説明

サイジング剤塗布炭素繊維束およびその製造方法

【課題】炭素繊維とマトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との界面接着性を高めることができるサイジング剤塗布炭素繊維束を提供すること。
【解決手段】サイジング剤が炭素繊維束100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で塗布しているサイジング剤塗布炭素繊維束であって、該サイジング剤が、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物であるサイジング剤塗布炭素繊維束。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用構造材料をはじめとして、ゴルフシャフトや釣り竿等のスポーツ用途、およびその他一般産業用途に好適に適用しうる炭素繊維強化複合材料を得るためのサイジング剤塗布炭素繊維束に関するものであり、詳しくは、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との界面接着性が良好なサイジング剤塗布炭素繊維束であって、炭素繊維強化複合材料の力学特性に優れるサイジング剤塗布炭素繊維束に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量でありながら、強度および弾性率に優れるため、種々のマトリックス樹脂と組み合わせた複合材料は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。炭素繊維を用いた複合材料において、炭素繊維の優れた特性を活かすには、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が優れることが重要である。
【0003】
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させるため、通常、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、炭素繊維に電解処理を施すことにより、接着性の指標である層間剪断強度を向上させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、近年、複合材料への要求特性のレベルが向上するにしたがって、このような酸化処理のみで達成できる接着性では不十分になりつつある。
【0004】
一方、炭素繊維は脆く、集束性および耐摩擦性に乏しいため、高次加工工程において毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、通常、炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法が行われている。
【0005】
例えば、サイジング剤としてビスフェノールAのジグリシジルエーテルを炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献2および3参照)。また、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献4および5参照)。また、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物にエポキシ基を付加させたものを炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献6および7参照)。さらに、サイジング剤としてポリアルキレングリコールのエポキシ付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献8、9および10参照)。
【0006】
これら提案された方法に係る技術から、炭素繊維の集束性と耐摩擦性が向上することは知られていると言える。しかしながら、これら従来の技術には、サイジング剤により炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を積極的に向上させるという技術的思想はなく、実際に炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を大幅に向上することはできなかった。特に、マトリックス樹脂の構造に近い芳香族系エポキシ化合物であるビスフェノールA型ジグリシジルエーテルに代表されるエポキシ樹脂は、剛直な骨格ゆえに分子鎖の柔軟性に乏しく、炭素繊維との相互作用が十分ではなく、界面接着性が低いという問題があった。
【0007】
そこで、分子鎖に柔軟性のある脂肪族系エポキシ化合物が開示されている(特許文献11〜13参照)。一般に炭素繊維は表面処理が施され、炭素繊維表面にはカルボキシル基や水酸基といった官能基が生成しているが、これらの官能基とサイジング剤のエポキシ基との相互作用は、前記芳香族系エポキシ化合物よりは大きいものの、現在のところ十分とは言えない。
【0008】
また、サイジング剤としてエポキシ樹脂用アミン系硬化剤を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献14参照)。この方法によると、何も塗布しない場合に比べて、接着性の指標である層間剪断強度が向上することが示されている。この場合、サイジング剤として用いているエポキシ樹脂用アミン系硬化剤がエポキシマトリックスと反応し、また、反応により生成した水酸基の一部が炭素繊維表面官能基と相互作用することで接着性が向上したものと推察されるが、接着性の向上効果はなお不十分であった。
【0009】
また、その他のアミン系硬化剤を用いた例として、グリシジル基をもつビニル化合物モノマーとエポキシ樹脂用アミン硬化剤との混合物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献15参照)。しかしながら、この提案の方法では、アミン硬化剤を用いない場合に比べて、接着性の指標である層間剪断強度が向上することが示されているものの、接着性の向上効果はなお不十分であった。また、エポキシ系化合物とアミン硬化剤を併用したサイジング剤が提案されている(特許文献16および17参照)。しかしながら、これらは、繊維束の取扱性と含浸性が向上することを狙いとしたもので、接着性は十分なものではなかった。 また、サイジング剤として、分子内に少なくとも3個のエポキシ基を有するエポキシ化合物とビニル基含有カルボン酸との反応生成物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献18参照)。しかしながら、この提案では、不飽和マトリックス樹脂に対して接着性が向上することが示されているものの、サイジング剤に含まれるビニル基同士が反応して高分子量化し、膜状となり接着を阻害する場合があった。
【0010】
以上のことから、マトリックス樹脂の高靭性化、高強度化が進む中、より強固な界面形成が炭素繊維強化複合材料の特性にとって重要であり、マトリックス樹脂および炭素繊維との接着性を同時に高められるサイジング剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平04−361619号公報
【特許文献2】特開昭50−059589号公報
【特許文献3】特開昭57−171767号公報
【特許文献4】特開平07−009444号公報
【特許文献5】特開2000−336577号公報
【特許文献6】特開昭61−028074号公報
【特許文献7】特開平01−272867号公報
【特許文献8】特開昭57−128266号公報
【特許文献9】特開昭59−009273号公報
【特許文献10】特開昭62−033872号公報
【特許文献11】特公昭60−47953号公報
【特許文献12】特開平3−67143号公報
【特許文献13】特開平7−279040号公報
【特許文献14】特開昭52−045672号公報
【特許文献15】特開昭52−045673号公報
【特許文献16】特開2005−146429号公報
【特許文献17】特開平09−217281号公報
【特許文献18】特開昭55−084476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術における問題点に鑑み、炭素繊維とマトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との界面接着性を高めることができるサイジング剤塗布炭素繊維束を提供することを目的とするものである。また、本発明により提供されるサイジング剤塗布付与炭素繊維束と、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂からなる炭素繊維強化複合材料は力学特性に優れるものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、サイジング剤として、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を特定比率で含む混合物または該混合物の熱処理物を炭素繊維束にサイジング剤塗布したところ、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を高められることを見出し本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明は、サイジング剤が炭素繊維束100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で付着しているサイジング剤塗布炭素繊維束であって、該サイジング剤が水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束である。
【0015】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の好ましい態様によれば、サイジング剤の水酸基価およびカルボキシル基価の合計(a)が2〜20mmol/g、エポキシ価(b)が0.5〜10mmol/g、かつ(a)/(b)が1〜10である。
【0016】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の好ましい態様によれば、化合物(B)が、分子内にエポキシ基を3個以上有する化合物である。
【0017】
また、本発明は、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で混合し、水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬した後、該水または有機溶媒を乾燥除去することを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0018】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理する。
【0019】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、前記化合物(A)と前記化合物(B)を混合した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理し、熱処理した混合物を水または有機溶媒に溶解または分散させる。
【0020】
さらに、本発明は、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去し、次いで、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去することを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0021】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、該水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃以下、0.3〜60分以下で熱処理する。
【0022】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を150℃以下で乾燥除去した後、化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.5〜60分で熱処理する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)と複数のエポキシ基を有する化合物(B)を特定の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物をサイジング剤として炭素繊維に塗布した状態とすることで、化合物(A)に元来含まれる水酸基および/またはカルボキシル基に加え、化合物(A)の1級アミノ基および/または2級アミノ基と化合物(B)のエポキシ基が反応して生成した水酸基が炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基と水素結合し、強固な界面が形成され、その結果、該サイジング剤塗布炭素繊維束を用いた炭素繊維強化複合材料は、強度、剛性、衝撃特性、疲労特性に優れる。とりわけ、エポキシマトリックス樹脂の場合、化合物(B)のエポキシ基とエポキシマトリックス樹脂が相溶またはエポキシマトリックス樹脂中のアミン系硬化剤を介して反応し、マトリックス樹脂側とも強固な界面を形成することができ、さらに優れた力学特性を有する炭素繊維強化複合材料を得ることが可能となる。
【0024】
また、本発明により得られる炭素繊維強化複合材料は航空機部材をはじめ、電気・電子機器、OA機器、家電機器、自動車の部品、各内部部材および筐体などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、さらに詳しく、本発明に係るサイジング剤塗布炭素繊維束の好ましい形態について説明をする。
【0026】
本発明は、サイジング剤が炭素繊維束100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で付着しているサイジング剤塗布炭素繊維束であって、該サイジング剤が水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物であるサイジング剤塗布炭素繊維束である。
【0027】
本発明者等は、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)と複数のエポキシ基を有する化合物(B)を特定の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物をサイジング剤として炭素繊維に塗布した状態とすることで、化合物(A)に元来含まれる水酸基および/またはカルボキシル基に加え、化合物(A)のアミノ基と化合物(B)のエポキシ基が反応して生成した水酸基が炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基と水素結合し、その結果、界面の接着性が大幅に向上することを見出した。とりわけ、エポキシマトリックス樹脂の場合、化合物(B)のエポキシ基とエポキシマトリックス樹脂が相溶、またはエポキシマトリックス樹脂中のアミン系硬化剤を介して反応し、マトリックス側とも強固な結合を形成するものと考えられ、より接着性に優れた界面を得ることが可能となる。
【0028】
本発明に用いられる化合物(A)は、水酸基およびカルボキシル基等の炭素繊維表面の官能基との相互作用の観点から、水酸基および/またはカルボキシル基を有することが必要である。また、複数のエポキシ基を有する化合物(B)との反応性の観点から、同時に1級アミノ基および/または2級アミノ基を有することが必要である。かかる化合物(A)は、1級アミノ基を有していても、2級アミノ基を有していても良く、またそれらを両方有していても良い。
【0029】
本発明に用いられる化合物(A)の具体例として、水酸基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基の両方の官能基を持つ化合物としては、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ブタノールアミン、イソブタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノプロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、4−メチルアミノブタノール等の炭素数2〜15のモノアルコールアミン類、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、2−(ヒドロキシメチルアミノ)エタノール等の炭素数2〜15のジアルコールアミン類、N−(2−ヒドロキシメチル)アニリン、1−アミノ−3−フェノキシ−2−プロパノール等が挙げられる。また、カルボキシル基と1級アミノ基および/または2級アミノ基の両方の官能基を持つ化合物としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、6−アミノヘキサン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、4−ピペリジンカルボン酸、3−ピペリジンカルボン酸、2−ピペリジンカルボン酸等のアミノ酸が挙げられる。これらの化合物(A)は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明に用いられる複数のエポキシ基を有する化合物(B)は、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との相互作用および、化合物(A)の1級アミノ基および/または2級アミノ基との反応性の観点から複数のエポキシ基を有することが必要である。
【0031】
また、本発明で用いられる化合物(B)は、分子内にエポキシ基を3個以上有することが好ましい。エポキシ基の数が増えると、マトリックス樹脂、とりわけエポキシマトリックス樹脂との相互作用が向上すると同時に、化合物(A)の1級アミノ基および/または2級アミノ基との反応が促進され、炭素繊維表面官能基との相互作用に必要な水酸基が多く生成することが可能となるため好ましい。
【0032】
本発明に用いられる化合物(B)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0033】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。また、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。また、このエポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、およびビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0034】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0035】
さらに、例えば、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0036】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、およびダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0037】
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ樹脂としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ樹脂が挙げられる。さらに、このエポキシ樹脂としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
【0038】
これらのエポキシ樹脂以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ樹脂が挙げられる。さらには、上に挙げたエポキシ樹脂を原料として合成されるエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0039】
また、本発明で用いられる化合物(B)は、脂肪族系化合物であることが好ましい。脂肪族系化合物は分子鎖が柔軟であるため、炭素繊維表面の官能基との相互作用が大きくなるため好ましい。
【0040】
脂肪族系化合物の製品の具体例として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−512、EX−521)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−321)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−211)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール(登録商標)」EX−313、EX−314)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−941、EX−920、EX−931)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−810、EX−811)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−850、EX−851、EX−821、EX−830、EX−832、EX−841、EX−861)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の「デナコール」(登録商標)EX−411)などを挙げることができる。これらの化合物(B)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明において、化合物(A)と化合物(B)の比率は、化合物(A)が1〜80質量部、化合物(B)は20〜99質量部である。好ましくは、化合物(A)が3〜60質量部、化合物(B)が40〜97質量部、さらに好ましくは、化合物(A)が5〜40質量部、化合物(B)が60〜95質量部である。化合物(A)と化合物(B)の比率をこの範囲に制御することで、炭素繊維表面およびマトリックス樹脂との相互作用がともに良好で接着力に優れた界面を形成することができる。
【0042】
本発明で用いられるサイジング剤は、化合物(A)と化合物(B)の混合物または該混合物の熱処理物であることが必要である。ここでいう化合物(A)と化合物(B)の混合物または該混合物の熱処理物とは、本発明において、次のように定義される。
【0043】
化合物(A)と化合物(B)の混合物とは、(a)炭素繊維上に化合物(A)と化合物(B)が混合して付着している状態、または、(b)炭素繊維上に化合物(A)と化合物(B)がそれぞれ別々に付着している状態をいう。これら(a)(b)の製造方法の詳細は後述するが、次の(i)(ii)のいずれの方法により行われてもよい。すなわち、(i)化合物(A)と化合物(B)の混合物または該混合物の熱処理物を水または有機溶媒に溶解または分散させた混合液中に炭素繊維束を浸漬させ、該水または有機溶媒を乾燥除去する方法、(ii)化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させた液中に、炭素繊維束を浸漬後、その化合物(A)の溶解または分散に用いた水または有機溶媒を乾燥除去し、次いで、化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させた液中に浸漬後、その化合物(B)の溶解または分散に用いた水または有機溶媒を乾燥除去する方法により得ることが可能である。
【0044】
また、該混合物(化合物(A)と化合物(B)の混合物)の熱処理物とは、予め化合物(A)と化合物(B)を混合してから炭素繊維束に塗布する場合、混合した状態で熱処理してから付与しても良いし、炭素繊維束に塗布してから熱処理しても良い。
【0045】
本発明で用いられるサイジング剤は、水酸基価およびカルボキシル基価の合計(a)が2〜20mmol/g、エポキシ価(b)が0.5〜10mmol/g、かつ(a)/(b)が1〜10であることが好ましい。(a)が2mmol/g未満の場合、炭素繊維表面の官能基との相互作用が小さくなり、炭素繊維とサイジング剤の界面剥離が起きる場合がある。一方、20mmol/gを超える場合、マトリックス樹脂、とりわけエポキシマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり、接着力が低下する場合がある。(a)のより好ましい範囲は、2〜15mmol/g、さらに好ましくは、2〜11mmol/gである。また、(b)が0.5mmol/g未満の場合、マトリックス樹脂、とりわけエポキシマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり、接着力が低下する場合がある。(b)のより好ましい範囲は、0.8〜9mmol/g、さらに好ましくは、1〜8mmol/gである。また、(a)/(b)が1未満の場合、相対的に水酸基価およびカルボキシル基価の合計が小さくなるため、炭素繊維表面の官能基との相互作用が小さくなり、炭素繊維とサイジング剤の界面剥離が起きる場合がある。一方、10を越える場合、相対的に水酸基価およびカルボキシル基価の合計が過多となり、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との相互作用が小さくなり、接着力が低下する場合がある。
【0046】
ここで、本発明の水酸基価は、JIS K0070(1992年版、7項記載)に従って求めることができる。ここで得られる水酸基価の単位はKOHmg/gであるが、本発明ではこの値をKOHの分子量(56.11)で割った値をmmol/g単位として表記した。
【0047】
また、本発明のカルボキシル基価は、JIS K0070(1992年版、3項記載の酸価の測定方法)に従って求めることができる。ここで得られるカルボキシル基価の単位はKOHmg/gであるが、本発明ではこの値をKOHの分子量(56.11)で割った値をmmol/g単位として表記した。
【0048】
また、本発明のエポキシ価は、JIS K7236(2001年版、エポキシ当量の求め方)に従って求めることができる。エポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む試料の重量(g))の逆数に1000を乗じた値をエポキシ価(mmol/g)として表記した。
【0049】
本発明で用いられるサイジング剤の重量平均分子量は50〜5000であることが好ましい。50未満の場合、低分子量となるため、界面が脆弱となり、接着力が低下する場合がある。一方、5000を越える場合、高分子量となるため、分子運動性が乏しくなり、炭素繊維表面との相互作用が小さくなり、接着力が低下する場合がある。
【0050】
ここで、本発明のサイジング剤の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPC測定は、測定機器に東ソー製HLC−8120、カラムにTSKgel(α−2500×α−3000)、溶媒にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用い、標準物質に単分散ポリスチレンを用いておこなうことができる。
【0051】
本発明において、サイジング剤には、その他にも界面活性剤、平滑剤等の成分を1種類以上添加してもよい。非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪族エステルなどが、陰イオン系の界面活性剤としてはアルキルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩などが挙げられる。また、複合材料として使用する熱硬化性マトリックス樹脂に応じて、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、不飽和エステル化合物等を添加することもできる。
【0052】
本発明において、サイジング剤は、炭素繊維束100質量部に対して、0.1〜10質量部の割合で塗布している。好ましくは0.2〜3質量部の範囲で炭素繊維束に塗布しているのがよい。サイジング剤の付着量が少なすぎると、炭素繊維束をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイドなどによる摩擦に耐えられず毛羽発生し易い傾向にあり、炭素繊維シートの平滑性などの品位が低下してしまう場合がある。一方、サイジング剤の付着量が多すぎると、炭素繊維束周囲のサイジング剤膜に阻害されてエポキシ樹脂などのマトリックス樹脂が炭素繊維束内部に含浸せず、得られる複合材料においてボイド生成し易い傾向にあり、複合材料の品位低下と同時に機械物性が低くなる場合がある。
【0053】
本発明で用いられる炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0054】
次に、本発明で好ましく用いられるPAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
【0055】
本発明で好ましく用いられる炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体の溶液や懸濁液等を用いることができる。
【0056】
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸、凝固、水洗、延伸して前駆体繊維とし、得られた前駆体繊維を耐炎化処理と炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1300〜3000℃である。
【0057】
本発明において、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるという観点から、細繊度の炭素繊維が好ましく用いられる。具体的には、炭素繊維の単繊維径が、7.5μm以下であることが好ましく、6.5μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましい。単繊維径の下限値は、生産性の観点から4.5μm程度であり、4.5μm未満では、製造工程における単繊維切断が起きやすく生産性が低下する場合がある。
【0058】
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0059】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。
【0060】
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
【0061】
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0062】
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0063】
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0064】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0065】
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり1.5〜1000アンペア/mの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/mの範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0066】
本発明において、炭素繊維束としては、繊度は好ましくは0.4〜3.0g/mであり、フィラメント数は好ましくは1000〜100000本、さらに好ましくは3000〜50000本であり、また、ストランド強度は好ましくは1〜10GPa、さらに好ましくは2〜7GPaであり、ストランド弾性率は好ましくは100〜1000GPa、さらに好ましく200〜600GPaである。
【0067】
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド”(登録商標)2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
【0068】
また、ストランド弾性率は、上記のストランド強度測定方法と同様の方法で引張試験を行い、荷重−伸び曲線の傾きから求めることができる。
【0069】
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度{O/C}が、0.05〜0.50であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30であり、さらに好ましくは0.07〜0.25である。表面酸素濃度{O/C}が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保し、本発明で用いられるサイジング剤との相互作用が大きくなり、より強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度{O/C}が0.5以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
【0070】
本発明で用いられる炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。続いて、X線源としてA1Kα1、2 を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積を、K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積を、K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
【0071】
表面酸素濃度{O/C}を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0072】
次に、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法について説明する。
【0073】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法は、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で混合し、水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬した後、該水または有機溶媒を乾燥除去する工程からなる。
【0074】
本発明のサイジング剤液としては、水または有機溶媒(メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等)を用いる。これらの中では、取扱いの容易さおよび防災の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物には乳化剤、界面活性剤等を添加し水分散性にして用いるのが良い。乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合物、オレフィン−無水マレイン酸共重合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステルのコポリマー、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤などを用いることができるが、エポキシ基との相互作用が小さいノニオン系乳化剤が好ましい。
【0075】
本発明において、水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分熱処理するのが良い。熱処理温度として、より好ましくは、170〜220℃である。熱処理時間として、より好ましくは、0.5〜30分、さらに好ましくは、0.5〜10分で熱処理するのがよい。この熱処理により、化合物(A)と化合物(B)が反応し(化合物(A)のアミノ基と化合物(B)のエポキシ基が反応)、水酸基が生成される。生成した水酸基は炭素繊維表面の官能基と相互作用し、界面接着力を向上させることができる。
【0076】
本発明において、前記化合物(A)と前記化合物(B)を混合した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理し、熱処理した混合物を水または有機溶媒に溶解または分散させることが好ましい。熱処理温度として、より好ましくは、170〜220℃である。熱処理時間として、より好ましくは、0.5〜30分、さらに好ましくは、0.5〜10分で熱処理するのがよい。
【0077】
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法は、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去し、次いで、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去する工程からなるものであっても良い。
【0078】
本発明において化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理するのがよい。熱処理温度として、より好ましくは、170〜220℃である。熱処理時間として、より好ましくは、0.5〜30分、さらに好ましくは、0.5〜10分で熱処理するのがよい。
【0079】
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法は、化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を150℃以下で乾燥除去した後、化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.5〜60分で熱処理する工程からなるものであっても良い。
【0080】
本発明において、化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、該水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理するのがよい。熱処理温度として、より好ましくは、170〜220℃である。熱処理時間として、より好ましくは、0.5〜30分、さらに好ましくは、0.5〜10分で熱処理するのがよい。
【0081】
プリプレグなどの成形材料、ないし炭素繊維強化複合材料を製造するに際し、上述のサイジング剤塗布炭素繊維束とともに用いられるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が用いられる。
【0082】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。靱性等を改良する目的で、熱硬化性樹脂に、後述する熱可塑性樹脂あるいはそれらのオリゴマーを含ませることができる。
【0083】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)および液晶ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリブチレン等のポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂およびポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、さらに、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系およびフッ素系等の熱可塑エラストマー等、さらに、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂が挙げられる。
【0084】
次に、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合の複合材料について説明する。
【0085】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
【0086】
前記のプリプレグは、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法と、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等により作製することができる。
【0087】
ウェット法は、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法であり、また、ホットメルト法は、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接強化繊維に含浸させる方法、または一旦マトリックス樹脂を離型紙等の上にコーティングフィルムを作成しておき、次いで炭素繊維の両側又は片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい方法である。
【0088】
得られたプリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法等により、複合材料が作製される。ここで熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、パッキング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等が採用される。複合材料は、プリプレグを介さず、マトリックス樹脂を直接炭素繊維の含浸させた後、加熱硬化せしめる方法、例えば、ハンド・レイアップ法、レジン・インジェクション・モールディング法およびレジン・トランスファー・モールディング法等の成形法によっても作製することができる。これら方法では、マトリックス樹脂の主剤と硬化剤の2液を使用直前に混合して樹脂調整することが好ましい。
【0089】
次に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合の複合材料について説明する。
【0090】
マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた複合材料は、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形などの成形方法によって成形されるが、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。
【0091】
かかる成形に用いられる成形材料の形態としては、ペレット、スタンパブルシートおよびプリプレグ等を使用することができるが、最も好ましい成形材料は、射出成形に用いられるペレットである。前記のペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂とチョップド繊維もしくは連続繊維を押出機中で混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものを指す。前述のペレットは、ペレット長手方向の長さより、ペレット中の繊維長さの方が短くなるが、ペレットには、長繊維ペレットも含まれる。長繊維ペレットとは、特公昭63−37694号公報に記載されているような、繊維がペレットの長手方向に、ほぼ平行に配列し、ペレット中の繊維長さが、ペレット長さと同一もしくはそれ以上であるものを指す。この場合、熱可塑性樹脂は繊維束中に含浸されていても、被覆されていてもよい。特に熱可塑性樹脂が被覆された長繊維ペレットの場合、繊維束には被覆されたものと同じか、あるいは被覆された樹脂よりも低粘度(もしくは低分子量)の樹脂が、予め含浸されていてもよい。
【0092】
複合材料が、優れた導電性と力学的特性(特に、強度や耐衝撃性)を兼ね備えるためには、成形品中の繊維長さを長くすることが有効であるが、そのためには、前述のペレットの中でも長繊維ペレットを用いて成形することが好ましい。
【0093】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束と熱硬化性樹脂および、または熱可塑性樹脂からなる成形体の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により制限されるものではない。
<サイジング剤付着量の測定方法>
約2gのサイジング剤塗布炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50リットル/分の窒素気流中、温度450℃に設定した電気炉(容量120cm)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング剤付着量を求める。このサイジング剤付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)をサイジング剤質量部とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤質量部とした。
【0095】
<界面剪断強度(IFSS)の測定>
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順でおこなった。
【0096】
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物“jER”(登録商標)828(三菱化学株式会社製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱をおこなう。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡をおこなった。
【0097】
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
複数の炭素繊維からなる束状の炭素繊維(炭素繊維束)から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥をおこなった。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmであった。
【0098】
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
【0099】
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数を測定した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=4/3×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出する。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)。
【0100】
<水酸基および/またはカルボキシル基と1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物A>
・A−1:エタノールアミン(WAKO純薬製)
分子量 61.08
水酸基およびカルボキシル基の合計 16.4mmol/g
・A−2:ジエタノールアミン(WAKO純薬製)
分子量 105.14
水酸基およびカルボキシル基の合計 19.0mmol/g
・A−3:6−アミノヘキサン酸(WAKO純薬製)
分子量 131.17
水酸基およびカルボキシル基の合計 7.6mmol/g
・A−4:グルタミン酸(WAKO純薬製)
分子量 147.13
水酸基およびカルボキシル基の合計 13.6mmol/g
<複数のエポキシ基を有する化合物B>
・B−1:ペンタエリスリトール型エポキシ
“デナコール”(登録商標)EX411(ナガセケムテックス社製)
エポキシ価 4.4mmol/g、エポキシ基数:4
・B−2:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
“デナコール”(登録商標)EX521(ナガセケムテックス社製)
エポキシ価 5.5mmol/g、エポキシ基数:3
・B−3:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
MY−721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)
エポキシ価:8.8mmol/g、エポキシ基数:4
・B−4:エチレングリコールジグリシジルエーテル
“デナコール”(登録商標)EX810(ナガセケムテックス社製)
エポキシ価:8.8mmol/g、エポキシ基数:2
・B−5:ソルビトールポリグリシジルエーテル
“デナコール”(登録商標)EX614B(ナガセケムテックス社製)
エポキシ価:5.8mmol/g、エポキシ基数:4以上
・B−6:ビスフェノールA型エポキシ
“jER”(登録商標)828(三菱化学(株)製)
エポキシ価:5.3mmol/g、エポキシ基数:2
<その他の化合物C>
・C−1:ヘキサメチレンジアミン(WAKO純薬製)
分子量 116.2
・C−2:“デナコール”(登録商標)EX−141(ナガセケムテックス(株)製)
フェニルグリシジルエーテル
エポキシ当量:151g/mol、エポキシ基数:1。
【0101】
(実施例1)
本実施例は次の第Iおよび第IIの工程からなる。
【0102】
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
アルリロニトリル99モル%、イタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24、000本、総繊度800テックス、比重 1.8、ストランド引張強度 6.2GPa、ストランド引張弾性率300GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり15クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束Aを得た。この時の表面酸素濃度O/Cは0.20であった。
【0103】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)と化合物(B−1)を6:94の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤として水に溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱し水を乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.82質量部であった。
【0104】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤の水酸基価およびカルボキシル基価の合計(a)およびエポキシ価(b)の結果と併せて表1にまとめた。
【0105】
(実施例2)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0106】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−2)と化合物(B−1)を20:80の割合で混合攪拌した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.84質量部であった。
【0107】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0108】
(実施例3)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0109】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−3)を水に溶解させ、2質量%の1次サイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱し水を乾燥除去した。化合物(A)の付着量は炭素繊維束100質量部に対して0.1質量部であった。次いで、化合物(B−1)をアセトンに溶解させ、2質量%の2次サイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱しアセトンを乾燥除去した。その後、180℃、1.5分間熱処理した。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.85質量部であった。
【0110】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0111】
(実施例4)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0112】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−4)と化合物(B−1)を40:60の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤としてアセトンに溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱しアセトンを乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.80質量部であった。
【0113】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0114】
(実施例5)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0115】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−2)と化合物(B−2)を30:70の割合で混合攪拌した以外は、実施例4と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.81質量部であった。
【0116】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0117】
(実施例6)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0118】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−2)と化合物(B−3)を22:78の割合で混合攪拌した以外は、実施例4と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.82質量部であった。
【0119】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0120】
(実施例7)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0121】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程 化合物(A−1)と化合物(B−4)を18:82の割合で混合攪拌した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.84質量部であった。
【0122】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0123】
(実施例8)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0124】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−4)と化合物(B−1)を50:50の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤としてアセトンに溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱しアセトンを乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.81質量部であった。
【0125】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0126】
(実施例9)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0127】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−2)と化合物(B−3)を13:87の割合で混合攪拌した以外は、実施例4と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.83質量部であった。
【0128】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0129】
(実施例10)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
アルリロニトリル99モル%、イタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24、000本、総繊度800テックス、比重 1.8、ストランド引張強度 6.2GPa、ストランド引張弾性率300GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束Bを得た。この時の表面酸素濃度O/Cは0.20であった。
【0130】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)と化合物(B−1)を6:94の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤として水に溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱し水を乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.80質量部であった。
【0131】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤の水酸基価およびカルボキシル基価の合計(a)およびエポキシ価(b)の結果と併せて表1にまとめた。
【0132】
(実施例11)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0133】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)と化合物(B−5)を6:94の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤としてアセトンに溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱しアセトンを乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.78質量部であった。
【0134】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0135】
(比較例1)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。 第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束Aに塗布する工程
化合物(B−1)のみを使用した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング付着炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.85質量部であった。
【0136】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0137】
(比較例2)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0138】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)のみを使用した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.83質量部であった。
【0139】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0140】
(比較例3)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0141】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(B−5)のみを使用した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング付着炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.82質量部であった。
【0142】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0143】
(比較例4)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0144】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(C−1)と化合物(B−6)を6:94の割合で混合攪拌し、180℃、1.5分間熱処理し、熱処理物を得た。該熱処理物をサイジング剤としてアセトンに溶解させ、2質量%のサイジング剤液を調整した。これを炭素繊維束内に含浸させ、引き上げた後、150℃、1.5分間加熱しアセトンを乾燥除去した。サイジング剤の付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.81質量部であった。
【0145】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0146】
(比較例5)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0147】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)と化合物(B−1)を0.5:99.5の割合で混合攪拌した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング付着炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.84質量部であった。
【0148】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0149】
(比較例6)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0150】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(C−1)と化合物(B−1)を6:94の割合で混合攪拌した以外は、実施例4と同様の方法でサイジング付着炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.81質量部であった。
【0151】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0152】
(比較例7)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様に原料となる炭素繊維束Aを得た。
【0153】
第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維束に塗布する工程
化合物(A−1)と化合物(C−2)を6:94の割合で混合攪拌した以外は、実施例4と同様の方法でサイジング付着炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は、炭素繊維束100質量部に対して0.78質量部であった。
【0154】
次いで、界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表2にまとめた。
【0155】
表1、2に示した実施例1〜11および比較例1〜7の結果から、次のことが明らかである。すなわち、実施例1〜11のサイジング付着炭素繊維束は、比較例1〜7のサイジング付着炭素繊維束に比べて、界面剪断強度(IFSS)が高く、界面接着性に優れている。
【0156】
【表1】

【0157】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤が炭素繊維束100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で付着しているサイジング剤塗布炭素繊維束であって、該サイジング剤が、水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で含む混合物または該混合物の熱処理物であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項2】
前記サイジング剤の水酸基価およびカルボキシル基価の合計(a)が2〜20mmol/g、エポキシ価(b)が0.5〜10mmol/g、かつ(a)/(b)が1〜10である、請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項3】
前記化合物(B)が、分子内にエポキシ基を3個以上有する化合物である、請求項1または2に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項4】
水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を1〜80質量部、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を20〜99質量部の比率で混合し、水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬した後、該水または有機溶媒を乾燥除去することを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項5】
水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理する、請求項4に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項6】
前記化合物(A)と前記化合物(B)を混合した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理し、熱処理した混合物を水または有機溶媒に溶解または分散させる、請求項4または5に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項7】
水酸基および/またはカルボキシル基と、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有する化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去し、次いで、複数のエポキシ基を有する化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に浸漬後、その水または有機溶媒を乾燥除去することを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項8】
化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、該水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.3〜60分で熱処理する、請求項7に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項9】
化合物(A)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を150℃以下で乾燥除去した後、化合物(B)を水または有機溶媒に溶解または分散させたサイジング剤液中に、炭素繊維束を浸漬し、次いで、その水または有機溶媒を乾燥除去する際、または、乾燥除去した後、150〜250℃、0.5〜60分で熱処理する、請求項7または8に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。

【公開番号】特開2011−214209(P2011−214209A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44757(P2011−44757)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】