説明

ゴム補強用炭素材料及びその製造方法

【課題】高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム補強用炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合する工程を含むことを特徴とするゴム補強用炭素材料の製造方法である。ここで、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が10/90〜50/50の範囲内であることが好ましい。また、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)とをそれぞれ独立に造粒してから混合することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用炭素材料及び該ゴム補強用炭素材料の製造方法に関し、特には、高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム補強用炭素材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性の材料を開発する目的で、ゴム材料や樹脂材料等、様々な高分子系材料の工業化がなされているが、他方で、高分子工業の発展は、汎用材料の大量生産、大量消費をもたらし、高分子系廃棄物の処理は早急に解決すべき重要課題となっている。そして、この課題を解決するためには、高分子系材料の再利用化、リサイクル化等の技術的進展が肝要となる。例えば、ゴム材料であるタイヤは、モータリゼーションの発展と共に自動車必需部材として大量生産、大量消費がなされ、使用済みタイヤの数が膨大になっていることから、使用済みタイヤのリサイクル化・有効利用の研究が進められ、特に有用材料の回収が大きな課題となっている。例えば、特開平8−27394号公報(特許文献1)には、有機系廃棄物を酸素含有ガスと水蒸気の混合ガス中で且つ酸素当量比1以下で部分燃焼及びガス化させ、得られた可燃ガスを理論酸素量以下の酸素不足状態で1000℃以上の温度で部分燃焼させ、得られる1000℃以上の部分燃焼ガスを不活性雰囲気下で700℃以下に急冷することを特徴とするカーボンブラックの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−27394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記有機系廃棄物には、通常、炭化水素以外の物質が含まれており、これを不完全燃焼又は熱分解して得られる炭化物は、炭化水素の不完全燃焼又は熱分解によって得られる炭化物(即ち、本来の意味でのカーボンブラック)と異なり、ゴム配合時にゴム組成物に対して十分な補強効果が発揮できず、従って、高分子系廃棄物から元来持っている価値を回収して有効利用することについては依然として改良の余地があるのが現状である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高分子系廃棄物を有効利用することが可能なゴム補強用炭素材料の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果が十分に発揮できるゴム補強用炭素材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物をカーボンブラックと混合することで、従来ではゴムへの補強性能が低いといわれている高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果が十分に発揮できるゴム補強用炭素材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法においては、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることが好ましく、10/90〜50/50の範囲内であることが更に好ましい。この場合、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、純カーボンブラックの場合と同等なゴム物性を確保することができる。なお、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)において、炭化物(A)の割合が1質量%を下回った場合にはカーボンブラック(B)単独配合時との差異が明確とならず、逆に炭化物(A)の割合が50%を上回った場合ではカーボンブラック(B)単独配合時でのゴム物性との差異が5%以上低下するおそれがあるので好ましくない。
【0009】
更に、本発明のゴム補強用炭素材料の他の製造方法においては、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)とをそれぞれ独立に造粒してから混合することが好ましい。この場合、上記炭化物(A)とカーボンブラック(B)を混合してから造粒することによって得たゴム補強用炭素材料と比較して、ゴム組成物の引張応力を向上させることができる。
【0010】
また、本発明のゴム補強用炭素材料は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)とカーボンブラック(B)とからなる。
【0011】
本発明のゴム補強用炭素材料においては、前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることが好ましく、10/90〜50/50の範囲内であることが更に好ましい。この場合、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、純カーボンブラックの場合と同等なゴム物性を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物をカーボンブラックと混合することで、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果が十分に発揮できるゴム補強用炭素材料を提供することができる。従って、高分子系廃棄物を有効利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】炭化物(A)の製造に用いた熱分解装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合する工程を含むことを特徴とする。本発明の製造方法によって得られる炭素材料は、高分子系廃棄物から得られる炭化物(A)と共に、カーボンブラック(B)を含んでいるため、ゴムの物性低下を軽減し、ゴムに対する補強効果を十分に奏することができる。従って、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物をゴム補強材として確実に利用するためには、カーボンブラックと混合することが必要である。なお、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合には、例えば、容器回転式、機械攪拌式、気流式等の混合機が使用される。
【0015】
本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法においては、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合比を制御することで、加硫特性、補強性等において純カーボンブラック単独配合時と比較しても遜色ない物性を確保することができる。本発明者らが炭化物(A)及びカーボンブラック(B)の混合比について最適化を試みたところ、補強効果の向上及びその他のゴム物性低下の軽減の観点から、上記炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)は1/99〜50/50の範囲内であることが好ましく、10/90〜50/50の範囲内であることが更に好ましい。
【0016】
また、本発明の製造方法によって得られるゴム補強用炭素材料は、ゴム組成物中に配合するため、通常、カーボンブラックと同様に造粒してから使用される。ここで、本発明者らが更に検討したところ、造粒工程と混合工程の順番により、結果として得られるゴム補強用炭素材料のゴム物性に与える影響が異なることを見出した。具体的には、上記炭化物(A)と上記カーボンブラック(B)とをそれぞれ独立に造粒してから混合することで、即ち、混合工程より前に造粒工程を行うことにより、混合工程の後に造粒工程を行うことで得たゴム補強用炭素材料と比較して、ゴム組成物の引張応力を向上させることができる。なお、造粒法としては、水又はその他の液体を利用して造粒する湿式法及び媒体を使用しない乾式法のいずれも採用することができる。なお、造粒機及び乾燥機としては、カーボンブラックの造粒及び乾燥に通常使用されるものを用いることができ、具体例としては、転動式造粒機等の造粒機、及び回転乾燥機、気流乾燥機、流動乾燥機、トンネル乾燥機等の乾燥機が挙げられる。
【0017】
本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法において、炭化物(A)は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物であり、高分子系廃棄物を原料とした熱分解反応又は不完全燃焼反応によって原料中のガス体及び液状成分を放出した後に、生成されて残った固体を指し、灰分として無機物を含むこともある。高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼には、特に限定されず、各種熱分解法及び不完全燃焼法を採用することができる。例えば、熱分解炉内に高分子系廃棄物を収容し、該熱分解炉内に加熱された無酸素ガスを供給することで、高分子系廃棄物を熱分解させることができる。ここで、無酸素ガスは、酸素及び酸化物以外のガス体であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、水素、メタン、プロパン等の可燃性ガス等が挙げられる。また、熱分解炉は、特に限定されるものではないが、例えば、釜式熱分解炉、流動床式熱分解炉、キルン式熱分解炉等が使用される。
【0018】
なお、高分子系廃棄物は、主として有機系廃棄物を指し、具体的には、タイヤ廃棄物(例えば、スピュー、バフ粉、4〜32分割されたタイヤ)等のゴム材料廃棄物や、炭化水素モノマーの(共)重合反応により得られた高分子材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエン共重合体等、炭化水素モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、炭化水素モノマーのハロゲン誘導体の(共)重合体、例えばポリ塩化ビニル等の樹脂材料廃棄物が挙げられる。また、タイヤ廃棄物を熱分解処理した後の残渣には、スチールコードやワイヤ等が炭化物と混在している。
【0019】
また、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼においては、処理温度を300〜600℃の範囲に制御するのが好ましい。該処理温度が上記特定した範囲内にあれば、高分子系廃棄物が安定で且つ連続的な熱分解又は不完全燃焼を行うことができる。該処理温度が300℃未満では、熱分解反応又は不完全燃焼反応が十分に進行せず、これによって、分解されるべき成分が完全に除去されない炭化物を生成するおそれがあり、他方、600℃を超えると、生成した炭化物と反応系中に存在する他の成分との間で望ましくない二次反応や賦活反応が起こり、多孔性でゴムへの補強効果に悪影響を及ぼし得る炭化物を生成するおそれがある。
【0020】
上記高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)は、例えば、タイヤ廃棄物を用いた場合、タイヤの骨材であるスチールコードやワイヤ等と混在しているため、磁石、ふるい等を用いてスチールコードやワイヤ等と分離させて用いることが好ましい。また、上記炭化物(A)は、上述の通り、ゴム補強用炭化物の製造過程で造粒されることになるが、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物は、炭化の過程で凝集した塊状部分と粉末状部分とからなる。従って、例えば、粉砕機等を用いた粉砕工程によって炭化物を微細に壊砕することが好ましい。
【0021】
本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法において、カーボンブラック(B)は、厳密な温度、各種パラメータをコントロールした条件下で行われる炭化水素の熱分解又は不完全燃焼によって得られる約純粋な元素状炭素である。ここで、カーボンブラック(B)の製造方法としては、特に限定されず、熱分解法、不完然燃焼法といった通常のカーボンブラックの製法を採用することができる。また、カーボンブラック(B)の原料としては、通常、ガス又は液状の炭化水素が使用され、ガソリン又はエチレンへの接触分解時に得られる石油系重質油、または石炭の乾留によるコークス生産に伴うクレオソート油等の石炭系重質油が主に用いられる。
【0022】
なお、本発明のゴム補強用炭素材料の製造方法において、上記炭化物(A)と上記カーボンブラック(B)とをそれぞれ独立に造粒してから混合する場合、該カーボンブラック(B)には、市販のカーボンブラックを使用することができる。また、混合工程より前に造粒工程を行うことによって得たゴム補強用炭素材料は、補強効果の他、ゴム組成物の引張応力を向上でき、トレッド面等のタイヤ部材用のゴム組成物に好適である。従って、かかるタイヤ部材への適用の観点から、カーボンブラック(B)としては、GPF、FEF、HAF−LS、HAF、HAF−HS、ISAF、SAFグレードのものが特に好ましい
【0023】
次に、本発明のゴム補強用炭素材料を詳細に説明する。本発明のゴム補強用炭素材料は、高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)とカーボンブラック(B)とからなることを特徴とし、上述の製造方法によって製造できる。なお、本発明のゴム補強用炭素材料は、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果を十分に発揮することができる。
【0024】
上述の通り、炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合比を制御することで、ゴムに対する補強効果を向上させたり、その他のゴム物性を純カーボンブラックの場合と同程度に確保することができる。従って、本発明のゴム補強用炭素材料においては、上記炭化物(A)と上記カーボンブラック(B)との質量比(A/B)が1/99〜50/50の範囲内であることが好ましく、10/90〜50/50の範囲内であることが更に好ましい。
【0025】
また、本発明のゴム補強用炭素材料は、ゴム組成物中に配合されるカーボンブラック等のゴム補強用充填剤に代えて使用される観点から、該ゴム補強用充填剤の粒径程度に細かいことが好ましく、平均粒子径が50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
次に、本発明のゴム補強用炭素材料を配合してなるゴム組成物及びそれを用いたタイヤについて詳細に説明する。上記ゴム組成物は、上述の炭素材料を配合してなることを特徴とする。該ゴム組成物には、例えば、上記ゴム補強用炭素材料及びゴム成分の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、充填剤、軟化剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、上記ゴム組成物は、ゴム成分に、上記ゴム補強用炭素材料と共に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより調製することができる。
【0027】
なお、上記ゴム成分には、特に制限はなく、天然ゴム(NR)の他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムを使用することができ、これらゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0028】
一方、上記タイヤは、上述のゴム組成物を用いたことを特徴とし、高分子系廃棄物から得られる炭化物が利用されているにもかかわらず、補強性を十分に確保しつつ、タイヤの物性低下を軽減することができる。なお、該タイヤは、上述のゴム組成物を用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(炭化物(A)の製造)
図1に示す熱分解装置を用いて、廃トラック用タイヤから炭化物を回収した。
なお、図1に示す熱分解装置は、炭化物(A)の製造に好適な熱分解装置であり、無酸素ガスを加熱するための熱交換器1と、内部に高分子系廃棄物6を収容する熱分解炉2及び該熱分解炉2を外部から加熱する外部加熱手段8を有し、該高分子系廃棄物6を熱交換器1で加熱した無酸素ガスと直接接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための分解装置7と、分解装置7で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置5と、油分回収装置5で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして熱交換器1に供給するための循環路4と、熱交換器1に無酸素ガスを供給するための無酸素ガス供給源3とを備える。また、図1に示す熱分解装置は、無酸素ガス供給源3から無酸素ガスを供給するために無酸素ガス供給源3と熱交換器1とを接続する配管中に、流量計9、ダンパ10及び送風機11を備え、油分回収装置5で回収した後の残ガスを無酸素ガスとして熱交換器1に循環させるための循環路4中に、流量計9、ダンパ10、送風機11及び熱風炉14を備える。更に、図1に示す油分回収装置5は、回収される油分をその沸点に応じて分けるため、複数の乾留搭12a,12bを備え、ここで、各乾留塔12は、その下部で配管を通して回収タンク13に接続されており、回収した油分を貯蔵することができる。また更に、図1に示す熱分解装置において、余剰のガスは、排風機15を介して排ガス処理装置16で処理された後、大気中に放出することができる。
【0031】
詳細には、熱分解炉2(容量0.5m3)内に廃トラック用タイヤの裁断品(高分子系廃棄物6)約100kgを投入し、熱分解炉2内を窒素ガスで置換した後、熱分解装置内の窒素ガスを循環させながら熱交換器1によりガス温度を約500℃まで上昇させて、この温度を保持した。なお、熱分解炉2内に導入される窒素ガスのガス流量は0.005m3/s[ntp]に設定され、0.0045m3/s[ntp]〜0.0055m3/s[ntp]の範囲に制御し、熱分解装置系内での酸素濃度は1容量%以下の範囲に制御された。ここで、熱分解装置内の酸素濃度の測定には、ジルコニア式酸素センサーを用いた。熱交換器1による加熱を開始してから1時間で、熱分解ガスが乾留搭12aに溜出し始め、熱交換器1による加熱の開始から約4時間後に溜出が止まった。溜出の停止は熱分解反応が完了したことを示し、熱交換器1を止めて約12時間放置冷却した。その後、熱分解炉2から炭化物を取り出した。該炭化物中には、タイヤ材料であるスチールコード等が含まれるため、余分なタイヤ材料をマグネットセパレーターで除去した。余分なタイヤ材料が除去された炭化物をハンマー式の粉砕機で粒径が1mm以下の細粉に粉砕し、この粉砕物を、回転羽を有する風力分級機により分級することにより、粒径が50μm以上の粗粉を除去し、分級装置を用いて粒径が10μm以下の微細炭化物(A)を得た。
このゴム配合用微細炭化物は、表1に示すように窒素吸着比表面積(N2SA)が81.6m2/g、DBP吸収量が85.2ml/100gの特性を有していた。
【0032】
<実施例1>
(ゴム補強用炭素材料の製造)
特開昭61−34071号公報(出願人:旭カーボン株式会社)に開示のソフト系カーボンブラック製造装置を用い、特開昭61−34071号公報の請求項1に記載された製造条件を適用して、GPF級カーボンブラックを製造した。上記製造条件によるGPF級カーボンブラックの生産収率は150kg/hrであった。このGPF級カーボンブラック及び上記製造例で得られたゴム配合用微細炭化物を各々別個にピン型造粒装置にて造粒処理し、その後、得られた湿潤造粒物をカーボンブラック製造プロセスの常法に従って乾燥工程により乾燥させた。次に、これら二つの造粒物をそれぞれ500gずつV型混合機に入れ、20rpmで5分回転させて混合し、ゴム補強用炭素材料Iを得た。
【0033】
<実施例2>
炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)を20/80(炭化物200g、GPF800g)に変更した以外は、実施例1と同様にしてゴム補強用炭化物IIを得た。
【0034】
<実施例3>
炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)を10/90(炭化物100g、GPF900g)に変更した以外は、実施例1と同様にしてゴム補強用炭化物IIIを得た。
【0035】
<実施例4>
炭化物(A)とカーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)を60/40(炭化物600g、GPF400g)に変更した以外は、実施例1と同様にしてゴム補強用炭化物IVを得た。
【0036】
<実施例5>
上記GPF級カーボンブラック製造プロセス中の製造工程において、上記製造例で得られたゴム配合用微細炭化物500kgを、ピン型造粒装置内の粉体供給口から一定量ずつ定量フィーダーを用いてGPF級カーボンブラック粉末に添加し、造粒機の回転軸のトルクを検出して添加する水量を制御しながら両者を混合し、造流処理を実施した。生成した混合湿潤造粒物をカーボンブラック製造プロセスの常法に従って乾燥工程に移行させて乾燥を行い、ゴム補強用炭化物材料Vを得た。
【0037】
実施例1〜5から得られたゴム補強用炭素材料I〜V、ゴム配合用微細炭化物、及びGPF級カーボンブラック[旭カーボン(株)製,商品名:旭#55]について、ジブチルフタレート(DBP)吸油量及び窒素吸着比表面積(NSA)を下記の方法により測定した。結果を表1に示す。なお、得られた結果から、ゴム補強用炭素材料は、GPF級カーボンブラックと比較して、同程度のストラクチャーを有しているが、ずっと大きな比表面積(粒子径が小さい)を有していることが分かる。
【0038】
【表1】

【0039】
(1)窒素吸着比表面積(N2SA)
JIS K 6217−2:2001に準拠して、窒素吸着比表面積(N2SA)を測定した。
(2)ジブチルフタレート(DBP)吸油量
JIS K 6217−4:2008に準拠して、ジブチルフタレート(DBP)吸油量を測定した。
【0040】
実施例1〜5のゴム補強用炭素材料I〜V及びコントロールとしてGPF級カーボンブラック[旭カーボン(株)製,商品名:旭#55]を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、該ゴム組成物の未加硫時及び加硫後のゴム特性を下記の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
*1 油展ゴム,ゴム成分100質量部に対して27.3質量部のアロマオイルで油展,JSR(株)製,商品名:SBR 1723.
*2 JSR(株)製,商品名:BROMOBUTYL 2255.
*3 表1に示す各試料を使用した.
*4 フレキシス社製,商品名:サントフレックス 6PPD.
*5 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー DM−P.
*6 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクラック 224.
*7 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー D.
*8 大内新興化学工業(株)製,商品名:ノクセラー NS.
【0043】
(3)未加硫時のゴム特性
(a)ムーニー粘度
JIS K6300−1:2001に準拠し、ムーニー粘度計を用いて、130℃でのムーニー粘度[ML1+4(130℃)]を測定した。表1に示したGPF級カーボンブラックが配合されたゴム組成物を比較対照として、この組成物のムーニー粘度を100として表3に指数表示した。指数値が小さい程、加工性に優れることを示す。
(b)スコーチタイム
JIS K6300−1:2001に準拠し、ムーニー粘度計を用いて、ムーニー粘度−時間曲線を測定し、ムーニー粘度の最低値(Vm)から5ポイント上昇した時間(t5)を求め、これをスコーチタイム(分)とした。表1に示したGPF級カーボンブラックが配合されたゴム組成物を比較対照として、この組成物のスコーチタイムを100として表3に指数表示した。指数値が100に近い程、加硫時間が適正で、作業性に優れることを示す。
【0044】
(4)加硫後のゴム特性
(a)引張応力
140℃で30分間加硫して得た加硫ゴムに対して、JIS K6251:2004に準拠し、100℃で200%伸び時及び常温(23℃)で300%伸び時における引張応力を測定した。表1に示したGPF級カーボンブラックが配合されたゴム組成物を比較対照として、この組成物の引張応力を100として表3に指数表示した。指数値が大きい程、引張応力が大きく、弾性率が高いことを示す。
(b)引張強さ
140℃で30分間加硫して得た加硫ゴムに対して、JIS K6251:2004に準拠し、常温(23℃)及び100℃での引張強さ(Tb)を測定した。表1に示したGPF級カーボンブラックが配合されたゴム組成物を比較対照として、この組成物の引張強さを100として表3に指数表示した。指数値が大きい程、破壊に対する耐性が高く、補強性に優れることを示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3記載の実施例1〜3の結果から、混合比を調整することにより、高分子系廃棄物から得られる炭化物が含まれているにもかかわらず、ゴム成分に配合しても補強効果が十分に発揮できるゴム補強用炭素材料が得られることが分かる。また、実施例4〜5から、炭化物(A)の過剰な配合や、所定の手順による混合を行わないことで、引張応力が低下することが分かる。
【符号の説明】
【0047】
1 熱交換器
2 熱分解炉
3 無酸素ガス供給源
4 循環路
5 油分回収装置
6 高分子系廃棄物
7 分解装置
8 外部加熱手段
9 流量計
10 ダンパ
11 送風機
12 乾留搭
13 回収タンク
14 熱風炉
15 排風機
16 排ガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)と、カーボンブラック(B)とを混合する工程を含むことを特徴とするゴム補強用炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との混合質量比(A/B)が10/90〜50/50の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)とをそれぞれ独立に造粒してから混合することを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用炭素材料の製造方法。
【請求項4】
高分子系廃棄物の熱分解又は不完全燃焼により得られる炭化物(A)とカーボンブラック(B)とからなるゴム補強用炭素材料。
【請求項5】
前記炭化物(A)と前記カーボンブラック(B)との質量比(A/B)が10/90〜50/50の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のゴム補強用炭素材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1702(P2012−1702A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141099(P2010−141099)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】