016】
実施例1〜2および比較例1〜2
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで3分間混練した後、一度放出し計量してから加硫系配合剤を加え再度バンバリーミキサーにより80℃、1分混練してゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を用い、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0017】
未老化接着性能試験:12.7mm間隔で平行に並べたブラスめっきスチールコードを上記ゴム組成物で被覆すると共に、埋め込み長さ12.7mmで埋め込み、160℃×20分間の加硫条件で加硫接着してサンプルを作製した。ASTM D−2229に準拠して前記サンプルからスチールコードを引き抜き、その表面を被覆するゴム付着(%)により評価した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この値が大きいほどゴムに対する接着性が優れている。
老化後接着性能試験:上記の加硫後の接着サンプルを温度70℃、湿度96%、2週間の環境下におき、老化させた。このサンプルを上記の未老化接着性能試験と同様にして、引抜力とゴム付着量(%)を測定し、評価した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この値が大きいほどゴムに対する接着性が優れている。
結果を表1に併せて示す。
【0018】
【表1】

【0019】
*1:NR(RSS#3)
*2:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シーストKH、沃素吸着量90cm3/100g、DBP吸収量119×10-53/kg)
*3:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*4:老化防止剤−1(フレキシス社製サントフレックス6PPD)
*5:老化防止剤−2(大内新興化学工業(株)製ノクラック224)
*6:Co塩(日鋼金属(株)製ナフテン酸コバルト(Co含有率=10質量%)
*7:硫黄(アクゾノーベル(株)製クリステックスHS OT 20)
*8:変性フェノール樹脂−1(群栄化学工業(株)製BPC−20、糖質類の置換比率=20質量%)
*9:変性フェノール樹脂−2(群栄化学工業(株)製BPC−90、糖質類の置換比率=90質量%)
*10:樹脂−1(田岡化学工業(株)製スミカノール610)
*11:樹脂硬化剤(BARA CHEMICAL CO., LTD.製スミカノール507A)
【0020】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜2で調製されたゴム組成物は、ゴム成分に特定の変性フェノール樹脂を特定量配合し、また、該ゴム組成物に金属製補強コードを埋設させたので、硬化性樹脂を使用していない例である比較例1に比べ、老化前後の耐水接着性が向上している。
比較例2は、変性フェノール樹脂の替わりにクレゾール樹脂を配合した例であり、実施例ほどの耐水接着性は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂を0.1〜15質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記変性フェノール樹脂中、前記糖質類の置換比率が20〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物に、金属製補強コードを埋設させてなるゴム−金属複合材を用いた空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記金属製補強コードが、ベルトコード、カーカスコードおよびビードコードからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−219120(P2012−219120A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83366(P2011−83366)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】