説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】ゴルフボールの打球時において、フェース部に生じる所定の振動モードの振動を軽減することができるゴルフクラブヘッドを提供すること。
【解決手段】ゴルフクラブヘッド100は、中空構造を有する。フェース部110の裏面には、周囲よりも質量が大きい質量部200が設けられている。質量部200は、フェース部110が所定の振動モードで振動した時の腹となる部分に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドのフェース部における反発能力の分布を均一化させる事を主目的として、フェース部の裏面に厚肉部や薄肉部を設ける手法が用いられている。例えば、特許文献1には、フェース部の裏面の中央部分のみにリブを設けたゴルフクラブヘッドが開示されている。また、特許文献2には、フェース部の裏面に薄肉部を複数設けたゴルフクラブヘッドが開示されている。また、特許文献3には、フェース部の裏面の中央部分に肉厚部を設け、さらにその上方に溝を設けたゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−87428号公報
【特許文献2】特開2003−102879号公報
【特許文献3】特開2004−187795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、ゴルフボールの打球時には、ゴルフクラブヘッド上部のクラウン面から打撃音が発せられると共に、フェース部の振動によってフェース部からも打撃音が発せられる。これにより、フェース部から発せられた打撃音が、クラウン部から発せられた打撃音と重なり、結果的に不快な打撃音となってプレーヤに伝わってしまう等の不具合が生じてしまう。そこで、本発明は、ゴルフボールの打球時において、ゴルフボールの打球時において、フェース部に生じる所定の振動モードの振動を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、中空構造を有するゴルフクラブヘッドであって、フェース部の裏面において、ゴルフボールの打撃時に当該フェース部に生じる振動モードの振動の腹となる部分に、周囲よりも質量が大きい質量部が設けられていることを特徴とするゴルフクラブヘッドを提供する。
前記フェース部において前記質量部の厚さが前記周囲の厚さよりも大きく構成してもよい。
また、前記質量部は、チタンを鍛造法又は鋳造法により加工したものであり、5.5mm以上の厚さを有するものであってもよい。
また、前記質量部は、前記フェース部の裏面において、前記フェース部に生じる前記振動モードの振動の複数の腹となる部分の各々に設けられていてもよい。
また、前記フェース部の裏面において、前記フェース部の中心から、半径が25mmの円形の領域を第1の領域とし、前記フェース部の裏面にリブが設けられ、前記質量部は、前記リブが設けられている位置では当該リブの上に設けられており、前記リブは、前記フェース部の裏面の中央部にある部分と、前記中央部と前記第1の領域外にあるトウ側の領域とに渡ってトウ・ヒール方向に延伸する部分と、前記中央部と前記第1の領域外にあるヒール側の領域とに渡ってトウ・ヒール方向に延伸する部分と、前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側かつトウ側の領域とに渡って延伸する部分と、前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側かつヒール側の領域とに渡って延伸する部分と、前記第1の領域外にある領域のうち、トウ側の領域でクラウン・ソール方向に延伸する部分と、前記第1の領域外にある領域のうち、ヒール側の領域でクラウン・ソール方向に延伸する部分とを有し、前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側領域とに渡ってクラウン・ソール方向に延伸する部分と、前記中央部と前記第1の領域外にあるソール側領域とに渡ってトウ・ヒール方向に角度をなす方向に延伸する部分とを有しないようにしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明のゴルフクラブヘッドによれば、ゴルフボールの打球時において、フェース部に生じる振動モードの振動を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施例に係るゴルフクラブの外観を示す。
【図2】第1実施例に係るゴルフクラブヘッドの外観を示す。
【図3】第1実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図4】第1実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図5】第2実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図6】第2実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図7】第3実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図8】第3実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図9】第4実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図10】第4実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図11】第5実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図12】第5実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図13】第5実施例に係るフェース部の裏面における9つの領域を示す。
【図14】第6実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図15】第6実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図16】第7実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図17】第7実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図18】第8実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図19】第8実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部のA−A断面を示す。
【図20】非通過部分に設けられている肉厚部と設けられていない肉厚部の例を示す。
【図21】肉厚部の高さの理想的な組み合わせを示す。
【図22】試算されたCT値の平均値と標準偏差を示す。
【図23】試算で用いられた打撃位置を示す。
【図24】試算により見いだされた各領域の肉厚部の高さを示す。
【図25】第9実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図26】第10実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図27】第11実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図28】従来のゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図29】ゴルフクラブ及び従来のゴルフクラブの各々のCT値を示す。
【図30】変形例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の構造を示す。
【図31】変形例に係るゴルフクラブヘッドのフェース部の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施例)
図1は、第1実施例に係るゴルフクラブ10の外観を示す。ゴルフクラブ10は、ゴルフクラブヘッド100、クラブシャフト102、およびシャフトグリップ104を備える。クラブシャフト102のゴルフクラブヘッド100側の端部は、ゴルフクラブヘッド100のヒール部150に設けられたホーゼル160(図2参照)に差し込まれ、接着剤などによってゴルフクラブヘッド100に接着されている。クラブシャフト102のシャフトグリップ104側の端部においては、その外周面がある程度の幅を有するシャフトグリップ104によって覆われている。以降の説明では、ゴルフクラブヘッド100の、トウ側を「前」、ヒール側を「後」、クラウン側を「上」、ソール側を「下」とする。
【0009】
図2は、第1実施例に係るゴルフクラブヘッド100の外観を示す。ゴルフクラブヘッド100は、フェース部110、クラウン部120、ソール部130、トウ部140、及びヒール部150を有し、これら各部が一体成型されたものである。ゴルフクラブヘッド100は、チタンがその材料として用いられた鍛造製品である。なお、ゴルフクラブヘッド100は、鋳造製品であってもよい。ゴルフクラブヘッド100は、中空構造を有している。
【0010】
図3は、第1実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図4は、第1実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。図3は、ゴルフクラブヘッド100のフェース部110を切り出して、フェース面110Aの裏面(以下、「裏面110B」と示す。)側から示したものであり、図4は、そのA−A断面を示したものである。
【0011】
フェース部110の裏面110Bには、質量部200が設けられている。質量部200は、フェース部110と一体に形成されており、その材料はフェース部110と同じく例えばチタンである。質量部200とは、当該質量部200の周囲の部分よりも、単位面積辺りの質量が大きい部分の事を指す。フェース部110の裏面110Bにおいて、質量部200は、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動の腹となる部分に設けられている。ここで、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動の腹の位置については、例えばフェース部110に対して打撃時の衝撃を擬似的に与え、振動の状態を計測することで特定してもよいし、フェース部110に対して打撃時の衝撃を与えたときの振動をシミュレーションによって再現し、そのときの振動の状態を計算によって求めて特定してもよい。
【0012】
質量部200は、厚さT及び幅Wを有する。ここでいう厚さTとは、フェース面110Aから、質量部200においてフェース面110Aから最も遠い端面までの長さを意味する。また、幅Wとは、質量部200の前後方向の長さを意味する。質量部200は、その周囲の部分よりも単位面積辺りの質量が大きいが、ここでいう単位面積とは、フェース面110Aに垂直な方向から見たときの、予め決められた大きさの面積のことである。質量部200の厚さTは、質量部200以外のフェース部110の厚さよりも大きいため、フェース面110Aに垂直な方向から見たときの単位面積あたりの質量(質量部200をフェース面110Aの単位面積分だけ切り出したときの、その切り出された部分の質量)が、その周囲の単位面積あたりの質量(質量部200の周囲の任意のフェース部110をフェース面110Aの単位面積分だけ切り出したときの、その切り出された部分の質量)よりも大きいことになる。
【0013】
なお、図4では、(a)が鍛造法により製造されたフェース部110の断面を示し、(b)が鋳造法により製造されたフェース部110の断面を示している。これらの図で示されるように、フェース部110は、鍛造法で製造された場合、鋳造法で製造された場合に比べて角が丸くなる。鍛造法で製造された場合の幅Wは、フェース部110の裏面110B側の角の丸みを帯びた部分を含めた質量部200の前後方向の長さを意味する。
【0014】
この第1実施例では、質量部200の好適な仕様の一例として、円柱形状で、厚さTが5.5mm以上で、幅Wが10mm以上30mm以下のものを用いている。但し、質量部200の形状、サイズはこれに限定されるものではない。質量部200は、サイズ、形状、質量等の仕様は問わず、その単位面積あたりの質量が、その周囲の単位面積あたりの質量よりも大きくなってさえいれば、「振動を軽減することができる」という効果を奏することができる。
【0015】
物体の質量が大きいほど慣性質量が大きくなるから、外力が加わったときにその物体に生じる加速度が小さくなる。よって、このような質量が大きい質量部が振幅最大となる振動の腹の位置にあると、その振幅は小さくなるから、振動そのものが低減することになる。このように、この第1実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる一次固有振動モードの振動の腹となる部分に質量部200を設けたことにより、当該振動の振幅を低減するので、その結果、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、クラウン部120から発せられる、澄んだ心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。
【0016】
なお、周波数帯域によって一次固有振動モードが異なる場合は、振動を低減させたい周波数帯域の一次固有振動モードの振動の腹となる部分に質量部200を設けると良い。これにより、低減させたい周波数帯域の一次固有振動モードの振動の振幅を低減し、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。
【0017】
(第2実施例)
次に、第2実施例を説明する。第1実施例では、一次固有振動モードの振動を軽減するために質量部200を設ける事とした。質量部200を設けることにより軽減する振動は、一次固有振動モードのものに限らない。この第2実施例では、多次の固有振動モードの振動を低減するための質量部200を設ける例を説明する。多次の固有振動モードの振動は腹となる部分が複数あるので、当該振動を軽減する場合は、当該振動の腹となる複数の部分の各々に質量部200を設ける。なお、以降の説明において、特に説明しない部分については、第1実施例と同様である。
【0018】
図5は、第2実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図6は、第2実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。この第2実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110に生じる二次固有振動モードの振動を低減するために、フェース部110の裏面110Bに、複数の質量部200が設けられている。具体的には、二次固有振動モードの振動の場合、腹となる部分は2つとなる。そこで、この第2実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bにおいて、この腹となる2つの部分の各々に質量部200を設けたのである。
【0019】
このように、この第2実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる多次の固有振動モードの振動の腹となる複数の部分の各々に質量部200を設けたことにより、当該振動の振幅を低減し、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。
【0020】
(第3実施例)
次に、第3実施例を説明する。第1実施例及び第2実施例では、ある一つの振動モードの振動を軽減するために質量部200を設ける事とした。質量部200を設けることにより軽減する振動は、一つの振動モードのものに限らない。この第3実施例では、振動モードが異なる複数の振動を低減するための質量部200を設ける例を説明する。フェース部110に生じる振動はその振動モードによって腹となる部分が異なるので、振動モードが異なる複数の振動を軽減する場合は、複数の振動の各々の腹となる部分に質量部200を設ける。
【0021】
図7は、第3実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図8は、第3実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。この第3実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動と、二次固有振動モードの振動とをそれぞれ低減するために、フェース部110の裏面110Bに、複数の質量部200が設けられている。具体的には、一次固有振動モードの振動の場合、腹となる部分は1つとなる。また、二次固有振動モードの振動の場合、腹となる部分は2つとなる。そこで、この第3実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bにおいて、一次固有振動モードの振動の腹となる1つの部分に質量部200(図中の質量部200B)を設け、二次固有振動モードの振動の腹となる2つの部分にも質量部200(図中の質量部200A,C)を設けたのである。
【0022】
このように、この第3実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる、振動モードが異なる複数の振動の各々の腹となる部分に質量部200を設けたことにより、当該複数の振動の各々の振幅を低減し、当該複数の振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。
【0023】
(第4実施例)
次に、第4実施例を説明する。この第4実施例では、ある振動モードの振動の軽減効果をより高めるために、当該振動の腹となる1つの部分に対して複数の質量部200を設ける例を説明する。振動の腹となる部分に対する質量部200の数を増やすほど、すなわち、前述したように、物体の質量が大きいほど慣性質量が大きくなるから、外力が加わったときにその物体に生じる加速度が小さくなる。よって、振動の腹となる部分に対する質量部200の数を増やすほど、すなわち、振動の腹となる部分の質量が増すほど、当該振動の軽減効果を高めることができる。
【0024】
図9は、第4実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図10は、第4実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。この第4実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動を低減するために、その腹となる部分に質量部200が設けられている。上記したとおり、振動の腹となる部分の質量が増すほど、当該振動の軽減効果を高めることができる。そこで、この第4実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bにおいて、一次固有振動モードの振動の腹となる1つの部分に4つの質量部200を設けたのである。
【0025】
このように、この第4実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる、ある振動モードの振動の腹となる部分に対して、複数の質量部200を設けたことにより、当該振動の振幅をより低減し、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音をより低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。
【0026】
(第5実施例)
次に、第5実施例を説明する。この第5実施例では、フェース部の裏面にリブが設けられているゴルフクラブヘッドに対して、質量部200を設ける例を説明する。図11は、第5実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図12は、第5実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。第5実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bに対して、リブ300が設けられている。リブ300は、主にフェース部110の反発能力の分布を平均化するためのものであり、他の部分よりも肉厚になっている肉厚部によって構成されている。この第5実施例では、リブ300は、フェース部110と一体に形成されているが、フェース部110とは別に形成され、フェース部110と溶接、接着等により接合されたものであっても良い。
【0027】
第5実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動を低減するために、その腹となる部分に質量部200が設けられている。上記したとおり、振動の腹となる部分の質量が増すほど、当該振動の軽減効果を高めることができる。そこで、この第5実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bにおいて、一次固有振動モードの振動の腹となる1つの部分に4つの質量部200を設けている。これら4つの質量部200が設けられる場所には、リブ300が設けられている。このため、これら複数の質量部200は、リブ300上に設けられている。この第5実施例では、これら複数の質量部200は、リブ300の一部としてリブ300と一体的に形成されているが、リブ300とは別に形成され、リブ300と溶接、接着等により接合されたものであっても良い。
【0028】
リブ300は、肉厚部301、302R、302L、304R、304L、306、308、310によって構成されている。これらの肉厚部の形状及び配置について、図13を参照して説明する。
図13は、フェース部110の裏面110Bにおける9つの領域を示す図である。図13では、説明を判り易くする為、リブ300及び質量部200の図示を省略する。図13(a)に示すように、フェース部110においては、上側(クラウン側)から下側(ソール側)に向かう方向を上下方向(クラウン・ソール方向)といい、前方(トウ側)から後方(ヒール側)に向かう方向を前後方向(トウ・ヒール方向)というものとする。また、図13では、フェース部110の中心をPで示し、中心Pを通る前後方向の直線をL1、中心Pを通る上下方向の直線をL2で示している。
中央部Dは、中心Pを中心とした、半径r1=10mmの円形の領域である。
【0029】
領域Eは、領域E1、E2、E3、E4からなり、フェース部110の裏面110Bのうち、中心点Pから半径r2=25mmの円形の領域であって、中央部Dを除いた領域である。領域E1は、領域Eのうち、上部前方にある領域である。ここにおいて、領域Eの上部とは、領域Eの上側の半分の領域をいい、領域Eの上部前方とは、領域Eの上側の半分の領域のうち、さらに前方の半分の領域をいう。ここで、領域Eは、直線L1によって上下に半分ずつ分割され、直線L2によって前後に半分ずつ分割されている。つまり、領域E1は、直線L1を上下方向の境界とし、直線L2を前後方向の境界とする領域である。領域E2は、領域Eのうち、上部後方にある領域であり、領域E3は、領域Eのうち、下部後方にある領域である。また、領域E4は、領域Eのうち、下部前方にある領域である。領域E2、E3、E4も、領域E1と同様に、直線L1を各領域の上下方向の境界とし、直線L2を前後方向の境界とする領域である。
中央部Dと領域Eとを合わせた領域は、本発明に係る「第1の領域」に相当する。
【0030】
領域Fは、領域F1、F2、F3、F4からなり、フェース部110の裏面110Bのうち、中央部Dと領域Eとを除いた領域である。領域F1は、領域Fのうち、上部前方にある領域であり、領域F2は、領域Fのうち、上部後方にある領域である。また、領域F3は、領域Fのうち、上部後方にある領域であり、領域F4は、領域Fのうち、下部前方にある領域である。また、領域Fをなすこれらの領域も、領域E1と同様に、直線L1を各領域の上下方向の境界とし、直線L2を前後方向の境界とする領域である。
【0031】
続いて、図11、13を参照しながら、各肉厚部の形状について説明する。肉厚部301は、中央部Dに設けられている。肉厚部302Rは、領域Fの前方の領域(つまり領域F1、F4)と中央部Dとに渡って前後方向に延伸するように設けられている。また、肉厚部302Lは、中央部Dと領域Fの後側の領域(つまり領域F2、F3)とに渡って前後方向に延伸するように設けられている。肉厚部304Rは、中央部Dと領域F1とに渡って、直線L1及びL2に対して角度をなして延伸するように設けられている。肉厚部304Lは、中央部Dから領域E3まで延伸しているが、領域F3には到達しないように設けられている。肉厚部306は、中央部Dと領域F2とに渡って、直線L1及びL2に対して角度をなして延伸するように設けられている。肉厚部306は、領域E4には設けられていない。肉厚部302R、302L、304R、304L、306は、中央部Dで肉厚部301とそれぞれ接続している。肉厚部308は、領域F1とF4とに渡って上下方向に延伸し、かつ、中心P側を内側とする弧を描くように設けられている。肉厚部310は、領域F2とF3とに渡って上下方向に延伸し、かつ、中心P側を内側とする弧を描くように設けられている。
【0032】
これらの肉厚部は、いずれも同じ厚さとなるようにそれぞれ設けられている。具体的には、肉厚部301、302R、302Lは、図12に示すとおり、裏面110Bからの高さがT1となるような厚さで設けられている。また、肉厚部304R、304L、306、308、310は、肉厚部302R、302Lと同様に、裏面110Bからの高さがT1となるような厚さで設けられている。これらの肉厚部は、本発明に係る「リブ」が有する「部分」の例に相当する。
【0033】
フェース部110の裏面110Bでは、領域Eにおいて、中央部Dと領域Fとに渡って延伸する肉厚部が設けられていない部分が定められている。つまり、中央部Dからこの部分を通過して領域Fまで延伸する肉厚部が設けられていないことになり、以下では、この部分を「非通過部分」という。以下、非通過部分について詳細に説明する。
図13(b)は、フェース部110の裏面110Bにおける非通過部分N1、N2(以下、区別しない場合は「非通過部分N」という。)を示している。非通過部分N1は、領域Eのうち、中央部Dから上下方向に沿って領域Fの上部領域(すなわち領域E1、E2)に渡って延在する部分である。また、非通過部分N2は、領域Eの下部領域(すなわち領域E3、E4)である。なお、非通過部分N2においては、中央部Dと領域Fとに渡って前後方向に延伸する肉厚部、すなわち肉厚部302R、302Lが設けられていてもよい。つまり、非通過部分N2は、中央部Dと領域Fの下部領域とに渡って前後方向に角度をなす方向に延伸する肉厚部が設けられていない部分として定められている。
また、非通過部分Nには、中央部Dと領域Fとに渡って延伸するものでなければ、肉厚部が設けられていてもよい。例えば、図11に示す肉厚部304Lである。肉厚部304Lは、中央部Dから非通過部分N2まで延伸しているが、上述したとおり、中央部Dと領域F3とに渡っては延伸しないように設けられている。
【0034】
図20は、非通過部分Nに設けられていない肉厚部の例を示す図である。図20(a)に示す肉厚部314Xは、中央部Dから非通過部分N1を通過して上下方向に沿って領域Fの上部領域に渡って延伸するように設けられている。図20(b)に示す肉厚部315Xは、中央部Dから非通過部分N2を通過して領域Fの下部領域に渡って前後方向に角度をなす方向に延伸するように設けられている。フェース部110の裏面110Bには、非通過部分Nが定められているため、肉厚部314X、315Xのような肉厚部が設けられていないのである。
以上に述べた各肉厚部及び非通過部分Nの形状、配置及び高さは、次のようにして定められた。
【0035】
図21は、フェース部110の裏面110Bにおいて領域G1からG11までの11箇所に肉厚部を設ける場合における肉厚部の高さを、遺伝的アルゴリズム技術を用いて、反発分布、重心設計での理想的な組み合わせを探索した結果の図である。領域G1は、中央部Dに存在する半径8mmの円形の領域である。領域G2からG9は、中心P側の端部が中央部Dと接し、領域Eを通過して領域Fまで放射状にそれぞれ延在する領域である。領域10は、領域F2とF3とに渡って上下方向に延在し、かつ、中心P側を内側とする弧を描く形状の領域である。領域11は、領域F1とF4とに渡って上下方向に延在し、かつ、中心P側を内側とする弧を描く形状の領域である。発明者らは、図21に示す高さの組み合わせを次にようにして得た。
図22は、領域G1からG11までに設ける肉厚部の高さを様々に変化させた場合に、後述する位置において試算されたCT(Characteristic Time)値(特性時間値)と呼ばれる柔軟性の値の平均値と標準偏差とを示したグラフである。このグラフでは、縦軸にCT値の平均値(μSec)が示され、横軸にCT値の標準偏差(μs)が示されている。
【0036】
ここにおいて、CT値とは、フェース部のある位置でゴルフボールを打球したときの、その位置におけるフェース部の弾性を、ゴルフボールとフェース部との接触時間(単位:μs)に基づいて示したものである。以下では、CT値を測定する位置を「打撃位置」という。CT値が高くなる程、すなわち、上記接触時間が長くなる程、フェース部が撓み易くなって、ゴルフボールの飛距離が向上する。ゴルフボールが飛びすぎないよう、CT値の上限値が239μs(+18μsの誤差が許容される)とルールで規定されており、CT値がこの上限値を超えるゴルフクラブは、ルールに適合しないものとして判断される。フェース部110の各打撃位置において得たいCT値は、上限値+誤差の257μsという値に対して、製造時のばらつきなどを考慮して定めることが望ましい。
【0037】
図23は、図22の試算で用いられた打撃位置を示す図である。図23に示すように、図13に示した直線L1を上下方向のセンターに位置する直線として、L1より10mm上側にあるL1と平行な直線をL3、L1より10mm下側にあるL1に平行な直線をL4とする。また、図13に示した直線L2を前後方向のセンターに位置する直線として、L2より20mm前方にあるL2に平行な直線をL5、L2より20mm後方にあるL2に平行な直線をL6とする。図22は、これらの直線が交わる9つの点を打撃位置と想定して、CT値をそれぞれ試算した結果得られたグラフである。
図22のグラフに示すように、上記9つの打撃位置のCT値の試算を大量に行うことで、試算された9つのCT値の平均値及び標準偏差がいずれも小さくなる肉厚部の高さの組み合わせGが得られた。この組み合わせGにおける試算では、CT値の平均値が249.7μs、CT値の標準偏差が10.7μsであった。
【0038】
図24は、組み合わせGにおける各領域の肉厚部の高さを示すグラフである。このグラフでは、縦軸に高さ(mm)が示され、横軸にG1からG11までの各領域が示されている。このグラフでは、領域G1、G3、G4、G8、G9には、高さ5mmの肉厚部を設けることが示され、領域G11には、高さ3mm程度の肉厚部を設けることが示されている。また、領域G2、G5、G6、G7、G10には、高さ1mm程度かそれ以下の肉厚部を設けることが示されている。この組み合わせGの試算結果から、発明者らは、フェース部110の裏面110Bの肉厚部の高さの理想的な組み合わせを次のように定めた。
【0039】
図21に示す領域G1、G3、G4、G8、G9、G10、G11には、裏面110Bからの高さがT1となる厚さの肉厚部を設けるものとする。また、領域G2、G5、G6、G7には、領域G1側の端部からその反対側の端部まで延伸するような肉厚部を設けないものとする。これらの領域G2、G5、G6、G7は、上記非通過部分Nに存在する領域である。フェース部110は、裏面110Bにこのように配置された肉厚部を設けることで、上記9つの打撃位置におけるCT値がルールの上限を超えない範囲で、そのばらつき、すなわち標準偏差を最小に近い値に抑えることができる。これにより、フェース部110の反発能力の分布の均一化が図られる。上述した第5実施例のフェース部110の裏面110Bにも、以上のとおり定めた肉厚部の高さの理想的な組み合わせに則ってリブ300が設けられている。
【0040】
このように、この第5実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、フェース部110の裏面110Bにリブ300を設けた事により、フェース部110の反発能力の分布の均一化を図る事ができると共に、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる、ある振動モードの振動の腹となる部分に対して質量部200を設けた事により、当該振動の振幅を低減し、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。また、質量部200を設けたことにより、従来のゴルフクラブヘッドに設けられているような、ソール側且つトウ側の所定の領域の肉厚部を設けなくとも、反発能力の分布を容易に均一化することができるので、フェース部110を軽量化することができる。
【0041】
(第6実施例)
次に、第6実施例を説明する。この第6実施例では、フェース部の裏面にリブが設けられているゴルフクラブヘッドに対して、質量部200を設ける例を説明する。第5実施例では、フェース部の裏面にリブが設けられているゴルフクラブヘッドに対して、一次固有振動モードの振動を軽減するために質量部200を設ける事とした。フェース部の裏面にリブが設けられている場合であっても、質量部200を設けることにより軽減する振動は、一次固有振動モードのものに限らない。多次の固有振動モードの振動は腹となる部分が複数あるので、当該振動を軽減する場合は、当該振動の腹となる複数の部分の各々に質量部200を設ける。
【0042】
図14は、第6実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図15は、第6実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。この第6実施例のゴルフクラブヘッド100は、第5実施例のゴルフクラブヘッド100と同様のリブ300が、フェース部110の裏面110Bに設けられている。この第6実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110に生じる二次固有振動モードの振動と、二次固有振動モードの振動とをそれぞれ低減するために、フェース部110の裏面110Bに、複数の質量部200が設けられている。具体的には、一次固有振動モードの振動の場合、腹となる部分は1つとなる。また、二次固有振動モードの振動の場合、腹となる部分は2つとなる。そこで、この第6実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bにおいて、一次固有振動モードの振動の腹となる1つの部分に質量部200(図中の質量部200B)を設け、二次固有振動モードの振動の腹となる2つの部分にも質量部200(図中の質量部200A,C)を設けたのである。
【0043】
このように、この第6実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、フェース部110の裏面110Bにリブ300を設けた事により、フェース部110の分布の均一化を図る事ができると共に、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる、振動モードが異なる複数の振動の各々の腹となる複数の部分に質量部200を設けた事により、当該複数の振動の各々の振幅を低減し、当該複数の振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減する事ができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせる事ができる。
【0044】
(第7実施例)
次に、第7実施例を説明する。この第7実施例では、質量部200を設けたことによりリブ300の構成を異ならせた例を説明する。図16は、第7実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図17は、第7実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。この第7実施例のゴルフクラブヘッド100は、第5実施例のゴルフクラブヘッド100(図11及び図12参照)と同様にリブ300が設けられているが、クラウン部とソール部とを接続する肉厚部308及び肉厚部310が設けられていない点で、第5実施例のゴルフクラブヘッド100と相違する。この第7実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、質量部200を設けたことにより、従来のゴルフクラブヘッドに設けられているようなクラウン部とソール部とを接続する肉厚部を設けなくとも、反発能力の分布を容易に均一化することができるので、フェース部110を軽量化することができる。
【0045】
(第8実施例)
次に、第8実施例を説明する。既に説明したとおり、質量部200は、局所的に質量を増加させることができるものであれば、そのサイズや形状は問わない。これまでの、実施例では、質量部200として、円柱形のものを用いた例を説明した。この第8実施例では、質量部200の形状をこのまでの実施例と異ならせた例を説明する。図18は、第8実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。図19は、第8実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110のA−A断面を示す。
【0046】
第8実施例のゴルフクラブヘッド100は、フェース部110の裏面110Bに対して、第5実施例のゴルフクラブヘッド100(図11及び図12参照)と同様の、リブ300が設けられている。また、第8実施例のゴルフクラブヘッド100は、第5実施例のゴルフクラブヘッド100と同様に、フェース部110に生じる一次固有振動モードの振動を低減するために、その腹となる部分に質量部200が設けられている。
【0047】
ここで、第8実施例のゴルフクラブヘッド100は、質量部200の形状が、第5実施例のゴルフクラブヘッド100と異なる。具体的には、第5実施例のゴルフクラブヘッド100は、円柱状の質量部200が4つ設けられていたのに対し、この第8実施例のゴルフクラブヘッド100は、円筒状の質量部200が1つ設けられているのである。ここで、この第8実施例の質量部200は、1つの質量部200で第5実施例の4つの質量部200と同様の荷重効果を得るために、その外径が、第5実施例のものよりも大きくなっている。
【0048】
このように、この第8実施例のゴルフクラブヘッド100によれば、ゴルフボールの打球時にフェース部110に生じる固有振動モードの振動の腹となる部分に対し、第5実施例とは異なる形状、サイズ、及び数の質量部200を設けたが、その荷重効果は変わらないため、第5実施例と同様に、当該振動の振幅を低減し、当該振動によってフェース部110から発せられる打撃音を低減することができる。よって、クラウン部120から発せられた打撃音が、フェース部110から発せられた打撃音と重なりにくくなり、より心地良い打球音をプレーヤに聞き取らせることができる。
【0049】
(第9実施例)
次に、第9実施例を説明する。本実施例では、第8実施例に係るリブ300の領域E3、E4における構成を異ならせた例を説明する。
図25は、本実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。本実施例のフェース部110は、領域E4の途中まで延伸している肉厚部306Rが設けられている点で、第8実施例のフェース部110と相違する。この肉厚部306Rは、非通過部分N2を通過するところまでは延伸しておらず、領域F4には到達しないように設けられている。つまり、本実施例のフェース部110は、上述した肉厚部の高さの理想的な組み合わせに則った肉厚部が設けられたものである。また、本実施例のゴルフクラブヘッド100は、第8実施例のゴルフクラブヘッド100と比べて、中心Pよりも下側に設けられた肉厚部の重量が増えるために重心が低くなる。なお、これと同様に、本実施例のゴルフクラブヘッド100の領域E3、E4に設ける肉厚部の構成を変化させることで、ゴルフクラブヘッド100の重心を変化させてもよい。
【0050】
図26は、フェース部110の領域E3、E4に設ける肉厚部の構成を変化させた場合の構造を示す図である。図26(a)は、図25に示すリブ300から、領域E3、E4に延伸する肉厚部304L、306Rを除いた構成を示し、図26(b)は、図25に示すリブ300から、領域E3、E4に設けられる肉厚部312をさらに増やした構成を示している。図26(a)に示すゴルフクラブヘッド100は、第8実施例のゴルフクラブヘッド100と比べて、中心Pよりも下側に設けられた肉厚部の重量が減って重心が高くなる。また、図26(b)に示すゴルフクラブヘッド100は、図25に示す本実施例のゴルフクラブヘッド100と比べて、中心Pよりも下側に設けられた肉厚部の重量が増えて重心が低くなる。このように、ゴルフクラブヘッド100においては、フェース部110に非通過部分Nを通過しない範囲で肉厚部を設けることによって、反発能力の分布を均一化しつつ、重心の位置を変更することができる。
【0051】
(第10実施例)
次に、第10実施例を説明する。この第10実施例では、図26(b)に示したリブ300よりも、さらに重心を低くするようにリブ300を設けた例を説明する。
図27は、本実施例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。本実施例のフェース部110には、肉厚部308、310が、それぞれ肉厚部304R、306Lを超えて上側まで延伸しないように設けられている。また、本実施例のフェース部110には、図26(b)に示したリブ300同様、中央部Dから領域E3、E4に延伸し、かつ、これらの領域を通過するところまでは延伸しないように肉厚部304L、306R、312が設けられている。このように、本実施例のゴルフクラブヘッド100は、第9実施例のゴルフクラブヘッド100と比べて、領域F1、F2に設けられる肉厚部の重量を減らすことで重心を低くすることができる。
【0052】
(実験結果)
ゴルフクラブヘッド100の効果を確認するために行った実験の実験結果について説明する。この実験では、従来のゴルフクラブヘッドを備えるゴルフクラブ(以下、「従来のゴルフクラブ」という。)と、第10実施例のゴルフクラブヘッド100を備えるゴルフクラブ(以下、「本ゴルフクラブ」という。)とのそれぞれについて、図23に示した9つの打撃位置においてゴルフボールを打球し、CT値をそれぞれ測定した。
【0053】
図28は、従来のゴルフクラブヘッドのフェース部110Xの構造を示す図である。フェース部110Xには、上部前方から中央部Dを通って下部後方まで延伸する肉厚部304Xと、上部後方から中央部Dを通って下部前方まで延伸する肉厚部306Xと、領域Fの前方と後方とにおいて、上部から下部に渡って上下方向に延伸し、かつ、中心P側を内側とする弧をそれぞれ描くように設けられた肉厚部308X、310Xとが設けられている。肉厚部304X、306Xは、本ゴルフクラブにおける非通過部分N2を通過する肉厚部であって、前後方向に角度をなす方向に延伸する肉厚部である。また、フェース部110Xには、本ゴルフクラブにおける質量部が設けられていない。
【0054】
図29は、本ゴルフクラブ及び従来のゴルフクラブにおいてそれぞれ測定されたCT値を示す表である。これらの表の各行には、上下方向に位置が異なる打撃位置(クラウン側、センター、ソール側)で測定されたCT値がそれぞれ表されている。また、これらの表の各列には、前後方向に位置が異なる打撃位置(トウ側、センター、ヒール側)で測定されたCT値がそれぞれ表されている。各打撃位置に対して示されている長さ(mm)は、センターからその打撃値までの上下方向又は前後方向の距離を表している。
図29(a)は、本ゴルフクラブのCT値を示す表である。また、図29(b)は、従来のゴルフクラブのCT値を示す表である。それぞれ9つの打撃位置で測定されたCT値の標準偏差は、本ゴルフクラブでは8.3μsであり、従来のゴルフクラブでは17.0μsであった。このように、これらの測定結果から、本ゴルフクラブが、従来のゴルフクラブと比べて、打撃位置の違いによるCT値の差が少なくなっており、その反発分布がより均一化されていることが示された。すなわち、本ゴルフクラブは、従来のゴルフクラブに比べて、スイートスポットが広く、打撃位置がいずれであっても、得られる打撃効果のばらつきが少ないことが示された。特に、下部前方と下部後方の打撃位置では、打撃効果のばらつきが大きく減少しており、従来のゴルフクラブでは、これらの打撃位置と中心PとのCT値の差が43μs、26μsであったのに対し、本ゴルフクラブでは、その差がそれぞれ28μs、9μsと小さくなった。
【0055】
(変形例)
上述した実施例を次のように変形してもよい。また、次の各変形例を組み合わせてもよい。
【0056】
(変形例1)
各実施例において、質量部200は、フェース部110又はリブ300の一部としてフェース部110又はリブ300と一体的に形成されている例を示したが、フェース部110又はリブ300とは別に形成され、フェース部110又はリブ300と溶接、接着等により接合されたものであっても良い。
【0057】
(変形例2)
各実施例では、1次固有振動モード又は2次固有振動モード振動の振動を軽減する例を説明したが、3次以上の固有振動モードの振動を軽減するようにしても良い。この場合も、振動の腹となる部分の各々に質量部200を設ければ良い。
【0058】
(変形例3)
各実施例では、1つの振動又は固有振動モードが異なる2つの振動を軽減する例を説明したが、固有振動モードが異なる3つ以上の振動を軽減するようにしても良い。この場合も、複数の振動の各々の腹となる部分に質量部200を設ければ良い。
【0059】
(変形例4)
第1−3実施例では、質量部200の厚さを周囲の厚さよりも大きくすることで質量を大きくしていたが、質量を大きくする方法は、上記の厚さの変更以外にもある。例えば、フェース面110Aの裏面に金属などの物質を固定して質量部200を構成するとか、材料の種類の変更やその密度の変更により、質量部200に相当するフェース部110の単位体積あたりの質量を、質量部200以外のフェース部110の単位体積あたりの質量よりも大きくするなどである。
第4−7実施例では、ある振動モードの振動の腹となる部分に対して、複数の質量部200を設けることによって、当該振動の腹となる部分の質量を増加させて、当該振動の低減効果を高めることとした。ここで、隣接する質量部200同士は、接しても良く、離間していても良く、もしくは重なっていても良い。また、第4,5,7実施例では、振動の腹となる一つの部分に対して4つの質量部200を設け、第6実施例では、振動の腹となる一つの部分に対して2つの質量部200を設けることとしたが、これらに限らず、振動の腹となる一つの部分に設ける質量部200の数は、いくつであっても良い。また、第4−7実施例では、振動の腹となる部分の質量部200の数を増やすことにより、当該振動の腹となる部分の質量を増加させることとしたが、これに限らず、例えば振動の腹となる部分の質量部200のサイズを大きくしたり、質量部200の材質を変化させる等して、当該振動の腹となる部分の質量を増加させても良い。
【0060】
(変形例5)
各実施例では、フェース部110の上下方向のみに着目した場合に、フェース部110に生じる振動の固有振動モードが一次であるものとして、その腹となる一つの位置(フェース部110の中心を通り、前後方向に延伸する1つの線上)に質量部200を設ける例を説明した。これに限らず、フェース部110の上下方向のみに着目した場合に、フェース部110に生じる振動の固有振動モードが多次の場合には、その腹となる複数の位置(前後方向に複数の線上)に質量部200を設けるようにしても良い。
【0061】
(変形例6)
各実施例では、フェース部110の裏側の肉厚部はいずれも同じ高さT1であったが、これに限らず、図24に示すとおり、領域G10、G11は領域G1、G3、G4、G8、G9に比べて高さが低いことから、領域G10、G11に設けられる肉厚部の高さを高さT1よりも低くしてもよい。また、各領域の高さを、図24に示す高さに一致するようにしてもよい。要するに、各肉厚部の高さは、図22に示す探索の結果から選択したもの(例えば図24に示す値)に基づき、その目的に応じて決定したものであればよい。ここでいう目的とは、上記のように打撃効果のばらつきを少なくすること(すなわち、スイートスポットを拡大すること)の他にも、例えば、ゴルフクラブヘッド100の重心を低くすること、又はゴルフクラブヘッド100の重心とシャフト102の中心線との距離(いわゆる重心距離)を調整すること等がある。
【0062】
図30は、本変形例に係るゴルフクラブヘッド100のフェース部110の構造を示す。本変形例のフェース部110には、肉厚部301、302R、302L、304R、304L、306が、肉厚部308、310よりも裏面110Bからの高さが高くなるようにそれぞれ設けられている。
図31は、図30の切断線A−A及びB−Bにおけるフェース部110の断面を示す図である。肉厚部301、302R、302Lは、図31(a)に示すとおり、裏面110Bからの高さがT1となるような厚さで設けられている。また、肉厚部304R、304L、306は、肉厚部302R、302Lと裏面110Bからの高さが同じである。一方、肉厚部308、310は、図31(b)に示すとおり、裏面110Bからの高さがいずれもT2となるような厚さで設けられている。これらの高さは、高さT1の方が高さT2よりも高いという関係にある。つまり、肉厚部301、302R、302L、304R、304L、306は、肉厚部308、310よりも厚みを持たせて設けられている。
【符号の説明】
【0063】
10…ゴルフクラブ、100…ゴルフクラブヘッド、102…クラブシャフト、104…シャフトグリップ、110…フェース部、120…クラウン部、130…ソール部、140…トウ部、150…ヒール部、160…ホーゼル、200…質量部、300…リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部の裏面において、ゴルフボールの打撃時に当該フェース部に生じる振動モードの振動の腹となる部分に、周囲よりも質量が大きい質量部が設けられている
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記フェース部において前記質量部の厚さが前記周囲の厚さよりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記質量部は、
チタンを鍛造法又は鋳造法により加工したものであり、5.5mm以上の厚さを有する
ことを特徴とする請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記質量部は、
前記フェース部の裏面において、前記フェース部に生じる前記振動モードの振動の複数の腹となる部分の各々に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェース部の裏面において、
前記フェース部の中心から、半径が25mmの円形の領域を第1の領域とし、
前記フェース部の裏面にリブが設けられ、
前記質量部は、
前記リブが設けられている位置では当該リブの上に設けられており、
前記リブは、
前記フェース部の裏面の中央部にある部分と、
前記中央部と前記第1の領域外にあるトウ側の領域とに渡ってトウ・ヒール方向に延伸する部分と、
前記中央部と前記第1の領域外にあるヒール側の領域とに渡ってトウ・ヒール方向に延伸する部分と、
前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側かつトウ側の領域とに渡って延伸する部分と、
前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側かつヒール側の領域とに渡って延伸する部分と、
前記第1の領域外にある領域のうち、トウ側の領域でクラウン・ソール方向に延伸する部分と、
前記第1の領域外にある領域のうち、ヒール側の領域でクラウン・ソール方向に延伸する部分と
を有し、
前記中央部と前記第1の領域外にあるクラウン側領域とに渡ってクラウン・ソール方向に延伸する部分と、
前記中央部と前記第1の領域外にあるソール側領域とに渡ってトウ・ヒール方向に角度をなす方向に延伸する部分と
を有しない
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−71111(P2012−71111A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168052(P2011−168052)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】