説明

サイドウォール用ゴム組成物、その製造方法及び空気入りタイヤ

【課題】耐ブロー性、耐クラック性をバランスよく改善できるサイドウォール用ゴム組成物、その製造方法及びそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体と、ゴム成分とを含むサイドウォール用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール用ゴム組成物、その製造方法及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤのサイドウォールに用いられるゴム組成物として、優れた引き裂き強さを示す天然ゴムに加えて、耐屈曲亀裂性能を改善するためにブタジエンゴムをブレンドし、更に耐候性、補強性を改善するためにカーボンブラックを配合したものが使用されている。
【0003】
このようなサイドウォールの耐久性の基本性能として、耐クラック性に優れていることが要求される。また、近年、自動車の高性能化、高出力化や、高速走行性能の向上に伴い、タイヤへの負荷が高まっている。これに伴って、タイヤの発熱量が高くなることに起因して、ゴムが発砲し、サイドウォールがブローアウトする危険性が高まっている。
【0004】
そこで、耐クラック性や耐ブロー性を向上するために、ゴム組成物の加硫の最適化、ゴムの破壊核の低減が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、特定のシリカ及び特定の微粒子状酸化亜鉛を配合することが提案されている。しかしながら、耐クラック性、耐ブロー性をバランスよく改善する点については検討されておらず、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、耐ブロー性、耐クラック性をバランスよく改善できるサイドウォール用ゴム組成物、その製造方法及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体と、ゴム成分とを含むサイドウォール用ゴム組成物に関する。
【0009】
前記錯体において、前記微粒子酸化亜鉛及び前記脂肪酸の合計100質量%中の前記微粒子酸化亜鉛の含有率が、10〜90質量%であることが好ましい。
【0010】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記微粒子酸化亜鉛を0.1〜6質量部含むことが好ましい。前記サイドウォール用ゴム組成物は、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムとブタジエンゴムとを含むことが好ましい。
【0011】
前記サイドウォール用ゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0012】
前記サイドウォール用ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、フィラーを20〜70質量部含むことが好ましい。
【0013】
本発明はまた、平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して錯体を調製する工程、及び得られた錯体とゴム成分とを混練りする工程を含む前記ゴム組成物の製造方法に関する。
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製したサイドウォールを有する空気入りタイヤに関する。前記空気入りタイヤは、高性能タイヤ又は競技用タイヤとして用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体と、ゴム成分とを含むサイドウォール用ゴム組成物及びその製造方法であるので、耐ブロー性、耐クラック性がバランスよく改善された空気入りタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】製造例1で調製した錯体のFT−IRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のサイドウォール用ゴム組成物は、平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体と、ゴム成分とを含む。
【0017】
微粒子酸化亜鉛を添加することにより、架橋効率が向上し、耐ブロー性や耐クラック性を改善できるが、通常の混練工程では微粒子酸化亜鉛を良好に分散させることが困難であるため、逆にこれらの性能が低下する場合がある。これに対し、本発明では微粒子酸化亜鉛を容易に分散させることができる上記錯体を配合するため、耐ブロー性や耐クラック性を改善できる。また、通常の混練工程で良好に分散できるため、生産性も優れる。
【0018】
本発明のゴム組成物はゴム成分を含む。ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、耐ブロー性、耐クラック性が良好に得られるという点から、NR及び/又はIRとBRとを使用することが好ましい。
【0019】
NRとしては、特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20などタイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしても特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0020】
ゴム成分100質量%中のNR及びIRの合計含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。10質量%未満であると、充分なゴム強度が得られないおそれがある。該合計含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、耐クラック性が悪化する傾向にある。
【0021】
BRとしては、特に限定されず、二重結合部分のシス含量が95モル%以上のBR(ハイシスBR)など、公知のブタジエンゴムを使用できる。ハイシスBRを使用すると、耐クラック性が高められる。
【0022】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。20質量%未満であると、耐クラック性が悪化する傾向にある。該含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、充分なゴム強度が得られないおそれがある。
【0023】
本発明のゴム組成物がNR及び/又はIRとBRとを含有する場合、ゴム成分100質量%中のこれらのゴムの合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。上記範囲内であると、耐ブロー性や耐クラック性が良好に得られる。
【0024】
上記錯体は、平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られるものであり、加硫助剤として使用できる。
【0025】
微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は、300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。酸化亜鉛の平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上である。上記範囲内であると、優れた耐ブロー性、耐クラック性が得られる。
なお、酸化亜鉛の平均一次粒子径は、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算された平均粒子径(平均一次粒子径)を表す。
【0026】
脂肪酸としては特に限定されず、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。なかでも、良好な耐ブロー性、耐クラック性が得られるという理由から、飽和脂肪酸が好ましく、下記式で表されるものがより好ましい。
CH(CHCOOH
(式中、rは10〜30(好ましくは14〜18)の整数を表す。)
このような脂肪酸としては、耐ブロー性、耐クラック性が高い次元で得られるという理由から、ステアリン酸が好ましい。
【0027】
上記錯体は、微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、脂肪酸の融点以上の温度で混合することで調製でき、例えば、40〜100℃で1〜30分間(好ましくは69.6〜80℃で3〜10分間、より好ましくは70〜75℃で3〜10分間)の条件で混合を実施すればよい。混合工程は公知の加熱装置、混合装置を用いて行うことができ、例えば、ヘンシェルミキサー、水浴バス、油浴バスなどを用いて微粒子酸化亜鉛と脂肪酸を攪拌、加熱し、脂肪酸を融解させて微粒子酸化亜鉛と混合することにより錯体を調製できる。
【0028】
得られた錯体は、常温(23℃)で固体状態であることが好ましい。固体状態の錯体をゴム成分と混練りすることで、微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸をゴム成分中に良好に分散でき、耐ブロー性、耐クラック性をバランスよく改善できる。
【0029】
上記錯体において、該錯体中の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸の合計100質量%中の微粒子酸化亜鉛の含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。10質量%未満であると、耐ブロー性、耐クラック性の改善効果が充分に得られないおそれがある。微粒子酸化亜鉛の含有率は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、脂肪酸が少なく、前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。
【0030】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上である。0.1質量部未満では、充分な架橋効率が得られず、充分な耐クラック性が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、耐ブロー性が低下する傾向がある。
【0031】
本発明のゴム組成物において、上記脂肪酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。0.5質量部未満では、充分な架橋効率が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。10質量部を超えると、接着が悪くなるおそれがある。
【0032】
なお、微粒子酸化亜鉛、脂肪酸は上記錯体の他に別途配合してもよく、その場合、上記各含有量はゴム組成物中に含まれる総量を意味する。
【0033】
上記ゴム組成物は、カーボンブラック、シリカなどのフィラーを含有することが好ましい。なかでも、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、補強性を高めることができ、耐ブロー性、耐クラック性を向上できる。
【0034】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上である。20m/g未満であると、充分な補強性が得られないため、耐クラック性が低下する傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは180m/g以下、より好ましくは60m/g以下である。180m/gを超えると、耐ブロー性が低下するおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましい。該含有量は、70質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。上記範囲内に調整することで、良好な補強性が得られ、耐ブロー性や耐クラック性が良好に得られる。
【0036】
フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましい。該含有量は、70質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。上記範囲内に調整することで、良好な補強性が得られ、耐ブロー性や耐クラック性が良好に得られる。
【0037】
上記ゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
微粒子酸化亜鉛とこれらの化合物を単に併用しても充分な架橋効率が得られず、前述の性能が充分に得られないが、本発明では、上記錯体と併用することにより、耐ブロー性や耐クラック性を顕著に改善でき、これらの性能が高い次元で得られる。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0038】
式(1)中、pは2〜12、好ましくは3〜10、より好ましくは4〜8の整数である。pが1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、13以上では、−S−S−(CH−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0039】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−(CH−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0040】
式(1)中、R及びRとしては、チッ素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から同一であることが好ましい。
たとえば、R、Rとして、下記の構造を有するものを好適に使用できる。
【化1】

【0041】
上記式(1)で表される化合物1としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0042】
式(2)中、mは2〜5、好ましくは2〜4である。mが2未満では、引張り特性が充分に得られない傾向がある。また、mが5を超えると、老化後の引張り特性の低下が大きい傾向がある。
【0043】
式(2)中、xは2〜6、好ましくは3〜5である。xが2未満では、加硫が遅延する。また、xが6を超えると、ゴム組成物の製造が困難となる。
【0044】
式(2)中、nは10〜400、好ましくは100〜300である。nが10未満では、有機加硫剤が揮発しやすく、取り扱いが困難となる。また、nが400を超えると、ゴムとの相溶性が悪化し、性能の改善効果が充分でないおそれがある。
【0045】
このような化合物2としては、たとえば、ポリ−3,6−ジオキサオクタン−テトラスルフィド(川口化学工業(株)製の2OS4など)などが使用できる。
【0046】
式(3)中、qは3〜10、好ましくは3〜6の整数である。qが3未満では、耐クラック性を充分に改善できないおそれがあり、qが10を超えると、分子量が増大するわりに耐クラック性の改善効果が小さい傾向がある。
【0047】
式(3)中、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムがより好ましい。また、式(3)で表される化合物の水和物としては、例えば、ナトリウム塩一水和物、ナトリウム塩二水和物などがあげられる。
【0048】
式(3)で表される化合物3及びその水和物としては、化学的に安定性が高いという理由から、チオ硫酸ナトリウム由来の誘導体、例えば、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物が好ましい。
【0049】
本発明のゴム組成物において、化合物1、化合物2、化合物3、及び該化合物3の水和物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。該含有量は、好ましくは12質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。上記範囲内であると、耐ブロー性、耐クラック性が高い次元で得られる。
【0050】
本発明のゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満であると、加硫速度が遅くなり、生産性が悪化するおそれがある。該含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。7質量部を超えると、老化後のゴム物性変化が大きくなるおそれがある。
【0051】
本発明のゴム組成物に硫黄、化合物1、化合物2、化合物3、及び該化合物3の水和物が使用される場合、硫黄、化合物1、化合物2、化合物3、及び該化合物3の水和物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは15質量部以下であり、より好ましくは7質量部以下である。上記範囲内にすることにより、良好な架橋構造が形成され、耐ブロー性、耐クラック性が高い次元で得られる。
【0052】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、老化防止剤、加硫促進剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0053】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造できる。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。本発明のゴム組成物は、サイドウォールに使用される。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォールの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0055】
本発明の空気入りタイヤは、高性能タイヤ、競技用タイヤとして好適に使用できる。
【実施例】
【0056】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0057】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス1,4結合量:97質量%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN550(NSA:42m/g、DBP吸油量:115ml/100g)
オイル:出光興産(株)製ダイアナプロセスAH−24
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種(平均一次粒子径:1.0μm=1000nm)
微粒子酸化亜鉛1:ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−1(平均一次粒子径:100nm)
微粒子酸化亜鉛2:ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−3(平均一次粒子径:50nm)
錯体(微粒子酸化亜鉛1、2及び酸化亜鉛の錯体):製造例1
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
耐熱架橋剤1:ランクセス社製のバルクレンVP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)(下記式)
【化2】

耐熱架橋剤2:川口化学工業(株)製のアクター2OS4(ポリ−3,6−ジオキサオクタン−テトラスルフィド)
[式:−(R−S− (式中、R=−(CH−CH−O)−CH−CH−、m=2、x=4、n=200)]
耐熱架橋剤3:フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)(下記式)
【化3】

加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0058】
(製造例1)
(錯体の調製)
表1〜2に示す配合処方にしたがい、ヘンシェルミキサーを用いて、ステアリン酸を溶解温度(69〜72℃)以上に加熱し、ステアリン酸が融解したことを確認した後に各種酸化亜鉛を添加した。5分間攪拌混合した後に室温にて空冷することで錯体を得た。
【0059】
(錯体の確認:FT−IR)
製造例1で調製した微粒子酸化亜鉛とステアリン酸による錯体、酸化亜鉛とステアリン酸による錯体について、FT−IRを用いて錯体の形成を確認したところ、微粒子酸化亜鉛を用いたものでは錯体の形成が確認された(図1)。
【0060】
実施例及び比較例
表1〜2に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤及び耐熱架橋剤以外の材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た(ベース練り)。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤及び耐熱架橋剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。なお、比較例5はベース練りを2回多く行った。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
【0061】
また、未加硫ゴム組成物をサイドウォールの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、試験用タイヤ(サイズ175/65R15)を製造した。
【0062】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1〜2に示す。
【0063】
(耐ブローアウト性能)
フレクソ試験機を用いて、加硫ゴム組成物に繰り返し圧縮変形を与え自己発熱させ、ブローアウトする時間(ブローアウトタイム)を測定した(試験条件:繰り返し圧縮歪20%、周波数10Hz)。比較例2、8を100として、各配合のブローアウトタイムを指数表示した。指数が大きいほどブローアウトタイムが長く、耐熱性が良好であることを示す。
【0064】
(ゴム強度)
加硫ゴム組成物を用いて3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K6251 「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を行い、 破断強度(TB)及び破断時伸び(EB)を測定し、破壊エネルギー(TB×EB/2)を算出した。比較例2、8を100として、下記計算式により、各配合の破壊エネルギーを指数表示した。なお、指数が大きいほど機械的強度が高く、ゴム強度に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合の破壊エネルギー)/(比較例2、8の破壊エネルギー)×100
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
微粒子酸化亜鉛1、2を通常どおり混練りした比較例では、耐ブロー性、耐クラック性が充分に得られなかった。特に、微粒子酸化亜鉛2を通常どおり混練りした比較例では、これらの性能が悪化した。また、通常の酸化亜鉛の混合物(比較例6)では、錯体は形成されず、これらの性能が充分に改善されなかった。
一方、微粒子酸化亜鉛1、2の錯体を用いた実施例では、微粒子酸化亜鉛の分散性が向上され、耐ブロー性、耐クラック性がバランスよく改善された。特に、耐熱架橋剤1〜3を配合した実施例では、これらの性能が顕著に改善された。
また、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの他の脂肪酸及び微粒子酸化亜鉛1、2を用いても、錯体が良好に形成され、これらの性能が良好に改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体と、
ゴム成分とを含むサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項2】
前記錯体において、前記微粒子酸化亜鉛及び前記脂肪酸の合計100質量%中の前記微粒子酸化亜鉛の含有率が、10〜90質量%である請求項1記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記微粒子酸化亜鉛を0.1〜6質量部含む請求項1又は2記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項4】
天然ゴム及び/又はイソプレンゴムとブタジエンゴムとを含む請求項1〜3のいずれかに記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項5】
下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれかに記載のサイドウォール用ゴム組成物。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して、フィラーを20〜70質量部含む請求項1〜5のいずれかに記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項7】
平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して錯体を調製する工程、及び
得られた錯体とゴム成分とを混練りする工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したサイドウォールを有する空気入りタイヤ。
【請求項9】
高性能タイヤ又は競技用タイヤとして用いられる請求項8記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−75931(P2013−75931A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214890(P2011−214890)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】