説明

ゴム組成物

【課題】加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)と同等以上の加硫遅延効果を有する加硫促進剤を用いて、スチールコード等の金属との接着性に優れたゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤から選ばれる少なくとも1種0.1〜10質量部とを含有してなることを特徴とするゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤を含有したゴム組成物、特に、タイヤや工業用ベルト等のゴム製品に用いられるスチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆した複合材料が用いられている。
このゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮し信頼性を得るためには、ゴム−金属補強材間に安定した経時変化の少ない接着が必要である。
【0003】
また、ゴムと金属を接着する場合、ゴムと金属の結合を同時に行う方法、即ち、直接加硫接着法が知られているが、この場合、ゴムの加硫とゴムと金属の結合を同時に行う上で、加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有用とされている。
【0004】
現在、市販されているスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として、例えば、下記式で表されるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(以下、「DCBS」と略す)が知られている。
【化4】

また、このDCBSの加硫反応の遅効性よりも更に遅効性が必要な場合は、スルフェンアミド系加硫促進剤とは別に、加硫遅延剤を併用することが行われている。なお、市販されている代表的な加硫遅延剤としては、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(以下、「CTP」と略す)が知られているが、このCTPをゴムに多量に配合すると、加硫ゴムの物理的物性に悪影響を及ぼし、かつ、加硫ゴムの外観の悪化及び接着性に悪影響を及ぼすブルーミングの原因になることは既に知られている。
【0005】
更に、上記DCBS以外のスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、特定式で表されるビススルフェンアミド(例えば、特許文献1参照)や、天然油脂由来のアミンを原料としたベンゾチアゾルリルスルフェンアミド系加硫促進剤(例えば、特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、これらの特許文献1及び2に記載されるスルフェンアミド系加硫促進剤には、ゴム物性のみの記載であり、接着性能についての記載や示唆はないものであり、しかも、本発明のスルフェンアミド化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができることについては全く記載も示唆もないものである。
【0006】
更にまた、本発明の中に用いられるスルフェンアミド化合物のいくつかの製法に関しては、例えば、特許文献3、4及び5に知られているが、これらの化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができること、及びこの促進剤がもたらすスチールコードとの接着性能については全く記載も示唆もないものである。
【特許文献1】特開2005−139082号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2005−139239号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】EP0314663A1公開公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】英国特許第1177790号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特公昭48−11214号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、DCBSと同等以上の加硫遅延効果を有する加硫促進剤を用いて、ゴムやけの発生が格段に少ないゴム組成物を提供すること、及びスチールコード等の金属との接着性に優れたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることにより、上記目的のゴム組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(6)に存する。
(1) ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、下記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤から選ばれる少なくとも1種0.1〜10質量部とを含有してなることを特徴とするゴム組成物。
【化5】

【化6】

【化7】

(2) 更に、コバルト化合物を含有する上記(1)に記載のゴム組成物。
(3) コバルト化合物の含有量がコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部である上記(2)に記載のゴム組成物。
(4) コバルト化合物が、有機酸のコバルト塩である上記(2)又は(3)に記載のゴム組成物。
(6) ゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む上記(1)〜(5)の何れか一つに記載のゴム組成物。
(7) ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる上記(1)〜(6)の何れか一つに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として知られるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドと同等以上の加硫遅延効果を有するゴム用に好適な新規な加硫促進剤を含有するものであり、タイヤや工業用ベルト等のゴム製品に用いられるスチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れると共に、ゴムやけの発生が格段に少ないゴム組成物が得られるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、下記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤から選ばれる少なくとも1種0.1〜10質量部とを含有してなることを特徴とするものである。
【化8】

【化9】

【化10】

【0012】
本発明に用いるゴム成分としては、タイヤや工業用ベルト等のゴム製品に用いられるゴムであれば特に限定されず、主鎖に二重結合があるゴム成分であれば硫黄架橋可能であるため、上記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤が機能するものであり、例えば、天然ゴム及び/又はジエン合成系ゴムが用いられる。具体的には、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の少なくとも1種を使用することができる。
好ましくは、スチールコード等の金属補強材への接着性の点から、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含むことが好ましく、更に、ベルトゴムの耐久性の点から、ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を上記の少なくとも1種の合成ゴムよりなることが望ましい。
【0013】
本発明の上記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤は、加硫促進剤として用いること自身今まで報告されておらず、本発明で初めて加硫促進剤として用いられるものであり、かつ、従来のスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として知られるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド以上の加硫遅延効果を有しながら十分な加硫促進能力を両立するものであり、しかも、スチールコード等の金属補強材との直接加硫接着における接着耐久性に優れている。そのため、肉厚のゴム製品や、スチールコード等の金属補強材との直接加硫接着における接着耐久性に優れたコーティング用等のゴム組成物に好適に使用することができる。
【0014】
本発明において、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜Rの内、並びに、上記一般式(II)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜R15の内、少なくとも一つ〔上記一般式(I)では、1個〜5個、上記一般式(II)では1個〜10個〕は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基を表し、他(残り)〔R〜R、並びに、R〜R15の全てが炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基でない場合〕は水素原子であり(確認事項の文章は削除しました)、これらは同一であっても、異なっていてもよく、このR〜R、並びに、R〜R15の少なくとも一つが炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であれば、一般式(I)又は(II)で表される化合物の加硫促進性能が良好であると共に、接着性能を高めることができる。
また、上記一般式(III)で表されるスルフェンアミド化合物中のR16は、置換基を有する直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であり、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基は炭素数1〜12であり、置換基は上記式で表されるものであり、このR16が上記置換直鎖アルキル基又は上記置換分岐アルキル基であれば、一般式(III)で表される化合物の加硫促進性能が良好であると共に、接着性能を高めることができる。
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜R、並びに、上記一般式(II)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜R15における炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、トリイソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基(イソペンチル基)、ネオペンチル基、tert−アミル基(tert−ペンチル基)、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基などが挙げられる。これらの中でも、十分に長いスコーチタイムが得られるなどの効果の点から、R〜R、並びに、R〜R15は炭素素数1〜4の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であるものが好ましく、更に好ましくは、R,R、及び、R, R, R10,R11が炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であることが望ましい。
【0015】
また、上記一般式(III)で表されるスルフェンアミド化合物中のR16における置換基を有する炭素数は1〜12の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基で表される具体例としては、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、トリイソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基(イソペンチル基)、ネオペンチル基、tert−アミル基(tert−ペンチル基)、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基などが挙げられ、また、置換基が上記式で表される具体例としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。これらの中でも、十分に長いスコーチタイムが得られるなどの効果の点から、置換直鎖アルキル基又は置換分岐アルキル基では、炭素数1〜4であるものが好ましく、また、置換基が上記式で表されるものでは、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基が好ましく、更に好ましくは、フェニル基が望ましい。
更に、上記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド化合物中のnは、0〜5の整数、好ましくは、0又は1の整数を表し、合成のし易さや原材料コストなどの効果の点から、nは、0であるものが望ましい。
【0016】
なお、上記一般式(I)及び(II)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜R、並びに、R〜R15の内、全てが水素原子又は炭素数が8を超える直鎖又は分岐アルキル基である場合、また、上記一般式(III)で表されるスルフェンアミド化合物中のR16が炭素数1〜12の直鎖アルキル基又は水素原子である場合、及び、置換基を有する炭素数1〜12の直鎖アルキル基の置換基で置換基中のnが6以上の場合には、本発明の目的の効果を発揮することが少なく、ムーニースコーチタイムが早くなるため焦げやすくなり加工性が悪化したり、若しくは、接着性が低下したり、または、加硫性能やゴム性能が低下したりすることがある。
【0017】
本発明において、上記一般式(I)で表される化合物の代表例としては、N−2,6−ジメチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジエチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジイソプロピルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジtert-ブチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドなどが挙げられ、
上記一般式(II)で表される化合物の代表例としては、N−2−メチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−3,3,5−トリメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジtert−ブチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,2,6,6−テトラメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,2,6,6−テトラエチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドなどが挙げられ、
上記一般式(III)で表される化合物の代表例としては、N−2,2―ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−1,2−ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,2―ジフェニルプロピル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−1,2−ジフェニルプロピル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド等が挙げられる。
これらの化合物は、単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
好ましくは、更なる接着性能の点から、N−2,6−ジメチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,6−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2−メチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−3,3,5−トリメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−2,2―ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N−1,2−ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド等を用いることが望ましい。
また、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(CBS)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)などの汎用の加硫促進剤と組み合わせて使用することも可能である。
【0018】
本発明の上記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド化合物の好ましい製造方法としては、下記方法を挙げることができる。
上記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド化合物では、対応するアミンと次亜塩素酸ソーダの反応によりあらかじめ調製したN−クロロアミンとビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィドを、アミンおよび塩基存在下、適切な溶媒中で反応させる。塩基としてアミンを用いた場合は、中和を行い、遊離のアミンに戻した後、得られた反応混合物の性状に従って、ろ過、水洗、濃縮、再結晶など適切な後処理をおこなうと、目的とするスルフェンアミドが得られる。
本製造方法に用いる塩基としては,過剰量用いた原料アミン,トリエチルアミンなどの3級アミン、水酸化アルカリ,炭酸アルカリ、重炭酸アルカリ、ナトリウムアルコキシドなどが挙げられる。特に、過剰の原料アミンを塩基として用いたり、3級アミンであるトリエチルアミンを用いて反応を行い、水酸化ナトリウムで生成した塩酸塩を中和し、目的物を取り出した後、ろ液からアミンを再利用する方法が望ましい。
本製造方法に用いる溶媒としては、アルコールが望ましく、特にメタノールが望ましい。
【0019】
例えば、N−2,6−ジメチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドでは、N−2,6-ジメチルフェニルアミンに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド、N−2,6-ジメチルフェニルアミンおよび前述の油層を、メタノ−ルに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とする上記化合物を得ることができる。
また、N−2−メチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドでは、N−2−メチルシクロヘキシルアミンに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド、N−2−メチルシクロヘキシルアミンおよび前述の油層を、メタノ−ルに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とする上記化合物を得ることができる。
更に、N−2,2―ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドでは、N−2,2―ジフェニルエチルアミンに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド、N−2,2―ジフェニルエチルアミンおよび前述の油層を、メタノ−ルに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とする上記化合物を得ることができる。
【0020】
これらのスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、0.5〜5.0質量部、更に好ましくは、0.8〜2.5質量部とすることが望ましい。
この加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ブルームが問題となり、好ましくない。
【0021】
本発明に用いる硫黄は、加硫剤となるものであり、その含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3〜10質量部、好ましくは、1.0〜7.0質量部、更に好ましくは、3.0〜7.0質量部とすることが望ましい。
この硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ゴムの老化性能が低下し、好ましくない。
【0022】
更に、本発明のゴム組成物には、初期接着性能の向上の点から、コバルト化合物を含有せしめることが好ましい。
用いることができるコバルト化合物としては、有機酸のコバルト塩、無機酸のコバルト塩である塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトの少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは、更なる初期接着性能の向上の点から、有機酸のコバルト塩が望ましい。
用いることができる有機酸のコバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等の少なくとも1種を挙げることができ、また、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよく、具体的には、市販のOMG社製の商品名「マノボンド」等も用いることができる。
これらのコバルト化合物の含有量は、コバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部、好ましくは、0.03〜1質量部、更に好ましくは、0.05〜0.7質量部とすることが望ましい。
このコバルト化合物(コバルト量)の含有量が0.03質量部未満では、更なる接着性を発揮することができず、一方、3質量部を越えると、老化物性が大きく低下し、好ましくない。
【0023】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、加硫促進剤、コバルト化合物の他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で用いることができ、例えば、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、軟化剤、老化防止剤などを用途に応じて適宜配合することができる。
【0024】
本発明のゴム組成物は、上記各成分を、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー等により混練りすることにより製造することができ、乗用車、トラック、バス、二輪車用等のタイヤのトレッド、ホース、ベルトコンベアなどの肉厚のゴム製品、ゴムと金属との直接加硫接着するゴム製品などに好適に使用できる。
本発明のゴム組成物では、自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品、具体的には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆したゴム−金属複合材料用に好適に適用することができる。
【0025】
このように構成される本発明のゴム組成物では、スルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として知られるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドと同等以上の加硫遅延効果を有する新規な加硫促進剤を含有することとなるので、加硫ゴムの物性低下、ブルーミングなどの問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、スチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れたゴム組成物が得られるものとなる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の加硫促進剤の製造例、並びに、本発明のゴム組成物の実施例及び比較例に基づいて更に詳述するが、本発明は、これらの製造例、実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
〔製造例1:N−2,6−ジメチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミン0.162molに12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液148gを0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド0.120mol、N−2,6−ジメチルフェニルアミン0.240mmolおよび前述の油層を、メタノ−ル120mlに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウム0.166molで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とするN−2,6−ジメチルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0028】
〔製造例2:N−2,6−ジイソプロピルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミンの代わりにN−2,6−ジイソプロピルフェニルアミン0.162molを用いて製造例1と同様に行い、N−2,6−ジイソプロピルフェニル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0029】
〔製造例3:N−2−メチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミンの代わりにN−2−メチルシクロヘキシルアミン0.162molを用いて製造例1と同様に行い、N−2−メチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0030】
〔製造例4:N−3,3,5−トリメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミンの代わりにN−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン0.162molを用いて製造例1と同様に行い、N−3,3,5−トリメチルシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0031】
〔製造例5:N−2,2―ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミンの代わりにN−2,2―ジフェニルエチルアミン0.162molを用いて製造例1と同様に行い、N−2,2―ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0032】
〔製造例6:N−1,2−ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−2,6−ジメチルフェニルアミンの代わりにN−1,2−ジフェニルエチルアミン0.162molを用いて製造例1と同様に行い、N−1,2−ジフェニルエチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0033】
〔実施例1〜6及び比較例1〜2〕
上記製造例で得た加硫促進剤等を用いて下記表1及び表2に示す配合処方のゴム組成物を常法にて混練した。
得られた各ゴム組成物について、下記方法で未加硫物性となるムーニー粘度、ムーニースコーチタイムを測定し、作業性について評価した。
また、得られた各ゴム組成物を下記方法で接着性試験を行った。
これらの結果を下記表1及び表2に示す。
【0034】
(ムーニー粘度、ムーニースコーチタイムの評価方法)
JIS K 6300−1:2001に準拠して行った。
なお、評価は、比較例1の値を100として指数表示した。ムーニー粘度は、値が小さいほど作業性が良好であることを示し、ムーニースコーチタイムは、値が大きい程、作業性が良好であることを示す。
【0035】
〔接着性試験方法〕
黄銅めっき(Cu:63wt%、Zu:37wt%)したスチールコード(外径0.5mm×長さ300mm)3本を10mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングして、これを160℃、20分間の条件で加硫し、サンプルを作製した。
得られた各サンプルの接着性について、ASTM−D−2229に準拠して、各サンプルに対してスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示し、接着性の指標とした。耐熱接着性は、各アンプルを100℃のギヤオーブンに15日、30日間放置した後に、上記試験法にて、スチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示し、各熱接着性の指標とした。数値が大きい程、耐熱接着性に優れていることを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
上記表1及び表2の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜6は、本発明の範囲外となる比較例1〜2に較べて、作業性に優れ、耐熱接着性に優れていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のゴム組成物では、乗用車、トラック、バス、二輪車用等のタイヤのトレッド、ホース、ベルトコンベアなどの肉厚のゴム製品や、ゴムと金属との直接加硫接着するゴム製品などに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、下記一般式(I)〜(III)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤から選ばれる少なくとも1種0.1〜10質量部とを含有してなることを特徴とするゴム組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
更に、コバルト化合物を含有する請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
コバルト化合物の含有量がコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
コバルト化合物が、有機酸のコバルト塩である請求項2又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む請求項1〜4の何れか一つに記載のゴム組成物。
【請求項6】
ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる請求項1〜5の何れか一つに記載のゴム組成物。

【公開番号】特開2009−215515(P2009−215515A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63565(P2008−63565)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】