説明

サンプル物質を分析するための試験エレメント

【課題】血液または尿のようなサンプル物質を分析するための試験エレメントに関し、経済的な製造方法および複雑でない装置を用いて再現性のある測定条件が確保されるように改良する。
【解決手段】この試験エレメントは、サンプル物質を適用することのできる分析領域(18)と、分析領域(18)に伝熱接触した加熱エレメント(22)とを有する試験キャリヤー(12)を備え、電流を流したときにプリセット標的温度になるように自己加熱および自己調節を行うサーミスター(22)により、試験キャリヤー(12)に組み込まれた加熱エレメントを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または尿のようなサンプル物質を分析するための試験エレメントに関する。この試験エレメントは、サンプル物質を適用することのできる分析領域と、分析領域に伝熱接触した加熱エレメントとを有する試験キャリヤーを備える。
【背景技術】
【0002】
携帯型手動器具の使い捨て試験ストリップおよび定置型測定器の1回使用カートリッジを用いることにより、血中ガスや血中電解質、全血中、血清中、組織液中、または尿中の種々の代謝物(たとえば、グルコース)のような分析パラメーターを適時にかつ経済的に測定することが可能であり、さらには凝固阻害剤の調節のために血液凝固値を測定したりすることも可能である。ほとんどの上記試験エレメントでは、少なくとも、既定の分析領域において試薬と対象のアナライトとの特異的反応が存在する。反応速度つまり特定の反応時間後の測定結果は、測定領域の温度に依存する。しかしながら、分析結果の高い再現性および正確性は、治療手段を導き出すうえで重要な前提条件となる。
【0003】
これに関連して、計測器中でヒーターにより試験キャリヤーを加熱することによって測定前に所望の温度に設定できることは公知である。しかしながら、これを行うには、実際の測定に先立って適切に長い加熱時間が必要であるため、測定時間およびエネルギー必要量が増大する。また、位置決め精度が必要になるため、小さい試験領域を局所的に加熱することは難しい。
【0004】
比較的関連性の少ないPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術分野において、さまざまな温度を選択すべく反応容器を直接加熱することがUS 6,312,886で提案された。この特許には、サンプル容器に組み込まれた導電性ポリマー層が記載されている。この層は、電流を流したときに熱を放出する。電流は、外部制御装置により供給されるため、装置の複雑さがかなり増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを発端として、本発明の課題は、経済的な製造方法および複雑でない装置を用いて再現性のある測定条件が確保されるように、先行技術で生じる欠点を回避し、先に述べたタイプの消耗品として意図される試験エレメントを改良することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題を解決するために、請求項1で述べた特徴の組合せを提案する。本発明の有利な実施形態およびさらなる発展形態は、従属請求項から生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、固有の指令変数を有する温度制御回路を試験キャリヤーに組み込むというアイディアに依拠する。したがって、本発明によれば、電流を流したときにプリセット標的温度になるように自己加熱および自己調節を行うサーミスターにより、試験キャリヤーに組み込まれる加熱エレメントを形成することが提案される。サーミスターは、周囲温度に実質的に依存せずに、それ自体を加熱して、標的温度(すなわち、供給された電力が放出された熱出力に等しい平衡温度)に達する。温度が低下した場合、サーミスターは、その抵抗が減少するので、より多くの電力を取り込み、温度が再び上昇する。反対に、高温では、抵抗が急激に増加し、それに応じて電流の強さが減少する。これにより、計測器中で温度センサーならびに加熱装置および制御装置を必要とすることなく、試験エレメントを直接的に自己調節加熱することができる。また、これにより、計測器のサイズおよびコストが低下する。加熱領域と試験領域の両方を試験エレメントに組み込むことにより、目標のインキュベーションを低いエネルギー必要量で行うことができるので、外部伝熱抵抗を使用しないですむ。また、それにより、非常に一定した試験温度を得ることができる。
【0008】
有利には、PTC抵抗体としてのサーミスターは、温度の上昇に伴って標的温度の領域で抵抗の急激な非線形増加を有し、正確な温度制限を可能にする。
【0009】
分析領域との熱交換を最適化するために、サーミスターを加熱領域として、好ましくは薄層加熱領域として設計する場合が有利である。これは、好ましくはコーティング法または印刷法を用いてサーミスターをフラットな構造体として試験キャリヤーに組み込むことにより、達成することができる。
【0010】
有利な実施形態では、サーミスターは、結合材とそれに組み込まれた導電性成分とを含む複合材料で作製される。所望の自己調節を行うために、複合材料は、標的温度において導電性に影響を及ぼす相転移を起こす場合が有利である。
【0011】
他の有利な実施形態によれば、結合材は、モノマーまたはポリマーで構成され、一方、導電性成分は、有利には、カーボンブラック粒子、炭素繊維、金属糸、または導電性ポリマー粒子よりなる。
【0012】
好ましい使用では、試験キャリヤーは、1回の分析に供される使い捨て物品として提供される。
【0013】
製造および使用を単純化するために、試験キャリヤーは、フラットな基材よりなる場合、特に、複合フォイル部材として好ましく設計された試験ストリップよりなる場合が有利である。
【0014】
発生した熱を目的に合わせて利用するために、分析領域は、サーミスターにより少なくとも部分的に境界づけられているか、または中間フォイルによりサーミスターに伝熱的に接続されている場合が有利である。この場合、分析領域およびサーミスターは、もちろん、適切な熱伝導率を有していなければならない。
【0015】
分析領域は、有利には、適用される液体サンプル物質中のアナライトに応答する乾燥化学物質でコーティングされた反応領域よりなる。サンプル物質を前加熱するために、サーミスターは、分析領域を越えて試験キャリヤーのサンプル供給チャネルまで延在する場合が有利である。
【0016】
試験評価のために、サーミスターはまた、抵抗測定により分析温度を測定する温度センサーをも形成する場合が有利である。
【0017】
エネルギーは、サーミスターに接続された試験キャリヤー上の導電路により好ましく形成された電圧源との接続部を計測器中に配置することによって、供給することができる。
【0018】
バイオ試験を行うために、標的温度は、25〜50℃、好ましくは30〜40℃の範囲にあり、標的値からの偏差は、1℃未満である場合が有利である。
【0019】
本発明はまた、自己加熱試験エレメントを分析するための測定器、特に、携帯型の血糖測定器または血液凝固測定器に関する。
【0020】
図に模式的に示される実施形態に基づいて、以下で本発明についてより詳細には説明する。
【実施例】
【0021】
図1に示される携帯型血糖測定器10では、たとえば測光的または電気化学的に動作する測定評価ユニット14により、使い捨てストリップ状試験エレメント12を分析して、結果を表示ユニット16上に表示することができる。試験エレメント12は、血液流体を適用することのできる分析領域18を有し、この分析領域18は、計測器中の直流電圧源20により給電されるPTC加熱エレメントとしてのサーミスター22を用いて指定の標的温度に自己調節的に加熱することができる。
【0022】
図2および3に最も良好に示されるように、1回の分析に供することが意図された試験エレメント12は、いくつかのフォイル層よりなる試験キャリヤー複合部材として構成されている。キャピラリーサンプル供給チャネル30は、長手方向に分割されたスペーサー28により、カバーフォイル24と中間フォイル26との間で開放状態に保持され、そしてこのサンプル供給チャネル30は、中間フォイル26上の分析領域18に至る。
【0023】
中間フォイル26の下方で、加熱チャンバー34は、両側に突出する底部フォイル32に対向するカットアウトスペーサー36により境界づけられる。良好な伝熱体である中間フォイル26を介して分析領域18にフラットな伝熱接続が行われるように、サーミスター22は、フラットな構造体として加熱チャンバー34に組み込まれる。サーミスター22は、流入するサンプル物質を前加熱できるように、分析領域18を越えてサンプル供給チャネル30の領域中まで延在する。サーミスター22に電気接触させるために、横方向に露出した接続端子40で終端する導電路38を、たとえばシルクスクリーン印刷により、底部フォイル32に適用する。
【0024】
分析領域18は、血液流体中のアナライト(グルコース)に応答して色変化を起こす乾燥化学物質を備えた反応層により形成される。この変化は、測定ユニット14により透明カバーフォイル24を介して測光的に検出することができる。
【0025】
サーミスター22は、一部分が、ケイ皮酸メチル、1,6ヘキサンジオール、またはニコチン酸メチルのようなモノマー、他の部分が、導電性粒子、たとえば、300nmの粒子サイズおよび10m2/gの表面積のカーボンブラック粒子よりなる導電性混合物などで構成された複合材料である。低温抵抗と高温抵抗との比が1:100よりも大きくなるように、かつ温度挙動が、わずかなヒステリシスを示すにすぎないように、しかも適用前に複合材料を適切に分散できるように、充填剤の比率は、好ましくは60%未満である。
【0026】
充填剤の比率に加えて、適切に高い耐熱性を確保すべく、充填剤粒子は、加熱されて相転移点を超えた後、複合材料中で互いに十分に分離されていることが重要である。したがって、比表面積は、好ましくは、10m2/g未満になるように選択しなければならない。分析領域18を所望の温度まで迅速に加熱するために、所与の公称電圧でサーミスターの低温抵抗を低く保持することが有利である。所与の比率の導電性粒子では、融点を超える温度で注意深く複合材料を分散させることにより、および超音波を印加することにより、適用前に低温抵抗をかなり減少させることができる。このほか、適切に長い冷却時間により、および溶融導電性混合物の適用前の再結晶により、先に記載の加熱領域の低温抵抗を低く保持することができる。
【0027】
冷却時に均一な結晶化が起こり、かつ導電路と導電性混合物との再現性のある電気接触が確保されるように、導電路38を備えた加熱チャンバー34の領域に加熱された導電性混合物の薄層を適用することにより、加熱領域を作製することができる。このために、特別のグラファイト導電路を使用することが可能であり、一般的には、複合材料を適用することにより、非常に再現性の高い抵抗値で製造することができ、かつ再現性よく接触させることができるすべての導電路を使用することが可能である。
【0028】
このようにして形成されたサーミスター22は、標的温度すなわちスイッチング温度の領域で抵抗の急激な非線形増加を示す。臨床関連パラメーターの分析測定の正確性に対する所望の高い要求に基づいて、温度偏差は、30〜40℃の範囲の既定のスイッチング温度において実質的に0.1℃を超えるべきではない。スイッチング温度は、導電性混合物の組成により規定されるが、測定部位の温度は、このほかに、試験エレメントのフォイルの厚さ、性質、および交換領域の好適な設計によっても左右される。
【0029】
電圧を印加したとき、電流が流れて、加熱エレメント22は、それ自体を加熱する。この結果、導電性混合物の相転移温度に達して体積変化および抵抗の急激な非線形増加を生じるまで、分析領域18への熱導入および環境中への熱損失が起こる。
【0030】
高い温度安定性を得るために、熱損失を補償すべく適切な電源が必要である。一方、高温抵抗を低温抵抗の100倍にすれば、標的温度に達したときに混合物のさらなる加熱は起こらない。したがって、加熱エレメントの温度の測定および制御を行うための特別の器具は、不必要である。しかしながら、基本的には、別の温度センサーを必要とすることなくサーミスター22の瞬間電気抵抗に基づいて分析温度を測定することも可能である。
【0031】
また、中間フォイル26中に凹部を設けて、分析領域18に直接隣接するように、導電性混合物を導入することも考えられる。さらに、加熱領域22の側面および上面を分析領域18によりカバーする実施形態も可能である。また、加熱領域および分析領域が一体化ユニットを形成する実施形態も考えられる。
【0032】
in vitro診断では、被験者は、試験エレメント12のチャネル30の入口領域に1滴の血液を接触させ、次に、手動計測器10のスロット中における自動化処理に付す。測定の結果を表示し、場合により保存した後、試験エレメント12は、消耗品として処分される。
【0033】
患者のベッドサイドにおいてまたは診療所において小型床置式計測器で、たとえば、血液凝固試験に使用される使い捨てカートリッジは、自己加熱試験エレメントの可能性のある用途である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、挿入可能な試験エレメントを備えた携帯型血糖測定器のブロック概略図を示している。
【図2】図2は、試験エレメントの組立斜視図を示している。
【図3】図3は、試験エレメントの分解図を示している。
【図4】図4は、試験エレメントの断面を示している。
【符号の説明】
【0035】
10 携帯型血糖測定器
12 試験キャリヤー(試験エレメント)
14 測定評価ユニット
16 表示ユニット
18 分析領域
20 直流電圧源
22 加熱エレメント(サーミスター)
24 カバーフォイル
26 中間フォイル
28 長手方向に分割されたスペーサー
30 サンプル供給チャネル
32 底部フォイル
34 加熱チャンバー
36 カットアウトスペーサー
38 導電路
40 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液または尿のようなサンプル物質を分析するための試験エレメントであって、サンプル物質を適用することのできる分析領域(18)と、該分析領域(18)に伝熱接触した加熱エレメント(22)とを有する試験キャリヤー(12)を備え、該試験キャリヤー(12)に組み込まれた該加熱エレメントが、電流を流したときにプリセット標的温度になるように自己加熱および自己調節を行うサーミスター(22)により形成されていることを特徴とする、前記試験エレメント。
【請求項2】
冷導体としての前記サーミスター(22)が、温度の上昇に伴って標的温度の領域で抵抗の急激な非線形増加を示すことを特徴とする、請求項1に記載の試験エレメント。
【請求項3】
前記サーミスター(22)が、加熱領域として、好ましくは薄層加熱領域として設計されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の試験エレメント。
【請求項4】
前記サーミスター(22)が、好ましくは、コーティング法または印刷法によりフラットな構造体として前記試験キャリヤー(12)に組み込まれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項5】
前記サーミスター(22)が、結合材とそれに組み込まれた導電性成分からなる複合材料から形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項6】
前記複合材料が、前記標的温度において導電性に影響を及ぼす相転移を起こすことを特徴とする、請求項5に記載の試験エレメント。
【請求項7】
該導電性成分が、カーボンブラック粒子、炭素繊維、金属糸、または導電性ポリマー粒子からなることを特徴とする、請求項5または6に記載の試験エレメント。
【請求項8】
前記分析領域(18)が、前記サーミスター(22)により少なくとも部分的に境界づけられているか、または中間フォイル(26)により前記サーミスターに伝熱的に接続されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項9】
前記サンプル物質を前加熱するために、前記サーミスター(22)が、前記分析領域(18)を越えて前記試験キャリヤー(12)のサンプル供給チャネル(30)まで延在することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項10】
前記サーミスター(22)が、抵抗測定により分析温度を測定する温度センサーをも形成することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項11】
分析領域において、少なくとも試薬と対象のアナライトとの特異的反応が起こる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項12】
試験エレメントが使い捨て物品であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項13】
試験エレメントが使い捨て試験ストリップであることを特徴とする、請求項12に記載の試験エレメント。
【請求項14】
試験エレメントが使い捨てカートリッジであることを特徴とする、請求項12に記載の試験エレメント。
【請求項15】
分析領域に血液流体を適用できることを特徴とする、請求項1〜14いずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項16】
分析領域が、適用される液体サンプル物質中のアナライトに応答する乾燥化学物質でコーティングされた反応領域により形成されていることを特徴とする、請求項15に記載の試験エレメント。
【請求項17】
試験エレメントが、血中ガス、血中電解質、代謝物および血液凝固値からなる群から選択される少なくとも1つを分析するためのものであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の試験エレメント。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の試験エレメントを分析するための測定器、特に、携帯型血糖測定器(10)または携帯型血液凝固測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−36780(P2009−36780A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286235(P2008−286235)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【分割の表示】特願2004−361393(P2004−361393)の分割
【原出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】