説明

サファイヤ単結晶基板

【課題】走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、10−10〜10−8mオーダのマイクロラフネス(micro roughness)や段差の測定を行う際に、高さ精度を校正するための標準試料として用いられサファイヤ単結晶基板であって、特にステップの高さを高精度に読み取ることが可能であり、かつ係る校正をスムーズに行うことが出来るような、SPMの校正用のサファイヤ単結晶基板を提供する。
【解決手段】主面に1分子層の高さを有する略平行な略直線状のステップ2aを有し、前記主面のサファイヤの特定結晶面からの傾斜の大きさ、又は前記ステップ2aの相互間に形成された特定のテラス3aの幅が、所定の範囲内のいずれかの値であり、かつ前記テラスの幅が各々略等しいサファイヤ単結晶基板1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡観察装置(AFM)をはじめとした走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、10−10〜10−8mオーダのマイクロラフネス(micro roughness)や段差の測定を行う際に、高さ精度を校正するために標準試料が用いられている。こうした標準試料として、シリコン単結晶基板を超高真空中で熱処理して得られるシリコンステップ基板を用いることが従来知られている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1に示すシリコンステップ基板は、主面にシングルステップ構造を有しており、そのステップの高さがシリコンの2原子層分の高さ(3.1×10−10m)となるように作られており、各ステップの間に存在するテラスの幅が一般的に1×10−7m未満である。SPMを校正するに当たっては、このシリコンステップ基板についてSPMによる測定を行い、各ステップの間に存在するテラスを水平化処理して、ステップの高さを求めている。このとき、求められたステップの高さを3.1×10−10mとして、高さ方向の校正を行っている。
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(非特許文献2参照。)。
【0004】
【非特許文献1】(社)電子情報技術産業協会規格 「AFMにおける1nmオーダの高さ校正法」p.3〜5 2002年7月
【非特許文献2】エスアイアイ・ナノテクノロジ株式会社「走査型プローブ顕微鏡セミナー 2006」2006年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に示すようなシリコンステップ基板を用いて校正を行う場合には、テラスの幅が狭く、テラスを完全な水平状態に画像処理することが困難であった。そのため、ステップの高さの値が定まらず、正確な校正を行うことができないという問題点があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、特にステップの高さを高精度に読み取ることが可能であり、かつ係る校正をスムーズに行うことが出来るような、SPMの校正に適した基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明のサファイヤ単結晶基板の基本構成について>
本発明に係るサファイヤ単結晶基板1は、サファイヤのc面,a面,r面,m面もしくはR面又はこれらの面から傾斜させた面を主面として、その主面に1分子層の高さHを有するシングルステップ(以下、ステップ2a,2bとする。)を形成して構成したものである。
【0008】
すなわち、サファイヤのc面,a面,r面,m面もしくはR面又はこれらの面から所定の範囲内の傾斜角度θだけ傾斜させた主面上に、略直線状のステップ2aを形成したものである。または、上述の面方位を有する主面の略同一の位置に重心を有する複数の円状又は三角形状のステップ2bを形成したものであり、このうち最も内側にあるステップ2bがなす円形又は三角形の重心から、この円形又は三角形のうち最も遠い部分までの距離が、5×10−8〜3×10−7mの範囲内の値をとるように構成したものであり、さらにその外側に形成された輪状のテラス3bの幅Lのうち最も広い部分の幅Lmaxが、少なくとも円形又は三角形の重心から半径5×10−7mの範囲においては1×10−7〜3×10−7mの範囲内の値をとるように構成したものである。
【0009】
<本発明のサファイヤ単結晶基板の基本原理について>
本発明ではサファイヤの単結晶を材料として用いており、大気中をはじめ水中や強酸中といった過酷な状況下でもステップ2a,2b及びテラス3a,3bからなるステップ構造が安定的に存在できる。それとともに、サファイヤ単結晶基板1を再洗浄又は再アニールすることで、ステップ構造を保持したまま、表面についた汚れのみを除去し、ステップ基板として再生させることができる。
【0010】
そして、直線状のステップ2aを形成させた場合は、サファイヤ単結晶基板1の主面について、サファイヤのc面,a面,r面,m面又はR面からの傾斜角度θを所定の範囲内に抑えることで、その幅Lの方向について複数の座標位置の測定が行える程度にテラス3aの幅Lが確保される。幅Lの方向について複数の座標位置の測定を行うことにより、測定された各座標位置の位置関係からそのままテラス3aの水平面を認識できるため、テラス3aを完全な水平状態に画像処理することも容易であり、ステップ2aの高さHの値も高精度に捉えることができる。したがって、本発明に係るサファイヤ単結晶基板1を用いることで、SPMの校正をより容易にかつ正確に行うことができる。一方で、円形又は三角形のステップ2bを形成させた場合であっても、主面に形成されるテラス3bの幅Lのうち最も広い部分の幅Lmaxが概ね1×10−7m以上であれば、上述と同様の基本原理により、SPMの校正をより容易にかつ正確に行うことができる。
【0011】
また、直線状のステップ2aを形成させた場合は、サファイヤ単結晶基板1の主面について、サファイヤのc面,a面,r面,m面又はR面からの傾斜角度θを所定の範囲内に抑えることで、テラス3aの幅Lが必要以上に大きくなり過ぎず、ステップ2aを形成させるために主面に設ける傾斜角度θを過剰に小さくする必要がなくなり、傾斜角度θの誤差によってテラス3aの幅Lに生じるばらつきを抑えることができる。
【0012】
一方で、円形又は三角形のステップ2bを有するステップ構造のテラス3bの幅Lのうち最も広い部分の幅Lmaxが3×10−7m以下のときは、例えば1×10−6m角といったSPM像の範囲で、校正に必要な本数のステップ2bをSPM像に捉えることが容易となる。
【実施例1】
【0013】
本実施例に係るサファイヤ単結晶基板1として、c面から種々の傾斜角度θで傾斜させた面を主面として有するサファイヤ基板材料を材料として用い、その主面に略直線状のステップ2a及びテラス3aを形成させたサファイヤ単結晶基板1を作製した。ここで、ステップ2a及びテラス3aは、サファイヤ基板材料の主面を超平坦面(表面粗さRaで1×10−9m以下の面)となるように研磨・洗浄した後、大気中で熱処理することにより形成させた。
【0014】
熱処理温度が1100℃より高いと、シングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、熱処理温度が900℃未満であるとシングルステップが形成されない。
【0015】
熱処理時間は、熱処理温度ほどシングルステップの形成に大きく影響しないが、10時間を超えるとシングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、30分以下であるとシングルステップが形成されない。
【0016】
このようにして作製されたサファイヤ単結晶基板1の表面は、図1に示すように、主面に1分子層の高さHを有するステップ2aが各々ほぼ平行に形成された、略直線状のステップ構造であり、隣接するステップ2aの間には細長いテラス3aがあり、テラス3aの幅Lは各々ほぼ等しい値を取るものであった。本実施例では、このステップ構造を用いてSPMの校正を行った。
【0017】
その結果、傾斜角度θが0.25°より大きいものを用いるとステップ2aが狭くなりすぎ、同一のテラス3aにおいて幅Lの方向について複数の座標位置の測定を行うのが困難になった。また、傾斜角度θが0.04°未満のものでは、単一のSPM像により複数のステップ2aを明瞭に捉えることが困難になり、SPMの校正作業に支障が生じた。その一方で、傾斜角度θが0.04°〜0.25°のものでは、1×10−6m角の範囲のSPM像を用いて複数のステップ2aを同時にかつ明瞭に捉えることができ、SPMの校正をより高精度にかつスムーズに行うことができた。
【0018】
上に述べた結果は、サファイヤ単結晶基板1の主面の面方位をc面からa軸方向に傾斜させた場合、c面からm軸方向に傾斜させた場合、c面からa軸とm軸の間にある方向に傾斜させた場合のいずれにおいても、同様の結果であった。
【実施例2】
【0019】
本実施例では、実施例1と同様にして、a面,r面,m面及びR面から種々の傾斜角度θで傾斜させた面を主面として有するサファイヤ基板材料を用い、サファイヤ単結晶基板1について、その主面に形成されたステップ構造を用いてSPMの校正を行った。
【0020】
a面から傾斜させた面を主面として有するサファイヤ基板材料を用いた場合、熱処理温度が1200℃より高いとシングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、熱処理温度が900℃未満であるとシングルステップが形成されない。
【0021】
熱処理時間は、熱処理温度ほどシングルステップの形成に大きく影響しないが、10時間を超えるとシングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、30分以下であるとシングルステップが形成されない。
【0022】
r面から傾斜させた面を主面として有するサファイヤ基板材料を用いた場合、熱処理温度が1100℃より高いと、シングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、熱処理温度が900℃未満であるとシングルステップが形成されない。
【0023】
熱処理時間は、熱処理温度ほどシングルステップの形成に大きく影響しないが、10時間を超えるとシングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、30分以下であるとシングルステップが形成されない。
【0024】
a面からの傾斜角度θが0.30°より大きいもの、又はr面からの傾斜角度θが0.40°より大きいものを用いるとステップ2aが狭くなりすぎ、同一のテラス3aの幅Lの方向について複数の座標位置の測定を行うのが困難になった。また、a面からの傾斜角度θが0.04°未満、又はr面からの傾斜角度θが0.06°未満のものでは、単一のSPM像により複数のステップ2aを明瞭に捉えることが困難になった。その一方で、a面からの傾斜角度θが0.04〜0.30°、又はr面からの傾斜角度θが0.06〜0.40°のものでは、1×10−6m角の範囲のSPM像を用いて複数のステップ2aを同時にかつ明瞭に捉えることができ、SPMの校正をより高精度にかつスムーズに行うことができた。
【0025】
さらに、m面及びR面から傾斜させた面を主面として有するサファイヤ単結晶基板1を用いた場合も、SPMの校正に適したステップ構造を形成できることが確認された。
【実施例3】
【0026】
本実施例では、例えば図2に示すような、主面に円形又は三角形のステップ2bを有するサファイヤ単結晶基板1について、そのステップ構造を用いてSPMの校正を行った。本実施例で用いるサファイヤ単結晶基板1は、主面としてc面を有するサファイヤ基板材料を用い、その主面を超平坦面(表面粗さRaで1×10−9m以下の面)となるように研磨した後、サファイヤ基板材料の格子欠陥へのエッチングの手段を用いて直径数μm程度、深さ1μm以下の凹部を形成し、この凹部を大気中で熱処理して凹部の底面及び側面をテーパ化させて、略同一の位置に重心を有する複数の円状又は三角形状のステップ2b及びテラス3bを形成することにより得た。
【0027】
熱処理温度が1400℃より高いと、シングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、熱処理温度が900℃未満であるとシングルステップが形成されない。
【0028】
熱処理時間は、熱処理温度ほどシングルステップの形成に大きく影響しないが、4時間を超えるとシングルステップがバンチングして不整列なマルチステップになってしまい、30分以下であるとシングルステップが形成されない。
【0029】
少なくともステップ構造のステップ2bがなす円形又は三角形の重心から半径5×10−7mの範囲において、輪状に形成されたテラス3bの幅Lのうち最も広い部分の幅Lmaxが1×10−7〜3×10−7mのものでは、SPM像を用いて複数のステップ2bを同時にかつ明瞭に捉えることができ、SPMの校正をより高精度にかつスムーズに行うことができた。その一方で、上述のテラス3bの幅Lmaxが1×10−7m未満であると、ステップ2bが狭くなりすぎ、同一のテラス3bにおいて幅Lの方向について複数の座標位置の測定を行うのが困難になった。また、上述のテラス3bの幅Lmaxが3×10−7mより大きいと、校正に必要な本数のステップ2bを単一のSPM像に捉えるためにSPMの視野を広くする必要が生じるため、結果的にステップ構造を明瞭に捉えることが困難となった。
【0030】
ここで特に、凹部の深さをコントロールして、凹部の底にありステップ構造の重心が属している円形又は三角形のテラス3bが、サファイヤ単結晶基板1の主面から5×10−10〜1×10−6mの深さの位置にあるようにしたところ、上記円形又は三角形のテラス3bを含んだステップ構造をSPMにより確実に測定することができ、これを校正に用いることができた。その一方で、上述のテラス3bの位置がサファイヤ単結晶基板1の主面から5×10−10mより浅い位置にあるようにした場合には、上述のテラス3bからサファイヤ単結晶基板1の主面に向かって上述の間隔で複数段のステップ2bを形成することが困難であった。
【0031】
なお、本実施例に用いるサファイヤ基板材料としては、主面としてc面を有するもののみならず、a面,r面,m面もしくはR面又はこれらの面から傾斜させた面を主面として有するものも用いることができる。また、凹部の形成方法としては、上述の格子欠陥へのエッチングの手段の他、FIB(集束イオンビーム),レーザ加工,フォトリソグラフィ(反応性イオンエッチング),ダイヤモンド圧子の押圧等の手段を用いることが出来る。
【実施例4】
【0032】
本実施例では、サファイヤ基板材料として目印を有しておりかつ外形が円形であるものを用いた。ここで、目印としては、図3のように前記円形の一部を直線状に切り欠いて設けた直線部4を用いた。サファイヤ基板材料の主面に、実施例1〜2に示したステップ構造を形成させ、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで、直線部4は、ステップの形成方向2dに対して一定の位置関係すなわち垂直又は平行になるように形成させた。
【0033】
直線部4を目印として用いることで、直線部4が形成された方向により、肉眼では決して確認することのできないステップの形成方向2dについて目安を付け、SPMの校正の際にステップ2aがほぼ所望の方向を向くようにすることができる。その結果、SPMを校正する時に、ステップの形成方向2dをSPMのプローブ(図示せず)が楽に動かせる方向(例えば、上下左右の方向)に合わせられるため、より効率的に校正を行うことができた。
【実施例5】
【0034】
本実施例では、サファイヤ基板材料として目印を有しておりかつ外形が多角形であるものを用いた。目印として図4のような切欠部5を前記多角形のうち1つの角に設けた。このサファイヤ基板材料の主面に、実施例4と同様にステップ構造を形成させ、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで、ステップの形成方向2dは、切欠部5を有する角に隣接する辺の少なくとも一方に対して垂直又は平行になるようにした。
【0035】
その結果、切欠部5から向かって左側又は右側に伸びる辺の向きによって、ステップの形成方向2dについて目安を付けることができ、実施例4と同様に、より効率的に校正を行うことができた。
【実施例6】
【0036】
円形又は三角形のステップ構造の形成位置2pについての目印を有するサファイヤ単結晶基板1の実施例を図5(a)、(b)に示す。ここで、サファイヤ基板材料としては、目印を有しておりかつ外形が円形又は多角形であるものを用いた。ここで目印として、実施例4及び5と同様の方法により、直線部4を設けたものと(図5(a))、切欠部5を設けたもの(図5(b))を用いた。そして、サファイヤ基板材料の主面に、実施例3に示した円形又は三角形のステップ構造を形成させ、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで、上述のステップ構造は、直線部4又は切欠部5に対して一定の位置関係を有する場所、すなわち直線部4又は切欠部5から所定の距離だけ離した場所に形成させた。
【0037】
直線部4又は切欠部5を目印として用いることで、直線部4又は切欠部5が形成された位置により、肉眼では決して確認することのできないステップの形成位置2pについて目安を付けることができた。
【実施例7】
【0038】
本実施例では、サファイヤ単結晶基板1に対して、目印として例えば図6(a)、(b)のような刻印6を設けた。ここで、刻印6はサファイヤ単結晶基板1の材質の表面、裏面又は内部に形成させることも可能である。本実施例では、両面研磨を行ったサファイヤ基板材料の材質の内部にレーザ加工により刻印6を形成させ、刻印6を形成する時に周囲が汚染することを防いだ。そして、非対称な形状の刻印6をサファイヤ単結晶基板1の特定の辺に沿って形成させた後で、サファイヤ単結晶基板1の主面に実施例1〜3に示したステップ構造を形成させ、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで、実施例1及び2に係る直線状のステップ構造は、刻印6を有する辺に対して垂直又は平行になるように形成させた(図6(a))。また、実施例3に係る円形又は三角形のステップ構造は、刻印6の位置から所定の距離だけ離した場所、もしくは刻印6に囲まれた領域内に形成させた(図6(b))。
【0039】
その結果、直線状のステップ構造を形成させた場合は、刻印6を有する辺の向きによりステップの形成方向2dについて目安を付けることができた。一方、円形又は三角形のステップ構造を形成させた場合は、刻印6によりステップの形成位置2pについて目安を付けることができた。これらに加えて、非対称な形状の刻印6をサファイヤ単結晶基板1の主面に設けたことから、表面と裏面の区別が困難な両面研磨基板においてその区別が容易に行うことができた。
【実施例8】
【0040】
本実施例では、サファイヤ基板材料の主面に実施例1〜2に示したステップ構造を形成させた後で、サファイヤ基板材料の材質の内部に、目印として例えば図7(a)のような刻印6aを設け、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで刻印6aの形成は、サファイヤ単結晶基板1の表面を傷付けることのない方法として、図7(b)に示すように、レーザ発光源8aから取り出したレーザ8を集光レンズ8bにより集光させて載置台9に載せたサファイヤ基板材料に照射させ、集光により生じる焦点8cの近傍で多光子吸収を起こさせて刻印6aを形成させる方法を用いた。そして、この刻印6aの形成工程は、SPMにより観察しながら、実際のステップの形成方向2dに沿って行われた。そして形成された刻印6aの形状は、ステップの形成方向2dが容易に分かる形状、例えば矢印の形状とした。
【0041】
その結果、刻印6aの矢印の方向により、ステップの形成方向2dが正確に肉眼でわかることから、サファイヤ単結晶基板1を所望の向きにより正確に設置することができた。
【実施例9】
【0042】
本実施例では、サファイヤ基板材料の主面に実施例3に示した円形又は三角形のステップ構造を形成させた後で、サファイヤ基板材料の材質の内部に、目印として例えば図8のような刻印6bを設け、サファイヤ単結晶基板1とした。ここで刻印6bの形成は、実施例8と同様の方法により行った。そして、この刻印6bの形成は、SPMにより観察しながら、実際のステップ構造の形成位置2pに従って行われた。そして形成された刻印6bの形状は、ステップの形成位置2pが容易に分かる形状、例えば矢印の形状とした。本実施例の方法で刻印6bを設けることで、刻印6bと実際に形成されたステップの形成位置2pとの位置関係をより正確にすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1に係る、主面に略直線状のステップを有するサファイヤ単結晶基板の要部断面図である。
【図2】実施例3に係る、主面に円形又は三角形のステップを有するサファイヤ単結晶基板の要部断面図である。
【図3】実施例4に係る、目印として円形の一部を直線状に切り取って直線部を設けた、略直線状のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図である。
【図4】実施例5に係る、目印として多角形のうち1つの角に切欠部を設けた、略直線状のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図である。
【図5】実施例6に係る、目印として(a)直線部、(b)切欠部を設けた円形又は三角形のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図である。
【図6】実施例7に係る、目印として非対称な形状の刻印を設けた(a)略直線状のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図と、(b)円形又は三角形のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図である。
【図7】実施例8に係る、(a)目印として矢印の形状の刻印を内部に設けた略直線状のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図と、(b)刻印の形成工程の要部断面図である。
【図8】実施例9に係る、目印として矢印の形状の刻印を内部に設けた、円形又は三角形のステップを有するサファイヤ単結晶基板の正面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 サファイヤ単結晶基板
2a,2b ステップ
2d ステップの形成方向
2p ステップの形成位置
3a,3b テラス
4 直線部
5 切欠部
6、6a、6b 刻印
8 レーザ
8a レーザ発光源
8b 集光レンズ
8c 焦点
9 載置台
θ 傾斜角度
L テラスの幅
H ステップの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板であって、
主面に1分子層の高さを有する略直線状のステップを有し、
前記ステップが一定の間隔毎に各々略平行に形成され、
前記主面がサファイヤのc面から所定の角度だけ傾斜させた面からなり、
前記所定の角度が0.04〜0.25°の範囲内にあり、
前記ステップの相互間に形成されたテラスの幅が各々略等しいことを特徴とするサファイヤ単結晶基板。
【請求項2】
SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板であって、
主面に1分子層の高さを有する略直線状のステップを有し、
前記ステップが一定の間隔毎に各々略平行に形成され、
前記主面がサファイヤのa面から所定の角度だけ傾斜させた面からなり、
前記所定の角度が0.04〜0.30°の範囲内にあり、
前記ステップの相互間に形成されたテラスの幅が各々略等しいことを特徴とするサファイヤ単結晶基板。
【請求項3】
SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板であって、
主面に1分子層の高さを有する略直線状のステップを有し、
前記ステップが一定の間隔毎に各々略平行に形成され、
前記主面がサファイヤのr面から所定の角度だけ傾斜させた面からなり、
前記所定の角度が0.06〜0.40°の範囲内にあり、
前記ステップの相互間に形成されたテラスの幅が各々略等しいことを特徴とするサファイヤ単結晶基板。
【請求項4】
SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板であって、
主面に1分子層の高さを有する略直線状のステップを有し、
前記ステップが一定の間隔毎に各々略平行に形成され、
前記主面がサファイヤのm面又はR面のうちいずれかの面から傾斜させた面からなり、
前記ステップの相互間に形成されたテラスの幅が各々略等しいことを特徴とするサファイヤ単結晶基板。
【請求項5】
SPMの校正に用いられるサファイヤ単結晶基板であって、
主面がサファイヤのc面,a面,r面,m面若しくはR面又はこれらの面から傾斜させた面からなり、
前記主面に1分子層の高さを有しておりかつ略同一の位置に重心を有する複数の円形又は三角形のステップを有し、
前記ステップのうち最も内側にあるステップがなす円形又は三角形の重心から前記内側にあるステップのうち最も遠い部分までの距離が5×10−8〜3×10−7mの範囲内のいずれかの値であり、
前記円形又は三角形のテラスの外側に形成された輪状のテラスの幅のうち最も広い部分の幅が、少なくとも前記円形又は前記三角形の重心から半径5×10−7mの範囲において1×10−7〜3×10−7mの範囲内のいずれかの値であることを特徴とするサファイヤ単結晶基板。
【請求項6】
前記円又は前記三角形の重心の属するテラスが、前記主面から所定の深さだけ内部に入ったところにあり、
前期所定の深さが5×10−10m〜1×10−6mであることを特徴とする請求項5に記載のサファイヤ単結晶基板。
【請求項7】
前記ステップの形成された方向又は前記ステップの形成された位置に対して一定の位置関係を示す目印を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のサファイヤ単結晶基板。
【請求項8】
前記サファイヤ単結晶基板の外形が円形であり、
前記目印が前記円形の一部を切り欠いた直線部であることを特徴とする請求項7に記載のサファイヤ単結晶基板。
【請求項9】
前記サファイヤ単結晶基板が多角形であり、
前記目印が前記多角形の角に設けた切欠部であることを特徴とする請求項7に記載のサファイヤ単結晶基板。
【請求項10】
前記目印が前記サファイヤ単結晶基板の材質の内部に存する刻印であることを特徴とする請求項7に記載のサファイヤ単結晶基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−31027(P2008−31027A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91699(P2007−91699)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】