説明

ゴム補強用炭素繊維コードおよびその製造方法

【課題】ゴムとの接着性が良好であり、屈曲変形等の応力変形に対して優れた耐疲労性を発揮するゴム補強用コード及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着してなることを特徴とする。さらには、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることや、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。また該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含み、水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つであることが好ましい。また該炭素繊維束のフィラメント数が500〜50000フィラメントであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用炭素繊維コード及びその製造方法に関するものであり、詳しくはタイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に好適に使用できるゴム補強用炭素繊維コード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム補強用コードにより補強された繊維強化ゴム材料はタイヤ、ベルト、ホース等の産業資材に使用されている。これらのゴム材料には、これまでは補強用コードとしてナイロン繊維やポリエステル繊維等の有機繊維が一般に使われており、またかかる補強コードで補強された繊維強化ゴム材料は実用的な耐疲労性を有することから、広く用いられている。
【0003】
この強化繊維には、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性、耐疲労性等の特性が要求される。中でもゴム材料は外力等による変形が大きいために耐久性を持たせるためには、繊維の屈曲耐疲労性が重視されている。
【0004】
炭素繊維は、引張強度、引張弾性率、耐熱性、耐水性が良好なことから、炭素繊維を用いた繊維強化ゴム材料は、寸法安定性、耐候性等に優れるが、単繊維同士の擦過によるコードの切断、コードとゴムとの界面剥離が生じやすく、耐疲労性に劣るといった問題があった。
【0005】
こうした問題を解決する試みとして、特許文献1には、ブロックドイソシアネート誘導体を含む樹脂組成物を炭素繊維束に含浸させたゴム補強用コード(引用文献1)や、ポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させたゴム補強用コード(引用文献2)が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記のゴム補強用コードによっても、タイヤ、ベルト、ホース等の用途に用いたとき耐疲労性は未だ十分なものとは言えず、耐疲労性は不十分であり、炭素繊維が使用されてなるゴム補強用コードの中で、実質的に問題のない耐疲労性を有するものは未だ得られていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−200067号公報
【特許文献2】特開2002−71057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ゴムとの接着性が良好であり、屈曲変形等の応力変形に対して優れた耐疲労性を発揮するゴム補強用コード及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着してなることを特徴とする。
【0010】
さらには、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることや、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であること、さらには、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン、エチレン、ブチレンから構成され、該エラストマー樹脂におけるスチレン/(エチレン+ブチレン)比が5/95〜50/50であることが好ましい。また該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであることや、該粘着性樹脂が、その成分として水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。該樹脂組成物の付着量としては、炭素繊維束100重量部に対し、1〜50重量部であることが好ましく、該樹脂組成物の破断強度が0.5MPa以上、破断伸度が750%以上であること、最表面にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系樹脂接着剤が付着していることが好ましい。
【0011】
また該炭素繊維束のフィラメント数が500〜50000フィラメントであることが好ましい。
【0012】
もう一つの本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法は、炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理することを特徴とする。
【0013】
さらには該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることや、該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましく、該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであること、該粘着性樹脂が、その成分として水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。また該炭素繊維束の最表面にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行うことが好ましい。
【0014】
本発明の繊維強化ゴム材料は、以上のようなゴム補強用炭素繊維コードにより補強してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ゴムとの接着性が良好であり、屈曲変形等の応力変形に対して優れた耐疲労性を発揮するゴム補強用コード及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着してなるものである。さらにはスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂がマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることが好ましい。
【0017】
本発明で用いられる炭素繊維束としては、フィラメントが集合して束状の糸条になっていれば特に制限は無いが、束を構成するフィラメント数としては500〜50000フィラメントであることが好ましく、さらには3000〜12000フィラメントであることが好ましい。フィラメント数が少なすぎる場合には1フィラメントにかかる力が集中し、逆に多すぎる場合には繊維束内での力の分布が不均一になるため、疲労性が低下する傾向にある。繊維束を構成する1本の繊維の直径としては1〜20μm、特には5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0018】
また炭素繊維束の炭素繊維表面の酸素量が多い方が酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の炭素繊維に対する濡れ性が向上し、ひいてはゴムに対する炭素繊維の接着性および耐疲労性も向上するため好ましい。X線電子分光法により測定された表面酸素濃度をO/Cとした場合、好ましい酸素量はO/C≧0.05であり、より好ましくはO/C≧0.1である。また樹脂組成物を十分に炭素繊維束に含浸させるためには、炭素繊維束の繊度はあまり大きくない方が好ましい。好ましい炭素繊維束の繊度としては、12,000dtex以下であり、さらに好ましくは6,000dtex以下、特に好ましくは1,000〜3,000dtexである。
【0019】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、このような炭素繊維束からなるコードであるが、そのモジュラス(弾性率)が100GPa以上であることが好ましく、より好ましくは230GPa以上、特には280GPa以上であることが好ましい。モジュラスの上限としては1000GPa以下であることが、さらには700GPa以下であることが通常の範囲である。炭素繊維束のモジュラスを高めることによって、該炭素繊維束で補強した繊維強化ゴム材料は寸法安定性が優れたものとなる。炭素繊維束の強度としては2000〜10000MPaであることが、さらには3000〜6000MPaの範囲であることが好ましく、また疲労性を向上させるためには破断時の伸度も重要で0.2〜3.0%であることが、さらには伸度が1.5〜2.5%であることが好ましい。
【0020】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、上記のような炭素繊維束に酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着していることが必須である。さらにはスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の酸変性としては、不飽和酸化合物をグラフト化して得られた酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることが好ましい。不飽和酸化化合物の好ましい例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸、メタクリル酸、アクリル酸などを挙げることができる。中でもマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は好ましく、カルボキシル基を有するためゴムとの接着性をより向上させることが可能となる。
【0021】
またスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の基本骨格としては、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。より具体的には、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体エラストマーなどを挙げることができ、中でも、スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体が好ましい。特にはスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン、エチレン、ブチレンから構成され、該エラストマー樹脂におけるスチレン/(エチレン+ブチレン)比が5/95〜50/50であることが好ましい。さらには10/90〜30/70の比をとることがより好ましい。スチレンの比率が減少するとソフトセグメントの比が大きくなり、弾性率が低下するため、屈曲疲労性の向上率が減少する傾向にある。逆にスチレンの比率が増えすぎるとソフトセグメントの比が小さくなり、硬くなりすぎるため、同じく屈曲疲労性の向上率が減少する傾向にある。
【0022】
一般に、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は、強度があるにもかかわらず柔軟な構造を有することから、ゴムのように弾力性に富む。そのため、炭素繊維束に対し、上記のようなスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を付着させることにより、ゴム繊維複合体を構成した場合の屈曲変形に対する繊維の耐疲労性が極めて良好になるのである。これは本発明で用いられるスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂に靭性がありかつゴムに対する接着性の良好な樹脂であるため、通常の接着剤組成物のように工程内ローラー部にスカムが多量に付着することなく、炭素繊維コード物性を向上させることが可能となった。
【0023】
そこで、スカムを大量に発生させない範囲であれば、本発明のゴム補強用炭素繊維コードに付着する樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであることがさらに好ましい。粘着性がある樹脂を用いることにより、炭素繊維とゴムとの接着性をさらに向上させることができるのである。このような粘着性樹脂の具体例としては、特には水添テルペン樹脂、芳香族変性水添テルペン樹脂、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペンフェノール樹脂、αピネン樹脂、βピネン樹脂のいずれか、もしくは、これらの樹脂をベースに、他の樹脂を共重合させた樹脂が好ましい。中でも、水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含む場合は特にRFL接着剤等のゴム繊維用接着剤との相溶性が良く、炭素繊維コードとゴムとの接着性をより向上させることが可能となる。
【0024】
本発明における樹脂組成物の付着量としては、上記炭素繊維束に、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、炭素繊維束100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましい。さらには5〜30重量部付着していることが、そして10〜20重量部であることが最適である。スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の付着量が少なすぎると、単繊維間同士の擦過を防ぐ効果が不十分になる傾向にある。逆に樹脂組成物の付着量が多すぎると、繊維コード径が大きくなるが、これによりゴム繊維構造体中での屈曲変形による応力が大きくなるため、構造が破壊されやすい傾向にある。
本発明は炭素繊維束に上記のような樹脂組成物を付着させることにより、屈曲変形に対する耐疲労性が極めて良好になったものである。
【0025】
また、本発明で用いられる樹脂組成物の破断強度は、0.5MPa以上、破断伸度が750%以上であることが好ましい。さらには樹脂組成物からなるフィルム被膜の破断強度が0.5〜50MPaの範囲であることが、特には1〜10MPaの範囲であることが好ましい。また伸度としては750〜5000%であることが、特には1500〜3000%の範囲であることが好ましい。樹脂組成物の破断強度が低すぎる場合には、工程中などの炭素繊維同士の圧縮により、炭素繊維表面に付着した樹脂被膜が破壊される傾向にあり、屈曲疲労性の向上率が低下する傾向にある。この傾向は炭素繊維束に撚をかけたときに特に顕著である。また、破断強度が低すぎる場合、炭素繊維表面に付着した樹脂被膜の柔軟性が不足する傾向にあり、屈曲疲労性があまり向上しない傾向にある。
【0026】
さらに本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、その最表面にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系樹脂接着剤(以下「RFL接着剤」とする)が付着していることが好ましい。本発明で必須のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を付着させた炭素繊維束に、さらにRFL接着剤を付与することにより、RFL接着剤と本発明で用いる樹脂組成物との親和性が非常に高いという効果もあり、ゴムと繊維との接着力がさらに向上する。そして接着力が向上することにより、ゴムと炭素繊維間の界面剥離が生じ難くなり、耐疲労性にも向上効果が発揮される。
【0027】
上記RFL接着剤としては、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を含むアルカリ水溶液内に、レゾルシンとホルマリンを添加して、室温で数時間整置し、レゾルシンとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加えて混合エマルジョンとする方法により調整される。ゴムラテックスとしては、アクリロニトリル−ブタジエンラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス等が使用できる。中でもビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスは耐疲労性の向上に特に効果的であり、好ましく用いられる。
【0028】
RFL接着剤の付着量としては、炭素繊維束100重量%に対して、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは2〜8重量%である。あまり少なすぎるとゴム接着性の向上効果が期待できず、逆に多すぎてもコードが硬くなる傾向にあり、疲労性には逆効果となる。本発明では、ゴムとの接着性をさらに向上させるためRFL接着剤を付着させる前にあらかじめエポキシ化合物を含む化合物を付着させることも接着性向上のために好ましい。
【0029】
このような本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、高弾性率・高強度を有しながら、ゴムとの接着性が良く、屈曲変形に対する耐疲労性に優れ、特に単繊維同士の擦過によるコード破断が発生し難い繊維コードとなる。
【0030】
もう一つの本発明の炭素繊維コードの製造方法は、炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理することを特徴とする。上記と同じく、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であることが好ましく、そのスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の基本骨格は、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂であることが好ましい。また樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものであることが好ましく、特には粘着性樹脂が、その成分として水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。
【0031】
また本発明の処理の際には、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液は、水に分散させた形態で使用することが一般的である。スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の水分散液の作製方法には特に制限は無いが、例えば、(a)マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物を加熱下、界面活性剤、分散剤等を溶解した水性分散媒中に、撹拌等の手段により強制分散させて製造する方法、(b)水不溶性の有機溶剤に溶解したマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを、水性分散媒中で界面活性剤とともに、高剪断力で攪拌乳化した後、有機溶剤を除去するような後乳化法により製造する方法、等があげられる。
【0032】
本発明では、このような樹脂組成物を処理する前に、炭素繊維束が実質的に無撚の糸条であることが好ましい。撚りが無いことにより樹脂組成物が均一に付着し、疲労性が向上する。また、炭素繊維束に樹脂組成物を処理した後に、該炭素繊維束からなる糸条を1本または複数本合糸し、撚りを加えることも好ましい。撚りを加えることによりゴム構造体中での糸条を構成する各単糸にかかる力を分散させるために、疲労性が向上する。
【0033】
より具体的な本発明のゴム補強用炭素繊維の製造方法としては、例えば炭素繊維束を酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液に浸漬した後、加熱乾燥炉を通過させ乾燥させることにより製造することができる。また、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む処理液は、炭素繊維のサイジング工程で、浸漬・乾燥させて製造することもできる。
【0034】
また処理された炭素繊維コードの最表面にはレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行うことが、接着性を向上させるためにも好ましい。RFL接着剤を付着させる場合には、上記手段により得られた樹脂が付着した炭素繊維束を撚糸した後、RFL接着剤を含む処理液に浸漬させ、乾燥することによって撚糸コードに付着させることが好ましい。
【0035】
本発明の繊維強化ゴム材料は、このような本発明のゴム補強用炭素繊維コードにより補強してなる繊維強化ゴム材料である。得られた繊維強化ゴム材料は、屈曲変形などに対して優れた耐久性を発揮する。かかる繊維強化ゴム材料の具体例としては、タイヤ、ベルト、ホースなどが挙げられる。
【0036】
本発明の繊維強化ゴム材料に用いるゴムとしては、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
【0037】
なお、上記ゴムには、主成分のゴムの他に、材料の改質等のため、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、ナフテン系オイル等の軟化剤が含まれていてもよい。
【0038】
このような繊維強化ゴム材料は、例えば、上記ゴム補強用コードを必要本数引き揃え、これをゴムで挟み込み、さらにプレス機で加圧、加熱して成形することができる。
得られた繊維強化ゴム材料は、屈曲変形などに対して優れた耐久性を発揮し、タイヤ、ベルト、ホースなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例に示す各物性は、次の方法により測定した。
【0040】
(1)炭素繊維束の強度及び弾性率
JIS R7601に準拠して測定した。
【0041】
(2)耐疲労性(屈曲破断迄の回数)
図1に示すように、接着処理を行った撚糸コードの一端に1.0kgの荷重を取り付け、直径10mmのローラーに掛け渡し、他端をコードの長軸方向に振幅50mm、速度100回/分で振動させることにより、コードを繰り返し屈曲させ、破断するまでの回数を測定した。屈曲破断迄の回数が、5万回以上を合格、5万回未満を不合格とした。
【0042】
(3)接着性(引抜接着力)
JIS L1017に準拠して測定した。評価用ゴムとしては、天然ゴム/スチレン・ブタジエンゴム=6/4のゴムを使用した。1本のコードをゴム中から引き抜く際の接着力が、130N以上をA、65〜130をB、65以下をCとした。
【0043】
(4)フィルム被膜の強度及び伸度
JIS K6301に準拠して測定した。処理液を、室温で24時間、80℃で10時間、120℃で30分乾燥し、厚さ0.8−0.9mmの被膜を作製した。この被膜からサンプルを切り出し、引張試験機を用いて、フィルム被膜の強度、及び伸度を求めた。
【0044】
また、実施例ではコード及び繊維強化ゴム材料の製造に当たり、次に示す材料を用いた。
(a)炭素繊維束炭素繊維束(繊度2000dtex)“HTA−3K”(東邦テナックス(株)製)フィラメント数:3000本、単繊維直径7.0μm、引張強度:3920MPa、引張弾性率:235GPa、伸度:1.7%
【0045】
(b)処理剤
・ スチレン系処理剤(1);
マレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂の水分散液、フィルム被膜の破断強度3.8MPa、破断伸度760%
・ スチレン系処理剤(2);
マレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂:水添テルペン樹脂=5:5の水分散液、フィルム被膜の破断強度3.6MPa、破断伸度2950%
・ スチレン系処理剤(3);
マレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂:βピネン樹脂=5:5の水分散液、フィルム被膜の破断強度1.4MPa、破断伸度1640%
・ スチレン系処理剤(4);
マレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂:テルペン樹脂=5:5の水分散液、フィルム被膜の破断強度4.8MPa、破断伸度2030%
注)なお、上記スチレン系処理剤(1)〜(4)中のマレイン酸変性スチレンーエチレン−ブチレン−スチレン共重合体樹脂のS/EB(スチレン/(エチレン+ブチレン))の比率は、20/80であった。
【0046】
(c)ポリウレタン
・ウレタン系処理剤;ポリエステル系ポリウレタン水分散体“スーパーフレックス”E−2000(第一工業製薬(株)製)
【0047】
(d)RFL接着剤
RFL接着剤は、下記のスミカノール700S:2518FS:ニッポールLX−112=7:65:28の割合で混合し水で希釈して用いた。
・“スミカノール700S”(住友化学(株)製)
・ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス“2518FS”(日本ゼオン(株)製)
・スチレン−ブタジエンゴムラテックス“ニッポールLX−112”(日本ゼオン(株)製)
【0048】
[実施例1]
炭素繊維束を速度10m/分で搬送し、無撚りの状態で、スチレン系処理剤(1)を純水で希釈した水分散液(濃度:10重量%)に浸漬し、温度190℃の加熱炉内を通過させ、水分を除去した。一定長さ当たりの炭素繊維重量を予め測定しておき、処理液含浸後の同一長さのコード重量を測定することで、差分から、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物の付着量を測定した。得られた炭素繊維束をリング撚糸機で25(T/10cm)で下撚りをかけ、次に下撚りしたものを2本合わせて25(T/10cm)の条件で、上撚りをかけた。次に得られたコードを、エポキシ(ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製、EX−611)及びブロックドイソシアネート(ジフェニルメタンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムブロック体、明成化学社製、DM−6400)の水分散体に浸漬し、加熱炉内を通過させて水分を除去し、乾燥重量で3重量%付着させた。引き続きRFL接着剤処理液(RFL接着剤の割合が20重量%)に浸漬し、加熱炉内を通過させて水分を除去し、ゴム補強用炭素繊維コードを作製した。RFL接着剤の付着量は炭素繊維束100重量%に対して3.5重量部であった。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
スチレン系処理剤(1)を、水添テルペン樹脂を含有するスチレン系処理剤(2)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0050】
[実施例3]
スチレン系処理剤(1)を、βピネン樹脂を含有するスチレン系処理剤(3)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0051】
[実施例4]
スチレン系処理剤(1)を、テルペン樹脂を含有するスチレン系処理剤(4)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0052】
[実施例5]
スチレン系処理剤(2)の純水での希釈した水分散液濃度を25重量%に変更した以外は、実施例2と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0053】
[比較例1]
スチレン系処理剤(1)を、使用しなかった以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。結果を表1に併せて示す。
【0054】
[比較例2]
スチレン系処理剤(1)を、ウレタン系処理剤(水で希釈して10重量%濃度とした)に変更した以外は、実施例1と同様に実施して、ゴム補強用コードを作製した。このものはヤーン処理時に剤の粘着性により単繊維が接合し、撚糸時に切断し毛羽立つという問題があった。結果を表1に併せて示す。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】耐疲労性を測定するための装置の該略図である。
【符号の説明】
【0057】
1、撚糸コード
2、荷重
3、ローラー
4、振動させる他端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物が付着してなることを特徴とするゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項2】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂である請求項1記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項3】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂である請求項1または2記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項4】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン、エチレン、ブチレンから構成され、該エラストマー樹脂におけるスチレン/(エチレン+ブチレン)比が5/95〜50/50である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項5】
該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものである請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項6】
該粘着性樹脂が、その成分として水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含む請求項5記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項7】
該樹脂組成物の付着量が、炭素繊維束100重量部に対し、1〜50重量部である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項8】
該樹脂組成物の破断強度が0.5MPa以上、破断伸度が750%以上である請求項1〜7のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項9】
最表面にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系樹脂接着剤が付着している請求項1〜8のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項10】
該炭素繊維束のフィラメント数が500〜50000フィラメントである請求項1〜9のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コード。
【請求項11】
炭素繊維束に、酸変性したスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物を処理することを特徴とするゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項12】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂である請求項11記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項13】
該スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン末端エチレン−ブチレン共重合体樹脂である請求項11または12項記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項14】
該樹脂組成物が、粘着性樹脂を含むものである請求項11〜13のいずれか1項記載の記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項15】
該粘着性樹脂が、その成分として水添テルペン樹脂、βピネン樹脂、テルペン樹脂のいずれか一つ以上を含む請求項14記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項16】
最表面にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系の接着剤組成物で処理を行う請求項10〜15のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項記載のゴム補強用炭素繊維コードにより補強してなることを特徴とする繊維強化ゴム材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231640(P2008−231640A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76495(P2007−76495)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】