説明

ゴム組成物及びゴム組成物の製造方法

【課題】ミクロフィブリル化植物繊維がゴム成分中に良好に分散性され、破断特性が向上したゴム組成物を提供することを目的とする。また、ゴム成分中にミクロフィブリル化植物繊維を良好に分散性させるゴム組成物の製造方法を提供することも目的とする。さらに、燃費を悪化させずに破壊特性を高めることのできる前記ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】(A)ゴム成分、並びに(B)繊維長の平均値が1〜20μm、繊維径の平均値が10μm以下、及びアスペクト比が2〜1000であるミクロフィブリル化植物繊維を含むゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分及び特定のミクロフィブリル化植物繊維を含有するゴム組成物、及びそれを用いたタイヤ、並びにゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物において、ゴム成分中に配合される充填剤としてセルロース繊維を含有することにより、ゴムの物理的特性の向上させることは、従来から知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、セルロース短繊維の水分散液とゴムラテックスとを撹拌混合し、その混合液から水を除去して得られるマスターバッチについて開示されている。しかしながら、セルロース繊維はゴムとの相溶性が悪く、ゴム組成物として配合した場合に、破断特性や界面におけるエネルギーロス等の面で十分な効果が得られず、これらの特性を改善しなければ、各種用途への実用化は難しい。そのため、セルロース繊維とゴム成分との相溶性を改善させるために、セルロースをミクロフィブリル化したミクロフィブリル化植物繊維を用いることが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0003】
しかしながらミクロフィブリル化植物繊維は、繊維長が長く、また枝分かれ構造によるネットワークが存在するため、ミクロフィブリル化植物繊維をそのままゴムに配合して繊維強化ゴムを製造しようとすると、ゴム成分中での分散性の悪いミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊の発生のために、得られるゴム組成物の破壊特性が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ミクロフィブリル化植物繊維がゴム成分中に良好に分散性され、破断特性が向上したゴム組成物を提供することを目的とする。また、ゴム成分中にミクロフィブリル化植物繊維を良好に分散性させるゴム組成物の製造方法を提供することも目的とする。さらに、燃費を悪化させずに破壊特性を高めることのできる前記ゴム組成物を用いたタイヤを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分中に分散させるミクロフィブリル化植物繊維として、特定の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を有し、特に平均繊維長の短いものを適用することによって、ゴム成分中に良好に分散させることができ、その結果、ゴム組成物中において、破壊の起点となる凝集塊を少なくでき、ゴム組成物の破壊特性を向上させることができることを見出した。
【0007】
本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0008】
項1.(A)ゴム成分、並びに
(B)繊維長の平均値が1〜20μm、繊維径の平均値が10μm以下、及びアスペクト比が2〜1000であるミクロフィブリル化植物繊維を含む
ゴム組成物。
【0009】
項2.ミクロフィブリル化植物繊維(B)が、パルプを酸で処理したのちに、機械的に解繊処理することにより得られる項1に記載のゴム組成物。
【0010】
項3.ミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量が、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜100質量部である項1又は2に記載のゴム組成物。
【0011】
項4.機械的な解繊処理が、磨砕処理である項2又は3に記載のゴム組成物。
【0012】
項5.(a)パルプと酸で処理する工程、
(b)酸処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維を調製する工程、
(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維を分散させる工程、及び
(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させる工程
を含む
ゴム組成物の製造方法。
【0013】
項6.工程(a)における酸が、塩酸、硫酸、酢酸、及びギ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である項5に記載のゴム組成物の製造方法。
【0014】
項7.工程(a)における酸の添加量が、パルプ100質量部に対して、5〜100質量部である項5又は6に記載のゴム組成物の製造方法。
【0015】
項10.工程(a)における酸処理後、さらに水洗する工程を含む項5〜9のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【0016】
項11.工程(b)における機械的な解繊処理が、磨砕処理である項5〜10のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【0017】
項12.タイヤ用に用いられる項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【0018】
項13.項1〜4、及び12のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のゴム組成物は、(A)ゴム成分、及び(B)特定のミクロフィブリル化植物繊維を含有する。
【0021】
ゴム成分(A)としては、ジエン系ゴム成分のものが挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エポキシ化天然ゴム(ENR)等の改質天然ゴム、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等が挙げられる。また、ジエン系ゴム成分以外のゴム成分としては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比においても、各種用途に応じて適宜配合すればよい。
【0022】
本発明で用いられるミクロフィブリル化植物繊維(B)は、従来のミクロフィブリル化植物繊維よりも、特に繊維長の平均値(以下、平均繊維長ともいう)が短いため、繊維のネットワークや絡み合いが生じ難く、ゴム成分中に分散させたときに、凝集が抑制され、良好に分散することができる。このようなミクロフィブリル化植物繊維(B)の平均繊維長としては、1μm以上であり、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。平均繊維長が1μm未満であると、ゴム補強効果が顕著に発現しない傾向がある。また、ミクロフィブリル化植物繊維(B)の平均繊維長は、20μm以下であり、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均繊維長が20μmを超えると、繊維のネットワークや絡み合いが生じてしまい、ゴム成分中での分散性が悪化する、また、ゴムを拘束する効果が強く働くため、結果としてゴムの破壊特性が悪化する傾向がある。
【0023】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)の繊維径の平均値(以下、平均繊維径ともいう)は、10μm以下であり、1μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。平均繊維径が10μmを超えると、ゴム成分中に分散させたときに、凝集しやすくなり、ゴムの破壊特性を悪化させる、また、繊維自体が大きいため、ゴムが変形した際に破壊の起点となりやすく、結果としてゴムの破壊特性が悪化する傾向がある。なお、平均繊維径の上限については、特に限定されるものではないが、水系でゴムとマスターバッチ化する際の操作性において良好であるという点から、4nm以上が好ましい。
【0024】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)のアスペクト比は、前記平均繊維長に対する平均繊維径との比(前記平均繊維長/平均繊維径)により算出される。アスペクト比は、2以上であり、10以上が好ましく、50以上がより好ましい。アスペクト比が2未満であると、ゴム補強効果が顕著に発現しにくい傾向がある。また、アスペクト比は、1000以下であり、500以下が好ましく、300以下がより好ましい。アスペクト比が1000を超えると、ゴムを拘束する効果が強く働くため、結果としてゴムの破壊特性が悪化する傾向がある。
【0025】
前記特定の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を有するミクロフィブリル化植物繊維(B)の製法は特に限定されないが、例えば、後述するゴム組成物の製造方法において記載されるように、パルプを酸処理したのちに、機械的に解繊処理することにより得られる。
【0026】
ゴム組成物中におけるミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量は、ゴム中でのミクロフィブリル化植物繊維の分散性を悪化させずにゴム補強効果を発現できるという観点から、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜50質量部の範囲内が好ましく、2〜35質量部の範囲内がより好ましく、3〜20質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0027】
本発明は、(a)パルプを酸で処理する工程、(b)酸処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維を調製する工程、(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維を分散させる工程、及び(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させる工程を含むゴム組成物の製造方法にも関する。
【0028】
工程(a)において酸処理されるパルプは、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプであればよく、リグニンが除去されていないもの、一部除去されているもの、又は完全に除去されたもののいずれであってもよい。
【0029】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)を製造する際に用いられるパルプを供給するための植物原料としては、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプを供給するための植物原料を広く使用でき、例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、再生パルプ、古紙が挙げられる。好ましくは、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物である。
【0030】
植物原料をパルプ化する方法は、特に限定されるものではなく、従来の方法によって行われる。例えば、植物原料を機械的にパルプ化するメカニカルパルプ化法等が適用できる。メカニカルパルプ化法により得られるメカニカルパルプ(MP)としては砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等を挙げることができる。
【0031】
また、植物原料を塩素処理、アルカリ処理、酸素酸化処理、次亜塩素酸ナトリウム処理、亜硫酸塩処理等により化学的に或いは化学的及び機械的にパルプ化することにより得られるケミカルパルプ(CP)(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)等)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)を用いることも可能である。また、パルプは、必要に応じてパルプ分野で慣用されている化学変性処理されていても良く、例えば、エーテル化処理、リグニンの芳香環が処理されたパルプ等を施されたパルプが例示される。エーテル化処理は、主として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンに存在する水酸基をエーテル化処理することを包含する。また、リグニンの芳香環の処理は、リグニンの芳香環に所望の置換基を導入することを包含する。
【0032】
なお、前記の変性処理は、パルプを形成するセルロースのグルコース単位におけるヒドロキシル基を化学的に変性するものであって、後述する酸によるパルプの処理とは異なるものである。
【0033】
工程(a)において、パルプを酸で処理する。ここで、「パルプを酸で処理する」とは、パルプを形成するセルロース繊維中の結晶性の低いセルロース部分のグリコシド結合を、酸により部分的に加水分解させることを意味し、その結果、パルプを部分的に切断することが可能となる。そのため、酸による処理後のパルプに対して、後述する解繊処理を行うことによって、平均繊維長の短いミクロフィブリル化植物繊維を得ることが可能となる。
【0034】
工程(a)で用いられる酸としては、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸等が挙げられるが、これらの中で、加水分解の効率とコスト、反応後の洗浄の効率において優れるという観点から、塩酸が好ましい。
【0035】
酸の添加量は、加水分解の効率とコストのバランスにおいて良好であるという点から、パルプ100質量部に対して、5〜100質量部の範囲内が好ましく、10〜50質量部の範囲内がより好ましく、20〜40質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0036】
ここで、前記の「酸の添加量」は、酸を含む溶液である場合には、溶液を除いた酸成分の添加量を意味する。
【0037】
パルプと酸との反応温度は、加水分解の制御が容易で効率が良好であるという点から、50〜100℃の範囲内が好ましく、70〜97℃の範囲内がより好ましく、80〜95℃の範囲内がさらに好ましい。
【0038】
パルプと酸との反応時間は、加水分解のできていないフラクションを抑制できる点から、0.1〜10時間の範囲内が好ましく、0.5〜5時間の範囲内がより好ましく、1〜3時間の範囲内がさらに好ましい。
【0039】
酸処理されたパルプは、さらに水洗することによって、未反応の酸を除去させることが、以降の工程での汚染及びパルプ自体の劣化を抑制できる点で好ましい。
【0040】
工程(a)において、酸によって処理されたパルプは、工程(b)において、機械的に解繊処理することにより、前記の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を有するミクロフィブリル化植物繊維が得られる。解繊処理は、水の存在下で行われる。解繊処理の方法としては、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、二軸混錬押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。これらの方法により、パルプが解繊又は微細化され、ミクロフィブリル化植物繊維とされる。解繊処理における好ましい温度は0〜99℃、より好ましくは0〜90℃である。解繊処理の原料となるパルプは、このような解繊処理に適した形状(例えば粉末状等)であることが望ましい。また、解繊処理に先立って、パルプを蒸気で蒸す(例えば、圧力釜中、水分存在下で加熱する)と解繊エネルギーの低減の点で有利である。
【0041】
好ましい解繊方法は磨砕処理であり、石臼式磨砕機、二軸混練押出機を用いることが好ましい。磨砕は繊維径が所望の大きさになるまで行えばよい。
【0042】
なお、酸処理を施さずに、原料パルプを機械的に解繊処理し、その後に、得られる植物繊維を酸処理することによって、前記の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を有するミクロフィブリル化植物繊維を得ることも可能であるが、該方法では、酸処理後、粘度の向上が生じてしまうため、粘度をコントロールしなければならない、反応処理後のミクロフィブリル化植物繊維の洗浄処理を行う場合に、濾水性が悪く作業性が大幅に悪化する等の観点から、工程が煩雑化する傾向がある。
【0043】
また、ミクロフィブリル化植物繊維(B)に含有するリグニンについては、さらに化学的に除去したものであっても、除去していなくともよい。
【0044】
化学的にリグニンを完全には除去しない場合、ミクロフィブリル化セルロースの間を埋めているリグニン及びヘミセルロースからなるマトリックス部分が壊れて微小繊維化(ミクロフィブリル化)していると推測される。したがって、機械的な解繊処理により得られるミクロフィブリル化植物繊維(B)は、植物原料が本来有しているセルロース、ヘミセルロース及びプロトリグニン(植物組織中に存在する状態でのリグニン)から構成される構造を保持していると推測される。セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲の一部又は全部をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆した構造、特に、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。ただし、ヘミセルロース及び/又はリグニンが取れてヘミセルロース又はセルロース繊縦が表面に露出する部分も存在するであろうと推測される。
【0045】
なお、特開2001−342353号公報には、木粉を脱脂処理(エタノール:ベンゼン=1:2溶液)した脱脂木粉に、フェノール誘導体のアセトン溶液を加えてフェノール誘導体を収着させ、リン酸処理して得られる組成物が記載されているが、この組成物は、ミクロフィブリル化されていない点で、本発明で用いられるミクロフィブリル化植物繊維(B)とは相違する。
【0046】
工程(c)において、工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維を分散させる。
【0047】
工程(c)において分散されるミクロフィブリル化植物繊維の固形分濃度は、凝固時の各材料の歩留まりが良好であるという観点から、分散液中、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。ミクロフィブリル化植物繊維の固形分濃度は、ゴム成分(A)との混合効率が良好であるという点から、分散液中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
工程(c)において分散されるゴム成分の固形分濃度は、凝固時の各材料の歩留まりが良好であるという点から、分散液中、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。ゴム成分の固形分濃度は、ミクロフィブリル化植物繊維との混合効率が良好であるという点から、分散液中、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
ミクロフィブリル化植物繊維の添加量は、凝固時のゴム中でのミクロフィブリル化植物繊維の分散性を悪化させず、最終的にゴム補強効果を発現できるという観点から、分散液中に含まれるゴム成分100質量部に対して、1〜50質量部の範囲内が好ましく、2〜35質量部の範囲内がより好ましく、3〜20質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0050】
工程(c)において得られる分散液は、酸により凝固させ、その後、乾燥させる。
【0051】
分散液中の固形分を凝固させる際の酸は、ギ酸、酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0052】
前記の方法により得られるゴム組成物(マスターバッチ)は、さらに、カーボンブラック、シリカ等の補強用充填剤;シランカップリング剤等のシラン化合物;プロセスオイル;ワックス;老化防止剤;硫黄及び加硫促進剤等の加硫剤;酸化亜鉛、ステアリン酸等の加硫助剤等を適宜配合することができる。
【0053】
本発明のゴム組成物は、酸処理されたミクロフィブリル化植物繊維(B)が、特に平均繊維長の短いものとなっているため、従来のミクロフィブリル化植物繊維のように、ネットワークが生じたり、絡み合いが生じることが少なく、良好にゴム成分(A)中に分散される。そのため、破壊の起点となる凝集塊を少なくすることができ、破壊特性を向上させることができる。よって、タイヤ用として好適に用いられ、タイヤ用として用いた場合、低燃費特性を低下させずに、かつ耐久性を向上させ操縦安定性を改善することができる。
【0054】
本発明のゴム組成物をタイヤ用として用いる場合、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等で前記のゴム成分(A)、並びに特定の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を有するミクロフィブリル化植物繊維(B)を含有するゴム組成物に、さらに、所望の添加剤を混練することによりタイヤ用ゴム組成物として適用することができる。
【0055】
また、本発明は、前記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤにも関する。空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、本発明のゴム組成物にさらに、所望の配合剤を配合して混練し、得られる混練物を、未加硫の段階でタイヤの各種部材の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得ることができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明のゴム組成物は、酸によって処理されたミクロフィブリル化植物繊維(B)が、特に平均繊維長の短いものとなっているため、良好にゴム成分(A)中に分散される。そのため、破壊の起点となる凝集塊を少なくすることができ、破壊特性を向上させることができる。よって、タイヤ用として用いた場合、燃費を悪化させずに、かつ耐久性を改善することができる。
【0057】
さらに、本発明のゴム組成物の製造方法によって、平均繊維長の短いミクロフィブリル化植物繊維(B)を製造することができるとともに、良好にゴム成分(A)中に分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0058】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0059】
・実施例1、比較例1、及び参考例1
<ミクロフィブリル化植物繊維1の調製>
針葉樹由漂白クラフトパルプを水で希釈して、固形分濃度2.0質量%に調製した。その後、バッチ内の塩酸濃度が0.6%になるように塩酸を添加し、90℃で2時間撹拌した。得られた混合物を水でpHがおよそ7.0になるまで水で洗浄を繰返した後、固形分濃度が30質量%になるように脱水処理した。ついで得られた含水パルプを400rpm、0℃の操業条件の二軸混練押出機で処理することで、ミクロフィブリル化植物繊維1を調製した。
【0060】
得られたミクロフィブリル化植物繊維1の平均繊維長は、電子顕微鏡による観察結果からおよそ8μm、平均繊維径はおよそ40nm、アスペクト比はおよそ200であった。
【0061】
<ミクロフィブリル化植物繊維2の調製>
前記<ミクロフィブリル化植物繊維1の調製>と同様の針葉樹由来漂白クラフトパルプを酸処理せずに固形分濃度30質量%の状態で400rpm、0℃の操業条件の二軸混練押出機で処理することでミクロフィブリル化植物繊維2を調製した。
【0062】
得られたミクロフィブリル化植物繊維1の平均繊維長は、電子顕微鏡による観察結果からおよそ200μm、平均繊維径はおよそ100nm、アスペクト比はおよそ2000であった。
【0063】
<マスターバッチの調製>
マスターバッチ1の調製
表1に記載量のミクロフィブリル化植物繊維1(固形分濃度:30質量%)を、表1に記載量の水中に高速ホモジナイザー(IKA製バッチ式ホモジナイザーT25ウルトラタラックス(Ultraturrax T25))を用いて、24,000rpm、1時間撹拌分散させ、ついで表1記載量の天然ゴムラテックス(ゴールデン・ホープ・プランテーションズ社製、HYTEX-HA、固形分濃度60質量%)を添加し、さらに30分撹拌分散させた。得られた混合液にさらに5%ギ酸水溶液で凝固し、水洗後、40℃の加熱オーブン中で乾燥させることでマスターバッチ1を得た。
【0064】
マスターバッチ2の調製
ミクロフィブリル化植物繊維2を用いた以外は、マスターバッチ1の調製と同様の方法で調製した。
【0065】
マスターバッチ3の調製
ミクロフィブリル化植物繊維を使用せず、マスターバッチ1の調製で使用した固形分濃度60質量%の天然ゴムラテックス250gを5%ギ酸水溶液で凝固し、水洗後、40℃の加熱オーブン中で乾燥させることでマスターバッチ3を得た。
【0066】
前記マスターバッチ1〜3におけるミクロフィブリル化植物繊維、水、及び天然ゴムラテックスの配合量を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
<加硫ゴム組成物の調製>
表2の配合に従い、各種マスターバッチと配合剤を60℃、24rpmの条件で6インチオープンロールにより5分間混練した後、150℃でプレス加熱することで実施例1、比較例1、及び参考例1に対応する加硫ゴム組成物を得た。
【0069】
加硫ゴム組成物を調製する際に用いた各配合成分の詳細を以下に示す。
【0070】
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
ステアリン酸:ビーズステアリン酸つばき(日本油脂(株)製)
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(三井金属鉱業(株)製)
硫黄:粉末硫黄(鶴見化学工業(株)製)
加硫促進剤:ノクセラーDM(大内新興化学工業(株)製)
【0071】
【表2】

【0072】
<物性評価>
上記の方法で作製した加硫ゴム組成物を用い、以下に示す評価を行った。なお、表3に示す特性データ中の引張強度指数、破断伸び指数、破壊エネルギー指数、転がり抵抗指数については、参考例1を基準配合とし、下記記載の計算式で算出した。
【0073】
(引張試験)
JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、破断応力及び破断伸びを測定した。下記の計算式、
引張強度指数=(各配合の破断応力)÷(基準配合の破断応力)×100
破断伸び指数=(各配合の破断伸び)÷(基準配合の破断伸び)×100
破壊エネルギー指数=(各配合の破断応力×破断伸び÷2)÷(基準配合の破断応力×破断伸び÷2)×100
により引張強度指数、破断伸び指数、破壊エネルギー指数を算出した。指数が大きい程、加硫ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度が大きく、破壊特性に優れることを示す。
【0074】
(転がり抵抗指数)
前述の方法で調製された加硫ゴム組成物の2mmゴムスラブシートから測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、各測定用試験片のE*(複素弾性率)及びtanδ(損失正接)を測定した。下記の計算式、
転がり抵抗指数=(各配合のtanδ)÷(基準配合のtanδ)×100
により操縦安定性指数、転がり抵抗指数を算出した。
【0075】
転がり抵抗指数が小さい程、空気入りタイヤとして用いる場合に良好な転がり抵抗特性を与えることを示す。
【0076】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム成分、並びに
(B)繊維長の平均値が1〜20μm、繊維径の平均値が10μm以下、及びアスペクト比が2〜1000であるミクロフィブリル化植物繊維を含む
ゴム組成物。
【請求項2】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)が、パルプを酸で処理したのちに、機械的に解繊処理することにより得られる請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量が、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜100質量部である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
機械的な解繊処理が、磨砕処理である請求項2又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
(a)パルプと酸で処理する工程、
(b)酸処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維を調製する工程、
(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維を分散させる工程、及び
(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させる工程
を含む
ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
工程(a)における酸が、塩酸、硫酸、酢酸、及びギ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
工程(a)における酸の添加量が、パルプ100質量部に対して、5〜100質量部である請求項5又は6に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
工程(a)における酸処理後、さらに水洗する工程を含む請求項5〜7のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
工程(b)における機械的な解繊処理が、磨砕処理である請求項5〜8のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
タイヤ用に用いられる請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
請求項1〜4、及び10のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−231208(P2011−231208A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102156(P2010−102156)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】