説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】剛性が高く軽量である部材により、設計自由度が高められたヘッドの提供。
【解決手段】ゴルフクラブヘッド2は、フェース4、クラウン6、ソール8及びサイド10を備えている。上記クラウン6の少なくとも一部、上記ソール8の少なくとも一部又は上記サイド10の少なくとも一部は、多孔質金属を含むポーラス部Psによって形成されている。このポーラス部Psの表面側の気孔率は、このポーラス部Psの内部側の気孔率よりも小さい。好ましくは、上記ポーラス部Psは、その両面に形成されたスキン層Lsと、その内部に形成されたコア層Lcとを有している。上記スキン層Lsの気孔率は、上記コア層の気孔率よりも小さい。好ましくは、上記スキン層の厚みが、0.05mm以上0.2mm以下である。好ましくは、上記ポーラス部Psの全体が、一体成形されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドに用いられる材料に関して、様々な提案がなされている。特開2002−35180号公報は、ポーラス金属を用いたゴルフクラブヘッドを開示する。この特開2002−35180号公報の段落[0021]には、フェースの少なくとも一部及び/又はクラウンの少なくとも一部をポーラス金属から形成し、その空隙率を適切に設定することにより、重心の位置を任意に設定できることが記載されている。
【0003】
特開平11−151330号公報は、打球感や打球音を高めることを目的として、ヘッド打球部が多孔質構造を有するゴルフ用クラブヘッドを開示する。この発明では、ヘッド打球部のフェース面側の表面密度が緻密に形成され、そのバック面側の内部密度が粗に形成されている。
【0004】
特開2003−135633号公報は、ヘッド本体又はフェース部材の少なくともいずれか一方が気孔率5〜50%の多孔質金属からなることを特徴とするゴルフクラブヘッドが開示されている。この文献の請求項8には、気孔率が10〜90%である原材料金属に対して塑性加工を施すことにより、気孔率が5〜50%である多孔質金属を作製する製造方法が記載されている。また図7には、多孔質であるフェース部材の両面に金属板を接合した構成が開示されている。
【0005】
日本金属学会秋期(第135回)大会講演概要(2004)の第466頁には、チタン合金の多孔質金属での、気孔率と弾性率との関係を示す図が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−35180号公報
【特許文献2】特開平11−151330号公報
【特許文献3】特開2003−135633号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本金属学会秋期大会講演概要(2004)の第466頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多孔質金属は、一般に弾性率が低い。多孔質金属をヘッドに用いた場合、通常の金属を用いた場合と比較して、剛性が低下する。剛性を低下させないために厚みを増加させた場合、軽量化が達成されず、多孔質金属を用いた意義が失われる。
【0009】
他の軽量化技術として、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いたヘッドが知られている。このヘッドの一例は、Ti合金とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)とを複合したヘッドである。このヘッドでは、重心設計等の設計自由度が向上しうるが、打球音の悪化や製造コストの増大といった問題がある。
【0010】
本発明の目的は、剛性の低下を抑制しつつ軽量化が達成されうる部材を用いて、設計自由度の高いゴルフクラブヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のゴルフクラブヘッドは、フェース、クラウン、ソール及びサイドを備えている。このヘッドでは、上記クラウンの少なくとも一部、上記ソールの少なくとも一部又は上記サイドの少なくとも一部が、多孔質金属を含むポーラス部によって形成されている。上記ポーラス部の表面側の気孔率が、上記ポーラス部の内部側の気孔率よりも小さい。上記ポーラス部の表面側とは、上記ポーラス部の表側及び裏側である。
【0012】
好ましくは、上記ポーラス部が、その両面に形成されたスキン層と、その内部に形成されたコア層とを有している。上記スキン層の気孔率が、上記コア層の気孔率よりも小さい。
【0013】
好ましくは、上記スキン層の厚みが、0.05mm以上0.2mm以下である。
【0014】
好ましくは、上記ポーラス部の全体が一体成形されてなる。
【0015】
好ましくは、上記ポーラス部が、上記クラウンの少なくとも一部又は上記サイドの少なくとも一部を形成している。
【0016】
好ましくは、ヘッド体積が100cc以上であり、ヘッド重量が250g以下であり、ヘッドの左右慣性モーメントが2000g・cm以上である。より好ましくは、ヘッド体積が400cc以上であり、ヘッド重量が200g以下であり、ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上である。
【発明の効果】
【0017】
剛性の低下を抑制しつつ、軽量化が達成されたポーラス部が得られうる。このポーラス部は、ヘッドの設計自由度を高めうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図である。
【図2】図2は、図1のヘッドの底面図である。
【図3】図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図4は、図1のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図5は、他の実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図である。
【図6】図6は、ベース体及びテスト体の斜視図である。
【図7】図7は、気孔率と弾性率比との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、表1のデータに基づくグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッド2をクラウン側から見た図である。図2は、ヘッド2をソール側から見た図である。図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図1のIV−IV線に沿った断面図である。
【0021】
ヘッド2は、フェース4、クラウン6、ソール8、サイド10及びホーゼル12を有する。クラウン6は、フェース4の上縁からヘッド後方に向かって延びている。ソール8は、フェース4の下縁からヘッド後方に向かって延びている。サイド10は、クラウン6とソール8との間に延びている。図3及び図4が示すように、ヘッド2の内部は中空である。ヘッド2は、中空ヘッドである。ヘッド2は、いわゆるウッド型のゴルフクラブヘッドである。
【0022】
図3及び図4が示すように、サイド10とクラウン6との境界k1が存在する。この境界k1は、輪郭線r1(後述)を含む。
【0023】
なお、ヘッドの形状によっては、サイド10とソール8との境界が不明な場合がある。例えば、ソール8からクラウン6までの面が滑らかに連続している場合がそうである。この場合、ソール8とサイド10との境界は、次のように定義される。クラウン上方から見たときのヘッド2の輪郭線r1から15mm隔てた位置が、ソール8とサイド10との境界とみなされる。
【0024】
ヘッド2は、ポーラス部材20を含む複数の部材が接合されてなる。具体的には、ヘッド2は、ヘッド本体16と、フェース部材18と、ポーラス部材20とが接合されてなる(図4参照)。接合方法は、溶接である。ポーラス部材20と、それに隣接する部材(ヘッド本体16)とは、溶接可能である。ヘッド本体16、フェース部材18及びポーラス部材20は、いずれも、チタン合金よりなる。図2等には、ポーラス部材20とヘッド本体16との境界k2が示されている。図4には、ヘッド本体16とフェース部材18との境界kfが示されている。
【0025】
前述の如く、ポーラス部材20と隣接する部材(ヘッド本体16)とは溶接されている。ポーラス部材20とヘッド本体16との接合強度は高い。溶接されたポーラス部材20は、ヘッド2の構造体として有効に機能する。
【0026】
上記の如く、ポーラス部材20は溶接によって固定されている。ポーラス部Psとヘッド本体との間に、オーバーラップ部分は存在しない。ヘッド2では、ポーラス部部材20を固定するためのオーバーラップ部分は存在しない。この点は、CFRP製部材が用いられる場合と相違する。オーバーラップ部分が無いことは、軽量化に寄与する。オーバーラップ部分が無いことは、ヘッドの設計自由度を向上させる。
【0027】
フェース部材18は、フェース4の全体を構成する。更にフェース部材18は、クラウン6の一部、ソール8の一部及びサイド10の一部を構成する。フェース部材18は、略皿状(カップ状)である。フェース部材18は、カップフェースと称されることがある。
【0028】
ヘッド本体16は、クラウン6の一部、ソール8の一部、サイド10の一部及びホーゼル12の全体を構成している。本体16には、ポーラス部材20の形状に対応した形状の貫通孔が開けられている。この貫通孔は、クラウン6に位置する。この貫通孔に、ポーラス部材20が配置されている。
【0029】
ポーラス部材20は、多孔質金属を含む。ポーラス部材20は、その全体が一体成形されている。ポーラス部材20の全体が、多孔質金属であってもよい。
【0030】
図1が示すように、ホーゼル12は、シャフトを装着するための孔22を有する。図示されないシャフトは、孔22に挿入される。
【0031】
なお、本発明では、ヘッドの構造及びヘッドの製法は限定されない。
【0032】
ポーラス部Psは、多孔質金属を含む。ポーラス部Psには、その厚み方向の少なくとも一部に、多孔質金属が存在する。好ましいポーラス部Psは、その全体が一体成形されている。本実施形態では、ポーラス部材20によって形成された部分が、ポーラス部Psである。ポーラス部Psが、ポーラス部Ps以外の部分(クラウン等)とともに一体成形されてもよい。
【0033】
ポーラス部Ps以外の部分が、非ポーラス部NPsとも称される。本実施形態では、ヘッド本体16及びフェース部材18が、非ポーラス部NPsである。
【0034】
ポーラス部Psは、クラウン6に位置している。ポーラス部Psの全体がクラウン6に位置している。クラウン6以外に、ポーラス部Psは存在しない。本実施形態では、ポーラス部Psの全体が、クラウン6に位置している。クラウン6に配置されたポーラス部Psは、ヘッド重心の位置を低くしうる。低い重心位置は、高い打ち出し角度と少ないバックスピン量とに寄与する。低い重心位置は、飛距離の増大に寄与する。
【0035】
本実施形態では、クラウン6の一部が、ポーラス部Psである。クラウン6の全体がポーラス部Psであってもよい。
【0036】
図3及び図4が示すように、ポーラス部Psは、ヘッド2の厚みの全体を占めている。本願では、ソール8の厚みの全体を占めるポーラス部Psが、全厚み部とも称される。本実施形態では、ポーラス部Psの全体が、全厚み部である。ポーラス部Psの一部が全厚み部であってもよい。
【0037】
全厚み部の外面は、ヘッド2の外部に露出している。全厚み部の内面は、ヘッド2の中空部に露出している。
【0038】
ポーラス部Psの外面は、クラウン外面の一部を構成している。ポーラス部Psの外面と、非ポーラス部NPsの外面とは、滑らかに連続している。
【0039】
ポーラス部Psの内面は、滑らかに連続する曲面である。
【0040】
図3及び図4が示すように、ポーラス部Psの厚みは、ポーラス部Psに隣接する部分の厚みよりも大きい。ポーラス部Psの厚みは、一定である。ポーラス部Psの厚みは、変化していてもよい。
【0041】
[ポーラス部Psの構造]
ポーラス部Psの表面側の気孔率は、ポーラス部Psの内部側の気孔率よりも小さい。後述するように、この構造は、剛性と軽量性との両立を可能とする。
【0042】
ポーラス部Psの厚み方向における気孔率の変化は、連続的であってもよいし、非連続的であってもよい。より好ましくは、ポーラス部Psは、後述されるスキン層Lsとコア層Lcとを有する。
【0043】
図3には、ポーラス部Psの断面を拡大した図が示されている(図3の円内を参照)。ポーラス部Psは、その両面に形成されたスキン層Lsと、その内部に形成されたコア層Lcとを有する。本実施形態では、ポーラス部Psは、3層構造である。コア層Lcが複数の層によって形成されていてもよい。スキン層Lsの厚み方向において、気孔率が連続的に変化していてもよい。コア層Lcの厚み方向において、気孔率が連続的に変化していてもよい。
【0044】
スキン層Ls及びコア層Lcの内部において気孔率が変化している場合、それらの変化の態様は限定されない。スキン層Lsの平均気孔率が、コア層Lcの平均気孔率よりも小さければよい。
【0045】
ポーラス部Psの全体が一体成形されている場合、スキン層Lsとコア層Lcとの接合は強固である。この強固な接合は、ポーラス部Psの曲げ剛性及び強度を高めうる。
【0046】
最も外側の層は、スキン層Lsである。内側のスキン層Lsは、ヘッドの内面を構成している。外側のスキン層Lsは、ヘッドの外面を構成している。
【0047】
スキン層Lsの気孔率は、コア層Lcの気孔率よりも小さい。気孔率の小さなスキン層Lsは、ポーラス部Psの剛性を向上させる。気孔率の大きなコア層Lcは、ポーラス部Psの重量(見かけの比重)の低減に寄与する。また気孔率の大きなコア層Lcは、ポーラス部Psの重量を抑制しつつ、ポーラス部Psの厚みを増加させうる。この厚みの増加は、ポーラス部Psの剛性を高めうる。スキン層Lsとコア層Lcとが併用されたポーラス部Psでは、高い剛性と軽量性とが達成されうる。
【0048】
コア層Lcの両側(表側及び裏側)に位置するスキン層Lsは、ポーラス部Psの重量を抑制しつつ、ポーラス部Psの曲げ剛性を効果的に高める。
【0049】
高い剛性及び軽量性は、ヘッドの設計自由度を高める。このポーラス部Psの使用により、剛性を維持と軽量化とが達成されうる。ヘッドの一部が軽量化された場合、ヘッドの重心位置を変化させることが容易とされうる。ポーラス部Psは、ヘッド重心位置の設計自由度を高めうる。最適化されたヘッド重心位置は、大きな飛距離を可能とする。
【0050】
剛性の低下が抑制されたポーラス部Psは、固有振動数を高くするのに寄与する。このポーラス部Psは、打球音を高くするのに寄与する。高い打球音は、ゴルファーに好まれる傾向にある。公知のCFRP製部材は、振動減衰性が高い。よって、CFRP製部材の使用により、高く、澄んだ、長く響く打球音が得られにくい。CFRP製部材の使用と比較して、このポーラス部Psの使用は、良好な打球音を達成しうる。
【0051】
ヘッド外面を形成するスキン層Lsは、気孔率が少ないので、気孔が目立たない。よって、ヘッドの外観性が向上しうる。また、気孔率が少ないので、塗装が容易である。更に、ヘッド外面を形成するスキン層Lsは、土や芝などが気孔に入り込むのを抑制する。
【0052】
[ポーラス部Psの位置]
ポーラス部Psは、クラウン6の少なくとも一部、ソール8の少なくとも一部又はサイド10の少なくとも一部を形成している。ヘッドの重心位置を下げる観点からは、ポーラス部Psは、クラウン6の少なくとも一部又はサイド10の少なくとも一部を形成しているのが好ましく、クラウン6の少なくとも一部を形成しているのがより好ましい。
【0053】
クラウン6に配置されたポーラス部Psは、ヘッドの重心位置を低くしうる。この観点から、クラウン面積のうち、上記ポーラス部Psの占める面積の割合Rcは、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。この割合Rcは、100%であってもよい。
【0054】
図5は、第2実施形態に係るヘッド30をクラウン側から見た図である。ポーラス部Psは、このヘッド30のクラウン32に配置されている。第1実施形態のヘッド2と比較して、このヘッド30では、上記割合Rcが大きい。
【0055】
[ポーラス部Psの気孔率]
スキン層Lsの気孔率は限定されない。ポーラス部Psの剛性を高める観点から、スキン層Lsの気孔率は、5%(0.05)以下が好ましく、1%(0.01)以下がより好ましく、0.5%(0.005)以下が更に好ましい。スキン層Lsの気孔率は、0%であってもよい。本願における気孔率は、体積%(体積割合)である。
【0056】
コア層Lcの気孔率は限定されない。ポーラス部Psの見かけの比重を下げることで、重量を抑制しつつポーラス部Psの剛性を増やすことができる。この観点から、コア層Lcの気孔率は、25%(0.25)以上が好ましく、30%(0.30)以上がより好ましい。剛性及び強度の観点から、コア層Lcの気孔率は、80%(0.80)以下が好ましく、70%(0.70)以下がより好ましく、60%(0.60)以下が更に好ましく、50%(0.50)以下が特に好ましい。
【0057】
[材質]
ポーラス部Psの材質は、金属である限り、限定されない。ポーラス部Psの材質として、チタン合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼及びマレージング鋼が例示される。ポーラス部Psの高い剛性を十分に生かす観点から、ポーラス部Psは隣接部分に溶接されているのが好ましい。この観点から、ポーラス部Psの材質は、隣接部分との溶接が可能な材質であるのが好ましい。この隣接部分がチタン合金である場合、ポーラス部Psもチタン合金とされるのが、溶接強度の点で好ましい。
【0058】
非ポーラス部NPsの材質は限定されない。非ポーラス部NPsの材質として、金属、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)等が例示される。非ポーラス部NPsに用いられる上記金属として、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金及びタングステン−ニッケル合金から選ばれる一種以上の金属が例示される。ステンレス鋼として、SUS630及びSUS304が例示される。チタン合金として、6−4チタン(Ti−6Al−4V)、Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al等が例示される。
【0059】
金属部材とCFRP部材とを複合させた従来の複合ヘッドでは、両者を接合するためのオーバーラップ部分が必要である。このオーバーラップ部分では、通常、接着がなされる。この従来の複合ヘッドは、CFRP部材を用いているため、振動減衰が大きく、打球音が悪化しやすい。CFRP部材の接合に接着剤が用いられている場合、この接着剤も振動減衰を促進しうる。接着剤の使用は、打球音を悪化させやすい。これに対して、ポーラス部Psは金属であるため、打球音が良好である。また、ポーラス部Psが溶接される場合、ポーラス部Psを接合するためのオーバーラップ部分は、不要とされるか、若しくは小さくされうる。オーバーラップ部分が無いことは、軽量化に寄与する。また、接着剤が無いことは、打球音の向上に寄与しうる。
【0060】
[厚み]
スキン層Lsの厚みt1は限定されない。ポーラス部Psの見かけの比重を小さくする観点から、スキン層Lsの厚みt1は、コア層Lcの厚みt2よりも薄いのが好ましい。ポーラス部Psの見かけの比重を小さくする観点から、厚みt1は、0.2mm以下が好ましく、0.15mm以下がより好ましい。ポーラス部Psの剛性を高める観点から、厚みt1は、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。
【0061】
コア層Lcの厚みt2は限定されない。ポーラス部Psの見かけの比重を小さくしつつポーラス部Psの剛性を高める観点から、厚みt2は、0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.4mm以上が更に好ましい。厚みt2の上限値は、ポーラス部Psの設定重量によって適宜設定されるが、例えば1.0mm以下、更には0.8mm以下、更には0.6mm以下とされうる。
【0062】
ポーラス部Psの全厚み中におけるスキン層Lsの厚みの比率(本願において、スキン層比率とも称される)は限定されない。
【0063】
ポーラス部Psの剛性を高める観点から、スキン層比率は、8%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましく、30%以上が更に好ましい。ポーラス部Psの重量を小さくしてポーラス部Psの剛性を上げる観点からは、スキン層比率は、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、50%以下が更に好ましい。
【0064】
[製法]
【0065】
ポーラス部材の製造方法は限定されず、公知の方法が採用されうる。この製造方法として、金属粉末射出成形法(Metal Powder Injection Molding:MIM)、金属粉末を圧縮成形する方法、金属粉末を焼結成形する方法、溶融金属中にガスを注入する方法、等が例示される。
【0066】
金属粉末射出成形法は、樹脂及び/又はワックスを含むバインダと金属粉末とを混合させて混合体を得る工程と、この混合体を金型内に射出成形する工程と、上記バインダを抜く脱脂工程と、この脱脂工程後に焼結する工程とを含む。
【0067】
これらの製造方法によって成形されうる多孔質金属は、多数の小さい気孔(気孔)を有する金属である。気孔の大きさは、通常、10nm以上1mm以下程度である。剛性及び強度の観点から、気孔の大きさは、100μm以下が好ましい。多孔質金属全体の体積に対する気孔の体積の割合が、気孔率である。
【0068】
スキン層Lsとコア層Lcとを有するポーラス部材の製造方法は限定されない。この製造方法として、スキン層Ls用の材料とスキン層Ls用の材料とをそれぞれ別々に成形した後、それらを最終成形工程において一体成形して、ポーラス部材を得る方法が例示される。
【0069】
スキン層Ls(2層)とコア層Lcとを一体成形する方法として、次の製造方法が挙げられる。即ち、金属粉末とバインダとを含むMIM原料に気孔形成用樹脂粒子を添加した混合物を成形し、脱脂及び焼結工程を経て、金属製の多孔質部品を製造する方法である。この方法は、パウダースペースホルダーMIM(Powder Space Holder MIM、PSH−MIM)法として公知である。
【0070】
ヘッドの製造方法は限定されない。通常、中空のヘッドは、2以上の部材が接合されることにより製造される。好ましいヘッドは、上記ポーラス部材を含む2以上の部材が接合されることにより製造される。各部材の製造方法は限定されず、鋳造、鍛造及びプレスフォーミングが例示される。
【0071】
ヘッド体積は限定されない。上記ポーラス部Psの効果(剛性及び軽量化)は、ヘッド体積が大きい場合に顕在化しうる。この観点から、ヘッド体積は、100cc以上が好ましく、150cc以上がより好ましく、200cc以上がより好ましい。打球音の効果をも考慮すると、ヘッド体積はより大きいのが好ましい。この観点から、ヘッド体積は、400cc以上が好ましく、420cc以上がより好ましく、440cc以上がより好ましい。ゴルフクラブに関する規則を遵守する観点から、ヘッド体積は470cc以下が好ましく、10ccの測定誤差を考慮すると、460cc±10ccが特に好ましい。
【0072】
ヘッド重量は限定されない。上記ポーラス部Psの効果(剛性及び軽量化)は、ヘッド体積が大きく且つヘッド重量が小さい場合において顕在化する。具体的には、上記ウッド型ヘッド、ユーティリティー型ヘッド及びハイブリッド型ヘッドにおいて、有効性が高い。この観点から、ヘッド重量は、250g以下が好ましく、220g以下がより好ましく、200g以下が更に好ましい。
【0073】
ポーラス部Psが設けられる部位が薄いヘッドの場合、上記ポーラス部Psは特に有効である。即ち、上記ポーラス部Psは、薄くされた場合の剛性の低下を抑制しうる。この観点から、クラウンの平均厚みは、1mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.7mm以下がより好ましい。ヘッドの強度の観点から、クラウンの平均厚みは、0.5mm以上が好ましい。
【0074】
ポーラス部Psが設けられる部位が薄いヘッドの場合、上記ポーラス部Psは特に有効である。即ち、上記ポーラス部Psは、薄くされた場合の剛性の低下を抑制しうる。この観点から、サイドの平均厚みは、1mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.7mm以下がより好ましい。ヘッドの強度の観点から、サイドの平均厚みは、0.5mm以上が好ましい。
【0075】
ヘッドの左右慣性モーメントは限定されない。前述の通り、ポーラス部Psは、軽量化に寄与しうる。ポーラス部Psの使用により、重量配分の自由度が向上し、慣性モーメントの増大が達成されうる。この観点から、ヘッドの左右慣性モーメントは、2000g・cm以上が好ましく、3000g・cm以上がより好ましく、4000g・cm以上が更に好ましく、5000g・cm以上が特に好ましい。
【0076】
左右慣性モーメントとは、ヘッド重心gを通る軸Zまわりの慣性モーメントである。この軸Zは、上記基準状態のヘッドにおいて上記水平面hに垂直な軸である。左右慣性モーメントは、INERTIA DYNAMICS INC.社製のMOMENT OF INERTIA MEASURING INSTRUMENT MODEL NO.005−002を用いて測定されうる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0078】
シミュレーションを用いて、スキン層及びコア層の影響を確認した。剛性が一定であるという条件の下で、スキン層の厚みt1及びコア層の気孔率が重量に与える影響を確認した。
【0079】
このシミュレーションでは、先ず、ベース体Aが考慮された。このベース体Aは、気孔を有さない。ベース体Aの厚みはTであり、密度はρであり、弾性率はEである。このベース体Aでは、気孔が無いので、コア層とスキン層という区別は存在しない。即ちこのベース体Aでは、スキン層の厚みt1が0mmである。上記厚みTは、0.7mmに設定された。密度ρは、4420kg/mに設定された。Eは126GPaに設定された。
【0080】
次に、多数のテスト体Bが考察された。このテスト体Bの材質は、上記ベース体Aと同じとされた。テスト体Bは、3層構造であり、上記コア層及び上記スキン層を有する。コア層は、気孔を有する。スキン層は、気孔を有さない。スキン層の密度及び弾性率は、上記ベース体Aのそれらと同じである。
【0081】
図6は、ベース体A及びテスト体Bの斜視図である。ベース体A及びテスト体Bは、直方体である。
【0082】
テスト体Bの厚みhは、スキン層の厚みt1と、コア層の厚みt2とを用いて、次の式で表される。
h=t1+t1+t2
【0083】
長方形断面における断面二次モーメントを考慮すると、テスト体Bの曲げ剛性EIbは、次の式で表される。
EIb=W×{(Ep−E)×t2+E×h}/12
ただし、Wは長方形断面の幅であり、Epはコア層の弾性率である。
【0084】
上記弾性率Eと上記弾性率Epとの関係は、次の式で表される。ただしρpは、コア層の密度である。
Ep=E×(ρp/ρ)α
【0085】
前述した日本金属学会秋期大会講演概要(2004)の第466頁に記載の図を参考とし、上記αを2.79とした。気孔率が0.35の場合に弾性率比[(Ep/E)×100]が30%となるように、上記αが決定された。
【0086】
以上の条件に基づく場合、気孔率と弾性率比(Ep/E)との関係は、図7に示すグラフの通りとなる。
【0087】
全ての上記テスト体Bの曲げ剛性が、上記ベース体Aの曲げ剛性と同一であるとの条件が設定された。この条件の下で、テスト体Bにおけるスキン層の厚みt1及びコア層の気孔率を変化させて、コア層厚みt2を算出した。更に、算出された厚みt2に基づいて、テスト体Bの、テスト体Aに対する重量比を算出した。算出された重量比が、下記の表1に示される。
【0088】
また、各テスト体のスキン層比率が、下記の表2に示される。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
図8は、上記表1の結果をグラフ化したものである。
【0092】
表1の結果が示すように、曲げ剛性が一定であるという条件の下で、すべてのテスト体Bの重量比が100%未満であった。即ち、すべてのテスト体Bが、ベース体Aと比較して、剛性を維持しつつ軽量化された。
【0093】
表1の結果は、スキン層厚みt1に好適な数値範囲が存在することを示している。表1は、スキン層厚みt1が0.05mm以上0.2mm以下の場合に、軽量化の効果が比較的大きいことを示している。
【0094】
表1及び表2により、本実施例での好ましいスキン層比率(%)が理解されうる。即ち、表1における重量比が小さい場合のスキン層比率が好ましい。この観点から、スキン層比率(%)は、5%以上が好ましく、80%以下が好ましい。コア層の気孔率が30%以上50%以下であり且つスキン層比率(%)が10%以上72%以下の場合、重量比(表1)が92%以下と良好である。
【0095】
剛性を維持しつつ軽量化を達成する観点から、重量比(表1参照)が92%以下となるようにコア層の気孔率及びスキン層比率が設定されるのが好ましく、重量比が89%以下となるようにコア層の気孔率及びスキン層比率が設定されるのがより好ましく、重量比が86%以下となるようにコア層の気孔率及びスキン層比率が設定されるのがより好ましい。
【0096】
これらの結果が示すように、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明されたヘッドは、あらゆるゴルフクラブヘッドに適用されうる。
【符号の説明】
【0098】
2・・・ヘッド
4・・・フェース
6・・・クラウン
8・・・ソール
10・・・サイド
20・・・ポーラス部材
30・・・ヘッド
Ps・・・ポーラス部
Ls・・・スキン層
Lc・・・コア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース、クラウン、ソール及びサイドを備えており、
上記クラウンの少なくとも一部、上記ソールの少なくとも一部又は上記サイドの少なくとも一部が、多孔質金属を含むポーラス部によって形成されており、
上記ポーラス部の表面側の気孔率が、上記ポーラス部の内部側の気孔率よりも小さいゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
上記ポーラス部が、その両面に形成されたスキン層と、その内部に形成されたコア層とを有しており、
上記スキン層の気孔率が、上記コア層の気孔率よりも小さい請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
上記スキン層の厚みが、0.05mm以上0.2mm以下である請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
上記ポーラス部の全体が一体成形されてなる請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
上記ポーラス部が、上記クラウンの少なくとも一部又は上記サイドの少なくとも一部を形成している請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
ヘッド体積が100cc以上であり、
ヘッド重量が250g以下であり、
ヘッドの左右慣性モーメントが2000g・cm以上である請求項1から5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
ヘッド体積が400cc以上であり、
ヘッド重量が200g以下であり、
ヘッドの左右慣性モーメントが5000g・cm以上である請求項1から6のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−85952(P2012−85952A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237327(P2010−237327)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】