説明

サルノコシカケ科に属する担子菌類と松科植物成分の調合剤または混合物による血管新生阻害効果及び免疫調節効果を併せもつ新規抗がん剤もしくはがん予防剤

【課題】サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物による血管新生阻害薬及び免疫調節効果に伴う抗がん剤もしくはがん予防剤の提供。
【解決手段】霊芝と松かさとの混合物を熱水で煎出した煎出液である血管新生阻害薬または抗がん剤もしくはがん予防剤。また、該血管新生阻害薬または抗がん剤もしくはがん予防剤を生体機能に認められる日周リズムに応じて投与する投与方法、その効果をより亢進する投与方法であり霊芝と松かさとの煎出液である健康食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物による血管新生阻害薬及び免疫調節効果に伴う抗がん剤もしくはがん予防剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
霊芝とは、一般にマンネンタケ科の万年茸(マンネンタケ)を指し、後漢時代に編纂された「神農本草経」には、命を養う延命の霊薬として記載されている(非特許文献1)。以来中国や日本において、その子実体を適当な大きさに切断し、熱水で煎出したものを民間薬として使用してきた。霊芝の効能を裏付ける研究は世界中で行われており、抗がん作用、免疫賦活作用、抗血栓作用、抗高脂血作用などが動物実験において報告されている(非特許文献1)。したがって、霊芝は、生活習慣病などに対する健康食品としても一定の評価を得ており、多くの市販品が存在する。最近本邦において、霊芝抽出物は、がんの増殖など血管新生が関わる疾病に対する血管新生阻害剤として数件の特許出願がなされている(特許文献1)。
【0003】
一方、北九州には古くから、五葉松の松かさに、制がん効果があるという民間伝承があった。近年、昭和大学医学部のグループにより、制がん作用を示す松かさ成分はリグニンと呼ばれるポリフェノールの一種であることが判明した(非特許文献2)。また、この成分は免疫賦活作用を有し、抗ウイルス作用も発揮するものと考えられる。この松かさエキスも健康食品として市販されている。
【0004】
上述の民間伝承とは別に、梅の古木に生息する霊芝および五葉松の松かさを適当な大きさに切断した後、重量比で1:1に混合し、熱水で抽出したものは今で言うがんやウイルス性疾患に効くという民間伝承が古くから山口県に存在し、申請者の家に伝承されてきた。霊芝および松かさ単独の健康食品は既に市販され、その健康増進効果は一定の評価を得ているが、両者の混合物がかかる動物実験評価系にかけられた報告はこれまでにない。
【0005】
そこで、本発明者らは、松かさと霊芝の細片1:1混合物を熱水での煎出液を担がんマウスに経口または腹腔内投与し、抗がん並びにがん予防効果を検討したところ、松かさと霊芝の細片1:1混合物を熱水で煎出した煎出液が抗がん並びにがん予防効果を有することを見出して、この発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−196761(特願2002−383433)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】フリー百科事典ウイキペディア http://ja.wikipedia.org/wiki/霊芝
【非特許文献2】Sakagami H,Ikeda M, Unten S,Takeda K et al.: Antitumor activity of polysaccharidefractions from pine cone extract of Pinus parviflora Sieb. Et Zucc. AnticancerRes 7: 1153-1160, 1987.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、その1つの形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含む血管新生阻害薬を提供することを目的としている。
【0009】
この発明は、その別の形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物の免疫調節効果を利用した抗がん剤もしくはがん予防剤を提供することを目的としている。
【0010】
この発明は、さらに別の形態として、上記血管新生阻害薬または抗がん剤もしくはがん予防剤を生体機能に認められる日周リズムに応じて投与することからなる投与方法を提供することを目的としている。
【0011】
この発明は、さらに別の形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含むことからなる健康食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、この発明は、その1つの形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含む血管新生阻害薬を提供する。
【0013】
この発明は、その別の形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物の免疫調節効果を利用した抗がん剤もしくはがん予防剤を提供する。
【0014】
この発明は、さらに別の形態として、上記血管新生阻害薬または抗がん剤もしくはがん予防剤を生体機能に認められる日周リズムに応じて投与することからなる投与方法を提供する。
【0015】
この発明は、さらに別の形態として、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含むことからなる健康食品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物によって血管新生阻害作用効果及び免疫調節効果に伴う抗がんもしくはがん予防作用効果を有している。したがって、この発明に係る松かさ/霊芝混合物の煎出液は、血管新生抑制作用を介する抗がん効果と免疫調節作用を介するがん予防効果を併せもつ健康食品として使用できる可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の松かさ/霊芝混合物の煎出液による抗腫瘍効果において、該煎出液が腫瘍細胞移植後の腫瘍体積の増加に及ぼす投与時刻の影響を検討するために、煎出液の投与時間を9:00 投与群と21:00投与群に分けた結果を示す図である(実施例1)。
【図2】図2は、腫瘍組織内および担がんマウスの血漿レベルにおける血管内皮増殖因子(vascularendothelial growth factor: VEGF)の日内変動を示す図である(実施例1)。
【図3】図3は、9:00投与の方が21:00投与に比べ腫瘍組織内VEGFタンパク量を有意に低下させたことを示す図である(実施例1)。
【図4】図4は、腫瘍細胞移植7日前から煎出液を9:00に毎日経口投与を続けることで、21:00投与に比べ有意に腫瘍の移植生着を抑制したことを示す図である(実施例2)。
【図5】煎出液の経口投与によって、腫瘍壊死因子であるTNF-α、および抗腫瘍作用をもつINF類の産生が高まることがフローサイトメトリー法の結果から分った。図5は、松かさ/霊芝混合物によってINF-γの産生が顕著に増加することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明で使用する松かさ/霊芝混合物の煎出液は、松科植物成分である松かさと、サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)とを細片に砕いて、熱水で煎出することによって調製することができる。松かさ/霊芝混合物の混合割合(松かさ:霊芝)は、一般的には乾燥重量比が1:1であることが最も好ましいと民間伝承されてきた。さらに、申請者の家にこれまで伝わってきた人が飲用する場合の煎出方法と飲用法は以下の通りである。60〜70グラムの松かさ/霊芝混合物をサラシ布に包み、1,400ミリリットルの熱水に入れ、蓋をせずに30分程度煎じると熱水は1,000ミリリットルになる。この煎出液は3日分に相当し、1日3回(1回分は約120ミリリットル)飲用する。煎じた後の松かさ/霊芝混合物は、日光に干して乾燥させ同様に煎出を繰り返すことができ、60〜70グラムの松かさ/霊芝混合物は約一ヶ月分とされている。下記の実施例でマウスに用いた松かさ/霊芝混合物は、人の場合と同様、1:1で混合し、この54グラムを熱水1,000ミリリットルで30分間煎出して調製した。
【0019】
上記のようにして熱水で煎出した松かさ/霊芝混合物の煎出液は、ろ過や遠心分離などの常法の分離技術により煎出液と固形物とを分離し、必要に応じて、更に常法の精製技術により精製するのがよい。
【0020】
このようにして調製した松かさ/霊芝混合物の煎出液は、血管新生抑制作用を介する抗がん効果と免疫調節作用を介するがん予防効果を併せもつ健康食品としての可能性についても調べたので、それらの結果を実施例を参照して説明する。ただし、この発明は、下記実施例に一切限定されるものではなく、また下記実施例はこの発明を一切限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
(松かさ/霊芝混合物の煎出液による抗腫瘍効果)
松かさ/霊芝混合物の煎出液に抗腫瘍効果が認められた場合、腫瘍抑制のメカニズムを明らかにすることは重要である。腫瘍が生存・増殖していくためには酸素と栄養素の補給が必須であるが、既存の血管だけでは不十分であり、新たに血管を形成する必要がある。このため、腫瘍は自らVEGFを放出し、血管新生を行う。したがって、VEGFは、腫瘍増殖にとって中心的役割を果たす因子の一つということができる。近年、制がんの新たな戦略として「抗血管新生療法」の概念が誕生した。血管新生阻害薬は、従来の抗がん薬とは異なり、がん細胞を直接のターゲットとするものではなく、がんが生存・増殖するための酸素と栄養素の補給に必要な血管新生を阻害することによって「兵糧攻め」にし、がんを退縮させようというものである。本実施例の実験系においては、腫瘍の増殖を血管新生との関連で評価した。
【0022】
つまり、松かさ/霊芝(1:1)混合細片の熱水煎出液を、腫瘍細胞(Sarcoma 180)をマウスのフットパットに移植する前後に、経口(5.5 mL/kg体重)または腹腔内(2.5 mL/kg体重)投与した。腫瘍細胞移植後21日目の担がんマウスから血清および腫瘍組織を採取し、血清および腫瘍組織内におけるVEGF量を測定した。また投与開始前および開始後の腫瘍体積(mm3)を経日的に測定した。その結果、松かさ/霊芝混合物の煎出液による抗腫瘍効果に対する検討では、煎出液を腹腔内投与することによって腫瘍の増大を抑制した(図1)。
【0023】
ところで、薬物の効果や副作用の程度は投薬時刻によって変化することが知られている。これは、視床下部の視交叉上核に位置する、いわゆる体内時計によって刻まれている生体機能に認められる日周リズムによるものである。この生体機能の日周リズムを考慮し、薬物の至適投与タイミングを設定することで、治療効果を最大限にかつ副作用を最小限にすることを指向した薬物療法を時間薬物療法といい、ぜんそく治療薬、消化性潰瘍治療薬、糖尿病治療薬などの一部ではすでに適用されている。しかし、漢方薬や民間伝承薬においても時間薬物療法が効果的であるのか明らかにされていないため、この発明の松かさ/霊芝混合物の煎出液による抗腫瘍効果について、煎出液の投与時間を9:00 投与群と21:00投与群に分け、腫瘍組織内のVEGF量ならびに腫瘍体積に及ぼす投与時刻の影響を検討した。その結果を図1及び図2に示す。
【0024】
図1に示すように、煎出液の9:00 投与群と21:00投与群との比較では、9:00投与群は、対照群及び21:00投与群と比較して有意な腫瘍の縮小が認められた(図1)。血管新生因子であるVEGFの腫瘍内発現には日内変動があり、時計遺伝子群によって制御されていることを我々はすでに報告している(Koyanagi S,
Kuramoto Y, Nakagawa H,Aramaki H et al.: A molecular mechanism regulation
circadian expression of vascular endothelial growth factor in tumor cells.
Cancer Res 63: 7277-7283, 2003)。本評価系における実験結果でも、腫瘍組織内および担がんマウスの血漿レベルでは日内変動が認められ、午前中に高値、夜間に低値であった(図2)。この結果と、煎出液の9:00投与の方が21:00 投与に比べ有意な抗腫瘍効果を発揮したこと(図1)、同じく9:00投与の方が21:00投与に比べ腫瘍組織内VEGFタンパク量を有意に低下させたこと(図3)とを併せ考えると、煎出液成分がVEGFの発現等に何らかの影響を与えていると考えられる。
【実施例2】
【0025】
(松かさ/霊芝混合物の煎出液による腫瘍形成に対する予防的効果)
実施例1と同様に、松かさ/霊芝(1:1)混合細片の熱水煎出液を、腫瘍細胞(Sarcoma 180)をマウスのフットパットに移植する前後に、経口(5.5 mL/kg体重)投与した。
本実施例においては、煎出液の投与時間を9:00 投与群と21:00投与群に分け、予防効果検討群は、腫瘍細胞移植7日前から腫瘍細胞移植後4日間、毎日9:00 または 21:00 のいずれかに煎出液を経口投与した。なお、腫瘍細胞移植前7日間は何も投与せず、腫瘍細胞移植後の4日間のみ、予防効果検討群と同様に毎日9:00 または 21:00 のいずれかに煎出液を経口投与したものを比較対照群とした。7日間9:00 または 21:00 のいずれかに煎出液を経口投与したマウスから採血を行い、免疫細胞内における抗腫瘍因子の測定をフローサイトメトリー法にて行った。すなわち、体内免疫の恒常性維持に必須であり、抗体産生能をもつT細胞やB細胞が、煎出液を経口する事でどのような免疫因子を産生して体内に放出するのか、抗腫瘍に関わる因子の抗体を十数種類用い、化学発光にて具体的に免疫向上に関わる因子を同定した。
【0026】
煎出液の腫瘍形成に対する予防的効果を検討した本実施例の結果においても、腫瘍移植7日前から煎出液を9:00に毎日経口投与を続けることによって有意に腫瘍の移植生着を抑制した(図4)。この結果から、煎出液の腫瘍移植前投与によって、何らかの成分が実験動物の本来の免疫機能を高め、腫瘍排除能力を亢進させた可能性が示唆された。さらに、フローサイトメトリー法の結果から、煎出液を経口すると、腫瘍を壊死させる因子として知られるTNF-α、および抗腫瘍作用をもつINF類の産生が高まっていることが分かった。特に、IFN-γの産生に関しては、松かさ単独投与(5.5 mL/kg体重)、霊芝単独投与(5.5 mL/kg体重)に比べ、松かさ/霊芝混合物投与(5.5 mL/kg体重)の方が有意に促進していることが明らかになった(図5)。血液中に存在するリンパ球、B細胞やT細胞などの免疫担当細胞の数にも日内リズムがあり、夜行性動物であるマウスの場合では休眠時間である午前中に最も活発に産生されて免疫機能も高まると考えられている。血管新生阻害の場合と同様に、免疫賦活作用を有する成分を含むと考えられる煎出液を9:00に投与することは結果的には大変合目的的である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明に係る松かさ/霊芝混合物の煎出液は、血管新生抑制作用を介する抗がん効果と免疫調節作用を介するがん予防効果を併せもつ、特に健康食品としての可能性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含むことを特徴とする血管新生阻害薬。
【請求項2】
サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含むことからなるその免疫調節効果を利用した抗がん剤またはがん予防剤。
【請求項3】
請求項1に記載の血管新生阻害薬または請求項2に記載の抗がん剤もしくはがん予防剤を生体機能に認められる日周リズムに応じて投与することを特徴とする投与方法。
【請求項4】
サルノコシカケ科に属する担子菌類(霊芝)と松科植物成分(松かさ)の調合剤または混合物を含むことを特徴とする健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98922(P2011−98922A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255237(P2009−255237)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】