説明

サージ試験回路

【課題】被試験機器の消費電流によらず、同一の試験条件を実現できるサージ試験回路を提供する。
【解決手段】サージ試験回路は、電源(商用電源)と被試験機器1とを結ぶ2線の電源線2に結合回路3A、3Bを介して接続されたサージ発生器4と、電源線におけるサージ発生器4の接続箇所と電源との間に介挿された減結合回路5と、減結合回路5と電源との間に介挿された絶縁トランス6と、絶縁トランス6と電源との間に介挿された昇圧回路7と、電源線におけるサージ発生器4の接続箇所と被試験機器1との間に介挿された電圧測定器8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サージ試験回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブロードバンドサービスが普及し、通信機器以外に、情報機器、家電機器がネットワークに接続されるようになっている。これらの機器に、例えば、雷により発生する雷サージ電流・電圧などのような単発の外乱信号が侵入すると、装置の故障・誤動作が発生し、大きな社会的損失を生じることがある。このような外乱信号による装置の故障や誤動作を防止するためには、機器の過電圧耐力を確保する必要がある。そのため、通信機器に関しては、2004年12月、過電圧・過電流に対する対策指針となるITU-T勧告K.66(非特許文献1)が発行された。
【0003】
この勧告をもとに、2008年1月に情報通信ネットワーク産業協会より「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン:CES-Q007-1」(非特許文献2)が発行され、通信機器の過電圧耐力規定とその試験法が示されている。ネットワークに接続される機器は、一般的にAC電源が接続されるため試験条件として、通信ポート−電源ポート、通信ポート−接地ポート、電源ポート−接地ポートの過電圧耐力規定、試験法が規定されている。さらに通信線間、電源線間の過電圧耐力規定、試験法が規定されている。またIECにおいても「IEC61000-4-5:サージイミュニティ試験」(非特許文献3)として規定されている。
【0004】
近年、光通信回線を利用する機器が増加している。光回線を利用した機器は、過電圧や、過電流の侵入経路が商用電源線のみとなるため、過電圧・過電流による故障が減少すると考えられていた。しかし、光回線を利用する機器の過電圧・過電流の故障は少なくないことがわかっている。故障の原因は電源線からの過電圧・過電流と考えられており、その過電圧耐力の評価は重要となっており、「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン:CES-Q007-1」(非特許文献2)に沿った試験が実施されつつある。試験規定では、機器が動作状態で試験を行うことが規定されており、電源線間の試験回路は図3に示す通りである。この中で、減結合回路5Aは、1.5mHのインダクタ2個で構成することが規定されている。
【0005】
光通信回線を利用する機器の消費電力は、数W〜数十W程度であることから、電源線間のインピーダンスは、数百Ω〜数百kΩになる。そのため、上記試験回路により試験を実施すると、減結合回路のインピーダンスが、試験波形の領域において最大でも500Ω程度しかないため、被試験機器に流れずに電源側に電流が回り込むことになる。図4に示すように被試験機器の消費電力と印加電流の割合は、消費電力が小さいほど、被試験機器への流入電流の割合が小さくなることがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ITU-T勧告K.66
【非特許文献2】情報通信ネットワーク産業協会、「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン:CES-Q007-1」
【非特許文献3】IEC61000-4-5:サージイミュニティ試験
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
過電圧試験規定のおいては印加用のサージ発生器の充電電圧で規定されているため、上述のように、被試験機器の消費電力により、同じ印加電圧でも印加される電流が変化してしまうため、同一の試験条件とならないという問題がある。そのため、消費電力の多い機器では、印加されたサージ電流の多くが機器内に流入することになり、対策に使用する素子の電流耐量を大きくすることになり、消費電力の小さい機器ではあまりサージ電流が流入しないので、対策に使用する素子の電流耐量が小さくてよいことになる。しかし、実際に発生する過電圧・過電流は、機器の線間インピーダンスにあまり依存しないため、上記試験法で対策した機器のフィールドでの故障発生頻度が異なることになる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被試験機器の消費電流によらず、同一の試験条件を実現できるサージ試験回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係るサージ試験回路は、電源と被試験機器とを結ぶ電源線に接続されたサージ発生器と、前記電源線におけるサージ発生器の接続箇所と前記電源との間に介挿された減結合回路と、前記減結合回路と前記電源との間に介挿された昇圧回路とを備えることを特徴とする。
【0010】
例えば、サージ試験回路は、前記接続箇所と前記被試験機器との間に介挿された電圧測定器と、前記電圧測定器と前記昇圧回路とに接続され、前記電圧測定器で測定された電圧に基づいて前記昇圧回路の出力電圧を制御する制御回路とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被試験機器の消費電流によらず、同一の試験条件を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態に係るサージ試験回路の一例を示す回路図である。
【図2】第2の実施の形態に係るサージ試験回路の一例を示す回路図である。
【図3】従来のサージ試験回路の一例を示す回路図である。
【図4】被試験機器の消費電力と印加電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係るサージ試験回路の一例を示す回路図である。
サージ試験回路は、電源(商用電源)と被試験機器1とを結ぶ2線の電源線2に結合回路3A、3Bを介して接続されたサージ発生器4と、電源線におけるサージ発生器4の接続箇所と電源との間に介挿された減結合回路5と、減結合回路5と電源との間に介挿された絶縁トランス6と、絶縁トランス6と電源との間に介挿された昇圧回路7と、電源線におけるサージ発生器4の接続箇所と被試験機器1との間に介挿された電圧測定器8を備える。
被試験機器1は、例えば、通信機器、情報機器、家電機器などである。
サージ発生器4は、例えば、出力インピーダンス2Ωのコンビネーション発生器である。
【0015】
減結合回路5は、100mH程度のインダクタを2つ備える。一方のインダクタは電源線2の一方の線に介挿され、他方のインダクタは他方の線に介挿されている。なお、減結合回路5のインダクタンスは、100mH程度に限られるものではない。
【0016】
被試験機器1の接地端子は、装置接地9(抵抗)を介して接地されている。装置接地9は、「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン:CES-Q001-1」で規定されているものであり、100Ωである。結合回路3A、3Bは、それぞれ18μFのコンデンサである。
【0017】
サージ発生器4は、電力供給を受けるべく、電源に電源線2を介して接続されている。このサージ発生器4の一方の出力端子は、結合回路3Bの入力端子とともに、接地されている。
【0018】
昇圧回路7は、減結合回路5のインピーダンスにより、電源の電圧が分圧されることを考慮して設けられたものである。昇圧回路7により、電源の電圧を昇圧しておくことで、電圧が分圧されても、被試験機器1へ定格電圧を供給することができる。
【0019】
被試験機器1のサージ試験を行う際、まず、被試験機器1の定格消費電力/定格消費電力などから、電源線間のインピーダンスを概算し、減結合回路5のインピーダンスとの分圧比を算出する。この値を元に昇圧回路7の出力電圧を設定し、被試験機器1を動作状態にする。次に、電圧測定器8で、被試験機器1へ供給される電源の電圧(2線間の電圧)を測定し、それが定格電圧か否かを確認する。定格電圧でない場合は、定格電圧となるように昇圧回路7の出力電圧を調整する。次に、被試験機器1が動作していることを確認し、サージ発生器4からサージを発生させ、例えば、被試験機器1の挙動を確認する。
【0020】
なお、絶縁トランス6は、電源と被試験機器1の間の絶縁が不要なら省略してもよい。また、電源は、交流電源であればよく、商用電源に限られない。
【0021】
したがって、第1の実施の形態によれば、電源と被試験機器とを結ぶ電源線に接続されたサージ発生器と、電源線におけるサージ発生器の接続箇所と電源との間に介挿された減結合回路と、減結合回路と電源との間に介挿された昇圧回路とを備えることで、被試験機器1の消費電流によらず、同一の試験条件を実現することができる。
【0022】
また、減結合回路5のインダクタンスは、従来の1.5mHより大きく、例えば、100mH程度とすることが好適である。
【0023】
第1の実施の形態では、従来の試験法(IECやCIAJの試験法)において、被試験機器への印加電流が均一でないため、同一の試験条件にならない問題を解決している。
【0024】
従来の試験法の問題は、減結合回路のインダクタは1.5mH×2であるが、印加電流波形の周波数でのインピーダンスが低く、十分な減衰効果が得られないことである。そのため、被試験機器の消費電流により、印加電流比率が大きく変化する。
【0025】
このように被試験機器の内部インピーダンスによって、試験条件が変化してしまうのが問題になる。そこで、試験条件を同じにすることが求められている。
【0026】
本実施の形態では、減結合回路のインピーダンスを大きくすることで問題解決を図っている。ここでは、減結合回路のインダクタを1.5mHから100mH程度と大きくしている。この値は大きいほどよいのだが、後述の電源の昇圧との関係で、インダクタを大きくしすぎると、電源電圧が数kVとなってしまうため、100mH程度としている。
【0027】
これで、サージ試験としては問題なくなるが、このように減結合回路のインピーダンスを大きくすると、被試験機器への給電電圧が下がってしまう。
【0028】
これは、50Hz/60Hzの商用周波数でも、100mH×2のインダクタは大きな抵抗値に見え、被試験機器との内部インピーダンスと、減結合回路のインピーダンスで給電電圧が分圧されるためである。
【0029】
例えば、減結合回路が100mH×2(=200mH)であると、減結合回路のインピーダンスは50Hzでは約63Ωとなる。このとき被試験機器が10Wとすると内部インピーダンスは約1000Ωとなる。
【0030】
これらが電源に直列に接続されることになるため、被試験機器には、約94Vの電圧で給電されることになります。被試験装置は100Vの入力電圧が必要なので、被試験装置によっては動作しない可能性がある。
【0031】
そこで、被試験機器に100Vで給電できるように、電源に予め昇圧回路を追加する。上の例では、電源電圧を106.3Vに昇圧すれば、被試験機器に100Vで給電できることになる。
【0032】
このように、減結合回路のインダクタを大きくし、電源に昇圧回路を設けることで、同一の試験条件を提供可能になる。
【0033】
[第2の実施の形態]
図2は、第2の実施の形態に係るサージ試験回路の一例を示す回路図である。
第2の実施の形態に係るサージ試験回路は、第1の実施の形態と同様の回路構成を有し、同一の構成要素には、同一符号を付与し、重複説明を省略する。
【0034】
サージ試験回路は、第1の実施の形態に係るサージ試験回路に加えて、制御回路10を備える。制御回路10は、電圧測定器8と昇圧回路7とに接続され、電圧測定器8で測定された電圧に基づいて昇圧回路7の出力電圧を制御する。
【0035】
例えば、制御回路10は、電圧測定器8で測定された電圧が被試験機器1の定格電圧となるように昇圧回路7の出力電圧を自動的に制御する。
【0036】
したがって、第2の実施の形態によれば、電源線におけるサージ発生器の接続箇所と被試験機器との間に介挿された電圧測定器と、電圧測定器と昇圧回路とに接続され、電圧測定器で測定された電圧に基づいて昇圧回路の出力電圧を制御する制御回路を備えることで、昇圧回路の出力電圧を人手で調整する手間が不要となる。
【符号の説明】
【0037】
1…被試験機器
2…電源線
3A、3B…結合回路
4…サージ発生器
5…減結合回路
6…絶縁トランス
7…昇圧回路
8…電圧測定器
9…装置接地(抵抗)
10…制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と被試験機器とを結ぶ電源線に接続されたサージ発生器と、
前記電源線におけるサージ発生器の接続箇所と前記電源との間に介挿された減結合回路と、
前記減結合回路と前記電源との間に介挿された昇圧回路と
を備えることを特徴とするサージ試験回路。
【請求項2】
前記接続箇所と前記被試験機器との間に介挿された電圧測定器と、
前記電圧測定器と前記昇圧回路とに接続され、前記電圧測定器で測定された電圧に基づいて前記昇圧回路の出力電圧を制御する制御回路と
を備えることを特徴とする請求項1記載のサージ試験回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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