説明

ゴム補強用海島繊維

【課題】高物性でありながら接着性に優れたゴム補強用海島繊維を提供すること。
【解決手段】島成分がポリエステル、海成分がポリアミドにより構成されている海島繊維であって、島成分からなる島の数が100以上、全体重量に対する島成分の重量比率が60重量%以上であることを特徴とするゴム補強用海島繊維。さらには、島成分を構成するポリエステルがポリエチレンナフタレートであることや、海成分を構成するポリアミドが脂肪族ポリアミドであることが好ましい。また、海島繊維の表面にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤が付着していることや、海島繊維が複合紡糸繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用海島繊維に関し、さらに詳しくはゴム繊維複合体に好適に用いられる、高接着性、高物性のゴム補強用海島繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム補強用繊維として、ポリエチレンナフタレートやポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維は、高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしたタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用繊維として使用されている。
【0003】
しかし、ポリエステル繊維は疎水性が高く、ポリマー表面の化学的活性が低いため、ゴムとの接着性が低い問題点を有する。また、ポリエステル繊維は、ポリマーの化学的特長からアミン存在下で高温にさらされた場合、エステル結合が解離し、強力が劣化する傾向にあることが知られている。ゴム補強用繊維の場合、ゴム中添加剤であるアミンによりポリエステル繊維表面が劣化するアミノリシスにより、接着が劣化しやすいのである。
【0004】
そこで特許文献1では、分散層がエチレンナフタレート系ポリマー、連続層がビニルアルコール(PVA)系ポリマーにより構成されたゴム補強用の芯鞘型複合繊維が提案されている。連続層をビニルアルコール系ポリマーで構成することによりゴムとの接着性を高めることが出来るのである。
しかし、鞘部に用いられたビニルアルコール系繊維は高温になると弾性率が低下する傾向にあり、温度条件による弾性率のバラツキが大きくなりがちであり、耐熱性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、高物性でありながら接着性に優れたゴム補強用海島繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のゴム補強用海島繊維は、島成分がポリエステル、海成分がポリアミドにより構成されている海島繊維であって、島成分からなる島の数が100以上、全体重量に対する島成分の重量比率が60重量%以上であることを特徴とする。
【0008】
さらには、島成分を構成するポリエステルがポリエチレンナフタレートであることや、海成分を構成するポリアミドが脂肪族ポリアミドであることが好ましい。また、海島繊維の表面にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤が付着していることや、島成分の直径が300〜1000nmの範囲であること、海島繊維が複合紡糸繊維であることが好ましい。そして海島繊維が長繊維フィラメントであることや、海島繊維が長さ50mm以下の短繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、高物性でありながら接着性に優れたゴム補強用海島繊維が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のゴム補強用海島繊維は、島成分がポリエステル、海成分がポリアミドにより構成されている海島繊維である。ここで島成分に用いられるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを例示することが出来る。中でもポリエステル成分としては、ポリエチレンナフタレートであることが好ましい。このような島成分は、高弾性、低収縮特性を有し、初期弾性率や寸法安定性などの物性に優れ、ゴム補強用途に極めて有効な物性となる。
【0011】
また海成分に用いられるポリアミドとしては、さらには脂肪族ポリアミドであることが好ましく、より具体的にはナイロン6、またはより高強力な物性を有するナイロン6,6であることが好ましい。このようなポリアミド繊維は初期弾性率や寸法安定性などの物性こそ若干島成分のポリエステルより劣るものの、合成繊維の中では十分に高い物性を有するものであり、かつ表面の化学的活性が高く、優れたゴム中接着力を発揮しうる。またゴム中での強力劣化も生じにくく、高い接着安定性を有し、島成分のポリエステルの強力劣化をも有効に防止する。
【0012】
さらに本発明のゴム補強用海島繊維は、ポリエステル島成分からなる島の数が100以上、繊維の全体重量に対する島成分の重量比率が60重量%以上であることを必須とする。通常、海島繊維の島の数を大きくすると生産が不安定になりやすいために、島成分の比率を減少させ、海成分の比率を増やすことにより、安定した生産性を確保することが一般的であるが、本発明ではあえて島成分を増やすことにより、補強用繊維としての物性を有効に向上させたものとなった。
【0013】
島成分の島の数としては100以上、さらには400〜1000の範囲であることが好ましい。このように島の数が多くなることにより、海島各成分の接触面積が増加し、また各界面の面積が小さくなることにより一旦剥離が生じても他の部分に剥離現象が伝播せず、海島繊維の各成分の剥離を有効に防止することが出来るようになった。また各成分の剥離が生じないために海島繊維の表面には海成分であるポリアミド成分が存在することとなり、強いゴムとの接着力を保つとともに、島成分のポリエステルの劣化を防止している。
【0014】
島成分数が少なすぎる場合には、各成分の界面において外力により界面剥離が発生し、本発明の目的を達成することができない。逆に、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体が低下しやすくなる傾向にある。
【0015】
また本発明の海島繊維の全体重量に対する島成分の重量比率は、60重量%以上であることが必須であり、さらには、島成分と海成分との重量比率(島:海)が65:35〜95:5の範囲であることが好ましい。このように島成分の重量比率を高めることにより、糸物性を維持する島成分と接着に寄与する海成分の比率が良好となり、接着性と糸物性の良好な両立が可能となる。海成分が40%を超える場合、島成分が少なくなるために、海島繊維の弾性率や寸法安定性が低下し、ゴム補強用繊維に適さないものとなる。逆に海成分が少なすぎる場合には、十分な接着性や耐久性が得られない傾向にある。
【0016】
このような本発明のゴム補強用海島繊維の島成分の直径としては、300〜1000nmであることが好ましい。島成分の径が細すぎる場合には、繊維構造が不安定となり易く、物性及び繊維形態が不安定になり好ましくない。一方島成分の直径が太すぎる場合には、海島構造の各成分間の界面の面積が小さくなり、界面での剥離が起こりやすい傾向にある。
【0017】
また本発明のゴム補強用海島繊維は、その単糸繊度としては2〜15dtexの範囲であることが好ましい。またゴム補強用繊維としては、その強力をより有効に活用するために海島繊維が長繊維フィラメントであることや、分散しやすく異方性を少しでも減少するよう海島繊維が長さ50mm以下、特には0.1〜20mmの短繊維であることが好ましい。
【0018】
さらには海島繊維が長繊維フィラメントである場合には、そのような海島構造の単糸が集合したマルチフィラメントであることが好ましい。マルチフィラメントの総繊度としては100〜1万dtexであることが好ましい。フィラメント数としては50〜1000本であることが好ましい。強度としては、4.0cN/dtex以上であることが、さらには4.5〜12cN/dtexの範囲であることが好ましい。初期弾性率としては70cN/dtex以上であることが、さらには75〜800cN/dtexの範囲であることが好ましい。
【0019】
さらに長繊維によってゴムを補強するばあいには、そのようなマルチフィラメントが集合したコード形態であることが好ましい。コード形態である場合には、コードの総繊度としては500〜10万dtexであることが好ましい。フィラメント数としては100〜5000本のマルチフィラメントからなることが好ましい。このようなコードは単数もしくは複数のマルチフィラメントを合糸、あるいは撚糸したものである。コードの強度としては、2〜10cN/dtexの範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明のゴム補強用海島繊維を用いたコードは、例えば海島繊維からなるマルチフィラメントにあらかじめ撚りを掛け下撚りコードとしたのちに、合糸し引き続き撚糸(上撚り)する方法により得ることが出来る。
【0021】
一方、海島繊維が短繊維である場合には、その長さは50mm以下であることが好ましく、さらには0.1〜20mmの範囲であることが好ましい。カット長が短すぎる場合には、十分な精度でのカットが困難な傾向にある。また、本発明の海島繊維の表面に接着剤が付着している場合には、その作業性から接着剤を付着させた後にカットすることが好ましい。その場合には、短すぎると接着剤が付着していない切断面の割合が多くなるため、補強効果が十分に得られない傾向にある。また、繊維長が長すぎる場合には、取り扱い中に絡まりやすくなり、ゴム中に均一に分散できないため、本来のゴム補強用海島繊維の性能を発揮しにくい傾向にある。
【0022】
この本発明のゴム補強用海島繊維は、複合紡糸繊維であることが好ましい。複合紡糸では各重合体からなる海成分や島成分が途中で途切れることなく連続した状態で互い接合しており、各成分の繊維物性が十分に活かされるばかりでなく、剥離しにくいために海成分による島成分の保護効果に優れる。ここで複合紡糸とは、多数のノズルが所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いて行うものである。
【0023】
このような本発明のゴム補強用海島繊維は、さらにその表面にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤が付着していることが好ましい。ここでRFL接着剤とは、レゾルシン・ホルマリン縮合物に対し、ゴムラテックスを添加してなるゴム・繊維間接着に汎用されている接着剤である。
【0024】
RFL接着剤に使用するゴムラテックスとしては、例えば天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン系ゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス等があり、これらを単独または併用して使用する。なかでも、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを単独使用または併用使用するのが好ましい。併用使用の場合には、全ラテックス重量の1/3量以上使用した場合に特に優れた性能を示す。
【0025】
接着剤内のレゾルシンとホルムアルデヒドのモル比としては、1:0.8〜1:5の範囲にあるものが好ましく、より好ましくは、1:1〜1:4の範囲である。ホルムアルデヒドの添加量が少なすぎるとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、接着剤層凝集力が低下することにより接着性が低下するおそれがあり、また、ホルムアルデヒドの添加量が多すぎると架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体ゴムとの共加硫時にRFLとゴムとの相溶化が阻害され、接着性が低下すると共に処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する問題が出てくるので好ましくない。
【0026】
接着剤におけるレゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの配合比率は、固形分量比で、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックスが1:3〜1:20の範囲にあるものが好ましく、特には1:5〜1:15の範囲にあるものが好ましい。ゴムラテックスの比率が少なすぎると処理された海島繊維が硬くなって耐疲労性が低下しやすくなり、また、被着体であるゴムとの共加硫が不十分となり、接着性が低くなるおそれがあり、逆に、該ゴムラテックスの比率が多すぎると接着剤皮膜として充分な強度を得ることが出来ないため、満足な接着力やゴム付着率が得られないおそれがあるだけで無く、処理繊維の粘着性が著しく高くなりディップ処理工程の汚れや、製品製造工程での汚れの原因となり、好ましくない。
【0027】
また、RFL接着剤に対しては、架橋剤を添加しても良い。架橋剤として、アミン、エチレン尿素、ブロックポリイソシアネート化合物などが例示されるが、処理剤の経時安定性、環境への影響などを踏まえ、ブロックドポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。
【0028】
上記ブロックドポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じるものである。
【0029】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフエニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート、あるいはこれらポリイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(−NCO)とヒドロキシル基(−OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリオールアダクトポリイソシアネート等が挙げられる。特にトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフエニルイソシアネートの如き芳香族ポリイソシアネートが優れた性能を発現するので好ましい。
【0030】
ブロックドポリイソシアネート化合物のブロック化剤としては、例えばフェノール,チオフェノール,クレゾール,レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類,フタル酸イミド類、カプロラクタム,バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等がある。
【0031】
接着剤におけるブロックドポリイソシアネート化合物の添加率は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)固形分に対して0.5〜40重量%、好ましくは、10〜30重量%の範囲であるものが好ましい。添加量が、上記範囲を下回るとRFLの凝集エネルギーを十分なレベルに向上させることが出来なくなり、良好な接着力が得られない傾向にある。また、添加量が上記範囲を超えると、処理剤のゴムに対する相容性が低下し、ゴムとの接着力が低下すると共に、処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する傾向にある。
【0032】
また、本発明のゴム補強用海島繊維は、RFL接着剤を処理する前に、あらかじめエポキシ化合物、イソシアネート化合物とゴムラテックスを主成分とする前処理剤にて処理されたものであることも好ましい。いわゆる二浴処理法を用いて得られたものである。
【0033】
このような好適に用いられる前処理剤は、マトリックス成分としてポリエポキシド化合物および/またはブロックドイソシアネート化合物を含有するものであることが好ましい。さらに加えてゴムラテックスを含有していると、被着体であるゴムとの共加硫がおこりやすく、剥離テスト時に高いゴム付きが実現されるため好ましい。
【0034】
上記ポリエポキシド化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を該化合物1kg当り2g当量以上含有する化合物が好ましい。具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ピス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特に多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。
【0035】
同じく、上記ブロックドポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じるものである。より具体的には上記RFL接着剤に用いられるブロックドイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0036】
また、前処理剤に使用するゴムラテックスとしては、例えば天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン系ゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス等があり、これらを単独または併用して使用する。なかでも、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを単独使用または併用使用するのが好ましい。併用使用の場合には、全ラテックス重量の1/3量以上使用した場合に特に優れた性能を示す。
【0037】
上記、ポリエポキシド化合物、ブロックドイソシアネート化合物、ゴムラテックス成分は、通常乳化液、水分散液、あるいは水溶液として接着剤組成物に配合される。乳化液または水分散液にするには、例えばその化合物を、そのままあるいは必要に応じて少量の溶媒に溶解した後、公知の乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化または分散させればよい。
【0038】
RFL接着剤及び前処理剤は、これらの成分を水分散物として用いる際に分散剤、即ち界面活性剤を用いることが好ましい。使用する量としては、処理液の全固形分に対し、0〜15wt%、好ましくは10wt%以下であり、上記範囲を超えると接着性が低下する傾向にある。アルキレングリコールや水溶性シリコーンなどの表面張力低下剤の添加も有効であり、これらの添加により加工時の濡れ性が向上するため、低濃度で処理した場合の性能が向上する。
【0039】
本発明のゴム補強用海島繊維に対する、RFL接着剤の固形分付着量は、RFL接着剤単独で付与する場合、1.0〜20重量%の範囲が好ましい。
また、RFL接着剤に先立ち前処理剤を付与する場合、RFL接着剤の海島繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、前処理剤の海島繊維に対する固形分付着量は、1.0〜20重量%の範囲が好ましい。
【0040】
海島繊維にこれらの接着剤を付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、又は、溶液への浸漬などの手段が採用できる。さらに固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
これらの接着剤や前処理剤の付着量が少ない場合、十分な接着力が得られず、上記範囲より多い場合、後工程での接着剤脱落の原因となり、後加工性に問題を呈する。
【0041】
本発明のゴム補強用海島繊維を得るためには、このような処理剤を使用して繊維を処理した後、50℃以上で、繊維の融点より10℃以上低い温度の範囲で乾燥・熱処理することが好ましい。より好ましくは、180〜250℃の温度範囲で、0.5〜5分間、好ましくは、1〜3分間乾燥・熱処理する方法である。この乾燥・熱処理温度が、低すぎるとゴム類との接着が不十分となりやすく、また、該乾燥・熱処理温度が高すぎると繊維が溶融、融着するなどにより、著しく強度低下を起こし実用に供し得なくなる傾向にある。
【0042】
このような本発明のゴム補強用海島繊維は、島成分がポリエステル、海成分がポリアミドにより構成されている海島繊維である。そして、海成分であるポリアミドが高極性であってゴムとの接着性が良好であり、島成分であるポリエステルが高弾性、低収縮特性を有し、ゴム補強用途としては、非常に有効な物性を有する。また、特に海成分に脂肪族ポリアミド、島成分にポリエチレンナフタレートを用いた場合には、いずれも0〜150℃の温度範囲において高いtanδを示し、外力として加えられた振動が熱として放出され、振動減衰率が高く、耐久性に優れたゴム補強用の繊維となる。
【0043】
また本発明のゴム補強用海島繊維は、島成分からなる島の数が100以上、全体重量に対する島成分の重量比率が60重量%以上であるために、島成分のポリエステルが有する高弾性、低収縮の特性をよりよく発揮しうるのである。
このような本発明のゴム補強用海島繊維は、長繊維フィラメントであれば、コード以外にも織編物や組みひも状糸にして活用することが可能である。一方短繊維として用いる場合には、フェルト、不織布、紡績糸、ないしはカットファイバーの形状にて用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における特性の測定は、下記の測定法で行った。
【0045】
(1) 初期剥離接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。コードを30本/2.54cm(1inch)で引きそろえ、0.5mm厚の天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシートで挟みつける。これらのシートを、直行するように重ねあわせ、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力(初期値)で加硫し、次いで、コード方向に沿って短冊状に切り出す。作成したサンプルを短冊に沿った方のシートをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/2.54cm(1inch)で示したものである。
また、表面に残ったゴムが剥離面を被覆している面積を目視で判定し、ゴム付とした。
【0046】
(2) 耐熱接着力
加硫条件を、180℃で40分間(耐熱条件)にて行うこと以外、(1)と同様にサンプルを作成し、剥離接着力を測定し、耐熱接着力とした。
【0047】
(3)短繊維分散状態の判定
天然・SBR系未加硫ゴム1kgに対し、あらかじめ接着処理を行った所定長カットファイバーを100g添加し、加圧ニーダーにて10分間混練を行った。
該ゴム・繊維混合物をミキシングロールにて0.4mm厚にシート出しを行った。シート内の短繊維分散状態を目視で判定し、直径5mm以上の繊維集合体の数を集計し、10cm角内に10個以上存在した場合、分散不良と判断した。
【0048】
(4)短繊維補強ゴム複合体の強伸度測定用試料の作成
上記(3)の方法で作成したゴムシートは、引き出し方向に繊維が配列している。そこで方向をそろえて重ねあわせ、プレス加硫を行い、2mm厚の加硫ゴムシートを得た。繊維軸方向での引っ張り測定が出来る向きのサンプルを、ダンベル3号型にて切り出し、強伸度測定用の引張試験試料とした。
【0049】
(5)短繊維補強ゴム複合体の引張試験
あらかじめダンベル3号型に切り出した上記(4)の試験片を、評点間の伸びを直接測定できる伸び計が併設されたインストロン型引張試験機に装着する。そしてチャック間距離50mm、引張りスピード 500mm/minにて引張り試験を行い、初期弾性率および降伏点の評価を行った。
【0050】
[実施例1]
海成分としてナイロン66、島成分としてポリエチレンナフタレートを用い、島部分の直径が800nm、島の数が800、海:島の面積比率が30:70の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維をあらかじめ40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtexのコードを得た。
あらかじめ水酸化ナトリウムでアルカリ性に調整した水450gに対し、レゾルシノール11g、37%ホルマリン26gを添加し、20℃下で10時間熟成を行った。
水150gに40%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポール2518FS)を150g、40%スチレン・ブタジエンラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポールLX112)を220g添加し、均一にした。この液に前記レゾルシン、ホルマリン熟成液を添加し、RFL接着剤とした。
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記のRFL接着剤に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、230℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られた処理コードには、処理剤の固形分として、5.0重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後に前記の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1と同じく、海成分としてナイロン66、島成分としてポリエチレンナフタレートを用い、島部分の直径が800nm、島の数が800、海:島の面積比率が30:70の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維をあらかじめ40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtexのコードを得た。
水 750gに対し、ソルビトール型ポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製 デナコール EX611)10gと30%ジオクチル・スルホ琥珀酸ナトリウム(第一工業製薬株式会社製 SW−30)10gを添加し、高速攪拌を行った。これに対し、40%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポール2518FS)を200g、40%ブロックポリイソシアネート(明成化学工業株式会社製 DM6400)50gを順次添加し、前処理剤とした。
一方、あらかじめ水酸化ナトリウムでアルカリ性に調整した水450gに対し、レゾルシノール11g、37%ホルマリン26gを添加し、20℃下で10時間熟成を行った。水150gに40%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポール2518FS)を150g、40%スチレン・ブタジエンラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポールLX112)を220g添加し、均一にした。この液に前記レゾルシン、ホルマリン熟成液を添加し、RFL接着剤とした。
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の前処理剤に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、230℃の温度で1分間の熱処理を行い、続いて、RFL接着剤に浸漬した後に、170℃の温度で2分間乾燥し、引続いて、230℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られたゴム補強用コードには、処理剤の固形分として、前処理剤が2.1重量%、RFL接着剤が2.5重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後に前記の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
実施例1の海島繊維に代えて、ポリエチレンナフタレートからなる島部分の直径が650nm、島の数が1000、海:島の面積比率が40:60の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維を用いる以外、実施例1と同様の処理を行いゴム補強用海島繊維からなる処理コードを得た。評価結果を表1に併せて示す。
【0053】
[比較例1]
実施例1の海島繊維に代えて、ポリエチレンナフタレートからなる島部分の直径が3.0μm、島の数が50、海:島の面積比率が30:70の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維を用いる以外、実施例1と同様の処理を行いゴム補強用海島繊維からなる処理コードを得た。評価結果を表1に併せて示す。
【0054】
[比較例2]
実施例2の海島繊維に代えて、単独成分からなる1670dtex290フィラメントのポリエチレンナフタレート繊維を用いる以外、実施例2と同様の処理を行いゴム補強用処理コードを得た。評価結果を表1に併せて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例4]
あらかじめ水酸化ナトリウムでアルカリ性に調整した水450gに対し、レゾルシノール11g、37%ホルマリン26gを添加し、20℃下で10時間熟成を行った。
水150gに40%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポール2518FS)を150g、40%スチレン・ブタジエンラテックス(日本ゼオン株式会社製 ニッポールLX112)を220g添加し、均一にした。この液に前記レゾルシン、ホルマリン熟成液を添加し、RFL接着剤とした。
海成分としてナイロン66、島成分としてポリエチレンナフタレートを用い、島部分の直径が800nm、島の数が800、海:島の面積比率が30:70の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維を、コンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記のRFL接着剤に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、230℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られた処理コードには、RFL接着剤が固形分として、5.5重量%付着していた。
このゴム補強用海島繊維からなる処理コードを3mm長にカットし、RFL系接着剤が付着したゴム補強用海島繊維の短繊維を得た。この短繊維を用いて短繊維補強ゴム複合体を作成後、その強伸度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0057】
[実施例5]
実施例4の海島繊維に代えて、実施例1で用いたのと同じ、ポリエチレンナフタレートからなる島部分の直径が650nm、島の数が1000、海:島の面積比率が40:60の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維を用いる以外、実施例4と同様の処理を行い、RFL処理済みのゴム補強用海島繊維からなる短繊維を得た。評価結果を表2に併せて示す。
【0058】
[比較例3]
実施例4の海島繊維に代えて、比較例1で用いたのと同じ、ポリエチレンナフタレートからなる島部分の直径が3.0μm、島の数が50、海:島の面積比率が30:70の1670dtex290フィラメントの海島型複合繊維を用いる以外、実施例4と同様の処理を行い、RFL処理済みのゴム補強用海島繊維からなる短繊維を得た。評価結果を表2に併せて示す。
【0059】
[比較例4]
実施例4の海島繊維に代えて、比較例2で用いたのと同じ、単独成分からなる1670dtex290フィラメントのポリエチレンナフタレート繊維を用いる以外、実施例4と同様の処理を行い、RFL処理済みのゴム補強用短繊維を得た。評価結果を表2に併せて示す。
【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
島成分がポリエステル、海成分がポリアミドにより構成されている海島繊維であって、島成分からなる島の数が100以上、全体重量に対する島成分の重量比率が60重量%以上であることを特徴とするゴム補強用海島繊維。
【請求項2】
島成分を構成するポリエステルがポリエチレンナフタレートである請求項1記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項3】
海成分を構成するポリアミドが脂肪族ポリアミドである請求項1または2記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項4】
海島繊維の表面にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤が付着している請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項5】
島成分の直径が300〜1000nmの範囲である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項6】
海島繊維が複合紡糸繊維である請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項7】
海島繊維が長繊維フィラメントである請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用海島繊維。
【請求項8】
海島繊維が長さ50mm以下の短繊維である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用海島繊維。

【公開番号】特開2012−41645(P2012−41645A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182413(P2010−182413)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】