説明

サンプル・ホールド回路

【課題】サンプリング精度を向上できるサンプル・ホールド回路をを提供する。
【解決手段】第1の動作モードにおいて、キャパシタ1には、入力端子Tinに入力される信号電圧VINからオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧が印加される。第2の動作モードになると、演算増幅器OP1には、キャパシタ1に保持される電圧VSMPが入力される。そのため、第2の動作モードでは、キャパシタ1に保持される電圧VSMPにオフセット電圧VOFSTを足し合わせた電圧が、演算増幅器OP1から出力される。このとき、キャパシタ1には、信号電圧VINからオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧VSMPが保持されているため、これにオフセット電圧VOFSTを足し合わせた電圧は、第1の動作モードにおいて入力端子Tinに入力される信号電圧VINとほぼ等しくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号の電圧をサンプリングして保持するサンプル・ホールド回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サンプリング・ホールド回路は、例えばA/Dコンバータ、撮像デバイスの信号転送回路、ピーク検出器など、アナログ信号を所望のタイミングでサンプリングして保持する用途に幅広く用いられている回路である。
【0003】
図6は、そのサンプリング・ホールド回路の一般的な構成の一例を示す図である。
図6に示すサンプリング・ホールド回路は、nチャンネルMOS型のトランジスタQ1,Q2,Q3と、キャパシタC1と、演算増幅器OPAとを有している。
【0004】
サンプリング対象の信号を入力するための入力端子Tinと演算増幅器OPAの正入力端子との間には、トランジスタQ1とQ2が直列に接続される。
そのトランジスタQ1およびQ2の接続点と基準電圧VREFの供給線との間には、入力信号の電圧をサンプリングするためのキャパシタC1が接続される。また、演算増幅器OPAの正入力端子と基準電圧VREFとの間には、トランジスタQ3が接続される。
演算増幅器OPAの出力は、その負入力端子に接続されるとともに、サンプリングした信号電圧を出力するための出力端子Toutに接続される。
【0005】
出力信号を負入力端子にフィードバックした構成を有する演算増幅器OPAは、増幅率が1倍の非反転型の電圧増幅器、すなわち電圧バッファ回路として機能する。正入力端子に電圧を入力すると、これとほぼ等しい電圧が演算増幅器OPAから出力される。
【0006】
図7は、図6に示すサンプリング・ホールド回路の動作を説明するための信号波形図である。
【0007】
入力信号をサンプリングする期間において、図7(A),(B)に示すように、トランジスタQ1およびQ3のゲート電圧Vg1がハイレベルに設定され、トランジスタQ2のゲート電圧Vg2がローレベルに設定される。これにより、トランジスタQ1およびQ3がオンし、トランジスタQ2がオフする。
【0008】
サンプリング期間においてトランジスタQ1がオンすると、キャパシタC1には、入力端子Tinからの入力信号の電圧VINが印加される。また、この期間においてトランジスタQ3がオンすると、演算増幅器OPAの正入力端子に基準電圧VREFが入力される。これにより、演算増幅器OPAの出力電圧VOUTは、基準電圧VREFとほぼ等しくなる。
【0009】
サンプリング期間が終了すると、ゲート電圧Vg1がローレベルに変化し、トランジスタQ1およびQ3がオフする。トランジスタQ1がオフすると、キャパシタC1には、オフした時点における入力信号の電圧VINが保持される。
【0010】
次に、入力信号を保持するホールディング期間へ移行すると、ゲート電圧Vg2がハイレベルに設定される。これによりトランジスタQ2がオンし、キャパシタC1がトランジスタQ2を介して演算増幅器OPAの正入力端子に接続される。演算増幅器OPAの入力インピーダンスは非常に大きいため、トランジスタQ2に流れる電流は微小であり、トランジスタQ2による電圧降下はほとんどない。また、正入力端子への接続後も、キャパシタC1の電圧はほぼ一定に保持される。したがって、演算増幅器OPAの正入力端子には、基準電圧VREFにキャパシタC1の保持電圧を足し合わせた電圧が入力され、これとほぼ等しい電圧が演算増幅器OPAから出力される。
【0011】
【特許文献1】特開2002−305448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、一般に電圧型の演算増幅器は、正入力端子と負入力端子との間の電圧差を非常に高いゲインで増幅して出力する差動増幅器とみなすことができる。理想的な差動増幅器では、正入力端子と負入力端子との間の電圧差をゼロにした場合、その出力電圧もゼロになるはずであるが、実際に製造される回路では通常ゼロにならない。これは、主としてトランジスタの特性のバラツキによって、正入力の回路系と負入力の回路系とが完全に対称的に動作しないことによる。
このような回路動作のアンバランスな状態は、理想的な差動増幅器の入力端子に擬似的な電圧源を介して外部から信号を入力している状態と等価である。
この電圧源によって本来の入力電圧に擬似的に足し合わされる電圧は、一般にオフセット電圧と呼ばれている。
【0013】
演算増幅器OPAの出力電圧VOUTをその負入力端子にフィードバックして構成されたバッファ回路でも、実際の回路では、このオフセット電圧による誤差が生じる。仮に、演算増幅器OPAのゲインが極めて大きく、出力電圧VOUTをこのゲインで割った電圧がほとんどゼロにみなせる場合でも、演算増幅器OPAの負入力端子と正入力端子との間には、固定的なオフセット電圧VOFSTが生じる。
【0014】
サンプリング期間においてキャパシタC1に充電される電圧Vc1は、次の式で表される。
【0015】
Vc1 = VIN − VREF ・・・(1)
【0016】
他方、ホールディング期間において演算増幅器OPAから出力される電圧VOUTは、概ね次の式で表される。
【0017】
VOUT = Vc1 + VREF + VOFST
= VIN + VOFST ・・・(2)
【0018】
式(2)に示すように、図6に示すサンプル・ホールド回路の出力電圧VOUTは、サンプリングした本来の入力信号の電圧VINにオフセット電圧VOFSTが足し合わされたものとなる。このオフセット電圧は、一般に数mV〜数十mVあり、個体ごとにバラつくほか、温度によって変化する。したがって、サンプリング結果に精度が要求される場合、このオフセット電圧による誤差が問題となる。
【0019】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、サンプリング結果の誤差を低減することができるサンプル・ホールド回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するため、本発明のサンプル・ホールド回路は、キャパシタと、入力電圧にオフセット電圧が足し合わされた電圧を出力するバッファ回路と、サンプリング対象の信号を入力するための入力端子と、第1の動作モードにおいて、上記入力端子に入力される信号電圧から上記オフセット電圧を差し引いた電圧が上記キャパシタに印加され、上記第1の動作モードに続く第2の動作モードにおいて、上記キャパシタに保持される電圧が上記バッファ回路に入力されるように、上記キャパシタと、上記バッファ回路と、上記入力端子との間の接続状態を設定するスイッチ回路とを有する。
【0021】
上記本発明によると、上記第1の動作モードにおいて、上記キャパシタには、上記入力端子に入力される信号電圧から上記オフセット電圧を差し引いた電圧が印加される。上記第2の動作モードになると、上記バッファ回路には、上記キャパシタに保持される電圧が入力される。そのため、上記第2の動作モードでは、上記キャパシタに保持される電圧に上記オフセット電圧を足し合わせた電圧が、上記バッファ回路から出力される。このとき、上記キャパシタには、上記入力端子に入力される信号電圧から上記オフセット電圧を差し引いた電圧が保持されているため、これに上記オフセット電圧を足し合わせた電圧は、上記第1の動作モードにおいて上記入力端子に入力される信号電圧とほぼ等しくなる。したがって、上記第2の動作モードにおいて上記バッファ回路から出力される電圧は、上記第1の動作モードにおいて上記入力端子に入力される信号電圧とほぼ等しくなる。
【0022】
好適には、上記スイッチ回路は、上記第1の動作モードにおいて、上記入力端子に入力される信号電圧から上記バッファ回路の出力電圧を差し引いた第1の電圧が上記キャパシタに印加され、所定の基準電圧が上記バッファ回路に入力され、上記第2の動作モードにおいて、上記キャパシタに保持される上記第1の電圧と上記基準電圧とを足し合わせた電圧が上記バッファ回路に入力されるように、上記キャパシタと、上記バッファ回路と、上記入力端子と、上記基準電圧の供給線との間の接続状態を設定する。
【0023】
また、好適には、上記スイッチ回路は、上記第1の動作モードにおいて、上記キャパシタの第1端子と上記バッファ回路の出力とを接続し、上記キャパシタの第2端子と上記入力端子とを接続し、上記バッファ回路の入力と所定の基準電圧の供給線とを接続し、上記第2の動作モードにおいて、上記キャパシタの第2端子と上記バッファ回路の入力とを接続し、上記キャパシタの第1端子と上記基準電圧の供給線とを接続する。
【0024】
また、上記スイッチ回路は、上記キャパシタの第1端子と上記バッファ回路の出力との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第1のスイッチと、上記キャパシタの第2端子と上記入力端子との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第2のスイッチと、上記バッファ回路の入力と所定の基準電圧の供給線との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第3のスイッチと、上記キャパシタの第2端子と上記バッファ回路の入力との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオフし、上記第2の動作モードにおいてオンする第4のスイッチと、上記キャパシタの第1端子と上記基準電圧の供給線との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオフし、上記第2の動作モードにおいてオンする第5のスイッチとを有しても良い。
この場合、上記第1の動作モードから上記第2の動作モードへ移行するとき、上記第1のスイッチおよび上記第2のスイッチの少なくとも一方より後に上記第3のスイッチがオンからオフへ変化しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、バッファ回路のオフセット電圧を入力信号の電圧から差し引いてキャパシタに保持させることにより、オフセット電圧によるサンプリング結果の誤差を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の2つの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るサンプル・ホールド回路の構成を示す図である。
図1に示すサンプル・ホールド回路は、キャパシタ1と、バッファ回路2と、スイッチ回路3と、入力端子Tinと、出力端子Toutとを有する。
キャパシタ1は、本発明のキャパシタの一実施形態である。
バッファ回路2は、本発明のバッファ回路の一実施形態である。
スイッチ回路3は、本発明のスイッチ回路の一実施形態である。
入力端子Tinは、本発明の入力端子の一実施形態である。
【0028】
入力端子Tinは、サンプリング対象の信号を入力するための端子であり、スイッチ回路3に接続される。図1では、入力端子Tinに入力される電圧を記号‘VIN’で表している。
出力端子Toutは、サンプリングされた信号を出力するための端子であり、バッファ回路2の出力に接続される。図1では、出力端子Toutから出力される電圧を記号‘VOUT’で表している。
【0029】
バッファ回路2は、その入力電圧にオフセット電圧VOFSTが足し合わされた電圧を出力する回路である。入力インピーダンスが高く出力インピーダンスが低いため、インピーダンス変換回路として動作する。
【0030】
スイッチ回路3は、キャパシタ1と、バッファ回路2と、入力端子Tinとの間の接続状態を、動作モード(第1の動作モード、第2の動作モード)に応じて設定する。
【0031】
(第1の動作モード)
第1の動作モードは、入力端子Tinから入力される信号をサンプリングするモードである。
第1の動作モードにおいて、スイッチ回路3は、入力端子Tinに入力される信号電圧VINからバッファ回路2のオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧がキャパシタ1に印加されるように、キャパシタ1と、バッファ回路2と、入力端子Tinとの間の接続状態を設定する。
【0032】
例えば、スイッチ回路3は、第1の動作モードにおいて、入力端子Tinに入力される信号電圧VINからバッファ回路2の出力電圧VOUTを差し引いた電圧VSMPがキャパシタに印加され、かつ、基準電圧VREFがバッファ回路2に入力されるように、上記の接続状態を設定する。
この場合、スイッチ回路3は、キャパシタ1の第1端子T1とバッファ回路2の出力とを接続し、キャパシタ1の第2端子T2と入力端子Tinとを接続し、バッファ回路2の入力と基準電圧VREFの供給線とを接続しても良い。
【0033】
(第2の動作モード)
第2の動作モードは、第1の動作モードでサンプリングした入力信号を保持し、その信号電圧を出力端子Toutから出力するモードである。
第2の動作モードにおいて、スイッチ回路3は、キャパシタ1に保持される電圧VSMPがバッファ回路2に入力されるように、上記の接続状態を設定する。
【0034】
例えば、スイッチ回路3は、第2の動作モードにおいて、キャパシタ1に保持される電圧VSMPと基準電圧VREFとを足し合わせた電圧がバッファ回路2に入力されるように、上記の接続状態を設定する。
この場合、スイッチ回路3は、キャパシタ1の第2端子T2とバッファ回路2の入力とを接続し、キャパシタ1の第1端子T1と基準電圧VREFの供給線とを接続しても良い。
【0035】
上述した構成を有する本実施形態に係るサンプル・ホールド回路の動作を説明する。
【0036】
第1の動作モードにおいて、キャパシタC1には、入力端子Tinに入力される信号電圧VINからバッファ回路2のオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧が印加される。
第1の動作モードに続いて第2の動作モードになると、キャパシタ1に保持される電圧VSMPは、バッファ回路2に入力される。これにより、バッファ回路2の出力電圧は、キャパシタ1に保持される電圧VSMPにオフセット電圧VOFSTが足し合わされた電圧となる。このとき、キャパシタに保持される電圧VSMPは、信号電圧VINからオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧であるため、これにオフセット電圧VOFSTが足し合わされた電圧は、信号電圧VINとほぼ等しくなる。
【0037】
例えば、第1の動作モードにおいて、キャパシタ1には、信号電圧VINから出力電圧VOUTを差し引いた電圧‘VIN−VOUT’が印加される。他方、バッファ回路2には、基準電圧VREFが入力され、バッファ回路2から電圧‘VREF+VOFST’が出力される。その結果、キャパシタC1には、電圧‘VIN−VREF−VOFST’が電圧VSMPとして印加される。
第1の動作モードに続いて第2の動作モードになると、バッファ回路2には、キャパシタ1に保持される電圧VSMPと基準電圧VREFとを足し合わせた電圧‘VSMP+VREF’が入力される。このときキャパシタ1には、電圧VSMPとして電圧‘VIN−VREF−VOFST’が保持されているため、バッファ回路2には、電圧‘VIN−VOFST’が入力される。したがって、バッファ回路2の出力電圧VOUTは、電圧‘VIN−VOFST’にオフセット電圧VOFSTを足し合わせたもの、すなわちサンプリングされた信号の電圧VINとほぼ等しくなる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るサンプル・ホールド回路によると、第1の動作モードにおいて、入力端子Tinの入力信号の電圧VINからオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧がキャパシタ1に印加され、第1の動作モードに続く第2の動作モードにおいて、キャパシタC1に保持される電圧がバッファ回路2に入力される。そのため、第2の動作モードでは、キャパシタ1に保持される電圧VSMPにオフセット電圧VOFSTを足し合わせた電圧が、バッファ回路2から出力される。このとき、キャパシタ1には、サンプリングした信号の電圧VINからオフセット電圧VOFSTを差し引いた電圧が保持されているため、これにオフセット電圧VOFSTを足し合わせた電圧は、第1の動作モードにおいてサンプリングされた信号の電圧VINとほぼ等しくなる。したがって、第2の動作モードにおいてバッファ回路2から出力される電圧VOUTは、第1の動作モードにおいてサンプリングされた信号の電圧VINとほぼ等しくなる。
したがって、本実施形態に係るサンプル・ホールド回路によれば、オフセット電圧VOFSTによる誤差を低減した精度の高いサンプリング結果を得ることができる。
【0039】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態におけるスイッチ回路3の構成をより具体化したものである。
【0040】
図2は、本発明の第2の実施形態に係るサンプル・ホールド回路の構成の一例を示す図である。
図2に示すサンプル・ホールド回路は、キャパシタ1と、演算増幅器OP1と、スイッチSW1,…,SW5と、入力端子Tinと、出力端子Toutとを有する。ただし、図1と図2の同一符号は同一の構成要素を示す。
演算増幅器OP1で構成されるバッファ回路は、本発明のバッファ回路の一実施形態である。
スイッチSW1は、本発明の第1のスイッチの一実施形態である。
スイッチSW2は、本発明の第2のスイッチの一実施形態である。
スイッチSW3は、本発明の第3のスイッチの一実施形態である。
スイッチSW4は、本発明の第4のスイッチの一実施形態である。
スイッチSW5は、本発明の第5のスイッチの一実施形態である。
【0041】
演算増幅器OP1は、その出力電圧VOUTが負入力端子にフィードバックされており、バッファ回路を構成する。
演算増幅器OP1の出力には、正入力端子への入力電圧にオフセット電圧VOFSTを足し合わせた電圧VOUTが発生する。
【0042】
スイッチSW1は、キャパシタ1の第1端子T1と演算増幅器OP1の出力との間に接続される。入力される制御信号φ1に応じて、第1の動作モード時にオンし、第2の動作モード時にオフする。
【0043】
スイッチSW2は、キャパシタ1の第2端子T2と入力端子Tinとの間に接続される。入力される制御信号φ1に応じて、第1の動作モード時にオンし、第2の動作モード時にオフする。
【0044】
スイッチSW3は、演算増幅器OP1の正入力端子と基準電圧VREFの供給線との間に接続される。入力される制御信号φ1に応じて、第1の動作モード時にオンし、第2の動作モード時にオフする。
【0045】
スイッチSW4は、キャパシタ1の第2端子T2と演算増幅器OP1の正入力端子との間に接続される。入力される制御信号φ2に応じて、第1の動作モードにおいてオフし、上記第2の動作モードにおいてオンする。
【0046】
スイッチSW5は、キャパシタ1の第1端子T1と基準電圧VREFの供給線との間に接続される。入力される制御信号φ2に応じて、第1の動作モードにおいてオフし、第2の動作モードにおいてオンする。
【0047】
上述した構成を有する第2の実施形態に係るサンプル・ホールド回路の動作について、図3に示す波形図を参照して説明する。
【0048】
図3(A)は、制御信号φ1の波形を示す。この図の例において、スイッチSW1〜SW3は、制御信号φ1がハイレベルのときにオンし、ローレベルのときにオフする。
図3(B)は、制御信号φ2の波形を示す。この図の例において、スイッチSW4,SW5は、制御信号φ2がハイレベルのときにオンし、ローレベルのときにオフする。
図3(C)は、入力端子Tinに入力される電圧VINと、出力端子Toutから出力される電圧VOUTの波形を示す。
【0049】
サンプリングを行う第1の動作モードにおいて、スイッチSW1〜SW3がオンに設定され、スイッチSW4,SW5がオフに設定される。この場合、図4の等価回路に示すように、キャパシタ1の第2端子T2と入力端子Tin、キャパシタ1の第1端子T1と演算増幅器OP1の出力、並びに、演算増幅器OP1の正入力端子と基準電圧VREFの供給線とがそれぞれ接続される。
このとき、キャパシタ1には、次の式で表される電圧VSMPが印加される。
【0050】
VSMP = VIN − VOUT ・・・(3)
【0051】
また、演算増幅器OP1の正入力端子に基準電圧VREFが入力されるため、演算増幅器OP1の出力には、次の式で表される電圧VOUTが発生する。
【0052】
VOUT = VREF + VOFST ・・・・(4)
【0053】
式(4)を式(3)に代入すると、次の式が得られる。
【0054】
VSMP = VIN − VREF − VOFST ・・・(5)
【0055】
図6に示す従来回路の式(1)と比較して分かるように、キャパシタ1に印加される電圧VSMPからは、オフセット電圧VOFSTが予め差し引かれている。
【0056】
次に、サンプリング結果を保持して出力する第2の動作モードになると、スイッチSW1〜SW3がオフに設定され、スイッチSW4,SW5がオンに設定される。この場合、図5の等価回路に示すように、キャパシタ1の第2端子T2と演算増幅器の正入力端子、並びに、キャパシタ1の第1端子と基準電位VREFの供給線とが接続される。
演算増幅器OP1の正入力端子は非常に高いインピーダンスを有しているため、スイッチSW4,SW5に流れる電流は微小であり、これらのスイッチによる電圧降下は無視し得る。また、正入力端子への接続後も、キャパシタ1の電圧VSMPはほぼ一定に保持される。したがって、この場合、演算増幅器OP1の正入力端子には、基準電圧VREFにキャパシタ1の保持電圧VSMPを足し合わせた電圧が入力される。
この場合、演算増幅器OP1の出力には、次の式で表される電圧VOUTが発生する。
【0057】
VOUT = VSMP + VREF + VOFST
= VIN ・・・(6)
【0058】
式(6)から分かるように、演算増幅器OP1の出力電圧VOUTからは、誤差となるオフセット電圧VOFSTがキャンセルされており、第1の動作モードにおいてサンプリングされた信号の電圧VINとほぼ等しい出力電圧VOUTが得られる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係るサンプル・ホールド回路によると、第2の動作モードにおいて演算増幅器OP1から出力される電圧VOUTが、オフセット電圧VOFSTをキャンセルされた電圧となり、第1の動作モードにおいてサンプリングされた信号の電圧VINとほぼ等しくなる。したがって、オフセット電圧VOFSTによる誤差を低減した精度の高いサンプリング結果を得ることができる。
【0060】
本発明の発明者が行ったシミュレーションによれば、16mV程度のオフセット電圧を持つ演算増幅器を使って図2に示すサンプル・ホールド回路を構成した場合、サンプリング結果として出力される電圧VOUTの誤差は0.6mV程度であり、図6に示す従来の回路に比べてサンプリング誤差を劇的に減少できることが確認された。
【0061】
また、図6に示す従来の方式によって本実施形態と同様な精度を持つサンプル・ホールド回路を構成するためには、演算増幅器OPAのオフセット電圧を大幅に低減する必要がある。演算増幅器のオフセット電圧は、主としてトランジスタのサイズのバラツキに起因するため、オフセット電圧を低減するためには、演算増幅器の入力段にかなり大きなサイズのトランジスタを用いる必要がある。
例えば、図6に示すサンプル・ホールド回路において0.6mV程度の誤差まで精度を高めるには、演算増幅器OPAの入力段のトランジスタ・サイズを数百倍に拡大する必要がある。更に、演算増幅器OPAのトランジスタ・サイズが大きくなると、入力オフセット電流が増大するため、キャパシタC1の容量も大きくする必要があり、この点でも回路面積の増大が避けられない。
したがって、本実施形態に係るサンプル・ホールド回路によれば、同等のサンプリング精度で比較した場合に、従来のサンプル・ホールド回路に比べて回路面積を大幅に削減することができるという優れた効果がある。
【0062】
また、トランジスタ・サイズが大きくなると、消費電力の増加や周波数特性の低下といった不利益も発生する。したがって、本実施形態に係るサンプル・ホールド回路は、これらの性能の向上を図る上でも効果的である。
【0063】
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記の形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0064】
スイッチ回路に用いるスイッチ(SW1〜SW5)は、例えばnチャンネルやpチャンネルのMOS型トランジスタを用いても良いし、両者を並列に接続したトランスファーゲート型のスイッチを用いても良い。また、スイッチに用いるトランジスタは、MOS型に限定されるものではなく、例えばバイポーラ型やその他のトランジスタを用いても良い。更には、トランジスタ等の半導体素子によるスイッチの他にも、例えばメカニカル・リレー等を用いてスイッチを構成しても良い。
【0065】
上述の実施形態では、第1の動作モードでオンするスイッチ群(SW1,SW2,SW3)と第2の動作モードでオンするスイッチ群(SW4,SW5)とを、それぞれ共通の制御信号φ1、φ2によって同時に制御しているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、第1の動作モードから第2の動作モードへ移行するとき、スイッチSW1およびSW2の少なくとも一方より後にスイッチSW3がオンからオフへ変化するように、これらのスイッチを制御しても良い。
スイッチSW3がオフすると、演算増幅器OP1の正入力端子が高インピーダンス状態になるため、正入力端子の電位がノイズ等の影響を受けて変動し易くなる。正入力端子の電位が変動すると、出力電圧VOUTもこれに応じて変動する。そのため、スイッチSW3がオフするときにスイッチSW1およびSW2が両方オンのままになっていると、出力電圧VOUTの変動によってキャパシタ1の保持電圧が変動してしまい、サンプリング結果の誤差になる。したがって、スイッチSW3がオフする際に、スイッチSW1およびSW2の少なくとも一方が既にオフしているように、これらのスイッチを制御することが望ましい。
そのほか、上述した各スイッチのオンオフの制御タイミングは、適用される回路の具体的な構成に応じて適宜調節して良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るサンプル・ホールド回路の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るサンプル・ホールド回路の構成の一例を示す図である。
【図3】図2に示すサンプル・ホールド回路の動作を説明するための波形図である。
【図4】図2に示すサンプル・ホールド回路の第1の動作モードにおける等価回路を示す図である。
【図5】図2に示すサンプル・ホールド回路の第2の動作モードにおける等価回路を示す図である。
【図6】サンプリング・ホールド回路の一般的な構成の一例を示す図である。
【図7】図6に示すサンプル・ホールド回路の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0067】
1…キャパシタ、2…バッファ回路、3…スイッチ回路、SW1〜SW5…スイッチ、OP1…演算増幅器、Tin…入力端子、Tout…出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャパシタと、
入力電圧にオフセット電圧が足し合わされた電圧を出力するバッファ回路と、
サンプリング対象の信号を入力するための入力端子と、
第1の動作モードにおいて、上記入力端子に入力される信号電圧から上記オフセット電圧を差し引いた電圧が上記キャパシタに印加され、上記第1の動作モードに続く第2の動作モードにおいて、上記キャパシタに保持される電圧が上記バッファ回路に入力されるように、上記キャパシタと、上記バッファ回路と、上記入力端子との間の接続状態を設定するスイッチ回路と
を有するサンプル・ホールド回路。
【請求項2】
上記スイッチ回路は、上記第1の動作モードにおいて、上記入力端子に入力される信号電圧から上記バッファ回路の出力電圧を差し引いた第1の電圧が上記キャパシタに印加され、所定の基準電圧が上記バッファ回路に入力され、上記第2の動作モードにおいて、上記キャパシタに保持される上記第1の電圧と上記基準電圧とを足し合わせた電圧が上記バッファ回路に入力されるように、上記キャパシタと、上記バッファ回路と、上記入力端子と、上記基準電圧の供給線との間の接続状態を設定する、
請求項1に記載のサンプル・ホールド回路。
【請求項3】
上記スイッチ回路は、上記第1の動作モードにおいて、上記キャパシタの第1端子と上記バッファ回路の出力とを接続し、上記キャパシタの第2端子と上記入力端子とを接続し、上記バッファ回路の入力と所定の基準電圧の供給線とを接続し、上記第2の動作モードにおいて、上記キャパシタの第2端子と上記バッファ回路の入力とを接続し、上記キャパシタの第1端子と上記基準電圧の供給線とを接続する、
請求項1に記載のサンプル・ホールド回路。
【請求項4】
上記スイッチ回路は、
上記キャパシタの第1端子と上記バッファ回路の出力との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第1のスイッチと、
上記キャパシタの第2端子と上記入力端子との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第2のスイッチと、
上記バッファ回路の入力と所定の基準電圧の供給線との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオンし、上記第2の動作モードにおいてオフする第3のスイッチと、
上記キャパシタの第2端子と上記バッファ回路の入力との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオフし、上記第2の動作モードにおいてオンする第4のスイッチと、
上記キャパシタの第1端子と上記基準電圧の供給線との間に接続され、上記第1の動作モードにおいてオフし、上記第2の動作モードにおいてオンする第5のスイッチとを有する、
請求項1に記載のサンプル・ホールド回路。
【請求項5】
上記第1の動作モードから上記第2の動作モードへ移行するとき、上記第1のスイッチおよび上記第2のスイッチの少なくとも一方より後に上記第3のスイッチがオンからオフへ変化する、
請求項4に記載のサンプル・ホールド回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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