説明

ゴム配合油及びその製造方法

【課題】高引火点、高芳香族性、低流動点を有し、発ガン性多環芳香族化合物量が低減され、経済性に優れたゴム配合油を提供する。
【解決手段】エキストラクト(A)と潤滑油基油(B)とを含有し、(A)は、アニリン点が40〜90℃、ASTM D3238による%Cが25〜45及び%Cが5〜20、窒素分が0.01質量%以上、流動点が+30℃以下、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計が10質量ppm以下、40℃における動粘度が650mm2/s以上であり、(B)は、流動点が-10℃以下、アニリン点が70℃以上、ASTM D3238による%Cが3~20及び%Cが15~35、窒素分が0.01質量%以下、GC蒸留における90%点が500℃以上、引火点が250℃以上、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計が10質量ppm以下であるゴム配合油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム配合油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高芳香族系鉱物油は、ゴム成分との親和性が高く、ゴム組成物の加工性や軟化性、及び経済性に優れるため、天然ゴムや合成ゴム等のゴム組成物の製造に使用されている。例えば、SBR等の合成ゴムには、その合成時に伸展油(エキステンダーオイル)が配合され、タイヤ等のゴム加工製品には、その加工性やゴム加工製品の品質を改善するために加工油(プロセスオイル)が配合されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、芳香族炭化水素含有量(C)が20〜35重量%、ガラス転移温度Tgが−55℃〜−30℃、動粘度(100℃)が20〜50mm/sでかつ多環芳香族成分量(PCA)が石油系プロセスオイル中の3重量%以下である石油系プロセスオイルを用いることが提案されている。ジエン系ゴムにこの石油系プロセスオイルを配合して得られるゴムをタイヤに用いると、低燃費性とグリップ性を両立でき、耐熱老化性や耐熱摩耗性を向上することができる。
【0004】
ゴム配合油としては、減圧蒸留残渣、脱れき油、脱れき油又は潤滑留分の溶剤抽出エキストラクト等の高芳香族基油が知られている(例えば、特許文献2)。しかし、このような高芳香族基油を、危険物第4石油類の対象外となるように高引火点にすると、高粘度になるとともに流動点が高くなり、貯蔵、輸送、ハンドリング時における作業性が低下する。ここで、流動点を下げるためには、高芳香族基油を脱ろう処理することも提案されているが、製造工程が煩雑となり、経済性が著しく悪化してしまう。このため、煩雑な製造工程を必要とせず、且つ高粘度及び高引火点であるとともに低い流動点を有するゴム配合油が求められている。
【0005】
一方で、欧州においては、DMSO抽出分又は特定の発ガン性多環芳香族化合物を特定量以上含有するものを、タイヤ又はタイヤ部品の製造に使用してはならないとの規制が2010年より適用されることとなり、これらの規制に合致するゴム配合油が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−155959号公報
【特許文献2】特許第3658155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高引火点及び高芳香族性を有し、特定の発ガン性多環芳香族化合物の含有量が十分に低減されるとともに、流動点が低く経済性に優れたゴム配合油及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはゴム配合油の基材について鋭意検討を重ねた結果、特定のエキストラクトと、特定の潤滑油基油を用いることによって、高粘度、高引火点、高芳香族性を有しながら、特定の発ガン性多環芳香族化合物(以下、「特定芳香族化合物」という。)の含有量が十分に低減されるとともに、経済性に優れた低流動点のゴム配合油が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、エキストラクト(A)と潤滑油基油(B)とを含有するゴム配合油であって、エキストラクト(A)は、アニリン点が40〜90℃、ASTM D3238による%Cが25〜45及び%Cが5〜20、窒素分が0.01質量%以上、流動点が+30℃以下、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、並びに40℃における動粘度が650mm/s以上であり、潤滑油基油(B)は、流動点が−10℃以下、アニリン点が70℃以上、ASTM D3238による%Cが3〜20及び%Cが15〜35、窒素分が0.01質量%以下、GC蒸留における90%点が500℃以上、引火点が250℃以上、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、であるゴム配合油を提供する。
【0010】
上記本発明によれば、特定のエキストラクト(A)と潤滑油基油(B)とを含有することにより、高引火点及び高芳香族性を有し、特定芳香族化合物の含有量が十分に低減され、流動点も低いゴム配合油とすることができる。また、製造工程を煩雑にせずに製造することが可能であるため、経済性にも優れたものとすることができる。
【0011】
本発明のゴム配合油は、引火点が250℃以上、アニリン点が90℃以下、40℃における動粘度が200mm/s以上、流動点が+30℃以下であり、ベンゾ(a)ピレン(BaP)の含有量が1質量ppm以下、上述の特定芳香族化合物の含有量の合計が10質量ppm以下であることが好ましい。また、本発明のゴム配合油は、特許文献1でいう、ジエン系ゴム組成物を製造した場合の低燃費性、グリップ性及び耐熱老化性を良好にするために、特に、%Cが20〜35、ガラス転移温度Tgが−55℃〜−30℃、動粘度(100℃)が20〜50mm/sであるとともに、ベンゾ(a)ピレン(BaP)の含有量が1質量ppm以下、上述の特定芳香族化合物の含有量の合計が10質量ppm以下であることが好ましく、さらには、流動点が+20℃以下、特に+15℃以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のゴム配合油は、エキストラクト(A)が、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留残渣油を1段階又は2段階で脱れきして得られた脱れき油を極性溶剤と接触させて抽出されたエキストラクトであることが好ましい。
【0013】
本発明のゴム配合油は、エキストラクト(A)が、2段階の極性溶剤抽出工程によって得られたエキストラクトを含んでおり、当該エキストラクトは、塔底温度が30〜90℃、塔頂温度が塔底温度よりも高い第1の抽出塔で原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分と極性溶剤と接触させて得られたラフィネートと極性溶剤とを、塔底温度及び塔頂温度が第1の抽出塔のよりもそれぞれ10℃以上高い第2の抽出塔において接触させて得られたものであり、エキストラクトの15℃における密度が0.94g/cm以上、ASTM D2549による全芳香族分が30質量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のゴム配合油は、潤滑油基油(B)が、1段階の極性溶剤抽出工程によって得られた第1のラフィネートの脱ろう油(c)及び/又は2段階の極性溶剤抽出工程によって得られた第2のラフィネートの脱ろう油(d)を含んでおり、脱ろう油(c)は、塔底温度が30〜90℃、塔頂温度が塔底温度よりも高い第1の抽出塔において、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分と極性溶剤とを接触させて得られた第1のラフィネートに脱ろう工程を含む精製処理を行って得られたものであり、脱ろう油(d)は、塔底温度及び塔頂温度が第1の抽出塔よりもそれぞれ10℃以上高い第2の抽出塔において、第1のラフィネートと極性溶剤とを接触させて得られた第2のラフィネートに脱ろう工程を含む精製処理を行って得られたものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明では、アニリン点が40〜90℃、ASTM D3238による%Cが25〜45及び%Cが5〜25、窒素分が0.01質量%以上、流動点が+30℃以下、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、並びに40℃における動粘度が650mm/s以上であるエキストラクト(A)と、流動点が−10℃以下、アニリン点が70℃以上、ASTM D3238による%Cが3〜20及び%Cが15〜35、窒素分が0.01質量%以下、GC蒸留における90%点が500℃以上、引火点が250℃以上、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下である潤滑油基油(B)と、を配合する工程を有する、ゴム配合油の製造方法を提供する。
【0016】
上記本発明の製造方法によれば、特定のエキストラクト(A)と潤滑油基油(B)とを配合することにより、高引火点及び高芳香族性を有し、特定芳香族化合物の含有量が十分に低減され、流動点も低いゴム配合油を製造することができる。また、本発明の製造方法は、製造工程を煩雑にせずに製造することが可能であるため、経済性にも優れている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高引火点及び高芳香族性を有し、特定芳香族化合物の含有量が十分に低減されるとともに、流動点が低く経済性に優れたゴム配合油及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のゴム配合油に用いられる基材の製造方法の一例を示す工程模式図である。
【図2】本発明のゴム配合油に用いられる基材の製造方法の別の例を示す工程模式図である。
【図3】本発明のゴム配合油に用いられる基材の製造方法のさらに別の例を示す工程模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、同一又は同等のものには同じ番号を付し、重複する説明は場合によって省略する。
【0020】
本実施形態のゴム配合油は、特定性状を有するエキストラクト(A)(以下、単に「(A)成分」という。)と、特定性状を有する潤滑油基油(B)(以下、単に「(B)成分」という。)とを含有するゴム配合油である。
【0021】
(A)成分は、アニリン点が40〜90℃、ASTM D3238によるによる%Cが25〜45、%Cが5〜20、窒素分が0.01質量%以上、流動点が+30℃以下、ベンゾ(a)ピレン1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計が10質量ppm以下であり、40℃における動粘度が650mm/s以上のエキストラクトである。
【0022】
(A)成分であるエキストラクトは、上記規定を満たす限りにおいて、極性溶剤抽出工程で得られるエキストラクトをそのまま用いてもよく、エキストラクトに精製処理を施したものであってもよい。ここで、精製処理としては、脱ろう、水素化分解、水素化精製、蒸留等が挙げられる。なお、(A)成分としては、製造コスト及びゴム配合油により適した性状とする観点から、精製処理を施さずに、極性溶剤抽出工程で得られるエキストラクトをそのまま用いることが好ましい。この理由としては、脱ろう処理を施さなくても、低温性能に優れたゴム配合油が得られること、水素化分解すると芳香族性が低くなる傾向があること、精製処理を施すと製造方法が煩雑となることが挙げられる。
【0023】
(A)成分のアニリン点は、40〜90℃であり、好ましくは45〜70℃、より好ましくは50〜65℃である。アニリン点が上記範囲であれば、(B)成分としてアニリン点の高い潤滑油基油を含んでいても、ゴムとの相溶性に優れ、ゴム組成物の特性を維持するために好適なアニリン点を有するゴム配合油を製造しやすくなる。なお、本明細書におけるアニリン点は、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0024】
(A)成分の組成として、%Cは25〜45、好ましくは30〜40であり、%Cは5〜20、好ましくは6〜12である。また、%Cは、%C、%C次第で決定されることとなるが、好ましくは35〜70、より好ましくは48〜64である。(A)成分の組成が上記範囲であれば、(B)成分としてパラフィン性の高い潤滑油基油を含んでいても、ゴムとの相溶性に優れゴム組成物の特性を維持するために好適な組成を有するゴム配合油を製造しやすくなる。なお、ここでいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0025】
(A)成分の窒素分は0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上である。(A)成分の窒素分が高いことは、極性溶剤抽出により副生するラフィネートの窒素分が低くなり、潤滑油基油の精製効率が高まることになるから、窒素分の高い(A)成分をゴム配合油として利用することは経済性の観点から好ましい。なお、本発明でいう窒素分はJIS K2609に準拠して測定された化学発光法による窒素分を意味する。
【0026】
(A)成分の流動点は+30℃以下であり、好ましくは+5〜+25℃であり、ゴム配合油の流動点をより低下させる観点から、より好ましくは+5〜+20℃、特に好ましくは+7.5〜+15℃である。
【0027】
本実施形態のゴム配合油は、後述する(B)成分を含有するため、流動点の高い未精製の(A)成分を含有する場合であっても、十分に低い流動点を有している。なお、本明細書における流動点とは、JIS K2269に準拠して測定される流動点を意味する。
【0028】
(A)成分は、以下に挙げる8種の芳香族化合物(纏めて「特定芳香族化合物」という。)の含有量が十分に低減されている。
【0029】
1)ベンゾ(a)ピレン(BaP)
2)ベンゾ(e)ピレン(BeP)
3)ベンゾ(a)アントラセン(BaA)
4)クリセン(CHR)
5)ベンゾ(b)フルオランセン(BbFA)
6)ベンゾ(j)フルオランセン(BjFA)
7)ベンゾ(k)フルオランセン(BkFA)
8)ジベンゾ(a,h)アントラセン(DBAhA)
【0030】
ここで、本明細書におけるベンゾ(a)ピレンとは、上記1)のベンゾ(a)ピレン(BaP)を意味し、特定芳香族化合物とは、上記1)〜8)の芳香族化合物(PAH)を意味する。
【0031】
(A)成分における1)のベンゾ(a)ピレン(BaP)の含有量は、1質量ppm以下であり、1)〜8)の特定芳香族化合物の含有量の合計は、10質量ppm以下である。これにより発ガン性に懸念のない安全性のより高いゴム配合油とすることができる。
なお、これらの特定芳香族化合物は、対象成分を分離・濃縮した後、内部標準物質を添加した試料を調製して、GC−MS分析により定量分析することができる。
【0032】
(A)成分の40℃における動粘度は、650mm/s以上であり、好ましくは800mm/s以上、より好ましくは2000mm/s以上、さらに好ましくは5000mm/s以上であり、好ましくは20000mm/s以下、より好ましくは10000mm/s以下である。
【0033】
(A)成分の40℃における動粘度が650mm/s未満の場合には、(B)成分を含んでいても、十分に低い流動点が得られない傾向がある。(A)成分の40℃における動粘度が700mm/s以上、好ましくは800mm/s以上とすることで、ゴム配合油の流動点を15℃以下にし易くなる。この場合、(A)成分の流動点は好ましくは+5〜+20℃、より好ましくは+7.5〜+15℃である。
【0034】
本実施形態では、40℃における動粘度が650mm/s以上であり、好ましくは流動点が+5〜+20℃の(A)成分と、(B)成分とを含有することで、低流動点のゴム配合油とすることができる。なお、(A)成分の動粘度が20000mm/sを超える場合、ゴム配合油として適正な動粘度(100℃における動粘度が10〜70mm/s、好ましくは15〜50mm/s、特に好ましくは20〜32mm/s)を有するゴム配合油が得られ難くなる傾向がある。なお、本明細書でいう各温度における動粘度は、JIS K2283に準拠して測定される各温度における動粘度を意味する。
【0035】
(A)成分のアスファルテン分は好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。なお、本明細書でいうアスファルテン分はIP−143に準拠して測定されるアスファルテン分を意味する。
【0036】
(A)成分の引火点は、ゴム配合油の引火点を250℃以上として危険物第4石油類の対象外とする観点から、好ましくは250℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは290℃以上、特に好ましくは300℃以上である。なお、本明細書でいう引火点とは、JIS K2265に準拠して測定されるクリーブランド開放式(COC)による引火点を意味する。
【0037】
(A)成分の全芳香族分は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。一方、(A)成分の全芳香族分は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。(B)成分の全芳香族分が50質量%未満であると、芳香族性の高いゴム配合油を得にくくなる傾向があり、全芳香族分が90質量%を超えると、極性溶剤抽出工程における収率が低下し、製造コストが高くなる傾向がある。なお、本明細書でいう全芳香族分とは、ASTM D 2549に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)の含有量を意味する。
【0038】
本実施形態のゴム配合油に含まれる(B)成分は、流動点が−10℃以下、アニリン点が70℃以上、n−d−M分析による%Cが3〜20、%Cが15〜35、窒素分が0.01質量%以下、GC蒸留における90%点が500℃以上、引火点が250℃以上、ベンゾ(a)ピレン1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計が10質量ppm以下の潤滑油基油である。
【0039】
(B)成分の流動点は−10℃以下であり、−20℃未満であってもよい。ただし、ゴム配合油の流動点を低く維持するとともに製造コストを低減する観点から、好ましくは−10〜−20℃である。流動点が−10℃以下の(B)成分を用いることで、流動点の低いゴム配合油を得ることができる。
【0040】
(B)成分のアニリン点は70℃以上であり、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。一方、ゴムとの相溶性に優れゴム組成物の特性を維持するために好適なアニリン点を有するゴム配合油を製造しやすくなる点で、好ましくは120℃以下である。
【0041】
(B)成分の組成として、%Cは3〜20、好ましくは5〜10であり、%Cは15〜35、好ましくは20〜30である。また、%Cは、%C、%C次第で決定されるいこととなるが、好ましくは45〜82、より好ましくは60〜75、さらに好ましくは65〜70である。組成が上記範囲である(B)成分を用いることで、ゴムとの相溶性に優れ、ゴム組成物の特性を維持するために好適な組成を有するゴム配合油を製造しやすくなる。
【0042】
(B)成分の窒素分は0.01質量%以下、好ましくは0.008質量%以下である。なお、(B)成分の窒素分は0.001質量%未満でもよいが、精製度の低い潤滑油基油を使用することによるゴム配合油の製造コスト低減の観点から、好ましくは0.002質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上である。
【0043】
(B)成分の引火点は、ゴム配合油の引火点を250℃以上として危険物第4石油類の対象外とする観点から、250℃以上であり、好ましくは255℃以上である。なお、(A)成分の引火点も高いことから、(B)成分の引火点は必要以上に高くする必要はなく、好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下である。
【0044】
(B)成分のGC蒸留における90%点は500℃以上であり、好ましくは500〜600℃である。本実施形態では(B)成分のGC蒸留における90%点が、510〜550℃のものを使用することが好ましい。一方、別の実施形態としては、(B)成分のGC蒸留における90%点が550〜590℃のものを使用することが好ましい。(B)成分のGC蒸留における10%点は特に制限はなく、ゴム配合油の引火点を250℃以上として危険物第4石油類の対象外とする観点から、好ましくは400〜510℃、より好ましくは440〜500℃である。1つの態様としては、440〜470℃のもの、もう1つの態様としては450〜500℃のものを使用可能である。
【0045】
(B)成分における上述の1)のベンゾ(a)ピレン(BaP)の含有量は1質量ppm以下であり、上述の特定芳香族化合物の含有量の合計は10質量ppm以下である。これにより発ガン性が低く安全性の高いゴム配合油とすることができる。
【0046】
(B)成分の40℃における動粘度は、好ましくは50〜500mm/s、より好ましくは60〜300mm/s、さらに好ましくは70〜200mm/sである。本実施形態において、40℃における動粘度が2000mm/s以上の(A)成分を用いる場合は、好適な動粘度のゴム配合油を得るために、(B)成分の40℃における動粘度が好ましくは50〜150mm/s、より好ましくは80〜120mm/sの(B)成分を用いる。また、別の実施形態として、40℃における動粘度が2000mm/s未満の(A)成分を用いる場合は、好適な動粘度のゴム配合油を得るために、(B)成分の40℃における動粘度が好ましくは50〜500mm/s、より好ましくは60〜80mm/s及び/又は120〜250mm/sの(B)成分を用いる。
【0047】
(B)成分の全芳香族分は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。一方、(B)成分の全芳香族分は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。(B)成分の全芳香族分が20質量%未満では、芳香族性の高いゴム配合油を得にくくなる傾向がある。一方、全芳香族分が50質量%を超えると、(B)成分の潤滑油基油としての使用する場合の酸化安定性が著しく劣り、潤滑油基油及びゴム配合油用途への兼用が難しくなる傾向があり、石油精製プロセス全体の経済性が低下する傾向がある。
【0048】
本実施形態のゴム配合油は、上記した(A)成分及び(B)成分を配合することによって得ることができる。なお、本実施形態のゴム配合油は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、(A)成分以外の基材及び(B)成分以外の基材を配合することができる。
【0049】
本実施形態のゴム配合油は、ゴムとの親和性、軟化性、高引火点、安全性、ハンドリングを有するとともに、ゴム組成物を製造した場合の低燃費性、グリップ性及び耐熱老化性を良好にするために、以下の諸性状を有することが好ましい。
・15℃における密度:通常0.9g/cm〜1.0g/cm、好ましくは0.94g/cm以上、より好ましくは0.945g/cm以上、好ましくは0.98g/cm以下、より好ましくは0.96g/cm以下である。
・引火点:通常250〜350℃、好ましくは260℃以上、より好ましくは280℃以上、好ましくは320℃以下、さらに好ましくは310℃以下である。
・40℃における動粘度:通常200〜3000mm/s、好ましくは300mm/s以上、より好ましくは400mm/s、さらに好ましくは500mm/s以上、好ましくは2000mm/s以下、より好ましくは1000mm/s以下、さらに好ましくは800mm/s以下である。
・100℃における動粘度:通常10〜100mm/s、好ましくは15mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上、好ましくは60mm/s以下、より好ましくは50mm/s、さらに好ましくは32mm/s以下である。
・アニリン点:通常50〜100℃、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。
・窒素分:通常0.01〜0.2質量%、好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
・%C:通常5〜30、好ましくは10以上、より好ましくは14以上、好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。
・%C:通常10〜40、好ましくは17以上、より好ましくは20以上、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下である。
・%C:30〜85、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、好ましくは73以下、より好ましくは66以下である。
・全芳香族分(ASTM D2549):通常30〜90質量%、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
・ASTM D2007(クレイゲル法)による飽和分:通常5〜50質量%、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
・ASTM D2007(クレイゲル法)による芳香族分:通常40〜90質量%、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは57質量%以上、特に好ましくは60質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
・ASTM D2007(クレイゲル法)による極性化合物分:通常1〜20質量%、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
・ASTM D2007(クレイゲル法)による飽和分/極性化合物分の比率:通常0.25〜50、好ましくは1以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。
・ベンゾ(a)ピレン(BaP)の含有量:1質量ppm以下である。
・上述の特定芳香族化合物の含有量の合計:10質量ppm以下である。
・流動点:−10℃〜+30、好ましくは−5℃以上、好ましくは+15℃以下、より好ましくは+5℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。
・ガラス転移点(Tg):−60〜−10℃、好ましくは−55℃以上、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下、さらに好ましくは−45℃以下、特に好ましくは−48℃以下である。
【0050】
本明細書における芳香族含有基油の「ガラス転移点(Tg)」とは、DSC(示差走査熱量計)にて一定の昇温速度(10℃/分)で昇温した際に測定される、ガラス転移領域における熱量変化ピークから得られたガラス転移点を意味する。初期温度は、通常予期ガラス転移点より30℃〜50℃程度又はそれより低い温度とし、当該初期温度で一定時間保持した後、昇温を開始する。本実施形態においては、具体的には、以下の条件で測定することができる。
【0051】
装置:ティー・エイ・インスツルメント社製熱分析システムDSC Q100
初期温度:−90℃、10分間保持
昇温速度:10℃/分
終了温度:50℃、10分間保持
【0052】
なお、熱量変化ピークからガラス転移点を算出する方法は、JIS K 7121に記載された方法で決定することができる。
【0053】
本実施形態のゴム配合油は、(A)成分と(B)成分とを配合することによって得ることができる。(A)成分と(B)成分との含有割合に特に制限はなく、例えば(A)成分の含有割合は、ゴム配合油全量基準で5〜95質量%、好ましくは40〜90質量%である。ただし、基材である(A)成分及び(B)成分の流動点から予想される流動点よりも、実際の流動点が低いことから、好ましくは55〜85質量%とする。また、適正な粘度及びより低い流動点を有するゴム配合油とする観点から、好ましくは40〜75質量%であり、より好ましくは55〜75質量%である。
【0054】
同様に、(B)成分の配合割合は、ゴム配合油全量基準で5〜95質量%、好ましくは10〜60質量%である。含有割合は、ゴム配合油全量基準で5〜95質量%、好ましくは40〜90質量%である。ただし、基材である(A)成分及び(B)成分の流動点から予想される流動点よりも、ゴム配合油の実際の流動点が低いことから、(B)成分の含有割合は、好ましくは15〜45質量%とする。また、適正な粘度及びより低い流動点を有するゴム配合油とする観点から、好ましくは25〜60質量%であり、より好ましくは25〜45質量%である。
【0055】
本実施形態のゴム配合油は、(A)成分と(B)成分とを上述の割合で配合することによって得ることができる。次に、ゴム配合油の基材である(A)成分と(B)成分の製造方法を説明する。
【0056】
[(A)成分の製造方法]
(A)成分の製造方法は、上述した(A)成分の性状を満足する限りにおいて特に制限はなく、例えば、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留残渣油を1段階又は2段階以上で脱れきし、得られた脱れき油と極性溶剤とを接触させて抽出する方法が挙げられる。
【0057】
以下、図面を参照しつつ(A)成分の2通りの製造方法(便宜的に「第1の態様」及び「第2の態様」という。)を、詳細に説明する。
【0058】
(第1の態様)
図1は、(A)成分の製造方法の一例を示す工程模式図である。第1の態様では、まず、減圧蒸留残渣油を脱れきする脱れき工程を行う。脱れき工程は、1段階であっても2段階以上であってもよい。ただし、潤滑油基油原料として有用な動粘度の異なるラフィネートと、ゴム配合油として好適な動粘度の異なるエキストラクトをそれぞれ2種以上得ることができ、潤滑油製品及びゴム配合油製造の多様性を高める観点から、2段階以上の脱れき工程を用いることが好ましい。一方、プロセスの煩雑化を回避する観点から、脱れき工程は2段階以下であることが好ましい。以下、脱れき工程を第1の脱れき工程と第2の脱れき工程の2段階で行う方法について説明する。
【0059】
(第1の脱れき工程)
第1の脱れき工程は、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留残渣油と脱れき溶剤とを第1の脱れき塔10内で向流接触させて第1の脱れき油と第1の含れき油とに分離し、第1の脱れき油と第1の含れき油とを得る工程である。脱れき溶剤は第1の脱れき塔10の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。
【0060】
脱れき溶剤は、配管14から第1の脱れき塔10に供給される。一方、減圧蒸留残渣油は、配管12から第1の脱れき塔10に供給される。そして、配管16から第1の脱れき油が、配管18から第1の含れき油が得られる。
【0061】
脱れき溶剤としては、プロパン、ブタン等の非極性の軽質炭化水素、好ましくはプロパンを用いる。脱れき条件は、第1の脱れき油の100℃における動粘度が、好ましくは10〜35mm/s、より好ましくは15〜30mm/s、さらに好ましくは18〜28mm/sとする。脱れき温度は、第1の脱れき塔10の塔頂温度及び/又は塔底温度を変えることによって調整することができる。第1の脱れき工程の脱れき条件は、例えば以下の通りとすることができる。
【0062】
・溶剤比:減圧蒸留残渣油を基準とする体積比として、好ましくは1〜6、より好ましくは1.5〜4、さらに好ましくは2〜4。
・第1の脱れき塔10の塔頂温度:好ましくは60〜120℃、より好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは85〜95℃。
・第1の脱れき塔10の塔底温度:好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは70〜85℃。
・第1の脱れき油の収率:減圧蒸留残渣油を基準とし、好ましくは1〜30容量%、より好ましくは2〜20容量%、さらに好ましくは3〜15容量%。
【0063】
このようにして得られた第1の脱れき油は、後述する第1の極性溶剤抽出工程に用いられて、第1のラフィネートと第1のエキストラクトとに分離される。一方、第1の含れき油(脱れき溶剤に抽出されなかった残油:アスファルテン分を多く含有する油)は、そのままアスファルトの原料として用いてもよい。また、第1の含れき油は、後述する第2の脱れき工程により、第2の脱れき油を分離して得られる第2の含れき油をそのままアスファルトの原料とすることが好ましい。
【0064】
(第2の脱れき工程)
第2の脱れき工程は、第1の含れき油と脱れき溶剤とを第2の脱れき塔20内で向流接触させて第2の脱れき油と第2の含れき油とに分離し、第2の脱れき油と第2の含れき油とを得る工程である。脱れき溶剤は第2の脱れき塔20の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。
【0065】
脱れき溶剤は、配管24から第2の脱れき塔20に供給される。一方、第1の含れき油は、配管18から第2の脱れき塔20に供給される。そして、配管26から第2の脱れき油が、配管28から第2の含れき油が得られる。
【0066】
脱れき溶剤としては、第1の脱れき工程と同様に、プロパン、ブタン等の非極性の軽質炭化水素、好ましくはプロパンを用いる。第2の脱れき工程に使用する脱れき溶剤は、第1の脱れき工程と同じでも異なっていてもよいが、プロセスを簡素化する観点から、同じ脱れき溶剤を用いることがより好ましい。
【0067】
第2の脱れき工程における脱れき条件は、第1の脱れき工程における脱れき条件とは異なる条件である限り特に制限はない。第2の脱れき工程における脱れき条件は、例えば、第2の脱れき油の100℃における動粘度が30〜60mm/s、好ましくは35〜50mm/s、より好ましくは36〜45mm/sとなるように調整することが好ましい。このような条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
【0068】
・溶剤比:第1の含れき油を基準とする体積比として、例えば1〜10、好ましくは4〜8、より好ましくは5〜7。
・第2の脱れき塔20の塔頂温度:50〜110℃、好ましくは60〜80℃、第1の脱れき塔頂温度より好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜25℃低いことが望ましい。
・第2の脱れき塔20の塔底温度:40〜80℃、好ましくは50〜60℃。
・第2の脱れき油の収率:第2の脱れき工程の原料である第1の含れき油を基準として、15〜50容量%、好ましくは20〜45容量%、より好ましくは25〜40容量%。
【0069】
第2の脱れき工程における溶剤比は、第1の脱れき工程における溶剤比の1.5〜10倍とすることが好ましく、2〜5倍とすることがより好ましく、2.5〜4倍とすることがさらに好ましい。
【0070】
第2の脱れき工程における塔頂温度は、第1の脱れき工程における塔頂温度よりも、10〜30℃低くすることが好ましく、15〜25℃低くすることがより好ましい。第2の脱れき工程における塔底温度は、第1の脱れき工程における塔底温度よりも、10〜30℃低くすることが好ましく、15〜25℃低くすることがより好ましい。
【0071】
(第1の極性溶剤抽出工程(1))
第1の極性溶剤抽出工程(1)は、第1の脱れき油と極性溶剤とを第1の抽出塔30で向流接触させて、第1の脱れき油を第1のラフィネートと第1のエキストラクトとに分離して、第1のラフィネートと第1のエキストラクトとを得る工程である。極性溶剤は第1の抽出塔30の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。極性溶剤としては、フルフラール、フェノール、クレゾール、スルフォラン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド、フォルミルモルフォリン、グリコール系溶剤等の極性溶剤が挙げられるが、本実施形態においては一般的な潤滑油基油の溶剤抽出設備の転用が可能である点で、フルフラールを用いることが好ましい。
【0072】
極性溶剤は、配管34から第1の抽出塔30に供給される。一方、第1の脱れき油は、配管16を通って第1の抽出塔30に供給される。そして、配管36から第1のラフィネートが、配管38から第1のエキストラクトが得られる。
【0073】
抽出条件に、特に制限はなく、例えば、第1のエキストラクトの100℃における動粘度が、好ましくは30〜70mm/s、より好ましくは40〜60mm/sとなるように抽出条件を調整することができる。第1の極性溶剤抽出工程の抽出条件は、例えば以下の通りとすることができる。
【0074】
・溶剤比:第1の脱れき油を基準とする体積比として、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5。
・第1の抽出塔30における塔頂温度:好ましくは100〜150℃、より好ましくは120〜140℃、さらに好ましくは126〜136℃。
・第1の抽出塔30における塔底温度:好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜125℃、さらに好ましくは86〜120℃。
・第1のエキストラクトの収率:第1の脱れき油を基準として、好ましくは15〜50容量%、より好ましくは20〜40容量%、さらに好ましくは25〜33容量%。
【0075】
(第2の極性溶剤抽出工程(1))
第2の極性溶剤抽出工程は、第2の脱れき油と極性溶剤とを、第2の抽出塔40で向流接触させて、第2のエキストラクトと第2のラフィネートとに分離して、第2のエキストラクトと第2のラフィネートとを得る工程である。極性溶剤は第2の抽出塔40の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。極性溶剤としては、上記第1の極性溶剤抽出工程(1)と同様のものを用いることができる。なお、プロセス簡略化の観点から、第1及び第2の極性溶剤抽出工程で用いる極性溶剤は、同一のものを用いることが好ましい。
【0076】
極性溶剤は、配管44から第2の抽出塔40に供給される。一方、第2の脱れき油は、配管26を通って第2の抽出塔40に供給される。そして、配管46から第2のラフィネートが、配管48から第2のラフィネートが得られる。
【0077】
抽出条件は、特に制限はなく、例えば、第2のエキストラクトの100℃における動粘度が、好ましくは70〜150mm/s、より好ましくは80〜120mm/s、さらに好ましくは90〜100mm/sとなるように調整することが好ましい。それ以外の抽出条件は上述の第1の極性溶剤抽出工程(1)と同様とすることができる。具体的には以下のとおりとすることができる。
【0078】
・溶剤比:第2の脱れき油を基準とする体積比として、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5。
・第2の抽出塔40の塔頂温度:好ましくは100〜150℃、より好ましくは120〜140℃、さらに好ましくは126〜136℃
・第2の抽出塔40の塔底温度:好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜125℃、さらに好ましくは86〜120℃。
・第2のエキストラクト収率:第2の脱れき油に対し、15〜50容量%、好ましくは20〜40容量%、より好ましくは25〜33容量%。
【0079】
本実施形態における(A)成分は、上記第1の極性溶剤抽出工程(1)における第1のエキストラクト及び/又は上記第2の極性溶剤抽出工程(1)における第2のエキストラクトとから得ることができる。なお、収率を高くする観点から(A)成分は第2のエキストラクトであることが好ましい。
【0080】
(第2の態様)
本実施形態の(A)成分は、上記第1の態様以外に、以下に説明する製造方法でも得ることができる。この第2の態様では、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分から、2段階の極性溶剤抽出工程によって、(A)成分である第2のエキストラクトを得る。
【0081】
(第1の極性溶剤抽出工程(2))
図2は、(A)成分の製造方法の第2の態様を示す工程模式図である。まず、第1の極性溶剤抽出工程(2)において、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分と極性溶剤とを、塔底温度が30〜90℃、塔頂温度が塔底温度より高い第1の抽出塔30で接触させて、第1のラフィネートと第1のエキストラクトを得る。
【0082】
第1の極性溶剤抽出工程(2)で原料として用いる減圧蒸留留分としては、特にその留分は限定されるものではなく、軽質潤滑油留分、中質潤滑油留分、重質潤滑油留分、若しくはこれらの混合物、又は減圧蒸留留分の全てを使用することができる。
【0083】
芳香族含有基油の引火点を高め、粘度が高過ぎない適正な粘度範囲の(B)成分とするため、例えば200〜1500N、好ましくは250〜1200N、さらに好ましくは300〜600N及び/又は600〜1200Nの潤滑油留分を用いる。
【0084】
なお、本明細書における「N」とは減圧蒸留留分から得られるニュートラルオイルであることを意味し、例えば300Nであれば、100°F(37.8℃)における粘度が300セイボルトユニバーサル秒(SUS)であることを意味する。
【0085】
本態様では、200〜1500N、好ましくは250〜600N及び/又は600〜1200N、より好ましくは300〜450N及び/又は700〜1000Nの潤滑油基油が(B)成分として得られるように、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分を選択することが好ましい。
【0086】
第1の極性溶剤抽出工程(2)では、上述の減圧蒸留留分と極性溶剤とを第1の抽出塔30で向流接触させて、第1の脱れき油を第1のラフィネートと第1のエキストラクトとに分離して、第1のラフィネートと第1のエキストラクトとを得る。極性溶剤は第1の抽出塔30の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。極性溶剤の種類は、上記第1の極性溶剤抽出工程(1)と同様である。
【0087】
極性溶剤は、配管34から第1の抽出塔30に供給される。一方、減圧蒸留留分は、配管16を通って第1の抽出塔30に供給される。そして、配管36から第1のラフィネートが、配管38から第1のエキストラクトが得られる。
【0088】
第1の抽出塔30の塔底温度は30〜90℃、好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃である。第1の抽出塔30の塔頂温度は、塔底温度より高く、好ましくは10〜50℃高く、より好ましくは15〜40℃高く、さらに好ましくは25〜35℃高い。より具体的には、塔頂温度は、好ましくは60〜120℃、より好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは85〜95℃である。
【0089】
第1の極性溶剤抽出工程(2)における溶剤比は、0.5〜3、好ましくは0.7〜2、さらに好ましくは1〜1.5である。なお、本明細書でいう溶剤比は、原料に対する溶剤の容量比(溶剤量/原料)を意味する。
【0090】
上述の抽出条件によって得られる第1のラフィネートの収率は、通常50〜90容量%、好ましくは60〜85容量%、より好ましくは70〜80容量%である。また、第1エキストラクトの収率は、通常10〜50容量%、好ましくは15〜40容量%、より好ましくは20〜30容量%である。
【0091】
上述の抽出条件によって、第1のエキストラクト側に特定芳香族化合物を抽出することができる。このため、後の工程で得られる第2のエキストラクト及び第2のラフィネートから得られる潤滑油基油((B)成分)の特定芳香族化合物の量を十分に低減することができる。
【0092】
(第2の極性溶剤抽出工程(2))
第2の極性溶剤抽出工程(2)は、原料として、第1の極性溶剤抽出工程(2)で得られた第1ラフィネートを用いる。この第1ラフィネートと極性溶剤とを、第2の抽出塔41で向流接触させて、第2のエキストラクトと第2のラフィネートとに分離して、第2のエキストラクトと第2のラフィネートとを得る。極性溶剤は第1の極性溶剤抽出工程(2)と同様のものを用いることができる。なお、プロセス簡略化の観点から、第1及び第2の極性溶剤抽出工程で用いる極性溶剤は、同一のものを用いることが好ましい。
【0093】
極性溶剤は、配管44から第2の抽出塔41に供給される。一方、第1のラフィネートは、配管36を通って第2の抽出塔41に供給される。そして、配管47から第2のラフィネートが、配管49から第2のエキストラクトが得られる。
【0094】
第2の抽出塔41の塔底温度は、第1の極性溶剤抽出工程(1)における第1の抽出塔30の塔底温度よりも10℃以上高く、好ましくは10〜50℃高く、より好ましくは15〜40℃高く、さらに好ましくは20〜30℃高くする。より具体的には、第2の抽出塔41の塔底温度は、好ましくは40〜140℃、より好ましくは60〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃である。
【0095】
第2の抽出塔41の塔頂温度は、その塔底温度より好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃、さらに好ましくは25〜35℃高くする。具体的には、第2の抽出塔41の塔頂温度は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃である。
【0096】
第2の極性溶剤抽出工程(2)における溶剤比は1〜4、好ましくは1.3〜3.5、さらに好ましくは1.5〜3.3であり、第1の極性溶剤抽出工程(2)における溶剤比の1.5倍以上とすることが好ましい。
【0097】
上述の抽出条件とすることによって、第2のラフィネートの収率は、通常50〜90容量%、好ましくは60〜85容量%、より好ましくは70〜85容量%であり、第2のエキストラクトの収率は、通常10〜50容量%、好ましくは15〜40容量%、より好ましくは15〜30容量%である。
【0098】
得られる第2のエキストラクトの15℃における密度は0.94g/cm以上、ASTM D2549による全芳香族分は30質量%以上である。このような第2のエキストラクトを(A)成分として用いることができる。
【0099】
第2のエキストラクトの15℃における密度は、好ましくは0.95〜1g/cm、より好ましくは0.95〜0.98g/cmである。また、第2のエキストラクトの全芳香族分は30質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、好ましくは90質量%以下のものが得られる。なお、本明細書における全芳香族分はASTM D2549に準拠して測定される。
【0100】
第2のエキストラクトは、ASTM D2140により測定される%Cが、好ましくは15〜35、好ましくは20〜33、さらに好ましくは22〜32である。
【0101】
また、第2のエキストラクトは、以下の性状を有する。
・引火点:250℃以上、好ましくは260℃以上、好ましくは310℃以下。
・流動点:30℃以下、好ましくは10〜30℃。
・アニリン点:90℃以下、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃
・ベンゾ(a)ピレン含有量:1質量ppm以下。
・特定芳香族化合物の合計含有量:10質量ppm以下。
【0102】
((B)成分の製造方法)
本実施形態における(B)成分の製造方法に特に制限はない。(B)成分は、例えば、原油の常圧蒸留残油の減圧蒸留留分、又は原油の常圧蒸留残油の減圧蒸留残油を脱れき処理した脱れき油を、フルフラールのような極性溶剤で抽出処理し、得られたラフィネートを脱ろうや水素化仕上げ等を含む精製処理を施すことによって得ることができる。
【0103】
なお(B)成分として、水素化分解鉱油や水素化異性化鉱油等を使用することも可能であるが、際立って高品質である必要はない。比較的マイルドな精製条件で得られた、全芳香族分が30質量%以上の潤滑油基油を用いることがゴム配合油としての適合性を高めることができる点及び経済性の点で好ましいといえる。
【0104】
40℃における動粘度が2000mm/s以上の(A)成分を用いる場合は、好適な動粘度のゴム配合油を得るために、(B)成分として、好ましくは40℃における動粘度が50〜150mm/s、好ましくは80〜120mm/sの(B)成分を用いることが好ましい。
【0105】
一方、40℃における動粘度が2000mm/s未満の(A)成分を用いる場合は、好適な動粘度のゴム配合油を得るために、好ましくは40℃における動粘度が50〜500mm/s、好ましくは60〜80mm/s及び/又は120〜250mm/sの(B)成分を用いることが好ましい。
【0106】
以下、図面を参照しつつ2つの製造方法(便宜的に「第1の態様」及び「第2の態様」という。)を、詳細に説明する。
【0107】
(第1の態様)
(第1の極性溶剤抽出工程(3))
図3は、(B)成分の製造方法の第1の態様を示す工程模式図である。
【0108】
第1の極性溶剤抽出工程(3)では、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分を原料として用いる。減圧蒸留留分と極性溶剤とを、第1の抽出塔30で向流接触させて、第1のエキストラクトと第1のラフィネートとに分離して、第1のエキストラクトと第1のラフィネートとを得る。極性溶剤は第1の抽出塔30の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。用いられる極性溶剤は、上記(A)成分の製造方法と同様である。
【0109】
減圧蒸留留分としては、引火点が高い潤滑油基油を得るために、200〜800N相当留分、好ましくは350〜700N相当留分、より好ましくは400〜600N相当留分であることが好ましい。
【0110】
極性溶剤は、配管34から第1の抽出塔30に供給される。一方、減圧蒸留留分は、配管16を通って第1の抽出塔30に供給される。そして、配管36から第1のラフィネートが、配管38から第1のエキストラクトが得られる。
【0111】
得られた第1のラフィネートに、脱ろう装置50及び水素化仕上げ装置60による精製処理を施して、(B)成分である潤滑油基油を得ることができる。なお、脱ろう装置50及び水素化仕上げ装置60としては、通常の装置を用いることができる。
【0112】
第1の極性溶剤抽出工程(3)における第1の抽出塔30の塔底温度は30〜90℃、好ましくは60〜80℃、さらに好ましくは65〜75℃である。一方、第1の抽出塔30の塔頂温度は、塔底温度より高く、好ましくは20〜80℃高く、より好ましくは30〜70℃高く、さらに好ましくは40〜60℃高くする。より具体的には、第1の抽出塔30の塔頂温度は、好ましくは80〜160℃、より好ましくは100〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃である。
【0113】
第1の極性溶剤抽出工程(3)における溶剤比は0.5〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1.5〜2.5である。
【0114】
上述の抽出条件によって、得られる第1のラフィネートの収率は、通常40〜80容量%、好ましくは50〜70容量%、より好ましくは55〜65容量%であり、第1エキストラクトの収率は、通常20〜60容量%、好ましくは30〜50容量%、より好ましくは35〜45容量%である。
【0115】
上述の抽出条件により、第1のエキストラクト側に特定芳香族化合物が抽出されるので、第1のラフィネートから得られる潤滑油基油の特定芳香族化合物の含有量を十分に低減することができる。
【0116】
次に、第1のラフィネートに、溶剤脱ろう、水素化仕上げ等の精製処理を施すことにより、40℃における動粘度が50〜150mm/s、好ましくは80〜120mm/sのである潤滑油基油((B)成分)が得られる。
【0117】
なお、原料として、400〜600N相当の減圧蒸留留分を用いれば、引火点が250℃以上であり、40℃における動粘度が50〜150mm/s、好ましくは80〜120mm/s、GC蒸留による10%点が430〜480℃、90%点が520〜560℃の(B)成分を得ることができる。
【0118】
(第2の態様)
図2は、(B)成分の製造方法の第2の態様を示す工程模式図である。この態様では、2段階の極性溶剤抽出工程によって、第2のラフィネートを得たのち、当該第2のラフィネートに脱ろう処理を含む精製処理を施して(B)成分である潤滑油基油を得る工程である。
【0119】
(第1の極性溶剤抽出工程(4))
第1の極性溶剤抽出工程(4)では、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分を原料として用いる。この減圧蒸留留分と極性溶剤とを、第1の抽出塔30で向流接触させて、第1のエキストラクトと第1のラフィネートとに分離して、第1のエキストラクトと第1のラフィネートとを得る。極性溶剤は第1の抽出塔30の下流側に設けられる回収塔(図示しない)などを用いて適宜回収し、循環利用される。極性溶剤の種類は上記第1の態様と同様である
【0120】
第1の極性溶剤抽出工程(4)における第1の抽出塔30の塔底温度は30〜90℃とし、塔頂温度を塔底温度より高くする。
【0121】
(第2の極性溶剤抽出工程(4))
次に、第1の極性溶剤抽出工程(4)における塔底温度及び塔頂温度よりもそれぞれ10℃以上高い塔底温度及び塔頂温度を有する第2の抽出塔41において、第1のラフィネートと極性溶剤とを接触させて第2のラフィネートと第2のエキストラクトとを得る。この第2のラフィネートに、脱ろう装置50及び水素化仕上げ装置60を含む精製処理を施すことによって、(B)成分である潤滑油基油を得ることができる。なお、脱ろう装置50及び水素化仕上げ装置60としては、通常の装置を用いることができる。
【0122】
この製造方法は、上記「(A)成分の製造方法」の第2の態様で詳述した2段階の極性溶剤抽出工程と同様の工程によって得られた第2のラフィネートに、脱ろう処理を含む精製処理を施して(B)成分である潤滑油基油を得る方法である。この第1の極性溶剤抽出工程(4)及び第2の極性溶剤抽出工程(4)は、上記第1の極性溶剤抽出工程(2)及び第2の極性溶剤抽出工程(2)と同様にして行うことができる。
【0123】
以上の製造方法により、200〜1500N、好ましくは250〜600N及び/又は600〜1200N、より好ましくは300〜450N及び/又は700〜1000Nの潤滑油基油((B)成分)を得ることができる。
【0124】
なお、原料として、300〜400N相当の減圧蒸留留分を用いる場合、引火点が250℃以上であり、40℃における動粘度が60〜80mm/s、GC蒸留による10%点が400〜460℃、90%点が500〜540℃である(B)成分を得ることができる。
【0125】
また、原料として、700N〜1000N相当の減圧蒸留留分を用いる場合、引火点が250℃以上であり、40℃における動粘度が120〜250mm/s、GC蒸留による10%点が450〜520℃、90%点が540〜600℃である(B)成分を得ることができる。
【0126】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記(A)成分の製造方法の第1の態様で用いた図1に示す製造装置において、第1の抽出塔30及び第2の抽出塔40の下流側にそれぞれ設けられた脱ろう装置50及び水素化仕上げ装置60により、第1,2のラフィネートを精製して(B)成分である潤滑油基油を得てもよい。
【実施例】
【0127】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
(実施例1〜3、比較例1)
[(A)成分の製造]
図1に示すような製造装置を用いて(A)成分を製造した。具体的には、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留残渣油とプロパンとを第1の脱れき塔10で向流接触させて、減圧蒸留残渣油をプロパン脱れきし、第1の脱れき油と第1の含れき油(プロパンにより抽出されなかった残油)とを分離した(第1の脱れき工程)。
【0129】
第1の脱れき工程においては、第1の脱れき油(プロパンを留去したもの)の収率が上記減圧蒸留残渣油に対し1〜20容量%、第1の脱れき油の100℃における動粘度が15〜30mm/sとなるように、脱れき条件(溶剤比、塔頂温度及び塔底温度)を調整した。溶剤比は減圧蒸留残渣油を基準とする体積比で1〜4、脱れき塔の塔頂温度は80〜100℃、塔底温度は60〜90℃の範囲で調整した。
【0130】
次に、第1の含れき油とプロパンとを第2の脱れき塔20で向流接触させて、第1の含れき油をプロパン脱れきし、第2の脱れき油と第2の含れき油(プロパンにより抽出されなかった残油)とを分離した(第2の脱れき工程)。
【0131】
第2の脱れき工程においては、第2の脱れき油(プロパンを留去したもの)の収率が第1の脱れき工程における原料である減圧蒸留残渣油に対し15〜50容量%、第2の脱れき油の100℃における動粘度が30〜60mm/sとなるように、脱れき条件(溶剤比、塔頂温度及び塔底温度)を調整した。溶剤比は第1の脱れき工程より大きくし、第2の脱れき塔20の塔頂温度及び塔底温度は、それぞれ第1の脱れき塔10の塔頂温度及び塔底温度よりも低くした。具体的には、溶剤比は、第1の含れき油を基準とする体積比で4〜8、塔頂温度及び塔底温度はそれぞれ60〜90℃及び40〜80℃の範囲で調整した。
【0132】
表1に第1の脱れき工程と第2の脱れき工程の脱れき条件と、得られた脱れき油及び含れき油の収率を示す。
【0133】
【表1】

【0134】
次に、第1の脱れき油及び第2の脱れき油を、それぞれ第1の抽出塔30及び第2の抽出塔40でフルフラールと向流接触させて、第1のエキストラクトA1及び第2のエキストラクトA2を得た(第1の極性溶剤抽出工程(1)及び第1の極性溶剤抽出工程(2))。
【0135】
第1の極性溶剤抽出工程(1)においては、第1のエキストラクトの100℃における動粘度が30〜70mm/s、第1のエキストラクトの収率が、第1の脱れき油に対し15〜45容量%、アニリン点が90℃以下、引火点が250℃以上、アスファルテン分が3質量%以下となるように、抽出条件(溶剤比、第1の抽出塔30の塔頂温度及び塔底温度)を調整した。具体的には、溶剤比は第1の脱れき油を基準とする体積比で2〜4、塔頂温度は100〜150℃、塔底温度は60〜130℃の範囲で調整した。
【0136】
第1の極性溶剤抽出工程(2)においては、第2のエキストラクトの100℃における動粘度が70〜150mm/s、第2のエキストラクトの収率が、第2の脱れき油に対し15〜45容量%、アニリン点が90℃以下、引火点が250℃以上、アスファルテン分が3質量%以下となるように、抽出条件(溶剤比、第2の抽出塔40の塔頂温度及び塔底温度)を調整した。具体的には、溶剤比は第2の脱れき油を基準とする体積比で2〜4、塔頂温度は100〜150℃、塔底温度は60〜130℃の範囲で調整した。
【0137】
表2に、第1の極性溶剤抽出工程(1)及び第1の極性溶剤抽出工程(2)の抽出条件及び第1のエキストラクトA1及び第2のエキストラクトA2の収率を示す。なお、第1のエキストラクトA1及び第2のエキストラクトA2には、精製処理を施さなかった。
【0138】
【表2】

【0139】
[(B)成分の製造]
図3に示すような製造装置を用いて(B)成分を製造した。具体的には、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分として500N相当留分を準備した。この500N相当留分を第1の抽出塔30でフルフラールと向流接触させて、第1のラフィネートと第1のエキストラクトCを得た(第1の極性溶剤抽出工程(3))。
【0140】
第1の抽出塔30における塔底温度は30〜90℃、塔頂温度は塔底温度より高い温度とした。得られた第1のラフィネートに、脱ろう処理、水素化仕上げ処理等の精製処理を施して潤滑油基油B1を得た。第1の極性溶剤抽出工程(3)の抽出条件、並びに第1のラフィネート及び第1のエキストラクトCの収率を表3に示す。
【0141】
【表3】

【0142】
第1の極性溶剤抽出工程(1)で得られた第1のエキストラクトA1(基材1)、第1の極性溶剤抽出工程(2)で得られた第2のエキストラクトA2(基材2)、第1の極性溶剤抽出工程(3)で得られた第1のエキストラクトC(基材3)及び第1の極性溶剤抽出工程(3)で得られた第1のラフィネートを精製処理して得られた潤滑油基油B1(基材4)の性状を表4に示す。
【0143】
【表4】

【0144】
表4に示すとおり、第1のエキストラクトA1及び第2のエキストラクトA2は、どちらも特定芳香族化合物の含有量が特定量(10ppm)未満であった。一方、減圧蒸留留分の第1の極性溶剤抽出工程(3)から得られた第1のエキストラクトCは、特定芳香族化合物の含有量が特定量を超えていた。
【0145】
上記のようにして得られた第2のエキストラクトA2及び潤滑油基油B1を表5に示す割合で配合して実施例1〜3のゴム配合油を調製した。また、第1のエキストラクトCと潤滑油基油B1を表5に示す割合で配合して比較例1のゴム配合油を調製した。各ゴム配合油の性状を表5に示す。
【0146】
表5における予想流動点は、加成性が成立するとの前提で、(A)第2のエキストラクトA2の流動点と(B)潤滑油基油B1の流動点から算出したものである。
【0147】
【表5】

【0148】
表5から、実施例1〜3のゴム配合油は、基材の流動点から算出された予想流動点よりも少なくとも5℃以上低い流動点を示した。また、実施例1〜3のゴム配合油の特定芳香族化合物の含有量は特定量未満であることが確認された。なかでも実施例2のゴム配合油は、流動点が−5℃であり、予想流動点よりも7.5℃低かった。これに対し、比較例1のゴム配合油では、特定芳香族化合物の含有量が特定量を超えていた。
【0149】
実施例2のゴム配合油について、ASTM D2007(クレイゲル法)に準拠して組成を分析した結果、飽和分が30.5質量%、芳香族分が61.3質量%、極性化合物が8.2質量%、飽和分/極性化合物比率が3.7であった。
【0150】
(実施例4,5、比較例2,3)
[(A)成分の製造]
図2に示すような製造装置を用いて(A)成分を製造した。具体的には、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分(350N相当留分)とフルフラールとを第1の抽出塔30で向流接触させて、350N相当留分を、第1のラフィネートと第1のエキストラクトDとに分離した。第1の抽出塔30における塔底温度は30〜90℃とした(第1の極性溶剤抽出工程(2))。
【0151】
次に、第1のラフィネートとフルフラールとを第2の抽出塔41で向流接触させて、第1のラフィネートを、第2のラフィネートと第1のエキストラクトA3とに分離した(第2の極性溶剤抽出工程(2))。第2の極性溶剤抽出工程(2)における第2の抽出塔41の塔頂温度及び塔底温度は、第1の極性溶剤抽出工程(2)における第1の抽出塔30の塔頂温度及び塔底温度よりも、それぞれ10℃以上高くした。
【0152】
これによって、第2のラフィネートと、15℃における密度が0.94g/cm以上、ASTM D2549に準拠して測定される全芳香族分が30質量%以上の第2のエキストラクトA3とを得た。
【0153】
表6に、第1の極性溶剤抽出工程(2)及び第2の極性溶剤抽出工程(2)の抽出条件と、各ラフィネート及びエキストラクトの収率を示す。
【0154】
【表6】

【0155】
また、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分(900N相当留分)を原料として用い、抽出条件を若干変更したこと以外は、第1の極性溶剤抽出工程(2)及び第2の極性溶剤抽出工程(2)と同様にして、図2に示す製造装置を用いて第1の極性溶剤抽出工程(2)及び第2の極性溶剤抽出工程(2)を行い、第1の抽出塔30から第1のラフィネート及び第1のエキストラクトEを、第2の抽出塔41から第2のラフィネート及び15℃における密度が0.94g/cm以上、ASTM D2549に準拠して測定される全芳香族分が30質量%以上の第2のエキストラクトA4を得た。
【0156】
表7に、減圧蒸留留分として900N相当留分を用いたときの第1の極性溶剤抽出工程(2)及び第2の極性溶剤抽出工程(2)の抽出条件と、各ラフィネート及びエキストラクトの収率を示す。
【0157】
【表7】

【0158】
表6及び表7における第1のエキストラクトD及びEは、特定芳香族化合物の含有量が10質量ppmを超えるものであった。
【0159】
次に、表6及び7における第2のラフィネートに、MEK脱ろう処理及び水素化仕上げ処理を施して、それぞれ潤滑油基油B2及びB3を得た。また、得られた第2のエキストラクトA3と第2のエキストラクトA4とを37.5:62.5(質量比)で混合し、40℃における動粘度が650mm/s未満の第2のエキストラクトA5を得た。
【0160】
このようにして得られた第2のエキストラクトA4及びA5、潤滑油基油B2及びB3の性状を表8に示す。
【0161】
【表8】

【0162】
上記のようにして得られた第2のエキストラクトA4及び潤滑油基油B2又はB3を、表9に示す割合で配合して、実施例4,5のゴム配合油を調製した。また、第2のエキストラクトA5又は第1のエキストラクトEと(B)潤滑油基油B3とを、表9に示す割合で配合して比較例2,3のゴム配合油を調製した。各ゴム配合油の性状を表9に示す。
【0163】
【表9】

【0164】
表9における予想流動点は、加成性が成立するとの前提で、(A)第2のエキストラクトA2の流動点及び(B)潤滑油基油B1の流動点とこれらの配合比とから算出したものである。
【0165】
表9から、実施例4,5のゴム配合油は、基材の流動点から算出された予想流動点よりも少なくとも5℃以上低い流動点を示した。また、実施例4,5のゴム配合油の特定芳香族化合物の含有量は特定量(10ppm)未満であった。これに対し、比較例2のゴム配合油は予想流動点よりも高い値を示し、比較例3のゴム配合油は特定芳香族化合物の含有量が特定量を超えていた。
【0166】
なお、実施例1、実施例2及び実施例3、並びに実施例4及び実施例5のゴム配合油について、DSC(示差走査熱量計)を用いて上述の方法でガラス転移点(Tg)を測定した結果、それぞれ−44.5℃、−51.3℃及び−55.0℃、並びに−52.5℃及び−51.7℃であった。すなわち、実施例1〜5のゴム配合油は、特定のエキストラクトと潤滑油基油を混合することで、特許文献1でいう、%Cが20〜35、ガラス転移温度Tgが−55℃〜−30℃、動粘度(100℃)が20〜50mm/sの規定を満たすとともに、特定の芳香族化合物(PAH)の含有量の合計を所定量以下とすることができ、さらに、流動点が予想される流動点よりも低く優れたものとなっている。
【0167】
したがって、実施例1〜5のゴム配合油を、例えば天然ゴム(NR)、各種ブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(BR)及びこれらの任意ブレンドゴム等のジエン系ゴム、特にスチレン−ブタジエン共重合体ゴムを少なくとも1種類含むジエン系ゴムに配合すれば、低燃費性とグリップ性を両立でき、耐熱老化性や耐摩耗性を向上することができる。
【符号の説明】
【0168】
10…第1の脱れき塔、20…第2の脱れき塔、30…第1の抽出塔、40,41…第2の抽出塔、50…脱ろう装置、60…水素化仕上げ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキストラクト(A)と潤滑油基油(B)とを含有するゴム配合油であって、
前記エキストラクト(A)は、
アニリン点が40〜90℃、
ASTM D3238による%Cが25〜45及び%Cが5〜20、
窒素分が0.01質量%以上、
流動点が+30℃以下、
ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、
特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、並びに
40℃における動粘度が650mm/s以上であり、
前記潤滑油基油(B)は、
流動点が−10℃以下、
アニリン点が70℃以上、
ASTM D3238による%Cが3〜20及び%Cが15〜35、
窒素分が0.01質量%以下、
GC蒸留における90%点が500℃以上、
引火点が250℃以上、
ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、
特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、であるゴム配合油。
【請求項2】
前記エキストラクト(A)が、
原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留残渣油を1段階又は2段階で脱れきして得られた脱れき油を極性溶剤と接触させて抽出されたエキストラクトである、請求項1に記載のゴム配合油。
【請求項3】
前記エキストラクト(A)が、2段階の極性溶剤抽出工程によって得られたエキストラクトを含んでおり、
当該エキストラクトは、塔底温度が30〜90℃、塔頂温度が塔底温度よりも高い第1の抽出塔で原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分と極性溶剤と接触させて得られたラフィネートと極性溶剤とを、塔底温度及び塔頂温度が前記第1の抽出塔のよりもそれぞれ10℃以上高い第2の抽出塔において接触させて得られたものであり、
前記エキストラクトの15℃における密度が0.94g/cm以上、ASTM D2549による全芳香族分が30質量%以上である、請求項1又は2に記載のゴム配合油。
【請求項4】
前記潤滑油基油(B)が、1段階の極性溶剤抽出工程によって得られた第1のラフィネートの脱ろう油(c)及び/又は2段階の極性溶剤抽出工程によって得られた第2のラフィネートの脱ろう油(d)を含んでおり、
前記脱ろう油(c)は、塔底温度が30〜90℃、塔頂温度が塔底温度よりも高い第1の抽出塔において、原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留分と極性溶剤とを接触させて得られた前記第1のラフィネートに脱ろう工程を含む精製処理を行って得られたものであり、
前記脱ろう油(d)は、塔底温度及び塔頂温度が前記第1の抽出塔よりもそれぞれ10℃以上高い第2の抽出塔において、前記第1のラフィネートと極性溶剤とを接触させて得られた前記第2のラフィネートに脱ろう工程を含む精製処理を行って得られたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム配合油。
【請求項5】
アニリン点が40〜90℃、ASTM D3238による%Cが25〜45及び%Cが5〜20、窒素分が0.01質量%以上、流動点が+30℃以下、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下、並びに40℃における動粘度が650mm/s以上であるエキストラクト(A)と、
流動点が−10℃以下、アニリン点が70℃以上、ASTM D3238による%Cが3〜20及び%Cが15〜35、窒素分が0.01質量%以下、GC蒸留における90%点が500℃以上、引火点が250℃以上、前記ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下、前記特定芳香族化合物の合計含有量が10質量ppm以下である潤滑油基油(B)と、を配合する工程を有する、ゴム配合油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229314(P2010−229314A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79051(P2009−79051)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】